パパラの製作所
「ふ~ん、あのオパールが弟子ねぇ。あんた、宝飾師にしては地味過ぎない」
マダムからの手紙を読み終えると椅子から立ち上がり、品定めするように私を上から下まで眺めまわす。
そんな彼女を見て、私はまた唖然としていた。
いや、森の中にいる職人っていったらさ、もっと違うのを想像するじゃん。
ほら、ノームさんみたいなおじいさんとかさ、ごつい頑固おやじとかさ。
多分、ジェードも同じことを思っていたんだと思う。目が点になっているもん。
目の前の女性はとにかく、ものすごく華やかだった。
すらりとした長身、モデルかと思うくらい長い手足、透き通った白い肌。
何よりも目を引くのは、ピンクがかったオレンジ色の意思の強そうな大きな目。
髪も同じ色なのだけれど、思い切りよく短く切られた髪型が彼女の小さな顔をより引き立てている。
多分、町で見かけたら、彼女の職業を言い当てられる人なんて絶対いないと思う。
「で、これがあんたの作ったアクセサリー? 変わった形だけど、それより何より、なんなの? このちっさいホタル石。どうしたらこんなに小さい石、創れるのよ」
私の右耳のホタル石のイヤーカフに顔を近づけた後で、パパラさんが呆れたように言う。
「えっと、あっ、ちゃんと見ますか?」
慌ててイヤーカフを外そうとするが、すぐに止められる。
「いいわよ、別に。でも、本当にシロツメクサから創ったの? ありえなくない? スミレとか、それこそ蛍でも石板に載せたんじゃないの?」
なんだこの人? かなり失礼なんだけど。
「おい!」
「……いえ、シロツメクサでした。マダムの手紙にも書いてあると思いますが、マダムもそれは確認してくれています」
私より先に文句を言おうとしてくれたジェードに目配せをして、できる限り冷静に答える。
この人は王国唯一の石板職人。ここは我慢だ。
「ふ~ん、それより、これは何?」
彼女は興味なさげな顔で椅子に戻ると、見事な美脚を華麗に組み、片手に持ったリシア君からの手紙を振る。
ちなみ彼女の服装は、シンプルなTシャツに、とっても短いデニムのショートパンツ。
その上に白衣を羽織っていて、職人というより研究者みたい。
「それは道具屋のリシア君が書いてくれたもので、石板に……」
「ありえな~い! アタシの作った石板を更に加工しようっての? 町の道具屋ごときが? 王国唯一の石板職人のアタシの石板を? ばっかじゃないの? 寝言は寝て言えっつ~の!」
私の言葉を遮って、パパラさんはそう言うとリシア君の手紙を机に放り投げる。
プチッ
おぉ、この音って怒ると本当に聞こえるのね。
私に対して失礼なのは我慢できる。
例え目の前の彼女がどう見ても私より年下なのにタメ口だとしても、こっちは石板を作ってもらう立場だ。
私が地味なのは事実だし、創ったホタル石が小さいのも本当のことだ。
でも、これは許せない。
リシア君の道具に私がどれだけ助けられてきたか、魔力のない私に宝飾合成をさせてくれた彼の発明がどれだけすごいか、目の下に隈を作りながらその手紙を一晩で書き上げてくれた彼がどれだけいい子か、何も知らないくせに。
「何も知らないくせに、勝手に馬鹿にするな!」
「えっ?」
言い返されるなんて思っていなかったんだろう。
目の前のパパラさんが唖然とした顔をしている。
ジェードも焦った顔で私を止めようとしてくれている。
ごめんね、ジェード。
わざわざここまで連れてきてくれたのに石板作ってもらえないかも。
でも、ここは譲れない。
「あんたこそ、馬鹿じゃないの? それ見て、リシア君の発明のすごさがわからないの? それはね、魔力のない私に宝飾合成をさせてくれたんだよ! あんたの石板にそれができるの? その手紙だってね、一晩で書き上げてくれたの! 石板職人がどんな人かわからないけど、ちゃんと伝わるようにって。次の日も道具屋の仕事があるのに、目の下に隈作ってまで頑張ってくれたの。それだけじゃない。リシア君はね、リシア君はね……」
「ホタル、もういいから」
今にもパパラさんに掴みかかってしまいそうな私の肩をジェードが押さえてくれるけれど、もう止まれない。
「私の大切な相棒なんだ! あんたごときが馬鹿にしていい子じゃないんだよ!」
「……あ」
私の肩を押さえながら、ジェードが、あ~ぁ、と言いたげな顔で私を見つめる。
その顔を見て、我に返った私の口から間抜けな声がもれる。
やっちまった。
なんとか言いつくろおうと頭をフル回転させようとして、止めた。
絶対やっちまったし、石板は手に入らない。
でも、間違ってはいないはずだ。
「失礼しました。帰ります。……行こう、ジェード」
「あぁ」
私の言葉にジェードもうなずいてくれる。
うん、多分。これが正解だ。
私とジェードは製作所を後にすべくパパラさんに背を向けて歩き出した。
「待ちなさいよ」
私たちの背中にパパラさんの固い声が突き刺さる。
「申し訳ないですが、謝るつもりはありません。でも、石板は結構です。それだけのことを言った自覚はあります」
私は振り返らずにそう答えると、そのまま出口へと向かう。
というか、今更だけれど自分の言ってしまったことがどれだけ大それたことか気づいてしまって、怖くて振り返れなかった。
よく見たら、膝とか手とか、ちょっと震えてない?
今、立ち止まってしまったら、間違いなくこの場に崩れ落ちちゃう自信がある。
「ホタル、行こう」
そう言ってジェードがそんな私をそっと支えてくれる。
「ありがとう」
私も答えて歩き出す。
せめてパパラさんから見えている間だけでも、しっかりしないと。
「……悪かったわよ」
「えっ?」
蚊の鳴くような声で呟かれた言葉は予想外で、ジェードと二人、思わず振り返ってしまう。
すると、そこにはリシア君の手紙を両手で持ったパパラさんが気まずそうに立っていた。
「私が悪かった。だから、ちょっと待って。話をちゃんと聞かせて」
「へぇ」
その言葉に私は変な声を上げて、その場に膝から崩れ落ちた。
いっても三十歳。
怒るときは怒るのです。




