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さて、出発だ

 翌朝、旅の準備をしてマダムの店の前でジェードを待つ。

「ホタル、これはパパラへの手紙だ。あんたが宝飾合成したときのことも書いておいたから、あの子に渡しとくれ」

「はい」

「ジェードがついているから大丈夫だろうけど、気を付けて行ってくるんだよ」

「はい。ありがとうございます」

マダムから手紙を受け取り鞄にしまうと一台の馬車がお店の前に止まる。


「ホタルさん、おはよう」

馬車からでてきたセレスタは手に持っていた大きめの紙袋を私に差し出す。

「これ、モルガさんのサンドイッチとゴシェのクッキー。お昼に食べて」

「えっ? ありがとう! こんな早い時間にごめん。モルガさんとゴシェさんにもありがとうって伝えておいて」

私の言葉にセレスタがうなずく。

本当に良く気のつくいい子だよ。


「ホタル、準備はいいか?」

御者台のジェードが私に声を掛ける。

「あっ、まだ、リシア君が……」

言いかけた私の視線の先に丁度こちらに向かって走ってくるリシア君が見える。


「待って! 待ってくださいっす!」

右手に持った何かを振りながらリシア君が大きな声で叫ぶ。

「大丈夫だから、慌てないで!」

私も大きな声で返事をする。

慌てて転びでもしたら大変だ。


 ズサーッ

ほら、言わんこっちゃない。

私たちの目の前にリシア君が盛大にスライディングしてきた。


「ちょっと、大丈夫?」

「大丈夫っす。それよりコレ」

そう言ってリシア君は地面に転がったまま、無事だった右手に持った紙の束を私に差し出す。


「これは一体?」

「昨日、石板につけた機械の説明っす」

立ち上がって埃を払いながらリシア君が答える。

「えっ? こんなに? まさかリシア君、昨日一晩でこれを書いたの?」

おどろく私にリシア君がうなずく。

「石板職人がどんな人かわからないっすけど、できる限り詳しく書いたんで多分伝わるはずっす」

よく見るとリシア君の目の下にはうっすらと隈が見える。

「ありがとう。ごめんね。無理させちゃって」

「全然大丈夫っす。相棒のためっすから。俺も改良版作って待ってるんで、気を付けて行ってきてくださいね」

リシア君はそう言ってにっこりと笑った。

本当に、セレスタといい、リシア君といい、優しいいい子ばかりだよ。


「俺の相棒をよろしく頼むっす」

馬車に乗り込み、いよいよ出発となった時、御者台に座るジェードをまっすぐ見つめてリシア君が急に言った。

「いってくる」

ジェードはそれには答えず、一言短くそう言うと馬車を走らせ出した。


 ガタン、ゴトン

馬車は早朝のタキの町を静かに走っていく。


 ジェード、やっぱり怒っているよね。

私が宝飾合成に再挑戦することも最後まで反対していたし、結局仕事を休ませてしまったし。

出発の時も機嫌悪そうだったもんなぁ。

なんとか雰囲気を変えたいと思うものの、どう声を掛けたものかわからず、二人の間に気まずい沈黙が流れる。


「寝ていてもいいぞ。朝早かったしな」

ふいにジェードが声を掛けてくる。

「えっ、あっ、大丈夫。ジェードこそ、大変じゃない? 朝からごめんね。それに仕事も休ませちゃってごめん。それと心配してくれたのに……」

「おい、一体いくつ謝るつもりだ?」

口を開いてしまったついでに全部謝ってしまおうと話だした私にジェードが苦笑いする。


「あっ……」

「とりあえず全部構わない。それと……俺も悪かった。ホタルが宝飾師になりたいのは知っていたのに」

ジェードの言葉に私は首を振る……って御者台からじゃ見えないか。

「ジェードは悪くないよ。私こそ無理して心配かけてごめんね」

「また謝ってる」

「あっ、ごめ……」

思わず謝りかけた私にジェードが笑い声をあげる。

「ここはお互い悪かったってことでよしとしないか?」

そう言うジェードの言葉に私も、そうだね、と答えた。


「昼ごはんまでとりあえず走るけど、気持ち悪くなったり、休憩したくなったら言うんだぞ」

「うん、ありがとう。ジェードは大丈夫?」

「警備隊をなめるなよ。このくらい問題ない」


 タキの町をでて、走ること更に数時間。

「そろそろ、昼ごはんにするか」

太陽が頭の真上に来る頃になって、ジェードが馬車を木陰に止めた。


「う~ん。気持ちいい」

馬車から降りて体を伸ばすと肩や背中からパキパキと音が鳴る。

ジェードも馬車を道端の大きな木につなぎ止めた後で、同じよう体を伸ばす。


 比較的大きな石に二人で並んで腰かけると、セレスタが持たせてくれたモルガさんのサンドイッチを取り出す。

しゃきしゃきのレタスとカリカリのベーコン、分厚いトマトがこんがりと焼けたバゲットに挟まったものと、これまたしゃきしゃきのスライスオニオンといい香りのスモークサーモン、艶々のオリーブの挟まったものの二つを手に取り、しばし固まる。

「どうした?」

不思議そうにこちらを見るジェードを真剣な顔で見つめる。

「な、なんだよ」

そんな私に気圧されたようにジェードがのけぞる。


「どっちも食べたい……」

どうしよう。どっちもすごく美味しそうだけれど、どちらもかなりのボリュームだ。

両方はとてもじゃないが食べきれないし、そもそも二人分。片方はジェードの分だ。


「……よこしな」

そう言うと私の返事も待たずにジェードがサンドイッチを二つとも取り上げる。

そんな! 両方取るなんてひどい!


「ほらよ」

文句を言おうと口を開きかけた私の前にジェードが半分に切ったそれぞれのサンドイッチを差し出してくる。


「え……」

「両方食いたいんだろ?」

キョトンと見つめてしまった私の手に二つのサンドイッチを握らせると、ジェードはさっさと残りの半分を食べ始める。


「ありがとう」

そう呟くと私もサンドイッチに齧りつく。

やっぱりどちらもおいしい。

思わずにんまりしてしまった私にジェードが話しかけてくる。


「ホタル、聞いてもいいか?」

「ん?」

サンドイッチを頬張り過ぎて口がきけない私は首を傾げて、目で返事をする。

「お前さ。元の世界に戻りたいとは思わないのか?」


 んぐっ

「おい、大丈夫か!」

いきなりの質問に口の中のサンドイッチが喉に詰まってしまい変な声がでる。

「ほら、水!」

ジェードに渡された水を飲んで、ハァハァ、と息をつく。


「びっくりした。唐突にすごい質問するのね」

「悪い」

謝るジェードに私は首を振る


「いいの、いいの。そりゃ気になるよね。私、帰ろうとしている気配ないもんね」

私の言葉にジェードがためらいながらもうなずく。


 そうだよね。

ジェードたちにこの世界の人間ではないことは話したものの、全くと言っていいほど私は帰る方法を探していない。

どういうつもりなんだ? って、誰だって思うよね。


「あのさ、とりあえずサンドイッチ食べちゃわない?」

そう言って、手元にある食べかけのサンドイッチを示すと、ジェードも、そうだな、と食事を再開する。

お互い無言でサンドイッチを食べることしばし。


「「ごちそうさまでした」」

二人で一緒に挨拶をすると、水を飲み一息つく。


「さて、さっきの話だけどさ」

そう言って、私はこの世界にきてからずっと考えていたことを話し始めた。

10万文字、達成しました。

長編に挑戦するぞ!と意気込んで書き始めたものの、10万文字なんて無理だと何度も思っていました。

続けてこられたのは読んでいただける皆さんのお陰です。

これからは毎日ではなく、月水金更新にする予定ですが、引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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