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依琉さん①

「萩香、今日こそカラオケ行くよな!」


 授業が終わると、依琉が威圧的な笑みでそう言った。私は笑顔で首を横に振る。


「あー、今日、妹の友だちが来るから無理なんだ。ごめ~ん」


「ちえー」


 あとお前棒読みだな、と付け足す依琉に、私は舌を出して笑って見せた。


 ――――キモいと言われた。


 どうやらやる気のないてへぺろはキモいだけらしい。なるほど。

 いやいや、おかしいよね! 依琉さん、ひどいっすよね!


「で、妹ってどんなのなんだよ。今度会わせろよ~」


「えぇ~?」


 私は語尾を伸ばしながら顔をしかめた。

 私の妹、片原純香。あの子は人見知りするところがあるからなあ。それに、私純香に嫌われてるっぽいし、多分会ってくれないと思う。


「多分無理だよ。今あの子ひねくれてるから、私の言うことなんて聞きやしないよ」


 私がそう言うと、依琉はちえー、と言いながら不機嫌そうに椅子に座り込んだ。口にはさっきも食べてたクッキー。好きだな、それ。おいしいのかな。


「さすが萩香の妹、グレてんだな」


「そういうのじゃないって」


 グレてるとか、そんなんじゃない。私にはなんとなく分かってた。

 ただ、距離を置いてるだけ。あの子なりに、私との距離を考えているんだと思う。お義母さんのこともきっと、考えて。


「まあ、無理にとは言わないけどさ……」


 その代わり、と続ける依琉の言葉に、私は「はああああ!?」と声を上げた。

 意味分かんない。なにそれなにそれ、依琉ってそんな子だったの!?


「写真なんて、無理に決まってるじゃん!」


 私は叫んだ。

 そう、依琉は純香の写真を撮ってきて見せてくれないかと頼んだのだ。

 どうやって写真を撮るっていうんだよ。正規の方法じゃ純香はきっと許してくれそうにないし、隠し撮りも多分バレると思う。つーか、バレる気しかしない。


「イケるって。あたしの友だちだろ!」


「どんな信用よ、それ!」


 依琉の友だちだからと言ってできることとできないことがある。

 たしかに、からまれた時に「私は依琉の友だち」ですと言い放てばそそくさとチンピラたちは逃げて行くし、先輩からも「依琉の友だちか」とか言って声をかけられることもあった。

 依琉の友だちというのは社会的に、というかここらへんでは優位な立場を保てる魔法の言葉らしい。あだ、嘘だと発覚した場合は直ちに依琉信者たちが立ち上がって嘘ついた人を潰しにかかるとか。怖いな。

 このように、依琉の友だちだと出来ることが格段に増える。だが。


「妹に『依琉の友だち』攻撃は効かないよ!」


「妹中1だろ? 知ってるって」


「ありえないよ!」


 口論になった。依琉の主張はこうだ。

 まず、純香は依琉の恐ろしさを知っているという前提で写真を撮りたいと頼み、断られたら「私は依琉の友だちなんだよ」と脅せばいいらしい。

 ダメダメ。純香はそんなに甘くない。下手すれば私が殺される。無理だ。


「依琉のことを純香が知っていたとしても、純香は私の事を分かりきってるんだよ! だから、脅しも口だけで本当は依琉を使って潰しに来たりなんかしないって分かってるんだよ、あの子は!」


 私が必死に訴えると、依琉はついにとんでもないことを言った。それも、平然と。


「じゃあ、本気で潰そうか?」


「もう話が違うじゃん! 写真を見せろって話じゃなかったの!? それだったら、依琉が会いに行きなよ。依琉が呼び出せば、純香が依琉のこと知ってるなら来るんじゃないの?」


 おかしい。

 依琉と話すといつもこうである。最後には私が上手く丸め込まれていつの間にか依琉の口車に乗せられているのだ。こんなに恐ろしいことは他にない。


 そう、依琉は口が上手いのである。

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