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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
猛進跋扈編
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第百五十六話 前哨戦の開幕

「さて、どうするつもりだ、滝下昇」

 精霊達に囲まれながらもフレトは隣に居る昇へと話し掛けた。確かに臨戦態勢に入ってはいるものの、お互いに様子見という感じで動こうとはしなかった。まあ、お互いに相手の情報が無いままに戦闘に入ったのだ。だから、まずは相手を観察するのが必要だったからだ。

 というか、よっぽどのバカでは無い限りは、無策のままに突撃なんてしてこないだろう。まあ、そんな事をしないだけでも垂氷の統率力が分かるというものだ。そんな中で昇も冷静に相手を観察してから思考を巡らすのだった。

 相手は左右に別れてて、お互いに精霊と思われる三人を前に出して、契約者は少し後ろに位置を取ってるみたいだね。そして左側は、斧、槍、剣に契約者は両手に刀を手にしてるから二刀流かな? 何にしても、こちらは近接戦闘を重視した陣容か。それに大して右側は、片手剣に盾、弓、いわゆるクロスボウだね。それに契約者が武器を手にしていない事が気になるけど、こっちは盾を頭に置いた遠距離とバランスを兼ね備えた組み合わせか……なら。

 相手が手にしている武器から相手の戦い方を予測した昇がフレトに向かって返事をする。

「フレト達は左側をお願い、僕達は右側を叩く。相手が丁度良い別れてるから、こっちも別れる事にするよ。けど、一番後ろに退がった垂氷って人が何を考えてるか分からない。だから状況によっては解除するから、それまでは今のままで頑張って」

「分かった、ならお互いに影響が出ないまでの距離を取った方が良いな」

「うん、そうしよう」

 そんな会話をするとフレトと昇はお互いに顔を見合わせてから、一度だけ頷くと、周りの皆も聞いていたのだろう。二人が駆け出すのと合わせて、周りも動き出す。フレトは相手の左側に回り込み、昇は右側に回り込もうとしたのだ。

 けど、相手が動き出したなら、当然のように対処に当たるのが戦闘というものだ。だから垂氷の前に陣取っていた敵も、昇達の動きに合わせて動く。そんな昇達の行動を見ていた垂氷が思うのだった。

 まずは思い通りね。相手の契約者が三人ぐらい居ると思ったけど、さっきの女の子は契約をしていないみたいね。なら巻き込まれた? いや、滝下昇って子もこちらの動きを察していたはずよね、なら……牽制ね、精界内に居ない事でこちらを撹乱する意図があったのかもしれないわね。だから、気にする必要も無いみたいね。けど、正直なところ、同数に別れてもらって助かったわね。一方に戦力を集中させられると捨て駒ならもたない可能性が大きいからね。これなら相手の実力が計れるわね。

 そんな確信に近い事を実感している垂氷だったが、そんな垂氷の思惑に関係無く、戦いの幕は上がって行くのであった。



「さて、相手さんもこちらに合わせて別れてくれたようじゃのう。それで、昇よ、どうするんじゃ?」

 相手の動きを見てから、そんな事を言ってきた閃華。確かに閃華が言ったとおりに、相手も昇達の動きに合わせて二手に別れると、フレト達と昇達、それぞれに相対する動きを見せてきたのだ。だから昇達にとっては幸いとも言えるだろう。これで目の前の敵に集中すれば良いだけなのだから。

 けど、後方では垂氷が戦況を見守っている。確かに垂氷の存在は昇も気になっていたが、垂氷を見ている限りでは、今回は手を出してこないと昇は確信していた。それは垂氷が前線との距離を多く取った関係していた。この距離から垂氷が戦闘に参加するには、かなり前に出てこないといけない。それなのに、垂氷は戦況の全てが見れるほどの後方へと退がっている。つまり、今回の戦いには参加せずに昇達の実力を目にしようという事は昇にも充分に分っていた。

 だからこそである。だからこそ、昇はあえて垂氷の事は放っておいて目の前に居る敵に集中するのだった。そんな昇がそれぞれに指示を出していく。

「最初はシエラが上に行って相手の注意を向けて、その間にミリアは盾を持っている相手に突撃、僕もミリアの援護に入る。その間に琴未と閃華は何とか後ろで弓と弩を持っている精霊を撃破して、武器の性質から言っても一気に懐に入り込めば有利になるから。その後はシエラは相手の契約者を、ミリアはそのまま、僕が援護しながら何とか相手の防御を抜いて倒す。これで行こうと思うけど、何か意見はある?」

 昇がそんな事を皆に聞くと、それぞれに無いと返事をしてきた。これで昇達の戦術は決まった。後は実行するだけである。それに方針が決まったからには相手よりも先に動く事で主導権を握るのは当然の事だ。だから昇が合図を出すと、それぞれが一気に動き出した。

 まずは一気に敵の上空を取ろうとするシエラ。それに対して当然のように、弓と弩を持った精霊が矢を放ってくるが、シエラは空中で旋回と回避を繰り返しながら、全ての矢を避けて見せるのだった。さすがは翼の精霊、そのスピードでは矢を当てるのも難しいのだろう。かと言って、相手もそのまま無駄に矢を放ってくるはずがなかった。

 回避運動を取り続けてたシエラが、急に何かの違和感を感じると、無理に身体をひねるように位置をずらすと、そこには一陣の風が駆け抜けた。いや、正確には目には見えていない矢が通り過ぎて行ったのである。それと同時に放たれた一本の矢が消えたのである。それを見ていたシエラが回避運動をしながらも思考を巡らすのだった。

 熱、空気、いや、どちらでもない、光。矢に当たる光を全て消し去って見えなくすると同時に蜃気楼のように矢が無い場所に矢があるように見せた。そうなると、あの弓を使っている精霊は光の精霊。

 瞬時にそんな思考を巡らした直後に、そんな結論を出したシエラ。やはりシエラの知識はここでも充分に役立っているのは確かなようだ。けれども、光の精霊が相手となると、シエラは視界だけに頼るワケには行かなくなった。なにしろ、相手は光の屈折を利用して、見える物を消して、何も無い場所に矢を映し出しているのだから。

 そんな原理が分かるとシエラはすぐにウイングクレイモアに神経を集中させる。翼の属性は少しだけ風を操る事が出来る。つまり空気の流れを読む事が出来るのだ。だから視界だけに頼らずに、翼の属性で感じる感覚を最大限にするとシエラは見えない矢もしっかりと避けられるようにしたのだ。

 そうなると弩を持っている精霊の方が気になってくるのだが、そちらは相変わらず、何をする事も無く、ただ矢を放ってくるだけだった。つまり、弩を持っている精霊は属性の性質が、隣に居る光の精霊とは違うのだろう。だからこそ、余計に注意する必要がある。それはシエラではなく、地上で一気に距離を縮めてきた昇達に言える事だろう。

 地上の昇達から一気に飛び出したミリアが盾を持った精霊に突撃を掛けるが、さすがに盾、しかも身体が完全に隠れるぐらいの大盾を持っているのだから、ミリアのハルバードを防ぐのは簡単だ。しかも盾で攻撃を防いで、相手が射程圏内に居るウチに盾の脇から片手剣が突き出して来るのである。ミリアとしても攻撃直後だから突き出してきた片手剣に対して対処が出来ない。

 というよりも最初から対処法を考えずに突っ込んで行ったのだろう。いや、だって……ミリアだし。そして、そんなミリアの行動は昇にとっては予想の範囲内だった。だからこそ、ミリアが攻撃をした瞬間に昇は足を止めると、二丁拳銃である紫黒を構えるのだった。そして、盾の左側から突き出してきた剣に対して、すぐに狙いを定めると引き金を引く。そして、発射された無属性の力で出来た弾丸は見事に突き出してきた剣に当たり、剣が弾かれてミリアに突き刺さる事は無かったのだ。

 昇も様々な戦いを経験して、かなり射撃の腕を上げているようだ。そして、ミリアが盾を持った精霊の動きを止めている間に、琴未と閃華が一気に横を駆け抜けて行って、後ろに居る精霊との距離を詰めるのだった。

 そして先程までの戦闘を見ていた閃華が琴未に向かって叫ぶのだった。

「弓は私が相手をするから、琴未は弩を持った精霊を叩くんじゃ!」

「オッケー」

 閃華の言葉に素直な答えを返す琴未。さすがに二人の付き合いが長いだけあって、閃華の戦況における的確な判断に琴未は絶大な信頼を寄せているようだ。そしてもちろん、閃華がこんな配置にしたのにもしっかりとした理由があった。

 弓の精霊は光の精霊であり、光の属性を持っている事はシエラの動きを見ていれば簡単に分かる事だ。だが、弩を持った方の精霊は未だに属性を使ってはいない。つまり、そちらの属性は遠距離の敵に有効な属性では無いという事だ。そうなると考えられるのは一つ、接近された時に力を発揮できる属性と言っても良いだろう。

 もう一つの理由に武器の特性と属性が関係している。弩に比べると弓の方が連射速度が早いのだ。つまり、一つの矢を放ってから次を放つまでの間隔が弩に比べると短い。それだけ早く、次の矢を射る事が出来るのだ。しかも光の属性で視覚に頼っていては射抜かれるだけだ。そうなると、戦闘に対して視覚を思いっきり頼りにしている琴未では不利というか苦戦は免れないだろう。だからこそ、閃華は自分で当たる事にしたのだ。どうやら、閃華にはそれなりの勝算があるらしい。

 つまり、能力が分かっており、琴未には対応が難しい精霊を閃華は自分で当たる事にしたのだ。もう一方の能力が分からないままに。けど、琴未とてバカではない。相手がどのような属性を発揮して来たとしても、それなりに対処が出来るだろう。

 そして、二人の接近に気付いた精霊達が弓と弩を閃華と琴未に向ける。まあ、武器が武器だけに、そう簡単には接近を許さないのは分かりきっている事だ。だからこそ、琴未と閃華は相手が放ってくる矢に気を付けながら一気に距離を詰めていくのだった。

 そしてある程度の距離が縮まった時だった。琴未は残り数歩で雷閃刀の間合いに入る事を確信したからこそ、雷閃刀を構えるのだが、そんな琴未に向かって弩から矢が放たれる。もちろん、この程度の距離で当たる琴未ではなかった。

 なのだが、矢が琴未の脇を通り過ぎるのと同時に琴未は強烈な風によって動きと止められてしまった。いや、それどころか、駆けていただけあって、ふんばりが効かずに倒れなかったものの、かなり押し戻されてしまった。あまりにも思い掛けない出来事だけあって、琴未もさすがに動きを止めるしかなかった。ここで突っ込んで行っても、もう一度、あの攻撃を喰らって押し戻されるだけだという事は分かりきっている事だからだ。

 そんな琴未に向かって閃華が叫ぶ。

「琴未よっ! そやつは鉄の精霊じゃっ! 弩と一緒に矢も全て鉄で出来ておる。それに、遠目では分からんかったじゃが、通常とは比べ物にならないぐらいの大きさを持った弩を扱えるんじゃっ! そして矢を大きくしてきたからこそ威力が周りの空気すらも弾くほどになってるんじゃっ!」

 閃華は光で撹乱された矢を避けながらも琴未に向かって、フォローの言葉を掛ける。そんな閃華の叫びを聞いた琴未が一気に思考を巡らす。

 そういう事ね。全てが鉄で出来た弩、当然のように弦も鉄製、というか、この場合は鉄糸といった方が的確ね。それに、確かに近くで見たら、かなり大きな弩ね。

 そんな事を考えた琴未が改めて敵の武器を見てみる。確かに弩はかなり大きかった。端から端までは余裕で精霊の身長以上はあるだろう。しかも鉄製を隠すために木目に塗りつぶされていた。確かに、これでは遠巻きにみると鉄製だとは思えないだろう。だが、ここまで近づけば、木目が描かれたものだという事が光の反射で分かった。

 更に驚異的と言えるのが鉄糸を使った弦と言えるだろう。普通ならば有り得ない組み合わせと言えるのだが、鉄糸、つまり鉄の糸だがゴムが練り込まれているのだろう。だから、弦を引くのには、相当の力が必要なのだが、梃子の原理を利用しているとはいえ、その精霊は簡単に弦を引いているのだ。

 それこそが鉄の属性が発揮する力だった。普通ならば鉄と聞けば硬いというイメージが大きいだろう。だが、鉄の属性は鉄を変化する事が出来る。つまり、鉄に柔軟性、更には重さまでもが自由になるのだ。だから総鉄製の弩と矢だとしても、鉄の属性を使えば簡単に弦を引けるし、羽のように軽く出来るのだ。それこそが鉄の精霊が発揮する最大の特徴とも言えるだろう。

 そして、そんな弩から発射された鉄の矢はかなり重い。重いだけあって、弩から勢い良く発射された鉄の矢は周囲の空気を押し流しながら突き進むのである。つまり、当たれば一撃必殺、避けても矢が巻き起こす空気の流れで動きが制限される。だからこそ、シエラを相手には使っては来なかったのだ。なにしろ、距離が空けば空くほど発射時から威力が落ちる。つまり、遠すぎる相手には、あまり意味は無いのだ。何にしても、厄介な相手だと言えるだろう……相手が琴未ではなければ。

 閃華の言葉から、そのように理解した琴未が一気に思考を巡らす。

 なるほど、そういう事だったのね。確かに、あれだけ大きな鉄の矢が飛んでくれば、その衝撃波も凄いわよね。けど……全てが鉄製と分かれば、こっちのものよっ! 要は矢が当たる前に弾けば良いだけなんだからねっ!

 どうやら琴未には勝算が見えてきたようだ。だからこそ、あえて突撃を再開する。そんな琴未に向かって、再び鉄の精霊から大きな鉄の矢が放たれた。とはいえ、相手は弩である。つまり、次の発射まではかなりの時間が出来る。つまり、この向かって来ている矢さえ、どうにかすれば充分に懐に入れるというワケである。

 だが、避けたとしても、勢いがある巨大な鉄の矢となれば、周囲の空気さえも巻き込んむからこそ、相当距離を空けて避けないといけない。なのに琴未は真正面から放たれた矢に向かって行くのだった。

 そんな琴未がタイミングを計ると、一気に左足を前に踏み込んで、身体の右側を一気に引っ込める。つまり、大きく刀を引いた状態になるというワケだ。更には雷閃刀からは光っていると思われるほどの雷が流れ出ている。どうやら、雷閃刀にも、相当な雷の属性が溜め込められたようだ。そして、琴未は鉄の矢が間合いに入ると一気に雷閃刀を突き出すのだった。


 ―昇琴流 雷光一閃―


 雷閃刀を一気に突き出す琴未。放たれた刺突は見事に矢の中心に当たった、さすがに矢が大きいだけあって、矢の先端も大きいのは当たり前だ。そんな矢の先端に刺突を当てる事などは、今の琴未にとっては簡単な事だ。だが、琴未の攻撃はこれで終わりでは無い。

 それは矢が全て鉄製だという事。つまり、鉄の電気抵抗率は低く、電気伝導率は高いと言っても良い。簡単に言えば、鉄は電気を通しやすい。そんな鉄の矢に溜め込んだ雷の属性が流し込まれたのだ。確かに多少の低効率があるために、放った雷が全てとは行かないが、ほとんどの雷が鉄の矢を流れ、そして鉄の矢から放たれるのである。そう、鉄の精霊に向かって。

 威力がある刺突で鉄の矢を受け止めて、そこに雷を鉄の矢を通して放つ。確かに、これなら防御と攻撃、攻防一体の行動が取れるというワケである。

 そして、鉄の精霊も、まさか、こんな手で来るとは思っていなかったのだろう。それに琴未が放った雷は鉄の矢を通したと言っても威力が、そんなに下がったわけでは無い。それに強大な雷は攻撃範囲も広かった。だからだろう、次の矢をセットしていた鉄の精霊は慌てて、右に避けようとするが、一足遅く、左足だけに雷が当たり、強大な熱と電力で鉄の精霊を感電させるのと同時に左足を焼き焦がすのだった。

「まあ、こんなところかしらね」

 鉄の矢を完全に受け止めて、今では下に転がしてある鉄の矢を踏み締めながら琴未は余裕の笑みを浮かべながら、そんな言葉を口にした。確かに、先程の一撃で相手にダメージを与えただけではなく。左足を負傷させたのだ。こうなれば、鉄の精霊は動きを制限されてしまう。そんな状態で琴未を相手にするのは不利と言わざる得ないだろう。

 琴未としても、そんな戦況が分っているだけに、余裕の笑みを浮かべていたのだ。だが、鉄の精霊も、この程度で諦めるほど潔いワケではなかった。確かに動きは止められたものの、こんな場合を想定しての攻撃を考えていたのだろう。だからこそ、鉄の精霊は、奥の手を出してくる。

 鉄の精霊は先程までの大きな弩を消し去ると、普通に使われる弩とは、少し小さめの弩を両手に持ったのだ。それから、弩を琴未に向けると鉄の矢を乱射してきた。どうやら、小さい弩は威力が無いものの、次の矢を自動装填するからこそ、乱射が出来るようだ。

 そんな反撃をしてきた鉄の精霊に対して、琴未は慌てて、乱発されてくる鉄の矢を避ける。さすがに、まだ、こんな手を持っているとは琴未は思っていなかったようだ。まあ、先程の攻撃が大きく効いたために、琴未に油断が生まれたと言っても良いだろう。だからこそ、最初は避けるだけで精一杯だったが、そのうちに反撃のタイミングが掴めた琴未が一気に行動に出るのだった。

 それに相手は鉄の精霊、つまり、琴未とは相性が悪いと言っても良いだろう。そんな鉄の精霊を相手に琴未は接近が出来ないにしても、雷の属性で反撃だけはするのだった。そして鉄の精霊も足に負傷しているために、どうしても動きが遅れる。その度に琴未の接近を許すが、それでも鉄の矢を連射して凌ぐのだった。



 琴未が鉄の精霊に対して奮闘していた頃、閃華は光の精霊を相手に考え込んでいた。

 ふむ、思っていたよりも厄介じゃのう。そもそも、視覚とは物体に反射した光を目に映す事で見えているのじゃからのう。それが、目に入る前から物体に反射した光をずらしておる。しかも物体に当たる光を屈折させる事で蜃気楼のように別のところに矢を見せているのじゃからのう。シエラのように少しでも風の属性を使えれば避けれるんじゃが、こうも矢継ぎ早に来られると厄介じゃのう。

 そんな考えを巡らしながらも閃華は見事に放たれた矢を全て避けていた。けど、それで精一杯のようであり、閃華は一定の距離から縮める事が出来なくなっていた。つまり、あまりにも矢が次々と飛んでくるので、それを避けるだけで精一杯であり、しかも矢には光学的な仕掛けがしてある。そんな矢を避けるだけでも厄介だというのに、次々と飛んでくるものだから、避ける事しか出来ないと言った方が正確だろう。

 更に言えば、弓と弩の違いも出てくる。弩は威力があるものの、次の矢を放つための準備に時間が掛かる。それに比べて弓は短時間で次の矢を放つ事が出来るのだ。なにしろ、矢を弦に引っ掛けて、後は引いて、狙いをつけてから放つだけである。弩の場合は放った矢の後に、弦を引くための動作に時間が掛かるのだ。しかも、威力があるだけあって弦も強い物が使われる。そのために手で弦を引く事が出来ずに、どうしても機械的な仕掛けが必要になってくる、というワケである。

 ついでに、弓の利点を挙げるとしたら、次のような事も言えるだろう。それは、一本だけとは限らない、という事だ。弓は矢を指の間に挟んでから弦を引く。それは、やろうとすれば、指の間、その全てに矢を挟んで弦を引く事が出来る。簡単に言えば、達人以上の力を持っていれば、三本までは同時に発射が出来るのだ。

 更に言えば、光の精霊は先程から矢の本数をランダムに切り替えて放って来ている。つまり、閃華が避けている矢は、必ず一本とは限らないのだ。しかも、そこに光の屈折を利用した矢の位置をずらしている。厄介過ぎるほどに、避け辛くなっているのだ。まあ、それでも、何とか避けているのが閃華の凄いところだと言えるだろう。

 だが、このままでは閃華も行き止まり、何とかして反撃、または距離を詰めてからの近接戦闘に切り替えない限りは勝ち目が無い。だからこそ、閃華は一つの決断をするために思考を巡らすのだった。

 ふむ、今の状況では契約者やもう盾を持った精霊の属性まで見ている余裕が無いのう。じゃが、霧の属性を持っていない事は確かみたいじゃな。戦端が開いてから、同じような力を感じないからのう。じゃったら、ここはこれで行くのが一番じゃろ。

 見える矢と見えない矢を同時に避けながらも閃華は龍水方天戟を上に掲げると、方天戟から水龍が離れていくのだった。そして水龍は閃華の前に立ちはだかるように、身体を揺らしながら宙に漂っていると、閃華は方天戟を水龍に向けながら叫ぶのだった。

「水龍、散布」

 その言葉の後に水龍は飛び散り、水滴以下までの状態まで周囲にばら撒かれたのである。霧とまでは行かないものの、閃華の前には細かく分かれた水が縦横無尽に漂っていたのである。

 さすがに、この状況には驚きを示す光の精霊。だが、閃華は周囲に水分をばら撒いただけで、これと言った効果を光の精霊は感じる事は無かった。だからだろう、光の精霊は素早く、矢を弦に引っ掛けると閃華に向かって二本の矢を放つ。

 だが、本当は三本だった。閃華が起こした行動に光の精霊も何かがあると感じたのだろう。だからこそ、ここで新たな攻撃を付け加えてきたのである。今までは光を屈折させて、矢の位置をずらして見ていたが、今度は一本だけ矢に当たる光を消し去り。矢を見えなくしてしまったのだ。

 これで視覚に頼って避ける事は不可能だろう。少なくとも光の精霊は、そう思っていた。だが、実際に矢が放たれると閃華は周囲にばら撒いた水分を広げながら光の精霊に向かって突撃。そして、閃華は三本の矢を全て、方天戟で払い除けたのだった。

 まさか、初めて使った見えなくなる矢まで的確に払い除けるとは思っていなかった、光の精霊は驚きを隠せないようだ。そんな光の精霊に向かって閃華は一気に距離を詰めるが、迫ってくる閃華に光の精霊は、すぐに平常心を取り戻すと矢を弦につがうと、自らの属性をフル活動させながら矢を放つのだが、やはりというべきか、全ての矢は閃華が持っている方天戟に払い除けられてしまった。

 そこまでの行動を見ていた光の精霊が悔しそうに唇を噛む。どうやら光の精霊にも閃華が何をやっているのかが分かったようだ。そして、閃華が何の精霊かという事も。

 そう、シエラが風の流れで矢を見破ったように、閃華は水を周辺に霧散させる事で空気の代わりにしたのだ。つまり、閃華が霧散させた水分に矢が当たると、閃華はそれを感知して、確実に矢のある場所が分かるのだ。水の精霊だからこそ出来る技とも言えるだろう。だからこそ、閃華は水龍を周囲に散布させた事により、相手がどんな光の細工をしようと本物の矢を的確に見抜けるというワケだ。なにしろ周囲に散布した水がセンサーとなって、本物の矢に反応して閃華に教えているからだ。

 だからこそ、閃華は全ての矢を払い除けて一気に距離を詰めてきたというワケだ。確かに、相手は弓、接近戦に持ち込めば圧倒的に不利になるのは確実だ。それに閃華が見た限りでは、光の精霊は弓以外の武器は持っていなかった。つまり、接近してしまえば閃華の領域と言えてしまうのだ。

 だが、相手も、そう簡単な相手ではなかった。どうやら、かなりの経験を積んでいるらしい。だから弓を手にしていると言っても、迫ってきた閃華に対して動揺は現れなかった。それどころか閃華が振りかざしてきた方天戟を避けながらも矢を番える。その状態でも閃華が振り続ける方天戟を避け続けるのだった。

 そんな状況の中で閃華は決め手が無い事を悟って、少しだけ考えなければいけないと、方天戟を振るいながらも思考を巡らすのだった。

 まいったのう。一気に懐に飛び込んでしまえば決められると思ったんじゃがのう。じゃが、この精霊、接近される事に慣れておる。じゃから、私の攻撃をかわしながらも反撃の手を考えておるようじゃなのう。弓だからと言って接近戦が出来ないワケではないからのう。ふむ……ここは一つ、相手の手に乗るのも手じゃな。

 そんな事を考えた閃華がワザと大振りな攻撃をする。もちろん、その刹那に出来た隙を光の精霊が見逃すワケが無かった。瞬時に矢を放ってきた光の精霊。だが、閃華もワザと隙を見せたのだ、反撃を喰らうわけが無い。けど、避ける動作は必要だ。だからこそ、閃華は矢を避けるのだが、そんな閃華の足元に矢が突き刺さった。

 いや、正確には閃華が無理に身体を逸らしたからこそ、矢が足元に逸れただけであり、普通に避けていたら、確実に閃華の足に矢が食い込んでいた事だろう。けれども、閃華は見事に避けて見せた。これで閃華の反撃……と思いきや、光の精霊も、そう簡単に閃華の反撃を許すわけが無かった。

 閃華が一度だけ避けた事により、次の矢をつがえる事が出来たのだ。だからこそ、先程の一矢が避けられても次の矢を素早く放つのだった。やはり、弓の扱いには相当な腕を持っているのだろう。だからこそ、ここまで矢継ぎ早に矢を放てるのだ。そのため、閃華はまたしても避けるしかなかった。

 なんとか身体を逸らす閃華、そんな閃華の目の前を矢が通り過ぎていく。これで二度目、それでも体勢を保てる閃華が凄いと言えるものの、閃華に対して、ここまでさせた光の精霊も凄いと言えるだろう。だが、光の精霊が真骨頂を発揮するのはここからだった。

 二度の攻撃で閃華は体勢を崩さないものの、避けるだけで精一杯になってしまった。それだけではなく、閃華が距離を縮めただけあって、矢が放たれるとすぐに閃華に迫ってくる。つまり、矢が放たれた瞬間に閃華は回避運動を取らないと避けられないというワケだ。

 それが光の精霊にも分っているからこそ、閃華に余裕を与える攻撃はしてこない。全て、閃華が避けても反撃が出来ない箇所に狙いを定めて矢を撃ち込んでくる。そんな状況の中で光の精霊は二本の矢を番うと一気に放った。

 そして閃華もその瞬間に矢の軌道を見抜いて身体を動かす。さすがに今回も反撃が出来そうに無い。けど、一度でも方天戟を振るえば届く距離に居るのは確かだ。だから一撃でも方天戟を振るえれば閃華のペースを取り戻せると言ったところだろう。けど、光の精霊は、そうはさせなかった。

 光の精霊も矢を放ちながらも閃華が反撃をしてくる軌道、つまり方天戟が振るえる軌道を読みきって、その軌道から身体を逸らしてから矢を放つのだ。だからこそ、閃華は方天戟を振るう事が出来なかった。いや、正確には振るっても避けられてしまうと閃華が手詰まりになるのが分っているからこそ振るえなかったのだ。

 もちろん、両者とも、そんな事は分かりきっている。そのため、閃華は避けるだけで精一杯になり、光の精霊は次々と矢を放つのだった。

 そして……遂に光の精霊が狙っていた瞬間がやってきた。だからこそ、光の精霊は矢を番えると、そこを狙って弦を引く。そう、光の精霊は何も考えずに矢を放っていたワケではない。少しずつだが閃華の動きが制限されるように矢を放って行ったのだ。

 それは、まるで将棋のように相手の行動を計算しながらも、相手を確実な陣形に引き込むかのように。そして、最後には王手となる一矢を放つために矢を放っていたのだ。つまり、光の精霊が最後に狙っていたのは、閃華が絶対に矢を避けられない体勢に持って行くためだったのだ。矢を放てば確実に当たる体勢に閃華を誘導していたのだ。

 さすがに接近されていても弓を連射するだけの実力があると言えるだろう。光の精霊がここまで冷静に事を運べたのは、今までの経験が大きいと言えるからだろう。だが、ここで一つだけ光の精霊が忘れている事があった。

 閃華はかなり距離を詰めた状態で矢を避けていた。つまり、そこに光を使った細工をしても意味が無い、という事だ。光の精霊も、それが分っているからこそ、下手な小細工はせずに連射の早さを優先させていたのだ。それが……閃華の狙いだと気付かないままに。

 光の精霊は突如として手に痛みが走るのを感じると世界が青くなった。いや、正確には青い何かが光の精霊を巻き込んで手と弓を思いっきり噛んでいるのである。そう、それは閃華の方天戟から離れた水龍だった。

 閃華は接近さえしてしまえば、光の精霊は光の屈折を使った矢よりも連射を優先させるだろうと計算していたのだ。つまり、先程のように位置のずれた矢とか見えない矢は絶対に撃ってこないという確信に近い計算を出していた。だからこそ、周囲にばら撒いた水分を光の精霊からは見えないところで再集結、再び水龍の形となったのだ。

 その水龍が光の精霊に撒き付く形で光の精霊が矢を持っている手に噛み付き、そのまま押し進めて弓にまで噛み付いたのだ。そのため、光の精霊が手にしたいた矢は地面に落ち、流れ出た血は腕を伝って肘から地面へと流れ落ちる。

 閃華を射抜く事だけに集中していたために、いつの間にか閃華がばら撒いた水分が集っていた事まで気が付かなかった光の精霊にとっては油断とも言える結果だろう。

 だが、この程度で光の精霊も倒されるほど弱くはなかった。とっさに弦に掛かっていた指を離すと、弦が振るえる。それから程無く、水龍から水蒸気が上がり始めたのだ。その事で閃華は急いで光の精霊から水龍を離すと方天戟に戻した。

 そんな閃華が少し困ったような、それでも余裕があるような、そんな表情をしたままに思考を巡らすのだった。

 やれやれ、こんな手を出してくるとはのう。相当、追い込んだようじゃが、厄介な事には変わりはないのう。光の波長を短くして発熱させてくるとはのう。確かに原理的には可能じゃが、それを簡単にやってくるとはのう。どうやら、シエラと同じく知識から入るタイプみたいじゃな。

 そんな感想を抱く閃華。まあ、光は電磁波であり、波長によって発熱をさせた。という事なのだが、詳しく説明するとキリが無く、専門的な用語も使うので止めておこう。簡単に言えば、光の精霊は、光は波動であり、電磁波である事を利用して周囲の光に波長を短くする事で熱を作り出し、直接水龍の中に叩き込んだのだ。

 そのため、水龍の温度は上がり、遂には水蒸気まで発した、という事なのだ。まあ、簡単に説明するとだが。要するに、光を操作する事で熱を生み出す事が出来るよ、と理解してもらえれば充分だろう。

 何はともあれ、これで形勢は一気に逆転、閃華が有利になった事には変わりない。その理由として光の精霊が手に傷を負っている事が挙げられる。水龍は右手、つまり光の精霊が矢を番えていた手に噛み付いたのだ。その証拠として右手にしっかりとした歯型が残っており、止血を既に済ませたのだろうが、血が流れた跡はしっかりと残っていた。

 つまり、これで光の精霊は矢が番えない、弦を引いて矢を撃ち出す事が出来ない、もしくは、困難になった事は確かだ。だが、矢が放てないという理由で負けを認めるほど光の精霊も弱くはない。それどころか、思い切った手段に出てきたのだ。

 なんと、今度は光の精霊から閃華に突撃して来たのだ。それだけでも光の精霊が何を狙っているのかが閃華には分かった。だからこそ、閃華は気を引き締めて、確認するかのように思考を巡らす。

 ふむ、どうやら零距離射撃で的確に私を射抜くつもりじゃな。確かに、あの弓は精霊武具じゃからのう、破壊する事は無理じゃからな。それなら私が繰り出す方天戟と打ち合いながらも、零距離射撃で確実に仕留めようというワケじゃな。やれやれ、これで降参してくれれば楽じゃったんじゃが、そう簡単にはいかないものじゃのう。なら、ここは相手と適度な間合いを保ちながらもこちらの攻撃を入れるのが的確じゃな。

 そんな結論を素早く出した閃華が突撃をしてきた光の精霊を近づけない、方天戟がギリギリ届く間合いを保ちながら、水龍方天戟を振るうのだった。

 昇達は優位に戦闘を進めているものの、やっぱり決め手を欠いているのは確かだった。そのため、未だに、どこでも決着を付かないままに戦闘が続けられているのだった。そして、ミリアと昇、そしてシエラもそれぞれの戦いを続けているのだった。






 はい、何とか更新できたエレメでしたが、如何でしたでしょうか。まあ、まずは前哨戦とも言えるバトルが開始されたワケですが……それぞれに思惑があるみたいですね。まあ、垂氷の方は何となく分かるかもしれませんが、昇達も何か企んでいるみたいですね(笑)

 まあ、何にしても、この前哨戦では後……四話ぐらいは使う予定です。というか、私のブログを読んでくださっている方には分かると思いますが……このバトルはプロット無しですっ!! その場の勢いだけで書いておりますっ!!!! つまり……この先の展開がどうなるかも私にも分かりませんっ!!!! 勢いだけにも程があるっ!!

 ……って、感じ( ̄ω ̄;;)

 まあ、そんな訳で、前哨戦はまったくのノープラン、というか、相手の精霊達と契約者についても、設定の段階ではまったく作っていないのですよっ!! まあ、だから光の精霊とか鉄の精霊とかという名称になっているんですけどね~(笑)

 ちなみに、相手の精霊とか武器とかは全て、その場の思い付き、つまり勢いだけで書いております。というか、本文の最初に全ての精霊が持っている武器が出てきましたけど……その時になって考えましたっ!! まったくの思い付きなのですよっ!! これがっ!!!!

 まあ、そんな感じですね。

 さてさて、そんな訳で三月ですが……やっぱり辛いです(花粉的に)というか、くしゃみを連発するのは良いんだけど、というか、何十年もの恒例行事だから慣れた(笑) 頭にきたりとか、気分的に来るのは、かなりつらいものがありますね。

 そんな訳で、花粉対策に効果的なヨーグルトが手放せない時期となってきましたね~。いやね、この時期に毎朝、ヨーグルトを飲んでると花粉の症状が軽く、そして、出ない時はまったく出ないのですよ。いや~、ヨーグルト様様ですね。

 そんな訳で、ヨーグルトも補充した事ですし、何とか花粉の時期を乗り越えて行きましょう……ついでに黄砂もね。……両方、いっぺんに来る時が一番辛いです。頑張れ、私の体内にあるヨーグルト、そして思い込みっ!!!!

 ……( ̄ω ̄;;)

 という事で、長くなってきたので、そろそろ締めますね~。

 ではでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。そして、これからも、よろしくお願いします。更に、評価感想もお待ちしております。

 以上、この時期は死にっぱなしの葵夢幻でした~。

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