第百五十一話 新たなる契約
そこは有名な武将にまつわる戦国博物館なのだろう。その中を風鏡はじっくりと感賞していた。けれども、地方にある戦国博物館である。それなりの物は揃っているが、人気はまったく無かった。平日という事もあるのだろう。そんな状況に風鏡と契約を交わした、騒がしい二人組みにとってはつまらない、と言った感じで展示品を横目に見ながらも会話をするのだった。
「それにしても暇すぎる、何とかならないの」
隣に居る常磐に、そんな事を言う竜胆。だが常磐としても気持ちは竜胆と同じなのだろう。だから溜息を付いてから返事をするのだった。
「そんな事を言ってもしょうがないじゃない、風鏡が気分転換に見て行こうとって言うんだから、文句なら風鏡とアッシュタリアに言いなさいよね」
そんな常磐の言葉に対して、それもそうかと暇そうにあくびをして、両手を頭の後ろで組む竜胆。それから話題はアッシュタリアについて変わっていくのだった。
「確かに、こうして旅立ったは良いものの。実際にアッシュタリアの契約者を見つけたのって三人だけだったからね。しかも激弱、あんなのじゃ戦った気にもならないわ。風鏡ったら、この前の戦いが終わった途端。急に気が抜けように、ここで動く事無く、三週間も過ごしてるんだよ。いい加減に飽きるのも分かるでしょ」
「それもあるけど、仕方ないといえば仕方ない事でしょ。なにしろ、今のところは情報が無いんだから、それに私の情報網だけだと、下の方に居る契約者しか分からないんだから。まあ、アッシュタリアから見れば、捨て駒と言える相手しか倒してないんだから」
「常磐は風の精霊でしょ。もう少し何とかならないの?」
「風の精霊だからって全員が情報に通じてるとは限らないでしょ。それに、私は戦闘向きだからね、そうした情報戦にしては弱いのよ」
「だから未だにアッシュタリアの下っぱしか分からないんだ」
「……竜胆」
「何?」
「とりあえず、一度だけ思いっきり殴って良い?」
「遠慮しとく。けどさ、もう少しって、痛っ!」
と、そんな声を竜胆が上げると、竜胆は痛みの走った後頭部を抑えながら振り向くと、そこには明らかに長い棒みたいな物を後ろに隠している常磐の姿がった。まあ、それだけでも、常磐が精霊武具である風陣十文字槍の石突で竜胆を小突いてきたのは簡単に推測が付く事だ。
だから竜胆も拳に怒りのマークを付けて応戦しようとするが、常磐がすぐに風陣十文字槍を消してしまい。それから竜胆をなだめるように手を振りながら会話を再開させるのだった。
「ほらほら、こんな所で騒げば風鏡のゲンコツが待ってるわよ。それに、私がアッシュタリアの情報を掴めないのにも、しっかりとした理由が有るんだから」
「まあ、そうね、ここで風鏡を怒らせる事は避けるべきよね。それで、その理由ってのは?」
「やっぱり、組織の大きさよね~。あれだけの大きな組織になると情報の隠蔽なんんて簡単でしょう。それに対抗するためには、こっちも大きな組織との情報網を作れれば良いんだけど……私一人だと、この程度が限界なのよ」
「やっぱり、私達だけで対抗するのには無理があるのよね」
「そうよね~、私だけで掴める情報なんて些細な物だけだからね。やっぱり、大きな組織に協力してもらうか、または、そういう組織に所属するのが手っ取り早いんだけど。どの組織も情報を隠蔽してるからね~。私だと、どこに協力してもらったり、所属したら良いとか、そういう情報も手に入らないのよ」
つまりは、風の精霊である常磐が持っている情報網だけでは、大きな組織の動きを探るどころか、どこの組織の情報すら手に入れる事が出来ないみたいだ。まあ、それも仕方ないと言えるだろう。何しろ、本人も言ったように、風の精霊とは言え、常磐は戦闘向きであり、こうした情報収集や情報処理に関しては弱いのだ。
それに、常磐の性格からも言えることだが、常磐も竜胆と同じく、興味心だけで突っ走る傾向にある。故に、風の属性で情報は少しだけ掴めるものの、本格的に隠蔽されている情報とかは常磐だと、情報の尻尾すらも掴めないのが現状だ。簡単言えば、常磐の性格から言って、今まで風の属性を利用して情報網を作らなかった。と、まとめる事が出来るだろう。
だからと言って、今から情報網を作るにしても遅すぎる。既に争奪戦は始まっており、どの組織も情報の隠蔽と露見に力を注いでいる。つまり、情報戦でも、どの組織も隠蔽しているからこそ、情報網を作ろうとしてもどこも情報を隠しているから作れないのだ。だから、常磐が出来る事と言えば、そうした情報戦から流れ出た情報を掬い取るだけだ。だからこそ、風鏡達は未だにアッシュタリアに関しての情報を手にする事が出来てはいなかったのだ。
そんな現状に常磐は疲れたように溜息をし、その隣では相変わらず頭の後ろで手を組んでいる竜胆があくびをしていた。二人とも分っているのだ。情報戦では自分達が何も出来ないほどに、事が進んでいる事に。だからと言って、何か手を打つ事も出来ない。そんな閉鎖的な状況におかれている事にだ。
そんな時だった。竜胆が何かを思い出したみたいに常磐に話を切り出した。
「そういえばさ、旅に出る切っ掛けになった、あの子……昇とか言ったっけ。あの子達は情報戦でも劣っているようには見えなかったんだけどさ」
「あぁ~、あの子達には完璧なバックアップ、つまり確実な情報網と情報戦に長けてる精霊が付いてるのよ。確か……与凪っていう霧の精霊が付いてたはずよ。その精霊が情報戦に付いては長けてるし、たぶん、どこかの強力な組織との情報を交換するパイプラインもあるはずよ。そうした情報網があるからこそ、あの子達は未だに表立った動きは悟られないし、アッシュタリアや他に大きな組織の動きも分ってるはずよ」
「へぇ~、ならさぁ~」
あからさまに何かを企んでます、と言わんばかりの竜胆が常磐に視線を投げ掛けてくる。そして常磐にも竜胆が言いたい事が分かったのだろう。だからこそ、常磐は溜息を付いてから話を続けてくる。
「あの子達の情報網を使わせてもらおうって言うんでしょ。確かに、あのリーダーだと思われる昇って子なら、こちらの事情が分っているし、協力してくれる可能性も高いし、共同戦線を張れる可能性があるわ。でも……ね」
「何、常磐って、まだ負けた事を根に持ってるの?」
「そこまでは言わないけどね~。風鏡がその提案に素直に頷くとは限らないし、それに、協力してくれると思うけど、周りがうるさそうじゃない」
「あぁ、皆、あの昇って子に惚れてるみたいだったしね。だから協力してくれれば楽しい事にならない」
「楽しい事ね……あぁ~、そういえば竜胆は別の精霊と戦ってたのよね」
「んっ? それが何か問題でもあるの?」
どうやら常磐には何かしらの懸念があるようであり、だからこそ、竜胆が提案してきた昇達との共闘については簡単に同意が出来ないのだろう。そこには、やはり、常磐が戦った琴未とミリアが関係してくるのだろう。常磐は別に二人の頭がどうとか言いたいわけじゃない。ただ、琴未については何かしら思う事があるのだろう。
だからこそ、常磐は隣で楽観的な竜胆に向かって言ってやるのだった。
「私が戦ったのって、大地の精霊と契約者だったじゃない。その契約者、名前は……なんて言ったかな……そうそう、確か、武久、琴未だっけかな? あの子は見た目と反して頑固というか、結構、頭が固そうなのよね~。だから楽しい事にはなりそうだけど……こっちも巻き込まれそうなのよね~」
「あぁ、あの……雷使いの契約者だっけか?」
「そう、その子よ。それに……あの昇っていうリーダーの契約者も抜けているように見えて、結構、頭が切れるのよね。まあ、お人好しなのは認めるけど、私達の提案に乗るとは限らないし、そもそも……どこに居るのかが知らないじゃない」
「あぁ、なるほど」
常磐の話を聞いて、最もだと理解した竜胆。だが常磐の気持ちまでも分かったワケではなかった。竜胆はただ、昇達が住んでいる場所を知らないという部分にだけを理解したのだ。だから常磐が懸念しているように、昇に対しては何の疑いも抱いてはいなかったのだ。
けれども、その常磐も後になってから、やっと昇の脅威が分かったとも言える。なにしろ、あの戦いでも、昇は見事に風鏡達の行動を逆手にとって、自分達は一気にエルクと刃を交えたのだ。結局のところは、エルクに逃げられてしまったのだが、その後に自分達との戦いで戦った事、その事は全て昇の計算上だと気付いたからこそ、常磐は中では昇が意外と切れ者だという位置づけになったみたいだ。
そんな常磐とは正反対に竜胆は何にも考えていないのだろう。まあ、考え込むなんて二人には似合わないだろう。だからか、竜胆が何も考えていないと察した常磐は、自分でも、こんな事は似合わないと思ったのだろう。だからこそ思考を止めた、その時、突如として二人の前に風鏡が戻って来た。
「二人とも何をやってるの? 気づいたら二人とも居ないから、戻ってくる事になったでしょ」
そんな事を言ってくる風鏡に対して二人はいつものように、明るく笑みを浮かべながら答えるのだった。まずは竜胆から言い訳をする。
「いや、風鏡。今の状況を考えてたら、ちょっと、前の事を思い出してね。ねぇ、常磐」
「そうそう、旅立つ切っ掛けとなった契約者が居るでしょ。あの人達の事を、ちょっと話しててね。それに今後の事もちょっとね」
「そうそう、今後の事も」
「今後の事?」
まさか二人から、そんな言葉が出ると思っていなかった風鏡が意外そうな表情で首を傾げる。まあ、風鏡の気持ちも分からなくも無い。普段から何も考えずに突っ込んでいくような二人である。そんな二人が前の事を思い出したりと、今後の事を考えたりと、まったく似合わない事をしていたのだから。
けれども風鏡はその事が分かると嬉しそうな表情になった。確かに旅立ってからというもの、これと言った成果は上げられていない。だから、これからは何かを手に打たない限りはエルクに到達する事は出来ない。
二人とも、それが分っているからこそ、今後の事について考えてくれたのだろう。そう思うだけで風鏡は二人の気持ちが嬉しかったし、それと同時にエルクを倒さないといけないという思いが沸き上がり、風鏡の瞳には優しさを現しながらも、その奥には闘志にみなぎった意志を灯していた。
そんな時だった。世界が突如として金色に染まる。そして、今までの風景が一変し、今では展示物どころか建物すら消え失せて、全てが金色の世界となっている。そして金色の世界には風鏡達だけが取り残されたように存在している。そんな金色の風景は契約者と精霊ならすぐに分かる事だった。だからか、風鏡は驚いたように声を上げる。
「これは……契約結界っ!」
驚きながらも、確認するかのように風鏡は常磐と竜胆に顔を向けると、二人とも正解とばかりに首を縦に振るのだった。そして、三人に語り掛ける声が響く。
「随分と面白そうな話をしてるじゃないかい。あたしにも首を突っ込ませな」
そんな声が響くと三人は同時に声のした方に振り向くと、そこには刀を飾ってあるガラスケース。そして、その上に座っている精霊の姿があった。その精霊は女性であり着物を着ていたが、胸元が見えるぐらい着物は肩から落ちており、着崩された部分から綺麗な足が見え隠れしていた。だが、風鏡達の目を引き付けたのは、そんな男性なら反応する部分では無い。
風鏡達の目を引き付けたのは、精霊が背中に背負っている大太刀を二本と、まるで戦いに飢えた獣のような輝きを放っている瞳だった。そんな精霊を見て、常磐と竜胆は同時に同じ事を思うのだった。この精霊、狂ってると。
そんな二人の意見は当たっている言えるだろう。それに、風鏡もその精霊が瞳に宿している物が見えたのだろう。二人と同じような事を思うが、それは、まるで昔の自分を見ているような錯覚も感じるのだった。
だからだろう、常磐と竜胆はすぐに風鏡を守るように前に立つと、それぞれの武器を手にする。けど、そんな二人とは正反対に突如して姿を現した精霊は飄々(ひょうひょう)とした態度で、背負った刀を抜く事無く、前に出た精霊二人に話し掛けるのだった。
「止めときな。あんたらと戦っても大して面白くも無いし、あんたらの中に入った方が面白い戦いになりそうだからね。それに……」
ガラスケースの上に腰を掛けながら、片足をガラスケースの上に乗せると精霊が静かに風鏡を指差す。それから楽しそうな笑みを浮かべると言うのだった。
「あんたが契約者だろ。あんたの中にある闘争心、それがあんたの瞳を通してはっきりと分かるほど燃え上がってる。良いね~、戦いに燃える心があんたの中にある。だから、あたしも混ぜてくれって言ってるのさ」
突如として現れた精霊に対して、そこまで言われては黙ってはいられないとばかりに常磐が声を張り上げながら話に割ってはいるのだった。
「悪いけど、私達はあなたを入れようとは思ってないわよっ! それに、あなたみたいに戦いに狂ったやつに入ってこられるとこっちまで巻き込まれるじゃないっ! そんなのはごめんだし、風鏡のためにもならないわっ! だから、あなたはさっさと消えなさいよっ!」
常磐がそんな事を言うと、その精霊は思いっきり笑い出した。そんな精霊に常磐と竜胆は顔を見合わせて首を傾げるが、その精霊は笑いを止めると、はっきりと言うのだった。
「まあ、戦いに狂ってるのは認めるよ。それがあたしの楽しみだからね。けど、あんたらの契約者は大きな戦いを望んでる。いや、大きな戦いに挑もうとしてる、と言った方が正解か。そんな面白い状況なら、あたしにも首を突っ込ませな。あんたが戦いに身を投じるのなら、あんたがあたしの主になっても構わないよ」
「って、何を勝手に話を進めてるのよっ! こんな時は、まず、あなたの方から名乗ってから話を進めるのが常識でしょ!」
「竜胆、言ってる事が矛盾してますよ」
「えっ、風鏡からツッコミが来るのっ!」
竜胆にとってはまさかの出来事だったのだろう。けど、風鏡のツッコミが正しいのは確かである。竜胆は勝手に話を進めるなと言いながらも、名乗ってから勝手に話を進めろと言っているようなものだ。そんな竜胆の言葉を聞けば、風鏡でもツッコミたくなるというものだろう。
そんな状況に再び笑い出す、二本の大太刀を背負った精霊。竜胆は、その精霊に向かって「笑うな」と怒るが、よっぽど面白かったのだろう。笑い出した精霊は悪いとばかりに手を振りながらも、なかなか笑いが止まらなかった。それでも、気が済むまで笑うと、やっと、その精霊は口を開いてきた。もちろん、その間に竜胆の口から出た文句は全て無視であった。
そして、その精霊は自らの名前と力を風鏡に向かって話すのだった。
「そいつは済まなかったね。あたしは羽室っていう刀の精霊さ。属性も刀、あたしが持ってる二本の大太刀は切れ味はもちろん、小刀のように素早く振るえるのさ。刀の属性は斬り裂く能力を上げて、刀を振るう事に特化した属性だからね。だから鉄はもちろん、鋼だろうが、精霊武具だろうが、斬り裂いてみせるさ」
そんな羽室の自己紹介を聞いて、風鏡は少しだけ考える仕草をすると羽室に向かって話し掛けるのだった。
「羽室……ですか。まずは聞きましょう、あなたが私を選んだ理由を。あなたが戦いを好む事は話を聞いていただけでも分かりましたが、そんなあなたが私を選んだ理由をはっきりと説明してもらいましょう」
「胸が騒いで、腕が鳴った、という理由じゃダメかい?」
「ええ、しっかりとした理由があるはずです。それを聞かせてもらいましょうか」
「ふぅ~ん」
羽室は目を細めて、口元の笑みを崩さないままに風鏡を見詰める。そんな羽室に対しても風鏡はしっかりと羽室の目を見詰める。風鏡も羽室の瞳と言葉から、羽室の本質を見抜こうとしているのだろう。それが羽室にも分かったからこそ、羽室は面白そうに目を細めたのだ。
そんな羽室が素早く決断を下す。なかなか、どうして。この契約者も、あの小僧と同じように甘い部分もあるが、それ以上に戦いに対する闘志には鈍りを見せないじゃないかい。こりゃあ、本当の事を話さない限りは契約してくれそうにないね。それに……闘志の中にある復讐心、それにも興味が大有りだからね。ここはこちらから下るのが得策か。
そんな決断をした羽室は風鏡を見ながら、ガラスケースの上に乗せている膝の上に頭を乗せると、表情を変えないままに話を切り出す。
「分かったさ、素直に話すよ。あんた、風鏡とかいったね。あんたの瞳に宿っている闘志の奥、心の奥とも言ってもいいだろうさ。そこに復讐を決意した心を見た、しかも相手が強敵だと。それと、さっきから、そっちの二人が話してる事も聞いてたしさ。あんたは最終的には大きな戦いに身を投じる。それが分かったからこそ、あたしはあんたを主に選んだ。あたしとしても、そんな面白い戦いを見逃す気は無いのさ」
羽室の言葉に動揺を見せる常磐と竜胆。確かに、最初は復讐心から契約を交わした風鏡だが、昇との戦いで、その復讐心は小さくなったものの、それは風鏡の奥底に仕舞われていたものだ。それを的確に見出してきた羽室だからこそ、二人は驚いて動揺したのだ。
だが、本心を言い当てられた風鏡は動揺する事無く、冷静に羽室に向かって言葉を返すのだった。
「分かりました。どうやらあなたは本能的に戦いに関する事なら鋭く見抜くみたいですね。まるで、戦場の匂いが分かる獣みたいですね。そんなあなたが私を主に選ぶという事は、私が大きな戦いに身を投じる覚悟があると見抜いたからでしょう。あなたから見れば、戦場を与えてくれる者なら誰でも良いけど、どうせだったら負けそうな相手に戦いを挑むような愚か者を選びたい。そんなところでしょうか?」
そんな風鏡の言葉を聞いた羽室が再び大きく笑い出すと、今度は少し笑っただけで止まった。それから、今度はまるで敵を見ような鋭い瞳を風鏡に向けてきた。その事に警戒する常磐と竜胆だが、風鏡は必要無いとばかりに二人に向かって制止するような言動を口にすると再び羽室を見詰めるのだった。そして羽室はしっかりとした口調で話を続ける。
「なかなか、どうして、こっちは表向きの理由を話したというのに、まさか、そこまでこちらの理由を見破るとはね。良いね、ますます気に入ったよ。そこまで分っていながら、このあたしを受け入れようとする、あんたにね。良いだろうさ、あんたの命令なら戦わない。だが、あんたが命じれば、あたしは全力で戦わせてもらうよ、後で制止が効かないぐらいね」
「って、風鏡っ!」
「こんな戦狂いというか、戦闘狂と契約を交わすつもりっ!」
羽室も、まるで風鏡の心理を見抜いたかのような発言に反対の言葉を口にする常磐と竜胆。そんな二人を見て、風鏡は思いっきり溜息を付くと、二人に向かって言うのだった。
「なら、二人共、もう少し相手の意図を見抜けるようになりなさい。羽室という精霊は常磐の言ったとおりに戦闘狂とも言えるでしょう。けど、そんな戦闘狂が、ここで私を主に選んだ。今の状態なら、戦闘から遠い状態の私を。実際に、私達が旅立ってからは大きな戦いは無かったでしょ。それなのに私を選んだ。その理由は?」
まるで二人を試すかのように問い掛ける風鏡。そんな風鏡の問い掛けに常磐と竜胆はお互いに顔を見合わせると、それぞれに考える仕草をすると、すぐに手を上げて、それぞれに出してきた答えを口にする。
「とりあえず戦いたいからっ!」
「風鏡が怖そうに見えたからっ!」
そんな答えを口にする常磐と竜胆。そして次の瞬間には……。
「キャンッ!」
「ギャッ!」
二人共、いつの間にか風鏡の手にある氷雪長刀の柄で思いっきり叩かれていた。その光景がよっぽど面白かったのだろう。羽室は再び笑い出すと、風鏡は思いっきり溜息を付いた。そんな風鏡に竜胆は頭の上に出来たタンコブを擦りながら、涙目になって風鏡に訴える。
「風鏡~、なんか、私の方が強く叩かれた気がするんだけど、何で~?」
そんな竜胆に風鏡は微笑みながらも、黒いオーラを出しながら答えてやるのだった。
「そんな事は自分で考えなさい。それとも、分かるまで叩き続けましょうか」
「とりあえず、ごめんなさいっ!」
既に土下座状態の竜胆に風鏡は諦めたように溜息を付くのだった。まあ、竜胆は言葉どおりに、とりあえず、謝っているだけだろうけど、風鏡としてはやっぱり自分が怖そうに見えた、という言葉に怒りを覚えたのだ。けど、ここまで来ると呆れるを通り越して、いろいろと諦めるのが得策と風鏡もすっかり二人に慣れているようだ。
だからこそ、土下座をしている竜胆の頭を風鏡は氷雪長刀の石突で軽く突付きながら話を続けるのだった。
「先程も羽室が口に出したでしょう。あなた達の話を聞いていたって。それは、自分が何かを知っており、その事を私に話せば、私達は確実に大きな戦いに身を投じる。それが分かったからこそ、この羽室は私達の前に姿を現したのですよ」
「あぁ~、なるほど」
風鏡の言葉を聞いて納得する常磐。そして竜胆はというと、未だに突付かれ続けているのだが、そろそろ本気で泣きそうになったので、風鏡はやっと氷雪長刀を引っ込めると、竜胆はやっと立ち上がって涙を拭うのだった。
そんな風鏡達の光景が面白かったのだろう。羽室はまだ笑い続けているのだが、風鏡としては話を進めたいのだろう。羽室が笑っているにも構わずに、羽室に話し掛けるのだった。
「というのが私の見解です。そういう事ですから、あなたもそろそろ情報を提供してもらいましょうか。まあ……気持ちは分かりますが……いつまで笑ってるんですか」
氷雪長刀の切っ先を向けそうな雰囲気を出して羽室に言葉を放つ風鏡。そんな風鏡の殺気に感化したのだろう。羽室は笑いを収めるように、ゆっくりと笑いを緩めて行くと、楽しげな表情のままに真剣な言葉を風鏡に返すのだった。
「そこまで分っているのなら、話が早いね。けど、肝心な答えを聞いて、行わない限りは、あたしとしても、それを話すつもりはないのさ」
「……契約ですね」
「応さっ!」
それとばかりに嬉嬉として答える羽室。そんな羽室に、分かったと言わんばかりに風鏡は氷雪長刀を消すと、前を空けるように常磐と竜胆に言うのだった。けれども、常磐と竜胆は、やっぱり納得が行かないのだろう。渋る様子を見せるが、風鏡が、そんな二人に向かって言うのだった。
「二人とも先程は言っていたじゃないですか、今後の事と。それは、つまり、今の私達が閉鎖状態に陥っている事を自覚しているからでしょう。ですが、羽室が提示してくる情報によっては、その閉鎖状態から一気に抜け出す事が出来ます。それに、羽室もむやみやたらに戦いを引き起こさないでしょう。私を主にしたからには、私の許可が必要です。私の許可無く、戦端を開くという事は謀反と同じ。それは契約違反で契約破棄に値します。戦いを楽しみとしている羽室としては、それが一番困る事でしょう。なら、私達も巻き込んだ戦いを前にして戦端を開く許可を貰えば良い。羽室の狙いは、そこにあるのですよ」
「でも、それって、私達がこいつの思惑通りに戦いに巻き込まれるって事でしょ。風鏡は、それを許しちゃうわけ?」
常磐がそんな問い掛けを投げ掛ける。けれども、羽室は意外と切れ者であり、風鏡もそれを承知した上で、羽室の性質を見抜いたからこそ、羽室との契約を決めたのだ。だからこそ、風鏡は、その理由も二人に話してやるのだった。
「確かに、羽室は私達を戦いに巻き込むでしょう。ですが、それは相手がアッシュタリアの場合だけです。無用な戦いは回避するでしょう。私達が今では一番大きな組織である、アッシュタリアに抵抗しようとしているのは、あなた達の会話を聞いてて分かった事。ならば、アッシュタリアに関する事をドンドンと私に提示すれば、私達としても戦いを拒否する理由が無いのです。それに、相手がアッシュタリアという一番強大な組織との戦いだからこそ、戦いは激化するのは必至。羽室としては、是非とも、そんな戦いに首を突っ込みたいのですよ。戦いに狂っているというのなら、勝ち目の無い戦いほど面白い物はないでしょう。それが羽室の本音と言えるでしょう。分かりましたか」
そんな風鏡の説明を聞いて納得する常磐と竜胆。どうやら二人にもやっと理解できたようだ。
そう、羽室の性格から言って戦いを好むのは確かだ。そして、戦いを好む者ほど勝ち目の無い戦いに挑む傾向がある事を風鏡は知っていたのだ。それはやはり、戦国時代に誰かが残した言葉を覚えていたからこそ、羽室が持っている真理を見抜いたと言えるだろう。その真理とは、負け戦は楽しい、だが、負け戦を勝ち戦にするのはもっと楽しい。
負ける戦い、だが、そこから勝機を見出し勝つ事。それが戦闘狂と言える羽室にとっては至高の喜びであり、最も楽しい事だと言えるのだ。だからこそ、羽室は風鏡を選んだとも言えるだろう。たかが個人単位の戦力で、最強と言えるアッシュタリアに本気で戦いを挑もうとしているのだ。羽室としては、こんな事をする契約者ほど魅力的と言えるだろう。
それが羽室が風鏡を選んだ最も大きな理由なのだ。その事をやっと理解した常磐と竜胆には、それ以上の事は何も言えなかった。簡単に言ってしまえば利益の一致である。風鏡としては戦力強化にも繋がり、更には現在の閉鎖状態を打破する情報まで持っている。羽室としては、風鏡が大きな戦いに身を投じる事によって、大きな戦いを楽しむ事が出来る。戦闘狂の羽室にとっては、これ以上の好条件は無いだろう。
そんな利益の一致があったからこそ、風鏡は契約を決めたのだ。そして、やっと、その事を理解した常磐と竜胆にとっては何も言えないが、こんな戦闘狂と一緒に行動するのは気が向かないのだろう。それでも、風鏡がそこまで考えて決めた事なら、二人とも口出しは出来ない。とばかりに、仕方なく二人とも道を開いて風鏡は羽室の前に立つのだった。
そんな風鏡に対して羽室はガラスケースの上から降りると、風鏡の前に両膝を屈してから、背負っている二本の大太刀を揃えて風鏡に差し出すのだった。それから羽室は契約の言葉を口にする。
「これから先、あたしがお館様の剣として先陣を切りましょう。お館様が望む限り、勝利を捧げましょう。お館様の命がある限り、あたしは戦い続けましょう。そして、お館様への忠誠を証明するために、我が武器を差し出します。それをもって、忠誠の証とし契約の完了となります。それでは、お館様、我が武器を」
「分かりました。これからの活躍に期待します。そして、私の命令には忠実であるように、その事は心に留めておきなさい」
「はっ!」
「では、契約です」
風鏡は差し出された羽室が持っていた二本の大太刀を両手で持つと、次の瞬間には風鏡と羽室の下に魔法陣が展開されると、魔法陣が光り輝き、羽室が差し出した二本の大太刀から丸くて光り輝く玉が出ると、それが風鏡の中に入って行った。
そして次の瞬間には魔法陣が消え去り、すっかり契約前の光景に戻っている。だが、先程の事で主従契約が成立したのは確実だ。だからこそ、風鏡は手にしていた二本の大太刀を羽室の前に差し出すと、羽室は再び二本の大太刀を背中に背負うのだった。それから、羽室は笑みを浮かべながら口を開く。
「さ~て、いつもながら堅っ苦しい契約は終わった。という事で、お館様、これからよろしくさ。それと、常磐と竜胆って言ったっけ。二人ともよろしく。まあ、あたしが戦狂いだとしても味方までは傷付けたりはしないし、お館様の言うとおりに無駄な戦いは避けるさ。あたしは戦闘狂だけど、無鉄砲ではないからね」
「まあ、そこまで言うなら構わないけど」
「というか、契約しちゃったんだから、しょうがないよね」
未だに少し心配そうな声を上げる常磐に対して対照的にお気楽な言葉を口にする竜胆。昇との戦いを経て、常磐は少し成長したようだが、竜胆は相変わらずのようだ。まあ、だからと言って二人の仲が変わったワケでは無い。常磐は常磐なりに自分を納得させるような事を考えていた。まあ、戦闘になったら、真っ先に戦ってくれるわけだし、風鏡の命令なら聞くみたいし、そんなにバカだとは思えないから、まあ、良いっか。と自分自身を納得させる常磐だった。
常磐が自分の心に整理を付けている間にも、風鏡は羽室との会話を再開させるのだった。
「さて、それでは、その情報というのを教えてもらいましょうか」
「えぇ、お館様のためならば。とは言っても、あたしも情報に通じてるワケじゃないからね、あまり情報面で期待されても困るから。戦場ではいくら使ってもらっても構わないけど、そっち関係では期待しないでもらおうかね」
「なんだ、あまり役に立たないの」
「なら常磐は情報面で役に立ってると?」
「うっ、風鏡、その言葉は痛いです」
そんな常磐とのやり取りに、今度は竜胆まで笑い出す始末だが、これはこれで良いのだと風鏡は感じていた。そして、一通り笑い終えると羽室から肝心な情報が口にされた。
「アッシュタリアに大きな動きがあったのさ。あたしも詳しい事は分からないけど、ある人物にアッシュタリアのお偉いさんが直々に討伐命令を出したそうさ。アッシュタリアが、そこまでの動きを見せるのは、ほとんど無いからね。だから、あたしの耳まで入って来たというワケさ。そして、その人物こそ、そっちの二人が話していた契約者なのさ」
「それってっ! 嘘っ! ほんとにっ!」
「噂をすれば何とやら、という事なのかな」
驚きを示す竜胆に、驚きを通り越して呆れたような顔をする常磐。確かに二人共、先程は昇に関する話をしていたが、まさか、ここまで来て昇の話が出てくるとは、二人にとっては驚きだろう。そんな二人とは違って、風鏡は冷静に思考を巡らすと羽室に向かって質問する。
「羽室、どうやら、あなたも昇さん達の事を知ってるみたいですね。詳しく話してもらえますか?」
「お館様が望むなら、けど、かなり長くなる話だからね。ここは向かいながら話した方が良いだろうさ。それに、二人が話してた契約者のお嬢ちゃん、武久琴未って言ったね。その契約者とは殺り合った仲なのさ」
「字……間違えてない?」
「んっ、別に間違えてないさ」
「そ、そう」
ツッコンだのに、何事も無いように返された羽室の態度に常磐は言葉を失ってしまった。まあ、羽室は戦闘狂だし、そういう言い方が普通なのだろうと、常磐は再び自分自身を納得させる。その間にも風鏡から再び質問が出るのだった。
「向かうとは、どういう事ですか?」
「お館様には何やら、その契約者と因縁があるご様子だからさ。本腰を入れたとは言えないけどさ、あのアッシュタリアが討伐命令を出すほどだからね。今回ばかりは、あの小僧にとっても苦戦は免れないだろうね。そんな状況でも、お館様は動かないとでも」
そんな事を言って来た羽室に対して風鏡は軽く溜息を付くのだった。それから風鏡は羽室に向かって言うのだった。
「確かに、借りを返すには丁度良い事態ですね。けど、私達は昇さんの居場所までは聞かなかったので知らないのです」
「そういう事さね。なら問題無い、あたしは殺り合った仲だからね。その契約者が住んでいるところは察しが付くのさ」
「なら聞かせてもらいましょう、そこは」
「あぁ、そこは……」
丁度、その頃。アッシュタリアの日本支部。その中にある垂氷の仕事部屋では、情報整理をしていたエラストが、エイムハイマーから入って来た情報を垂氷に報告していた。そんな状況なのだが、垂氷は思いっきり呆れていた。
「まったく、そこまで分ってるのなら最初から情報を下ろしてきなさいよね。いくら、ウチのトップがバカだと言っても、日本支部全体をバカに見られてるんじゃないでしょうね」
「いや、さすがにそこまでは無いみたいです。それに今回の事はエイムハイマーに原因があったみたいで、その詳細はエイムハイマーの方でも討伐命令を出したものは良いものの、カイザーの即決に周りが付いていけずに、今頃になって情報が下りて来たのだと思います」
エラストの言葉を聞いて頭を抱えたくなる垂氷。まあ、それだけカイザーの決断が早かったと言うのもあるが、周りがカイザーの即決に対応できなかったというのも問題だろう。なにしろ、カイザーが素早く決断しても、それを処理、実行に移す周りが遅いのでは意味が無い。つまり、今のカイザーは即断即決しても、周りが付いて来れないような決断なら意味を成さない。
つまり、カイザーの周りも優秀な精霊が揃っている訳では無い。少なくとも事務処理能力に長けている者は居ないのだろう。そんなエイムハイマーの状況を察すると垂氷でも頭を抱えたくなるのも当然だと言えるだろう。それでも、情報は確実に得ないといけない自分の立場に仕方なく、垂氷はエラストに下りて来た情報を読み上げるように言うのだった。
「契約者の名前は滝下昇。年齢と能力は先に述べた情報に変更は無いみたいです。そして、その契約者が住んでいる所が……」
『鉄父市』
羽室の言葉を聞いて、風鏡はすぐに決断を下す。
「分かりました、どうやら羽室の言ったとおりに、向かいながら詳しい事を聞いた方が早いみたいですね。ならば、羽室。すぐに、この契約結界を解きなさい。一度、宿に戻って、すぐに出発します。常磐と竜胆も良いですね」
「了解」
「すぐに準備に取り掛かります」
風鏡の言葉に元気良く返事をする常磐と竜胆。まあ、それも仕方ないだろう。なにしろ、羽室からの情報で、やっと大きく動く事が出来るのだ。それに、二人とも昇達の事を良く思っていたし、今回の事でピンチになるのなら、是非とも動きたいのだろう。
それに、二人にってはやっと大きな戦いである。だからこそ、よりいっそうやる気が出るというものだ。そんな二人のやる気を感じ取ったのかは分からないが、羽室は戦いの気配を感じたのだろう。だから、今から既に楽しそうな顔をしている。
そんな羽室が手を上げると、契約結界にヒビが入り、徐々に崩壊を始めるが、羽室の戦いの気配に気が逸っているのだろう。契約結界を一気に壊すと風鏡達は先程までいた戦国博物館へと帰ってきた……のだが、一つだけ風鏡には気になる事があるようだ。それは……やはり先程、契約を交わした羽室だった。
だからこそ風鏡は羽室に向かって言うのだった。
「羽室……」
「何でしょう、お館様?」
「……その格好はどうにかならないのですか? さすがに目立ちすぎます」
風鏡がそんな事を言いたくなるのも当然だと言えるだろう。なにしろ、羽室の格好は先程と同じだからだ。さすがに二本の大太刀までは持っていないものの着物を着崩して着ている。つまり、目立つ場所に行けば、男性の視線は羽室に釘付けになるだろう。それが分っているだけに、風鏡もそんな羽室を連れて歩きたくは無かったのだ。
だが、そんな風鏡に対して羽室はあっけらかんと笑いながら言うのだった。
「なに、お館様。男の視線なんぞ、慣れてしまえば気になりますまいて。逆にお館様や常磐や竜胆のように肌を隠しているからこそ、男は寄って来るのさ。あたしのように開き直ってしまえば男も寄ってこないでしょうさ」
「まあ……一理、はありますね」
「けど、ねえ、竜胆」
「あぁ、さすがに、あの格好で歩き回るのは……」
確かに旅に出てからというもの、そうした事が無かったワケではない。逆に多かったとも言えるだろう。だからこそ、風鏡達は羽室の意見を否定は出来なかったのだ。
まあ、確かに羽室がこんな格好で歩いてる限り、男達の視線は羽室に釘付けになり、逆に声を掛け辛いだろう。そんな自覚を感じてしまったのだから、風鏡としても、それ以上の事をいう事は出来なかった。それに、試しに常磐と竜胆に視線を向けて、目を通して羽室を何とかしろといって見るが、二人からの返事は『無理』の一言だった。
風鏡達がそんな事をしていると風鏡は諦めたように溜息を付いた。そんな風鏡に羽室は先程から気になっている事を口にするのだった。
「ところで、お館様よ。先程から、こっちを観察している者はどうするのさ。どうやら、かなり前からお館様に引っ付いてみたいだけど、何なら今からでもあたしが斬り捨ててくるとするさ」
そんな言葉を放った羽室に対して風鏡は分っているとばかりに平然と答えるのだった。
「えぇ、三週間前からずっと私達を観察しているようですけど、未だに戦いを仕掛けてくる気配がありませんから、とりあえず、こちらも相手の出方を窺っていたのです。ですが、羽室との契約で動いてくる可能性があります。なので、今のところは放っておいて良いでしょう。現時点では敵とも味方とも言えない状態ですからね。事の次第では……」
「まあ、お館様が、そこまで考えているのなら、そうしましょうさね」
そんな会話をする風鏡と羽室。そして、会話からすっかり外された常磐と竜胆も二人だけで会話をしていたのだ。
「というか、竜胆」
「言いたい事は分かる。私はまったく気付かなかった。そういう常磐は?」
「同じくよ。けど、これで風鏡がここに留まっていた理由が分かったわ」
「……あぁ、風鏡は尾行されている事を知ってたから、三週間もここに留まってたんだ。三週間前といえば、私達が激弱の奴を倒した頃だよね」
「そうね、どうやら、あの戦いも見られていたかもしれないわね。それで、私達に対してどう動くか、それの対処をするためにも私達に引っ付いている必要があったみたね」
「……あなた達は、そんな事にも気付いてなかったのですか」
いつの間にか二人の会話を聞いていた風鏡が呆れた顔で二人にそんな事を言って来たので、常磐と竜胆は、とりあえず笑って誤魔化すのだった。そんな二人にますます呆れる風鏡。そして羽室はというと……やっぱり面白そうに笑っていた。そんな羽室が笑いながらも風鏡に向かって言うのだった。
「お館様は、こんな二人を連れて、今までよく戦ってこれたものさね。まあ、面白いという点だけでは二人は合格点だと言えるさ」
「新参者に、そんな事を言われる筋合いは無い。それに風鏡の事なら私達が一番良く分かってるんだからね」
「そうだそうだ」
羽室の言葉に、そんな抗議の言葉を上げる常磐と竜胆。けど羽室はそんな二人に笑い掛けながら話を続けるのだった。
「なるほど、主との絆は二人とも深いのは分かったさ。なら、あたしもその仲に入れておくれよ。あんたらとは一緒に居るだけでも面白そうだしね。そうさね、とりあえずはあたしが新参者なのは確かだからさ。二人の事はご家老とでも呼んでおけば良いかい?」
「お~、なんか、それってカッコイイ」
「なんか、自分が偉くなったって感じるわね」
「そうさろ、そうさろ」
そんな会話をしながら笑い出す三人組み。そんな三人を見て、風鏡の頭には、ある言葉がよぎるのだった。その言葉は……『類は友を呼ぶ』……これほど三人に合った言葉はないだろう。けれども、風鏡としては既に呆れるのを通り越して苦笑する顔すらも引きつっていたのだ。そんな風鏡が羽室と契約した事を考えてみる。
えっと……まあ、いろいろとしょうがないでしょうね。もう契約をしてしまったのですから……ね。そんな事を考えながら自分自身を納得させる風鏡。ただでさえ、賑やかな常磐と竜胆、そこに戦い好きの戦闘狂の羽室が加わったのだから、賑やかさも倍増したと言えるだろう。それに……今ではすっかり意気投合している三人を見て、引きつった苦笑いを浮かべながらも、三人に向かって移動する事を伝えると自分はさっさと歩き出すのだった。そして、そんな風鏡の後ろからは。
「けど、めんどいから私も竜胆も呼び捨てで良いわよ。というか風鏡も」
「まあ、お館様には主として、念のために敬意を払った呼び方をしてるだけさ。だからご主人様とか主様と呼んでも良いんだけどさ。それだと直球過ぎて面白くはないだろうさ。だからお館様と変わった呼び方を選んだのさ」
「あぁ~、何となく分かる。ねえねえ、常磐。だったら私達も風鏡の呼び方を変えてみる?」
「ん~、旦那様とか?」
「はははっ、それは面白そうさね」
「だったら、奥様とかもありだよね」
そんな賑やかな会話を聞きながらも風鏡は歩きながら考えるのだった。これで……良かったのですよね? と
はい、そんな訳で……今回も昇達の登場はありませんでしたっ!! まあ、その代わりに、風鏡達が結構、盛り上げてくれたから良いですよね~。
まあ、風鏡の再登場は前々から決めていた事ですが、羽室の再登場は結構意外と思う人も多いでしょうね~。まあ、風鏡は結構人気があったから再登場させても構わないと思ったのですが、風鏡と羽室と契約は私的な理由ですね。
……まあ、ただ単に、私的には羽室は精霊の中でも気にいってる精霊ですからね~。だから、再登場させたいとは思っていたのですよ。けど……ここまで常磐と竜胆と波長が合うとは思ってなかったよ。ただでさえ、手がやける二人だというのに、そこに羽室が加わったわけですからね~。風鏡も大変ですね~(笑)
まあ、風鏡は不幸な人、という意外に苦労する人、というスキルも持っているワケですよ。だから常磐と竜胆と契約したわけですし、そこに羽室が加わったワケです。そんな賑やか三人組を連れて、風鏡は昇達が居る鉄父市とへと向かうのでございやした。
……ちなみに、今まで昇達の居場所について固有名詞をつけていなかったのですが……特に意味は無かったんですけど……別に無くても困らなかったから、という理由で今まで昇達が住んでいる場所の地名を作らなかったワケでして、今回の猛進跋扈編になって、やっと昇達が住んでいる市名が出てきたわけですよ。
ちなみに『鉄父市』という名前ですが……某アニメを見たから決めたワケじゃないです。実はというと……そこが私の生まれ故郷だったから、まあ、これで良いっか、とか思って、ちょっとだけ変えて、こんな名前になりました。あ~、ちなみに、現住所は違いますけどね。
まあ、何にしても、風鏡の再登場も終わり、次からはやっと昇達が出てきます。実は……未だにアッシュタリアが動いていないのに、意外と昇達がピンチかもしれませんね~。まあ、その辺は次回までお待ちくださいな。
という事で、いい加減に長くなってきたので、そろそろ締めましょうか。
ではでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。更に、評価感想もお待ちしております。
以上、風鏡ファンには悪いけど、また、風鏡が出てくるのは、かなり後になります。と告知だけでもしてみた葵夢幻でした。