第百四十六話 激闘、でもお気楽な者達
「そこに居るのは誰? 人間……じゃないのかな?」
その言葉が春澄との出会いだった。そして、ただ流れている河を見つける日々に、無為な日々に終止符を打つ出会いだった。この出会いこそ、百年、千年にも亘る河の流れに身を任せて生き続ける事に対して終末を迎える事が出来る出会いだったのだ。少なくともアルビータは、春澄との出会いを、そのように捉えていた。そして、たぶん春澄も……。
だからこそである。アルビータは最後の主に春澄を選んだ。春澄こそが、無為の日々を生きてきた、河の流れみたいな日々に終末を打てる主だと思ったからだ。だからこそ、春澄とは完全契約を交わしたのである。もし、春澄が以前と同じ契約者と同じ事をしても、最後には春澄が討たれる事は分っていたからから。だが、そんなアルビータの心配も杞憂に終わった。
春澄は自分の命を永らえようとは思わなかった。それよりも、アルビータと戦っている一瞬、一瞬を大事にし、尚且つ、初めて見る事が出来た世界に対して春澄の心は完全に、そちらに向いていたのである。
春澄と契約を交わし、春澄と旅を始めて、そしてやっと春澄の心を理解したと思った時には、アルビータの心からも迷いは消えていた。春澄を最後の主とし、そんな主の下で全力を尽くす戦いこそがアルビータにとって最後にするべき、いや、最後にしたかった事なのだろう。だからこそ、事がここに至った今、アルビータの心に迷いは無かった。それどころか、逆に胸の奥から湧き出る歓喜を、その身を持って感じていた。
それほどまでに、アルビータにとっては、この戦いは最後であり、最も重要な意味を持っていた。なにしろ、春澄の命は全てアルビータの中にある。だからこそ、アルビータは最後の主である春澄の命を感じながらも、最後に望んだ最高の戦いを行っているのである。
そんな二人に待っているのは死という名の終わり。だがアルビータに後悔は無かった。最後にして、自分が思い描いていた主と出会い、そして最後にして最高の戦いを行う事が出来る。これほどまでに幸福な時は無いとアルビータは感じていた。
今までは、ただ見るだけの世界、何も出来ない無為な日々。ただ、河の流れのように、幾千、幾万の昼と夜を流れ続ける河のように、どこに辿り着く訳でもなく、ただ流れるだけの日々。そうして積み上げてきた、数え切れない時間。だが、その時間には意味が無い時間だ。
けど、今は最後の主である春澄の下で、最も尊く、最も有意義な時間を過ごしているのである。その時間はアルビータが過ごしてきた、幾千、幾万の時間に比べれば、ほんの刹那の瞬間かもしれない。だが、その刹那の瞬間こそが、幾千、幾万よりも貴重で重要なのだ。
意味も無く、ただ生きているよりも。命の炎を燃やし、刹那の時間を自分の思った信念で貫く事が出来る。大事なのは長い時間を生きる事ではない。たとえ短くとも、刹那の時間を自分の信念で行き、その意思を貫き通し、命の炎を燃やして、燃え尽きるまで戦う。その事こそがアルビータにとっては最も重要な事なのだ。
それに比べたら、今まで過ごしてきた無為な日々など、どうでもいい日々だ。それよりも、この一瞬一瞬に命の炎を燃やし、春澄から貰った命を燃やし、自分の意思を貫く事が出来る。信念と共に戦う事が出来る。この一瞬一瞬が尊く、煌めくほどに充実していた。この刹那の時間こそ、アルビータが求めていた時間なのだから。
先程までのアルビータを例えるとしたら、荒れ狂う嵐と言ったところだろう。だが、今のアルビータは凪のように静かで、雫の波紋すら立たせないほどに淡々としていた。それほどまでに静かに立っているアルビータに対してフレトは先程よりも脅威に感じるものがあった。
先程のアルビータが全力というのなら、今のアルビータは、その全力すらも超えた次元に居る。フレトは今のアルビータを、そんな風に見ていた。そしてフレトが思っていた最悪な事態の通りに、戦いは終幕に向かって進んでいくのであった。
そんな中でフレトは左に居る与凪に意見を求める。
「さっきの攻撃で、かなりのダメージを負わせたと思うんだが、あれほどの傷を負っても、なお立つどころか、こちらに脅威と思わせるほどの力を見せ付けてくるか。この状況、どうなっているんだ?」
「そうですね、確かに、まるで嵐の前ある静けさみたいですね。それから、琴未によって与えたダメージですけど、既に血は止まって、自然治癒してますね。おそらくは命の提供を使って治癒能力を上げているのだと思います。それに、先の攻撃で分っている通りに、今のアルビータさんは精神が肉体を凌駕している状態ですからね。痛みは感じていないかもしれません。けど、あれほどのダメージですから、動きには現れるかもしれませんね」
「そうなって欲しいものだな……」
そんな短い言葉で締め括ったフレトに、何か感じるものがあったのだろう。右に居る咲耶が少し心配そうな声で話を続けてきた。
「そのご様子、主様には何か気になる事があるように思われます。ですが、今は主様が大将なのです。ここで弱気を少しでも見せれば、前線で戦っている者達にも伝わってしまいます。なので」
「分っている、分っている……のだがな。先程までとは違った静けさが、まるで、そのまま、あいつの威圧感に感じるのも確かだ。咲耶、補佐をしっかりと頼む。ここからは先程よりも厳しい戦いになってくるはずだ」
「御意」
咲耶に向かって、そんな言葉を返したフレトは再びストケシアシステムに集中力を集めるのだが、やはりアルビータの静けさが、先程までの威圧感よりも脅威に感じるのだろう。だからフレトは自然と慎重に事を進めようとするが、戦況はフレトが予想していた最悪以上の状況を作り出した。
なにしろ、忽然とアルビータの姿がフレト達の前から消えたからである。その事に思わずフレトが声を上げる。
「なっ! どこ」
「上ですっ!」
フレトが言葉を言い終える前に横に居る咲耶から報告の声が響く。その声を聞いて空を見上げるフレトだが、その時には既に遅かった。上空に居るシエラもレットも充分に警戒していたのだが、あまりの速さで上昇してきたアルビータに対して素早く対処が出来なかったのである。なにしろ、二人とも琴未とラクトリーを掴む形で上空に居たからだ。
だからこそ、二人は俊敏な動きが出来なかった。むしろ、アルビータの動きに驚きつつも、少しだけ移動するのが精一杯だった。そんなシエラとレットに向かってツインクテラミノアを振るうアルビータ。二人とも片手が塞がっている状態だから、この状況では琴未とラクトリーは足手まといにしかなっていない。
それでも、素早い動きに慣れている二人は、それぞれの武器で防ごうとする。だが、アルビータは跳び上がるのと同時に回転も加えていたようであり、それに足手まといを持っているシエラとレットを撃墜するのは簡単な事だった。
そうやって素早く繰り出されたツインクテラミノアの一撃を受け止めるシエラとレットだが、二人とも空中は地上ほどの踏ん張りが効かないので、それぞれの翼に頼るしかないのだが、それでもアルビータの放った一撃は重い衝撃があったのだろう。シエラとレットは琴未とラクトリーを離す間も無く、そのまま一緒に地面に向かって撃墜されてしまったのだ。
まさか、いきなり上空の敵に向かって行くとは思っていなかったフレトだっただけに、さすがに、この奇襲には驚かされた。だが、いつまでも驚いているワケには行かない。電光石火の動きで上空の味方を撃墜されたとしても、フレトには地上戦力が残っている。
それに一度は跳び上がっただけに、アルビータは重力に任せて落ちて行くだけである。だからこそ、咲耶が素早く着地ポイントを割り出すとタイミングを見ながら指示を出そうとしている。狙うのはアルビータが着地する少し前、その時点で攻撃を繰り出せば、いくらアルビータが凄かろうとダメージは通るとフレトは考えたからだ。
なにしろ相手は上空から降りてくるだけしか出来ない。ならば、その着地前の瞬間を狙えば確実に攻撃を入れる事が出来るだろう。なにしろアルビータでも空中では自由に動く事は出来ないのだから。だからこそ、フレトはタイミングを計るとミリアと閃華を突撃させるが、すぐに後退するように指示を出すのだった。
そんなフレトの判断は正解だったと言えるだろう。なにしろアルビータはフレトが着地前に仕掛けてくる事を予想していた。だからこそ、フレトが仕掛けてくる瞬間にツインクテラミノアを一気に振り上げてきたのだ。その行動を見ていたからこそ、次に何を仕掛けて来るのかが分かったフレトが二人を、すぐに引き返させたのである。
そして次の瞬間には地面に向かって一気に振り下ろされたツインクテラミノアが地面を陥没させるのと共に衝撃波を引き起こす。そのため、地上に居たメンバーは一時的に足を止める事になってしまった。
フレトもここまで読んだからこそ、二人に後退を命じたのだ。あのまま突っ込んでいればツインクテラミノアの衝撃と共に刃が二人に向かって振られても不思議ではない。だが、こうして二人が後退したからこそ、何とか次に繋げる事が出来ると考えたフレトだが、その考えが甘い事をすぐに悔やむのだった。
なにしろ、着地したアルビータは衝撃が収まる前にミリアに向かって突撃を掛けたのである。ミリアも先程の衝撃波で足を止められた状態だ。そこにアルビータが突っ込んで行ったのだからミリアにとっても驚くべき事態となっていた。
そして足が止まっているミリアに対してツインクテラミノアを振るうアルビータ。ミリアもすぐに防御体勢に入る。振り出されてくるツインクテラミノアの軌道を予想してミリアもアースシールドハルバードを振り出す。さすがのミリアも、この短時間でアルビータの一撃を受け止める事は不可能に近い事を学習したのだろう。だからこそ、相手と攻撃を合わせて、攻撃の相殺を狙ってミリアはハルバードを振るったのだ。
振るわれた二つの刃がぶつかり合い、激しい金属音と共にミリアの腕にはかなりの衝撃が傷みとなり走った。だが、ミリアが完全に受け止めようとしていたら、アルビータによって確実に弾き飛ばされていただろう。だが、ミリアが上手く、アルビータの攻撃を相殺したために、なんとかミリアは踏ん張る事が出来た。だが戦況はミリアにとって不利と言えるだろう。なにしろ、ツインクテラミノアはもう一本あるのだから。
片方の両刃斧を止めた事は賞賛に値するだろうが、そのおかげでミリアも、もう一本の両刃斧に対しては無防備であり、その身を晒しているのと同じだ。そのため、アルビータはもう一本の両刃斧をミリアに向かって一気に降り下げる。
さすがに、この状況は後方で見ていたフレトにも不味いと思い、瞬時に思考を巡らせるが、アルビータの動きが速すぎたために、誰かを動かすような指示を出せなかった。だが、アルビータと向かい合っているミリアは口元に笑みを浮かべるのであった。
「アースウォールッ!」
地の属性を使ってアルビータの攻撃を何とかしようと考えたのだろう。地面に接している石突から地の属性を発動させるミリア。だが、属性防御がアルビータに対して効かない事はフレトもアルビータも良く分かっていた。だが、属性の発動場所によっては違ってくるのである。
そう、ミリアはツインクテラミノアの攻撃を防ぐためにアースウォールを作り出そうとしているワケではない、アルビータを上に押し出すためにアースウォールを発動させたのだ。
突如として足元から土の壁に乗るように上に強制移動させられるアルビータ。アースウォールを壁としてではなく、相手の動きを止めるのと同時に確実に避けるために、相手を土の壁に乗せて発動。そんなミリアの行動はアルビータだけでなく、フレト達も驚いた。まさか、ミリアがここまで有効的な手を打つとは誰も思っていなかったからだ。まあ、それだけ、毎日のように行われていたラクトリーの強制修行が功を奏したようだ。
そのため、ミリアはアルビータを強制移動させるのと同時に移動しようとするが、それをみすみす見送るアルビータではなかった。既にツインクテラミノアは振るった後で、すぐに刃を返して攻撃する事が出来ない。ならば……攻撃できるところで攻撃すれば良い。
アルビータは土の壁によって強制的に上に押し上げられると共に一気に片膝を折って、体勢を沈めると片方の足を大きく振るう。そしてミリアを完全に取られると、そのままミリアを蹴り飛ばしてしまったのだ。
ミリアとしてもアースウォールで完全に虚を付いて、確実に後退が出来るという慢心があったのだろう。だから、アースウォールの上でそんな行動を取ってきたアルビータに気付いたのは、蹴り飛ばされた後である。確かにアースウォールを使った攻撃回避は見事だったが、やっぱり詰めが甘い部分が出てしまったのだろう。すっかり油断したミリアが蹴り飛ばされて、フレト達の方へと飛んでくるが、アルビータもそんなに力を込めて蹴るだけの時間が無かったのだろう。そのため、ミリアは地面に一回だけ叩きつけられると、そのまま地面を滑ってフレト達の前方で止まった。
その間にもアルビータは無の属性を足に発動、ミリアの作り出した壁が砂となりアルビータはゆっくりと降りてきた。上空に居る四人を一気に撃墜、さらに地上戦力のミリアを弾き飛ばしたのである。この時点でフレト達の戦力は半減どころか、戦闘を維持する事も不可能に近いだろう。だからこそ、フレトは閃華を自分達の方へと後退させる。確かにフレトの前には倒れているとはいえミリアがいる。それに撃墜された四人とも両脇にある林に突っ込んで行ったために、視覚では姿は確認できないものの、そろそろ戦線復帰が出来る頃だろう。だからフレトとしては、何としても時間を稼がなくてはいけなかった。そのために閃華を戻したのだから。
そして、ミリアの作り出した壁を全て砂にして大地に戻すと、アルビータはツインクテラミノアを構えて、一気にフレト達が居る最終防衛ラインとも言える場所へと突っ込んで来るのだった。そんなアルビータに閃華は迎撃の構えを取る。そして閃華はタイミングを見計らうと、一気に飛び出した。確かに現状で確実に動けるのは閃華だけだろう。それだけに、閃華としても指示を出しているフレトに、これ以上はアルビータを近づけさせるのは危険だと考えたからこそ、自分からも飛び出して、一気に二人の距離を縮めたのである。
そんな二人が間合いに入った瞬間に武器を振り出す。激突する龍水方天戟とツインクテラミノア……と思われたが、さすがは閃華と言ったところだろう。横一線に振るわれた両刃斧、閃華はそれを下から切り上げて、上手くアルビータの攻撃をいなしてしまったのだ。そのため、振るわれた両刃斧は体勢を低くした閃華の上を通過していった。
だが両刃斧はもう一本ある。アルビータは振った両刃斧を戻すのと同時に閃華に向かって、もう一本を斜めから振り下げてきたのである。振り下ろされた両刃斧に対して閃華は方天戟を横にして突き出すと、受け止めるような姿勢を示したのだ。
そんな閃華の方天戟に両刃斧の刃がぶつかり合う刹那の瞬間。閃華は方天戟を更に前に突き出すのと同時に右足で地面を強く蹴って、そのまま時計回りに側転するかのように、軽やかな動きで接してる方天戟と両刃斧を軸に一回転、そのままの勢いを利用してアルビータの横に着地するのだった。
確実にアルビータの横を捉えた閃華。だが、アルビータもしっかりと閃華の動きが見えていた。だからこそ、最初に振るった右の両刃斧を閃華に向かって突き出す。なにしろ左の両刃斧を振り下げた状態だ。ここから体勢を戻してから攻撃していては閃華からの反撃が来るのは当然といえるだろう。
だからこそ、アルビータは刃で押し切るのではなく、両刃斧の軸である柄の先頭による打撃に切り替えてきたのだ。そんな素早い、アルビータの思考と行動。だが閃華も負けてはいなかったのだ。
自分に向かって突き出された両刃斧に対して、閃華は両刃斧の軌道を見切って、方天戟を立てに突き出すと、そのまま刃に方天戟を当てるのと同時に一気にアルビータの前を横切ったのだ。素早くアルビータの懐に入り、そして一気に駆け抜ける閃華。だが、閃華なら、そのまま置き土産程度の反撃は出来たろうが、閃華は防戦一方で反撃を見せる気配は無かった。
だからと言って閃華から確実に反撃が来ないわけで無い。だからアルビータは閃華を目で追いながら体勢を立て直そうとするが、すぐに右肩に痛みが走り、その痛みだけで全てを察したアルビータがツインクテラミノアを左右に開くように振るうのだが、どちらも手応えは無かった。
既にアルビータの間合いから出ていた閃華は同じく隣に姿を現した半蔵に対して言葉を掛ける。
「さて、どうにか一撃を入られたみたいじゃが、そこで攻撃を入れた半蔵殿の意見を、是非とも聞いておきたいんじゃが」
少しだけ皮肉った言葉を放つ閃華。まあ、閃華が半蔵に対して不満を持っていた訳ではない。反撃もままならずに、避ける事に専念して半蔵のために隙を作る。そこまでしなければアルビータに一撃を入れる事は出来なかっただろう。つまり、閃華がアルビータの攻撃を軽やかにかわしていたのは全て半蔵に一撃を入れる機会を作るためだ。だが、ここまでしなければアルビータに一撃を入れられないのも確かな事であり、こんな苦労を強いられた事に閃華は少しだけ意地悪な意味を込めて半蔵に言葉を掛けたのだ。
半蔵も、そんな閃華の心境が分っているのだろう。だからだろう、いつものように単調な言葉で返事をするのだった。
「軽傷、我が空斬小太刀では深手を入れるのは不可能。それほどまでに、重厚な鎧と鋼のような肉体が我が刃を阻む」
「ふむ、やはり、そうか。じゃが、今は時間を得る事が重要じゃ。突然の奇襲で主力である、上空が落とされてしまったからのう。ここは時間を稼ぎながらも少しでも傷を負わせれば上々と言えるじゃろうな」
「同意、若様が全体の体勢を立て直す、それまでの時間を二人で稼げば良い」
「簡単に言ってくれるのう。じゃが、それしかないじゃろう。それにしても、くっくっくっ、こうして再び最前線に揃って立つとはのう。昔の大戦を思い出すというものじゃ」
「うむ、ならば」
「じゃな、私の背中、しっかりと預けるぞ」
「応諾、承ろう」
そんなやり取りをすると、閃華と半蔵は視線を重ねるとお互いに口元に笑みを浮かべるのだった。二人とも伊達に戦国時代を共に戦ってきたワケではない、と言ったところだろう。強敵、不利な状況、そんなものは二人とも何度も体験してきている。だからこそ、アルビータを前にしてもお互いに信頼し、一歩も退く事無く、戦う事が出来る。
改めて、その事を実感しながらも、閃華と半蔵は再び突撃を掛けてきたアルビータに対して、閃華は軽やかな動きで攻撃をいなし、避けつつもアルビータに攻撃をさせて隙を作り出す。そして、その刹那の隙に半蔵が攻撃を入れる。二人の連携は完璧といえるだろう。ストケシアシステムに頼らずとも、これほどの動きを見せるのである。さすがは戦国を生き抜いた二人とも言えるだろう。
そんな二人の活躍もあり、前線では閃華と半蔵によってアルビータは完全に足止めされてしまっていた。その間にも後ろでは着実に事を進めて行っているのだった。
「とにかく、シエラとレットを空に上げるぞ。その間に琴未とラクトリーは合流、ミリアはどうなってる」
閃華と半蔵が時間を稼いでいる間に状況確認と指示を出すための情報を得るために、フレトは左右に入る咲耶と与凪に言葉を飛ばす。そんなフレトの言葉を聞いて、真っ先に答えてきたのは咲耶の方だった。
「シエラさんとレットはまだ無理です。どうやら上空で琴未さんとラクトリーを庇うように攻撃を受けたために、攻撃を防ぐのが精一杯だったようです。それでも二人とも上手く琴未さんとラクトリーを林の中に落としているので、琴未さんとラクトリーはすぐに動けますが、シエラさんとレットは無茶な体勢で落下したためにダメージは大きいようです。なので、今の状態で空に上げても、まともな攻撃は出来ないかと」
咲耶が素早く現状を整理して、そのような報告を上げると、次は与凪からの報告が上がってくる。
「ミリアさんは参戦が出来ますけど、閃華さんと半蔵さんがあれだけの動きを見せていますから、無理にミリアさんを突っ込んでしまうと二人の連携を邪魔する事になりますね。だからミリアさんはしっかりと距離を取って次の指示を待っているようです。体力を温存するためでもありますけど、正しい判断をしていると思います。最初の奇襲でシエラさんとレットさんはダメージが大きいですからね。今は地上戦力だけで対抗するのが良いと思いますよ」
報告と共に自分の意見も重ねてくる与凪。だが与凪の見解も間違いではない事はフレトは良く分かっていた。だからこそ、与凪の報告を聞くとすぐに指示を出す事が出来るのだった。
「なら、琴未とラクトリーはミリアと合流。その後に地上戦力で総攻撃を掛ける。閃華と半蔵もそのつもりで体力を温存しておくように時間を稼いでもらうか」
フレトの出した言葉が、そのまま思考になり、全員の頭を一気に駆け抜ける。そして、指示を聞いた琴未とラクトリーがミリアと合流するために林の中を一気に駆け出す。その間にも閃華と半蔵が時間を稼いでいるが、閃華は半蔵に合流すると言葉を放った。
「まったく、お主の主も無茶な要求を出してくるものじゃな。こちらとて時間稼ぎが精一杯じゃというのに、体力を温存せよ、とはのう」
「さりとて出来なくは無いはず」
「まあ、そうじゃがのう。じゃが、ここまで扱き使っておいて、今回の戦いでは私にとっては、あまり美味しい所は無いからのう。それこそ、私の士気に関わってくるというものじゃな」
随分と好き勝手な事を言って来た閃華に対して半蔵は軽く笑みを浮かべながら返事をするのだった。
「ならば、後で秘蔵の酒を送ろう。若様のツテで最高級の酒蔵から手に入れた酒だ。それなら文句はあるまい」
「くっくっくっ、そんなつもりは無かったんじゃがのう。そこまで言われてはやらない訳にはいかないようじゃな」
絶対に嘘だっ! 昇ならそんなツッコミが来そうな二人のやり取りだが、閃華としては、それだけでも満足そうに笑うのだった。そこを見ただけでも、閃華が何を求めてたのかが分かるというものであり、半蔵もそれを見抜いたからこそ、的確な品を出してきたと言うわけだ。
まあ、こればかりは付き合いが長い半蔵だからこそ分かった事だし、閃華としても、そんな対応をしてくれると分っていたからの戯れである。それだけでも二人には余裕があるというのが分かると言ったところだろう。なにしろ、アルビータの猛攻をいなして避けながらも、閃華はしっかりとアルビータと距離が取れるように後退し、半蔵もそんな閃華に合わせる事が出来ているのだから。
そんな二人を相手に一歩も引かないアルビータの猛攻も凄いが、そんなアルビータに対して防戦しながらも少しずつダメージを入れて行く二人の連携も凄いと言えるだろう。
だが、そんな二人の連携も所詮は時間稼ぎ、アルビータもそれを察し始めたのだろう。だから少しずつ攻撃の手を緩めて次に来るであろう、総攻撃に備えて力を温存しながら閃華を攻め立てる。閃華もアルビータの攻め手に緩みが出た事から、アルビータがこちらの思惑を察したと見抜いていた。それでも、閃華はアルビータの前に立ちはだかり、半蔵と共にアルビータの攻撃をしのいでいるのだった。
その間にも後方では着々と準備を整えながら、琴未が……呑気にお喋りをしていた。
「はぁ~、さすが閃華ね。かの有名な服部半蔵と組んでも決して負けてはいないわね」
「それもありますけど、どうやらアルビータさんもこちらの思惑に気付いたようです。だから二人に対しての攻撃が緩やかになってます」
隣に居るラクトリーにそんな事を言われて琴未は、改めて閃華達の戦いに目を向けるが、すぐに溜息を付いて、肩をすくめて言うのだった。
「やっぱり、私もまだまだって事よね。百戦錬磨の閃華達に比べれば、そんな変化にまったく気付かないし、言われても分からないわ」
「だよね~、お師匠様が、そう言うのなら、その通りなのかもしれないけど~。今の私達には無理なレベルだよね~」
琴未に続いて同意するかのような言葉を放ってきたミリア。琴未はそんなミリアから視線を逸らすと呟くのだった。
「なんか、ミリアに同一視されるような事を言われると、自分が弱くなった気分になるのよね」
「酷っ! う~、琴未~。それは酷すぎる発言だよ~」
「まあ、閃華達に比べれば、私がまだまだという自覚はあるけどね。けど……ミリアと一緒にされるのも何気なく嫌な気分になるのよね」
「そんなの偏見だっ! 差別だっ! お師匠様~、最近の私は頑張って強くなってますよね~」
琴未に皮肉に似た言葉を聞いてラクトリーに泣き付くミリア。さすがに今回はミリアも活躍したし、怒られる事は無いと思ったようだ。だが、そんなミリアにラクトリーからトドメが刺される。
「えぇ、確かに最近のミリアは強くなって来てますし、戦い方のバリエーションも増えているのですが……」
「ですが、何ですか~?」
「もっとしっかりと私の修行と勉強をしていれば、今以上の力を付けていたのは間違いないでしょうね。何かにつけて逃げ回るから、そんな事を言われても仕方ないのですよ」
「な……なんか理不尽だ――――っ!」
ミリアの叫び声を聞きながら、後ろで情報整理をしている与凪からは軽い笑い声が聞こえ、咲耶は笑うのを必死に堪えているようだ。そしてフレトはというと、今はストケシアシステムから手を離して、モニターの向こうにいるお気楽三人組に対して溜息を付くのだった。
そんなフレトが思いっきり呆れた視線をモニターの向こうにいる、お気楽三人組に対して言葉を放つのだった。
「お前ら、一応戦闘中で、前線では閃華と半蔵が頑張ってるんだぞ。もうちょっと緊張感を持てないのか」
「持てません」
「即答かよっ!」
琴未の言葉に思わずツッコミを入れてしまったフレト。そんなフレトに対して両脇から笑い声が漏れるのをしっかりとフレトは耳にしながら、しみじみと思った事を口にするのだった。
「よく、滝下昇は、こんな連中を引き連れて、戦えるものだな。俺は何だか、もう全てを投げ出したい気分になってきた」
「確かに緊張感は大事ですけど、緊張してばかりだと疲れますから、だから休める時には休むのが一番ですよ。だから、今は閃華さんと半蔵に頑張ってもらって、私達は最後に備えて英気をやしなってるんじゃないですか」
「ラクトリー」
「どうかしましたか、マスター?」
「この場面だと、そのセリフはお前が一番言ってはいけないセリフだと思うんだがな」
「そうでしょうか?」
首を傾げながら、そんな返答をしてきたラクトリーにフレトは思いっきり溜息を付く。まあ、確かに、この場面ならばラクトリーが他のメンバーを戒めるべきなのだが、やっぱりミリアの師匠なのだろう。少しばかりのんびりというか、ゆったりしたところにフレトは呆れた視線をラクトリーに送るのだった。そして、そんな光景を見ながら与凪が楽しそうにキーボードを叩きながら呟くのだった。
「類は友を呼ぶ」
「……否定できない言葉を呟かないでくれ、少なくとも俺は滝下昇とは同一視されたくは無いと思っているんだからな」
「まあまあ、マスター。人類、皆兄弟って言うじゃないですか」
「……………………はぁ」
ラクトリーの言葉に最後には疲れたように溜息を付くフレト。もう、これ以上の会話は疲れるだけだと、やっと悟ったようだ。まあ、昇なら適度に和んで自らの思考を柔軟にしそうな場面だが、フレトはそこまで柔軟にはなれないようだ。
まあ、そこがフレトの長所でもあるのだから、否定する者は誰もいない。むしろ、戦いに対する率直なところが、半蔵やレットにとっては気が引き締まる部分でもあるのだから。だが、ラクトリーは少し、のんびりとしているところがあるからこそ、半蔵とレットが居ない、今では改めてラクトリーのお気楽さを感じるフレトだった。
だからと言って、戦況をこのままにしておくわけにはいかない。今では時間を稼いでくれている閃華と半蔵の体力にも限界がある。だからこそ、フレトは気分を切り替えるために、一回だけ大きく深呼吸をすると、改めて真面目な目付きに戻ると確認作業に移る。
「咲耶、シエラとレットはどうなってる?」
「二人とも戦線に復帰できます。それから、シエラさんは妖魔化してます。だから、シエラさんのスピードがかなり強化されていると思います。どうやら、シエラさんは、そろそろ戦いも最終局面だと判断したみたいですね。いつでも全力で行けるようにしているみたいです」
「分かった、なら最終局面にするぞ。お前達もそろそろ全力で行けるようにしておいてくれ」
モニターの奥に居る三人に向かって、そんな言葉を掛けるフレト。そんなフレトの言葉を聞いて、それぞれが返事を返す。
「分かったわ、任せなさい」
「は~い」
「御意、いつでも出れます」
三人の返事を聞いたフレトが再びストケシアシステムに手を置くと、言葉と思考を一気に流し込む。
「よしっ! なら、機を見ながら、その時が来たら半蔵と閃華は一旦後退。ラクトリーを先頭に地上戦力を一気に突撃させる。半蔵と閃華もラクトリー達の動きに合わせるようにしておいてくれ。それと同時にシエラとレットは空に舞い上がれ、あいつの上を確実に取って、機を見て攻撃を入れる。次が最後の総力戦であり、戦いに幕を引く戦いだと思えっ!」
フレトの指示と激を飛ばして、それぞれに思考の返事が返ってくると、さすがに琴未達もお喋りをやめて、今では、それぞれの武器を手にして閃華達の戦いを見ている。既に戦いが最終局面に来ている事は琴未達も肌で感じ取る事が出来た。
それだけ、アルビータも最後に備えて力を溜め込みながら閃華達との戦闘を続けている状態だからだ。だからこそ、次に戦局が動いた時、その時こそが、それぞれの総力を掛けた戦いになる事は必至である。だからこそ、それぞれに戦いの中に機をみる。ここで機を見逃してしまっては出遅れる事になってしまう。誰か一人でも出遅れれば、フレト達は連携攻撃が出来なくなる。だからこそ、フレトは余計に今の戦いに機を見つける事に専念していた。それは他のメンバーも同じだ。
決して見逃してはならない機に注意を払いながら前方で行われている戦いに注意を向ける。
その事は今も戦っている閃華と半蔵にも良く分かっていた。それはアルビータも同じだ。だからこそ、お互いに退く時機を見逃してはならないのだ。だから機に注意しながら戦い続ける閃華と半蔵。
相変わらず軽やかな動きでアルビータの攻撃をいなしては避ける閃華に、刹那の隙があれば容赦の無い攻撃を繰り出してくる半蔵。二人に攻められながらもアルビータは前方で突入体勢に入っている琴未達もしっかりと警戒していた。
そして閃華と半蔵が同時に攻撃に出ると、その機会を待っていたかのようにアルビータもツインクテラミノアを大きく振るう。そんなツインクテラミノアを防ぐように、自ら後方へと跳ぶ閃華と半蔵。そんな二人を見ながらアルビータは笑みを溢しながら思うのだった。
さあ、終幕への最終局面だ。少年、遠慮無く、掛かって来るが良いっ!
そんな事を思ったアルビータに突撃を開始した琴未達の姿を瞳に写す。それと同時に左右に分かれた閃華と半蔵も再び突撃に入ってきてる。五人の同時攻撃、だが、そんな攻撃をわざわざ受けるほどバカではないアルビータは琴未達と閃華を無視して半蔵に突撃する。そんな状態に半蔵は空間移動でアルビータから距離を取るしかなかった。だが、これで三方向からの攻撃は出来ない。それどころか、アルビータが半蔵が居た場所を占拠し、更に振り返ることで、全員がアルビータに対して正面から攻撃をしなくてはいけない。
そう、さすがに数の不利を少なくするためにアルビータが考えた策である。けれども、フレトも最初から、そんなに簡単にいかない事は分っている。最後は正面から一気に攻め立てる事を考えていた。事が最終局面に至ったからには小手先の策などは無用。正面からの連携攻撃が一番効率が良いのである。それが分っているからこそ、フレトはあえてアルビータと正面から対峙するように指示を出し、アルビータもそんなフレトの挑戦を受けて立つのだった。
こうして最終局面と化した戦場の幕が上がったのである。
「ん~、さすがだね……アルビータが、ここまで苦戦しているところなんて……見るのは初めてだよ」
昇の肩に頭を置き、腕に寄りかかっている春澄が、そんな言葉を口にした。なのだが、春澄の声は弱弱しく、今にも消え去りそうな声だった。昇はそんな春澄の言葉に返事をする事無く、春澄を腕から離すと、そのまま春澄の身体を引き寄せて、肩を出して自分の身体に春澄を寄り掛からせる昇。そんな昇が春澄の言葉に対して、やっと言葉を返す。
「まあ、フレト達も意地を見せたいんだろうし、琴未達も絶対に負けられない戦いだという事は充分に分っていると思うから。だから皆が全力で戦ってくれてる」
「うん、見てるだけで、良く分かるよ。良かったよ、これで、アルビータの望みは叶えられたんだね」
「そうだね、じゃあ次は春澄ちゃんの番だね。僕に出来ることなら、何でもするよ。だから、今は何も隠す事無く、全部話してみて」
「ちょっと……昔話から聞いてもらっても良い?」
「もちろん」
昇がそんな返事を返すと、春澄は弱弱しくも嬉しげな笑みを浮かべる。それから昇は更に春澄を引き寄せて、完全に春澄の寄り掛からせると、春澄の口から語られる話をしっかりと耳にするのだった。
はい、そんな訳でバトルも最終局面に突入したみたいですね~。それと同時に弱っている春澄。そんな春澄に対して昇はどうするのか? まあ、そんな感じ、という事で次回予告とさせてもらいますね~。
まあ、次回の展開は考えてるんだけど……ん~、というか、百年河清終末編も残り……三話か四話ぐらいになる予定です……まあ、予定ですからね~。私の場合は増える可能性が大きいです。
まあ……今年中に終わらない事が確定かもしれませんね(笑)
さてさて……十二月です……年末です。なのでっ!! 今年を振り返ってみようっ!! そんな訳で、今年ですが……なんか厄が払えた気がするっ!!!! というか、呪いが解けたと思える今年でしたっ!!!!
いやね、なんつ~か、十年ぐらい前から、やる事、成す事、何をやっても上手く行かない。それ以前に……周りに振り回されっぱなし、自分が本当にやりたい事が出来なかった。そんな事を思ったりもしたんですよ。
だがっ!!!! 今年に入って、かなり待たされたものの、やっと全ての荷物を捨てて、私の時代がキタ━━━━(°Д°)━━━━!!!! と思わせる一年でした。
そんな訳で、来年からは今まで堕ちていただけに、一気に繁栄の年にしたい気持ちで年末を迎えようかと思っておりますっ!!!! というか……呪われたと思われる時機から、なんか、ずっと正月気分が味わえないというか、年末という気分にもなれないんだよね~。
ん~、なんというか……年末の風情を感じる事が出来なかった。なのでっ!!!! 今年は年末だっ!! とか思える年末にしつつ、新年には正月気分を味わいたいですね~。……楽しみたいのよっ!! お正月をっ!!!!
悪いっ!! 悪いかっ!!!! 良いじゃないかっ!! 正月ぐらいはっ!!!! 年末だって、年の瀬と言う空気を感じたいんだよっ!!!! けど、今までいろいろとあったからさ……そう……いろいろとね~。……はぁ、もう叫ぶ気分でもなくなりましたね~。
まあ、要約すると……気付けば年の瀬だった……という事ですね。なんというか、もう、この年になると一年が早いね~。まあ、思い返せば、いろいろとあったな~。と思えるんだけどね。なんというか、想い出をあまり残せて無いというか、今年も前半は苦労が多かったんですよ。まあ、そんな気分を吹き飛ばすために、年末は風情がある時間にしたいですね~。
っと、ついつい、愚痴と年末について語ったところで、そろそろ締めますね~。
ではでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、けど、新年はネトゲで迎えるんだろうな~、とか思っている葵夢幻でした。