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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
百年河清終末編
143/166

第百四十三話 それぞれの心

「さて、それでは、始めましょうか」

 与凪がそう言うと、その場に揃った全員が頷いた。昇達は既に、いつもの生徒指導室から与凪が常に展開させている精界内へと入り、校庭に集っていたのだ。

 昇が春澄に宣戦布告をしてから三日後の今日にはフレト達も完全に回復しており、本格的な戦闘は出来なくても、軽い戦闘行為なら出来るようになっていた。そのために昇が言い出した、フレトにストケシアシステムを使えるようにする練習を兼ねて校庭に集っている訳である。

 ちなみに、ストケシアシステムの基本についてはフレトが学校を休んでいる間に、ラクトリーに渡してあった資料と放課後には与凪が毎日、フレトのところに行っていたから知識的には充分だろう。後は実戦でどれだけ使えるかである。それを確かめるためにも、練習と訓練を兼ねて全員が、ここに揃ったというわけだ。

 開始の合図を口にした与凪が空中に現れたキーボードを叩くと、昇達から離れた所に魔法陣が展開され、その魔法陣から一体の機動ガーディアンが現れた。その機動ガーディアンはアルビータと同じような武器を持っており、体格もアルビータに似ている。どうやら、与凪が練習のために作った機動ガーディアンらしい。そんな与凪が機動ガーディアンについて説明する。

「これはフレトさん達の戦闘データから作った機動ガーディアンです。試作型ですけど、かなりアルビータさんの動きを真似できます。なので、属性攻撃はしてきませんし、武器だけの戦い方となります。だから属性攻撃をしないでくださいね。ちなみに、試作型なので、これ一体しかないので壊さないでくださいね」

 与凪の説明を聞いて頷く一同だが、数名は厄介そうな顔をしている。それが琴未にミリアにレットだ。どうやら、壊さないように攻撃を加減しなければいけない事に対して、めんどくさいと思ったのだろう。だが与凪としても、この短期間でアルビータの動きと同じ動きをする機動ガーディアンを作っただけでも、かなりの重労働だったろう。閃華やラクトリーが、めんどくさそうな面子を見て、そんな事を説明してやるのだった。

 それから昇達は円陣に集まると昇が差し出した手に片手を重ねていった。それから与凪が口を開く。

「さて、機動ガーディアンの方は自動で防御と反撃を重視にしてますから、なるべく相手の防御を崩すように完全連携をとってくださいね。それじゃあ、滝下君、お願いね」

 与凪に言われて昇は目を瞑って、精神を集中させると、昇にしか感じられない足元の黒い歪に精神を落として行く。それから昇は目を開くと、そこは真っ暗な世界で、暗闇の向こうからは赤い紐と白い紐が伸びてきていた。昇はそれを全て掴むと精神を浮上させて、ゆっくりと瞳を開いてから言うのだった。

「起動、ストケシアシステム」

 昇がその言葉を口にした瞬間に手を置いた全員の頭に何かが走る感覚を感じていた。これが、ストケシアシステムを起動させた証拠なのだろう。それから昇達は重ねた手を離すと、昇は遠くに離れ、フレトは機動ガーディアンに対して後方に位置を取り、他の全員はそれぞれの精霊武具を手にするのだった。

 それからフレトの目の前にモニターとフレトの手の平が置ける玉が二つ、現れるとフレトはその玉に手を乗せるとモニターに集中する。その隣には咲耶が控えており、四つほどのモニターを見ながら、キーボードを操作している。そして与凪も反対側に立ち、六個のモニターを見ながらキーボードを操作しているのだった。それから与凪はフレトに話しかける。

「さて、もう説明する事は無いと思いますけど、行けそうですか?」

 与凪のそんな質問にフレトは真顔で答える。

「何とかしてみせてやる」

「分かりました、では、始めましょうか。それでは……スタートッ!」

 こうして、フレトが始めてストケシアシステムを使った訓練が開始された。



 それから一時間後、訓練が一時的に中断されるとフレトは地面へと座り込み、咲耶が用意していた水筒から水をもらうと一気に飲み干すのだった。昇も前線で戦っていたメンバーに飲み物を配って雑談をしているようだ。どうやら、疲れているのはフレトだけであり、前線で戦っていたメンバーには疲労がまったく出ていなかった。

 やはり、ストケシアシステムが特殊なシステムであるために、フレトも相当に苦労をしていたようだ。先程まで行われていた訓練も、まともな連携を取る事が出来ずに、味方同士がぶつかりそうになってしうほどだ。それでも、前線メンバーが何とかしてくれたから良かったものの、アルビータとの戦いだったから、とっくに壊滅していたところだろう。

 そんな状況は指示を出していたフレトが一番良く分かっている。けれども、フレトには未だにストケシアシステムを使いこなす事が出来ていないようだ。けど、それも仕方ない事だろう。なにしろストケシアシステムの基盤となっているのは、昇が持っているレア能力のエレメンタルアップなのだから。

 昇ならまだしも、レア能力にまったくなれていないフレトが、レア能力を使ったシステムを使うのである。だから誰しも、最初から上手く行かない事は分っていたが、フレトはここまで難しい物だとは思っていなかったようだ。だからこそ、ストケシアシステムを使いこなせなかった自分に腹が立ち、その原因となる要因を与凪に向かって尋ねるのだった。

「まったく、我ながらみっともない醜態だな。まさか、ここまで厄介なシステムだったとはな。滝下昇は何で、こんなシステムを自由自在に使いこなせるんだ?」

 そんなフレトの質問に与凪は少し考える仕草をすると、話す事を整理してから話し始めた。

「まずはシステム自体の問題ですかね。滝下君はエレメンタルアップの力で味方の動きを見なくても感じ取れます。だからこそ、視界が塞がれていても、全員が見ている光景から戦況を把握する事が出来るんですよね。このストケシアシステムは、そんな滝下君の能力を基盤にしたシステムですからね。フレトさんが使うには、ちょっと無理があってもしょうがないんですよ。なにしろ、エレメンタルアップの応用で味方の動きだけでなく、味方からの視野や思考を瞬時に伝達するシステムですからね。さすがに、そこまでの応用が効くようなシステムは作れませんよ」

「つまり、滝下昇は味方の動きだけでなく、味方から見た光景や思考までも瞬時に処理して指示を出しているというわけか?」

「そうですね。そもそも、ストケシアシステムとは瞬時に情報のやり取りを行い、滝下君が指示を出せるようにしたシステムですからね。味方の情報を完璧に処理できていないフレトさんには無理があっても仕方ないんですよ。それに情報も一度、滝下君を中継して送られてきますからね。相互の情報伝達にラグタイムが出ても仕方ないんですよね」

 そんな事を言って溜息を付く与凪。さすがに自分で開発したシステムだけに理解しているが、昇の力がレアなために応用の範囲が限りなく狭くなっているのも確かだ。

 つまり、昇ならエレメンタルアップの力で味方の状況だけでなく、味方からの情報。例えるなら、相手の隙とか、相手の姿とかが、見るだけでなく感じる事が出来るのだ。つまり、昇からは見えたり、気付いたり出来ない事を、前線メンバーからの情報で知る事が出来て、瞬時にそれに対応した指示を前線メンバーに送れるのだ。

 味方との情報伝達、昇の力なら、それを瞬時に出来るからこそ、完全連携が可能なのだ。だが、フレトのように第三者に使わせるには応用が効かない部分がある。それが味方からの情報伝達だ。

 第三者に使わせる場合は昇のように味方の思考や視界、それに感じた事までも伝達が出来ないのだ。だからこそ、フレトはモニターと咲耶との情報伝達で前線の情報を得ながら、敵味方の動きしか知る事が出来ない、だから一方通行で指示を出す事しか出来ないのだ。つまり、昇なら最大限の情報を瞬時に伝達できるが、フレトの場合だと、前線の戦況を見ながら情報を集め、それから指示を出す事になる。

 つまり、本来なら相互伝達が出来るストケシアシステムだが、フレトの場合だと味方からの情報伝達が無いに等しい。だからこそ、咲耶のサポートを得ながら前線の状況を全て処理しないといけないのだ。だが、前線での状況が理解が出来ているのなら、瞬時に指示を送れる事は確かな事だ。要は前線での敵味方の動きを全て把握すれば、フレトでも完全連携が出来るという訳だ。

 だが、フレトも普段は前線に立つ事が多い。氷のシューターだけに、前線に出て、相手の動きを見ながら戦う事に慣れてしまっている。一方の昇は後方から戦況を見る事が多い。それはレア能力であるエレメンタルアップを使っているために、実戦派では無い事もあり、だからこそ、後方から戦局全体を見る事が多かっただけに、後方から戦局を見ながら味方に指示を出す事に慣れているのだ。

 そんな昇に適応したシステムだからこそ、フレトにとっては使いこなせない部分も出てくるのだろう。だが、フレトが完全にストケシアシステムを使いこなせれば、この前のようにアルビータに膝を屈する事は無いだろう。そのためにも、今は後方から戦局全体を見ながら、敵味方の動きを把握し、的確な指示を出す事が最優先だ。

 与凪との会話で、その事を感じたフレトが次の質問を出してきた。

「レア能力だからこそ、使えるシステムか。それだけに使い方は難しいが、使えれば強力な武器になる事は確かだな。そうなると……戦局全体を見なくてはいけないのだな。敵味方の動きを完全に把握して、後ろから的確な指示を出さないといけないという事か?」

「その通りですね。でも、さっきのフレトさんは情報量に惑わされて、味方の動きまでも把握できていなかったですね。だから、さっきもシエラさんとレットさんが空中でぶつかりそうになったり、隙だらけのミリアさんをラクトリーさんが思いっきり叩いて、弾き飛ばす事で急場をしのいだ、という事がありましたね。だから、まったく味方の動きさえも把握できていない状態ですね」

「まったく、滝下昇め。ここまで厄介なシステムを押し付けてくるとはな、やってるこっちの身にもなって欲しいものだな」

 最後はそんな文句で再び水筒の水を口にするフレト。やはり、普段とは戦い方がまったく違ってくるために、相当な苦労をしているようだ。そんなフレトが、まずは一番最初に適応しなければいけない問題について考えるのだった。

 まずは味方の動きを、しかも全員分の動きを完璧に把握する事だな。こちらからでは、モニターと咲耶からの情報だけでしか戦況を把握が出来ない。それでも、モニターに映る味方の動きと咲耶からの情報から的確に必要な情報だけを抽出して、その情報を元に指示を出すしかないか。こちらの指示は前線の全てに伝わるからな。誰一人として遊兵を作る事無く、確実に全員が連携を取れるように指示を出さないとだな。それを的確にやるには……。

 そこまで整理できたものの、やっぱり対応策が思いつかないのだろう。だからこそ、フレトは与凪との会話を再開させる。

「まずは味方の動きを全員分だけ把握しないとか。もう少し、味方の動きが分かるように出来ないか?」

 そんなフレトの質問に与凪は考え込む。それで答えが見付かったのだろう、与凪はフレトの方へ顔を向けると、人差し指で天を指しながら答えてきた。

「なら、個人の精霊反応も見れるようにしときましょうか。モニターに映らない死角でも、別の窓で精霊反応が上空からの視点と横から見た視点を加えてみましょうか?」

 そんな与凪の提案に、今度はフレトが考え込む。

 なるほどな、それなら味方の位置は完全に把握できるな。二つの視点で三次元に情報が得られるからな。後は……味方についての情報か。位置を把握する事が出来ても、その味方が動けるかまでは判断できないからな。それをどうするかなだな……。

 そんな事を考えたフレトがひとまず与凪に対して考えた事を口にする。

「そうだな、それはやってもらおう。それから、咲耶の方で味方の状態を把握できないか? 咲耶の方で情報をまとめて、誰が攻撃が出来る状態か、それと反撃に出来るとか、それを簡単に表示が出来ないか?」

「そうですね、さっきのように咲耶さんからの情報量が多すぎると把握出来ないですからね。簡単に色分けにでもしときましょうか」

「あぁ、そうしてくれ」

「そうですよね、さっきは攻撃直後で動きが取れない半蔵さんに攻撃指示を出したり、連続攻撃が出来る状態なのに、琴未だけが先走りすぎて、連携が取れなかったですからね。あそこで琴未の動きを少し遅らせれば、確実に連携が取れて、連続攻撃が出来ましたからね。分かりました、それじゃあ、ちょっとシステムをそのように改良しますから、ちょっと待ってくださいね」

 それから与凪は空中に浮いているキーボードを素早い指捌きで一気にフレト用のストケシアシステムに改良を加える。与凪がそんな作業をしている間に、やっぱり心配になったのだろう。昇がフレトの元にやってきた。

「順調……とは言えない状況かな……」

 心配そうな顔と声でそんな事を言って来た昇に対して、フレトは瞳を閉じて、大きく息を吐くと昇に対して言ってやるのだった。

「まったくだ。こんな物を押し付けられるとは思っていなかったからな」

 そんなフレトの言葉に昇は苦笑いを浮かべるしかなかった。そんな昇が少し申し訳なさそうに、それからフレトを信じているという瞳でフレトに向かって言うのだった。

「いや、それは、ごめん。今回の戦いで僕が出ないって決めちゃったから、フレトに負担が掛かってると思うけど、それでもフレトなら出来ると信じてるから。だからフレトになら、ううん、フレトだから任せる事が出来たんだよ」

 そんな事を言って来た昇にフレトは瞳を開けて、鼻で笑ってやると、心配が無いとばかりに胸を張るのだった。そんなフレトを見て、やっと笑みを浮かべる昇。そんな昇の笑みを見て、今度はフレトに気掛かりが出来たのだろう。だからこそ、フレトは言ってやるのだった。

「まあ、戦闘の事は任せておけ。それよりも、お前が参戦しない事に異議を唱えるワケでは無いが、お前の方は大丈夫なのか? 状況は知らんが、お前の様子を見ていると、こっちまで気が暗くなりそうだからな」

 そんな事を口にするフレト。確かにフレトが言ったとおりだったのだ。フレトも久しぶりに学校に来てみれば、そこには表情に陰りがある昇の顔を見たのだ。だからこそ、そんな言葉を口にしたのだ。そんなフレトの言葉を受けて、昇は苦笑いを浮かべながら答えてきた。

「正直なところ、自分でもどうしたら良いのか、まだ迷ってる。自分に出来る事が、まだあるんじゃないかって、結末を変える事が出来るんじゃないかって、まだ迷ってる。それでも……来るべき結末に心が折れないように覚悟を決めておくよ」

「来るべき結末か……まるで、今回の戦いでの終わりを分っているような言い方だな」

「うん、まあ、そうかな」

「なら全部を話してしまえ。聞く事ぐらいなら俺にも出来るからな」

「ごめん、それは止めとくよ。これは僕と春澄ちゃんの戦いでもあり、問題でもあるから。だから……僕達で答えを出さないといけないと思うし、今は他の皆にあまり心配を掛けたく無いからね」

 そんな昇の言葉を聞いてフレトは思いっきり溜息を付くと、呆れたように昇に言うのだった。

「なら、今は皆の前で暗い顔をするな、人前に居る時ぐらいは、いつものマヌケ面をしておけ、その方がよっぽどマシだ」

 フレトの言葉に昇はやっぱり苦笑いしながら言葉を返す。

「なんか、酷い言われようだね。でも、そうするよ。皆の前では暗くならないように、いつもの自分でいる事にするよ。ありがとう、フレト」

 そんな昇の言葉を受けてフレトは慌てて昇に背を向けると、腕を組んで偉そうな態度を取る。それから昇に向けて言葉を放つのだった。

「別に礼を言われる筋合いは無い。それにお前を心配したワケでも無いからな。ただ、セリスが世話になっているから、俺はお前達に協力してやるだけだ。それに、あいつには屈辱を受けたからな。その仕返しをしたいから必死になってるだけだ」

「うんうん」

 フレトの言葉に簡単な返事をする昇。どうやら昇にも分っているようだ。昇の言葉にフレトが照れている事を。まあ、プライドが高いフレトなだけに、こうした対応しか出来ないのだろう。だからこそ、昇も笑みを浮かべる事が出来た。フレトは少しだけ顔を後ろに回し、昇の顔を見ると鼻で笑ってやるのだった。

 そんな時だった、システムの調整を終えた与凪が声を掛けてきたのは。

「フレトさん、システムの調整が終わりましたよ。どうします、すぐに再開しますか? それとも、まだ滝下君との話を続けます?」

 そんな事を尋ねてきた与凪。どうやら与凪なりに気を利かせたようだ。なにしろ、ストケシアシステムの核となっているのは昇の能力だ。だから昇からストケシアシステムについて聞くのも悪くは無い。むしろ、昇の言葉がシステムを扱うためのヒントになる可能性が大きい。フレトもその可能性に気付いたからこそ、与凪に向かって返答するのだった。

「いや、もう少しだけ休ませてもらおう。それに……この滝下昇からいろいろと聞きだした方が有効だからな」

「了解です、では、前線メンバーには、そのように伝えておきますね」

 少しだけ楽しそうに返答する与凪に対してフレトは昇の方へと真剣な眼差しを向けた。そして、その肝心な昇はというと……意味が分かっていなかったようだ。だからフレトが真剣な眼差しを送ってきても、何の事か分からずに苦笑いを浮かべるしかなかった。

 そんな昇を見てフレトは思った。やっぱり、特殊な人間は自分が特殊だと分かってないと有害だな。まったく、こいつは自分が出来る事だから俺にも出来ると思っているのだろう。まったくもって迷惑千万だな。そんな事を思ったフレトが溜息を付くと、話をストケシアシステムについて変更してきた。

「それで滝下昇、ストケシアシステムについて少し聞いておきたいんだがな。まあ、押し付けられたシステムだからこそ、しっかりと答えてもらおうか」

 フレトがそんな言葉を口にすると昇にもやっとフレトの心境が理解できたようだ。まあ、先程の光景を見ていればフレトがストケシアシステムを使いこなせていない事は昇にも分っていた。そんなフレトがストケシアシステムについて聞こうとしているのだ。だから重要な事だろうと思い、フレトが真剣な眼差しをしている意味をやっと理解したのだった。

 だからこそ、昇もフレトに向かって真剣な眼差しに変えると一度だけ頷くのだった。そんな昇を見たフレトが質問する。

「このストケシアシステムを使っている時に、最も重要視している事は何だ? お前が一番に重要に思っている事なら、俺にもそれが必要だからな」

 そんな質問に対して昇は考え込む仕草をして思考を巡らすのだった。

 最も重要な事か……なんだろう? フレトの言いたい事も充分に分っているつもりなんだけどな~。改めて、そう聞かれると……思い当たる節が無いんだよね。

 そんな事を思ってしまった昇。まあ、それも仕方ないだろう、ストケシアシステムは昇のレア能力であるエレメンタルアップを基盤に作り出したシステムだ。だから一番重要な事に昇が気付くには時間が掛かったようだ。なにしろ、それは……昇が普通にやっていると思っている事だったからだ。そんな重要な事に昇はやっと気付いたようで、再び思考を巡らす。

 ……あっ、そうか。この場合はストケシアシステムよりもエレメンタルアップに必要な事を答えれば良いのかな? このストケシアシステムはエレメンタルアップの基礎構造から作り出したシステムだからね。エレメンタルアップで一番必要な事を教えれば、フレトにもストケシアシステムを使う上で最も重要な事が理解出来るという事だね。でも、そうなると……エレメンタルアップで一番重要な事って何だろう……信頼、絆、あぁ、そうか、それは簡単に言葉にする事が出来るけど、最も難しい事だよね。

 そんな事を思った昇がフレトに向かって微笑みながら、フレトの問い掛けに答えてきた。

「全部任せちゃう事かな。皆の力を、皆との絆を信じて、全部任せる事かな。それが一番大事な事だと思う」

「随分とあっさりとした答えだな」

 昇の言葉にそんな言葉を返すフレト。まあ、フレトとしては、もっと具体的な答えが返ってくると思っていたのだが、まさか、全部任せるという他力本願な答えが返ってくるとは思っていなかったようだ。そんなフレトを見て、昇は軽く笑うと、それからフレトに尋ねる。

「なら、フレトは全部を皆に、仲間に任せられる。戦う事だけじゃない、自分の想いや望みを、全部を皆に任せる事が出来る?」

「……そういう事か。口にするのは簡単だが、それは最も難しい事だな」

「そうだね……」

 フレトの言葉に昇は微笑みながら答えを返す。どうやらフレトにも昇が言いたい事が充分に理解が出来たようだ。

 昇が言いたかった事、それは信頼とか絆とか、そんな言葉で言い表せる物だが、それをどの程度のレベルまで行えるのかが重要だという事だ。確かに人は誰かを信頼したり、絆を頼る事が出来るだろう。でも……そんな人との繋がりに、どれだけ自分の思いや望みを乗せる事が出来るかというと事を昇は言いたかったのだ。

 信頼とか絆とか、そうした人の繋がりを口に出すのは簡単だろう。けど、その繋がりにどれだけの量を乗せられるのかは別問題である。つまり、その繋がりに自分がどれだけの期待とか、信頼を乗せる事が重要だという事だ。

 一口に期待とか、絆とか、言っても、その言葉には別の項目で重量があるのだ。それは信頼度とか言われるものだろう。そんな繋がりの重量に全てを乗せるなんて事は普通は出来ないものだ。誰だって信頼しているからといって、全てを、自分の命すらも任せるような選択は出来ないからだ。

 どんな事であれ、相当の繋がりがあっても、自分の命すら任せるような信頼を置く事は無理だろう。なにしろ、自分の命を本当に人に委ねてしまうのである。それはよっぽどの事が無い限りは無理という事だ。まあ、崇拝とか、人徳とか、そうしたもので人の命を預けられる程の身分を持った人が居ないわけじゃない。けど、普通は、そう簡単に自分の命すらも任せる事なんて出来はしないのだ。

 けど、昇は皆を、仲間を信じて、自分自身の全てを任せる事が出来る。つまり、それだけ昇達の繋がりが強い事を示し。その強さこそがエレメンタルアップにおいては力の根源になっているわけである。だからこそ、昇は仲間を信じて、全てを任せる事が出来るのだ。

 今回の事だって、そうだろう。今回の戦いでは昇は戦闘の全てをフレトを始め、全員に任せた。つまり、昇はそれだけ皆を信じてるし、必ず皆が自分の信頼に応えてくれると信じているからだ。だからこそ、昇はあんな言葉を口にしたのだろう。全部を任す、言葉にすれば簡単だろうが、誰かに全てを任すなんて、そう簡単に出来る事ではない。

 特に次の戦いは一度は負けているフレト達をアルビータと戦わせようとしているのだ。そこにシエラ達も加えて、後は全て丸投げである。そんな大それたというか、肝が据わっているというか、何も考えていないというか、とにかく大胆な決断を昇が下した事には変わり無い。

 けど、その決断が出来たのも、シエラ達だけじゃなく、フレト達も心から信じたからこそ、アルビータとの戦いを任せる事が出来た。アルビータの望みを知っているのなら、普通は誰かに全てを任せる事なんて出来ないだろう。それでも昇は今回の戦いを全てフレトに任せた。皆なら、アルビータの望みを叶えてやる事が出来ると信じたからだ。だからこそ、全てをフレトに任せたし、その信頼こそが全ての根源であり、昇が無意識にやっていた事なのだ。

 そして、その信頼が生み出す力……それがストケシアシステムの真骨頂であり、完全連携を完成させる手段とも言えるのだ。

 やっと、ストケシアシステムの真骨頂を知ったフレトが考える。

 仲間を信じて全てを任せるか……言葉にすれば簡単だが、実際にやるとなると難しいな。俺だってみなを信じていないわけじゃない。けど、全てを任せさせるほど信頼しているかと聞かれると……即答は出来ないな。だが、滝下昇なら簡単に言ってのけるだろうな、信じてると。なら、やるべき事は一つだけだな。俺も信じるか、皆なら俺の指示通りに動いてくれると。後は俺が皆の信頼を受けて、的確な指示を出せば良いだけだ。

 そんな事を思ったフレトが昇に向かって言うのだった。

「答えは、すぐ傍にあったという事か。それにしても、こんな難題を基礎としているシステムを作り出すなんてな。お前が相当のバカなのか、凄いのか分からなくなってくるな。なにしろ、指示を出すだけとは言っても、それだけ戦っている者を信じて、全てを任せないといけないのだからな。相当の信頼関係があっても、まったく疑いを持ってはいけないという事は、かなり難しい事だぞ」

 そんなフレトの言葉を聞いて昇は微笑みながら会話を続ける。

「それでも……僕はフレトならやってくれると信じてるよ。このストケシアシステムの真髄が皆との繋がりだから、僕達が築いてきた繋がりは強いもので、絶対に壊れないって信じてるから。だから、僕はフレトも戦ってくれてる皆も、全部任せる事が出来るぐらい信じる事が出来る。それだけだよ」

「簡単に言ってくれるな。このストケシアシステムは戦況を全て理解した上で、皆を信じて、攻撃を全て任せる指示を出す。その信じるが、どれだけの量なのかが問題だというのに、お前は俺だけでなく、ラクトリー達も信じてるみたいだな」

「うん、もちろん、信じてるよ。戦ってくれる皆も、そしてフレトも。僕達が築いてきた繋がりは絶対に壊れないと信じてるから。だから全てを任せる事が出来る、皆を信じる事が出来る。それだけだよ」

「その、それだけが一番難しいというのにな。まったく、つくづくバカなのか、凄いのか、まったく分からないやつだな。どうやったら、そこまで人も精霊も信じる事が出来るのか、俺にはまったく分からんな」

 そんな言葉を吐いて、やれやれという感じで肩を上げるフレト。そんなフレトを見て、昇は苦笑いをする。やっぱり、フレトの言葉が少しだけ引っ掛かったようだ。それでも、フレトには伝えておいた方が良いと思った事を昇は口にする。

「僕だって、無条件で誰も彼も信じてるワケじゃないよ。今まで戦ってきた仲間だから、これからもずっと一緒に居たい皆だから、だから信じてるだけだよ。それで、もし、裏切られるような事があったら、自分が人や精霊を見る目が無かっただけだよ。信じられるから信じる、それは皆も同じだし、僕自身も僕を信じてるから信じられるんだよ」

 そんな昇の言葉を聞いてフレトは何かに気付いたような表情になると、すぐに呆れた表情になって、思いついた事を考える。

 俺とした事が、こんな基本的な事を忘れていたとはな。俺は自分の精霊達を信じてる、そして……滝下昇を信じる事を俺自身が決めた。自分で決めた事を信じられなくては、何を信じれば良いというだ。自分で決めた事だからこそ、信じなければいけないんだ。それが信じるという事であり、ストケシアシステムを使うにあたって一番大事な真髄じゃないか。ならば信じるか、皆を、そして……滝下昇を含めた皆を信じると決めた自分自身を信じてやろうじゃないか。

 そんな事を思ったフレトが昇に向かって言うのだった。

「まあ、いい、お前と話したおかげで話が整理できたし、ストケシアシステムの真髄にも気付く事が出来た。だから訓練を再開させるから、お前は遠くで見ていろ。今度こそは上手くやってやるさ」

「うん、分かったよ。じゃあ、頑張ってね、フレト」

 そう言って、その場から遠のく昇。どうやら昇もフレトが一番肝心な事に気付いた事を察したようだ。だからこそ、昇は安心した表情で再び戦闘場所から離れて行くのだった。その一方でフレトは与凪に向かって訓練を再開させる事を前線メンバーに伝えるように言うのだった。

 それを聞いた、前線メンバーが再び戦闘体勢に入る。そんな光景を見ながら、フレトは思うのだった。

 今までは俺が先頭に立って戦ってきたが……こうして後ろから見てると……さっきとは、まったく違う光景に見えるな。そうだ、俺は信じなければいけない、戦っている皆を、そして……自分自身を。だからこそ、後ろから見ているだけでも戦える。戦っている皆を信じる事が出来る。これが、そういう事なのか。

 そんな事を思ったフレトの瞳には、先程までとは違って、前線で戦ってくれているメンバーが頼もしく見えるようになっていた。それだけ、フレトは前線で戦っている者達を信じ、任せる事が出来るのだろう。

 そんなフレトが与凪に向かって頷くと、与凪はキーボードを叩き、機動ガーディアンにも戦闘体勢に入らせる。それから与凪は再び訓練再開の合図を口にするのだった。

「それじゃあ、行きますよ。訓練……スタートッ!」

 そんな与凪の合図と共にフレトは一瞬で全員に指示を出すのと同時に、機動ガーディアンも動き出し、訓練が続くのだった。



 その日の同刻、某ホテルの一室。

 春澄は窓ガラスに手を置きながら、まるで外の光景でも見ているかのように、閉じた瞳で外を感じていた。そんな春澄がアルビータに向かって言うのだった。

「今日は良い天気みたいだね~。出来れば、どっかにお出かけしたいけど、もう無理だよね」

 そんな言葉を口にしてきた春澄に対して、アルビータは少しだけ悲しげな瞳をしながら答えるのだった。

「そうだな、春澄の命も残り少ない。下手に活動して減らすよりは、今は少しでも消費を抑えておいた方が良い。お互いに終焉を迎えるためにな」

「そうだねよね。自分でも分かるよ、少しずつ……自分が終わって行く事を……」

 そんな言葉を聞いたアルビータが思わず聞いてしまった。

「後悔しているのか、私と契約をした事を、自分の……命を削った事を?」

 本当なら、そんな事を聞いてはいけなかったのだろう。もし、春澄の中に少しでも生きたいという気持ちがあれば、それを増幅させて春澄に後悔させる事になる。だが、春澄はアルビータの方へ振り向くと、満面の笑みを浮かべながら答えるのだった。

「後悔なんてしてないよ。あの日……アルビータと契約を交わした時から、この結末は決まってたからね。今になって後悔はしないよ。私は、アルビータと契約を交わした時に生まれ変わって、それからずっと戦いながらも楽しい日々を過ごしてきた。それはもう、人の一生分ね。だから後悔なんてしない、辛い戦いもあったけど、楽しい事の方が多かったから。だから後悔なんてしない。でも、ちょっとだけ楽しみかな」

「楽しみ?」

「うん、昇さんは私の想いに気付いてた。そんな昇さんが私に、どんな終焉をくれるのかが楽しみだよ」

 そんな言葉を聞いたアルビータが大きく息を吐きながらも、軽く笑う。どうやらアルビータも自分が春澄と同じ気持ちを抱いている事に気付いたようだ。だから軽く笑ったのだ。そう、アルビータも楽しみにしているのだ。昇達が、アルビータにって最後となる戦いに、どんな華を添えてくれるのかという事を。

 本当なら、いや、本来なら、誰しもが、そんな事は思わないだろう。誰も自分が死んで行く時の事なんて考えもしないのだから。けど、春澄とアルビータは契約を交わした時から死ぬ事が決まっていた。だからこそ、二人ともお互いに望む死を選んだのだ。それは二人が特別な環境に居た事も関係してくるのだろう。だからこそ、誰も二人の死について口を出す権利なんて無い。

 二人とも死ぬ事を前提に契約を交わし、死ぬ事を前提に生きてきたのだから。そんな人の人生に第三者が口を挟む権利なんて持ってない。だから、誰も二人の死についても何も言えないし、言う権利も無い。だから昇もその事に関しては何も言わなかったのだ。ただ、最後に春澄達に華を添えるために戦う事を選んだにすぎない。

 その戦いの中で、昇ははっきりと最後まで春澄の生き様を見守ると言ったのだ。春澄にしてみれば、そこまでしてくれた人、そこまで理解してくれた人は昇だけだったのだろう。だからこそ、春澄は楽しみと言ったのだ。昇がくれる終焉を彩る華が何なのかが楽しみなのだ。

 それはアルビータも同じだった。アルビータも最後の最後に満足の行く戦いが出来る。そう確信していた。正確には昇が宣戦布告をして来た時、その時に確信に近いものを感じていたようだ。昇なら最高の戦いで終焉を彩ってくれる事を。だからアルビータも春澄が楽しみといった気持ちも分からなくはなかった。

 何にしても、後数日で二人は終焉を迎える。それを彩るのが昇である、その昇がどんな事をしてくるのかが二人には楽しみだったのだ。

 だが、春澄が言ったように春澄の命は残り少ない。だからこそ、春澄は出かけたくても出かけられなかったし、下手に出かけて昇達と出会ってしまったら取り返しが付かない事になりかねない。それに……既に春澄には、それほどの体力は残されていなかった。

 だから春澄は大きなあくびをすると、窓から離れて、杖で周囲を確認しながら自分が使っているベットへと倒れ込み、杖もすぐ分かる場所に戻すと、手探りでお気に入りのぬいぐるみを見つけ出すと抱きしめて、横になるのだった。

 そんな春澄に布団をかけてあげるアルビータ。そんなアルビータに春澄は笑みを向けて頷くと、そのまま、ゆっくりと眠りに落ちていった。そう、既に春澄の命はかなり削られ、春澄自身が衰弱するほどまで春澄の命は残り少なくなっていたのだ。

 そんな春澄の面倒を見ながらアルビータは終焉までの時間を静かな心地でのんびりと待ち続けたのだった。



 そして……ついに、決戦の日、決戦の時間を迎えるのだった。






 はい、そんな訳で、次回からいよいよラストバトルに入りますっ!! ……まあ、バトル以外にも、昇達の話を入れて行くつもりですけどね。そんな訳で、百年河清終末編も終わりが近づいてきましたっ!!

 そんな中で……次の設定資料が未だに出来上がっていないんだよね~。まあ、次編はかなり長くするつもりだから、設定資料もかなりの量になるし、プロットも書かないといけないんだよね~。……あ~、なんか、だるいわ~。誰か~、私の代わりに設定資料を作っておいて、そこの妖精さんお願い。……えっと、この紙はなに……えっ、見れば分かるって。それじゃあ拝見。


 ―請求書 作者代行料 一千万円―


 ……払えるか、こんな金額。つーか、金額が微妙にリアルだぞっ!! ネタならもっと金額を上げとけよっ!!!! ……えっ、お前が頼んできたから当然だろ……そうですよね~(さわやかな笑顔)

 うぅ、これで妖精には頼めなくなった。残された手段は何だっ!! 一体何が出来るというんだっ!!!! ……あっ、さっきの妖精さん……えっ、とりあえず、これを読めって。うん、じゃあ読んでみる。

 愚痴ってないでさっさと作らんかいっ!!!!

 ……そうですよね~(風に吹かれて、さわやかな笑顔)

 まあ、そんな訳で、なんとか百年河清終末編が終わるまでには、設定資料とプロットを上げたいと思っております。……まあ、その前にちょっとした事をやるけどね~。そんな訳で、いよいよ終わりが見えてきた百年河清終末編ですが、どうか終わりまで見捨てないでください。

 ……見捨てられたら、雨の中でダンボールに入り、拾ってくださいという札を下げないとならなくなりますからっ!! ……えっ、誰も拾わないだろうって……。

 そうですよね~(さ(略))

 そんな訳で、そろそろ書く事が無くなったので締めますね。

 ではでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。更に、評価感想もお待ちしております。

 以上、すっかり睡眠時間が狂っている葵夢幻でした~。

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