第百四十一話 悲しみを秘めた宣戦布告
静かな公園。休日の夜なら、そこには沢山の人が集っていても不思議ではなかっただろう。だが、まるで誰も入れないよう、人々の足が公園に踏み入れる事は無かった。何かの力が人の侵入をさせないかのようになっている公園に、昇は何かを気にする事無く、公園に足を踏み入れるのだった。
公園の中央にある噴水は綺麗にライトアップされ、公園各地に設置してある照明が、木々を明るく照らして、夜の公園に光という華を咲かせている。そんな公園の中を昇は迷う事無く、歩き続け、そして止まるのだった。ベンチに座る春澄、そして隣に立っているアルビータを前にしながら。
春澄は既に昇の存在は感知してたはずだ。なにしろ、春澄は精霊感知能力者なのだから。だから昇に染み付いている精霊の力をしっかりと感じ取っていたはずだ。それなのに、春澄は昇が目の前に来るで声を出さなかった。けど、こうして昇が目の前に来たのなら、今更になって黙っている意味は無い。だから春澄は昇に微笑を向けながら会話を始めてきた。
「約束……覚えていてくれたんですか? それとも、私が託した伝言を聞いて思い出してくれたんですか?」
そんな春澄の質問に昇は思いっきり溜息を付いてから話し始める。まあ、それも仕方ないだろう。なにしろフレトの事があったからこそ、昇は春澄との約束を忘れていたのだ。だから、春澄が言った後者が正しく、すっかり忘れていた自分を情けないと思ったのだろう。だからこそ、溜息を付くと、すぐに会話を続ける。
「まさか、こんな事になるとは思ってなかったからね。正解は後者だよ。春澄ちゃんが伝言を託してくれなかったら、すっかり忘れていたところだよ」
そんな昇の言葉を聞いて、良かったと言わんばかりに無邪気な笑みを浮かべた春澄は楽しそうに昇との会話を続ける。
「やっぱり、そうなると思ってましたから、伝言を残してきて正解でしたね。それで、昇さん」
春澄の顔は先程の無邪気な笑みから真剣な顔付きに変わる。そして春澄は言葉を続けるのだった。
「私達の事を怒ってます? 昇さんの友達に襲撃を掛けた事を怒ってます? それとも……別な事を考えてます?」
そんな質問をする春澄に昇は即答で答えてきた。
「怒ってはないよ。契約者なら、それに争奪戦に参加しているのなら、契約者同士の戦いは当然の事だから、だから僕に春澄ちゃんに対して怒る理由は無い。むしろ、春澄ちゃんに何かしらの思惑があるのなら、戦いが起こるのは当然というべきだろうね」
そんな昇の言葉を聞いて、再び春澄の顔に無邪気な笑みが戻ると、今度は春澄から口を開いて会話は続く。
「やっぱり怒ってないんですね。まあ、昇さんなら、これぐらいの事で怒るとは思いませんでしたけどね。むしろ、怒っていた方が驚きです。それで昇さん、私が契約者と知り、アルビータの力も見たと思います。それなのに、ここに一人で来た理由は何故ですか? 私達が契約者であるのなら、私と昇さんとの間に戦いが起こっても、それは必然だと思いますけど」
「それは、今日、この場所で、春澄ちゃんが僕達と戦うつもりなら、僕も皆と一緒に来たよ。でも、あの時の約束に僕一人とも、皆でとも、人数の約束をした覚えは無い。それに……春澄ちゃんはしっかりと言ったから。その時になれば分かると、だからこそ、僕は一人でここに来た。知らなきゃいけない事を知るために」
「やっぱり……昇さんは、そういう人なんですね。良いですよ、どんな質問をしてきても、出来る限りは答えますから」
「なら、一番最初に知っておかなきゃいけない事は一つだけ。春澄ちゃん、君の命は後どれぐらいで無くなるの? 後……どれぐらい生きていられるの?」
そんな質問をする昇。その質問は決して軽くない、重要な質問だ。だからこそ、昇は知っておきたいと思ったのだ。春澄の命が、どこまで消耗している事を。後、どれだけ戦えるかを。それを知っておかないと……後悔しそうだと昇は直感で悟っていた。だからこそ、一番最初に、この質問を口にしたのだ。
そんな昇に対しても春澄は笑みを消す事無く、まるで、それが当然かのように答えてきた。
「戦えて、後一回でしょうね。まあ、このまま戦わなくても一ヶ月以内に死ぬでしょうね。フレトさんは強かったですからね、私もかなり命を削ってアルビータに注がないといけなかったんです。だから、思っていた以上に、私の消耗は激しかったですね。まさか、ここまで削らないと勝てない相手だとは思ってませんでしたよ」
そんな春澄の答えにアルビータは昇が驚くと思ったのだが、昇は驚きを示す事はなかった。そんな昇を見て、アルビータは少し嬉しそうに瞳を閉じて微笑むのだった。それこそが、アルビータの願いだったからだ。
そして、その昇はというと内心ではやっぱりと感じながらも、態度を変える事無く、春澄との会話を進める。
「そして……最後の相手が僕達……という事で良いのかな?」
「ええ、その通りです。私達は最後の相手として昇さん達を選びました。まあ、フレトさん達の襲撃は昇さんと出会う前から決まってましたけど。そこに偶然か、それとも必然なのか、それは分かりませんが、昇さんと出会いました。そして昇さんと時間を共有して行くと分かったんです。昇さんこそ、私達が最後に戦う相手に相応しいって。だから、フレトさん達への襲撃も、本来の目的に付け加えて、昇さん達を挑発を込める事になったんですけど……あまり、意味はなかったみたいですね」
「そうでも……ないよ」
春澄の言葉を聞いて、昇は拳を強く握り締め、少し悔しげな声で言葉を返してきた。それは春澄にとっては予想外な声だった。確かに昇の声だけで、春澄は昇が悔しいという気持ちを抱いていると感じ取れたのは確かだ。けど、その理由としては春澄達がフレトに襲撃を掛けたからではない。何が別な理由で昇は悔しいという気持ちを出だしている事に春澄は気付いていた。
そんな昇が一度、自分の心境を落ち着かせるために、一度だけ、大きく深呼吸をすると、それからしっかりと春澄の顔を見ながら会話を続けてきた。
「僕は春澄ちゃんが契約者だと知った事で、それにフレト達に戦いを挑み、勝利した事で理由が出来た。だからこそ、僕は春澄ちゃんと戦わないといけない。春澄ちゃん達が戦う理由を僕は僕なりに理解しているつもりだよ。だからこそ、戦わないといけない。それは春澄ちゃん達の願いを叶えるために、僕が……春澄ちゃんを見送るために……僕達は戦わないといけないんだって」
「…………」
そんな昇の言葉を聞いて顔を伏せる春澄。そんな春澄は何かを耐えるように、短いスカートの裾を強く握り締める。それでも、このまま黙っているワケにはいかないと思ったのだろう。春澄は顔を伏せながらも、深い呼吸を何度かすると顔を上げてきた。今度は瞳を閉じながらも、しっかと真剣な顔付きだと分かるほど、真っ直ぐな顔を。そんな春澄が昇に向かって宣言するかのように話す。
「なら……私達の挑戦状を受けてくれると思って良いんですね」
「その通りだよ、僕達は春澄ちゃんと戦う。でも……僕は春澄ちゃんとは戦わない」
「……えっ?」
予想も出来なかった昇の言葉に春澄は驚きの表情を見せる。まあ、それはそうだろう。戦うと言った後に、すぐに戦わないと言ったのだから。結局は、どちらかなのか、誰しもが分からずに迷うだろう。それでも、昇はしっかりと春澄の顔を見詰めると話を続けてくる。
「戦うのはアルビータさんと僕達が揃えた戦力だけ、僕と春澄ちゃんは直接的には戦わない。それが、ここに来るまでに出した僕の答えだよ」
「どういう……意味ですか?」
春澄の表情が真剣ながらも鋭いものに変わるのを昇はしっかりと目にした。たぶん、春澄が真剣に戦う時に見せる表情なのだろうと、昇は勝手に想像し、そんな春澄を見ながらも会話を続ける。
「フレト達の戦いは見せたもらったよ。その戦いでは、春澄ちゃんは戦うための力は持っていない。それに精霊感知能力者なら、僕でも近づけば分かると思う。そんな春澄ちゃんと鬼ごっこをするつもりは無いという事」
「なら……私達はどうすれば良いんですか?」
そんな春澄の質問に昇が微笑みを浮かべるのをアルビータはしっかりと目にした。それだけでアルビータには昇が次に出す、言葉が分かったのだろう。だからこそ、アルビータも微笑むかのように瞳を閉じて、まるで安心したかのような態度を示した。
そんなアルビータに気付かずに昇は話を続ける。
「さっきも言ったように、僕は春澄ちゃんを見送るために戦いを引き起こす。だから……僕だけは見送るよ。春澄ちゃんの命が尽きるまで、その傍らでずっと春澄ちゃんを見守ってるよ。春澄ちゃんの隣で……ずっと、見てるよ……春澄ちゃんを……春澄ちゃんの命が尽きる……最後のその時まで」
「ッ!」
昇の言葉に声にも出せない驚きを示す春澄。まさか昇から、そんな事を言われるとは、春澄にとっても、想像が出来なかった事だ。だから、そんな春澄が一筋の涙を流しながらも、昇に向かって、いつもの笑みを浮かべながら、はっきりと言葉にする。
「やっぱり……昇さんはずるいです。そんな風に言われたら……断れないじゃないですか」
そんな春澄の言葉を聞いて、昇も微笑むと春澄の答えを聞く。
「なら、それで良いかな? 次の戦いでは、僕はずっと春澄ちゃんの隣に居るって事で?」
昇の質問に春澄はこれ以上無い笑顔を浮かべながらも、真剣な声ではっきりと昇に告げえるのだった。
「はい、それで良いです。だから昇さん……ずっと……見ててくださいね。私の最後を、私が最後に成す事を……しっかりと見ててくださいね。終焉を迎える……その時まで……」
「うん、約束するよ。次の戦いでは絶対に春澄ちゃんの傍で、ずっと見てるから、春澄ちゃんの事を、春澄ちゃんがやるべき事を……ずっと。本当に……最後の……最後まで」
「なら見ててください。私の終焉を……最後に残せる……私の死に様を……」
春澄はそこまで言葉にすると一旦黙り込むと、急に笑い出した。そんな春澄に昇もアルビータも春澄に優しい視線を送る。そんな春澄の笑いが収まると、春澄は既に止まって、瞳に留まっている涙を拭い去って、無邪気な笑みを浮かべながら言葉を続けてきた。
「なんか、私らしくない事を口にしちゃったね。でも、少しだけ安心したかな。正直な気持ちを口にすると、私は終焉を迎える時には昇さんに居てもらいたかった。すぐ横で、ここで過ごした時間のように。昇さんの温もりを感じながら……私は終わりたかった。それが……私が最後に望む事だし、私には、この方法でしか、あの人達には敵わないから。だから……こんな終焉を望んだのかもしれないね」
そんな事を言って来た春澄にアルビータは相変わらず優しげな瞳で春澄を見守るが、昇は首を傾げるのだった。どうやら春澄が本当に望んでいる事を理解できていないらしい。まあ、それは昇らしいといえば昇らしいのだろう。
けど、そんな昇だからこそ、春澄は正直な気持ちを打ち明けたのだ。昇なら……春澄が抱いていた本当の終焉に気付いてくれるだろうと信じながら。
そして……全ての物事は春澄が望んだとおりに進んで行った。だからこそ、春澄には、もう心残りはなかった。だからこそ、春澄は昇に告げる。
「そこまで言われたら、私から戦いを断る理由は無いです。後は……アルビータは、どう思う。最後に……終焉に向かって、アルビータは何を望むのかな」
話を自分からアルビータの事に切り替えてきた春澄。どうやら春澄と話す事は、これ以上無いのだと、昇とアルビータは思った。だからこそ、アルビータは眼差しを真剣なものに変えると昇に向かって鋭い瞳で告げる。
「私が最後に望むのは強者との戦いだ。私と契約した春澄の能力は既に知っているだろう。そんな私を倒せる者が居るかは私には分からない。だが……貴殿達なら私を倒してくれると、私は感じている。そんな強者との戦いを、私には拒む理由が無い」
そんな言葉を口にするアルビータ。その言葉にも昇は平常心でいた。アルビータが強者との戦いを望んでいる事はフレト達からの話しで知っている。けれども、昇としてはアルビータの言葉に引っ掛かるものを感じたのだろう。だからこそ、その事をアルビータに尋ねてみる。
「命の精霊は伝説の精霊と言われているようですね。それはアルビータさんの事ですよね?」
「あぁ」
「なら、何で戦いを望むんですか、まるで……自分を倒してくれる者を待っているかのように聞こえます。先程の言葉を聞いても、アルビータさんは僕達に倒される事を前提としてる。アルビータさんは、あれだけの力があるのに、僕達に倒されると確信しているように聞こえますけど。そんなに……自分が倒される事を願ってるんですか?」
そんな昇の言葉に応えるかのように、アルビータは視線を昇に向けると、その眼差しは真剣であり、少し悲しいと昇には思えた。そんなアルビータがゆっくりと口を開く。
「少し……昔語りをする事になるが……良いか?」
「はい、そこにアルビータさんの真意がそこにあるのなら、しっかりと聞かせてもらいます」
アルビータの言葉に即答する昇。まあ、昇としてはアルビータが終焉に何を望んでいるのかを知る必要があるとも感じていたからだろう。何も終焉を迎える事を望んだのは春澄だけではないのだ、アルビータも春澄と同じように、最後に何かを成して終焉を迎える事で、今まで生きてきた時間に意義を与えたいのだろう。それが分っている昇だからこそ、即答したのだ。
そんな昇の言葉を聞いて、アルビータは昔を思い出すかのように瞳を閉じると、昔に起こった事を、そして感じた事をゆっくりと昇に向かって語り始めるのだった。
私は命の精霊として、他の精霊とは違う存在となっていた。それが精霊にも命が宿っているからこそ、精霊にも命が見えないものであり、象徴でもある事は、すぐに理解できた。そして……最初はそんな特別な精霊に生まれた事を誇りに思っていた。
だからこそ、争奪戦が始まると、私も主を決めて、主のために戦い続けた。だが、その途中で思ったのだ。本来なら死者を出さずに、次のエレメンタルロードテナーを決める戦いのはずなのに、私が仕えた主は相手を殺すまで命を奪った。今になって考えれば当然の事だと理解できる。人は死を恐れてる、それは太古の昔から変わらない。だからこそ、人は求めるのだろう……不死という理想を。
二回程、争奪戦に参加したが、二人の主は同じだった。二人とも相手が死ぬまで命を奪い、自分の寿命を延ばしていたのだ。その頃からだろうか、私には段々と分からなくなってきた。争奪戦なのだから、主の為に武器を振るって戦う事には異議は無い。だが、主達は相手が死ぬまで命を強奪した。そこまで命に執着する主達を見て、思ったのだ。もしかしたら……私という存在が他者の命を奪っている原因かもしれないと。
人間は、それほどまでに命というものに執着した。それは当然だ、誰だって死にたくはないと思うのは当然の事だ。だからこそ、過去に仕えた主達は命の強奪で自分の命を延ばして、不死に近づこうと思うのは当然の事だろう。だが、そんな主達も不死ではいられない。
争奪戦が終われば、精霊と契約者達の戦いは終わる。つまり戦う理由が無いのだ。けれども、私が仕えた主は戦いを終えようとはしなかった。エレメンタルロードテナーの目を盗んで契約者達との戦いを続けていたのだ。全ては……他者の命を強奪して、自分の命に代えて不死を得るために。
だが、いつまでも、そんな事は続きはしない。争奪戦が終わっても、戦いを止めずに、他者の命を奪い続けている者を、エレメンタルロードテナーは放っておきはしなかった。だからこそ、過去に仕えた主、その二人はエレメンタルロードテナーの手によって殺される事になった。確かに他者の命を奪い続ける命の強奪。それでも、命の総量よりも致命傷が上回れば命の精霊である主でも死ぬのだ。つまり、命が無くなるまで殺し続けた。私は、そんな光景を二度も見てきた。いや、二度も見れば充分だった。
それからは自分の存在が何なのかが分からなくなってしまった。精霊世界にも人間世界に関与出来ないという自分の立場。それは自分が選ばれた特別な存在という考えを一変させ、自分は二つの世界から切り離された、世界に関与してはいけない存在だと思うようになっていた。だからこそ、私は、それ以来、争奪戦には参加しない事にした。参加すれば、以前の主達みたいに他人の命を奪い続けるという愚行を行うのは目に見えていたからだ。
ならば、何故? 私という存在が成り立っているのか? 私が存在する意義はどこにあるのだろうか? そんな自問自答を繰り返しながら、私は悠久の時間を過ごしてきた。
けど、その悠久の時間を終えるかのように、私は春澄と出合った。そして、春澄は言ってくれた。「私は他人の命を奪ってまでも生きたいとは思わないよ。それよりも、自分の人生を価値ある物したいと思う。そのために……自分の命を差し出せというのなら、私はちゅうちょなく、差し出せるよ。自分の……命を」そんな春澄の言葉は私の価値観だけでは無い、私のためらいまで消し去って、私という存在に意義を与えてくれた。
だからこそ、私は決めたのだ。春澄と契約して主とし、お互いの望む終焉を迎えるのだと。だからこそ、私達は完全契約を交わした。それは春澄の命が尽きた時に、私の命も尽きるようにするためだ。
だが、私は過去の争奪戦でも、悠久な時間でも、何一つとして、何かを成した事は無い。だからこそ、私の意義として、私は戦いの中に、それを見出したのだ。強者と戦う事、そんな相手に打ち勝つ事。そして最後には……お互いの知勇、力量を全て出しつくせる強者と戦える事を……私は望んだ。
そこで、私も春澄と同じく少年を選んだ。少年の瞳は純粋だが、決して弱くは無い。むしろ逆に、幾つもの修羅場を潜り抜けてきたかのように、強い意志を宿している。だからこそ、私は春澄の意見に同意したのだ。少年、貴殿なら私という存在に充分な意義を与えてくれる戦いをしてくれると思ったからだ。
だからこそ、私は強者との戦いを望むのだ。だからこそ、その強者に倒される事も私は望んでいる。知勇の全てを賭けた戦いだからこそ、私は戦いの中に自分という存在の意義を見出す事が出来るのだ。それは中途半端な相手では勤まらない。昨日、戦った少年のように強き者との戦いの中で私は私だと認識できる。
ふふっ、随分と厄介な気性を持っている事は自覚している。だが少年よ、その気性こそが私の存在、そのものなのだ。そこには相手の命を奪うという、下賎な考えは無い。ただ、お互いの知勇の全てを出して戦う事に意味があるのだ。
だから少年よ、貴殿と直接戦えない事は残念だが、貴殿なら私を倒してくれるような戦いをしてくれると信じている。だからこそ、私は戦うのだ。春澄の為、そして、自分自身の意義を存在させるために。
語り終えたアルビータはゆっくりと瞳を開けると、昇をまっすぐに見据えてくる。そんなアルビータの瞳に純粋な闘志と淀みが無い、戦いたいという意思が現れているのを昇ははっきりと確認した。その上で、昇はアルビータの話しに思いを巡らすのだった。
そっか、だからアルビータさんは春澄ちゃんを契約者に選んだんだ。確かに春澄ちゃんの精霊感知能力を使えば、アルビータさんの存在も感知できるし、春澄の心を知った事で、アルビータさんも自分と春澄が同じだと感じたのかもしれない。だからこそ、二人は契約を交わして、ずっと探してたんだと思う。自分達が……終焉を迎えるべき場所を。そして……その場所と相応しい相手として、春澄ちゃん達は僕達を選んだ。思っていたよりも、僕達を選んだとなると、僕の責任は大きいな~。でもっ! ここで弱音を吐くわけにはいかないし。僕には春澄ちゃんが最後の相手として選んでくれた期待に応えないといけない義務があるっ! なにしろ、ここまでの事をしっちゃったからね。今更になって春澄ちゃん達を無視する事は出来ない。僕に出来る事は……ただ一つだけ。
改めて決意を固めると昇はしっかりと春澄達を見詰めて、言葉を口にする。
「二人の考えは良く分かりました。なら、僕がしっかりと二人に終焉の幕を引く、その役目を背負うかと思います。ここまで知ったからには……僕としても引き返す事は出来ない。ここまで知ったからこそ……僕はその役目をまっとうしようと思います。お二人とも、それで良いですか?」
改めて確認するかのように言葉を発する昇。そんな昇の言葉に春澄達はしっかりと答えを返してくる。
「やっぱり、昇さんを最後に選んでよかったです。嫌な役目だと思いますけど……昇さんならしっかりと受け止めてくれると思ってます。だから……最後の役目は昇さんに任せます」
「私も春澄と同様に異議は無い。少年、貴殿がここまで我らの目的を知ったからには、貴殿は必ず、その役目をすると思っていた。だから……こんな事を言えた義理ではないが……頼む、我らに……望んだ最後を迎えさせてくれ」
そんな二人の言葉を受けて昇はしっかりと一度だけ頷くと、強く拳を握り締めながら、二人に向かって告げる。
「なら、一週間後、この場所で、この時間に。そこで終焉の幕を引きましょう。お二人とも異議はありますか?」
「うぅん」
「無い」
はっきりと昇の提案を受け入れる春澄達。それだけ、春澄達も全てを話し、昇に理解してくれたからこそ、昇に全てを任せるような決断が出来たのだろう。だからこそ、昇の意見に異議は出さずに、そのまま受け入れたのだろう。
そんな春澄達の言葉を聞いて昇はもう一度だけ、しっかりと頷くと、次の事をはっきりと春澄に告げた。
「なら、その時まで、僕達と春澄ちゃん達は会わないほうが良いでしょう。下手な同情を招く事になりますから。お互いに行動を慎むという事でお願いします。他に僕達に対して言っておく事はありますか?」
そんな昇の質問に春澄達は首を横に振るのだった。どうやら、春澄達にも、これ以上の言葉は要らないようだ。そう感じた昇は春澄達に背を向ける。それから昇は歩き出そうとするが、春澄が声を掛けたので、昇の足は自然と止まってしまった。そして春澄はというと清々しいほどの笑顔を浮かべて昇に一言だけ言うのだった。
「ありがとう、昇さん」
そんな言葉を聞いて、昇はすぐに歩き始めた。ここに、これ以上も居たら、自分がどうなるか分からないと昇は分っているからだ。だからこそ、昇は早足で春澄達の前から消えると、公園を後にして、皆が待っているフレト邸に向かうのだが。公園を出た直後に、昇は近くにあった電柱を思いっきり殴り付けた。そうでもしなければやりきれないのだろう。そんな昇が心に強く思う。
……僕は……なんて無力なんだろう……。
フレト邸に戻った昇は、まるで何かを隠すかのように、しっかりと、そして、少しだけ悲しさを背中にしながら歩いて行くのだった。そして、昇が先程までフレト達と話していた部屋に戻ると……中はすっかりと宴会騒ぎのように賑わっていた。
そんな賑やかさを目にして、昇の肩から余計な力が抜けると心に思う。
少し……気負ってたかな。でも、それを皆に悟られるわけにはいかない。だから……いつも通りに、そして、はっきりと皆に告げよう。そう決めた昇が部屋に足を踏み入れると、すぐに気付いたミリアの声で、昇はすぐに騒ぎに巻き込もうと周りが騒ぎ立てるが、昇はそんな騒ぎを制するかのように、テーブルに両手を置くと、そのまま全員に向かって話し掛けた。
「皆、ひとまずは僕の話を聞いて欲しい」
真剣な眼差しと声で、そのような言葉を発する昇。そんな昇の雰囲気に、大事な話なのは確かであると、先程までの騒ぎが、すぐに収まると昇は先程の事を言ってきた。
「さっき……春澄ちゃん達に宣戦布告してきた。場所はあの公園、時間は一週間後の午後十時、そこで僕達は春澄ちゃん達と対峙する事になる」
「いよいよ決戦ってワケね」
「……少し複雑だけど、私は昇の剣だから、迷いなく戦う」
昇の言葉に戦意を出してくる琴未とシエラ。そんな二人を横目にフレトが現実として向き合わないといけない問題点を出してくる。
「だが、滝下昇よ。どうやって決着を付けるつもりだ? あのアルビータという精霊の強さは化け物並みだぞ。それにだ、あの春澄とかいう契約者を討つ事も不可能に近いだろう。こんな状況で勝算はあるのか?」
そんな言葉を受けて昇ははっきりと頷いて見せた。それだけで昇にはアルビータに対する勝算がある事は、その場に居た誰しもが分かった事だ。だからこそ、昇はフレトの質問に対して明確な答えを出してきた。
「二つの手段を使えば、確実にアルビータさんに勝てる。一つは、僕のエレメンタルアップ。最近の修行でシエラ達だけではなく、ラクトリーさん達にも掛ける事が出来るから、これで命の提供を打ち消す」
「それで五分五分だな、そこから、どうする?」
説明を促すように言葉を出すフレト。そんなフレトの言葉を聞きながらも、昇は二つ目の手段を提示する。
「そこで、もう一つの手段である……ストケシアシステムを使う」
「なるほど、エレメンタルアップで命の提供を打ち消し、そこに完全連携が出来るストケシアシステムを使う事によって、数の有利を完璧なものに出来ますね。ただでさえ、数ではこちらが多いんですから、そこに完全連携で攻撃が出来れば、充分に勝てる見込みはあるますね」
昇の言葉に、そこまで理解した与凪が思った事を口にする。そして、昇は与凪の言葉どおりと言わんばかりに頷くのだった。そしてフレトも複雑な心境ながらも、昇の言葉に賛同するかのように腕を組むと、一度だけ頷くのだった。
まあ、それもしかたないだろう。なにしろ、フレト達が昇達に負けた要因の中で、このストケシアシステムが大きな要素となっている。だからこそ、ストケシアシステムの恐ろしさはフレトが一番良く分っているし、自分達が負けたシステムを使う事に、ちょっとだけ複雑な心境を抱いても不思議はないだろう。
だが、これでアルビータに対する対抗策は完璧とも言えるだろう。けれども、もう一つの要素であるものを、珍しく半蔵の口から出されて、ラクトリーは詳しく説明する。
「相手の契約者に対する人数は?」
「そうですね~、相手は精霊感知能力者ですからね~。その対策と、割ける人数を計算しないといけませんね。精霊を倒せたとしても、契約者が倒せないのなら、意味は無いですからね~」
「そっか、誰かが契約者と戦わないといけないんだ。戦略次第では契約者を倒してしまえば良いんだからね」
二人の言葉を聞いて、そのような言葉を口にする琴未。だが、昇からは、まったくラクトリー達との会話に関係ない事を与凪に質問してきた。
「与凪さん、フレト達が完全に回復するまで、どれぐらい時間が掛かります?」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってね」
いきなり話を振られて、その辺りの資料を開く与凪。そんな与凪が昇の質問に答えてくる。
「そうですね。普通に生活するまで二日、戦闘が出来るまで五日、といったところでしょうね」
「なら、時間内には間に合うね」
「んっ? いったいどういう事だ、滝下昇?」
昇の質問に、昇にはラクトリー達が話していたのとは別の腹案があるのだろう。それを見抜いたフレトが直接的に昇に質問してきた。そして、その昇はというと、フレトの方を見て、微笑を浮かべると、とんでもない事を言い出す。
「次の戦い、僕はフレト達にも参加してもらいたいんだけど」
そんな昇の言葉にフレトは思いっきり拳を握って見せる。
「当然だっ! 今回の屈辱、次の戦いで晴らしてやるさ」
「なら、ストケシアシステムはフレトに任せるよ」
「なっ!」
「えっ!」
昇の言葉に全員が驚きの声を上げる。それはそうだ、なにしろストケシアシステムの考案者は昇であり、使うのだとしたら昇が一番効率良く、使いこなす事が出来る。それにストケシアシステムの基礎となっているのは、昇のエレメンタルアップだ。
なにしろストケシアシステムは昇のエレメンタルアップを改良して作り出したシステムだからだ。それが、ここに来てストケシアシステムをフレトに任せると言いだしたのだ。その言葉に誰もが驚いても不思議ではないだろう。
そんな周囲の驚きを無視しながらも、昇は与凪に告げる。
「だから与凪さん、悪いんだけど、フレトにストケシアシステムを使えるように練習と指導をお願いします。本番では僕が皆にエレメンタルアップを掛けた後に、ストケシアシステムを起動させて、その後はフレトに任せますから」
「いや、それは良いんですけど……」
さすがに驚きで、それ以上の言葉は出ないのか、与凪は戸惑っているばかりだ。それは他の者も同じであり、昇の言葉に驚かされている。その中で、すぐに冷静さを取り戻した閃華が昇に質問をぶつける。
「昇よ、次の戦いで腹案がある事は充分に分かったんじゃが。じゃがのう、ここで一旦、全てを説明してくれんと、私達の方が混乱してしまいそうじゃぞ」
閃華にそう言われて、それもそうかと考える仕草をする昇。どうやら、どうやって、まとめて話そうかと考えているようだ。そんな昇の思考もすぐに済み、昇は自分が考えた作戦と戦いについて話し始めるのだった。
「まずは契約者、春澄ちゃんの事は気にしなくて良い。だから……参戦できる戦力は全てアルビータさんにぶつける。そこでフレトにはストケシアシステムを使って、戦闘の指揮を任せたいと思う。アルビータさんは無の属性だから、属性攻撃は通用しない。そこで、シエラ、琴未、ミリア、閃華、ラクトリーさん、半蔵さん、レットさんの七人でアルビータさんと戦い、フレトは後方で指揮、咲耶さんと与凪さんは、その補佐をやってもらいたい。そこで僕だけど、僕は戦闘に参加しない。その代わりに春澄ちゃんも戦闘に参加しない事を約束してきた。だから、今回の戦闘で戦うアルビータさん、ただ一人。だからこそ、そこに総力をぶつける。この戦力差とストケシアシステムを使えば、確実にアルビータさんを倒せる。だから、今回の戦闘はフレトに任せるよ」
「…………」
昇の言葉に黙り込む一同。それはそうだろう、なにしろ昇は自分が戦闘に参加しない事を表明したし、春澄も戦闘に参加しない約束をしてると言っても、その約束をどこまで信じれば良いのか判別が付かない状態だ。だからこそ、各々がそれぞれ思考を巡らしていると琴未が、これ以上は考えていられないとばかりに声を上げて、昇に向かって叫ぶ。
「あ~、もうっ! ワケ分かんないわよっ! だから私は考えるのをやめるわ。だから昇……信じて良いのよね?」
最後だけ真剣に、重たい言葉で質問する琴未。そんな琴未に対して昇は一度頷くと琴未を含めた全員に向かって答えてきた。
「うん、今は僕を信じて欲しい。僕は……僕達の状況と春澄ちゃん達の状況を見て、一番良い手を打ったと思ってる。だから皆にも異論はあると思うけど、今は僕を信じて協力して欲しい。今回の戦いを終わらせるためにっ!」
最後だけはっきりと宣言する昇。それだけ、昇は皆に賛同してもらい、協力して欲しいのだろう。確かに、今回は今までと違って、昇は全てを皆に打ち明けていない。逆に隠していると言っても良いだろう。でも、それは昇自身の問題であり、その問題に皆を巻き込んだ形になるのだから、昇としては頼むしかなかった。でも、頭を下げるわけにはいかない。昇がそこまでしては、逆に昇に対してけねんを抱く結果になるのは分かりきっている事だ。だからこそ、昇は頭を下げずに、言葉だけで皆の賛同を得ようとしているのだ。
そんな昇の心境を知ってか、知らずか、シエラが真っ先に答えを返してきた。
「私は、いつでも昇を信じてる。だからこそ、昇の剣として剣を振るえる。だから……今は何も言わない。全てが終わってから、話してもらっても良いし……話したくないのなら、話さなくて良い」
「シエラ……」
思わぬシエラの言葉に昇はシエラの名を口にすると、自分もと言わんばかりに琴未が賛同の声を上げる。そんな昇達の陣営がまとまって行く中で、ラクトリーは意地悪な笑みを浮かべながらフレトに話しかける。
「それで、マスターはどうしますか? このまま昇さんの提案を断りますか? それとも賛同ですか?」
そんなラクトリーの質問にフレトは大きく溜息を付いて答えてきた。
「俺の答えはもう、決まっている。このまま引き下がるなど、グラシアス家の名に泥を塗って、誇りを汚す事だ、そんな事は出来ん。それよりもラクトリー、最近は意地の悪い質問が多くなったな」
「ふふっ、それは気のせいでございましょう」
「ふんっ」
ラクトリーの言葉を鼻息で吹き飛ばすかのように、鼻から一気に息を噴出したフレト。そしてフレトの発言により、フレト達の参戦も決まった。後は決戦に向けての準備だけである。なにしろ、相手は伝説の精霊とも呼ばれているアルビータである。準備に念を押した事で後顧の憂いが無くなるだろう。
そして、決戦が決まった事により、まるで勝利したかのように前祝を始め、騒ぎを再開させるシエラ達。そんな中で昇は与凪と、与凪をここまで送って来た森尾を誰にも気付かれないように部屋の隅に呼ぶと、ある事を頼んだのだった。
さてさて、いよいよ昇が宣戦布告を行ったわけですが……ちょっと、悲しい宣戦布告でしたね~。けど、まあ、次回は、その辺を中心に行こうかと思ってます。
そんな訳で、何か今月はハイペースですね~。まさか、一ヶ月で三話も上げるとは思って無かったですよ。いやはや、これは良いことなのだろうか、悪い事なのだろうか。
まあ、今までのペースは休息を兼ねた物で、本来のペースに戻ったのかもしれませんね。あるいは……このペースに全ての運を使い切ったかのどれかかもしれませんね。
って!!!! 私の運はこの程度の事で全て消費されるほど、運が無いのかっ!! どれだけ運が無いんだよ、私っ!! というか、ここまで来ると呪われてると感じるよっ!! ならば、これだっ!!!!
こういう時にこそ、教会って物があるんじゃないかっ!! そこで祝福を受ければ、呪いを解除出来るはず。そんな訳で早速、教会へ。
はい、そんな訳で教会で祈りを捧げると神の声が聞こえました。「お前って巫女属性じゃん。そんな人がウチに来ても呪いを解く事は出来ないわ(笑)」……………………しまった――――っ!!!! 自分の属性を忘れて教会に来ちゃったよ。そりゃあ、断られて当然だよね。……てへっ。そんなワケで、教会から神社へと移動。
神社前
……巫女属性を有してる人は立ち入り禁止。だって、お前らの為に巫女がいるわけじゃないからな……
という看板が……。
ふざけんな――――っ!!!! なら、私はお払いさえ出来ないのかっ!! この呪いを解く事は出来ないのかっ!! ならばっ!! せめて巫女さんの姿を見て、巫女属性を満たしたいと思います。そんな訳で侵入っ!!
カチッ。
……えっと、なんか、いきなり何かを踏んだんですけど、これってどういう意味ですかね。というか、地雷なら、足を話した瞬間に爆発ですよ。それとも……別の何かか……あっ、空から何か降ってきた。
って!!!! 爆撃ですか、しかも絨毯爆撃ですかっ!!!! あのスイッチ一つで爆撃をされるんですかっ!! いや――――っ!! 誰か、助け、げばぶっ!!
……作者復活中……
いや~、まさか絨毯爆撃が来るとは思ってなかったよ。おかげで身体は木っ端微塵だし、復活に時間が掛かったよ。さすが絨毯爆撃、避ける隙さえも無かったですね。
さてさて、戯言も飽きてきたので、そろそろ締めますね。
ではでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。そして、これからも、よろしくお願いします。更に、評価感想もお待ちしております。
以上、今回の後書きは思いっきり遊んだな~、と今更ながら、後書きについて、自分がフリーダムな事を感じた葵夢幻でした。