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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
百年河清終末編
140/166

第百四十話 見え始めた難問

「まったく、お前にこんな醜態を晒すとは、屈辱以外の何ものでもないな」

 フレトの言葉に昇は苦笑いを浮かべて、フレトの皮肉を適当に流すのだった。けれども、意識を取り戻したフレトからの第一声がこれである。昇としては安心したものの、今のフレトが思っていたよりも深刻な状態に心配もしていた。

 事の始まりは昇達が早めの夕食を済ませて、すぐにフレト邸に向かった事である。与凪の予測通りにフレト達は夜になると全員が意識を取り戻していた。けど、それだけなら喜ぶべき事だろう。だが、フレト達は意識を取り戻したものの、立つ事さえ、ままならないほど体力が戻っていなかったのだ。

 昨日の時点で与凪が言ったとおりに、フレト達の回復機能は落ちており、未だに誰かの支えがないと歩けない状態だ。けれども、与凪の話では二日もすれば完全に回復機能が機能し始めて、日常の生活に戻れ、一週間もあれば戦闘すら可能なほどに回復が出来るとの事だ。

 昼からフレト邸に来ていた与凪はフレト達の容態を第一に調べていたために、それぐらいの事は、フレト達の意識が完全に戻る前に分析する事が出来た。けれども、未だに、フレト達がこんな状態になったのは不明である。与凪も昇達と一緒に話を聞いた方が良いと思ったのだろう、だから与凪も未だに何があったのかは聞いていなかった。

 そのため、話の流れは自然とそちらに向くのだった。

「それでフレト、いったい何があったの? フレト達をここまで叩きながらもトドメを刺してないなんて、ちょっと考え辛い状況だし、戦闘地点からも、まったく痕跡が出なかった。その辺について話してもらえると、ありがたいんだけど」

 そんな質問をフレトにする昇。けれども、フレトは明らかに不機嫌な顔で昇を軽く睨み付けると、まるで昇の所為だと言いたいばかりに答えるのだった。

「俺達も全貌は分っていない。ただ、今回の件で中心に居るのは滝下昇、お前だ。だから俺達の話を聞いた後に全て説明してもらおうか」

「えっと、それはどういう事?」

 昇には思い当たる節が無いのだろう。だからこそ、戸惑うように苦笑いを浮かべながら、疑問系で言葉を返すのだった。そんな昇を見て、フレトはラクトリーに話しかけた。

「ラクトリー、まずは何があったかを話せ。それから詳しい資料を見せた方が早いだろう」

「はい、分かりました、マスター」

 フレトから指示を受け取ったラクトリーが説明を始める。その説明は琴未達を驚かせるのには充分な事だった。なにしろラクトリーは伝説とも言われている命の精霊と戦闘したと告げたばかりか、契約者が精霊能力感知者と告げてきたからだ。

 そんなラクトリーの話を聞いて首を傾げる昇。まあ、昇はここ数日、逃げる事で精一杯だったので伝説の精霊については、まったく聞いていないのだ。そんな昇の為にラクトリーは命の精霊が持っている能力と契約者が発動する能力をしっかりと説明するかのように話した。

 そんなラクトリーの話を聞いて、話が一区切りすると与凪は納得したように言葉を発する。

「噂だけだと思ってましたけど……まさか本当に実在していたんですね。しかも……属性を無効化する、無の属性。そして能力者が発動する三つの能力。それらを考えれば、確かに筋は通りますね。それに命の精霊に関する伝説どおりの力ですから、信憑性は更に増しますね」

 そんな事を言って納得する与凪。けれども、与凪は納得したように頷くだけで昇達への説明を後回しにしたために、昇達には分からない部分があった。それでも、昇達の中でラクトリーの話から全てを察したシエラと閃華が昇達に向かって詳しく説明してくる。

 最初に口を開いてきたのはシエラだった。シエラは無の属性について話し始めた。

「昨日の時点で与凪は属性反応が出ないと言ってた。それは普通なら考えられない事だけど、無の属性なら、それが可能。なにしろ無の属性は……全ての属性を無効化するから。更に広範囲に展開されれば、属性反応が残らないのは当然。無の属性は属性反応すら無効化、つまり消してしまうから。それに、相手が無の属性と分かったのなら、属性を使った攻撃に意味は無い。自分達の武器だけで戦う事を余儀なくされる。だからフレト達も属性を使わなかった」

「それでフレト達も属性を使った攻撃をしなかったんだ」

 昇がそんな言葉を口にすると、フレトは、その通りと言わんばかりに頷くのだった。そんな昇達とは別に琴未には疑問に思った事があったようだ。だからこそ、それをシエラに向かって質問する。

「属性を無効化するって事は、シエラが持ってる翼の属性も無効化されて、飛べなくなるワケでしょ。なら、爪翼の属性を持っているレットさんの翼を切り落とす必要が無いんじゃないの? 無の属性で無効化すれば翼を消せるわけだし、なんで翼を切り落とす必要があったのよ?」

 そんな質問をシエラにする琴未。同じ翼の属性を持っているもの同士、共通点があるからこそ分かる事があると琴未は考えたから、わざわざシエラに質問をしたのだ。シエラも、琴未から、そんな質問を受けて、少しは自分で考えろと言わんばかりに溜息を付くと、その点についての説明を始める。

「確かに、無の属性を放たれたり、展開したテリトリーに入った時点で無効化されて、翼を消される。けど、一度翼を消されても、無の属性から開放されれば、すぐに次の翼を生やす事が出来る。でも、翼を切り落とすって事は、翼の属性を発動させながら翼の属性を機能させないようにするため。つまり、翼を切り落とされると再生には時間と力が掛かる。けど、無効化で消されたのなら、無効化が解かれたら、すぐに翼を再生する事が出来る。だから、今回の場合はレットの翼を切り落とす事で、翼の属性を発動させながらも使えないようにした。更に言うと、翼の属性は一度切り落とされると再生には多大な力と時間がいる。だからこそ、翼の属性を半分だけもっているレットの翼を切り落として、使えないようにした」

 シエラの話を要約するとこういう事になるだろう。

 翼の属性は、翼を切り落とされた時点では翼の属性は発動したまま、翼を再生しようとするのだが、一度切り落とされた翼を再生するには時間と力が必要になってくる。つまり戦闘中に翼を切り落とされると、そう簡単に再生は出来ないのだ。つまり、翼は無くても翼の属性をフル回転で使って翼の再生を行っているワケである。

 だが、無の属性で翼を消してしまうと、無の属性が効果を発揮している時は翼の属性を消滅して無効化が出来るのだが、無の属性が発してる効果が消えると再び翼の属性を再発動、すぐに翼の属性が使えるのだ。

 つまり、無の属性で翼の属性を消す事は可能だが、翼の属性が持っている利点から、無効化で翼の属性を消滅させるよりも、翼の属性を残しながら翼を再生させた時間を与えた方が長い時間だけ翼の属性を使えないようにすると同じ効果を発揮する事が出来るのだ。だからこそ、レットの翼は切り落とされたのだ。その方が発動中である翼の属性があるだけに、再生に時間が掛かるからだ。

 むろん、いったん翼の属性を消すという選択肢もあるが、翼の属性は移動型の属性である。この手のタイプは一度発動すると、すぐに消したり、再発動させたりするのが無理だと言える属性だからだ。移動型は一度属性を発動すれば戦いを優位に持って行けるが、戦っている間は常に属性を使っているのと同じだ。だから、常に属性を使い続けている移動型の属性だからこそ、すぐに消したり、再発動させるのが無理と言えるのだ。なにしろ戦闘中は常に使い続けるのが移動型の特性であり、一度発動させれば戦いが終わるまで使い続ける移動型だからこそ、長時間使える半面、属性の再発動とかは器用に出来ないのだ。つまり移動型も決して万能ではないという事だ。

 シエラの説明だけでは理解できなかった琴未に、閃華がそんな補足を付け加えると琴未も含めて全員が理解できたように頷くのだった。

 これで無の属性に関しては全員が理解したと悟ったのだろう、与凪が話題を変えて、次の問題について話し始めた。

「まあ、無の属性については、これで理解できたと思いますので、次はフレトさん達の回復が遅い点について説明しますね」

 与凪がそう言い出したので、自然と全員の視線が与凪に集まる。それから与凪は説明を始めるのだった。

「まずは、最初に理解してもらいたいのは、命の精霊と契約した契約者は必ず三つの能力を得ると言われています。命の提供、命の活性、そして命の強奪です。フレトさん達の回復が遅いのは命の強奪で生命力が奪われて、回復機能が低下したと考えて良いでしょう。伝説で伝わっている命の強奪では、相手が死ぬほどに生命力を奪っていたみたいですが、今度の契約者は、そんなに命の強奪でフレトさん達から生命力を多くは奪ってなく、むしろちょっとしか奪っていないみたいなんです。生命力が低下しているという事は、それだけ体力も精神力も、そして回復機能も低下していて当たり前と言えるでしょう。だからフレトさん達の回復が遅いんです」

 さすがは与凪と言ったところだろう。要点だけを明確に説明して、全員が納得するように頷くのだが、その中で閃華だけが疑問に思う所があったのだろう。閃華は、その事を与凪に聞いてみる。

「じゃが与凪よ、過去に二回だけ現れた命の精霊と契約を結んだ者は、必ずと言って良いほど、相手が死ぬまでの生命力を奪っておる。それが、今回に限っては、なんでフレト殿達の生命力を全て奪わなかったんじゃろうな?」

 そんな閃華の言葉を受けて、与凪は腕を組み、眉間にシワを寄せるうように瞳を閉じながら、思った事を口にする。

「確かに、伝説に残っている話では、そうですけど。今回の契約者は何を考えているのかが分かりませんからね。それを私に聞かれても困るんですけど。それは今回の契約者が何を考えているのかを知らないと分からない事ですね」

「なるほどのう、考えてみれば、そういう事じゃな」

 与凪の言葉で閃華も納得できる、というよりも与凪の考えを察したと言っても良いだろう。だからこそ、閃華は納得したように話を切り上げるのだった。まあ、確かに与凪が言ったとおりに命の強奪は契約者の能力だ。つまり契約者の意思次第で相手の生命力をどれだけ奪うかが決まってくる。それは生命力を百として考えると、相手の生命力を一からどれだけ奪うかは契約者次第である。もちろん、百奪う事も可能だが、一だけ奪う事も可能だ。つまり、契約者の意思一つで奪う命の量を決められるのだ。だからこそ、閃華は与凪が言う相手の契約者が、何でフレト達から全ての命を奪わなかった理由なんて、その契約者しか分からない事だと閃華は察したのだ。

 話が一区切りしたところで、今度は昇から質問が口にされた。

「精霊や契約者の能力については分かったけど、その精霊感知能力、だっけ? それについてはあまり分からないんだけど」

 そんな言葉を口にした昇に、自分もとばかりに琴未も声を上げる。ついでにミリアも、それに付いては分からないと主張したのだが、それは勉強不足だとラクトリーの傍に居たミリアはラクトリーからゲンコツを喰らう事になってしまった。そのため、ミリアが涙を流しながらも与凪は簡単な説明を開始する。

「簡単に言うと、幽霊が見えたり、感じたりするのと同じですよ」

 笑顔で、もの凄く簡単に説明してきた与凪に昇は首を傾げ、琴未は与凪が遊んでいる事を見抜いたように溜息を付き、シエラと閃華は与凪の言葉を無視して、咲耶の入れてくれたお茶をすするのだった。

 そんな状態に与凪は不満そうな顔をする。与凪としては誰かに突っ込んで欲しかったのだろう。それなのに反応が薄い事が不満らしい。けど、いつまでもこのまま、というワケには行かないので、今度はしっかりと説明する。

「既に承知だと思いますけど、人間世界と精霊世界は隣接、または重なってるのと同じなんですよ。だから精霊世界からは人間世界と同じ光景が広がってたりもしますし、精霊世界にしかない物もあります。まあ、人間世界より精霊世界の方が広いって事ですね。ここで重要なのが、人間世界と精霊世界が重なっている部分、つまり人間世界の領域ですね。精霊達は、そこから人間達を観察して、自分が仕える契約者を選びます。けど、かなり低い確率ですが、人間の中には契約もしないで、しかも争奪戦に関係が無く。精霊が見えたり、感じたりする事が出来る人が居るんです。その人達を総称して精霊感知能力者と呼びます」

「えっと、本来なら精霊世界から見られるだけの人間世界でも、人間世界から精霊世界に干渉して精霊の存在が見えたり、感じたりする事が出来るって事ですか?」

 与凪の説明に、そんな答えと疑問をぶつける昇。そんな昇の言葉を聞いて、与凪は「う~ん」と唸ってから答えてきた。

「正確に言うとちょっと違いますね。精霊感知能力者でも精霊世界には干渉できません。でも、精霊が見えたり、感じたりする事が出来ますから、精霊と話したりする事は出来ますね。それに精霊を感じるという事は属性を感じるのと同じですから、精霊自身と精霊の力を感じる事が出来るという事ですね。だからと言って、精霊世界に触れたり、侵入したり、干渉する事は出来ませんが精霊世界に居る精霊を見たり、話したりすることが出来ます。ただ……精霊によっては精霊感知能力者と話をしたりするんですが、通常の人には精霊世界に居る精霊は見えませんから、異端児のような目で見られたりもするんですよね」

「つまり精霊世界に居る精霊が見えたり、話をする事が出来るって事ですか?」

 再び疑問をぶつけてくる昇に与凪は疲れたように息を吐くと、咲耶が淹れてくれた紅茶で喉を潤す。その間に与凪に代わってシエラが説明を始める。

「昇の言っている事は合っている。でも、争奪戦だと、それだけじゃない」

「というと?」

「精霊感知能力者は属性の力も感知できる。どのタイミングで、どんな属性を使って攻撃してくるのかを先読みが出来る。それだけじゃない、私のように移動型の属性でも、進行経路を先読みして、確実に攻撃を回避できる。だから反撃をするのにも楽だし、フレト達と戦った契約者みたいに逃げに徹せられると契約者を倒す事は不可能に近い。なにしろ、精霊感知能力者には属性の力が、どの方向から、どのタイミングで攻撃してくるかが分っているから、簡単に避ける事が出来る。それに自分を追い掛けてくる精霊も、すぐに感知できる。だからこそ、半蔵ですら契約者を倒す事は不可能だった」

 えっと、つまり、精霊感知能力者は属性も感じる事が出来るから、属性攻撃を先読み出来るって事で良いのかな? けど、それだと、僕はどうなんだろう? そんな疑問を感じた昇は、その事を聞いてみる。

「僕みたいに属性を使わないで、力を放出するだけの攻撃なら有効なのかな?」

「なかなか良い質問じゃが、その可能性はあまり考えない方が良いじゃろ」

 横から口を出してきた閃華に向かって昇は首を傾げる。やはり、閃華の言葉は短いと何を意味しているのかが分からないようだ。そんな昇に向かって閃華が説明をする。

「そもそも昇のように属性を使わない攻撃自体が珍しいのじゃ。昇よ、自分の能力であるエレメンタルアップがレア能力で、かなり珍しい力だという認識が薄いようじゃな。つまりじゃな、昇のように珍しい契約者か、かなりの工夫をしないと意味は無いという事じゃ。なにしろ、精霊も契約者も属性を基盤にして戦っておるんじゃからのう。無属性の力を使える精霊は皆無、契約者としても、かなり珍しい能力か、かなりの工夫をしないと無属性の攻撃は出来ないんじゃよ」

「あ~、そっか、そういえばシエラがエレメンタルアップの能力を得たのは僕で三人目とか言ってたっけ」

「うむ、そのとおりじゃな。まあ、もっとも、最初の一人目は争奪戦が始まって、四度目の争奪戦じゃったかのう? その辺りにエレメンタルアップの契約者が現れたからのう。精霊世界の歴史でも名前は残っておらんのじゃ。二人目は、第六天魔王と呼ばれた織田信長様じゃな。まあ、あの方はいろいろと不思議な人じゃったからのう、エレメンタルアップを発動させても不思議ではないじゃろ。それで、三人目が昇じゃな。長い争奪戦の歴史で、この三人しかエレメンタルアップの能力者はおらんのじゃ。じゃから昇よ、自分の能力を基準に考えても、実用実行は不可能に近いんじゃよ。まあ、後は工夫しだいでは何とかなる能力もあるがのう」

 そんな言葉を口にして閃華はフレトに目を向けた。そんな閃華の視線と同じようにフレトに視線が集まると皆が納得したように頷くのだった。そしてフレトも自分が何で注目されたのが分っているからこそ、胸を張って堂々としていた。

 フレトは基本の能力は風のシューターだが、エレメンタルウェポン、契約者が作り出す武器にかなりの工夫をしていた。それが詠唱システムだ。フレトは詠唱をする事で風以外の属性も操れるようにしているのだ。そんなフレトだからこそ、無属性も詠唱次第で放つ事が出来る。だが、そのためには詠唱をするための時間が要る。その時間さえ作れれば、かなり有効的に使えるのだが、やはり、そんなフレトの詠唱システムを基準に考えるのも危ないと言えるだろう。下手をすれば、自分自身の能力を低下する事になるからだ。

 例えば琴未のエレメンタルで無属性の力をフレトと同じように放とうとすると、どうしてもエレメンタルの利点である、精霊と同様の戦闘能力を低下させて無属性の力を発動させなければいけない。それだったら、自分自身の属性を使いこなした方が効果的な攻撃が出来るのだ。だから無理して無属性の力に頼るのは危ないと言えるだろう。下手に無属性の力を使おうとして、反撃を喰らってしまっては意味が無い。逆にエレメンタルなら精霊と同等の戦闘能力を得られるのだ。それだったら、属性を使わずにエレメンタルの戦闘能力に頼った方が効果的だと言えるだろう。

 つまり、下手に無属性にこだわる必要は無いのだ。ただ、精霊感知能力者の力が厄介だというだけで、その力を持っているから絶対に勝てるとは限らないし、打ち破る手段も考え次第では幾らでも出てくるだろう。要は精霊感知能力者を前提に作戦を立てれば、充分に勝てる相手だという事だ。だから、下手に無属性の攻撃に頼るよりも、自分達の力を効果的に使った方が勝率はかなり上がるだろう。それだけの話である。

 これで精霊感知能力者についての話も終わりだろと、話を切り替える前に、フレトが精霊感知能力者についての話を続けてきた。

「そういえば、その命の精霊が精霊感知能力者の力を使えば、更に詳しく調べる事が出来るとか言ってたな。あれはどういう意味なんだ?」

 そんな質問をするフレトにラクトリーが真っ先に答えてきた。

「精霊感知能力者は精霊や属性を感知するだけではないのです。人や物に残した精霊反応、精霊の力や属性ですね。そんな残り香のようなものまでも感知する事が出来るんです。だからこそ、精霊感知能力者はこちらの戦力を全て把握していました。だからセリス様の護衛に向かった咲耶の存在も知っていたんです。それに調べようとすれば、屋敷の周りを一周するだけでも、こちらの戦力だけではなく能力までも分かる可能性があります。例えば、どんな精霊と契約しているとかですね」

 フレトの質問にラクトリーは丁寧に説明すると、フレトを含めて昇達も納得したように頷くと、フレトは昇に向かって呆れた視線を向けてきた。それから皮肉を込めて、昇に向かって言葉を放つ。

「ただでさえ、その精霊感知能力者でこちらの事を調べられたのに、そこの滝下昇から更なる情報を得たのだとすると、こちらが不利になるのは必然か」

「えっ、僕?」

 昇としては思いもしなかった言葉だろう。だが、フレトは既に春澄と会話して、そこに昇の名前が上がっているのだ。だからフレト達が更に不利になった要因として昇からの情報漏れを指摘されても不思議ではないのだが、今の時点では昇達に襲撃を掛けてきた春澄とアルビータの情報を見せていない。だからこそ、フレトはラクトリーに命じる。

「ラクトリー、相手の情報もあるのだろう。顔写真と共に、この女たらしに見せてやれ」

 えっと、何か凄く蔑まされてるんですけど、フレト……僕はそんなに悪い事をしましたか? フレトの言葉に思わずそんな事を思ってしまった昇。だが、フレトの言葉が真実だと分かったのはラクトリーが大型モニターに戦ったアルビータと春澄の顔写真を映し出してからだ。

「ちょ、この子っ!」

 まさか春澄の写真が出てくるとは思ってなかった琴未は声を上げるとシエラ達にも動揺が走る。昇にしてみれば、まさに予想外、いや、春澄が絡んでいるとは思いもしなかった事だ。そして、春澄の顔写真を見た、シエラ達が一斉に叫ぶ。

『昇の浮気相手っ!』

「いや、違うからっ!」

 シエラ達の言葉に対して、思わず突っ込みのような言葉で否定する昇。けれども、春澄の写真がモニターに映し出されたのは昇を始め、シエラ達にも驚きが走った。そしてフレト達はやっぱりかという感じで昇に呆れた視線を向けながら、フレトは思いっきり溜息を付くのだった。

「滝下昇、やっぱり、お前の関連か」

「いや、何と言うか……これは間違いないの?」

「俺達がここでお前達に嘘の情報を流して、何の得がある。それとも、俺達の情報は、そんなに信憑性が無いか?」

「ごめん、別にフレト達を疑ってるワケじゃないけど……あの春澄ちゃんが契約者だって事が信じられなくて」

 まさか春澄がフレト達を襲撃した敵である事に驚き、すっかり混乱する昇。そんな昇は頭の中でいろいろな事を考えるが、どうも考えがまとまらずに混乱するばかりだ。その間にも、シエラは何かに気付いたのだろう、その事を口にするのだった。

「目を開けてる……」

 シエラの言葉に混乱している昇と閃華を除いた全員が頭の上にハテナマークを浮かべるような仕草をするのだった。どうやらシエラと閃華以外は写真に写っている春澄の姿に違和感がある事に気付いていないようだ。もっとも、フレト達は戦闘でしか春澄と接触していないから、分からなくても当然だと言えるだろう。けれども、琴未達は映し出された春澄の姿に違和感がある事を知っているが、まだ気付いていないようだ。だからこそ、琴未はシエラに尋ねる。

「目を開けてるって、普通の事じゃない。それが、どうかしたのよ?」

 そんな疑問をぶつけてくる琴未に対してシエラは呆れた視線を送り、閃華は思いっきり溜息を付いた後に、普段の春澄から戦闘中の春澄を見て、感じる違和感を説明をしてあげるのだった。

「琴未よ、春澄殿は先天性の盲目で日常では常に瞳を閉じておるのじゃぞ。それなのに、戦闘中に記録した春澄殿はしっかりと目を開けておる。更に先程の話から春澄殿が契約者なのは間違いないじゃろ。その事を総合して考えれば、戦闘中の春澄殿は目が見てえている事になるんじゃ。決して治らないと言われた盲目が、戦闘中には回復して、しっかりと物を見る事が出来る。そこに違和感を感じるのは当然じゃろ。なにしろ盲目の春澄殿が戦闘中だけ目が見えているようなっているんじゃからのう」

「あっ、そっかっ!」

 閃華の説明を聞いて、やっと春澄が普段の生活では盲目だという事を思い出した琴未。けれども、ラクトリーが映し出した戦闘中に写した顔写真の春澄は、しっかりと目を開けている。それに盲目なら、フレト達も戦闘中に、その事に気付いて当然だろう。だが、フレト達は春澄が盲目だという事を知らない。だからこそ、シエラと閃華のように春澄の写真を見て違和感を感じなかったし、閃華の話を聞いていたラクトリーは物思いにふけっている。どうやらラクトリーには、春澄の盲目に対して何かしら思い当たる節があるようだ。だからこそ、ラクトリーは物思いにふけっているのだが、そんなラクトリーに気付いたフレトがラクトリーに声を掛けてきた。

「ラクトリー、どうやら何か思い当たる事があるようだな」

「えっ、あっ、はい、当たっているか、どうか分かりませんが、少しだけ思い当たる事があります」

「やっぱりな、話してみろ」

 フレトにそう言われて頷くラクトリー、それからラクトリーは空中に現れたキーボードを操作して、テーブルの真ん中に大きく映し出されたモニターに、戦闘中に記録した春澄と半蔵の戦いが流れ始めた。そこには、完璧に半蔵の攻撃を避けて、尚且つ、半蔵をしっかりと見て、話をする春澄の姿が映し出されていた。

 その戦闘記録を流しながらラクトリーは思った事を口にする。

「ご覧の通りに、私達が接触した契約者……春澄、さんでしたっけ。その方は半蔵の攻撃を完璧に避けています。先程も話したとおりに春澄さんは精霊感知能力者です。でも、その能力だけで半蔵の攻撃をここまで完璧に避ける事は不可能です。ですから、戦闘中の春澄さんは視力を取り戻している事は言うまでもなく、分かる事です」

 ラクトリーの言葉を聞いて、やっと全てを理解した琴未だが、一つだけ疑問に思う事があるのだろう。その事を口に出してみる。

「でも、普段は盲目の春澄ちゃんが、なんで戦闘中だけ視力を取り戻せてるわけ?」

「命の活性」

「その通りかもしれません」

 相変わらず一言で答えてきたシエラに同意するラクトリー、どうやら二人が出した結論は同じようだ。そして、それに賛同するかのように与凪と閃華と半蔵も頷くのだった。そして、琴未を含めた他のメンバーには、まだ理解が出来ていないようなので、与凪から説明は入るのだった。

「今の段階では推測でしかありませんが、命の活性は身体能力を上げるだけでなく、失われた身体能力、例えば、視力とか聴覚とか筋肉とかですね。普段の生活では失われた身体能力も回復させるのかもしれません。だからこそ、春澄さんの視力が戻ったのかもしれません。最も、それは命の活性が使われている間、戦闘中だけに限られますけどね」

 与凪の説明を聞いて納得したように頷く琴未達。だが、その中で一人だけ首を傾げている者が居た、どうやら与凪の説明を聞いても理解が出来なかったようだ。その一人とは……言うまでもなくミリアだった。そのため、再びラクトリーからげんこつを喰らって、たんこぶ増やしたミリアは涙を流しながらラクトリーからの講義に近い、説明を受ける羽目になってしまった。

 まあ、そんなミリアのために補足を入れると、日常生活では盲目だったり、何も聞こえなかったり、身体の一部が麻痺して完全に動かせない状態だったりしても、命の活性を使っている間はそのような障害も回復して、尚且つ、身体能力もかなり上昇するという事だ。ラクトリーは、その事を厳しくミリアに叩き込むように話し続ける。

 そんなミリアに向かって苦笑いを浮かべる琴未達。そして、ミリアとラクトリーを放っておいて、話はいよいよ肝心なところへと移っていくのだった。

 まず口を開いたのはフレトから昇への質問だった。

「まあ、これで俺達から話せる事は全て話しただろう。そこで滝下昇、お前絡みの春澄という契約者が、何で俺達に襲撃を掛けてきたのが疑問だ。その春澄ならばお前が契約者だという事は分っているはずだ。それなのに、まずは前座と称して俺達に戦いを挑んできた。滝下昇、お前はこの事態をどう見る?」

 フレトがそんな質問をしてきたので、皆の視線が自然と昇へと集中する。けれども、昇としても春澄が契約者という事は考えもしなかった事だし、フレト達に襲撃を掛けてきた理由も検討が付かなかった。それでも、昇は春澄の事を思い出しながら、フレト達を襲撃してきた意味を考えるために思考を巡らす。

 分かった事は一つだけかな。春澄ちゃんは以前に終焉に向かって歩いてるという事、それに無為な日々に生きている価値を見出せなかったという事、この二つを合わせれば、春澄ちゃんがなんでアルビータさんと契約をしたのかが分かる。戦闘中、その時間だけは春澄ちゃんの視力が回復する。それはつまり、春澄ちゃんは大きな世界を見る事が出来る、はっきりと自分という存在を確認する事が出来る。その結果として……命を削る事になったとしても、春澄ちゃんは選んだんだ、自分の命よりも……世界を感じる事を……。

 そんな事を考える昇は複雑な心境になっていた。

 春澄はアルビータと出会う前は、施設で何をして良いのか分からない、ただ存在しているだけの無為な日々を送っていた。だが、アルビータと出会い、話をする事で春澄は知ったのだ。たとえ自分の命を削ったとしても、少しの間だけでも、世界に干渉する事を、世界を確認する事を選んだのだ。

 そう考えると昇はやっと春澄の真意が分かったような気がした。春澄にとって命とは長く存在し続けるために使うものじゃない。世界に干渉するために、自分という存在を確認するために春澄は自分の命を使っているのだ。その結果として……命を削る事になったとしてもだ。春澄にとって命とは長く生きるためじゃない、何かを成すために使う物だと春澄は考えているに違いないと昇は結論を出して、その結論の元にフレト達を襲撃した理由を考える。

 確か、フレトの話だと、前座と称して戦いを始めたんだっけ。そうなると……本番、自分達が望んでいる戦いがあるという事だよね。それって……どう考えても僕達の事だよね。そうなると……挑発、いや、それは理由の一つかもしれない。春澄ちゃんの考えはもっと単純で、感情から来る事なら、深く考える必要は無いはずだ。そうなると……。

 それから昇はテーブルの上に映し出された、繰り返して流れている春澄の映像を見ながら、ある答えを出す。

 そっか、春澄ちゃんはフレトの家を見たかったのかもしれない。だから、途中で半蔵さんを振り切って屋敷の中に侵入したのかもしれない。まあ、これだけの豪邸だから、誰もが一度は中を見てみたいという気持ちも分かる。僕だって、最初はそうだったし、まあ、その時は驚く事だらけだったけど、それは春澄ちゃんも同じで、そうやって様々な物を見る事で、春澄ちゃんは世界を感じ、自分という存在に意味を成そうとしてるんだ。でも……春澄ちゃんは終わりに向かって歩いてる。それは命の提供という能力で自分の生命力を使ってるから、だから春澄ちゃんは終焉に向かって歩いてると言った。今に思えば、それは当たり前の事かもしれない。春澄ちゃんは世界への干渉と、自分の存在意義を得るために……自らの命を代価として払っているのと同じだから。

 今度は悲しい気分になり、何かやりきれない気持ちを抱く昇。この時こそ、自分が無力だと昇は始めて感じた事だろう。春澄の真意を理解した昇だが、だからと言って春澄を止める事は出来ない。それは春澄が選んだ人生であり、春澄が自らの意思で選んだ、固い決意なのだ。そこに昇は口を出す権利が無いからだ。

 春澄には迷いが無い、そして……春澄の生き方を否定する事も出来ない。つまり春澄は間違った事はしていないし、その生き方に口を出す権利を誰が持っていると言えるのだろう。昇はその事を理解したからこそ、自分は無力だと感じたのだ。

 昇は春澄に生きてもらいたかった。たとえ盲目の身だとしても、しっかりと生きて欲しかった。けど、春澄は命を代価に盲目を治し、世界に干渉して、自分を確認する生き方を選んでしまったのだ。そんな他人の生き方に誰が、どれだけの事を言える権利があるのだろう。むしろ、自分で選んだ生き方だからこそ、誰も口を出す権利は無いのだ。

 昇はそれを良く分かっている。だから昇は春澄の生き方に口を出す事は出来ない。もちろん、それが間違っているのなら、口を出して正す事が出来るだろう。けど、誰が春澄の生き方を間違っていると否定できるだろう。春澄は命の強奪という能力を得ながらも、フレト達を殺すまで生命力を奪わなかった。それだけでも、春澄は他人を傷付けて生きるより、自らの命を差し出す生き方を選んだと考えられる。つまり、それだけでも春澄の生き方を間違ってると否定できないのだ。

 しかも、ここまでしたという事は、春澄の決意は固く、今更になった昇が何を言ったとしても春澄は自分の生き方を変えないだろう。もし、昇の言葉で揺らぐ程度の決意なら、昇は迷わずに説得という道を選んだ事だろう。

 だが、ここ数日、昇は春澄といろいろと話して、春澄の決意は固く、迷わずに終焉に向かって歩き続ける事を選んだ事に後悔はしていないだろう。むしろ、アルビータと契約を交わさない方が後悔した事だろう。昇は、ここ数日、それは少ない時間だが、そこまで春澄の事を理解していた。だから……昇が選べる選択肢は一つしかないのだ。

 それが分っているだけに、昇は悔しくもあり、自分の無力さを感じるのだった。

 昇が黙って考え込んでいる間は誰も口を開かずに沈黙が場を支配した。だが、ラクトリーが何かを思い出したようにミリアを解放すると、昇に向かって話しかけるのだった。だが、昇はかなり考え込んでいたのだろう。ラクトリーに数回呼ばれて、やっと返事を返した。

「えっ、あっ、はい、何ですか?」

「私も意識を失い掛けていた時に春澄さんから伝言を頼まれていたので、すっかりわすれてました」

「伝言……ですか?」

「ええ、確か……『明日の約束を忘れないでね』でしたね。最も、日付が変わってますので今日の約束と言えるでしょうけど」

「約束……」

 昇は記憶を辿り、春澄が言った約束にいての記憶を引っ張りだそうとした。すると、あっさりと、その約束について思い出し、約束の意味をやっと理解する事が出来た。だからこそ、昇は思うのだった。

 そっか、そういう事だったのか。春澄ちゃんがフレト達に襲撃を掛ける事は、その時には既に決まってたんだ。その日時まで、だからあんな約束を。

 そう考えると昇は時計に目を向けた。時計の針は九時半ぐらいを刺しており、約束した時間の前である事を示していた。だからこそ、昇はすぐに立ち上がると部屋を出ようとするが琴未が止めてきた。

「ちょっと、昇。今から、どこに行こうっていうのよ」

「……ちょっと……春澄ちゃんと会ってくる」

「なっ!」

 昇の言葉に驚きを示す琴未達。それからシエラが、すぐに口を開いてきた。

「なら私達も一緒に行く、春澄が契約者と分かったからには、昇一人で行かせるわけにはいかない」

「そうよ、昇。この際だから全員で行くわよ」

 シエラに続いて琴未も、そんな事を言い出すが、昇は振り返らずに、扉の取っ手に手を掛けながら返事をする。

「ごめん、僕一人で行ってくるよ、いや、僕は一人で行かないと意味がないんだ」

 はっきりとシエラ達の同行を断る昇。その事に琴未は反論しようとするが、閃華に止められてしまった。そのため、仕方なく黙る琴未に対して閃華が口を開く。

「昇よ、もし戦闘になった場合は、どうするつもりじゃ。あっちは、フレト殿を襲った事によって、私達が春澄殿の情報を得ているのは承知の上じゃろう。そんな状況で昇が一人だけで行ったところで、あのアルビータという精霊には勝てんじゃろ。昇の事じゃから、何かしらの考えがあると思うのじゃが、せめて、それを聞かせてから行ってもらえると、こっちも安心できるんじゃがのう」

 そんな閃華の言葉に昇ははっきりと否定の言葉を口にする。

「春澄ちゃん達の性格から考えても、僕が一人で行ったところで戦闘にはならない。むしろ、逆にシエラ達を同行させた方が戦闘になりやすい。それはどちらも戦力を持っているから。それに……今は何も言えない。その答えを出すために、僕は一人で行かないといけないんだから」

「……分かった、ならば私達はここでのんびりと待っておいた方が良いみたいじゃな」

「ありがとう」

 それだけの言葉を残して昇は部屋を出て行ってしまった。そんな昇を思わず追い掛けようとする琴未を閃華が制する。それから閃華は琴未に微笑みながら言うのだった。

「今回の事で全てを知っているのは昇だけじゃ。じゃから、全ての結論は昇に任せた方が良いじゃろう。琴未よ、心配は無い、昇の事じゃ、上手くやってくれるじゃろう」

「……でも」

「ふむ、やっぱり不安か?」

「そんなの当たり前でしょっ! シエラもそれで良いわけっ!」

 話を振られたシエラだが、そのシエラは呑気に咲耶が淹れてくれた紅茶を味わっていた。そんなシエラに腹を立てる琴未を閃華がなだめる。そんな琴未を見て、やっとシエラが口を開いた。

「私は昇を信じてる、だから昇の剣として戦える。それに、昇が言った事にも筋が通っている。今の状況で下手に戦力となる私達が同行すると、その場で戦闘になりかねない。けど、春澄の性格から言って戦力を持たない昇を攻撃するとは思えない。つまり、下手に戦力を揃えれば、相手も戦力を出さなければいけない状況になる。昇はそれを避けるために、私達の同行を断った。それに……」

 それだけを言って黙り込むシエラ。そんなシエラに首を傾げる琴未、そんな琴未に閃華は話を続けてきた。

「琴未よ、琴未は昇との付き合いが長いから、私達よりも良く分かっておるじゃろ。今の昇が悩んでいる事に。じゃからこそ、不安な気持ちが沸き上がってくる。それは私達も同じじゃ。じゃからこそ、昇は一人で行かねばならんのじゃやよ。抱えている問題に答えを出すために、そして……これからの事についてものう」

「……これからの事って何よ」

 それは琴未も分っているのだが、やっぱり納得が出来ないのか、それとも不満なのかは琴未の心にあるとして、やっぱり、その言葉を口に出さずにはいられなかったようだ。そんな琴未に閃華は軽く微笑みながら、琴未の肩に手を掛ける。

「それについての答えを出すためにも、昇は一人で行ったんじゃよ」

 それだけ言うと閃華は琴未の横を通り過ぎて、今まで座っていた席に戻ると咲耶が淹れなおしてくれたお茶を口にするのだった。

 けれども、昇が出て行った事にその場の空気が重かった。あのミリアですら黙り込むほどだから、全員が重い雰囲気を感じていた。琴未もそんな雰囲気をしっかりと分っていたが、そんな雰囲気は琴未の性に合わないのだろう。琴未は無理矢理、大声を出すと咲耶に紅茶のおかわりと夜だというのにケーキまでも要求した。そんな琴未に同調するようにミリアも喜んで咲耶にケーキの注文する。

 そんな琴未達にラクトリーは微笑、閃華も軽く笑いながらも同じようにお茶菓子を注文し、フレトは瞳を閉じて鼻で笑うのだった。そんな琴未達に釣られるようにシエラとレットも食べ物を要求し、重い雰囲気が一気に明るくなっていた。

 全員分かっていたのだ。たとえ昇が重く悩んでいたのだとしても、昇が帰ってきた時に明るく迎えてやらないといけない事に。だからこそ、今ではすっかり賑やかになった雰囲気を楽しむ事にした琴未達。

 そんな琴未達とは対称的に昇は難題を考えながらも夜道を歩いていくのだった。






 え~、そんな訳で、このエレメも、ついに百四十話、そして……遂に四周年を迎えましたっ!! ワー、ドンドン、パフパフ、そんな訳で四周年を迎えたエレメに乾杯~。

 いやはや、ついにエレメも四年目に突入です。それでも見えない終わり……本当にいつになったら終わるんだろう。まあ、今の更新ペースだと確実に五周年を向かえる事は決定事項だけどね(笑)

 それにしても、三周年を迎えた時は百二十話でした……一年で二十話しか更新してね~。まあ、去年の後半はプライベートな事で更新する時間が取れなかったですしね。今年の前半になって、やっと落ち着いてきたという感じですから、まあ、仕方ないと言えば仕方ないんでしょうね。

 ちなみに、ちょっとだけ試算して見る事にしました。エレメの一話平均を400字詰めの原稿用紙に換算すると、平均して38枚になります。そこに、この一年で更新した二十話をかけます。すると……760枚、更に同時進行で断罪の日~咎~も書いているので、それを二倍にします。すると……1520枚……これは本にすると、どれだけの量になるんだろうね。とか思ってしまいます。たぶん、一冊にまとめるとかなりぶ厚くなるんだろうな~、とか思ってますけどね。

 というか、話が進まない割には、結構な文字数を書いてますよね~。というか、エレメを本にしたら、どの編も一冊ではまとまらないよっ! とか思ってますけどね~(笑)

 まあ、そんな訳で、ここ一年の報告と四周年を迎えたエレメですが……まあ、お祝いって事で、ここは楽しく行きましょうか。誰かっ! 酒を樽ごと持って来いやっ!!!! さあ、今日は呑むぞっ!!!! そう、記憶が無くなるほどに……まあ、明日が辛くなるので、そこまではやりませんがね(笑)

 まあ、お祝い事なので、ここは楽しく、皆で祝おうではないかっ! そんな訳で、ここまで私を支えてくれた皆さん、ありがとう~、こうして四周年を迎えられたのは、皆々様のおかげでもあります。なので、ずっとエレメを読んでくれた方には感謝感謝です。皆~、ありがとう~っ!!!!

 そんな訳で、無事に五年目に突入したエレメですが……次編はかなり長くなる予定です。使う話数も、今までの二倍ぐらいになりそうな、長い話を考えております。まあ、その途中で、いよいよ……いよいよっ!! 五周年を迎えそうなので、皆~、これからもエレメを、そして私を支えてね。皆の応援を待ってるよ~。そんな訳で、五周年を目指して、改めて乾杯っ!! ……というか、既に五周年を迎える事は決定事項になっているのが、また怖いというか、頑張らないといけないというか、いろいろと不安でもあり、楽しみでもありますね。

 けど、今は無事に四周年を向かえた事を祝って、そして楽しみましょうか。そして、明日からは、五年目に突入したエレメを更に進化が出来るように頑張りつつ、次の事を頑張って行きたいと思っております。

 さてさて、未だに宴が続いてますが、今回は無礼講という事で、私も羽目を外すので、そろそろ締めますね。

 ではでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました~。そして、これからもよろしくお願いします。更に、評価感想もお待ちしております。

 以上、四年間、私を支えてくれた人達に感謝の意を込めて、もう一度だけ叫びます。皆~、ありがとう~っ!!!! と思いっきり叫んでみた葵夢幻でした。

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