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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
百年河清終末編
139/166

第百三十九話 *注意 ゲームのプレイ中に精界を展開して戦闘行為に及ばないでください

「しかし、あれよね~」

「んっ、どうしたんじゃ、琴未よ?」

 机に片肘を付きながら頬を支えて、視線を外に向けている琴未が独り言のように呟くと、暇潰しに琴未のベットで読書をしていた閃華が本から顔を上げて、琴未に話し掛けてきた。それから琴未は閃華の方へと椅子を向けると、閃華が予想した通りの事を言い始めた。

「なんていうかさ~、こうして、たた待ってるのって……性に合わないよね」

 やっぱりかという少し苦笑しながら本を閉じる閃華、そして琴未は背もたれに思いっきり寄り掛かって身体を伸ばす。そんな琴未に閃華は溜息まじりで答えるのだった。

「そんな事を言ってもしかたないじゃろう。今の状況で下手に動いては、相手に気取られる可能性が高いからのう。じゃから、今日は皆も大人しくしているじゃろう」

「そうなんだけどね~。なんて言うか……やっぱり退屈なのよ。いっその事……シエラでもからかって遊んでこようかな~」

「逆に遊ばれるだけじゃから、それは止めておいた方が良いと思うぞ」

「それって、どういう意味よ?」

「ずる賢さでは、シエラが十枚ほど上手というワケじゃよ」

 少し怒り気味で尋ねてきた琴未に対して、まったくフォローになってない、どころか、逆に悪口に聞こえるような答えを返す閃華。まあ、閃華は琴未と契約を交わした精霊だから、琴未に付くのは当然と言えるだろうが、ここまで露骨に出すと、琴未も呆れたような顔しか出来なかったのだ。

 そんな琴未が座り直すと閃華に尋ねる。

「そういえば、シエラはともかく、昇とミリアはどうしてるのよ?」

「んっ、シエラは部屋に籠もって知識書と睨めっこしておるぞ。シエラの事じゃからのう、事前に少しでも情報を掻き集めておるのじゃろう。ミリアは昇を引っ張って行って、どこかに出かけたようじゃな。まあ、二人とも今の状況を分っておるから、すぐに帰って来るじゃろうな」

「相変わらずミリアには緊張感が無いわね。それに昇もミリアを甘やかすんだから。というか、今の状況を知っておきながら外出するなんて考えられないわよ、まったく、ミリアも何を考えているんだか」

 すっかりミリアに対しての文句になった琴未に対して、閃華は再び本を開くと、視線を本に落としながら話を続ける。

「まあ、ミリアの事じゃから深くは考えて無いじゃろうな。じゃが、最近ではラクトリー殿から散々鍛えられておるからのう。バカな真似はしないじゃろうて。むしろ、そんな事を考えるだけ思考の無駄と言えるじゃろうな」

 そんな閃華の言葉を聞いて琴未は思いっきり溜息を付く。それから、今度は背もたれに頭を乗せながら、呆れたように話を続ける。

「まあ、言われてみれば、そうよね~。ミリアの行動について考えるだけ無駄というものよね。シエラもシエラで何をやってるんだか。まったく……」

「つまり暇だから何かしたいというワケじゃな」

「ぐっ」

 閃華に本心を言われてしまった琴未は言葉を失ってしまい、軽く睨むような視線を閃華に向けるのだった。そんな閃華が本を閉じると、ある事を告げてきた。

「どうやら、ミリア達が帰ってきたようじゃのう」

「噂をすればなんとやらね」

「そうじゃな、それに……なにやら忙しそうに、こっちに向かって来るようじゃのう」

「何で」

 琴未が質問する前にドアが勢い良く開かれるとミリアが片手に持った物を二人に差し向けながら口早に話し始める。

「琴未、閃華、これやろうよ、これっ!」

「って、いきなり人の部屋に入ってきて、何を言ってるのよ」

「良いから、これやろうよ、これっ! シエラも誘って皆でやろうよ~。どうせ、二人とも暇だったんでしょ」

「ミリア程じゃないわよ」

 そう言いながら琴未はミリアが差し出して物を手に取ると、それはゲームソフトだった。隣から閃華も覗き込むようにゲームソフトのジャケットに視線を落とす。それから、琴未はジャケットに書かれているゲームソフトの名前を口にするのだった。

「人生勝ち組みゲーム」

「どうやら、ボードゲームをソフト化したゲームのようじゃな。確か、これは、あの手この手を使って他のプレイヤーを潰し合いながら、進めるスゴロクのような物じゃな。それで、最後に勝ち組の条件を一番揃えているプレイヤーが勝者になるゲームじゃな」

「……やけに詳しいわね?」

 まさか閃華がここまでゲームに詳しいとは思わなかった琴未が呆れたような視線を閃華に向けながら尋ねる。そんな琴未の問い掛けに閃華はあっさりと答えるのであった。

「うむ、確か、このボードゲームは奥方が持っておるからのう。それで知ってるというわけじゃ。まあ、酒を呑みながらやる余興には適した物じゃよ」

「相変わらずね~」

 もう、その言葉しか出なかった琴未は呆れるのを通り過ぎて苦笑を交えながら言葉を口にするのだった。まあ、そんな琴未の気持ちも分からなくもない。なにしろ、昇の母である彩香は酒好きで、かなり呑む方である。そして、いつも昇に対している素行を見ていれば分かる事だろう。そう、かなり絡んでくるのである。だから琴未も閃華に誘われて一回だけ、参加したが、酔っ払いを二人を相手にしたのである。相当、苦労した事は言わずとも分かる事だろう。閃華はともかく、彩香はかなりめんどうな相手なのは確かなのだから。それ以来、琴未が閃華達の宴に参加していない事は言わなくても分かる事だろう。

 まあ、そんな余談はともかく、琴未はゲームソフトを見ながらミリアに尋ねるのだった。

「それで、これを買うために昇と一緒に出かけたと」

「うん、今日が発売日だったんだよ~。それで昇と一緒に買いに行ったんだよ~」

「何で昇を引っ張っていく必要があった訳? これぐらいなら一人で買いに行きなさいよ」

「だって~、今の状況を考えれば単独行動は危険すぎるよ~。それに、昇が居ればエレメンタルアップが使えるし、シエラ達が救援に来るまでの時間稼ぎぐらいでは出来るよ~。それぐらい、ちょっと考えれば分かる事でしょ?」

「うっ、ミリアに諭されるなんて」

 うな垂れるように頭を下げる琴未。まさか、ミリアに正論どころか正当性がある言葉で自分の意見が間違っている事を指摘されるとは思ってもいなかったのだから仕方ないだろう。それにミリアの言葉だったからこそ、余計に琴未が受けた心のダメージは大きかっただろう。そんな琴未を見て閃華は呆れたように溜息を付くのだった。

 閃華としても、ラクトリーが再びミリアの修行を再開してからというもの、それなりの成長をしている事は知っていた。だからこそ、先程も心配していなかったのだ。それが分っているからこそ、ミリアの取った行動は理に適ってる事が分かり、琴未の嫉妬心を軽く払い除ける結果となった事に閃華は呆れたのだ。

 まあ、琴未も成長しているが、やっぱり昇が絡んでくると、そちらが優先になるのが玉に傷だろう。だからこそ、閃華は話を戻すかのようにミリアに話しかけるのだった。

「それでミリアよ、昇はどうしておるんじゃ?」

「もうリビングで準備しながら皆が来るのを待ってるよ~」

 そんなミリアの言葉を聞いた閃華は琴未が手にしているゲームソフトのケースを空けると、確かに中身は無かった。どうやら中身は昇が既にリビングでゲームの本体に入れて準備しながら、待ち呆けているのは確かなようだ。

 ちなみに、リビングに設置してあるゲーム機は元々、昇の部屋にあったものだ。だが、昇の部屋では全員が集ると狭すぎる。そのため、昇の意見を無視した協議の結果としてゲーム機はリビングに移動したと言うわけだ。その後に昇が自腹で新たに自分の部屋にゲーム機を買った事は言わずとして分かる事だろう。

 まあ、そんな経緯もあり、多人数で遊べるゲームをやる時はリビングに集まる事が、すっかり定着しており、そのため、ミリアが買ってきた多人数用のゲームはリビングに並んでいるというわけだ。

 まあ、そんな余談は置いておく事にして、ミリアに促されるように閃華は引っ張られ、琴未もやれやれという感じで部屋を後にするのだった。それからシエラも無理矢理に引っ張り出し、日曜日の未だに少し暑さが残る中で全員がリビングに集合したのであった。



 ……数時間後……。



「って、シエラ! さっきから私にばかり邪魔するカードや略奪するカードを使ってるんじゃないわよっ! おかげでこっちの総資産がかなり低くなったじゃないっ!」

「そういう琴未こそ、さっきからお見合いの邪魔ばかりしてる。だから一向に玉の輿になれないから、その仕返しを受けるのは当然」

「こっちだって、シエラの所為で何個も子会社が潰されてるんだから、それぐらいの事は当然でしょっ!」

「琴未の所為で、こちらの子会社も潰されてるんだから、当然」

 すっかりお互いを潰し合い、最下位争いをする事になっているシエラと琴未。もっとも、二人にとっては相手に勝つ事が重要であって、相手よりも順位が高ければ、それで良いのだ。だからこそ、二人はお互いに潰し合いをし、こうして文句をたれているワケである。

 そんな二人を昇はいつものように苦笑しながら見守り、閃華はそれなりにゲームを楽しんでおり、ミリアは思いっきり楽しそうに、ゲームを楽しんでいた。そんな中で昇が閃華に話し掛けてくる。

「ところで閃華さん、いつもの事だけど……シエラと琴未はあのままで良いのかな?」

「まあ、所詮はゲームじゃ、やりたいようにやって楽しめれば良いじゃろう。あれも、あの二人なりの楽しみ方と考えれば何の事もないじゃろう。おっ、これは良いカードを引いたのう」

 そう言って閃華もそれなりにゲームを楽しんでいるようだ。ちなみに、このゲームは特定のマスに止まるとカードを引ける。そのカードを駆使して自分の総資産を高めたり、相手の邪魔をしたりするのだ。そのため、カードを引けるマスはかなり多く設置されている。

 そんなゲーム画面には閃華が引いたカードが映し出されていた。そして昇は閃華の引いたカードを疲れたような視線で見ると、呆れたような声でカードに書かれた文字を声に出して、読み上げるのだった。

「インダサイダー取引……なんていうかさ、このゲームはかなり犯罪に近い物が多くない?」

「まあ、実際に犯罪名が記しているワケではないのじゃからセーフじゃろ。そんな訳で、さっそく、このカードで昇が持っている会社の一つ、うむ、これで良いな。この株式を買い占めて会社を乗っ取るとしようかのう」

「って、僕に攻撃ですかっ!」

「当然じゃろ、ほれ、私の番は終わったからのう、次はミリアじゃぞ」

「うんっ!」

 自分の番になって楽しそうにコントローラを操作し、円盤状のサイコロを回すと、出た数だけ駒を進めてゲームを進行する。そんなミリアが止まったマスは、やっぱりカードを引くマスだった。そのため、ミリアも一枚カードを引く。

「ヤの付く不動産か~」

「またしても怪しいカードが、というか、それはありなんですか」

「まあ、相手を邪魔するカードが多いゲームじゃからのう。それなりに、しっかりとした言葉に出来ないカードが多くても不思議では無いじゃろう」

「もう、ここまで来ると、何でもありですね」

「じゃからこそ、面白いんじゃよ」

 またしても現れた、決して言葉に出してはいけないようなカードに昇は、すっかり諦めの言葉を口にするのと同時に閃華が諭すような言葉を昇に向けるのだった。その間にもミリアはさっそく引いたカードを使うんだった。

「じゃあ、このカードで昇が持っている子会社の一つを略奪、これで昇の総資産を削ったよ~」

「またしても僕に攻撃ですか」

「仕方ないじゃろ。現状では昇が一番じゃからのう、昇を蹴落とすために攻撃をするのは当然の戦略と言えるじゃろ。それに、昇は怪しいカードを使わずに、自分の総資産を高めるカードしか使っておらんからのう。じゃから、攻撃が昇に集中するのは必然という物じゃよ」

「まあ、確かに……なんか使い辛いカードが多いゲームだからね……つい」

 どうやらゲームの状況は閃華が言ったとおりのようだ。昇は攻撃カードを使わず、自分の総資産を高めるカードしか使っていないため、今では一番高い総資産となっている。まあ、昇の性格から言っても、ゲームとはいえ、あまりそういうカードは使い辛いのだろう。だからと言って、このまま負ける気は無い事は確かである。

 だからこそ昇も自分の番になると決心する。

「……カオス取引……またしても怪しいカードが、でも、そろそろ、こっちからも攻撃しないと追いつかれるからね。このカードで閃華を攻撃して資産を奪うっ!」

 そう宣言してしてカードを使った昇、だが、その隣で閃華は待っていたかのように笑みを浮かべてコントローラを操作するのだった。

「くっくっくっ、甘いぞ昇よ。今まで取って置いた、密告のカードじゃっ! これによって取引系のカードは無効化。だが、それだけでないんじゃぞ。昇は逮捕で三回休みじゃな。そのうえ評判が落ちて、総資産も低下じゃ」

「なんか凄く卑怯なカードを出されたっ! というか、取引なのに僕だけが逮捕ですかっ!」

「囮捜査というやつじゃな、まあ、この手の防御カードもあるからのう。さ~て、ここから巻き返すとしようかのう」

「なんか納得が行かないんですけどっ!」

 すっかり閃華にほんろうされてた昇は抗議の声を上げるが、閃華とミリアに笑われるだけだった。そして順番が次の琴未に移ると……またしても、怪しげなカードでシエラを攻撃、玉の輿を狙っていたシエラの相手を破産させた。

 更に順番がシエラに移ると、かなり良いカードを引いたのだろ。琴未の子会社を三つほど破産させた。ちなみに、シエラが使ったカードは『清藤への賄賂』と『上からの圧力』のコンボである。そんなゲームの進行を見ていた昇はつくづく思った。

 ……このゲーム……良く、無事に発売が許可されたな~……。

 まあ、何にしても、ここからもシエラと琴未の潰し合いが続き、三回休みとなった昇も回復すると何とか総資産を増やそうとするが、ミリアが昇に対して『火口取引』を行使、昇も『カオス資金』でミリアとの取引を成立させて総資産を増やそうとするが、閃華が『スッパイ活動による内部告発』発動。昇とミリアの取引は失敗、更に総資産も削られる羽目になってしまった。これにより閃華が総資産で昇を抜き去り、一番の座を手にして、ゲームは更に続くのだった。



 ……更に三十分後……。



「って! もう頭に来たわっ! シエラ表に出なさいっ!」

「ふっ、その挑戦を受けて上げる。さあ、琴未、懺悔の時間っ!」

 すっかりゲームに熱くなったシエラと琴未がお互いにコントローラーを手放すと、二人ともリビングを飛び出して庭に出る。するとシエラは小規模で、滝下家とは反対方面に精界を展開させるのだった。なにしろ滝下家まで精界に包んでしまえば、今の昇達を巻き込んでしまうからだ。

 ちなみに、毎朝……では無いが、いつもように行われる朝食前のシエラと琴未の一戦は、滝下家の一角は取り込むものの、昇達を巻き込まないように、シエラが上手く精界を展開させているために昇達は巻き込まれる事は無いのだ。

 そのためか、すっかり小規模の精界を張る事に慣れたシエラが精界を築くのと同時に二人の姿が消える。なにしろ精界の外からでは、集中して目に力を集めないと精界の中を見る事は出来ない。だから、普通に見ている分には二人の姿が消えたように見えるのだ。

 まあ、説明はこれぐらいにして、すっかりゲームを放り出したシエラと琴未。この二人が抜けたために、このままゲームの続行が不可能になってしまった。そんな状況に閃華はやれやれとばかりに溜息を付き、昇は苦笑するしかなかった。そしてミリアはというと、いつの間にかゲームをリセット、再び三人だけで再開させようとしていた。

 そんな光景に昇は閃華に話し掛ける。

「閃華さん、なんと言いましょうか」

「んっ、どうしたんじゃ、昇?」

「いや……暇過ぎるのも考え物なのかな~っと思って」

「まあ、息抜きだと思って諦める事じゃな。それとも今から精界内に突撃するか? または、このままゲームを再開させるかのどちらかじゃな」

「……素直にゲームを再開させてください」

「まあ、無難な選択じゃな」

 昇の言葉に苦笑する閃華。そんな二人を放っておいて、ミリアがすっかり最初のスタート画面から新たなるゲームを再開させるために、既にスタートをしていた。そんな事もあり、シエラと琴未を除いてゲームは再開される事になった。

 そんな中でも昇はちょっとだけ目に力を集中させると精界の中を覗き見る。そこにはすっかり破壊された建物と本気でぶつかり合うシエラと琴未の姿がはっきりと見えた。そんな状況に昇は溜息を思いっきり付く。それから思うのだった……今回は巻き込まれなくて本当によかったと。

 そんな感じで昇達の日曜日は過ぎて行くのだった。



 同時刻、某ホテルの一室。

「うん、う~ん」

 薄い掛け布団を軽く払いのけながら春澄は生あくびをしていた。どうやら、今頃になってやっと起きたみたいだ。けれども、仕方ないだろう。春澄にとって昨日の戦いはかなりの負担が掛かっていたし、春澄も自分の生命力を削る事になってしまったのだから。そのため、春澄の体力を回復するために睡眠時間は段々と長くなってきているのだ。

 そんな状況の中でアルビータがルームサービスを頼むと、そのまま春澄の着替えを手伝ってやる。命の活性が使えない普段の生活では春澄は盲目のままなのだから仕方ないだろう。そのため、すっかり手馴れた手付きで春澄の着替えを手伝ってやるアルビータ。最も、春澄も先天性の盲目だ。目が見えていない事には慣れている。だからアルビータは着替えを取り出し、それを春澄に渡すだけで、春澄は充分に自分の事が出来た。

 そして春澄の着替えが終わる頃には、先程アルビータが頼んだルームサービスが届いたようであり、アルビータはそのままチップを渡すと、後は自分でやるかのように台車を春澄のところまで運んでいくのだった。一方の春澄は匂いで何が届いたのかが分かったのだろう。匂った物を言葉にしてアルビータに尋ねる。

「うどん?」

「あぁ、消化の良い物の方が身体には良いと思ってな」

 素っ気無いアルビータの言葉に、春澄はベットから両足を投げ出すと少しだけ不貞腐れたように呟くのだった。

「何か、今は何も食べたくないよ」

「そんな事は分っている。それだけ生命力が低下するのと同時に生命を維持する機能も低下している証拠だ。だが、それでも何か食べておかないと更に生命力を削る事になってしまうぞ。我らの最後が近いのだから。今はしっかりと食べて、最後の戦いに備えておくのが良い事は確かであろう」

「う~」

 アルビータに諭されて唸る春澄。どうやらアルビータが言った事は確かなようだ。春澄は生命力が低下しているからこそ、生命力を維持しようという機関までも弱っているのだ。そのため、食欲が出ないのも仕方ない事だろう。それでも、しっかりと食べておかないと春澄の命は自分達が望んだ前に尽き果ててしまう。

 それに昨日の戦闘で体力が低下しているのも確かだ。だからこそ、春澄は余計に食欲が出ないのだろう。それでも、アルビータの言ったとおりだと分っているからこそ、春澄はアルビータから箸とうどんの器を貰うと、そのまま麺をすするのだった。

 そんな春澄が食事をしながらアルビータに話し掛ける。

「はぁ、今日はもう動きたくないよ」

「まあ、昨日の戦闘が思っていた以上に響いていいるようだな。私としても、あの少年があそこまでの力を有しているとは思っていなかった。それだけ手強い敵を相手にして勝ったのだ。その代価として、その倦怠感は仕方ない事だろう。だから今日はゆっくりと休むと良い」

 そんな事を言って来たアルビータに春澄は気だるそうな返事を返すと時間を聞いてきた。そんな春澄にアルビータは既に午後になっている事を告げると、春澄は一気に食べ尽くした、うどんの器をアルビータに突き出すと、そのままベットに横になり、アルビータに話し掛ける。

「じゃあ、アルビータ、夜になったら起こしてね」

「あぁ……眠れないのか?」

 春澄は横になったものの、気だるさはあるものの、そのまま寝る気にはなれなかった。いや、正確にはそのまま寝てしまう事が不安だったのだ。だからこそ、春澄はアルビータの方へ、手を伸ばすとアルビータは春澄の手を優しく包んでやるのだった。

 そんなアルビータの温もりを感じながら春澄は正直な気持ちを口にする。

「ちょっと前からかな、少しずつ不安になってきたんだよ。もし、このまま寝たら、もう二度と目が覚めないかもしれないって。今までは、そんな事を考えもしなかったのに……昇さんと出会って、楽しい時間を過ごして、そして楽しい知り合いが沢山出来ると……急に不安になってきたんだよ。私はもう……こんな楽しい時間は過ごせない、もう消えるしかないんだなと思うと……怖くて、不安で胸が押し潰されそうになるんだよ」

 そんな事を言って来た春澄が片方の腕を目に当てる。アルビータには春澄が涙を流している事はしっかりと分っていた。だが、その事に触れる事無く、アルビータは優しい声で春澄に話し掛けるのだった。

「それは当たり前の事だろう。春澄は今まで何も持ってはいなかった、持とうとはしなかった。だからこそ、自分の終焉に不安も恐怖も感じる事が無かった。それだけ、春澄が生きてきた時間は春澄に何も与えてくれなかったのだ。だが、あの少年と出会って、春澄は初めて失いたくないと思えるものに触れたのだ。だからこそ、自分の命が消える事を恐れるのは当然とも言えるだろう。だから何も恥じる事も動じる事も無い、怖ければ怖いと言えば良い、不安なら不安だと言えば良い。それが普通の事なのだからな」

 そんなアルビータの言葉を聞いて春澄は一つの質問をしてきた。

「アルビータは……怖かったり、不安にはならないの?」

 その質問にアルビータは瞳を閉じると、今まで過ごしてきた虚無の時間を思い出し、それが示した意味を改めて感じると、はっきりと答えてきた。

「私は長く生き過ぎた。だから恐怖も不安も無い。だから自分が思った最後を迎える事だけを考えられる。だが……春澄は幼すぎた。自分の生まれ方さえ違っていれば、春澄は自分の命に終わりを迎えたいとは思わなかっただろう。そして、今と同じように、失われると分っている命に恐怖と不安を抱いただろう。それが命というものだ」

「そっか……そうだね。私の目が普通に見えてれば、私は自分自身を終わらせようとは思わなかったよね。でも、私の人生は私に最初から普通を与えてくれなかった。だからこそ、私は自らの終わりを望んだ。でも……普通に生きる事が出来れば、私はそんな事を望まなかったし……もっと、違う望みがあったかもしれないね」

「そうだな、だが……私と契約したからには……結末は変えられない」

 そんなアルビータの言葉に春澄は涙を拭うとアルビータに向かって微笑みながら話を続けてきた。

「私も……今から結末を変えようとは思わないよ。アルビータと契約したからこそ、私は自分自身が望んだ生き方が出来た。だから後悔はしない……けど、この不安で怖い気持ちも消し去る事が出来ない」

 アルビータは春澄のベットに腰を掛けると、そのまま春澄の頭を優しく撫でてやりながら話を続ける。

「それで良い、そう思う事が普通なのだから。誰だって、自分の命が消える寸前だと分かれば不安で怖いだろう、それが命というものだ。だから命が失われる事に恐怖するのも、不安になるのも普通の事だ。春澄は今まで命を感じる事をしなかったし、感じる機会が無かった。だが、あの少年と交流した事で春澄は初めて、命の活性を使わないで命を感じる事が出来た、自分が生きているだけで大事だと感じる事が出来た。それはとても良い事だ。だから、今になって恐怖するのも、不安になるも当然の事だ。春澄は……それだけ命に、生きるという事を知ったのだ。それは遅すぎたのかもしれないが、春澄にとっては良い事なのは確かだ」

「そっか、そうだね」

 春澄はそのまま寝返りを打つと、両手でアルビータの手を握り締める。その手は、あまりにも小さく、あまりにも弱弱しいと言えるだろう。それぐらい、春澄の手は小さいのだ。

 それでも、春澄は今になって後悔はしない。それは春澄がアルビータと生きてきた時間こそが生きてきた証拠なのだから。施設で無為に生きているよりも、命を削ってでも自分の望みを少しでも叶えてきた事に春澄は自分が生きている事を、生きる意義を感じてきた。それは春澄が今まで望んでも叶わない事だったのだから。だが昇との出会いが命の終わりが近づいているほどに春澄は生きるという事が大事になってきていたのも確かな事だと言えるだろう。

 確かに命ある限り、長く生きる事は大事とも言え、子孫を反映させる事も生きる上では最重要事項と考えるのも大事だろう。だがっ! 長く生きるだけで、何もしない事に何の意味があるのか。それだったら、命を削ってでも、生きている事に何かを成すのも最重要事項と言えるだろう。

 結局のところ、この場合は前者も後者も正しいものであり、間違っているものである。全ての物が白黒はっきり分ける事が出来るほど、世の中は単純ではないという事なのだろう。だからこそ、最後は自分で決めなければいけないのだ。いかに生きるか、どんな生き方をするかを……。

 そして春澄の出した答えはこれだ。だからこそ、後悔はしない。けれども、生きている限りは、いや、生きている事に大事な物を見つけたのだとしたら……春澄が命が終わる事に恐怖するのも、不安になるのも当然の事だと言えるだろう。だからこそ、アルビータの手を握り締めた春澄はしっかりと言葉を口にする。

「でも、私は昇さんとの戦いは絶対に止めない。最強の敵と戦いの中で終わる事がアルビータの願いしだし、私は昇さんを……ううん、生きている上で大事な存在になりそうな昇さん達をしっかりと見詰めたい。最後の最後まで、それが……たった一つだけ、私がやりたいと思った事だから。だから戦い続けるよ、私も……絶対に……後悔だけはしたくないから」

「あぁ」

「でも、それでも、やっぱり怖いし、もっと違う出会い方をしたかったというのは私の我がままなのかな? そんな事を思っちゃいけないし、今になって怖がっちゃいけないのかな?」

「春澄、世の中が自分の思い通りに、むしろ、自分が思った事以上に悪い方向に進む事があるのは春澄は良く分かっているだろう。だから、それで良いんだ。怖いと思う事も、違った人生があったかもしれないと思う事も、それは誰にでも許されている事だ。その中で人も精霊も自分の命をどう使うかは自分で決めないといけない。どんなに理不尽な事があったとしても、どんなに裏切られたとしても、それが自分で決めたものなら後悔はしてはいけないし、春澄はそれに打ち勝つ事が出来ている。だから、今はそれで良いんだ」

「そう……なのかな?」

「あぁ、命の精霊である私が言うのだから間違いないだろう」

「そっか、そうだよね」

 そう言うと春澄はアルビータに向かって微笑んだ。

 どうやら春澄も分かったようだ。今、自分が抱えている気持ちこそが生きたいという気持ちであり、この気持ちがあるからこそ生き続ける事が出来るのだという事を。けど、同時に逆の事もしっかりと考えていた。

 生きたいと思うからこそ、その生を価値ある物にしたい、その結果として……命を削る事になったのだとしても。だからこそ、春澄はしっかりと前を向いて終焉に向かって歩く事が出来る。春澄は自分が生きているという価値を無にしたくはないのだ。それどころか、逆に命をしっかりと感じ取れる今だからこそ、自分の人生を最高だと思える物にしたい。命が尽きる時に……自分が生きてきて良かったと思えるように。

 それでも、生きているからには生への執着があるのも確かだ。だからこそ、春澄はアルビータに少しだけ甘えるのだった。

「少し、眠るね。だからアルビータ、時間になったら起こしてね。今日は大事な約束があるから」

「あぁ、分っている。だから心配するな、ゆっくりと休むが良い」

「うん、じゃあ……そう、するよ」

 その言葉を最後に春澄は寝息を立て始める。春澄がアルビータと契約をし、今までいろいろなところを見て、春澄は自分の生を実感した。そんな春澄の生き方を誰が否定できるだろう。答えは否である。春澄が決めた人生だからこそ、選ぶ権利は春澄にある。全ての決定権は春澄が持っており、春澄はこの生き方を決めた。だから、誰が何と言おうとも春澄の生き方を否定する事は出来ない。自分が持っている命の使い方を決められるのは自分だけだから。

 それでも、春澄は幼すぎた。未だに子供とも言える春澄の年齢で、このような生き方を決めるのには相当な覚悟があったのだろう。だからこそ、アルビータは春澄と契約をしたのだ。それこそが、二人の始まりであり、二人にとって終焉に向かうために歩き出した証拠なのだから。

 だからこそ、アルビータはしっかりと決めていた。アルビータの願いは先程も春澄が言った通りに戦いの中で満足が行く戦いで終わる事だ。だが、アルビータの中には、もう一つの願いが生まれていた。それは……春澄がしっかりと笑って、終わりを迎える事が出来るかである。

 そして願う事なら……春澄が笑顔で終わりを迎えられる事を……。






 さてさて、今回はなるべく早く更新できたと思っているエレメですが、如何でしたでしょうか?

 今回は前半は明るく、後半は暗い展開になってますね。そんな明暗を付けてみました。まあ、書いてたら自然とこうなっただけなんですけどね~(笑)

 まあ、これはこれで有りかと思って、そのまま勢いに任せて行ってみました。まあ、少し緊張感がある話が続きましたからね~。昇達の小休止という事で、ちょっと日常的な部分を入れてみました~。

 そんな昇達とは反対に春澄は深刻ですね。まあ、春澄は春澄なりに悩まないといけないんですよ。理由は本編に書いてあるので省略。

 という、感じになったエレメですが、次回から一気に物語を加速させようかな~、とも思っているんですけどね~。まあ、それは昇次第になってきますね~(笑)

 そんな訳で終盤に向かっての小休止とも言える本話ですが……あのゲームは一体何なんだろう? と私も思ってしまうほどです(笑) まあ、勢いだけでやるにしても限度がある、というか、勢いだけで作ったゲームですからね~。かなり、怪しげなカードが沢山ありそうですね。

 ちなみに、このゲームは開発予定はされていません(笑)

 いや、だって……なんかさ、開発側がいろいろと問題が起きそうじゃん。というか、開発側が怪しくないと開発されないソフトですね(笑)まあ、クソゲーとして名を残すのは確かかもしれませんがね(笑)

 そんな訳で、小休止として書いた話ですので、あまり後書きでははっちゃけません。少しおとなし目に行った後書きですが、そろそろ締めようかと思っております。いや、だって……ネタは使い切ったし、もう書く事が無くなっちゃったから。っと、いう事で。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、残暑の風は強いな~、とまったく関係無い事を思っている葵夢幻でした。

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