第百三十七話 意地とプライド
「ショットッ!」
ゆっくりと姿を現したアルビータに対してフレト達はすぐに行動を開始した。とは言っても、半蔵が投げ付けた丸い玉を、フレトが風の属性で速度を強化して、一気にアルビータに向けて打ち込んだ。
その程度の攻撃だからこそ、アルビータもツインクテラミノアの片方で丸い玉を叩き潰すと、すぐに突風がアルビータに叩きつけられ、そのまま風はアルビータの周りに霧散して行った。けれども、いつの間にかマスターランスからマスターロッドに武器を切り替えていたフレトが姿を現したアルビータに対して、何事も無かったように話を始める。
「精界を張った時といい、今回といい、随分と手荒い来訪が好きみたいだな」
「私とて事は穏便に運びたい。だが、我々には時間が無いのでな、どうしても手荒くなってしまう。そこは勘弁願おうか。それに、争奪戦は戦いだ、戦うからには全力を尽くすのが相手に対する礼儀でもある」
「確かにそうだな。最も、命の精霊とその契約者が争奪戦で正々堂々とは言えないぐらいの力を発揮してるようだからな。そんな力を見せ付けられては、こちらも愚痴を言いたくなるというものだ」
「だが、どんな力でも力には変わり無い。そして戦いとは力のぶつかり合いだ。そこに卑怯も卑劣も無い。むしろ戦いの中で策として卑怯卑劣な策を使っている訳では無いのでな。固有している力に対して文句を言うのは筋違いというものだろう」
「なるほど、確かに、その通りだな。お前達はここに来てから、自分達の力を駆使して正々堂々と戦っていた。その点だけは認めよう。だがな、俺達が策を使わないと限らないぞ」
「使いたければ使えば良い。どんな策だろうと、私の力で打ち破ってみせる」
「ほぅ、相当な自信だな。さすがは伝説の精霊と言われるだけの事はあるという事か。それで、その伝説の精霊が、なぜあのような少女と契約を結んだ。お前の力なら、あのような少女ではなく、もっと強い契約者も選べたはずだ。そこだけは理解できんな」
フレトがそんな言葉で話を結ぶと、アルビータは戦闘体勢を解き、ツインクテラミノアを床に突き刺すように持つと、まるで体中の力を抜いたように。そんなアルビータがゆっくりとフレトに向かって話を続けてきた。
「精霊とは……精霊は何のために存在している?」
「んっ?」
突然の質問にフレトは少しだけ困惑の色を見せて、それからラクトリーに相談するように振り替えるが、ラクトリーも首を横に振るばかりだった。だからこそ、フレトは再びアルビータと向き合うと自分なりの考えを口にする。
「俺は存在という言葉自体に意味があるとは思えない。そこに居る、そこにある、これだけは絶対的な真実であり、理由も要らない。だから精霊が何のために存在している理由なんて事は知らん。俺は、俺を慕って付いてきてくれる精霊が居るだけで充分だ。それが俺の答えだ」
そんなフレトの言葉を聞いて、アルビータはしっかりとフレトの顔を見詰めると、軽く笑みを浮かべるのだった。それから、こんな言葉を口にする。
「なるほど、お前達の主は相当の器を持っているようだな。確かに、貴殿は精霊達の主としては相応しいだろう。だがな、私はこう考えている。精霊は戦うために存在しているのであり、戦わない精霊に意味は無いと。戦いこそが我が存在を確かめる唯一の手段だからだ」
アルビータの言葉を聞いて後ろからレットが文句を言いそうになるが、フレトがそれを止めると再びアルビータとの会話を続けた。
「つまりお前は戦うために自分の存在意義はあると、そう言いたい訳だな。随分と荒っぽい考えだな。戦う事でしか己を存在を確認できないのか」
「ふっ、その通りかもしれんな。だからこそ、私は戦いを求める。強き者と知勇の全てを掛けた戦いこそが私が存在していると確認させてくれる。強き者との戦いだけが……私を満たしてくれる。だからこそ、私は戦うのだ。そう……終焉まで」
「また終焉か、その言葉を聞く限りでは、お前はまるで死ぬために戦っているように聞こえるが、それもお前の望みか? 命の精霊とは思えない言葉だな」
「……命の精霊か、お前達には分からないだろう、私が命の精霊として生を感じない生き方を余儀なくされた事に。それ故に私は終焉を求めるのだ。延々と続く無為な日々を終わらせるように、それは川の流れが無くなるように、命の精霊として、命の終焉を」
「あぁ、分からんし、分かろうとも思わない。お前が俺の屋敷に進行して来た時点でお前は敵だ。そんな敵の心中まで理解してやるほど、俺は甘くないのでな。もっとも、滝下昇なら、どう出るかは分からんがな。だが、俺には俺のやり方がある。だからこそ、ここは俺のやり方を貫くまでだ」
「ふっ、よかろう。ならば、そのやり方を貫いて見せよっ! 私はそのやり方すらも打ち砕いて前へ進もうではないかっ!」
アルビータはそう叫ぶと再びツインクテラミノアを構える。けれども、フレトの方はアルビータと違って戦闘体勢には入らずに、フレトはアルビータを鼻で笑うかのような仕草をして見せた後に話を続けてきた。
「まったく、短気だな。最も、そのように短気で猪突猛進するなら、こちらも罠を仕掛けやすいというものだがな」
「ならば、私はその罠ごと破壊して猛進しようではないか」
「言ってくれるではないか。だがな……俺の仕掛けた罠は一筋縄ではいかんぞ。最も、すでに遅いかもしれんがな。良いだろう、そこまで戦いを望むのであれば」
フレトは再びマスターロッドからマスターランスの姿にエレメンタルウェポンを変えると、口元に笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「お前が望むとおりに、俺の知勇を全て賭けて戦おうではないか。さあ、見るがいいっ! これが俺の全てを賭けた知勇だっ!」
「ならば……参るっ!」
フレトの挑発的な言葉にアルビータも戦闘体勢に入っていたので、その場から一気にフレト達に攻撃を仕掛けようとする。だが、アルビータの身体はアルビータが思ったようには動いてはくれなかった。
そんなアルビータを見下すかのようにフレトは鼻で笑うと、アルビータに向かって自分が仕掛けた罠について説明してやるのだった。
「やはり猪は猪だな。二度も同じ手段に掛かってくれるとはな。もっとも、それがお前にとって最大の弱点だといえるけどな」
「……なにをした?」
今では腕一本すらまともに動かないアルビータは、自分の身体に起こった異変がフレト達の策略である事は分っている。けれども何をしたかまでは分ってはいないようだ。だからこそ、アルビータはフレトに問い掛ける。まるで何事も無いように。
そんなアルビータに対してフレトは見下すように説明してするのだった。
「契約後の精霊はエネルギーの結晶体から具現化した人間に近い体になる。そうなると、当然のように神経や血管などが生まれるというわけだ。もっとも、精霊世界でも同じような身体の構造みたいだが、人間世界では、そうした細かなところまで人間のように近く再現される。だからこそ、このような策も通じるという訳だ」
「神経系の毒か」
「ご名答」
アルビータの答えにフレトは嫌味な笑みを浮かべる。まあ、それもしかたないだろう。なにしろ、先程まではまったく歯が立たなかったアルビータに一矢報いたような物だ。だからこそ、フレトはそんな笑みを浮かべたのだ。
それに自分の作戦が上手く行った事も関係があるだろう。フレトの作戦が開始されたのは、アルビータが姿を現した時だ。フレトは半蔵に命じてあった毒の入った玉を投げさせると、フレトは風を操りアルビータに放つ。アルビータの性格から考えても、その程度の事は避けるよりも粉砕する方を選ぶだろうと考えた結果だ。
そのため、玉の中に仕込んでいた神経系の毒がアルビータの周囲に広まる事になってしまったのだ。だが、フレトが考え出した作戦は更に悪辣だった。そこから、アルビータに気付かれないように風を操り。常にアルビータの周囲に毒の粉を留め、アルビータに吸い込ませるように風の滞留で毒を吸い込ませたのだ。
アルビータもかなり油断していた部分もあったのだろう。だからフレトが風を操っている事にも気付かなかったし、半蔵が投げてきた玉の意味にも気にもしなかった。そこに毒が霧散しないようにフレトが風を操っていたのだ。これはアルビータの油断とも言えるし、フレトが言ったとおりにアルビータの弱点とも言えるだろう。
アルビータの性格から考えて、小手先の策や戦術よりも、力や勢いを使った突撃戦を好む所がある。それがアルビータの弱点とも言えるだろう。フレトは先程のアルビータとの攻防戦で、アルビータの性格と好む戦い方をしっかりと見抜いていたのだ。だからこそ、アルビータと対峙すると決めた時点で、半蔵にそのような用意をさせておいたのだ。アルビータの弱点を考慮に入れて立てた作戦だ。ここはフレト達の策が一枚上手だった事は確かだろう。
そんなフレトの作戦も効果を見せ、アルビータはツインクテラミラノを地面に突き刺し、振るえてる足で何とか立つのがやっとだ。だからこそ、フレトも作り出した好機を逃さないために、再びマスターランスに変えて手にすると、精霊達に一斉に攻撃を仕掛けようとするが、そんなフレト達を見てアルビータは大きく笑い声を上げた。
この状況、アルビータにとっては絶対的に不利とも言える状況で笑ってきたのだ。だから、アルビータには、まだ何かしらの力があるとフレト達は攻撃をせずに成り行きを見守る事にした。今の状況で攻めてもアルビータに充分なダメージを与えられるだろう。
だが、アルビータが何かしらの力か策で状況を反転してくる事も充分に考えられた。ならばとフレトは先に情報を引き出してからの方が良いと判断したようだ。だからこそ、フレトは攻撃に出ようとしていたレットを制すると、様子を窺う。どうやら半蔵とラクトリーは最初からフレトの考えと同じようだ。だからこそ、フレトが制止するまでもなかった。そんなフレト達を見て、アルビータはとんでもない事を言い出す。
「私が命の精霊と気付いているのなら、契約者の能力も分かっているはずだな。ならば……そろそろ本気で使う事にしようか、春澄の能力をな」
「なっ!」
アルビータの言葉に驚きを示すフレト。それはそうだ、アルビータの言い方では、先程の戦いでは春澄の能力、つまり命の提供を使っていない事になる。そうなると、命の提供も無しで、あれほどの力を見せてきたのだ。もう、アルビータの力がどれほどの物か分かったものではない。
けれども、そんなアルビータの言葉に驚きながらもフレトは思考を素早く巡らすと、一つの答えを導き出した。それならば、先程の攻防がフレト達を優位に立たせていた理由にも納得が行くというものだ。
だからこそ、フレトは答え合わせをするかのようにアルビータに尋ねる。
「そうか、お前も、いや、お前達も……完全契約か?」
「そうだ。春澄の力でお前達も完全契約をしている事は知っていた。だからこそ、初戦は防戦に回ったのだ。お前達の力を完全に見極めるためにな」
「なるほどな、精霊感知能力者はそこまでの事が出来るのか。ならば、こちらの情報はすでに知っていても不思議ではないというわけか」
「その通りだ。私一人でもある程度の事は調べられるが、春澄の力を使えばより詳しく調べる事が出来た。だからこそ、ここ数日はお前達の事を調べさせてもらった」
「なるほどな、事前にそこまでの準備をしておいたとなると……この状況すらも打破できる手段があるというべきか」
「その通りだ。さあ、見せてやろう。だから存分にかかって来るが良いっ! 完全契約で結ばれた我らの契約と、命の契約者が持つ能力を最大限に見せてやろうっ!」
アルビータがそう叫んだ途端にアルビータは何かを振り切りようにツインクテラミラノを数回振り回す。その事にさすがにフレトも驚きを隠せなかった。なにしろ、今のアルビータには神経系の毒が回っているはずだ。
その毒はアルビータの身体を動かす神経系統にまで達して、麻痺させて機能停止に近い状態にしてあるはずだ。だが、アルビータは、そんな毒を振り払うかのようにツインクテラミラノを振り回してきたのだ。まさか、神経系の毒までも効かないなんてフレトにとっては大誤算だ。
一方のアルビータは驚いているフレトに向かって笑みを浮かべると、ツインクテラミノアを構えて口元に笑みを浮かべながら、驚いているフレトに何をしたのかを説明し始める。
「残念だったな、少年。命の提供は精霊の方で発動するタイミングと場所を選べるのさ。だから毒で麻痺している体性運動神経を強化して、毒を跳ね返すほど限界突破をすれば、毒なんて物は意味が無い。それだけではない、少年が言ったとおりに精霊が具現化した時には、身体が人間に近づく。すなわち、戦闘には使わない神経を切り離し、反射神経などの神経を強化する事が出来る。実際に今の私には色を識別出来ないからな、神経の操作なども命の提供もってすれば簡単な事だ」
「まったく、どこまでも卑怯すぎる力だな」
「故に私は孤独なのだ」
最後のに発したアルビータの言葉が何を意味しているのか分からないのだろう、フレトは首を傾げるばかりだが、他の精霊達は既に戦闘体勢に入っている。特にラクトリーと半蔵はかなりアルビータの動きを警戒しているようだ。それはアルビータの言った事が、どれだけの力を発揮するか分かっているからだろう。
繰り返すようだが、精霊は契約すれば肉体が具現化して人間世界に身体を持ってこられる。その時に発生するのが肉体の人間化。つまり、細かな神経などが生み出され、精霊も人間と同じく呼吸をするのだ。
精霊世界ではエネルギーの結晶体である精霊だからこそ、肉体があっても、食事を取る必要も無いし、呼吸をする必要も無い。精霊世界で精霊の生命を維持しているのは、人間世界から送られてくる、自分の力となるエネルギーなのだから。
そのエネルギーは信仰、憧れ、理論、自然、倫理などだ。それら生命の営みや、人間の心と考えが生み出したエネルギーが精霊世界へと流れ込んで、その精霊を生み出し、精霊として存在する力、つまり命を与えているのだ。
だからこそ、精霊世界での精霊は人間とは違い、あまり肉体的に複雑な構造を持ってはいない。だが、一度契約をすれば、その身体は人間に近づき、神経を始め、血管や呼吸器官などが形成されるのだ。そのため、精霊達は人間ほど肉体構造には疎いのだ。
だが、半蔵やラクトリーのように、長年生きてきた精霊は、その点をしっかりと理解している。だからこそ、アルビータが言った事が分かったのだ。
一口に神経と言っても様々な物がある。それは内臓運動を維持する物だったり、肉体を動かす物だったり、感覚をつかさどるものだったりする。そんな、幾つもある神経の中から、戦闘にはあまり役に立たない神経を切り離し、別の神経を強化するという事も可能なのだ。
簡単な例を上げると、良く交通事故で突然、周辺がスローモーションのように感じるという話を聞いた事はあるだろう。それは事故で危険を察知して、少しでも危険回避するために聴覚や識色、視覚が切り離されるからだ。つまり、危険を回避するために必要が無い、これらの神経を切り離す事で、他の神経を高めて危険を回避出来るようにする防衛本能である。
これらは実際に自由自在にやろうとしても出来る物ではない。だが、今のアルビータは自由にそうした神経を切り離し、戦闘に必要な神経を強化している。そこに命の提供で春澄から注ぎ込まれた命が、さまざまな戦闘器官を高めているのだ。
それはつまり、今のアルビータは先程とは比べ物にならない力を発揮してくるという事だ。それが分っているからこそ、ラクトリーと半蔵は警戒を強めるが、フレトには報告しなかった。いや、正確には出来なかったのだ。今の時点で隙を見せれば、アルビータは容赦無く、襲い掛かって来るだろう。だからこそ、ラクトリーも半蔵も黙って成り行きを見守るしかないと判断せざる得なかった。
それでもラクトリーは最低限の事を小声でフレトに伝える。
「マスター、お気をつけください。今のあの精霊は、先程とは比べ物にならないほどの力を発揮してくるはずです。なのでマスター、慎重に」
そんなラクトリーからの忠告をフレトもアルビータを更に警戒しながら思考を巡らす。
ラクトリーがそこまで言うほどの相手だ。ここは、先程の戦闘経験を無視して、新たな敵と対峙すると考えた方が良さそうだな。だが、相手の性格まで参考にしないのは愚かだろう。となると……取るべき手段は一つだけか。命の提供が無制限では無い限り、戦っていれば必ず契約者の命が尽きる。突くとすれば、そこしかないな。後は……俺達がどれだけ、この化け物と戦えるかだ。
そう判断したフレトが全員に命令を伝える。
「皆、俺の傍に集れ、とにかく密集して、お互いに補える位置を取れっ!」
『はっ』
フレトがそんな命令を下すと、ラクトリーと半蔵はフレトの左右を固める。そしてフレトの真上にはレットが抑えていた。これで、どこからアルビータの攻撃が来ても対処できるとフレト達は判断をしただろう。だが、相手はフレト達が思っている以上に化け物といえる物だった。
アルビータはフレト達が戦闘体勢に入った事から、フレト達の陣形を見て、防戦に持って行き、春澄の命を少しでも使わせる気なのは間違い無いと判断した。だからこそ、ここは春澄の命を無駄に消耗しないためにも一気に攻勢に出た。
フレト達も充分にアルビータを警戒していた。けれども、そんなフレト達の前から突如としてアルビータの姿が消える。いや、正確にはアルビータの動きを誰も追えなかったのだ。そしてフレトの真上から衝撃音が発するのと同時にレットが玄関ホールの奥にある大階段に向かって弾き飛ばされていた。
何が起こったのかレット自身も分からないし、フレト達にも分からないほどのスピードだった。だが、こうして一度止まったからには次の動きはしっかりと見えるし、こちらからの反撃も充分に出来る。だからこそ、半蔵はワザと未だに空中に居るアルビータに向かって跳び上がった。
もちろん、アルビータにも半蔵の動きはしっかりと見えていた。だからこそ、ツインクテラミノアの片方を振るい、そのまま半蔵をレットと同じく弾き飛ばそうとするが、今度は半蔵の方がアルビータの攻撃が当たる前に消えたのだ。
そして半蔵に注意を向けていた事を最大限に活かすためにラクトリーがアースブレイククレセントアクスを思いっきり振り出す。さすがに半蔵の行動によって虚を突かれたのだから、少しは反応が鈍くなり、確実にダメージを与えられるとラクトリーは思っていた。
けれども、実際にはラクトリーのクレセントアクスは、もう片方のツインクテラミノアによって防がれるどころか、振り下ろされたツインクテラミノアによってアースブレイククレセントアクスごとラクトリーを床に叩き付けたのだ。そのため、ラクトリーはクレセントアクスで防いだものの、思いっきり床に叩きつけらて床を転がる事になってしまった。
けれどもフレト達の攻撃はここで終わりはしない。ラクトリーを完全に叩いた事により、両方のツインクテラミノアは使えなくなったのも同じだ。それを見越したかのように、アルビータの背後から空間が切り裂かれると半蔵が姿を現し、そのまま空斬小太刀でアルビータの首筋を狙って一気に前に突き出す。
ここまで相手の隙を突いたのだ。半蔵も確実にダメージを与えられると思っただろう。だからこそ、空斬小太刀はアルビータの首筋を確実に斬り裂くと思っていた。だが、そんな半蔵の目の前からアルビータの姿が消えると、いつの間にかアルビータの蹴りが半蔵の脇腹にめり込んでいた。どうやらアルビータは空中で身体を捻ると、その勢いを使って半蔵に蹴りを入れてきたようだ。そこからアルビータは、そのまま蹴り抜いたので、半蔵は蹴り飛ばされる形で玄関ホールの左側の床に叩きつけられる事になってしまった。
驚くべき事は、アルビータはこれだけの行動を最初にレットを弾き飛ばした時から、床に着地するまでに行ったという事だ。それは決してラクトリー達の反応や攻撃が遅いワケでも無いし、見当違いな場所に向かって放ったわけではない。確実な攻撃をしても、アルビータは、それを避けて、尚且つ反撃してきたのだ。その間の攻防は五秒も経っていないだろう。
だから突如として目の前に着地したアルビータの姿を見て、フレトは思わず反応が遅れてしまった。やはり遠距離戦を得意としているフレトでは、接近戦でのハイスピードな攻防には、まったく付いていけないのだろう。
そのためフレトは驚きの表情をおり、隙だらけである。そんな隙をアルビータが見逃すワケがない。フレトが驚いている間にツインクテラミノアの片方でフレトを強打するアルビータ。ここでも斧の刃ではなく、腹の方で叩き付けたので、斬撃というよりも打撃といった感じだ。けれども、フレトはそんな事を感じる前に、弾き飛ばされた事にやっと気が付いた。しかも強打を思いっきり喰らったので身体中に激痛が走り、そして次の瞬間には玄関ホールの柱に身体を叩きつけられ、フレトの意識は一瞬だけ沈むが、痛みと意地とプライドがなんとかフレトの意識を引き上げる。
まさに一瞬の出来事である。アルビータは十秒も経たない内に全員にダメージを与えたのである。しかも全員に強烈な一撃を入れたのだから、スピードといい、攻撃力といい、かなりの物だと言えるだろう。
けれどもフレト陣営も黙ってやられるほどヤワではない。最初に攻撃を受けたレットが、上空からではなく、床スレスレの低空飛行で一気に突っ込んで行った。確かに、これならばアルビータがツインクテラミノアを振る前に、一撃を入れて離脱する事も可能だろう。けれども、アルビータはレットが考えているよりも想定外のスピードを見せたのだ。
なんとアルビータはハイスピードで突っ込んできたレットを、タイミングを見計らって、そのまま片足を上げるとレットを踏み付けたのだ。その衝撃で床が大きく割れて、踏み付けた場所は大きく陥没する。
レットは爪翼の属性、つまり半分は翼の属性を持っているのと同じだ。だから翼の属性には敵わないものの、かなり翼の属性に近いスピードで突っ込む事が出来た。それなのに、アルビータはそんなレットのスピードを見極めたように、いとも簡単にレットが攻撃を入れる前に踏み付けたのだ。つまりレットのスピードを完全に見極めたといえるだろう。それは並みの反射神経では絶対に無理であり、アルビータの反射神経がレットのスピードよりも高い事を示している事の証明だった。
それでもアルビータはレットのスピードを厄介だと感じたのだろう。ツインクテラミノアの刃を立てると、アルビータはレットの翼を一振りで斬り落としたのだ。激痛がレットの背中を走って、レットは悲鳴に近い声を上げる。さすがに翼を斬り落とされては、レットといえども声を上げても不思議ではない。
そのため、レットの背中を血が赤く染める。それでも、レットは翼の属性を半分は持っている。時間が経てば再び翼を生やす事は出来る。だが、レットのダメージは決して軽くない。むしろ重症と言っても良いだろう。それほどまでのダメージを喰らった後に翼を斬り落とされたのだ、再び翼を生やすには時間が掛かるだろう。少なくとも今の戦いが行われている間に再生するのは不可能だろう。
そんなレットをアルビータは邪魔とばかりに玄関ホールの奥へと蹴り飛ばす。これでレットは戦線離脱と同じだろうとアルビータは判断しただろう。だからと言って、まだフレト達が負けたワケではないとばかりにラクトリーがいつの間にか接近して来ており、すでにクレセントアクスを振り出そうとしている。
そんなラクトリーの攻撃をアルビータはツインクテラミノアの片方で防いだだけだった。アルビータが反撃に出なかったのは、既にアルビータの上から落下してくる半蔵の姿を捉えていたからだ。
しかも半蔵の姿は一つでは無い、なんと半蔵の姿は四人になっていた。もちろん、本物の半蔵は一人、残りの三人は空の属性を使っての幻影である。半蔵は自分の身体を覆っている空間をコピーして、別の場所にある空間に映し出したのだ。正確には半蔵の身体を切り取る形で空間を切り裂き、そうして出来た半蔵の姿を、別の場所の空間に割り込ませたのだ。そうする事で、別の場所にある空間に半蔵の姿が写るというワケである。
片方ではラクトリーの攻撃を受け止め、上から来る半蔵にも対処しなければいけないのである。さすがのアルビータでも、ラクトリーの攻撃は対処が出来ても半蔵の攻撃までは対処できないとラクトリーも半蔵も思っていた。
だが、アルビータは空いている片方のツインクテラミノアを上方へ向けると力を解き放つ。その途端、半蔵の幻影は消えて、半蔵の姿は一人だけになる。その事に驚きを示すどころか、自分達のミスを悔やむラクトリーと半蔵。それでも半蔵は上からの奇襲を続行する。
そう、二人ともアルビータが無の属性を持っている事を忘れていたのだ。無の属性は属性の無効化、だから半蔵が空の属性を使って作り出した幻影もアルビータが放った無の属性で消し去られてしまったのだ。それでも、半蔵は少しでも勝機をと思い、空斬小太刀を突き出す。
だが、巨大なツインクテラミノアと半蔵の空斬小太刀では武器の間合いが違いすぎる。そのため、アルビータは半蔵がツインクテラミノアの間合いに入ると、そのまま半蔵に強打を与える。だが、さすがは半蔵と言ったところだろう。半蔵は空中で体勢を変えると、そのままツインクテラミノアの腹を蹴り、その勢いを殺し、自分に作用させるために身体を屈めると、そのまま一気に飛び跳ねる。
相手の攻撃を活かした見事な避け方である。けれども、これもアルビータがツインクテラミノアの刃ではなく、腹で打撃を加えてくるという憶測があったからである。やはり、アルビータは命の強奪を行うために、精霊達に致命傷を与えないためにも打撃で済ませていると半蔵もラクトリーも考えていた。
だからこそ、アルビータの攻撃が打撃だけなのは予想済みだ。それだけでも分っていれば、少しは対処法があるというものだ。
一方のアルビータは半蔵の見事な動きでダメージを与えられなかったのだが、悔しい顔はしなかった。むしろ、それぐらいはやってもらいたいぐらいという感じで軽く笑みをこぼしていたほどだ。そんなアルビータが半蔵をを叩き損ねたツインクテラミノアでラクトリーを叩きに来た。
そこでしかたなく、ラクトリーは後方へ下がろうとするが、いつの間にかツインクテラミノアとクレセントアクスがお互いの斧と柄の間に入り込み、すっかり二つの武器は絡み合う状態になっていた。おかげでラクトリーはその場から動く事が出来ず、何とか絡み合う武器を外そうとして、外れた時にはすでに遅かった。
片方のツインクテラミノアがラクトリーの身体を宙に舞い上げるように打撃を加えると、もう片方のツインクテラミノアがラクトリーを力任せに、空中に舞い上がっているラクトリーの身体を容赦無く地面へと叩きつける。そのため、ラクトリーは思いっきり吹っ飛び、遠くにある玄関ホールの壁に叩きつけられ、壁にはヒビが入った。それだけでもアルビータの攻撃が苛烈を極めている事が分かるだろう。
これでラクトリーもすぐには動けないだろうと判断したアルビータは半蔵を探すが、攻撃を仕掛けてきたのは、予想外にもフレトだった。フレトは完全に自分から注意が外れている事を察すると、アルビータが半蔵を探すために背中を向けた瞬間に攻撃を仕掛けたのだ。
けれども、今のアルビータは微かな空気の流れや、肌から感じる気配を敏感に感じ取る事が出来る。だからこそ、アルビータは半蔵を探すのを中断してフレトの方へ向くと、そこにはフレトが既にマスターランスの連撃を放っていた。
先程はフレトのマスターランスが繰り出す刺突を全て防いでいたアルビータだが、今度はフレトの攻撃を全て避けきると、間合いに入ってきたフレトの顎を思いっきり蹴り上げる。蹴りの衝撃が大きかったのだろう。フレトは顎を上に空中に舞い上がった。そこにアルビータから追撃があるのはフレトも分かっている事だろう。それでも、フレトは何とか叫び声を上げて命じる。
「やれっ!」
その言葉と同時にアルビータはツインクテラミノアでフレトを叩き弾くのと同時に背中に痛みが走るのを感じた。そう、アルビータが完全に隙を見せる瞬間、つまり攻撃の時を狙って半蔵が背後から奇襲を掛けたのである。しかも、囮がフレトという契約者である。
まさか契約者を危険にさらしてまで奇襲を掛けてくるとは、さすがのアルビータも思わなかった。けれども、こうして奇襲が成功したのは事実である。半蔵の空斬小太刀は見事にアルビータの背中に縦一線の傷を付けることが出来た。
だからと言って、アルビータがまとっている重厚な鎧を切り裂いての攻撃である。傷は付けたものの、ダメージとしてはかすり傷程度の物だ。その程度の傷だからこそ、アルビータはまったく気にする事無く、すぐに振り向くと攻撃直後で床に膝を付いている半蔵の姿を目にするとアルビータはそのまま半蔵の腹に蹴りを入れて、半蔵の身体を空中に舞い上げる。
けれども相手は半蔵である、下手な攻撃は出来ないとアルビータはツインクテラミノアを握り締めた拳で半蔵の顔面に叩きつけると、そのまま半蔵を玄関の方へと叩き投げた。さすがの半蔵も、そんな攻撃をされては避ける事が出来なかった。だからこそ、半蔵は空中で体勢を立て直す事が出来ずに玄関の脇にある壁に、その身を叩き付けて、そのまま外まで飛ばされてしまった。
これで全員倒したとアルビータは思っただろう。けれども、再び自分の背中に痛みが走るとアルビータはすぐに振り向く。そこには傷付きながらも、思いっきりテルノアルテトライデントを振り下ろしたレットの姿があった。
そんなレットがアルビータを見ながら、笑みを浮かべつつ言葉を口にする。
「あまり俺達をなめるなよ」
レットは翼を斬り落とされただけでなく、かなりのダメージを負ったというのに、ここで更にアルビータの隙を付いて攻撃をしてくるとは予想外な事だった。そのため、普段なら無の属性でレットの攻撃で特長とも言える爪の属性を無効化するところなのだが、完全に不意を付かれたために、無の属性を発動させる間も無く、レットの攻撃を受けてしまったのだ。レットの爪の属性、切れ味を増加させて、かなりの硬度でも切り裂ける、という利点を利用して見事にアルビータの鎧を切り裂き、背中に傷を残す事が出来たのだ。
レットはダメージ量から既に戦闘不能でもおかしくはないのだが、まかさ、ここに出てくるとはアルビータも思いも付かなかった。レットとしても素直に寝ておきたい気分だったが、フレト達が戦っているには、自分だけがみっともない姿だけで終わらせるのが癪だったため、気力だけで立ち上がったようなものだ。
そのため、レットの呼吸は荒く、何とかテルノアルテトライデントを掴んでいるのがやっとだった。そんなレットに対して容赦無く、攻撃を入れようとするアルビータ。だが、レットに攻撃を入れる前にラクトリーがレットをフォローするためにアースブレイククレセントアクスを振るってくる。
そんなラクトリーの姿を見たアルビータは片方のツインクテラミノアでレットを弾き飛ばすと、ラクトリーの攻撃も、もう片方のツインクテラミノアでいなすと、そのまま前がガラ空きなったラクトリーの腹を思いっきり蹴り飛ばす。
だが、それと同時に今度は脇腹に痛みを感じるアルビータ。二人を完全に弾き飛ばした瞬間を狙った攻撃だ。いくらアルビータでも、攻撃に集中してて、確実に死角が出来ていたようだ。そして、その死角からフレトは思いっきりマスターランスを突き出し、そのままアルビータの鎧を砕いて、切っ先だけをアルビータに突き刺さしたのだ。
そんなフレトを見て、アルビータは突き刺さっているマスターランスを抜こうとするが、そうはさせないとばかりに、フレトは更にマスターランスを突き入れようとする。そんなフレトがアルビータの方へと顔を向けると言葉を放つ。
「レットの言うとおりだ、俺達をなめるなよ。たとえお前がいかに強大な力を振るおうとも、俺達がお前に膝を屈するワケには行かない。それがたとえ、伝説と言われる精霊であってもな。誰に膝を屈する事無く、自分の描いた道を進むのが俺の、いや、俺達のやり方だ。だから……この程度の事で……負ける訳にはいかないっ!」
噛み付くように最後の言葉を放つフレト。そんなフレトを見て、アルビータは複雑そうな顔でフレトの顔を見ながら応える。
「さすがは精霊の主として、またはエレメンタルロードテナーに適した者として相応しい言葉だな。私も……もし、次も精霊として生まれてきたのなら……私もあなたのに仕えたいと思うほどだ。だが……今の私が、そんな事を言っても詮無き事。ならば……少年っ! 私は貴殿達を倒して戦いに幕を下ろそうではないかっ!」
「やれるものなら、やってみるが良いっ! 俺達の意地とプライド、その身体に刻み込んでやるっ!」
睨み付けてくるフレトに対して、アルビータは満足そうな笑みを浮かべると……再び戦いの幕が上がるのだった。
「うわ~、これは随分と派手にやったね。それに……アルビータにこれだけの傷を負わせるなんて、思っていた以上に強かったんだね」
戦いが終わった事を察したのだろう。いや、春澄の事だから、どこからか見ていたのかもしれない。なにしろ、今、フレト達は全員、戦闘不能状態であり、戦うどころか意識があるかも怪しいものだ。それぐらいフレト達は完全に叩きのめされている。
そんなフレト達と戦ったアルビータも無傷というワケにもいかなかったようだ。致命傷は無いものの、深い傷が幾つかあり、浅い傷は数えられないほどある。それぐらい、アルビータもフレト達の戦いで苦戦した証であり、フレト達の強さを物語っていた。
そして戦場となった玄関ホールはすっかり荒れ果てており、瓦礫がそこら中に点在している。そんな状況の中を春澄は身軽な足取りでアルビータの元へやって来た。そんな春澄が倒れこんでいるフレト達に声を掛ける。
「私が言うのもあれだけど、意識がある人っていますか~?」
大きな声で叫んだのだから聞こえてはいるだろう……意識があればの話ではある。だが、誰一人として春澄の声に応えるどころか反応する者は誰も居なかった。そんな状況に春澄は「う~ん」と考え込んでからアルビータとの会話を始める。
「今までの戦いでアルビータにここまでのダメージを負わせた人は居なかったし、ここまで戦える人も居なかったよね。アルビータもかなり傷を負ったようだし、かなり本気だった?」
そんな春澄の問い掛けにアルビータはフレトが倒れている方を見ながら答えた。
「本気にならざる得なかった。それぐらい強い意志と力を持った強敵と言えるだろう。正直なところ、春澄にかなりの命を注いでもらったおかげで勝てた、そんな感じだ」
「うわ~、そんなに強かったんだ。やっぱり追加しておいてよかったよ」
「どうせ、どこかで見ていたのだろう。だから今更、少年達の強さについて語っても意味は無いだろう」
「あっ、バレてた。あはは~っ、まあ、最後の方だけね。アルビータが苦戦しているのが分かったから、追加しておいたよ」
「そのおかげで勝てたようなものだな」
そう言ってアルビータは周囲を見回す。正直なところアルビータは歓喜に震えていた。これほどの相手に本気で、春澄に更なる援護を貰ってやっと勝てた相手だ。だからこそ、アルビータとしても戦い甲斐があったし、満足が出来る戦いでもあった。
そんな時だった。春澄がある方向を指差すと思いっきり声を上げる。
「あっ! あそこのお姉さん、何かやってるっ!」
そう言って指差したのはラクトリーだった。そう、ラクトリーは自分達が完全に負けた事を外に知らせるのと同時に、疲弊した今の春澄とアルビータなら、昇達なら倒せると踏んだからこそ外に向けて非常用の救援信号を発したのだ。今頃は咲耶が救援信号を見て、昇達に連絡を取っている頃だろう。それに春澄達のデータも少しだけだが、送っておいたので昇達が戦う時には参考になるだろう。そこまで考えて、ラクトリーは咲耶に救援信号を送ったのだ。
そして春澄に指摘されたラクトリーの元へ向かうアルビータ。そこでアルビータはラクトリーが外へ救援信号を送っている事を見たのだ。だからと言ってアルビータは、それ以上の事をラクトリーに対して何かをする訳ではなく、春澄の元へ戻って行った。
「どうやら外に連絡を取っているようだな。下手をすれば、あの少年がここに来るかもしれないぞ」
「う~ん、今の時点で昇さんに来られるとダメなんだよね~。まあ、いいや、やる事だけやって、今日はさっさと引き揚げようか」
そんな事を言った春澄がラクトリーの元へ行くと、その場にしゃがんでラクトリーに話しかける。
「お姉さん、ちょっとだけ伝言を頼めるかな。昇さんに、明日の約束を忘れないでねって、言っておいて」
それだけラクトリーに言うと春澄は立ち上がって、片手を上げる。それから、ラクトリーに告げるように言うのだった。
「大丈夫だよ、死ぬまで取らないから。まあ、明日の夜までは起きられないぐらいは取らせてもらうかな~。そんな訳で、お姉さん、伝言よろしく」
春澄は笑顔でそれだけ言うと、今度は上げた手に精神を集中させる。そして、その力を発動させるのだった。
「命の強奪っ!」
その途端、フレトを始め、ラクトリー、レット、半蔵の身体から白い物が出てきて、春澄の上げた手に集っていく。それと同時にラクトリーは自分の中から何かが奪われるのを感じながら、意識を保つ事も、これ以上は困難だと感じながらも、何とか意識を引っ張り上げようとするが、とてもでは無いが、この奪われる感じがしている限りは意識を保てそうには無いと半ば諦めながら、ラクトリーは意識を沈めるのだった。
それから春澄はある程度の命を、いや、生命力と言った方が的確だろう。その生命力をある程度だけ奪うと、命の強奪を止めるのだった。それから春澄は首を傾げながら言葉を口にする。
「う~ん、さすがに今日の消耗は厳しかったな~。せめて、今日使った半分ぐらいは回復するかと思ったけど、今日使った半分も回復できなかったよ」
そんな春澄の言葉に、まるでどうでもいい感じでアルビータが答える。
「構わんだろ、どうせ、今日のは前座。次の戦いこそ我らの終焉なのだから」
「まあ、それもそうだね。けど、次の戦いは今日より厳しいと思うよ。状況によってはフレトさん達も再戦してくる可能性だってあるし、それに……昇さんの方が圧倒的に強いと思うよ。まあ、私の勘だけどね」
「何でも構わんさ。相手が強ければ強いほど良い、その強敵こそが……私の目的なのだから」
「アルビータの願いも、これで叶うね。後は私か~、う~ん……私は、昇さんを見てみたい。出来る事なら、最後は昇さんのところで終えたいんだけどね。周りの精霊や人がうるさいから無理かな。でも……最後ぐらいは私の願いに気付いてくれるよね。ねえ、昇さんならね」
「…………」
春澄の言葉にアルビータは言葉を返さなかった。それはアルビータに向けられた言葉で無い事をアルビータは分っていたからだ。その言葉こそ、春澄から昇に向けた本心の言葉だと知っていたからだ。だからこそ、春澄は願うのだった。最後が自分の望んだ最後であるようにと。
そんな春澄にアルビータが声を掛けてきた。
「……さて、そろそろ脱出するべきだろう。ぐずぐずしてて鉢合わせになっては意味が無い。早急に撤退するに限るな」
「うん、そうだね。それじゃあ、今日は引き揚げようか。フレトさん、聞こえてないと思うけど、一応言っておくね。今日は楽しかったよ、ありがとう……さて、じゃあ、行こうか」
「あぁ、そうだな」
それだけの会話を終えると春澄とアルビータはフレト邸の門を潜って外に出ると、アルビータは精界を解いた。そして二人とも誰も来ないうちに夜の闇に消えて行くのだった。
さてさて、これでフレト達対アルビータの戦いが終わりましたね~。いや~……今回は長くなったよ。なんというか、フレト達が奮戦する状況をしっかりと書いておきたかったんだよね。そうしたら……いつの間にやらいつもよりも密度が増してしまいました~。
けど、まあ、これほどの密度なら更新が遅れた事も許してくれるよね。というか、言語道断……えっ、ダメ……逃げるが勝ちっ! という訳で出口に向かってダッシュッ! ……えっと、突如として私の足元に開いた穴はなんでしょう? しかも床には無数の竹槍があるんですけどっ!!!! って! こんな事を言っている間に、ああああぁぁぁぁ……グサッ!
……作者復活中、もうしばらくお待ちください……。
……ふう、やっと生還できたよ。まさか落とし穴だけではなく、地雷や絨毯爆撃をされるとは思ってなかったよ。けど、まあ、こうして無事に生還できたことだし、やっと我が家に帰れるワケですね~。わ~い、そんな訳で、早速帰宅。
……『入居者募集』……。
えっと、この張り紙は何? いつの間に私の家が、というか部屋がなくなってるの……こ、このまま泣き寝入りなんて出来るかっ!!!! こうなれば大家に直訴だっ!!!
……………………敗訴。
ダンボールで家を作るなんて子供の時以来だよ。それに新聞紙も意外とあったかいよね~。……家なき子になってしまいましたっ!!!!
さ~て、そろそろネタも尽きた事だし、というか飽きたので、そろそろ締めますね~。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、やっぱりタバコとコーヒーは文章を書く時には必要だよね~、とか思っている葵夢幻でした。