表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
百年河清終末編
136/166

第百三十六話 春澄の力

「よっと!」

 背後から何の前触れも無く現れた腕と手に握られた小太刀、その刃はしっかりと春澄を背後から突き刺さってもおかしくは無かった。けれども、春澄は突如として跳び上がると、背後から伸びてきた腕に逆立ちで掴む。更にそこからは腕を屈めて小太刀の刃が届かないところまで腕の力だけで跳んだのだ。

 そんな軽業のような身のこなしは見事な物だと言えるだろう。それぐらいの動きを春澄は見せてきたのだ。そんな春澄が今ではすっかり無くなっている、空間の切れ目があった場所を見て呟く。

「へぇ~、こんな事が出来る精霊が居るんだ~。う~ん、なんていう精霊かな? まあ、面白い能力なのは間違いないよね。最も……私には通じないけど」

 そんな独り言を呟いていると今度は春澄の真下から空間の切れ目が出来ると、苦無が飛んできた。それなのに、春澄はまるで真下から攻撃が来る事を分っていたように、軽く後ろに飛んで、全ての苦無を避けた。

 だが、それこそが半蔵が狙っていた瞬間だった。春澄は攻撃を避けた直後で、次の攻撃には対処できないだろう。なにしろ半蔵は春澄が着地する前に春澄の後ろに姿を現すと、春澄に向かって思いっきり斬り付けようとしていたのだから。

 この攻撃で半蔵も確実に春澄を仕留めたと思っただろう。だが、ここからは半蔵すらも驚かせる動きを春澄は見せてきた。背後からの一撃、なにしろ苦無を避けるために後ろに跳んだばかりだ、そこから後ろの攻撃に対処が出来るわけが無い。それだけ、半蔵は春澄が後ろに目が無い限り、対応できない攻撃のタイミングで空斬小太刀を振るってきたのだ。だから春澄にとっては避けるのは限りなく不可能と言えるだろう。

 けど、春澄は身体を捻るようにして、更に後ろに高く跳ぶと、半蔵の両肩に手を置いて、そこから再び腕の力だけで半蔵から遠のくのだった。

 さすがに、これに対しては半蔵ですら驚きを隠せなかった。春澄が攻撃をギリギリで避けたのなら驚きはしないだろう。だが、春澄はまるで半蔵の動きが分っているかのように、余裕で半蔵の攻撃を避けただけでなく、半蔵の身体に触れてから遠のいたのだ。攻撃を避けられるだけでなく、自らの身体に触れて、更に攻撃を利用して避けたのだ。それは普通では考えられない事だ。

 半蔵の属性は奇襲、または必殺の手段を用いる場合が多い。そのため、半蔵と渡り合える精霊は、そう多くは無いだろう。それぐらい空の属性は奇襲や必殺の一撃を入れるのに適しているのだ。

 だが、春澄はそんな空の属性を持つ半蔵の攻撃を避けただけでなく、半蔵の身体にまで触れてきたのだ。これで春澄が武器を持っていれば、半蔵は確実にダメージを負っていただろう。つまり、半蔵としては必殺の一撃を避けられただけでなく、身体に触れられるという、忍として、そして空間の精霊としては考えられない行動を春澄が見せたからこそ半蔵は驚きを隠せなかったのだ。

 一方の春澄は面白そうに笑みを浮かべながら、先程の攻撃についての感想を率直に口にしてきた。

「やっぱり、強いね~。真下からの攻撃で相手の移動先を限定して、更にその後ろから攻撃してくるなんて、私じゃなかったら終わってたかな」

 まるで自分が強いような事を口にする春澄に対して、半蔵は警戒心を強めるのと共に珍しい事に春澄との会話を始める。

「それは……自慢か?」

「ううん、自慢じゃないよ。私も力を少しだけ見せただけだよ。それに……私は戦闘に向いて無いからね~。だから、あなたと戦う事は出来ないよ。出来る事と言ったら……鬼ごっこぐらいかな」

「ならば、その鬼ごっこをやるか?」

「へぇ~、遊んでくれるんだ。おじさん、思ったよりも優しい人みたいだね。それとも私を倒したいだけかな。どっちにしても、遊んでくれるなら良いよ。思いっきり遊ぼうよ」

 春澄は本当に楽しげに話してくるので半蔵は少しだけ警戒心が緩んでいるのに気付いていた。けれども、半蔵は春澄に対して警戒心を強める事はしなかった。

 それは契約者の性質にもよるからだ。契約者が発する能力は戦闘的では無い物もある。例えるなら前の戦いでフレトが戦ったアンブルが良い例だろう。シールダーの能力は盾を作り出し、自分の身を守る事。つまり防戦のために発せられる能力と言えるだろう。

 それに、昇のエレメンタルアップも本来は契約者に力を与える物ではない。エレメンタルアップは契約した精霊に力を送り、力の限り限界を超えてパワーアップさせる能力だ。だから本来なら昇自身が戦わなくても良いのだが、昇は性格と経験から自らも戦うという手段を選んだに過ぎない。

 以上を参考にすれば、契約者の能力が確実に戦闘的な能力を発するとは限らないと言えるだろう。そして、春澄もまた、その手の能力だと半蔵は判断したのだ。つまり、春澄自身は戦闘能力を持っていない。だから、直接的な戦闘が出来ないのだと。そこが、半蔵が警戒心を緩めた理由と言えるだろう。なにしろ、春澄は戦闘能力を持っていないからには、春澄からの攻撃は無い。つまり、半蔵は反撃や攻撃に対して、まったく気にする事は無いからだ。

 だが、先程の動きは半蔵を驚かせるのには充分だった。だからこそ、半蔵は警戒心を緩めながらも春澄に対して有効的な手段を考えながら、空斬小太刀を構えるのだった。そして一方の春澄は本当に遊ぶかのように、楽しげな笑みを浮かべながら半蔵を見ていた。どうやら、春澄にとって、これは戦闘ではなく、本当に遊びと言っても良いのだろう。

 そんな春澄だからこそ、半蔵は気組みを少し崩されながらも攻撃に出る。

 一気に跳び上がり、春澄の上空を制する半蔵。そんな半蔵を春澄は驚きながらも、楽しげな顔で見ていた。そんな春澄に向かって半蔵は苦無の雨を降らせるかのように、無数の苦無を春澄に向かって投げつける。

 その光景を目にしても春澄の楽しげな顔を変わらなかった。そして苦無の雨が消えるのと同時に春澄は思いっきり横の方に向かって跳ぶのだった。そして、その直後には春澄が居た背後から無数の苦無が通り過ぎて行く。

 けれども半蔵の攻撃はこれで終わりではなかった。再び無数の苦無が全部消えると、再び春澄の背後から飛び出して行く。そんな攻撃を分っているかのように、春澄は思いっきり跳び上がると足の下を飛んで行く苦無を目にするのだった。

 だが、投げられた苦無がいつまでも飛んでいる事は出来ない。だから、半蔵の投げ付けた苦無が失速して地面へと落ちて行く。そして、その頃には春澄よりも更に上から姿を現した半蔵が春澄に向かって蹴りを放つ。

 空中では自由に動けないからこそ、半蔵はあえて空中戦を仕掛けたのだろう。けれども、半蔵は春澄の行動に驚きを覚えながら攻撃を続ける事になる。なにしろ、半蔵が放った蹴りは、春澄の踏み台として利用されて、確実に避けられたのだから。

 そして、空中にいる間にも半蔵は蹴りと拳を繰り出す肉弾戦に持って行った。けれども、どの攻撃も春澄に当たるどころか、春澄に利用されて攻撃を避ける手段に使われてしまった。けれども、それで良いのだ。なにしろ、半蔵の能力が一番発揮されるのは、この後なのだから。

 空中での戦いも徐々に落ちて行き、そろそろ両者とも地面に辿り着く頃だろう。そうなれば、春澄は確実に着地と同時に半蔵から遠のくだろう。ならば……狙う瞬間は一つだけである。

 両者が空中で肉弾戦を行っていて、そろそろ着地体勢に入る瞬間だった。半蔵は空中戦では始めて空斬小太刀で春澄に向かって突き出された。今までは刃物を使っていなかっただけに、さすがの春澄も気を引き締めた事だろうと半蔵は思っていたが、春澄は全て分っているように笑顔を半蔵に向けるのだった。

 そして空斬小太刀が春澄に届く瞬間だった。突如として空間の切れ目が出来ると、半蔵の腕が空間の切れ目に消えて行く。そして、入口があれば出口があるように、空間の切れ目の出口は春澄の背後だった。

 相手が空間の精霊と分っていても、今までの肉弾戦から突如としての刃物を使った攻撃である。それは誰しも目の前から伸びて来る刃物に目を奪われて、刃物を避ける事に行動を起こすだろう。だからこそ、突如として目の前から消えた空斬小太刀が背後から現れる事なんて、予想するのには難しい事だろう。だからこそ、必殺の一撃となるわけだ。

 だが、春澄は目の前から伸びてきた空斬小太刀を気にする事無く、そのまま着地体勢を取るとのと同時に両手を思いっきり上から後ろに回した。そして背後から現れた空斬小太刀を手にした半蔵の腕を掴むと、思いっきり身体を引っ張り、そこを軸に半回転をしてから半蔵の腕を蹴った反動を利用して半蔵から離れるのだった。

 今度も見事とも言える軽業、まるでサーカスや雑技団で見るような、軽やかな身のこなしで春澄は半蔵が繰り出してきた必殺の一撃を避けて見せたのだ。そんな事をされて半蔵も驚いていると思いきや、半蔵は何かに気付いたかのように空斬小太刀を構えながら春澄を見ていた。

 一方の春澄も半蔵が自分の能力に気付いたと感じたのだろう。いや、正確には、半蔵の雰囲気から感じ取ったようだ。さすがに普段は目が見えないだけに、人や精霊が発する雰囲気が変わった事には敏感なのだろう。だからこそ、春澄は半蔵に思いっきり楽しげな笑みを向けると一気に走り出したのだ。しかも、半蔵の方へではない、アルビータが戦っている地点を目指してだ。



 アルビータも相変わらずフレト達から三方多重攻撃を見事に防ぎながら、どう反撃するかを考えていたのだが、アルビータの視線に春澄の姿が写ったのだろう。アルビータはフレト達の攻撃を全て受け止めると、力任せに弾き飛ばし、ツインクテラミノアを地面へと叩き付けたのだ。

 その衝撃を受けてフレト達はかなりの距離を弾き飛ばされ、おかげで春澄は無事にアルビータと合流する事が出来た。そんな春澄が楽しそうに、アルビータに向かって楽しそうに言うのだった。

「結構、苦戦しているようだけど、大丈夫なのかな~?」

 そんな春澄の質問にアルビータは涼しい顔で答える。

「なに、まだ時間があるからな。少しは戦わないとつまらないだろう」

「ふ~ん」

 アルビータの答えに素っ気無い返事をする春澄。そんな春澄が今度はとんでもない事を言い出してきた。

「じゃあ、アルビータ、ここは任せたね。私は、あのお屋敷の中を探検してくるよ~」

 春澄はまるで遊びに行くようにアルビータにフレトの屋敷に侵入すると告げてくる。そんな春澄にアルビータは軽く溜息を付くと、返事をする。

「屋敷は外から見るだけだったのではないのか?」

 そんなアルビータの質問に春澄は少しだけ首を傾げて、考えながら話を続ける。

「う~ん、戦力が少ないとはいえ、アルビータとここまで戦ってるんだから。フレトさん達もまだまだ大丈夫でしょ。それに……フレトさん達は最初から私を狙ってると思うから。そうなれば私は外に居るより、あえて屋敷の中を歩き回った方が撹乱できるでしょ。それに……私を倒そうとした精霊は私の力に気付いたみたいだから。だから、屋敷の中に飛び込んでも、絶対に私を探そう何て思わないよ。だって……それが私の力が持つ一つなんだから」

「物は言いようだな」

 春澄の言葉にアルビータは溜息交じりの言葉を返す。

 確かにフレトの作戦で一番重要な点はそこにあった。どう見ても春澄は戦力とは言えない事は機動ガーディアンの事で分っている。だからこそ、フレトは半蔵に春澄を狙わせたのだ。半蔵が春澄を倒してしまえば、いくらアルビータが強くても、そこでフレト達の勝ちが決まるからだ。

 だが、実際に戦うと春澄は攻撃はしないものの、その身のこなしと動きはフレト達の予想を遥かに上回っており、それに他の力があるのも半蔵は気が付いている。だからこそ、春澄はそんな事を言い出してきたのだ。

 そんな春澄にアルビータは優しげな笑みを向けると、しっかりと言葉を口にする。

「あまり調子に乗るんじゃないぞ。それから、あまり遊びすぎるなよ。いくら、その力があったとしても、それで絶対に倒されない保障は無いんだからな。だから少しは慎重に」

「はいはい、分ってますよ~。さ~て、それじゃあ、フレトさん達も体勢を立て直して来た事だし、私は屋敷の中を探検してくるよ」

 確かに春澄が言ったように、弾き飛ばされたフレト達は、今ではすっかり立ち上がり、二人を包囲するように、それぞれの武器を構えている。そんな状況を見て、アルビータは呆れたように溜息を付いてから、春澄に言うのだった。

「分かった、くれぐれも気をつけてな」

「うん、分ってるよ。アルビータも頑張ってね~」

 それだけの会話を終えると春澄は一気に駆け出して屋敷の中に突っ込んで行こうとする。けれども、そんな春澄を妨害するかのように、突如として春澄を中心に外周全て、しかも真上まで、まるで春澄を包囲するかのように現れた苦無が一斉に春澄に向かって飛んでいく。

 そんな状況なのに、春澄は楽しそうな笑みを浮かべながら走るスピードを落とさず、一気に駆け抜けようとする。もちろん、半蔵も春澄が走る続けると思ったからこそ、全ての苦無が春澄を追うように投げ付けられていた。その全ての苦無が、切り裂かれた空間を通って春澄に襲い掛かろうとしているのだ。

 それでも春澄は駆けるスピードを落とそうとはしない。それどころか、いつの間にか手にしていた苦無で、進むのに邪魔な苦無だけを弾くと、春澄はそのまま屋敷の玄関を蹴破ると、そのまま屋敷の中に駆け込んでしまった。どうやら、いつの間にか半蔵が投げ付けた苦無の一つを拾っていたようだ。

 そんな春澄にフレト達も驚きを隠せなかった。なにしろ半蔵は確実に春澄を仕留めるために、無数の苦無を春澄に向かって放ったのだ。けれども、春澄はまるで、それが分っているかのように、いとも簡単に屋敷への侵入してしまったのだ。そんな光景を目にしたからこそ、フレト達は驚きを隠せなかったのだ。なにしろ、あの半蔵が仕留めきれないのだから。

 そこでフレトは決断を下さなくてはいけなかった。このままアルビータと戦い続けるか、それとも、あえて屋敷の中に入っていった春澄を追うか。春澄を追えば、それだけ春澄を仕留めるチャンスが多くなる。けれども、春澄を追う事をアルビータが易々と見ているとはフレトには思えなかった。

 そんな時だった。突如としてアルビータの背後に現れた半蔵が空斬小太刀で斬りかかる。けれども、突然の事とはいえ、その程度にの攻撃ならアルビータも防ぐ事は簡単だった。だが、半蔵の狙いは、その先にあった。

 片方の両刃斧で半蔵の空斬小太刀を受け止めたアルビータは、もう一方の斧を半蔵に振るおうとするが、それよりも早く、半蔵は口に半分ほど含んだ物を一気にアルビータに向かって吐き出した。それは無数の針だった。さすがのアルビータも反撃をしようとしていた最中だ、半蔵が吐き出した針を防ぐ事なんて出来はしなかった。そのため、何本もの針がアルビータに刺さるが、所詮は針である。アルビータにダメージを与えた事にはならないだろう。

 けれども半蔵はすぐに背後の空間を斬り裂くと、斬り裂いた空間に姿を消す。そのため、アルビータの反撃は空を斬る事になった。そして、肝心な半蔵はというと……なんとフレトの傍に姿を現したのだ。その半蔵が早口にフレトに報告する。

「若様、どうやら作戦の遂行は無理だと判断するべきです。あの契約者は厄介な能力を持っております、そのため、精霊と契約者では、あの契約者を倒すのは無理です。ですから、ここは一旦、屋敷内まで撤退して、新たな策を」

「だが、あの精霊がみすみす俺達を見逃すと思うか?」

「その事はご心配無く」

 半蔵がその言葉を放った後に、アルビータは突如として片膝を付くと、両手に持ったツインクテラミノアで身体を支える。そんなアルビータはまるで身体から力が抜けたようにも見えた。そんな光景を目にしてフレトは確信したように呟く。

「毒か」

 フレトの言葉を聞いて、半蔵も早口で説明する。

「精霊の神経系統を麻痺させる猛毒です。普通の精霊ならしばらくは動けないでしょうが、あの精霊なら、あの状態でも防戦は出来るでしょう。けれども、我らの後を無理には追って来ないでしょう。ですから、今は撤退を」

「……くっ、それしかないか」

 半蔵の言葉に悔しそうに、その言葉を口にするフレト。今のアルビータを見れば、アルビータを倒せそうな気もするが、先程までの戦闘を思い返せば、アルビータが本気で戦っていたとは思え無い。だからこそ、フレトは決断するしかなかった。それは、今回の戦いでフレトの立てた作戦が失敗要素を含んでいたワケではない。アルビータ達の能力が未知数だっただけに、その力がフレト達の予想を遥かに超えていたからに過ぎない。

 それだけ春澄達が未知数の存在とも言えるだろう。それはアルビータと戦ったフレトも充分に分かっている事だし、半蔵から撤退という言葉を出させたのだから、春澄も未知数の力を持っていても不思議ではない。

 つまり、今回の戦いは通常の争奪戦よりも未知数な部分が多すぎるのだ。それだけに、フレト達の予想を超えた展開が繰り広げられていた。だが、確実に勝利するためには、半蔵のもたらした情報とラクトリーからの説明が絶対に不可欠だと決断しないといけない事に、フレトはプライドよりも勝算を選ぶしかなかったのだ。それが分っているだけに、フレトは悔しそうにラクトリーとレットに向かって叫ぶ。

「二人とも一旦、屋敷の中に撤退するぞ。ラクトリー、念の為に撤退の補佐にあれを使えっ!」

 フレトが、そう叫ぶのと同時にレットもラクトリーも頷き、フレトと半蔵が屋敷に向かって駆け出すのと同時に合わせて駆け出した。そして、半蔵が言ったとおり、アルビータは麻痺系の毒を喰らっているからにはフレト達を追う事はしなかった。

 それでも油断ならないとラクトリーは玄関ポーチの柱にある仕掛けを作動させる。すると、すぐさま、ポーチの中から幾つかの銃身が姿を現すと、ラクトリーは全ての銃身をアルビータに向けさせて斉射させる。銃弾は精霊用に改良された銃弾だが、所詮は小さな銃弾である。その小ささから強力な力を含ませる事は不可能だった。

 だが、足止めと弾幕を張るには充分だった。その間にフレト達は一気に屋敷の中に飛び込むとラクトリーは玄関を厳重にロックすると、無意味とは分っていても地の属性を使って扉の強度を上げる。それでも充分な時間が取れるだろうと、ラクトリーは玄関ホールに集ったフレト達に合流した。

 全員が集ると、まずフレトは半蔵からの報告を求めた。なにしろ、今回の作戦はフレト達がアルビータを足止めしているうちに、半蔵が春澄を仕留める手筈になっていたのだから、だからフレトが真っ先にその事を尋ねても不思議ではない。半蔵の性格から言って、下手な言い訳なんてする訳が無いだろう。むしろ、半蔵だからこそ、何かしらの理由が在るとフレトは思ったからこそ、半蔵からの報告を受ける。その半蔵は「では」と前置きを付けると説明を開始する。

「若様、あの契約者は精霊感知能力者です。なので、精霊も契約者も、あの契約者を仕留めるのは無理と思われます」

 短く説明する半蔵。その半蔵の言葉にラクトリーは納得したような顔をし、フレトは首を傾げるのだった。そして、レットは……フレトと同じく呆然としている。どうやらレットもワケが分かっていないようだった。

 そんな二人に向かってラクトリーが精霊感知能力者についての説明を始める。

「マスター、霊感という物はご存知ですよね。幽霊などの霊が見えたり、感じたりする力の事です。もっとも、精霊である我らも幽霊に関しては意見が別れるところですが、今はその事は置いておきましょう。肝心なのは、精霊感知能力者は、その霊感と同じような力があるという事なのです」

 ラクトリーの言葉を聞いて思考を巡らすフレト。そんなフレトが考えながらも、思った事を口にする。

「つまり……その精霊感知能力者は精霊の存在を知る事が出来るという事か? 例えば、契約前の精霊がどこに居るかとか?」

「だいたいはそんな感じです。契約後の精霊でもお互いにかなり近づかないかぎり、人間世界では相手が精霊だと認識できません。そのため、精霊を探索するシステムが進化しているのですが、精霊感知能力者は契約の以前、後に関係無く、精霊の存在を感じ取る事が出来るんです」

 つまり、精霊感知能力者は霊感能力者と似ている部分があるとラクトリーは説明したのだ。この二つの共通点として、目では見えないものを感じ取る事が出来る、または見る事が出来る、というのが上げられるだろう。

 精霊も結構めんどうな存在であり、契約前の精霊は人間には見る事が出来ない。精霊が契約結界を展開しない限りは人間は精霊を見る事が出来ない。更に言えば、精霊同士でも契約した者は人間世界に具現化しているから、どこに精霊が居るか、というよりも精霊と人間の区別が出来ないと言った方が早いだろう。だからこそ、契約後の精霊がお互いに精霊だと感知するには、かなり近づかないといけない。それでも、まあ、普通に話が出来る距離ぐらいだから、数メートルぐらいと言えるだろう。

 だが、それが今回の戦闘でフレト達が退く事になった理由とは結び付かなかったフレトは更なる説明を求める。そしてラクトリーは精霊感知能力者について詳しく説明を開始した。

「精霊感知能力者はほとんど居ないと言えるぐらい、その力を持って生まれてくる人間は少ないんです。それに、争奪戦でも無い限りは精霊を察知しても精霊は接触をする事が出来ません。最も、争奪戦が行われているのなら接触は出来ますが、争奪戦が行われていなければ接触出来ません。つまり、それぐらい珍しい能力という事です。それに、この上なく厄介な力を持っているから、相手にするのはかなり面倒でしょう」

「そういえば、半蔵も厄介な能力だと言っていたな。それが俺達が退く事になった原因か?」

「御意」

 フレトの言葉を素直に肯定する半蔵。ここまで半蔵に言わせるのだから、相当厄介な能力なのだろうと、フレトは軽く溜息を付くと、再びラクトリーに説明の続きを求めた。

「精霊感知能力者は精霊を感知するだけではありません、属性すらも感知したりするのです。つまり、どんな属性を使ってくるか、最初から分っているのと同じなんです。そのうえ、発動のタイミングも感じ取る事が出来ますから、どんな属性攻撃も避ける事は簡単なんです。だから、半蔵の動きも全て読み取られ、簡単に避ける事が出来たんです」

 つまり春澄は最初から半蔵がどこから現れ、そこに力を使ってくるかが、力を使おうとした時点で察知出来るのだ。だからこそ、春澄は半蔵がどこの空間を切り裂き、どこに繋げるかが最初から分っていたと言えるだろう。だからこそ、背後や下からの空間移動攻撃を簡単に避ける事が出来たのだ。

 要するに春澄には半蔵の手の内が全て分っていたのだ。だからこそ、どんなフェイントの通じなかったし、半蔵が得意としている空間移動を使った、必殺の攻撃も簡単に避ける事が出来たのだ。それどころか、春澄はそんな半蔵の動きを感知して、利用したからこそ、半蔵が空中戦で仕掛けた攻撃は通らなかったし、春澄は楽に避ける事が出来たのだ。

 それは他の精霊でも同じと言えるだろう。例えば、ラクトリーやレットでも、属性を使った攻撃なら、攻撃前に避ける事も可能なのだ。それぐらい、精霊感知能力者が察知する属性や精霊の感度は高いのだ。

 それにシエラのようにスピードで一気に攻める事も考えられるが、春澄から見えれば、翼の属性を使っている限り、どの軌道を取り、どのタイミングで自分に向かって来るのか、攻撃前に分ってしまうのだ。だから、どんなにハイスピードでも、春澄に攻撃を入れるのは困難だと言えるだろう。それはレットや閃華のように武器に属性を込めてる者も同じである。攻撃前に、相手の攻撃方法、攻撃範囲、攻撃のタイミングが分かるのだから避けるのは簡単だ。

 それはラクトリーも同じと言えるだろう。どれだけ広範囲な属性攻撃をしたとしても、その前に範囲外に出られてしまっては意味が無い。むしろ、範囲が広ければ広いほど、攻撃するには時間が掛かるし、その間に攻撃範囲から出る事は精霊能力感知者には簡単な事なのだ。

 それだけではなく、ラクトリーが言うには契約者からも精霊の存在を感じる事が出来るとの事だ。移り香のような物なのだろう、精霊感知能力者は契約者からも普段から接している精霊を間接的に感じ取る事が出来るのだ。

 そこまで理解したフレトの頭に一つの疑問が浮かび上がる。それは説明を聞いていれば、誰しもが思った事だろう。だからこそフレトは率直に、その事をラクトリーに尋ねる。

「だが、どれだけ相手の行動が分っても、身体能力が付いていかないと、相手の攻撃を完璧に避ける事なんで出来ないだろう?」

 確かにフレトの言ったとおりである。どれだけ相手の攻撃を察知して、読んでも、身体が攻撃に対して動けなくては意味が無い。つまり、どんな攻撃も避けるだけの動きが出来なければ当たってしまうのだ。けれども、春澄は半蔵が繰り出した全ての攻撃を避けて見せた。それは精霊感知能力者だけの力では説明しきれないだろう。けれども、ラクトリーにはしっかりと説明できるみたいであり、話を今度はそっちに持って行った。

「それに対しては契約者の能力だと思います。なにしろ命の精霊は伝説の精霊と呼ばれるぐらい争奪戦には参加してませんから、情報は少ないのですが、確実に伝わっている話があります。それは……命の精霊と契約を交わした者は三つの能力を得ると」

「三つとは……随分と卑怯だな」

 ここまで来れば、もう呆れるしかないといった感じで溜息交じりで言葉を発するフレト。普通なら、最初の精霊と契約を交わした時点で発揮できる能力は一人に一つである。それが契約者としては普通であり、それなのに三つも能力が発動されるとは卑怯を通り越して呆れるしかないのだろう。そんなフレトの溜息が移ったように、ラクトリーも溜息を付いてから話を続ける。

「その三つの能力は、命の提供、命の活性、命の強奪、この三つの能力が命の精霊と契約を交わした契約者に発揮される能力です。一つでも厄介なのですが、ここまで揃うと厄介どころか、どう対処して良いのか分かりませんね」

「それで、それらの能力はどんな力を発揮するんだ?」

「そうですね、それでは、まず命の提供から。この能力は契約者の生命力、寿命とも言いますけど、その生命力を戦闘力に変えて命の精霊に与える事が出来るんです。先程も説明したように、昇さんのエレメンタルアップと同様の能力といえますが、自分の生命力を分け与えている分け与えているワケですから、自分の生命力が尽きれば死にます」

「なるほどな、だから、ほぼ同様の能力と言ったわけか」

 ここでようやくアルビータの強さについて理解したフレトだった。確かにアルビータの力は尋常では無い。けれども、昇のエレメンタルアップと同じく、限界を超えて力を発揮出来るのならアルビータの強さも納得が出来るというわけだ。

 だが、エレメンタルアップのように契約者の力が続く限り、力を発揮できる、というワケではない。むしろ、その逆、自分の命が続く限り、契約者は命の精霊に力を与え続け、命の精霊を強くし続ける事が出来る。だが、自分の命が尽きれば、つまり死ねば、そこで終わり。

 だからエレメンタルアップのようにリスク無しに限界突破させるワケではない。契約者の命という代価を払って命の精霊を限界突破させてるワケである。だから契約者も相当な覚悟が無い限りは命の精霊とは契約をしないだろう。

 けれども、春澄には何かしらの理由があるからこそ、自分の命を削ってまで戦いに挑んでいるのだから、アルビータの強さも納得が出来るというものだろう。そう感じたフレトは話題を次に移す。

「それで、他の能力は?」

「では、次に命の活性ですね。これはエレメンタルとほぼ同じ効果を発揮します」

「また、ほぼ同じか」

 いい加減にその言葉に飽き飽きしてきたのだろう、フレトは溜息を付くとラクトリーは苦笑するしかなかった。それでも、一息付くと説明を続けてきた。

「エレメンタルの能力は、マスターも知っての通りに契約者を精霊と同等の戦闘能力を発揮出来るようにさせます。ですが、命の活性はそこまでの力は発揮しません。命の活性は戦闘能力を上げるのではなく、身体能力を上げるのです。これは戦いが始まっても、契約者が狙われても防ぐための処置だと考えられてます。現に、半蔵が相手にした契約者は攻撃をせずに逃げの一手だけでした。精霊と同じ動きが出来る者に逃げの一手を打たれると、半蔵でも倒す事は困難と言えるでしょう。むしろ、戦ってくれた方が打つ手もありますし、策が使えます。ですが、あそこまで逃げる事に集中されると……誰も、あの契約者を仕留める事は無理でしょう」

「なるほどな、確かにそれは厄介な事はこの上ないな」

 これで先程フレトが感じた疑問が解決されたと言えるだろう。春澄は命の活性によって身体能力が精霊並みに上がっているのだ。そんな春澄が戦う事無く、防戦、そして逃げる事を優先されれば倒す事は難しいだろう。

 そのうえ、春澄は精霊感知能力者である。だから、どのような攻撃も相手が精霊か契約者ならば攻撃を避ける事は簡単だ。命の活性と精霊能力感知、この二つがある限りは春澄を仕留めるのは無理と考えて良いだろう。

 そう判断したフレトは呆れたように息を吐くと、玄関ホールの天井を見上げる。

「つまり、この屋敷から、あの契約者を探し出して仕留めるのは無理というわけか」

「ですね。これだけ広い屋敷ですから隠れる場所は幾つもあります。そのうえ、あちらにはこちらの気配が遠くから察知されてます。居場所によっては更に逃げられるでしょう」

「自らの屋敷とはいえ、こんな不利な点が出てくるとはな」

「まあ、今回は特別な事例と区別した方が良いかもしれませんね。なにしろ、伝説の精霊を相手に戦っているのですから」

 ラクトリーがフレトの気疲れを察したのだろう。そんなフォローを入れてくると、フレトは最後の能力について尋ねた。

「それで、最後に残った命の強奪とは?」

「それが一番凶悪で始末が悪いです。命の強奪とは倒した精霊、または契約者から生命力、つまり命を奪う事が出来るのです。もっとも、相手を戦えない状態まで倒してしまえば、命の強奪は発動できます。それはもう……相手の命を全て強奪出来るほどに。だからこそ、命の提供で失った命を、命の強奪で補う事が出来るんです」

「おいおい、それこそ卑怯で凶悪以上に凶悪じゃないか」

 今まで黙って聞いていたレットがそんな突っ込みを入れてくる。そんなレットに対してラクトリーも肩をすくめるだけだった。確かにレットの言ったとおりなのだ。ラクトリーの説明どおりなら、命の精霊と契約した者は、倒した相手の命を奪う事が出来る。そう……倒した相手が死んでしまうほどに。

 そこに精霊と契約者の区別は無い。つまり精霊でも、戦えない状態なってしまったら命を強奪させるしかないのだ。場合によっては……死ぬほどに。そこまで命を奪い取るからこそ、命の提供で際限無く、命の精霊に力を与える事は出来るが……。本来なら誰も死なない争奪戦だが、命の強奪に関しては、契約者の意思によって確実に死ぬのだ。

 だからこそ、レットの言った事は間違いでは無い。だが、フレトには何か引っ掛かる部分があるようだった。そもそも春澄がそこまでする理由が分からない。そんなフレトの頭に思い浮かんだのが滝下昇である。そんなフレトが思考を巡らす。

 やれやれ、どうやら俺達は滝下昇に関して、完全に巻き込まれる形になったようだな。まったく、あいつには借りがあるからな、ここは一つ、現状を打破して借りを消しておくとするか。フレトは、そう判断すると決断を下す。

「何にしても、半蔵でも仕留められない契約者だ。その契約者が屋敷の中を逃げ回っている限りは、契約者から叩く事は無理だろう。ならば……なんとしても倒すぞ、あの命の精霊をな」

「そうは言っても、どうするんですかフレト様。さっきだって、こっちが有利に戦いを進めていたワケでは無いですし、あいつだって未だに本気は出していないようでしたよ」

 フレトの言葉にそんな言葉を付け加えてくるレット。そう、レットの言う通りなのだ。確かに先程の戦闘ではフレト達はかなり攻勢に出てはいたが、一回もアルビータに一撃を加えられていないのだ。そんなアルビータ対抗するには、どうすれば良いか? その事をフレトは考えなければいけなかった。

 それにアルビータにも春澄と同様に卑怯と呼んで言いぐらい無の属性がある。それがある限りは、アルビータと同等に戦えるとは思えなかったのだろう。けれども、フレトには何かしらの思案があるようだ。だからこそ今は、その事に全力を注ぐ。

「半蔵」

 まずは半蔵を呼び寄せるフレト、それからラクトリーを呼んで、何かをやっているようだ。そこからフレトは全員に指示を出すと、フレト達は玄関ホールの奥に陣形を展開させるように備える。

 そんな時だった、突如として玄関のドアが吹き飛ぶと、粉塵の中からアルビータの姿がゆっくりと現れた。






 さ~て、何とか更新が出来ました~。いや~……死んだ死んだ。もう、何回死んだか覚えてません。それぐらいに私の気力と意欲は死んでおります。

 それでもっ! なんとか頑張ろうと書き上げました~。えっへん、どうだっ! これで誰も文句は言えないだろうっ! えっ? それでも、やっぱり更新のペースが遅い……細かい事は気にするなっ!

 それからそこっ! 返事は「はい」ではないっ! 「イエッサー」と叫べっ! 中途半端な返事は許さんぞっ! 分かったか、この愚民どもっ! お前達は所詮、飯を食らうだけのごく潰しだっ! その事を忘れるなっ! 役に立たないカスどもがっ!

 そんな時だった、突如として遠くから銃声が聞こえると共に……私の意識は薄れて行った。どうやら狙撃されたようだ。まあ……しかたないか……。そんな事を思った私は微かに残っている意識を振り絞り、最後の言葉を残す……「TKG」と……。

 説明しよう、TKGとは「卵かけご飯」の略称であり、誰しもが口にした事がある庶民にとっては最終兵器と言える食卓にとっては最後の手段とも言える食べ物であるっ!

 ちなみに、この作者はご飯よりも卵を先に入れて、ときほぐして、そこにご飯を乗せるという邪道を進む覇者であるっ! 我が道に……一片の悔い無しっ!!!!

 ……………………ガクリッ

 とまあ、相変わらず意味不明ですね。まあ、自分で書いておきながらあれですが。でもでも、卵かけご飯って、先に卵を入れたほうが良くない? その方が掻き混ぜ易いでしょ? それにご飯がこぼれる可能性も少なくなるし。

 ……まあ、こんな事を、ここに書くことでも無いし、必死になって訴える事でもしないし……所詮はノリで書いてる事だからね~。だから……考えたら負けだっ!!!!

 という事で、そろそろ飽きてきたし、ネタも尽きたので締めますね~。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、納豆には大量のからしを入れる、激辛納豆好きの葵夢幻でした。……最後まで意味の無いことだったね(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ