第百三十三話 楽しい時間
乙女を甘く見てると痛い目をみるって事よ。そんな琴未の言葉が昇の頭から離れないうちに時間は昇の意思を無視したように時を刻み、とうとう放課後になってしまった。
まあ、今日は春澄ちゃんと会う約束はしていないけど……こんな展開になると……まるで春澄ちゃんに会いに行けと言われてるような気がする。そんな事を考えながら昇は辺りを見回す。すでにシエラ達の姿は無い。なにしろシエラ達はホームルームが終わるのと同時に与凪を拉致してどっかに行ってしまったからだ。
だから、ぽつんと一人残された昇はどうしようかと途方にくれていた。シエラ達の行動から見ても、フレトを誘って帰るという手段も無駄だろう。なにしろ昨日の事でフレト達もシエラ達に協力しているのは分っている。だから今更フレトが救済の手を差し伸べてくれるとは思えなかった。
つまり昇は一人で置き去りにされたようなものだ。それが逆に昨日、琴未が口にした言葉が怖いとも感じるし、何故だか分からないが、今日も春澄に会いに行かなくてはいけないような気にしていたのだ。その理由が何かは分からない。いや、正確には気が焦っているのだろう。昇には春澄に伝えなければいけない事がある、その事を一刻も早く春澄に伝えたいと。だから昇は春澄に会いたいと思っても不思議ではないのだ。もっとも、昇自身がその気持ちに気付いているかは分かったものではないが、春澄と会いたいという気持ちを持っている事は自覚しているようだ。
だがシエラ達の行動は明らかにおかしい、これは絶対に何かがある。昇はそう考えながらも、これから、どう動くべきかを考えていた。なにしろシエラの事だから、どこに罠があるか分かったものではない。それに閃華ならば不意を突いて来る事は間違いないだろう。誰の画策だとしても危険だと昇は考えていた。そう、それがフレトの考え出した作戦だと気付かないままに。
実際のところは誰も何もしていないのだ。フレト達はすでに帰宅の徒についているし、シエラ達は与凪と一緒に生徒指導室に居た。つまり今の昇は誰も監視していないし、何かの罠や不意打ちが待っているわけでは無い。フレトはそこに罠を仕掛けたのだ。
今までが今までなだけに、シエラ達が何かしらの画策をしても不思議では無い。だがミリアの作り出した追跡装置にはすでに昇のデータは入力済み、つまり今の時点で無理に昇を追いかけなくても良いのだ。逆に、こうやって放って置かれる方が昇は疑心暗鬼になり、さまざまな可能性を疑う事になって動きが遅くなってしまう。つまり、あえて昇に干渉しない事により、昇に疑心暗鬼を起こさせるのがフレトの考え出した作戦なのだ。
確かに、今の昇を見れば効果は抜群なのは確かだ。そして生徒指導室で昇の動きをすでに追跡準備が出来ているシエラ達も昇が動き出すのを待っている。更に言えば、フレトも巻き込まれること無く、セリスとゆっくりとした時間を過ごせるのだから、シエラ達にとっては最大限の効果を発揮する作戦とも言えよう。
まあ、フレトとしては、これ以上は巻き込まれたくないから、こんな作戦を提案したに過ぎないのだが、効果がある事は確かだ。それは今の昇を見るだけでも充分に分る事だろう。だからフレトは昇に自業自得と思いながらも、自分はセリスとゆっくりとした時間を過ごすために、この作戦をシエラ達に提供したのだ。
そして肝心の昇はというと……辺りをしっかりと見回してから、一度大きく深呼吸をすると意を決したような顔になり、辺りを警戒しながら教室を出て行った。どうやら昇も、このまま教室で考えるよりも、シエラ達の動きに合わせて対応していった方が効果的だと判断したのだろう。
だから昇は警戒しながらも普通に昇降口にまで歩いて行き、そのまま学校を後にした。その事が昇には拍子抜けした事ながらも、まだ油断ならないと気を緩めなかった。そんな昇が、これからどうするかを考える。
う~ん、今日は春澄ちゃんとの約束が無いから、久しぶりにシエラ達と帰ろうとしたんだけど……まさか、こんな結果になるなんてな~。琴未の言葉も気になるし……なんか……このまま春澄ちゃんに会いに行けと言わんばかりの展開だな~。どうしようかな~。などと、戸惑いながらも昇の足は自然と春澄と会っている公園へと向かっていた。
結局来ちゃったよ。そんな事を思いながら昇は春澄と会っている公園の入口に立ち尽くしていた。昇としては素直に帰宅してもよかったのだが、誰かの意思なのか、それとも昇が望んだ事なのかは分からないが、昇は春澄と会っている公園へと来てしまっていた。
このまま公園に足を踏み入れても春澄は居ないはずだ、少なくとも昨日の約束では、そういう事になっている。だが、昇は春澄が公園に居るのではないのかと感じていた。確かな事は分からない。ただ……昇の意思なのか、それとも何かの力なのか、昇と春澄は引き付けあう因縁のような物を持っていた。だから昇はもしかしたらと、理由の無い確信を得ながらも公園へと足を踏み入れた。
……春澄ちゃん……普通に居たんだけど……僕はどうすれば良いんだろう? そんな疑問を思い浮かべながらも昇の足は自然と春澄に向かって歩き出し、いつの間にか春澄の前に昇は立っていた。
そんな昇の気配を感じたかのように春澄は昇の顔を見るかのように顔を上げると昇に向かって話し掛けてきた。
「やっぱり来ちゃったんですね。昨日は会えないって言ったんですけど……争命の因果からは逃げられないようですね」
「まるで僕が今日もここに来る事を想定していたような言い方だね」
そんな昇の言葉に春澄は首を横に振ってから答えてきた。
「来るかもしれないとは思ってました。でも……私の本心は来て欲しくないと思ってました。だから昨日は会えないと約束したんです」
「まるで……僕に会う事を拒んでいる言い方だね」
「……その通りかもしれません。今日は……昇さんには会いたくなかった。でも……私達の因果はお互いに引き合った。これはしかたない事かもしれませんね。それに……こうやって、今日も出会ってしまったのだから、仕方の無いことです」
そんな言葉の後に春澄は大きく息を吐くと昇は微笑みかけながら春澄に尋ねた。
「それで、春澄ちゃんとしては、出会ってしまった僕達は何をすべきだと思う?」
そんな質問に対して春澄は半分ほど呆れたような、けど半分ほど嬉しそうな顔で答えてきた。
「なら、今日も楽しく過ごしたいです。出来るだけ……残された時間を最大限に」
「うん、そうだね」
そう言うと昇はいつもと同じように春澄の横に座ると春澄も少しだけ嬉しそうな顔を昇に向けてきた。けれども、昇は少しだけ真剣な顔付きで春澄に話しかけるのだった。
「突然だけど、やっと春澄ちゃんから出された宿題に答えが出せたよ」
その言葉を聞いて春澄も顔付きが変わって真剣な物になり、昇の言葉に耳を傾ける。もう、昇の言葉しか入らないほど、春澄は真剣に昇の言葉を待っていた。そんな春澄に対して昇は真剣に、そして……最大限に自分の感情を込めて口を開いた。
「確かに春澄ちゃんが考えた事は正しいと思うよ。人は終焉、死に向かって歩き続けてる。でも……自然と歩いて行くのと、自分の意思で歩いていくのは違う。自然と歩いていくのは自然の摂理だ、人はいつか死ぬ事には変わりないから終焉に向かって歩いて行くのは当然の事だし、生きているからには誰も終焉の摂理からは逃げられない。でも、自分で歩いていくのは違う。それは自分が死に行くようなものだから自殺行為と変わらない。自らの意思で終焉に向かって歩くという事は、自らの意思で死に行くのと同じだ。だから僕は春澄ちゃんを止めたい。それが僕の答えだよ」
そんな昇の答えを聞くと春澄は大きく息を吐いてから、天を仰ぐようにして昇に言葉を返してきた。
「確かに……私は自分から死に向かってるかもしれません。でも……絶望はしてません。その代償に……掛け替えのない物を得たから。だから私は死に向かって歩いてるんです。そんな私の人生に私は後悔も、絶望もしません。だから、そんな私の人生を……昇さんに止める権利なんてありますか?」
「権利なんて無い。でも、僕は春澄ちゃんに生きてて欲しい。出来る事なら、僕達の友達になれるかもしれないし、もっと楽しい時間を過ごせるかもしれない。これは僕の我が侭だ。だから受け入れて欲しいとは言わない。でも……僕は春澄ちゃんと過ごした時間を楽しいと感じてたし、出来る事なら、僕の仲間達とも仲良くなって、もっと楽しい時間を過ごしたい。そこに理由も権利なんていらない。僕がそう思ったからこそ、思った事を言葉にして伝えた。僕の……正直な気持ちを……」
そう、これこそが昇が出した答えだ。そこには理論も倫理も無い、ただ……昇が思った素直な気持ちが込められた言葉だけに過ぎない。そんな昇の言葉を聞いて春澄は手探りで昇の位置を知ると、昇に寄り掛かるように頭と身体を預けてきた。それから春澄は閉じた瞳の端に涙を見せながら昇に向かって言うのだった。
「その答えは……ずるいです。そんな素直な感情をぶつけられたら……どんな言葉も意味を成さないじゃないですか。それに……そんな事を言われたら……私もそうしたいと思っちゃいますよ」
「なら、そうすれば良い……って言いたいけど、そうは出来ないんだよね」
「はい、私の人生はもう決まってます。終焉に向かって歩くしか無いんです。今更になって他の道に行く事は出来ない。でも……終焉の前に楽しむ事は出来ます。だから……」
「うん、そうだね。今ぐらいは楽しい事を話そうか」
「はい」
昇に寄りかかりながらも、元気良く返事を返してきた春澄の顔には、もう涙も悲しみもなかった。すでにいつもの春澄が浮かべている笑顔に戻っていたのだ。そんな春澄の笑顔を見ながらも昇は今を楽しむ事に決めた。
これから春澄が何をするかは分からない。でも……春澄が何をしようとも、自分が絶対に春澄にとって最高の終焉を迎えられるように決意したからだ。だから昇も今は春澄との一時を楽しむかのように笑顔を浮かべるのだった。
「って! 何よ、あの女っ! あんなにも昇に密着してっ!」
「これ、琴未よ、あまり大きな声を出しては気付かれるぞ。今はじっとしておるんじゃ」
「……あの女が契約者なら……」
「シエラよ……さらりと怖い事を言わんでくれ」
「皆して暴れないでよ~、これを使うのって難しいんだから~」
昇と春澄が楽しげな会話を始めた頃、公園の茂みに身を隠したシエラ達は始めて見た春澄の存在に、それぞれの反応を示していた。まあ、もっとも、怒っているのはシエラと琴未だけで、仲裁役となっている閃華は大変そうだが、ここまで追跡したミリアは今では下敷き状態だ。まあ、ここまで昇を追跡出来れば、もうミリアの装置は用無しだが、ミリアはせっかく自分自身の手で作ったものだから大事にしたいらしい。
そんな状況の中で閃華が何とか琴未を落ち着かせて、茂みの隙間に円陣を組むようにお互いに顔を見合わせると、今後の事を話し始めようと閃華が説得してきたので、渋々ながら琴未は一旦昇から目を離して、シエラも加わり、円陣が組まれて、話し合う事を決定された。
「それで閃華、今の状況を見ても昇が浮気しているのは、まぎれも無い事実でしょ。だったら、今すぐに昇の元へ行って、あの女をギタギタにいびるのが一番でしょ」
「ギッタギタだ~」
琴未の言葉にミリアも意味無く、同意したかのような言葉を口にする。そんな二人を見て閃華は溜息しか出なかった。そして、いつの間にか円陣から姿を消していたシエラに気が付くと、シエラが茂みから、少しだけ頭を出して、何かをしている姿を発見した。
「それで、シエラは何をしておるんじゃ?」
既に止めても無駄だと諦めた閃華は言葉だけをシエラに投げ掛けた。そんな閃華の言葉を聞いた後にシエラの作業は終わったのだろう。円陣に戻ってくると自分の考えを話し始めた。
「状況から考えて、今の段階で私達が飛び出して行くのは得策じゃない」
「なんでよ」
シエラの言葉に不満そうな、いや、思いっきり不満な声を上げる琴未。そんな琴未を横目に見ながらシエラは話を続けてきた。
「今の段階で私達が、あの二人を問い詰めると、昇は必ず、あの女の味方をする。今の状況だと、どう見ても私達の方が悪役になってしまう。それに、昇の性格を考えても、複数で責められている人を放っておくわけが無い。絶対に私達を説得するに決まってる」
「つまり、今の段階で飛び出しても意味は無いって言いたいわけね」
琴未の言葉に頷くシエラだった。琴未も昇との付き合いが長いだけに、シエラが言った場合を想像すると昇が取るだろうと思われる行動は琴未にも、すぐに理解できた。それはシエラが言った通りだからこそ、琴未はシエラの意見をそのまま肯定したのだ。
だが、そうなると琴未は自分達がどう動けば良いのかが分からなくなったのだろう。先程まで席を外していたシエラに向かって話しかける。
「それで、シエラには何か考えがあるの」
そんな琴未に質問にシエラは笑みを浮かべて即答してきた。
「当然、何の策略も無しに私は行動しない」
「はいはい、シエラはそういう性格だものね。陰湿というか、陰険というか」
「琴未は戦略上での陰策や陰謀という作戦が立てられないほどの知能しか持ってないから、そう感じてるだけ」
「…………」
「…………」
いつの間にかシエラと琴未の視線がぶつかり合い、視線の中心では大きく火花を散らしている。どうやら二人の悪い癖が出たのだろう。そんな二人を見て、閃華は思いっきり溜息を付くと、話を元に戻すために口を挟んできた。
「今はシエラの性格や琴未の頭を討論する時ではないじゃろう。二人とも、いい加減に対立を激しくしておると、そろそろ昇も愛想を尽かすかもしれんのじゃぞ」
「んっ!」
「ぐっ!」
閃華の言葉を聞いて、思わず言葉を飲み込むシエラと琴未。昇が逃げ出した事もあり、自分達の行動が昇の負担になっていた事は自覚していたようだ。だから、改めて閃華から、そのような言葉を浴びせられると二人は返す言葉を飲み込むしかなかった。
そんな二人の光景を見ていた閃華は大きく溜息を付くと、シエラに対して質問をした。
「ところでシエラ、先程は何をしておったんじゃ?」
その質問に対してシエラは全員に密着するように手招きするのだった。それから自分が考えた作戦と先程の行動について説明した。そんなシエラの作戦を聞いて、琴未は納得しながらも作戦にもう少しアレンジ出来ないかを口に出してきた。
「なるほどね、確かに昇を追い詰めるのには、それが最高かもしれない。でも……やっぱり、このままだと気が済まない。どうにかしたいのよね」
そんな琴未の言葉を聞いて考え込む一同。確かにシエラの作戦は完璧だが、今の時点で決行する訳にはいかないようだ。だから今は何をやるべきかを考える一同。その中で一番初めに思案を出してきたのは……意外な事にミリアだった。そんなミリアが一同に向かって考え付いた事を話し始めた。
「ね~、ね~、私達が乱入すると、昇があの女の子を庇うから困ってるんでしょ」
「そうよ、それはさっき説明した通りじゃない」
「だったらさ、いっその事、私達もあの女の子と友達になっちゃおうよ。そうすれば昇から何も言われる事は無いでしょ」
「なるほど、妙案じゃのう」
ミリアの発案にしては珍しいとばかりに声を上げて、軽く手を叩く閃華。確かに今までのミリアを知っていれば、こんな作戦を出してくるとは思えないだろう。もっとも、昇に対して一番執着が無いミリアだからこそ、そんな事を思いついたのかもしれない。
確かにミリアも昇の事が好きなのには変わり無い。だが、ミリアにしてみれば、昇を独占したい訳ではないのだ。昇と一緒に居る事で、シエラ達をも巻き込んで楽しい時間が過ごせるからこそ、そんな時間を作り出している昇が好きなのだ。だから、ミリアは昇を独占したいとは思わないし、昇の事が好きで得られる時間が好きだからこそ、ミリアは昇が好きなのだ。
だからミリアの好きというのは恋愛とは言えないかもしれない。けど、好きという事に定義も概念も無いからこそ、ミリアの好きはシエラ達とは違う好きだと言えるだろう。それは別にミリアが幼い頭を持っているからではない。そこには、やっぱりラクトリーからの影響があったのだ。
それは歴史に関する事だった。英雄色を好む、との言葉どおりに、英雄と呼ばれる人は女好きが多い。けど、それを逆に言えば、それだけの女性を魅了するだけの魅力を持っているのも確かな事である。つまり、英雄ほどの器を持っていれば、一人の女性を一途に愛するだけでなく、複数の女性を虜にするのも不思議では無いという事だ。
つまり、昇には複数の女性から愛されるだけの魅力と器を持っている。ミリアも昇の中にそれを見つけたからこそ、ミリアは昇が好きだが独占したいとは思わない。それは複数の女性に好きと言わせた昇の一面も昇の魅力だとミリアが感じたからだ。だからミリアはそんな昇の魅力にひかれて好きになったのだ。そこがシエラ達とは違うところだといえるだろう。
だからこそ、ミリアは昇が違う女性と親しげにしていても嫉妬したりはしない。それは昇が持っている魅力が他の女性をひき付けたに過ぎないからだ。そんな魅力を持った昇をミリアは好きになったのだから、今更になって他の女性と昇が親しげにしていても嫉妬しないのである。
そんなミリアだからこその妙案とも言えるだろう。そしてシエラと琴未もミリアの妙案について考え、そして答えを出してきた。
「ミリアにしては珍しく役に立つ作戦を出してきたわね。でも……行けるかもしれない」
「……敵を知る事こそ攻略の第一歩……」
どうやら二人ともミリアの作戦には賛同のようだ……まあ、それぞれに思惑が有る事は言うまでも無いだろう。だが、これで方針が決まった事には変わり無い。だからこそ、琴未は立ち上がると全員に告げる。
「なら、さっさと昇のところに行きましょう」
猪突猛進のような事を言い出してきた琴未に対して閃華は溜息を付いた。確かに方針は決まったが具体的にどうするかは、まったく決まっていない。だからこそ閃華は溜息を付いたのだが、そんな閃華の溜息を吹き飛ばすかのように琴未は微笑む。
「大丈夫よ、閃華。そこはしっかりと考えてあるから、閃華達は私に話を合わせてくれればいいのよ。だって、私達はあの女と友達に成りに行くんだからね~」
「……琴未よ、その不気味なほどの微笑みは消してから行く事じゃな」
琴未の言葉を聞いて、琴未には何かしらの腹案があると感じ取ったのだろう。だから、ここは琴未に任せた方が良いとシエラは判断してきた。なにしろシエラは舌戦ならともかく、友達になるような話し方には不慣れなのだ。そんなシエラとは打って変わって、琴未は普通に女友達と話す事にも、友達に成る事にも慣れている。だからこそ、シエラは何も言わずに琴未に任せる事にした。まあ、閃華が指摘したとおりに、最後には本音を出したかのように微笑みに邪悪なオーラが出ていた。
なんにしても、これで琴未達の行動については決まった。後は実行あるのみと琴未達は行動を開始するのであった。
「あっ! 昇じゃない、こんな所でどうしたの」
「って! 琴未っ!」
普通に公園の入口から入って行き、偶然のように昇を見つけたフリで声を掛ける琴未。もちろん、先程の事があるから琴未達がここに来たのは偶然ではない。全ては偶然と自然を見せるために琴未が演じているだけである。
そんな琴未達が当然のように昇に近づくと、昇は当然、あたふたと混乱と慌てふためくばかりだ。一方の春澄は微笑んだまま琴未達の方へと顔を向けていた。そして琴未は昇が何かを言う前に会話の主導権を一気に手に入れる。
「丁度良かったわ、私達も暇だったのよね。だから私達も二人の会話にお邪魔して良いよね?」
微笑みながら、そのような言葉を口にする琴未。昇から見れば、琴未の微笑が決して拒否してはいけない事を物語っていた。それでも、相手はシエラを始め、四人が揃っているのである。このままでは春澄が変な嫌疑を掛けられて、もしかしたらシエラと琴未にいびられるのではないのかと昇は心配になり、何とか誤魔化して、撤退しようとするが、その前に春澄が琴未達に対して口を開いてきた。
「琴未? ……あ~、昇さんが話していた幼馴染の人ですよね。良いですよ、私も大勢で騒ぐのは大好きですから」
って! 春澄ちゃんっ! その言葉は自殺行為と一緒だよっ! 思わず、そんな突っ込みを心中で入れる昇。そして春澄の言葉を聞いた琴未達は、これは良い展開になったとばかりに春澄を挟むようにシエラと琴未割り込むと、ミリアが昇の隣である一番端っこに座り、すでにベンチにスペースが無いので閃華は後ろから事の成り行きを見守る事にした。
「突然お邪魔してごめんね~、えっと……」
「あっ、私は春澄って言います、雫春澄です」
「へぇ~、春澄ちゃんか~」
……えっと、琴未さん、何で僕の方に不気味な笑みを浮かべながら確認をするのでしょうか? そんな疑問さえも口に出来ない昇は、何とか春澄だけは守らないとと思うが、事態は昇が想像していた方向とは、まったく違う方へと向いて行くのだった。
「昇から聞いてるみたいだけど、一応自己紹介しておくね。私は武久琴未、昇と幼馴染っていうのは知ってるみたいね」
「……シエラ」
「はいは~い、私はミリアだよ」
「最後は私じゃな。閃華じゃ」
和やかに自己紹介をする琴未達、そんな琴未達には不機嫌なオーラも不気味な微笑みも無かった。まるで普通に、というか、普通としか言えないような自己紹介をして来たのだ。その展開に呆気に取られる昇。どうやら昇は琴未達が最初っから春澄に喧嘩腰に来ると思っていたのだろう。それが、まさか、こんな普通の展開になるとは思ってもいなかった。
一方の春澄はいっぺんに言われて戸惑っているようだった。それでも、紹介された名前と位置を指差しながら確認する。その光景に琴未は不思議そうな顔で言うのだった。
「別にそこまで丁寧に確認しなくても良いんじゃない。私達の事は昇から聞いてるでしょ」
「あっ、いえ、そういうわけじゃなくて」
「琴未よ、それじゃ」
閃華に指摘されて琴未は初めて、春澄の傍に置いてあるステッキに目を向けた。それでも琴未には何の事なのかが分からなかったのだろう。閃華に向かって首を傾げると、シエラが簡潔に答えを出してきた。
「盲目」
「えっ?」
シエラの言葉に一瞬だけ意味が分からないと言った表情を浮かべる琴未。だが、シエラの言葉と春澄が常に瞳を閉じている事と決して傍から離さないステッキを見て、ようやく全てを理解したようだ。
「あっ、そういう事か、ごめんごめん、まったく気付かずに勝手に話しちゃったね」
「いいえ、気にしないでください」
まさか春澄が健常者では無い事をまったく想定していなかった琴未にしてみれば、春澄が盲目だった事は驚きでもあり、少しの罪悪感を残すものになってしまった。けれども、春澄はまったく気にしていないとばかりに琴未の方へと顔を向けると微笑んだ。
そんな春澄の微笑を見て、琴未は何故か昇の方へと顔を向けると溜息を付いた。そんな琴未の行動に昇はワケが分からないといった顔をするが、そんな昇を放っておいて琴未は春澄との会話を再会させた。
どうやら琴未には昇が春澄と毎日も会っている理由が分かったようだ。それはシエラ達も同じであり、春澄に対しての考え方を少しだけ変えた。確かに春澄は悪くは無いが……昇には充分に問題があった。その事にまったく気付かない昇を放っておいて、会話は自然と弾んで行った。
「へぇ~、じゃあ、いろいろな所を旅してるんだ。でも、目が見えないのに大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫ですよ。私には保護者じゃないですけど、パートナーと言える存在が居ますから」
「パートナー? それって春澄ちゃんの恋人とかになるわけ?」
「違いますよ。私達の間に恋愛感情なんて無いです。あるのは共通の目的だけです」
「なるほどのう。その共通の目的を果たすために、一緒にいるわけじゃな」
「はい、そうです」
「じゃあ、家族みたいなものなのかな~?」
「そうですね~……そうかもしれませんね」
「じゃが、春澄と家族のような関係を築くとは、その人物もかなり優しい者のようじゃのう」
「う~ん、優しいといえば優しいけど、私達は自分達の目的を達成するために旅をしてますからね。自然とあっちが私に合わせてくれるんでしょうね」
「でも、春澄ちゃんと旅をしてるんだから、それだけで優しい人って言えるでしょ」
「そうだよ~」
すっかり会話が弾む琴未達。その中でシエラだけが言葉を発する事無く、まるで春澄を観察するみたいに見詰めていた。そして昇はというと……琴未達の登場により、すっかり忘れられたように居心地を悪くしていたのであった。
まあ、女性陣がこれだけ集れば男の昇が会話に介入するのは難しいのだろう。それが慣れている琴未達だとしても、春澄と琴未達との会話に対しては、なかなか介入する事が出来ない。だから昇は苦笑いを浮かべながらも、琴未達と春澄を見守っていた。まあ、親しい女性が女友達と楽しく会話をしてて、その会話に割り込めない。今の昇はそんな状況と言えるだろう。
そして春澄はというと、昇の時とは違った。まるで今の状況を楽しんでいるような、昇に見せる笑顔とは違った笑顔を浮かべているのだった。そんな春澄を見て、昇はやっぱり春澄も女の子達と話していた方が楽しいのかなと疑問を抱いていた。
どうやら昇の朴念仁も治りそうにないようだ。昇が春澄と会っていた時間を合計しても約二十四時間、つまり一日ぐらいだろう。だが、昇はその一日ぐらいの時間で春澄の心を開いてしまったのである。それだけではない、春澄の心を自分に向かせたのだ。だから今となっては昇という存在は春澄にとって特別な存在なのだ。それを恋愛感情と言えるかどうかは別として、春澄の中では昇は特別な存在になっているのは間違いない。だからこそ、昇だけにしか見せない笑顔を持っているのだ。
当然のように昇がそんな春澄の心にまで気付くわけがなかった。けど……こうやって春澄が琴未達と楽しく会話しているのも悪くは無いと、昇は春澄達を見て、そんな事を思っていた。
琴未達が昇達と合流してから数時間が過ぎただろう。辺りはすっかり暗くなり始めた頃。春澄は静かに立ち上がると琴未達に対して言うのだった。
「今日はこれから用事があるので失礼しますね。それから……ありがとうございます。今日は……とっても楽しかったです。出来る事なら、もっと楽しい時間を過ごしていたいけど、私達にはやるべき事があるので、今日は失礼しますね」
「そうなんだ……って! もうこんな時間じゃない、すっかり話し込んじゃったわね。こっちも楽しかったから、また機会があったらお喋りしようね」
「はい、そうですね……機会があったらですね」
ちょっとだけ顔を伏せて、少し暗い表情を見せてきた春澄に対して昇達は首を傾げるばかりだった。そんな春澄が気持ちを切り替えたのだろう。笑顔に戻ると昇達に言うのだった。
「それじゃあ、今日は失礼しますね」
「じゃが、送っていかなくても大丈夫なのか?」
盲目の春澄に対しての気遣いだろう、閃華がそんな事を春澄に尋ねると、春澄は公園の入口に顔を向けた。そこには遠巻きながらも春澄達を見ている巨漢の男性が立っていた。それから春澄は琴未達に顔を戻すと話を続ける。
「見ての通り、迎えが来てますから。だから大丈夫です」
「なるほどのう、あれが春澄殿が言っていたパートナーじゃな」
「うわ~、おっきい人だな~」
春澄を迎えに来たアルビータの姿を見て、感想を言う閃華とミリア。アルビータの存在が確認できたところで春澄は先を急ぐかのように言うのだった。
「それじゃあ、今日は用事があるので失礼しますね」
「あっ、引き止めてごめんね。じゃあ、また今度ね」
「はい、また……」
春澄は昇達に対していつもの微笑を向けると一度だけ大きく頭を下げてから、アルビータの元へと歩いて行った。そんな春澄を見送る昇達。そして春澄とアルビータが合流するとアルビータも感謝の意味を表したのだろう。昇達に対して一礼すると、春澄の手を取って公園を後にするのだった。
そんな春澄達を見送った後、突如として不機嫌なオーラを出し始めた琴未が昇に対して口を開いてきた。
「春澄ちゃんね。確かに盲目というハンデキャップを抱えてるし、苦労も多そうだったわね~。それに……なによりも……可愛かったものね、昇」
えっと、琴未さん、春澄ちゃんが居なくなった途端にそれですか。と思わず、そんな事を言いたくなる昇だが、琴未の不機嫌なオーラが昇の口を塞いだ。それはそうだ、なにしろ、ここのところは毎日、昇は春澄と密会に近い状態で会っていたのだ。琴未が不機嫌になるのも昇には分っていたし、分っていたからこそ、昇は自分から打ち明ける機会を狙っていたのだ。自分から言い出せば琴未達の不機嫌さも軽減できるし、上手く行けば消し去る事が出来ると考えたからだ。
だが、こうして琴未達から来てしまったのでは昇は後手に回って返す手が無い。だからこそ、琴未に対しても苦笑いするしかなかったのだ。それから琴未から怒涛の言葉が飛び出すかと誰もが思ったが、意外な事にシエラが口を開いてきた。
「昇」
突如として昇に呼び掛けるシエラ。一方の琴未はシエラに遮られたのでシエラを睨み付けるが、シエラはそれ以上の真剣な眼差しで琴未を制すると、シエラには何か考えがあると琴未も感じ取ったのだろう。だから今はシエラに任せる事にした。
そんな二人のやり取りを見ていた昇は何も起きなかった事に一安心したが、シエラは思いも掛けない事を言い出してきた。
「あの……春澄って子……気をつけた方が良い」
「えっ? 気をつけるって、何を?」
「……分からない。でも……あの春澄って子を見てたら、何か違和感があった。それが何かは分からないけど……分からないから気をつけた方が良い」
シエラがそんな事を言うと昇は意味が分からないとばかりに閃華の方へと説明を求めるが、閃華も肩をすくめて首を横に振るだけだった。どうやらシエラだけが春澄に対して、何かしらの違和感を覚えたようだ。だから閃華もシエラが言う違和感について説明ができる訳がなかった。
シエラの気のせい……って事は無いよね。シエラの観察力なら、春澄ちゃんが隠している事を見つけてもおかしくは無いんだけど……違和感ってなんだろう? 春澄ちゃんの行動に何かあったのかな? まあ、シエラの言う事だから何かあるのかもしれないけど、別に気をつける事でも無いんじゃないかな。最終的には、そんな結論を出す昇。
昇はシエラの観察力を疑っているワケではない、春澄に対して警戒する必要が無いと思ったからこそ、そんな判断を下したのだ。もちろん、シエラの観察力が優れている事は今までに幾つもの戦場を共にしてきた昇だからこそ良く分っている。
なにしろシエラは相手の力を見て、すぐに相手の属性を言い当てているからだ。もちろん、シエラがそれだけの知識がある事も要因の一つだが、相手の力を見て、それが何の力なのかを見極めるには、やはり知識と観察力は欠かせないのだ。シエラはその両方を持っているからこそ、すぐに昇と敵対してきた相手の属性を言い当てている。そんな事があったからこそ、シエラの観察力に対しては疑わない昇だが、やはり春澄に対して警戒する必要が無いからか、シエラの言葉をそんなに重く受け止めず、心の端っこに覚えとくだけにしておくのだった。それに……。
昇には分っているのだ。この後に待っている修羅場が、だからこそ、昇は修羅場を掻い潜る手段を考えようとするが、時既に遅し、琴未が口を開いてきた。
「さて、それじゃあ私達も帰りますか。ねえ、昇」
最後だけ、やけに威圧感を含ませながら昇を帰宅させようとする琴未。そんな琴未に対して昇が敵うはずもなく。昇は素直に琴未の言葉に従うのだった。
「……はい」
すっかりうな垂れて返事をする昇。こうして、昇はまるで刑務所に連行される囚人になった気分で帰宅の徒に付くのだった。
そして、琴未達が動き出したのは夕食を終えた後だった。すっかり片付いたテーブルに全員が揃っていた。昇としてはさっさと自分の部屋に撤退したかったのだが、すっかり閃華の罠に掛かってしまい、撤退は失敗に終わった。
その経緯は、こんな感じである。閃華が何気ない質問に、何も考えずに二つ返事で返してしまった事に要因があるのだが、まさか閃華が「昇、これから用事はあるかのう?」そんな閃華の質問に昇は無いと即答してしまったのが閃華の罠だったのだ。だから閃華は「なら、私達は昇に用があるから、ここに居る事じゃな」と、すっかり決定事項とした言葉を口にしたから昇としては逃げる機会を失ってしまったのである。
その後に閃華が小声で言うには、相手の隙を狙うのは戦略にとっても、戦術にとっても基本中の基本じゃからのう。つまり、夕食を終えた事で、すっかり気が緩んだ昇に対して、昇をリビングに留めとくために、閃華は自然かつ何気ない言葉の中に罠を仕込んだのである。
そのため昇はリビングから逃げる口実を失ってしまった。そして全員が揃った事を確認したシエラはテーブルの上に身を乗り出すと何かを広げ始めた。そして昇の前に見せ付けるように、広げられたのは……何枚もの写真だった。その場には彩香も居たので、彩香も興味津津で写真の一枚を手に取ると、じっくりと見る。
そう、この写真の数々こそがシエラが茂みに身を隠していた時に取っていた行動の結果である。つまりシエラは一時だけ円陣から離れて、カメラを構えて写真を撮っていたのである。昇達にも、そして周囲の人達にも気付かれないように。その結果として、テーブルの上には何枚もの写真が無造作に置かれており、昇の前に広がっているのであった。
そんな写真を見詰める彩香を余所に、シエラ達は本題に入るのだった。真っ先に口を開いてきたのは琴未だった。
「さ~て、昇。昇が春澄ちゃんと楽しそうに会話している証拠は、ここにあるわけだし、今ここで春澄ちゃんとの関係について徹底的に話してもらおうじゃない」
そんな事を言って来た琴未に対して昇は引きつった笑顔で返事をする。
「べ、別に特別な関係じゃないよ。なんというか……ほら、春澄ちゃんって盲目じゃない、だから」
「確かに、昇がそういう人に対して優しいのは分かるわよ。でもさ……」
と言ってから琴未は写真の中から一枚を適当に手に取ると昇の目の前に突き出した。その写真には楽しそうに春澄と会話をしている昇の姿がしっかりと映し出されていた。そんな写真を見ながら昇は何とか言葉を口にする。
「ほ、ほら、普通に話してるだけじゃない。だから」
「昇、凄く楽しそう」
「うっ」
シエラの一言に胸を貫かれる昇。そう、確かにテーブルに散らばっている写真の数々。その写真に写っている昇は、どれもこれも楽しそうな笑顔で春澄と話している様子をしっかりと写し出しているのである。そんな証拠を前にして昇は言葉を失った。
そんな光景を見ていた彩香が楽しそうに横から口を挟んできた。
「おやおや、昇君や。こんなにも美少女に囲まれながらも、別の女の子に手を出すつもりかい」
「って! 母さんもからかわないでよ」
「でも証拠の写真が沢山」
「ぐっ」
「ですよね、おばさんっ! これって絶対に浮気ですよね!」
「まあ、これだけの証拠があると、とっと、電話だ」
突如として鳴り出した電話に出るために席を立つ彩香。そして彩香が居なくなった事で、再び昇に対して攻撃を始めるつもりなのか、琴未を始め、決定的と言える写真を探し始める琴未達。だが事態は意外な方向へと展開する。
「昇~、電話よ」
彩香がそんな事を伝えてきたのだ。時間はすでに夜だ、こんな時間に電話をしてくる相手なんて昇には想像できないが、昇としては彩香の言葉が救済の言葉に聞こえ、電話には後光を見る昇だった。
そんな昇が電話ならしょうがない、という感じを出しながら、少し嬉しそうに電話に向かうと彩香から受話器を受け取り、電話を代わると、相手は思いも掛けない人物、いや、正確には精霊だった。だが、それ以上に慌てた、いかにも非常事態であるような早口で喋ってくるのだった。
『昇様ですか、咲耶でございます。夜分ながら失礼かと思いますが事態が急を要する事態が発生したのでお電話をした次第でございます』
「咲耶さん?」
まさか咲耶から電話が来るとは思っていなかっただけに昇の胸には嫌な予感が走った。だからこそ、余計な事は言わずに咲耶の言葉を聞くことにした。
『単刀直入に申し上げます。出来うる限り早く、援軍をお願いします。今現在、我らの屋敷は精界の中で、私だけが脱出してセリス様を守護しているのですが、主様達は戦闘中です』
「フレト達が戦闘中っ! それってどういう事?」
あまりにも思い掛けない緊急事態。電話の向こうに居る咲耶はかなり焦っているようだ。昇はそんな咲耶に対して要点だけを説明するように求めるのだった。そんな昇の言葉を聞いて、咲耶は早口で一気に説明する。
『いきなり、お屋敷が精界に包まれたんです。ラクトリーによると相手は二人、つまり契約者と精霊だけになります。だから主様は自分達だけで迎撃出来ると判断して迎撃に向かい、私はセリス様を守るために、非常用の精界破壊装置を使ってセリス様の元へ戻りました。相手が二人なら私も問題は無いと思いました。ですが、ラクトリーから非常用の救援信号が届いたんです。精界の中はここでは何が起こっているかは分かりません。私もセリス様の傍に居なければならないですから。だから昇様、お願いします。どうか援軍として来てください』
「分かりました、すぐにフレト達の元へ行きますから。咲耶さんは、そこをお願いします」
『ありがとうございます、では』
昇は慌しく電話を切ると真剣な眼差しでシエラ達の方へと振り返る。シエラ達も電話とはいえ昇の雰囲気から何かあったのかが察したのだろう。だから今は昇の言葉を待つ事にした。そんな昇がシエラ達に告げる。
「フレト達が誰かに襲われてるみたい。相手は分からないから、こっちは全員でフレトの援軍に向かうよ。詳しい事は走りながら話すから、皆はすぐに出かけて戦える準備をして」
そんな昇の言葉にシエラ達はすぐに動き出す。シエラ達はすっかり普段着になっていたから、とてもでは無いが、外に出歩く服装ではない。だから着替える必要が有ると、女性陣はすぐに部屋に戻って行った。そんな女性陣とは変わって、昇は普段着でも出かけられる服装をしている。まあ、ここは男女の違いと言ったところだろう。だから、昇はその間に彩香に告げる。
「母さん、ちょっと非常事態だから、出かけてくるね」
「あいよ……昇、下手打つんじゃないわよ」
「うん、分ってる」
それだけを言うと昇も玄関に向かって駆け出した。二人とも詳しい事は一切、話はしなかった。もしかしたら、もう彩香は既に全てを知っているではないのかと昇は思ったが、口にはしなかった。それはたぶん、どんな事があっても昇が自分自身で進んでいかなければならない事を彩香は態度で示しているのではないのかと昇は考えたからだ。だからお互いに余計な事は口にしなかった。
なんにしても、今現在、フレトの屋敷では戦いが行われているのだから。今はフレトの救援に向かうのが最重要事項である。だからこそ昇は気を引き締めながらも、玄関で全員が揃うのを待っていた。そんな昇が不安を感じつつも思う。
フレトの事だから大丈夫だと思うけど……何なんだろう、この不安と焦燥感は。理由は良く分からないけど……何かが動き出したような気がする。もう、引き返せない何かが。そんな理由も無い思いが昇の胸を締め付けるように、何かの因果を感じながらも昇達はフレト達の救援に向かうために動き始めるのだった。
はい、そんな訳で……思いっきり長くなって、密度も増し増しの今回ですが……いよいよ物語が動き始めた感じが出てきましたね。
そんな訳で……次回はいよいよバトル開始ですっ! ん~、今までのエレメに比べれば、本格的なバトル開始が遅すぎる感じがしますね~。まあ、それだけに、今までの展開が重要であり、バトルが引き立つというものなのですよ。
そんな訳で、次回はいよいよ戦闘開始です。久しぶりのバトルシーンなので……もしかしたら長くなりすぎるか、二話に分ける可能性もありますね。なにしろ……久しぶりですからね。
まあ、なんにしても、次回は久しぶりのバトルシーンをお楽しみくださいな。誰と誰が戦うかは、もちろん、まだ内緒。次回をお楽しみに~。
さてさて……蘇れっ! 私っ! そう……腐ったゾンビのように……って、それじゃダメじゃんっ! ううっ、せっかく最近になって復活してきたと思ったら、すっかり腐ってたよ。まあ、前々から腐っていたのは忘却の彼方に投げるとして、ここまで腐ると……後は焼くしかないのかな。
そうなると……ゾンビからガイコツに転職って事になりますよね~。というか、この場合はどっちが強いんだろう? まあ、どちらにしても……回復魔法を掛けられたらダメージを受けそうですね。
えっと、それはつまり……今の私は回復すら許されないって事ですかっ! そこまで進行してしまったんですかっ! 既に復活魔法も効かないのですかっ! 誰か私に復活魔法を掛けてっ!
……………………復活は失敗に終わった。
なんですとっ! くそっ! こうなったら転生しかない、私は再び生まれ変わるのだっ! それっ!
……………………マッチ棒の明かりに転生した。
食物連鎖にも入れてくれないんですかっ! っていうか、マッチ棒の明かりってっ! マッチの火が消えたら同時に消えるって事じゃんっ! えっ、私の命ってそんなに儚いの? だったら食物連鎖の一番下で良いから入れてくださいっ! 儚い命でも良いですからっ! ……えっ、ダメ? 残ってるのは水銀だけ……有害物質じゃんっ! 私は有害って事ですかっ! ……はい、そこで肯定した方……うわ~ん、いじめられた~、バカ~(大泣き)
っと、そろそろ意味の無い戯言はお終いにして締めますか。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、自分が風邪をひいてた事に半月以上も気付かなかった葵夢幻でした。最近になって、やっと治ってきたよ(涙)