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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
百年河清終末編
127/166

第百二十七話 緊急対策会議

「ただいま~」

 昇はなるべく静かに玄関を開けて、誰にも気付かれないように靴を脱いで、それから忍び足でとりあえずは自分の部屋へと向かうのだった。

「随分と遅い帰りじゃのう、昇よ」

 突如として後ろから聞こえてきた声に昇は驚いたように直立不動になる。それから油の切れたブリキ人形のように、ゆっくりと首を後ろに回して、いつの間にか後ろに立っている閃華の姿を確認するのだった。

 閃華が神出鬼没で、そんな閃華に慣れてきた今日この頃の昇だが、さすがに今日だけは神出鬼没の閃華に驚いたようだ。

 なにしろ時刻は午後の八時を過ぎている。普段なら全員が夕食を終えて、それぞれにリビングでくつろいでいる時間帯だ。それなのに昇一人だけが今頃になって帰って来たのだ。そして遅くなった理由が春澄という女の子に理由があるだけに昇としては、突然現れた閃華にも大いに驚き、戸惑いを隠す事は出来なかった。

 そんな閃華に向かって、どんな言い訳をしようかと必死に考える昇。昇は帰宅するまでも必死に言い訳を考えていたのだが、今になっても考えているという事は未だに良い言い訳が見付からなかったのだろう。更に酷い事に、閃華はよほど機嫌が悪いのか、かなり不機嫌なオーラを出しており、ゆっくりと昇に近づいてくる。

 そして閃華が昇の前に立つと、閃華はまるで誰かの所為でこうなったと言わんばかりの雰囲気を出しながら愚痴を言い始める。

「まったく、誰かの所為でシエラと琴未をなだめながら帰るのに苦労したものじゃぞ。なにしろ二人とも怒り心頭じゃったからのう、そんな二人をなだめながら、やっと帰って来たというのにのう、当の昇はおらんのじゃからのう。これはどういう事なのか一から十まで話してもらわんと私としても納得が出来んものじゃな」

 明らかに昇が悪いと、まあ、実際には昇が悪いのだが、ここまではっきり言われると昇としても言い返すことが出来なかった。出来る事と言えば今の状況を脱出する脱出口を見つけ出す事だけだ。だが、目の前に居る閃華を出し抜くのは至難の業だ。更に閃華の事だから、上手く掻い潜っても何が待っているか分かった物ではない。つまり昇は、今ここで閃華をどうにかしてなだめて納得させるしか、脱出する手段は残されていないのだ。

 だからこそ、昇は閃華と視線を合わせる事無く、宙を漂わせながら必死になって言い訳を考える。もう、ここまで来たら、何かを言うしかないと昇は覚悟を決めて思った事をそのまま口に出す。

「えっと、ほ、ほら、今日って重力が十倍になる日じゃない。だから身体が重くて重くて、だから帰るのに時間が掛かったんだよ」

「ほう、地球にそんな現象が起きるとは初めて聞いたんじゃが。それに私達は普通に帰って来たんじゃぞ、それなのに私達の方が早く家に着いたのは、どういう理由じゃ」

「だ、男性限定なんだよ。いや~、男の人って大変だよね。たまに、こんな日があって力を酷使して帰宅するんだから大変だよね~」

「なるほどのう。じゃが帰りに見かけた男性は普通に歩いておったが……これは、どう説明するんじゃ」

「そ、それは……年齢制限だよ。ほら、あまりにも子供だと辛すぎるし、疲れてるサラリーマンにも辛すぎるでしょ。だから僕達の年齢に限定されて重力が強くなるんだよ」

「私が見かけたのは昇と一緒ぐらいの年齢で学生じゃったがのう。その男子学生は普通に歩いていたが、これは何が違うんじゃろうな」

「そ、それは……契約者だよ、契約者っ! 契約者だけに重力が強くなるんだよ」

「なるほどのう。ところで昇よ、いつまで、こんな不毛な言い訳を続けるつもりなんじゃ」

 うっ、やっぱり無理だったか。というか閃華さん、思いっきり僕で遊ぶ事で僕に八つ当たりしてませんか。そんな事を思う昇はチラッと閃華の顔を見るが、閃華の顔は微笑んではいるものの不機嫌なオーラが昇の目にはしっかりと見えた。それほどまでに閃華が微笑んでいる事が逆に怖かったのだろう。

 そんな閃華を見た事で昇は言い訳が通じない事を察すると次なる手を考えるが、意外なところから昇にとって救世主となる人物が現れた。

「昇? 帰って来たなら、さっさと夕飯を食べちゃいなさい。いつまでも放っておくとシエラちゃんと琴未ちゃんが大変なんだから」

 母さんは手伝う気が無いんだね。でも……ありがとう母さんっ! 廊下で不毛な言い訳を続ける昇にとってリビングから覗くように姿を現した綾香の姿はまさに後光が射していた事だろう。これで昇は正当な理由で閃華から逃れて、夕食を食べるという大義名分が立った。さすがの閃華も綾香がそんな事を言えば口は出せないだろうという魂胆があったからこそ、昇は始めて今までに無いぐらい母親に感謝するのだった。

 だが当然のように事態は昇が期待していた方向に行くはずが無かった。

 ……えっと、なんか……凄く食べ辛いんですけど。というか……両方から来る不機嫌なオーラが痛いです。そんな事を思う昇。それも仕方ないだろう、なにしろ夕食の席に付いた昇の両脇にはシエラと琴未が座って昇に微笑んでいるのだから。

 しかも無言で不機嫌なオーラを出しながら微笑んでいるのだから、昇としては居心地が悪いどころか針のむしろに座らされている気分だ。最早、居心地が悪いどころの気分ではない、すでに拷問に遭っているような気分の昇だった。

 まあ、全ての原因が昇にあるのだから、しょうがないといえばしょうがない事だろう。だがシエラ達がここまで不機嫌なオーラを出しつつ、不機嫌さを強調させるように微笑んでいるのだから昇としては予想以上の窮地に立たされた事にやっと気が付いた。

 それでも、昇は何とかして窮地を脱しないといけない。なにしろ原因が昇にだけあるなら良い、帰宅が遅れた理由が昇の他に春澄にも要因があるとなると、シエラ達の事だ、全力で春澄を排除しかねない。まあ、そんなに酷い事はしないと昇は思っているけど、それでも盲目の春澄を昇の事情で巻き込むのにはかなり気が引けたようだ。

 だからこそ昇は原因を話す事無く、ただ夕食を口に運びながら両脇から感じる不機嫌で痛い感触を耐えなければならなかった。

 更に悪い事に、昇の前には閃華が座っており、昇の部屋に繋がっているリビングのドアにはミリアが控えていた。この状況で昇が脱出するのは至難の業どころか、絶対不可能と昇は思っているが、それでも何とか、この危機を脱しようと夕食を口に運びながら何とか脱出方法を考えるのだった。

 うぅ、完全に包囲されてる。これだと部屋に戻るにしても戻れないよ~。けど今日の出来事を素直に話すわけにはいかないよね。琴未は僕に告白する前に僕に好意を寄せていた女の子を排除してたし、シエラは何を企んでくるか分ったものじゃないからな~。だから余計に春澄ちゃんに付いて話す事は出来ないよね~。……あ───っ! 神様っ! どうすれば良いんですかっ!

 そんな事を心の奥底で叫ぶ昇。けれども、神様はいつものように昇に味方をする気は無いのだろう。昇がどんなに、この状況をどうにかしようとしても昇の頭には脱出する手段がまったく浮かばなかった。

 それでも神様の気まぐれだろう。まさかの事態が昇の身に起きたのだった。

 それは夕食を食べ終えた時だ。昇が箸を置くと琴未がもの凄いスピードで昇の食器を一気に片付けると、再び席に付こうとした。そんな時だった、再び綾香が現れたのである。

「皆~、お風呂が沸いたわよ。順番に入っちゃいなさい」

 そんな事を言って来た綾香だが、今の状況で呑気にお風呂に行く者など居ないと思われたが、意外な事をシエラが言い出してきた。

「じゃあ、今日は昇からお風呂に入ってくると良い」

 突然、そんな事を言い出してきたシエラ。そんなシエラに抗議の声を上げようとする琴未だが、その前に閃華が琴未を制して何も言わせなかった。そして昇も意外な事を言い出してきたシエラに驚きはしたものの、これは好機だと感じたのだろう。シエラの言葉に甘えて早口で言葉を吐き出す。

「じゃあお言葉に甘えて先に入らせてもらうよ」

 昇は早口でそういうと誰にも何かを言わせる隙を与えずに、すぐに席を立つと猛スピードで駆け出して自分の部屋に戻ると、着替えを持ち出してスピードを落とす事無く、風呂場に向かうのだった。

 そんな状態の昇を見送るシエラ達。そんなシエラ達の中で琴未が黙っている訳が無かった。なにしろ今日は昇が裏切って、先に帰ったのにシエラ達より帰りが遅いという事は誰にも昇に何かがあった事は明白だ。琴未としては、それをこれから昇に追求するチャンスだったのに、シエラの一言がそれを潰したのである。琴未としてはシエラに文句を言わずにはいられなかった。

「ちょっとシエラ、さっきの発言はどういう意味よっ! おかげで昇に逃げられちゃったじゃないっ!」

 そんな抗議の声を上げる琴未に対してシエラは呑気にお茶を一気にすすると湯飲みを手にしながら琴未に真剣な眼差しを向けてきた。そんなシエラがこんな事を言い出す。

「今は詳しい事は言えない。でも、早急に対策会議を開かないといけない。だから、全員私の部屋に集まって」

 琴未の抗議を無視して、そんな事を言い出すシエラだが、そんな事で琴未の怒りが収まるはずが無かった。そんな琴未の心境を読んでいたのだろう、琴未が何かを言う前に閃華が琴未に向かって話し掛けてきた。

「琴未よ、どうやらシエラには何かが分かったようじゃな。じゃからこそ、昇をこの場に居させる訳には行かなかったんじゃよ。どうやらシエラは昇に聞かれては、まずい事を話そうとしておるんじゃからのう」

「その昇に聞かれちゃいけない事って何よ?」

 琴未がそんな質問をシエラに投げ掛けるが、シエラはその質問を無視するかのように立ち上がると、お盆に湯飲みと急須を乗せるとさっさと自分の部屋に来るように全員を顔で促すのだった。そんなシエラの態度を見て、琴未としては不に落ちなかったが、シエラがここまでするという事は閃華が言ったとおりにシエラだけが分かった事があるのだろうと、琴未は思いっきり溜息を付いて、自分の湯飲みを空にすると閃華と共にミリアを引き連れてシエラの部屋に向かうのだった。



「さて、それじゃあ昇に聞かれちゃいけない理由っていうのを聞かせてもらおうじゃない」

 シエラの部屋に全員が揃い次第、そんな事を口走る琴未。まあ、琴未としては先程のシエラがとった行動が余程不満だったのだろう。だからこそ、こうして準備が出来次第、思いっきり上から物を言い出したのだ。

 そんな琴未の言い分を無視するかのようにシエラはのんびりとお茶をすすった後で、湯飲みを置くと静かに確実に言い始めた。

「昇から知らない女の匂いがした。これは事によっては重要な事になる」

 はっきりとそんな発言をするシエラだが、琴未にはいまいち理解が出来なかったのだろう、琴未が首を傾げると閃華が補足説明を加えてきた。

「琴未よ、シエラは翼の精霊じゃ。じゃから風の属性も少なからずも有しておるんじゃ。それにシエラは妖魔の能力として大気のルーラーがあるじゃろ、じゃから風の属性に関しては風の精霊よりも強い力を発揮できるんじゃよ」

「それと女の匂いがどんな意味があるのよ?」

「まあ、そう焦るでない。琴未よ、風の属性は空気を操るだけでは無い、空気からいろいろな情報を引き出したり、探したり出来るんじゃよ。つまり……今のシエラは犬以上の嗅覚を超えて匂いに反応する事が出来るんじゃ」

 そんな事を言った閃華をシエラは軽く睨みつける。さすがのシエラも犬と比較されては少しだけ癪に来るのだろう。だが、例えとしては限りなく近い表現とも言える。だからシエラは黙って閃華を睨みつけただけで、何かを言う事はしなかった。

 そして、その話を聞いた琴未がシエラが言った事を踏まえつつ、話を理解したか確かめるようにシエラに向かって尋ねるのだった。

「つまり、シエラの能力によって匂いに対してかなり敏感に反応できる。そして、シエラはその能力で昇から私達の知らない女の匂いを嗅ぎ取ったって事になるわけ?」

 そんな琴未の解答にシエラは黙って頷くのだった。それからシエラは持ってきた湯飲みが空になったから、急須からお茶を入れると再び両手で湯飲みを持ちながら真剣な面持ちで話し始めた。

「与凪やフレトの傍にいる女性の匂いなら私にも分かる。それが誰の匂いなのかという事も。けど……さっきまで昇の隣に座ってて、今まで嗅いだ事が無い女の匂いがした。これは長時間、昇が私達の知らない女と一緒に居た事を示している」

「それってつまり……」

 琴未にもシエラが何を言いたいのかが分かったのだろう。琴未も真剣な面持ちになると生唾を飲み込む。さすがに琴未も信じ難い事実だけに緊張しているのだろう。だがシエラの能力が確かだからこそ、シエラが言った事には信憑性がある。そしてシエラは思った事をはっきりと口にするのだった。

「そう、昇は……私達の知らない女と浮気してるっ!」

 はっきりと断言するシエラ。そんなシエラの発言に琴未も驚きを隠せなかった。そんな中で閃華だけが溜息を付いてから、シエラに対して発言をするのだった。

「だがのうシエラよ。昇から知らない女の匂いがしたとしても、それが浮気に繋がると決め付けるのは早計というものじゃろ」

 そんな閃華の発言にシエラは不機嫌そうな顔を閃華に向けてきた。ただでさえ、昇が逃亡して機嫌が悪いと言うのに、ここで更に自分が言った事を否定されたのだから、シエラも不機嫌さを隠す事は出来なかったのだろう。

 だが閃華はそんなシエラ達をなだめながら帰宅してきたのだ。今更、不機嫌な顔を向けられても閃華としては特別な感情も、うんざりとした気分にもなる事無く、ただシエラの発言に対して自分の意見を述べる。

「確かにシエラの能力で昇が私達の知らない女と長時間一緒に居た事は事実じゃろ。じゃからと言って昇が浮気をしてると決め付けるのは早すぎるじゃろ。なにしろ昇の事じゃ、他にも理由があるかも知れんじゃろ」

「それってどんな理由よ?」

 今まで黙って閃華の話を聞いていた琴未が閃華の意図を問い質してきた。そんな琴未もシエラに負けないぐらい不機嫌な顔をしている。琴未が不機嫌な顔をしているのもシエラと同じ理由だろう、だから閃華はシエラの時と同様に琴未対しても平常心で答える。

「琴未よ、琴未が一番昇の性格を知っておるじゃろ。あの昇の性格じゃ、じゃから昇が知らない女に余計な手助けをしてもおかしくは無いじゃろ。今回も昇が余計なおせっかいをしただけで、それだけで終わるのではないのかと、私は言いたいわけじゃよ」

「……なるほど、確かに言われてみればそうね」

 閃華にそう言われて納得する琴未。さすがは幼馴染で幼い頃から昇の事を好きだった琴未だからこそ、一番昇の事を理解している。だから閃華の言い分が無い事も無いと断言できなかったし、昇の性格を考えれば閃華の言っている事の方が信憑性が高かった。

 そんな理由で納得した琴未にシエラは昇にとっては凄く余計な事を言い出してきた。

「確かに、昇の性格から言って、そういう事があってもおかしくはない。けど……相手の女から見ればどう? もしかしたら昇との仲を進展させる事を考えてもおかしくは無い。昇の性格から言っても、女性にリードされると簡単に篭絡させられる。そうなると私達がやってきた事は完全に無意味になる。だから琴未は、私が昇と契約をする前は昇に告白しそうな女を排除してきた、そうでしょ」

「随分と余計な事を覚えてるわね。まあ、確かにその通りだけど。けど……そうなると、確かにこのまま放っておく訳にはいかないわね」

 シエラの言葉を聞いて、そんな発言をした後に考え込む琴未。琴未としてもシエラが思っている事の重大さにやっと気付いたのだろう。そして閃華もすでに二人を止める事は出来ないと諦めたように溜息を付いた。そんな閃華の隣でのんびりとお茶をすすりながら、お菓子に手を伸ばすミリア。どうやらミリアは最初から真剣に話をする気は無いみたいだ。だが、この場にいるからにはミリアも無関係でいられる訳ではなかった。

 琴未が黙り込んだ事により一時の沈黙が訪れるが、その沈黙をすぐにシエラが崩すのだった。

「なんにしても、このまま放っておけない事は確実。ならば私達は事の真相を確かめないといけない。だからミリア、分ってる」

「……はへぇ」

 いきなり話を振られて間の抜けた返事を返すミリア。まさかシエラが自分に話を振ってくるとは思っていなかったのだろう。けれどもシエラは、そんなミリアに構う事無く、ミリアに命令するかのようにミリアのやるべき事を言うのだった。

「ミリアは一刻も早く昇の反応を終えるように準備しておく事。大地の精霊なら相手が足を地面から離さない限りは精霊だろうと契約者だろうと普通の人間だろうと追跡が出来る。だからミリア、いつでも昇を追跡できるようにしておきなさい」

 そんな発言をするシエラ。一方のミリアはその発言を聞いて思いっきり嫌な顔をシエラに向けて返答をする。

「え~、なんで私がそんな事をしないといけないの~。昇を追跡するだけなら大気のルーラーを使えるシエラ方が楽でしょ~」

 そんな不満をもらすミリアに対してシエラはミリアから顔を逸らしながら話を続けるのだった。

「大気のルーラーは今まで使っていなかった能力だから、今はまだ覚え始めたばかり。だから今はそこまでの技術を習得出来てない。それにミリア、普段からご飯ばかり食べてないで、たまには役に立つ事をしなさい」

 ミリアの不満に対してそんな言葉を返すシエラだが、当のミリアは不適な笑みを浮かべてシエラに向かって言葉を放つのであった。

「そんな事を言って~、シエラは自分に出来ないからこっちに押し付けてるんでしょ~。や~い、シエラでも出来ない事があるんだ~」

 日頃の恨みか、今日の事で溜まっていたうっぷんを晴らしたのか、それは分からないが、もしかしたら両方かもしれないが、ミリアはシエラを小バカにしたような言葉を放った。その言葉が何を意味しているのかも知らないままに。

 その言葉を聞いてシエラは顔を伏せて不機嫌なオーラが更に増す。そんなシエラを見て閃華は再び溜息を付くのだった。そしてミリアとはいうと、調子に乗ってシエラを小バカにしたような発言を続けていた。

「まあ、確かに~、追跡や発見は大地の精霊が風の精霊に次いで優秀だって言われてるけど~。シエラは風の属性より優位な大気のルーラーを持ちながら、そんな事も出来ないんだ~。だから私を引っ張り出そうとしてるんだ~。それだったら、ちゃんとした頼み方をして欲しいな~」

 調子に乗ってそんな発言をするミリア。だが、そんなミリアの言葉を聞いて黙っているシエラでは無い。それどころか、シエラにとってミリアは扱いやすい精霊だ。だからこのままシエラだが黙っている訳が無かった。

 シエラは不機嫌なオーラを大いに出しながら、ミリアに向かって微笑むとはっきりと宣言した。

「ミリア、素直に私の言う事を聞かないと……有る事無い事をラクトリーに言うわよ。それはもう、地獄の特訓だけでは済まないほどに。ミリア、それでも良い」

「ごめんなさい、シエラ、許して~」

 シエラの言葉を聞いてミリアの態度が一変。半泣きになりながらシエラにすがりつくのだった。どうやらラクトリーからの特訓という言葉がミリアの胸には深く突き刺さったようだ。

 なにしろミリアはこのような性格だ。いくらラクトリーが厳しくとも、素直に特訓とか、練習とか、勉強とかを受ける訳がなかった。それどころか、なにかしらの理由を付けてはシエラに助けてもらっているのだ。

 そんなシエラからミリアにとって不利な事をラクトリーに告げ口されれば、ミリアに待っているのは……地獄の特訓を通り越しての地獄なのはミリア自身が一番良く分っている。だからこそミリアは一変に態度を変えてシエラに泣き付くのだった。

 そんなミリアの頭を撫でながらシエラはやっと不機嫌なオーラを消すと、納得したようにミリアの頭を少し強く撫でてやる。そして閃華は……そんな光景を見ながら先行きに不安を感じたのだろう。この部屋に来てから三度目となる溜息を付くのだった。

 それからシエラはミリアを引き剥がすとミリアに具体的な指示を出す。

「とにかくミリアは昇を追跡出来るようにしておく事。もし……明日も昇が私達の知らない女に会うことになっているのなら、必ず私達を出し抜いてくるはずだから。だから私達はあえて昇を逃がす。その方が昇も油断して尻尾を出しやすい。そこを一気に捉えるわよ」

「つまり私達が邪魔しているように見せかけて、実は後からこっそりと跡を付けて現場を抑えるというわけね」

 今まで考え込んでいた琴未だが、話だけはしっかりと聞いていたのだろう。シエラの言葉に対して、そんな言葉を口にしてきた。そしてシエラも琴未の言葉を聞いて頷くのだった。どうやら二人とも、普段は対峙する事が多いだけに利害が一致した時にはお互いの意思を汲み取るのが早いようだ。

 そんな光景を見ながら閃華は再び溜息を付きながら思う。琴未よ、先程も言ったんじゃが、まだ昇が浮気をしているとは限らんのじゃぞ。まあ……昇の事じゃからのう、浮気とまではいかんでも、他の女性と何かあってもおかしくは無いんじゃが。二人とも早計というか……決め付けすぎじゃな。というか……やる気マンマンじゃのう。そんな事を思いながら閃華は遠い目でシエラ達を見守るのだった。

 琴未が発言してから、閃華がそんな事を思ってすぐ、涙を拭いたミリアがシエラに向かって申し訳無さそうに話し始めた。

「あ、あのね……シエラ。えっと……昇を追跡するのは作れるんだけど、なんというか~、ちょっと、ちょ~っとだけ、時間が掛かるんだよ~」

 そんな発言をしてきたミリアに目を向けるシエラと琴未。それから二人ともミリアから視線を逸らすと独り言のように、この部屋に居る者に聞こえるような声で呟くのだった。

「使えない子」

「役立たず」

「閃華~っ! 今日は二人とも凄く意地悪だよ~っ!」

 もう閃華のところしか逃げ場が無いとミリアは悟ったのだろう。今度は閃華に泣き付くミリア、閃華はそんなミリアの頭を優しく撫でながら、呆れた顔をしながらもミリアを慰めるのだった。

 その間にもシエラと琴未はお互いに話を進めて行く。

「とにかく、今は昇の浮気相手を締め上げる事が最優先よっ! だからシエラ、あなたとの決着は後回しにしてあげるわよ」

「それは私のセリフ、まあ……琴未なんていつでも倒せるから構わないけど、今は協力した方が良い。どこかの知らない兎のフンなんかに昇を取られるわけには行かない。だから今は停戦して共同戦線を引いてあげる」

「その話、乗ってあげても良いわよ。私もどこかの馬糞みたいな女に昇を取られるわけにはいかないからね。だからここは一つ、停戦協定を結んで共同戦線と行こうじゃない」

「なら話は決まり。今は力をあわせるしかない」

「仕方ないわね。やってやろうじゃないっ!」

 そんな会話を終えた後にがっしりと握手するシエラと琴未。いつもはいがみ合っている二人だが、こんな状況になればすんなりと協力をするようだ。まあ、二人とも昇を取られるのが嫌だからこそ、いつもいがみ合っているだ。だからこそ、他の女が出てくればあっさりと協力するのは当たり前の事だと言えるだろう。

 そんな光景を目の当たりにしながら閃華はミリアの頭を撫でながら、本日何度目かの溜息を付きながら思うのだった。やれやれ、どうやら昇はまたしても自ら災難の種を撒いたようじゃな。まったく、あの朴念仁は二人の気持ちを分ってやれんものかのう。それにしても、二人とも今回ばかりはあっさりと協力したのう。まあ、こんな状況だからこそあっさりと手を組んだんじゃろうけど……二人とも……やる気を出しすぎじゃぞ。

 そんな事を思った閃華は未だにお互いの手を取っている二人を見ると、やる気が炎なって目に見えているような錯覚を覚える閃華であった。そんな二人を見て閃華は再び口は出さないが心に思う。

 まあ、こういう形で協力するのもたまには良いじゃろうな。いつも喧嘩ばかりでは何も進展しないからのう。じゃが昇よ……まさか昇から進展しそうな要素を持ってくるとは思っておらんかったぞ。じゃが……これが裏目に出なければ良いのじゃがな。

 そんな事を思う閃華。確かに今回の事で二人が停戦して協力するのは良い事だと思えるだろう。だが一つ間違えば、二人の仲が更に悪化するどころか、別方向へ向いても不思議ではない。それだけに閃華が心配するのも当然だった。

 確かに今回の停戦と共同戦線は二人の仲を一時的に良くはしている。だが結末次第では、どちらかに傾く可能性がある。そうなると二人の仲は一気に悪化、状況は更に悪くなり、今度は昇が逃げ出す事も出来ないほどの展開になりかねないと閃華は心配したのだ。

 そんな閃華の心配を余所に二人のやる気は更に増すのだった。



 滝下家で、そのような事が行われている頃。昇達が住んでいるホテルの一室では少女と筋肉質の美青年という不釣合いの二人組みが、先程ホテルマンに案内されたホテルの一室で少女はベットに横たわりながら、男は椅子に座って夜景を見ながら会話をしていた。

「あの豪邸だが、外からでも分かるぐらい広いからな。中に入っての戦闘は不可能だろう。だから、こっちから精界で奇襲を掛けて引きずり出すしかないな」

「へぇ~、そんなに広いんだ。なら……中を見るのは無理か~」

 そんな事を言って枕に顔を沈める春澄をアルビータは無表情な顔で見ていた。それから春澄は顔を枕から上げると、アルビータに向かって話を続けてきた。

「なら、しょうがないね。中を見るのは諦めるよ。それと、明日は私も一緒に行くね」

「んっ、春澄。お前は今日会った、あの少年と明日も会う約束をしていなかったか?」

 春澄は昇の事と昇と話した事を全てアルビータに話していたようだ。もっとも春澄が一方的に話すだけでアルビータは適度に相槌を打ってくるだけだが、春澄にとってはそれだけで充分だったようだ。だからこそ、春澄はそんなアルビータに不満を言う事はしないし、今でも笑顔で話している。

「うん、したよ。だから明日の午前中に見に行くよ。午後からは、また昇さんとお話がしたいし、アルビータは適度な時間になったら迎えに来てよ」

 そんな事を言って来た春澄に対してアルビータは否定的な言葉を口にする。これも別に珍しい事ではない。二人にとっては会話が出来るという事が特別であり、心を許し会える者との会話だからこそ、どんな言葉も不満に思わなかった。

 だからこそ二人とも態度を変える事無く会話を続ける。

「別に春澄が来るまでも無いだろう。下調べだけなら私だけで充分だ」

「でも、私が居た方が相手の戦力が分かるでしょ。だって……私は契約者の能力と他の力を持ってるんだから。それを使えば相手の戦力が分って、アルビータも戦いやすいでしょ」

「確かにそうだが、春澄にそこまで足を運ばせる理由が無い。どんな敵でも、相手が何人居ようと私は決して負けない……終焉を迎えるまでは」

「さすがアルビータだね。そう、私達は絶対に負けない。アルビータの力と私の契約者としての能力がある限りはね。だからだよ、私達が負けない事は分ってるんだから、後は相手をどうやって倒さないかを考えないと、そうしないと意味が無いし、昇さんとの最終決戦にも支障が出る可能性があるでしょ」

「なるほどな、確かに少しは補充しておいた方が良いかもな。そのためにも相手の戦力をしっかりと把握できた方が良いか。それに……春澄がそうしたいのなら私は拒絶しない」

「ふふっ、ありがとう、アルビータ」

 そんな会話を交わしてから春澄は枕を抱きしめてベットの上を転がる。よっぽどアルビータの言葉が嬉しかったのだろう。なにしろ春澄にとっては、今までこんな会話が出来る相手が居なかったのだから、そしてそれは……アルビータも同じだった。

 だからこそ二人とも今という時間を楽しむかのように、それぞれ好きな行動を取っているのだ。

 そんな時だった。アルビータが何かを思い出したのだろう。春澄の方へ振り向くと、春澄もアルビータの視線を感じたのだろう。ベットの上にちょこんと座るとアルビータの方に顔を向けてきた。

「そういえば……相手の精霊は四人だったな。後は契約者がどれだけ居るかだが、それだけでも分かれば戦いやすい」

 そんな言葉を口にしてきたアルビータに対して春澄は枕を抱きしめると嬉しそうに話を続けてきた。

「たぶんだけど……契約者は一人だけだと思うよ。他に普通の人が一人いるみたいだけど、こっちは関係ないと思う。だからアルビータの相手は精霊が四人、契約者が一人の合計で五人だよ。たぶん、そうなると思うよ」

「そうか、その程度なら楽に行きそうだな~」

「う~ん、それはどうかな~」

「んっ、どういう意味だ?」

 意味深な言葉を口にした春澄にアルビータは首を傾げながら質問する。そして春澄はというと意地悪というより、楽しそうな口調で話を続けるのだった。

「実際にその契約者と出会ったわけじゃないから分からないけど……あの契約者からは相当強い精霊の気配を感じたよ。たぶん……私達と同じじゃないかな」

 そんな春澄の言葉を聞いて今まで無表情だったアルビータの口元に笑みが浮かぶ。

「なるほど、そういう事か。なら……楽しめそうだな」

「うん、思っていたより強敵みたいだからアルビータには丁度良いかもね。前菜にしては量が多いかもしれないけど、アルビータなら楽勝だよね」

「春澄がそう望むのならばな」

 そんな会話を交わす春澄とアルビータ。未だに二人の目的は、はっきりしないものの、契約者として誰かに戦いを挑もうとしている事は確かなようだ。それは争奪戦に参加している者なら当然な事かもしれないが……この二人はどうやら特別なようだ。だからこそ、争奪戦を別の意味で楽しんでいるのだろう。

 そんな春澄達に昇が気付かないままに、夜は深けていくのであった。






 はい、そんな訳でやっと更新できたわけですが。……まあ、私のブログを読んでもらっている方は分っていると思うのですけど……今まで使ってたグラボが死んだ。だから小説を書けない時間が数日に渡って続いたわけでして、それでも小説を書きたいという創作意欲が溜まっていたのか、一気に仕上げてしまいました~。

 まあ、そんな訳で今回のエレメは如何でしたでしょうか。さてさて、これで昇の浮気が発覚したわけですね。さ~て、これからどうなっていくんでしょうね~。このままシエラ達が黙っているわけが無いし、昇はそんなシエラ達を掻い潜って春澄と会わないといけない。……昇よ、自業自得とはいえ無残よな~。

 まあ、そんな昇に同情する事無く、話を続けて行きたいと思っております。そんな訳で最後の方に春澄達が出てきましたね~。どうやら春澄達も何かしらを企んでいるようです。そして春澄達が口にする終焉とは……。それはこれから明らかになるので、更新が遅れるかもしれないけど皆さんは寛大なお心で更新をお待ちくださいな。

 ……まあ、私はその間にネトゲに現実逃避してるけど(笑)いやね、だって、ブレイドクロニクルというネトゲなんですけど……凄く面白いのよ。それに私好みだから、私はすっかりハマってしまって最早抜け出せなくなりました~(笑) そんなブレクロをやりつつ、何とか更新ペースを上げて行ければなと思っております。

 まあ、実際には小説を書けなかった時間が多かっただけに、今は一気に小説を書き進めてますからね~。次回の更新は意外と早いかもしれません……まあ、そんな気がするだけだけどね。

 さてさて、エレメも今回は意外な展開に向かって来ましたね~。なにしろ昇の浮気、更にはシエラ達による昇の浮気調査。いや~、今までのエレメには無い状態です。ですが、最後は……。

 まあ、その辺は更新を待ちつつ、じっくりと楽しんでくださいな。

 ……さっさと生活保護を寄こせコノヤローっ!!! いやね、ほら、私ってうつ病で、かなり深刻じゃないですか。つーか、普通に働く事も出来ないし。だから生活保護を頼みたいんだけど……肝心の武器が未だに出来上がらない。まあ、情報によれば一ヶ月以上かかるみたいですからね~。ここは気長に待つしかありません。

 それから……さっさと障害者基礎年金を寄こせコノヤロー。……はい、こちらもうつ関係です。今は手続きの途中ですが、手続きが終わるまでかなり時間が掛かりそうです。

 というか……そろそろ、それらの救助が無いと生活が……病状が悪化するよ~。けど、その手の手続きには時間が掛かるのは当たり前。だから私も気長に待つ事にします。なので皆さんも更新を気長に待ってくださいね。

 さあ、無理矢理なこじ付けは終わった。だからそろそろ締めますね。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、普通に働けるんだったら働いているわっ!!! と明後日の方向に叫んでみた葵夢幻でした。

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