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第百二十四話 本当の……

 シエラが滝下家に帰って来てから翌朝、シエラは前と同じように朝食の準備に取り掛かろうとしていると、そこに琴未がやって来た。そんな琴未にシエラは朝から、いつものように無感情な瞳を向けながら挑発的な言葉を口にする。

「何をしに来たの、しばらくは琴未の出番は無いと思うけど。それに、琴未が私にしばらくは食事の準備をしろと言った。だから琴未がここに来る理由が無いから、部屋に戻って二度寝でもしたら」

 そんな言葉を口にしたシエラに向かって琴未も挑発的な視線を向けて口を開く。

「まあ、確かに、そんな事を言った気もするけど。シエラの事だから私の食事に毒を盛る可能性があるからね。だから逆にシエラが口にする食事に毒を盛りに来たのよ」

 そう言いながら、以前のように二人揃ってキッチンに立つシエラと琴未。そんな琴未をシエラは自然と受け入れて、以前のように二人で食事の準備が出来るようにスペースを空けると、琴未もそれが当たり前のように、シエラが空けたスペースへ入ると以前のように二人揃って朝食を作り始めた。

 最初は黙々と食事を作るシエラと琴未だが、そんな沈黙が漂う空気を琴未から破った。というよりかは独り言のように呟くのだった。

「あんな事が有ったからね、昨日は華を持たせて上げただけ。だから頭に乗らない事ね、私もこれからは一歩も譲る気は無いんだから」

 静かに呟いた琴未の言葉は自然とシエラの耳にも入ってくる。だからこそ、シエラも独り言のように呟く。

「私は……もう逃げないと決めた。皆が受け入れてくれたから、私は自分自身を見詰めて、自分を嫌う事無く全力で戦うと決めた。だから……」

 そこまで言うとシエラは琴未の方へ振り返り、琴未もシエラと視線を合わせる。それからシエラははっきりと琴未に告げる。

「琴未との戦いも絶対に逃げない。昇が私を選ぶまで、琴未と決着を付けるまで戦うと決めた。だから……覚悟しといた方が良い」

 そんなシエラの宣告に琴未は呆れたように鼻で笑うとシエラに挑戦状を叩きつける。

「ふんっ、そんな覚悟なんて必要ないわよ。それに、そんな幼児体型で昇がシエラを選ぶとは思えないわよ」

 はっきりとシエラの体型から侮辱する言葉を発する琴未。だがシエラも負けじと鼻で笑うと琴未に挑戦状を叩き返してやるのだった。

「ふっ、私がこの体型を選んだのは戦闘を有利に進めるため、飛ぶにしても、攻撃を回避するにしても、小さい体型の方が便利だから、この体型を選んだ。それに……胸だけしか魅力が無い琴未とは違って、私は全体のバランスが整っているから雰囲気では負けてない」

 お互いに挑戦状を叩き付けてきた、この状況下でシエラと琴未の二人はお互いに笑みを浮かべながらも朝食の準備をしているのだが、誰しもが近づき難いオーラを二人はかもし出していた。たぶん昇が、この場に居たら真っ先に逃げ出すであろうオーラがキッチンに立ち込めているのである。だからキッチンの空気も自然と緊張感が増してくるのであった。

 そんな中で二人の舌戦は続くのであった。

「雰囲気だけで勝とうなんて甘いのよ。昇もれっきとした男、だから雰囲気よりも実質的な物に弱いはずよ」

「そんな琴未こそ甘い。確かに女性の胸は大きさによっては強力な武器になるかもしれない。けど、そんなのは一時的な物。最後には胸なんかよりも、全体的な雰囲気、いわゆる女の子らしさを出している方に付くもの」

「何を言ってるのよ、女の子らしさなら私だって負けては無いのよ。私はその女の子らしさの上に完璧なスタイルを持ってる。これはどう見たって私の圧勝じゃない」

「琴未の場合は、それよりも凶暴さがにじみ出てる」

「そういうシエラだって、陰湿さがにじみ出てるわよ」

「…………」

「…………」

 最早、言葉では言い表せないほどの緊張感がキッチンには立ち込めていた。こうなってしまっては昇でなくても、誰も近づかないし、逃げ出すだろう。そんな緊張感が立ち込めているキッチンで更に戦いは続く。

「シエラ、塩」

 さすがに狭いキッチンに二人も居るのだ。お互いに手の届かない場所に調理に使う調味料がある。だから、使いたい調味料が近く似ない時にはお互いに渡し合っているのだが、すでにキッチンは戦場となっている。

 シエラは手元にある塩が入っている容器を手に取ると、思いっきり琴未に向かって投げつける。だがこんな事は琴未にとっても頻繁に行われている行為である。だから琴未は間近で思いっきり投げつけられた塩の容器を軽々とキャッチすると、容器から適量を取り出して自分の料理に振り掛けるのだった。

「琴未、砂糖」

 今度はシエラからの要求である。琴未は砂糖の入った容器を手にすると……シエラの方ではなく、明後日の方向へと思いっきり投げ付けるのである。

 だがシエラは翼の精霊。たとえ地上であっても、その瞬発的なスピードは見事な物であった。なにしろ明後日の方向へ投げられた砂糖をキャッチして、元の場所に戻るまでコンマ数秒である。さすがはスピード自慢の精霊と言えるだろう。

 けれども琴未はそんなシエラの行動に驚く事も悔しがる事もしなかった。なにしろ……シエラが失踪する以前はこんなやり取りが頻繁に行われていたのだから。そしてキッチンでの戦いは更に高まるのであった。

 フライパンから料理を盛り付けたシエラ。それからシエラは用済みになった熱々のフライパンを片付けるための、フライパンを片手に思いっきり振り返る。もちろん、フライパンが琴未の頭部に当たるように狙いを定めてである。

 だが琴未もシエラの行動をすでに読んでいたのだろう。自分に向かってくるフライパンを琴未は手にしている菜箸さいばしで見事にフライパンを挟み込んで受け止めた。それから琴未は器用に菜箸で受け止めたフライパンをシエラの手から離すと、そのまま流し台へと持って行き、水を掛けて一気に冷やすのであった。

 そして、ここから琴未の反撃が始まる。琴未はワザとフライパンに付いた水滴をシエラに向かって振るい、フライパンから水を切ろうとした。シエラなら、そんな水滴ぐらい簡単に避ける事が出来るであろう。たとえ狭いキッチンでもだ。

 だがシエラは避けずにあえて飛び跳ねた水滴をかぶる事にした。もちろん、琴未の行動がフェイントである事をすでに察しているからだ。

 琴未はフライパンを振るって水滴をシエラに飛ばしたすぐ後に、いつの間にか手にしていた深手の片手ナベをオーバーアクションで自分が居た場所へと持って行く。もちろん、片手ナベがシエラの頭に当たるようにワザとオーバーアクションにした行動だ。

 だが、そんな琴未の攻撃もシエラが手にしているフライ返しで片手ナベを上に弾くと、琴未は姿勢を崩しながらも、倒れる事無く数歩だけ歩き、元居た場所へと戻った。

 それから二人とも何事も無かったかのように次の料理に取り掛かるのであった。

 なにしろ今では滝下家もすっかり大所帯だ。それにミリアが朝から食欲旺盛なので、作る方としてはかなりの量を作らないといけない。だからこそ、キッチンではこうした無言の戦いがいつも繰り広げられているのである。

 もちろん、この事は昇どころか滝下家に住む住人、全員が知っている。だからこそ、二人の料理が出来上がるか、二人が本格的な戦闘に入るかしないと決してリビングには顔を出さないのだ。

 ちなみに以前は昇も一度だけ早起きして、逸早くリビングへ行ったのだが、あまりにも緊迫したキッチンの雰囲気に気圧されて再び自分の部屋に戻るなんて事もあった。それぐらい、朝に行われるキッチンでの攻防は緊迫感をかもし出し、誰もが入れない空間へと変化していた。

 そして、それを証明するかのように未だにリビングへは誰も顔を出していない。この雰囲気は閃華ですら立ち入れないほどの空間と化しているのだからしかたないだろう。

 それでも昨日の事で心配になったのだろう。昇はリビングへの扉を少しだけ開いて中の様子を窺っていた。

「どうやら、いつも通りの展開みたいじゃな」

 そんな声が聞こえるのと同時に昇は頭に重さを感じた。どうやら閃華が昇の頭に手を置きながら同じく中の様子を窺っているようだ。そして、いつものように突然現れた閃華にすっかり慣れた昇が閃華に向かって言葉を返す。

「そうみたいだね、もう心配する必要は無いかな」

「そのようじゃな……ところで昇よ」

「んっ、どうしたの閃華」

「いやな……昨晩はどこまで行ったのかだけは確認しておこうかと思ってのう」

 ……えっと、閃華さん。それはいったいどういう意味でしょうか? 昇がそんな事を思っている間に閃華はさっさと話を進めてきた。

「なにしろ一つの部屋、しかも一つの布団に男女が一緒に寝たんじゃ。どこまで行ったのか聞いておかねば琴未が可哀想じゃろう」

 そんな閃華の言葉を聞いて昇の顔が一気に真っ赤になる。まさか昨日の出来事が閃華に知られているなんて昇には思いもよらなかった事だ。なにしろ昨日は静かにシエラと一つの布団で寝た事は確かなのだから。

 だからだろう、昇は慌てた様子で閃華に告げる。

「べ、別に何もしてないですよ。せ、せ、閃華が思っている事は何もしてないから。それに、なんて言うか、そんな事は、ぼ、ぼ、僕には」

 慌てて弁解をする昇に閃華は堪えきれない笑い声を何とか掻き消して笑うのであった。そんな閃華を見て昇はやっと気が付いた。

 ……謀られたっ! というか閃華さん、そういう意地悪は止めてくださいよ~。笑いを堪えようとする閃華とは対称的にすっかり泣きそうな、いや、すでに涙を流している昇であった。そんな昇を見て、閃華はようやく笑いを押さえ込むと昇に向かって言葉を掛けてきた。

「まあ、昇にはそんな事が出来ん事は百も承知じゃ。じゃから安心せい、私も琴未も、そこまで事が進んだと思っておらんからのう」

 ……えっと、なんだろう、この複雑な気分は。どうやら昇も少しは男としての自覚はあるみたいで、閃華の言葉に複雑な気持ちにさせられた事は実感できたようだ。まあ、それはそうだろう。なにしろ、昨晩のシエラとの関係が進んでもおかしくない状態だ。それなのに、何も出来なかった事を悟られたのだ。それは男としては凄く恥かしい事なのだが、昇の恋愛感覚はそこまで発達していないものの、少しだけは恥かしいとは思うぐらい、少しだけ発達しているようだ。

 だからか、複雑な心境のまま気落ちする昇。そんな昇を見て閃華は笑いを堪えながら慰めの言葉を掛けるのであった。

「ま、まあ、そうした事は、後々に、覚えていけば、良い、事じゃよ」

 閃華さん、そこまで笑う事ですか。閃華の態度にいじけた視線を向ける昇。そんな昇の視線に気付いたのだろう。閃華は何とか笑いを封じ込めるといつもの態度へと戻る。

「くっくっくっ、まあ、こうした事は」

 閃華は突如として発しようとした言葉を中断させると真面目な顔でキッチンへと視線を移す。それからすぐに閃華は昇の手を取ると、一気に玄関に向かって駆け出した。そのため、昇は玄関まで引きずられる状態となったのだが、突然の事に昇は驚いており、こんな行動を取った理由を閃華に尋ねようと思うまで時間が掛かった。

 けれども、昇が質問する前にキッチンからシエラの叫び声が聞こえてきた。

「精界展開っ!」

 その途端に昇はキッチンとリビング、そして庭にまで展開された小さな精界を目にするのだった。幸いな事にシエラは家を丸ごとではなく、庭を中心に精界を展開したおかげで玄関に居る昇達まで精界に囚われる事は無かった。

 けれども、これで閃華が昇を玄関まで一気に引きずって行った理由が昇にも理解できた。閃華は逸早く、シエラが精界を展開させる事に気が付いて昇と一緒に避難したのだ。そのおかげで昇はシエラ達の戦いに巻き込まれる事は無かったのだから、昇はとりあえず閃華にお礼だけは言っておく事にした。

「ありがとう、閃華」

「なに、いつもの事じゃから礼などいらんじゃろ。それにしても……初日から精界を展開させるとはのう」

「何かもう、二人とも昨日の事を忘れたような気がするんですけど」

 そんな昇の言葉に閃華は軽く笑ってから話を続けてきた。

「ふむ、それはそれで良いのではないのかのう。なにしろ、ここ数日は誰しもが緊迫感を持っていたんじゃが、今では誰もが心穏やかに過ごしておる。だから琴未もシエラもいつも通りに、いつものように振舞えるのじゃろう。それに……」

「それに、何?」

 閃華が途中で何かを言い掛けて止めたので、昇はとりあえず閃華に言葉を続けるように質問して促した。そんな昇の言葉を聞いて閃華は昇に向かって微笑むとはっきりと言葉を口にする。

「それに……私も含めて全員が心の整理が付いたのじゃろ。それほどまでに昨晩という時間は皆の心を静めてくれたようじゃのう……もっとも、誰かさんは複雑な心境みたいじゃがのう」

 ……えっと、閃華さん、それは遠回しの嫌味ですか? というか、そろそろ嫌がらせは止めてくださいよ。そんな事を思いながら肩を落とす昇。そんな昇を見て閃華は昇に視線を合わせると珍しく真面目な顔をして話しを続けてきた。

「じゃからのう、昇。今ではなくとも後で琴未にはしっかりとした礼をせねばならんじゃぞ。なにしろシエラがここまで心の整理が出来たのは昨晩、シエラが昇に全て話したからじゃろ。琴未は、その事を知っておきながら、あえて二人っきりにしてあげてたんじゃ。じゃから昇、自分には琴未対しての責任が有る事は分っててもらいたいんじゃ」

「……そうだね」

 う~ん、確かに言われてみれば、ここ数日はシエラの事しか考えてなくて、琴未にも散々迷惑をかけた事は確かだよね~。それに……琴未には辛い思いをさせちゃったのかな? ……う~ん、その辺は良く分からないけど、なんかこう……琴未に対してお礼以上の事をしないといけないような気がする。とは言っても……何をすれば良いんだろう?

 閃華に言われて昨晩の事で琴未がかなり気を使ってた事を諭された昇は、そんな事を思うが、どうやら琴未に対して、どのようにお礼ではないが、感謝の気持ちを示したら良いのかと迷っていた。

 そんな昇の心境を察したかのように閃華は立ち上がると軽く溜息を付いた。どうやら昇が迷っている事をすでに見抜いているようだ。そして、昇がしなくてはいけない事も閃華は知っている。けれども、閃華はそれを絶対に昇には伝えようとはしなかった。なにしろ、それは昇が自分自身で決める事だし、昇が自分で答えを出して行動しなければいけない事だと分っていたからだ。だから閃華はもう一度溜息をついた後に軽く一言だけ呟くのだった。

「まったく、これじゃから朴念仁は困った者じゃな」

 そんな言葉を聞いて昇は苦笑する。えっと、閃華さん、それは僕の事ですか? 思わずそんな事を聞こうと思った昇だが、やっぱりやめる事にした。ここで閃華に質問すれば、更に閃華が溜息を付いて意地悪な言葉を続けてくる事は昇にも分っていたからだ。

 だから昇はバツが悪そうな顔で立ち上がると、閃華の顔を見てはっきりと告げた。

「まあ、確かに閃華が思っている通りに僕は迷ってるのかもしれない。でも……琴未には感謝してるよ。それに迷惑も掛けた事も充分に分ってる。だから……いつになるか分からないけど、いつかはそんな琴未の気持ちに応えたいと思ってるよ」

 そんな昇の言葉を聞いて閃華は……思いっきり呆れた顔をした。そんな閃華を見て昇は首を傾げる。そして閃華は疲れたように溜息を付くのだった。

「やれやれ、分かってそうで分っておらんようじゃのう。まあ、それは昇じゃから、しょうがないじゃろう。しかたないのう、ここは一つ、また策でも練るとするかのう」

 ……えっと、閃華さん、また何かを企むつもりですか? そんな不安を覚えながらも、閃華は昇の心境を悟ったのだろう。あえて昇に向かって微笑むが、その微笑が昇にはとてつもなく恐怖を象徴しているものに思えるのであった。

 そんな不安だけが残る未来像を描きながらも昇は思いっきり溜息を付くと、精界には入らないように自分の部屋に戻ってく。昇の後ろではなにやら楽しげな顔をしながら付いてくる閃華をあえて無視しながら。それから昇は学校へ行くための準備をするために自分の部屋へと入り、閃華も自分の部屋へと戻って行くのであった。



「あっ、おかえりなさい、滝下君」

「いつもの事ながら、ご苦労な事だな」

 昇はそんな言葉を聞きながら、本日二度目のいつも使っている生徒指導室に入って行くのだった。

 生徒指導室には与凪を始め、閃華とフレトと咲耶がまったりとお茶を楽しんでいた。そして昇はというと、今まで着ていたエレメンタルジャケットを解除するといつもの制服姿に戻って先程まで座っていた席に付くのだった。

 そんな昇が疲れたようにテーブルに突っ伏すと、与凪は席を窓際にまで寄せると思った事を口にする。

「それにしても……昨日までの事を考えると、こんなにも簡単に今までの日常に戻れた事が不思議ですよね」

 そんな言葉を呟く与凪であった。そんな与凪の言葉にフレトも興味を抱いたのだろう。フレトは席を立つと与凪の横に立って、外の様子を窺うのであった。そして与凪と同じく思った言葉を口にする。

「まったく、昨日までの事を考えると、昨日までの事がバカバカしく思えてくるな」

「そうですよね~、私達の苦労は何だったのかと思えてきますよね」

 フレトに同調するように言葉を口にする与凪。そんな二人の言葉を聞いて、閃華が軽く笑うと、そんな二人に向かって言葉を投げ掛けるのであった。

「まあ、シエラの事で皆に迷惑を掛けた事は確かじゃろうが、シエラが居なくなった時に皆が必死になって昇を、そしてシエラを支えてくれたからこそ、今という時間があるんじゃよ。じゃから、外で行われてる光景こそ、昇が選んだ結果であり、昇が望んだ結果なんじゃろ」

 そんな言葉を口にする閃華に与凪は納得したような顔で頷いてきた。そんな与凪とは正反対にフレトは昇を指差して閃華に質問する。

「そうなると……ボロボロになってテーブルに突っ伏すほど疲れるのも、滝下昇が望んだ結果だと言えるのか?」

 そんな質問をするフレトに閃華は笑うだけで答えを返そうとはしなかった。そんなやり取りを聞き流しながら、昇の魂は身体から少しだけ抜け出ているのであった。

 そもそもの始まりは、いつものようにシエラと琴未も一緒に、今回の事で与凪にも礼を言うために昇達がいつもの生徒指導室に入って来た事から始まった。

 最初は和やかに進んでいた会話だが、そのうちいつものようにシエラと琴未が挑発的な発言が目立ってくると、シエラは昇の首に腕を絡めると生徒指導室の窓から脱出して強制的に昇を連れ去ろうとする。だが、ここでいつも通りに琴未の追撃が入る。そして琴未が攻撃が直撃する。そう……シエラにではなく昇に。

 それから昇を掛けての戦闘に入って行ったのだが、昇だけはすっかりパワーアップして妖魔の力を出してきたシエラと、そんなシエラに対抗するために最初からフルパワーを出してきた琴未の攻撃に巻き込まれながら、命辛々この生徒指導室に戻ってきたのだ。

 そもそも、この生徒指導室は与凪の結界操作により精界との出入り口になっている。つまり、この生徒指導室に入るという事は与凪の精界に入るのと同じであり、与凪も自分達の秘密だけを守るために常に展開させて、霧の属性で精界を隠している状態だ。だから、この生徒指導室から見える外の光景は、放課後の部活風景でなく、今ではシエラと琴未の戦闘状態が見れるという事だ。

 それでもシエラが昇を連れて逃げ出そうとしたのも、与凪が作り出した精界に理由がある。常に学校を覆っている精界は通常の物とは違って与凪がかなり手を加えている。そのため、内側からでは絶対に破る事が出来ない精界なのだが、与凪は精界を隠す方に力を回したために、内側から強力な一撃を入れれば、精界の一部が壊れるようになっている。最も、壊れてもすぐに修復される自動修復機能が付いているが、完全に修復されるまでには時間が掛かるのであった。

 だからシエラはいつも昇と一緒に……もとい、昇を強制的に連れて、与凪の精界から脱出しようとするのだが、いつも琴未に邪魔されて、そしていつものように二人の激闘へと変わって行くのだった。

 昨日まではシエラを探す事に必死で、まったく余裕がなかった与凪達だが、今ではすっかりいつも通りになっていた事に与凪もフレトもそんな言葉を発したのだろう。そしてミリアとラクトリーはというと……ラクトリーには事態がこのようになる事が分っていたのだろう。すでにミリアを捕まえて、どこかに作った修行場へと強制連行されて行ったのだった。

 だから今はミリアとラクトリーを欠けた状態で、シエラが失踪する前の日常を目にして今までの努力がバカバカしく思えたのだろう。けれども、与凪とフレト達のフォローがあったからこそ、昇がいつもの日常を取り戻せたと言えるだろう。だから与凪とフレト達の行動は決して無駄ではないのだ。後ろで昇達を支えてくれたからこそ、すぐにいつも通りの日常に戻る事が出来たのだ。

 だから与凪は納得したし、フレトの質問に閃華は答えずに笑うだけだった。閃華としては答える必要が無いと感じたようだ。そんな閃華を見て、フレトも軽く笑うと自分の席に戻り、咲耶が新たに入れてくれた紅茶を楽しみながら、未だにテーブルに突っ伏している昇へと言葉を掛けるのであった。

「それにしても、今までとは違ってお前へのダメージは酷くなったようだな」

 そんな事を軽く笑いながら言ってくるフレトに昇は顔を上げる事無く答えるのだった。

「だって……シエラは妖魔の力を使うし、琴未にはシエラの力が通じていないようだったから、だから二人の戦いは一気に激しさを増したんだよ」

「ふっ、それでそのざまになったというわけか」

「……もう放って置いてください」

「主様、さすがにそれ以上、お戯れになりますと昇様がかわいそうですよ」

 そんな咲耶の言葉を聞いてフレトは笑いながら背もたれに寄り掛かる。それでも、フレトには一つだけ疑問があったのだろう。目の前で突っ伏している昇にではなく、与凪の傍で二人の戦いを観戦してる閃華に向かって問い掛けた。

「そういえば、先程滝下昇が琴未にはシエラの力が通じてないと言っていけど。琴未に妖魔の力を凌ぐほど力量があるとは思えないのだが?」

 そんなフレトの質問に閃華はフレトを再び窓際に呼び寄せて、外で繰り広げられている二人の戦いに目を向けるように促すのだった。そんな閃華の指示通りに行動するフレト。それから閃華の説明が始まった。

「確かにその通りじゃ。じゃが、この場合は力量ではなく、シエラの力が琴未の雷閃刀と相性が悪いというのが二人の戦いが拮抗している原因となっておるんじゃよ」

「なるほどな、そういう事か」

 閃華の説明を聞いて納得するフレト。どうやらフレトにも二人戦いが拮抗している原因が分かったようだ。

 そして、その肝心な二人、シエラと琴未は……未だに外で激闘を繰り広げているのだった。



「琴未のくせに、随分としつこい」

 そんな事を言いながらシエラは琴未に向かってウイングクレイモアを振り下ろすのと同時に琴未が避けるであろう位置を予測して、その真上から風の塊を打ち下ろすように大気を操作する。

「シエラこそ、いつもいつも陰湿な作戦ばっか使ってきて、いい加減に諦めなさいよね」

 琴未も言葉を返しながらウイングクレイモアを避けると、シエラが予想していた位置へと移動する。そこにはすでに琴未の上空から風の塊が一気に琴未に向かって放たれている状態だ。だが琴未は慌てる事無く、上空から来る風の塊を一閃の元に切り裂いてしまった。

 その勢いを使って琴未はすぐにシエラに攻撃を入れるが、琴未の雷閃刀はシエラがまとっている風の鎧は切り裂いたものの、ウイングクレイモアによって阻まれてしまった。琴未としてもシエラが防いでくる事は予想していたのだろう。だからこそ、雷閃刀がウイングクレイモアにぶつかるとすぐに次の手に出る。

「雷撃閃っ!」

 雷閃刀から数本の雷がウイングクレイモアを避けるように飛び交うと、シエラを目掛けて一気に突き進む。そんな琴未の攻撃にシエラはウイングクレイモアを羽ばたかせると、一瞬で後退して琴未の雷を見事に避けて見せた。

 そんなシエラに向かって琴未は雷閃刀を突き付けながら、はっきりと言う。

「残念だったわね、せっかく妖魔の力を出しても私に通用しないなんてね。所詮、シエラの力なんて、そんなものなのよ」

 そんな琴未の言葉にシエラも言葉で返す。

「それは違う。たまたま私の能力と琴未の能力が相性が悪かっただけ。しかも残念な事に、相性の悪さが琴未に有利に出ただけ。だから琴未が勝っている訳じゃない」

 そんな事を言って来たシエラに琴未は笑みを浮かべるとはっきりと言葉を返す。

「どうやら……私達はとことん相性が悪いみたいね」

「確かに……これで相性が良かったら最悪。だから相性が悪かった事に感謝してる」

「言ってくれるじゃない。まあ、確かに私達の相性が悪かった事には私も感謝してるわよ。シエラと相性が良いなんて言われたら、鳥肌どころか恐怖すら覚えるわよ」

「なら、それ以上の恐怖を与えてあげる」

「やってみなさいよね」

 舌戦の後に再び同時に動き出すシエラと琴未。そんな戦いの中で琴未はシエラが発している妖魔の力が確かに自分との相性が悪く、自分にとっては妖魔の力を無効化出来る事をしっかりと感じ取っていた。

 なにしろ雷閃刀は日本刀の形をしており、その切れ味は大業物どころか最良大業物と言って良いほど日本刀としては最良の物だからだ。

 そもそも日本刀は究極の刃物と言われるほど切れ味が鋭い。だからこそ、シエラが使っているクレイモアやラクトリーのクレセントアクスに比べると根本から使い方が違ってくる。

 まずはクレイモアやクレセントアクスのような武器は押し切る形で物を切るのだ。つまり、武器の重量と力を加える事によって、尖った刃で少しだけ切れ目を入れると、後は力で押し切るのだ。

 それに比べて日本刀は刃が鋭すぎて、刃を押し当てただけでは逆に切れなくなっている。なら、どうやって切っているかというと、刃を押し当てながらスライドさせると鋭すぎる刃が綺麗に切って行くのだ。それは文字通りに『斬る』と言えるだろ。そこが他の武器とは違う日本刀だけが持つ特徴とも言えるだろう。

 だから日本刀は相手の体に当てるだけでは意味が無い。そこから引くか、押すかしないと、まったく斬れないのだ。だが逆に言えば、そんな日本刀の使い方を熟知していれば斬れないもの等はほとんど無いだろう。

 それに琴未は幼い頃から自分の家にある道場で祖父から剣術を習っていた。つまり琴未にとって日本刀は最も馴染んだ武器と言えるのだ。だからこそ、エレメンタルで作り出した雷閃刀も自然と日本刀の形となったのだ。

 それでも、剣の腕は琴未は免許皆伝とは言えないだろう。だがエレメンタルの能力が琴未の腕を押し上げているのだ。だから、琴未の雷閃刀に斬れない物を上げるとしたら、精霊武具しかないだろう。

 そんな雷閃刀を持っている琴未だからこそ、たとえ空気の塊だろうとも斬り裂くことが出来るのだ。

 他の武器なら阻む事が出来る風の鎧だが、それは風の流れが相手の武器が侵入する前に押し流す力が強いから、相手の攻撃がシエラに届く事は無い。だが雷閃刀のうな日本刀は違う。日本刀の斬り方なら、風の流れそのものを斬り裂くのだ。本来なら風の流れにぶつかる摩擦で相手の攻撃を防ぐ風の鎧だが、琴未の雷閃刀は風の鎧が作り出す、風の流れを斬り裂くことで摩擦力を無効化している。それが日本刀の特長とも言えるだろう。

 つまり雷閃刀、元を正せば日本刀は斬り方によっては逆風であろうとも、逆流だろうとも、斬り方によっては斬り裂く事が出来るのだ。だからこそ、風の鎧は琴未にとって脅威には値しない物になっていた。

 更に相性の悪さを上げるとしたら、やはり電子だろう。電子は大気だけは無い、風や大地、それに人間や精霊の体にも存在しているのである。琴未が持っている雷の属性はそれらの電子を大規模に集めた物を指している。

 つまり、風の流れだろうが、水の流れだろうが、雷を阻む事は出来ない。それどころか返って分散させてしまうのだ。だからシエラが風の鎧で琴未の雷を阻もうとしても、完璧に防げるわけが無い。なにしろどんなに強い風流の中でも電子は存在しており、その電子を目印に琴未が放った雷は風の鎧を突き抜ける事が出来るのだ。

 だから大気のルーラーは雷の属性と相性が悪いのだ。どんなに風の流れを作ろうとも、そこに電子がある限りは、琴未の雷撃が届いてしまう。それを阻む手段は、完全に真空状態を作るしかない。

 確かに大気のルーラーなら自分の周りを完全な真空状態にする事も可能だが、それは逆に言えば風の鎧すら作り出さないのと同じであり、琴未が放った雷は防げても、雷閃刀の攻撃はまったく防ぐ事が出来ないのだ。それどころか空気摩擦すら無くなるのだから、逆に琴未に攻撃を鋭くするのと同じなのだ。だからシエラは自分の周りを真空状態にはしないのだ。

 ちなみに人間は自然と呼吸して酸素を取り入れているが、精霊は酸素を取り入れなくても大丈夫なのだ。なにしろ元々がエネルギーの結晶体と言える精霊である。そのエネルギーの結晶体が自分を維持するために必要なのは、エネルギーその物であり、人間のように様々な物からエネルギーを取り入れないと生きて行けないという事は無いのだ。

 つまり精霊は自信の元となるエネルギーが存在する限り、それは自然に存在している物、あるいは人が作り出した物、または信仰心などがエネルギーとなり、大多数集ると精霊となる。だから精霊は人間のように酸素を絶対的に必要としないのだ。だからシエラが自分の周りを完璧な真空状態にしても問題は無いのだ。

 ただシエラは相性の悪さから、それをしないだけで、やろうと思えば出来るのだ。だが相手が琴未だと相性が悪すぎて、どうしても妖魔の能力をフル活動出来ない。それほどまでにシエラにとって琴未は厄介な相手と言えるだろう。

 シエラは琴未との激闘を続けながら、改めてその事を実感するのであった。

 そんな琴未が雷閃刀を振るいながら口を開いてきた。

「本当の力と言っても、所詮はその程度なのよ。どんなに足掻いても私には勝てないのよ」

 そんな事を言って来た琴未に対してシエラは雷閃刀を避けながら言い返す。

「確かに、これが私にとって本当の力だし、本当の姿。けど……私は今まで、この力を使ってなかったから使い方がまだ充分じゃないだけ。これから、本当の力を……本当の私を磨いていけば琴未すら足元に及ばない力を得る」

「何言ってるよ、その頃には私も充分に力を付けて、絶対に差が埋まらないようにしてるわよ」

「自分が有利だと思っているなら大間違い。今は……私の方が勝ってる。だから……絶対に琴未を叩きのめす」

「ふ~ん、その挑戦……受けてあげようじゃないっ! 私だって逃げも隠れもしないわよ。絶対にシエラを叩きのめして、勝利と昇を手に入れる」

「私は絶対に負けないし、昇も渡さない。絶対に振り向かせて見せる。今度は……心配じゃなくて……好意によって」

「やれるものならやってみなさいよねっ!」

「絶対に……やるっ!」

 その言葉を最後に大きく金属音が鳴り響く。そしてシエラのウイングクレイモアと琴未の雷閃刀がお互いに刃をぶつけあい、二人の視線もお互いを見ながら火花を散らしている。

 そんな状況の中でもシエラは心の中に嬉しさがあるのを感じていた。

 最初は自分が妖魔である事を知られるのが怖かった。もし、皆に知られれば、シエラが昔受けたように、皆から見下げた視線を受けて、虐げられると思っていたから。けど、昇だけはそんな事はしないと期待したから昇と契約した。たとえ他の精霊や契約者がシエラを軽蔑しようとも昇だけは受け入れてくれると思っていたから。

 けど、今では昇だけではない。皆が妖魔という異質な自分の存在を受け入れてくれた。今までどおりに接して来てくれた。皆が……異質な存在であるシエラを受け入れてくれた。だからこそシエラはこうして琴未とも本当の力と姿で戦う事が出来ている。

 最初はシエラも昇にだけでも受け入れてもらえれば充分だと思っていた。けど……シエラはそれすらも確認する事が怖くて逃げ出した。でも……昇が、皆がシエラを迎えに来てくれた。

 そして今、こうして本当の姿で、本当の力で、本当の自分で、本当の気持ちを出す事が出来る。琴未と真正面から向き合って、今までとは違う本当の自分で本当の力と気持ちをぶつける事が出来る。その事実だけでもシエラは嬉しかった。

 そして琴未も、そんなシエラを真正面から受け止めるように、今までのように対等な立場で戦いを挑んできた。

 それだけでもシエラは琴未との決着を付ける事に充分な意味を見出していたし、琴未と全力で戦う事がいつの間にかシエラの中では大切な事であり、嬉しい事になっていた。それだけ、本当の気持ちをぶつけられる相手が居るという事が幸せなんだとシエラは改めて思った。

 だからこそシエラはアレッタの事を思い出していた。アレッタに対しても本音をぶつければ良かったのではないのかと。そうすれば、アレッタとの絆ももっと深くなっていたかもしれないとシエラは改めて思った。

 琴未との戦いには昇という絶対的に執着する者があったからこそ、シエラは琴未に全力で本当をぶつける事が出来た。けどアレッタに対してはシエラは何も出してはいない。アレッタに対してもシエラは隠す事を優先してきたからだ。

 だが、今こうやって琴未と戦ってると、シエラはアレッタに対してもこうやって本当を出して戦えば良かったのではないのかと思うようになっていた。そうする事でお互いの事が理解できるのなら、シエラはアレッタと本当の戦いをする事が出来ただろう。

 けれどもシエラがアレッタと本当の戦いをしたのは、先の一戦だけである。後は本当を隠しながらアレッタとも、そして他の誰とも戦ってきた。だから、こうして本当を出して戦える琴未と出合った事がシエラには少しだけ嬉しいと感じさせていたのだろう。

 そして、この戦いに……いつか決着を付ける事がシエラの願いになっていた。それほどまでにシエラは琴未を好敵手と見るようになっていたのだ。だからこそ、シエラは琴未と全力で戦える事を嬉しいと感じるようになり始めたのだろう。

 だからこそシエラはこれからも願うのだった。自分が昇の剣でいられるように、今度はそこに依存する事はしない。昇の剣でいる事で昇の傍にいる事の理由にはしない。シエラは自分自身の意思で昇の剣となり、昇のために戦う事を決めたのだ。それは昇だけでなく、皆にシエラを受け入れるような行動をした昇だからこそシエラは昇るために戦う事を誓ったのだ。

 それは……こうして琴未といつものように戦っているのが嬉しいと感じるようになったから、皆が自分を受け入れてくれた事を実感したから。だからシエラは戦い続けるのだった。

 こうして昇を賭けて琴未と全力で戦える事も、今のシエラなら心のどこかで楽しいとも、嬉しいとも感じていただろう。けれどもそれ以上に昇に対する執着心があるからこそ、シエラは一歩も引く事はしなかった。それどころか昨晩の事でシエラは更に昇に対して執着するようになっていた。それほどまでにシエラの中で昇という存在はもの凄く大きくなっていたのだ。

 だからこそ、シエラは琴未とも戦いを続ける。


 ─昇琴流 天昇雷撃斬─


 琴未が宙に舞い上がっているシエラに向かって雷をまといながら斬りかかって来る。そんな琴未に対してシエラもウイングクレイモアの翼を羽ばたかせて、一気に琴未の真横を取るのだった。

 だが琴未はそんなシエラの動きを見て、すぐに攻撃を切り替えて、その場で溜め込んだ雷を放電、広範囲に雷を撒き散らす。だがシエラも、そんな琴未の広範囲攻撃を網目を潜るようにすり抜ける。

 そして隙が出来た琴未に切りかかるのだが、空中でウイングクレイモアと雷閃刀がぶつかりあい、お互いに弾き飛ばされる。

 そんな戦いをしているのにシエラの顔には、いつの間にか笑みが浮かんでいた。それを見た琴未も自然と笑みを浮かべる。

 どうやら昇を賭けた二人の戦いはまだまだ続きそうだ。けれども二人とも自然と理解したようだ。こうして納得が行く戦いが出来る事、本当を出し合い、本当の力で戦う事が出来る事。それがどれだけ大切で、嬉しい事なのかを二人は言葉ではなく、心で受け入れて自然と感じ取っていた。

 だからこそシエラは改めて実感する事になった。こうやって、いつものように戦う事が出来るのが……どれだけ大切なのかを。だからこそシエラも琴未に対して全力で本当の力を出す事が出来る、まだ戦う事が出来る。

 だからシエラと琴未は今日も全力で戦うのであった。お互いに大事な存在を賭けた戦いであり、戦う事によってお互いの事を理解し合っているのだから。それがどれだけ大切なのかを二人とも肌で感じているかのように、二人とも顔に笑みを浮かべながら戦うのであった。

 そして、そんな二人の戦いを閃華達は楽しみながら観戦している……昇一人だけが死に掛けたままに……。

 ……というか、二人ともそろそろ僕を巻き込まないでやってください。そろそろ……限界です。そんな気持ちを言葉にしたいが、今の昇にはテーブルに突っ伏したまま顔を横に向けるだけで精一杯のようだ。そして昇の瞳にはいつものように二人の戦いを楽しげに観戦している閃華達を見ると、二人とも未だに戦っている事を昇は知った。

 そんな光景を見ながら昇は心で密かに思う。まあ……こんなもんじゃないかな。もしかしたら僕にはもっと出来た事があったかもしれない。けど……その時の僕にはそれだけの決断が出来なかったからこそ、今の結果が出たんだから。だから、シエラを失わなかっただけでも僕としては満足するべきなのかな。それにしても……いつの間にか大切なものが増えたよね。

 改めてそんな事を実感する昇。今の昇にとって大切な存在はシエラだけでは無い。今、ここに居るメンバーだけではなく、昇の周りに居る仲間がいつの間にか昇にとっては大事な存在になっていたのだ。

 だからこそ昇は改めて思う。もう二度と……誰も失わないと。そんな願いにも似た昇の思いはシエラに似ていた。シエラの背中に生えた白キ翼こそ、シエラを象徴する物であり、昇が願ったように純粋で一点の曇りも無い、真っ白な翼。そんな翼を羽ばたかせて昇達はこれからも戦い続けるだろう。昇が思い描く、白キ翼のような未来像を実現させるために。







 はい、そんな訳でお送りしました白キ翼編ですけど……なんか……一年近く時間を費やしてしまった。う~ん、今年の前半は一気に書けたんだけどね~、後半に入ってから一気にペースダウン。まあ、いろいろとあったんですよ。そう……いろいろとね。

 まあ、そんな話は置いておいて、次回からは百年河清終末編をお送りします。けど……まあ……今年中に上げる事は無理でしょうね。だって……今年も残すところ、後数日だけだし。今の状態で次に行くのは無理だよね~。

 そんな訳で百年河清終末編は来年になってから上げようかと思っております。

 さてさて、次回予告はこの辺にして、少しだけ本編に触れてみましょうか。実は本編を締めくくる最後なんですが、結構あっさりとシエラの本心だけで終わらせようとしたんですよね~。けどっ!!! 本編を読み返してみると思ったわけですよ『サブタイトルの白き翼って……昇達の事も示してるんじゃ』そんな事を思ったので最後はこんな形になりました~。まあ、私としては……なんとか形になったと思っております。

 ……いや、何か、結構最後はどうしようか必死だったのよ(汗) まあ、それでも白キ翼編の最後としては、それなりにまとまったと勝手に思っておく事にしておきます。まあ、これが今の私が出来る最大限の技量なんでしょうね~。

 というか、本当なら話の前半、シエラ達が朝食を作るシーンなんですけど……思っていた以上に長くなってしまいました~。そのために全体に長くなり、最後には収拾が付かないと一時は思ったほどです。

 けど、こうやって最後まで形に出来た事で一安心しております。はい、そこの方、あまりその事実には触れないように。……だって、これが精一杯だったんだもんっ!!!

 ……はい、言い訳です。すいません。

 さてさて、そんな訳で勝手に話を終わらせて次にでも行ってみましょうか。実はというと……本来の予定ならもっとシエラと琴未が戦うシーンを入れる予定だったんですよね~。けど……なんか説明してたら一気にページ数が多くなって、結果としてシエラと琴未の戦いを短くせざる得なくなりました。本当だったら、もっと二人を戦わせたかったんだけどね。

 まあ、この二人が戦うシーンはこれからもあるだろうから。その時にでもいつも行われているシエラと琴未が戦うシーンを詳細に書ける時が来るでしょう。まあ……いつものように、いつになるかは分かりませんけどね。

 まあ、それでも最後の二話は結構昇達の私生活を書いているよね~。と思うよ……たぶんね。まあ、あんな毎日を過ごしている訳ですよ、昇達は。……なんというか……結局は昇が……報われてないよね(笑) まあ、それが昇だからしょうがないか。

 さてさて、長くなってきたので、そろそろ締めますね。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想をお待ちしております。

 それでは皆さん、良いお年を~。

 以上、マジックカード発動、うつ病の睡眠時間狂い。このカードの効果によって作者の睡眠時間が一気にずらす事が出来る。そんなマジックカードのダイレクトアタックを喰らってしまったために、昼間に凄い睡魔が襲ってきている葵夢幻でした。

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