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第百二十三話 静かな夜

「さて、それでは俺達はここで別れるとしよう」

 ローシェンナ達との戦いを終えた昇達は自宅への帰路へと付いていた。今ではすっかりいつも通りの服装で、いつも通りに帰路に付いていたのだが、フレトの自宅が昇の家と近い事も有り、フレトは丁度分かれ道で、そんな言葉を口にした。

 そんなフレトに昇は感謝を瞳に出しながら別れを口にする。

「うん、今日はありがとう。フレト達のおかげで大分助かったよ」

 感謝の言葉を口にする昇に対してフレトは軽く笑ってみせる。

「ふっ、たかがこの程度の事で感謝しなくても良い。セリスの事ではお前に大分助けてもらっているんだからな」

 フレトらしい言葉の切り替えしに昇は苦笑いを見せた。まあ、フレトらしいといえばフレトらしい言葉と言えるからだ。素直に感謝の言葉を受け取らない部分なんてフレトらしいと言えるだろう。

 それでも昇は苦笑いを消すと言葉を口にする。

「それでも、ありがとうって言葉を伝えるだけでも、僕は充分に必要な事だと思うよ。だから……ありがとう」

 そんな昇の言葉を聞いてフレトはすぐに振り返って昇に背を向けるのだった。

「……そこまで言うなら勝手に言ってろ。……あ~、そうだな」

 フレトは何かを思い出しかのように再び昇と向き合うと、すぐに昇の首に手を回してお互いに顔を近づける状態になる。そこからフレトは静かに昇に向かって話し掛けるのだった。

「こんな事は俺から言えたワケでは無いんだがな。シエラの事だが、まだ全部終わったとは言えないだろう」

 どうやらシエラが未だに少しだけ、ぎこちない仕草をしている事にフレトも気付いていたようだ。フレトですら気付くほどだ、そんな事に昇が気付かない訳が無かった。だからこそ昇は笑みを浮かべると静かに口を開く。

「大丈夫だよ、今は全員が心の整理が付いて無い状態だから……たぶん、明日になればいつも通りになってるよ」

 そんな昇の言葉を聞いてフレトは乱暴に昇から離れると呆れた顔を向けてきた。

「随分と気楽だな」

「やるべき事は全部やったからね。後は自分達の絆を信じるだけだよ」

 真顔ではっきりとその言葉を口にした昇を真剣な眼差しで見詰めるフレト。それからフレトは軽く笑みを浮かべ、昇も釣られるように笑みを浮かべるのだった。

「そうか、どうやら余計な心配だったようだな」

「でも……心配してくれて、ありがとう」

「気にするな、俺も今回の件に関わった一人だからな。結末を心配するのは当然の事だ」

 まるで昇への気遣いが当たり前のような言葉を口にするフレトに対して昇は再び苦笑する。フレトの言葉を素直に感謝として受け取って良いのか、それとも少しだけ皮肉を入れた言葉として受け取って良いのか分からないからだ。どちらにしても昇としては反応に困るフレトの言葉だった。

 そんな昇をフレトは軽く鼻で笑うと自分達の精霊に帰ると告げて昇達に背を向けるのだった。

「それじゃあな」

「うん、また明日」

 その言葉を最後に昇達とフレト達はそれぞれの帰路へと帰って行った。



「ただいま~」

「ご飯~、ご飯~」

 昇達が自宅に帰り付くと真っ先に玄関を開ける琴未、その後にミリアは夕食を待ちきれない感じで急いで玄関へと入って行き、そんなミリアを閃華は落ち着かせながら玄関を潜る。そして昇も玄関に入ったのだが、昇はすぐに玄関の前でちゅうちょしているシエラに気が付いた。

 どうやらシエラは勝手に居なくなった事で綾香に心配を掛けた事、自分の所為で迷惑を掛けた事を思うと素直に玄関に入る事も出来ないようだ。そんなシエラに向かって昇は静かに手を伸ばす。

「さっきも言ったけど僕達は家族だ。だからシエラ、何も怖がる必要は無いんだよ」

「で……でも」

「大丈夫、どんな事が起こっても、それを許し合えるのが家族なんだから。だからシエラ、何も心配は要らないよ」

「……うん」

 昇が伸ばした手を静かに取るシエラ。それから昇にエスコートされる形でシエラは玄関へと足を踏み入れた。そしてシエラは決して大きいとは言えないけど、何故か懐かしいと思ってしまう玄関を見渡した。

 帰って……来た。私は……また、この場所に。そんな事を考えながら感傷に浸るシエラ。自分の所為で多大な迷惑を掛けて、心配までさせてしまった家族。それでも迎えに来てくれた家族。そして再び、その家族が待っている場所に帰ってきた。全てに決着を付けて、全ての結末を迎えるために、シエラは再びこの場所に帰ってきた事を実感していた。

 いつまでもシエラが玄関で感傷に浸っていたからだろう。いつの間にか琴未が昇とシエラを迎えに玄関まで戻って来た。

「いつまで、そこに居るのよ。早く入って来なさいよね。こっちだってさっきの戦闘で疲れてるし、お腹だって空いてるんだから」

 琴未の言葉に昇はすぐに靴を脱いで家に上がり、シエラも戸惑いながらも家に上がるのだった。そして琴未が二人の背中を押してリビングへ急がせる。シエラとしては綾香にどんな言葉を掛けて良いのか迷っているだけに心の準備が出来ていなかった。それだけにシエラは背中を押してくる琴未を払い除けようとするが、昇がそれを止めてしまったのでシエラは琴未に押される形で一気にリビングまで来てしまった。

 ……えっ? リビングに付いて驚くシエラ。そこには既に人数分の夕食が作ってあったからだ。もちろん、シエラの分を含めてである。

 何も言わずに勝手に出て行って、何も言わずに勝手に帰ってきたのである。シエラとしては、まさか自分の分まで用意してあるとは思っていなかったのだろう。

 そして琴未はというとシエラをリビングに押し込んだ後、さっさと自分の席に戻って行ってしまった。リビングのテーブルにはすでにミリアと閃華が席に付いており、夕食を前に暴走しそうなミリアを閃華は、ミリアで遊びながら待たせるのであった。

 どうやら夕食は綾香が作ってくれたようだ。なにしろ琴未もさっきまで戦闘をしていたのだから、夕食を作る時間なんてありはしない。そうなると綾香がシエラが戻って来る事を想定して、夕食を作った事になる。

 そんな事をシエラが考えていると綾香がキッチンから出てきて、静かにシエラの前に立つのだった。突然の事でシエラは綾香を見詰めるものの、言葉が上手く出てこない。綾香はそんなシエラに微笑を向けると一言だけ告げる。

「おかえりなさい、シエラちゃん」

 その瞬間、シエラの中で何かが弾けたような感触があった。だからこそ、シエラは自然とその言葉を口にする事が出来た。

「ただいま」

 シエラの言葉を聞いて綾香がシエラの頭を撫でてくる。そんな光景を昇は隣で優しく見守っていた……のだが、まさか自分まで飛び火するとは思っていなかったのだろう。綾香は充分にシエラの頭を撫でてやると、今度は昇のおでこを思いっきり殴るのだった。

 突然の事で昇はそのまま倒れ掛かるが、その前に壁に当たり、なんとか倒れる事は無かったが、昇は驚きの眼差しで自分の母親を見詰めていた。そして当の綾香はというと、昇の姿を見て思いっきり溜息を付いた。

「まったく、女の子を泣かせるどころか家出までさせるなんて。こんな甲斐性無しに育てた覚えは無いって言うのに、なんなの、この体たらくは。やっぱりもうちょっと厳しく育てるべきだったわね」

 勝手な事を言ってくる綾香に昇は傷む額を押さえながら思う。

 いやいや、母さん。今回の事は僕が原因じゃないし、母さんは充分過ぎるほど厳しく僕を育てたじゃないかっ! まあ、そのおかげで、こうやって争奪戦を戦えてるのかもしれないけど、今回の事でそこまで責められる要因は僕には無いと思うよ。昇がそんな事を考えていると、綾香はまるで昇の心を読んだかのような言葉を返してきた。

「何が原因であっても男の子なら絶対に女の子を泣かせちゃいけないし、家出なんて持ってのほか、だから今回の事はシエラちゃんの事をしっかりと見ていなかった昇が悪い。分かったっ! はい、それで決定っ!」

 ……理不尽だ――――――――っ! 思わずそんな事を叫びたくなった昇。だが叫んでしまえば更なる地獄が待っている事は昇は今まで生きてきた経験上で分っている。だからこそ、ここは素直に綾香の前から逃げようとする。

 そんな昇を逃がさないように、綾香はどこに持っていたのか、いつの間にかフライパンで昇の逃走経路を塞ぐが、それと同時に我慢の限界が来たのだろう。ミリアがご飯と騒ぎ出したので、綾香の態度は一変、シエラの手を優しく取るとシエラをいつもの席に着かせた。

 そんな光景を見て昇はやっと一安心したかのように安堵の息を付いた。そして昇もすぐに自分の席に付くと、いつも通りの夕食が始まるのであった。



 夕食後、シエラを最初に順番にお風呂へと入って行った。もちろん、昇が一番最後である。そんな昇がリビングへと戻ると、そこには誰も居なかった。どうやら皆、今日の戦闘で全力を出し尽くして疲れているようだ。だから今日はリビングが静まり返っており、昇も今日はすぐにでも寝たい気分だった。

 だからだろう、人気の無いリビングでもまったく気にする事無く。昇はリビングの電灯を消すと自分の部屋に戻って行った。

 昇は自分の部屋に戻ると電灯を付ける事無く、すぐにベットへと倒れ込み、布団をかぶるのだが、昇は自分の背中に誰かが密着しているような温もりを感じると眠い目をしながらも、寝返りを打って温もりの正体を確かめる。

「こうやって一緒の布団で寝るのも二回目」

「あ~、言われてみれば、そうだったね。まあ、最初は僕も記憶が無くて、いつの間にかシエラが布団に潜り込んでただけどね」

 ……………………へっ? このまま寝ようと思っていたからすっかり思考回路が停止していたのだろう。昇が今の状況を理解するのに、かなりの時間を要する事になった。そして昇は恐る恐る現状を確かめる。

 昇はすぐに布団をめくると、そこには寝巻き姿のシエラが居た。その事実に昇の思考が再び停止する。その間にすでに布団の中に身を隠す必要が無くなったシエラが布団から頭を出してきて、昇と頭を並べる。それからシエラはゆっくりと昇に抱き付くように、昇の首に手を回すのであった。

 密着してきた衝撃で昇の思考回路が再び回りだしたのだろう。昇は抱き付いてきたシエラの温もりを感じながら思考を巡らす。

 え、えっと、何でシエラが僕のベットに? というか、この状況は何? それよりも僕はどうすれば良いんですか? 誰か教えてくださいっ! シエラの大胆な行動にすっかり混乱する昇。そんな昇の耳にシエラは口を近づけると静かに言葉を口にするのだった。

「昇、一年ぐらい前かな? その時の事を覚えてる?」

 ……へっ、一年前? 突然の質問に昇は更に混乱する。それでもシエラの質問に答えようと一年ぐらい前の記憶を呼び起こそうとするが、どうしても睡魔が記憶の回帰を邪魔する。それでも思い出そうとする昇だが、どうしても思い出せなかった。昇が諦めたように息を吐くと、シエラは再び言葉を口にする。

「昇が琴未と帰っている時に昇達は一匹の死んだ犬を見つけた。その犬は餓死したようだった。それはしかたない、なにしろその犬は突然変異なのか、とても可愛いと思えないほど不細工な犬だったのだから。だから誰もその犬に同情を向けなかった。だから、その犬は誰からも施しを受ける事無く……餓死した」

「……あぁ、あの時の事」

 シエラの言葉を聞いて昇もやっと、その出来事を思い出したようだ。けれども一年ぐらい前の記憶で、内容もどうって事の無い物だと言えるだろう。けれども昇はその犬について特別な感情を持っていたからこそ、シエラの話を聞いて思い出すのに時間が掛からなかった。

「えっと、その話と今の状況がどういう意味を指しているのでしょうか?」

 シエラの話が理解出来たものの、シエラが突然そんな話をしてきたかまでは理解出来ていなかった。そんな昇にシエラはゆっくりと語りかける。

「あの時は争奪戦が始まる前だった。けど……精霊世界と人間世界は隣接している。だから精霊は人間に見えなくても、人間世界の出来事を見る事が出来る。つまり人間には見えないけど、そこに存在しているのと同じ。だから……私もその時の出来事を見ていた。そして、その時に昇が言った言葉。それを聞いたから私は昇を契約者に選んだ」

「つまり……その時の僕が言った言葉がシエラに僕を契約者にしようと決断させる言葉だったと言うわけ?」

「そう……昇は……その時の言葉を覚えてる?」

 そんなシエラの問い掛けに昇は記憶を辿るが、どうしてもシエラが昇を契約者にしようとするような言葉を言った覚えがなかった。もしかしたら、すっかり忘れているのかもしれないが、どちらにしろ昇にはシエラが昇を契約者として選んだ理由がそこにあり、その決断をさせた言葉を思い出す事は出来なかった。

 それでも何とかして思い出そうとする昇を見て、シエラは軽く笑う。やっぱり昇が自分の事で必死になって思い出そうとしてくれる姿が嬉しく、そして楽しかったからシエラは自然と軽く笑ったのだ。

 そんなシエラの顔が笑みから微笑みに変わるとゆっくりとその時の言葉を口にした。

「その時に昇はこう言った。『犬は犬なのに変わりないのに、それなのに少し違うからと言って虐げられるのは間違ってるよ。生まれ方が少しだけ変わってただけじゃないか、それなのに……誰からも見捨てられるなんて間違ってるよ』って昇は言った。だから私は昇を契約者として選んだ」

「……えっと、そんな事を言ったっけ?」

 どうやら昇はそこまで詳細に覚えている訳では無いようだ。だがシエラは、その言葉を一字一句間違い無く覚えていた。なにしろ、その言葉があったからこそ、シエラは昇を契約者に選んだのだから。

 未だに首を傾げる昇に対してシエラは微笑を絶やさないまま話を続けてきた。

「その言葉を聞いた時に……私は昇に対して興味と期待を抱いた」

「興味と期待?」

「そう、生まれ方が変わっていたのは私も同じ、そして私がその事で精霊から差別されている事も同じ。だから昇に対して興味を覚えた。そんな考えを持った人間が居るとは思っていなかったから。そして……それと同時に期待も生まれた。昇なら……妖魔である私を受け入れてくれるんじゃないかという期待。だから……私は昇を契約者として選んだ。ずっと一緒に居られると期待した。妖魔である……私と」

「……シエラ」

 昇はやっとシエラの本心を聞いたと確信した。今までは自分の事を一切話さなかったシエラだが、今では自ら妖魔である事を打ち明けて、昇が妖魔であっても受け入れてくれると期待していた事も打ち明けてくれた。だからシエラの言葉は昇の胸に深く突き刺さるのと同時にシエラの心が開くのをしっかりと感じ取る事が出来た。

 そんなシエラを昇は優しく抱きしめる。

「そっか……でも、シエラは怖かったんでしょ?」

「うん」

 昇の質問に即答するシエラ。どうやら昇の言った事は的を射ていたようだ。そんな昇が同じ布団の中に居るシエラの頭を優しく撫でる。

「シエラはずっと怖かったから自分から妖魔である事実を僕達に話す事が出来なかった。そして、あのアレッタさんがシエラの正体をバラそうとしたから必死になって止めた。僕達との関係が壊れるのが怖かったから、だからあの時は僕達を拒絶する事で僕達との関係を保とうとしてた。そうしないと全てを失いそうで怖かったから……そうなのかな?」

 最後は疑問系で締めくくる昇の言葉。そんな昇の言葉を聞いてシエラは昇の胸に顔を埋めると溢れ出る涙を昇に見せないように頷いた。

 そんなシエラを優しく包み込むように抱きしめる昇。だからこそ、昇はシエラに言葉を掛ける。

「でも……もう全部終わったよ。シエラが妖魔であっても僕達の関係に何も変わりは無い。いつまでも、今までどおりで良いんだよ。だからもう大丈夫、もう怖がらなくても大丈夫。だって……僕達はいつまでもシエラの傍に居るから。だからシエラ、もう孤独を怖がらなくても大丈夫だよ」

「うん……うん、ありがとう昇」

 それからしばらくシエラは昇の胸で泣き続けた。昇もそんなシエラを優しく受け止めてあげるのだった。

 そしてシエラが泣き止むと、シエラは再び昇に顔を向けて未だに少し赤い瞳で昇の顔を見詰めてきた。そんなシエラが少し嬉しそうに話し始める。

「こうやって昇に抱きしめてもらってると……受け入れてくれた事が実感できる。だから……アレッタの事も今ではしっかりと理解できる」

「アレッタさんって、シエラが戦ってた?」

「そう……今回では敵だったけど。今では……そう、私はアレッタの事を親友だと思い始めてる。それぐらい……私はアレッタの事が理解できたし……アレッタも私を受け入れてた事を知った」

「でも、最初っからアレッタさんは僕達に敵意を剥き出しだと思ったけど」

「それにもアレッタらしい理由がある。だから昇、私とアレッタの事も……聞いてくれる?」

「うん、もちろん」

 それからシエラはアレッタの心境がどういうものだったかを最初から話し始めた。アレッタの目的、心境、昇達との戦いが意味する物。それら全てを昇に話すシエラだった。

 以前のシエラなら、ここまでアレッタ事を理解出来なかっただろう。だが、あの戦いがあったからこそ、あそこで全力で戦ったからこそ、シエラとアレッタはお互いに理解し合えたのではないだろうか。昇はシエラの話を聞き終えるとそんな風に思った。

 そんな昇がシエラの話を聞いて更にこんな事を思った。もし……言葉が無くても相手の事を理解しあえるのなら、どんなに良い事なんだろうな。けど、人間も精霊も同じなんだね。言葉だけはお互いに理解しあえない。本当の気持ちを伝えるのに言葉は必要だけど、本当の意思を伝えるのには言葉だけは不十分なのかもしれない。それは僕達も同じかな、言葉だけでは表せない絆があったからこそ、今回の事は収拾が付いた。もし……僕達の絆がシエラを受け入れるのに不十分なら……こんな良い結末は迎えられなかったかもしれない。

 そんな事を思う昇だが、それは昇の慢心と言えるだろう。なにしろ昇は言葉という物を充分に使いこなせるほど言葉という物に精通していない。そんな昇が言葉だけでは不十分と言えるわけが無いのだ。もしかしたら、昇の知らない言葉にお互いの意思を伝え合う言葉があるかもしれない。だから昇が言葉だけでは不十分と思うのは慢心と言えるだろう。

 だが、その言葉を充分に使える人間が何人居ると聞かれたら、もしかしたら誰も居ないのではないだろうか。それほどまでに言葉というのは出現と消去を繰り返しており、常に改変されている。そんな無数の言葉の中には誰にも知られていない言葉もあるかもしれない。

 だから、もしかしたら数万分の一の確立でシエラとアレッタがお互いの意思を伝え合う事が出来る言葉があったかもしれない。それでも、二人ともお互いの意思を伝え合う事に戦いが必要だったのは、その手段でしかお互いの意思を伝え合う方法が知らなかったと言えるだろう。

 そうなると、もしかしたらの話だが、数十万分の一の確立でシエラとアレッタは戦う事無く、アレッタが素直にシエラの元へ来て、昇達の仲間になっていたかもしれない。少なくとも、そういう未来もあったかもしれない、という話である。

 何にしても、今の昇達では、この結末を向かえるだけで精一杯だっただろう。シエラを連れ戻す事。それが出来ただけでも昇達にとっては幸福な結末と言えるだろう。確かにアレッタとの別れは悲しい事かもしれない。けれども、あの別れがあったからこそシエラはこの場所へ、昇がいる場所へ帰る勇気を貰ったのだ。それだけでも、あの戦いに充分な意味があったと言えるだろう。

 だから昇もシエラも今回の戦いが無駄だったとは思っていない。むしろお互いに理解を深めるために必要な戦いではなかったのかと思い始めているほどだ。それほどまでに今回の戦いは昇達に大きな影響を与えたようだ。

 そんな影響を自覚しているのか、していないのか分からないが昇はこんな事を思った。

 アレッタさんも不器用なのかな? う~ん、不器用とはちょっと違うような気がする。アレッタさんは……そう、意地悪なのかもしれない。だから素直に自分の意思をシエラに伝えようとは思わなかった。逆にシエラを仲間にしてから自分の意思を伝える事でシエラを驚かそうとしていたのかもしれない。そう考えればアレッタさんの行動にもしっかりとした理由が付くかな? まあ、何にしてもシエラとアレッタさんの仲が修復されたのは良いことなんだろうね。それだけじゃなく、シエラと僕達の関係も今回の戦いで更に深まったと思っても良いかもしれない。だって……こうしてシエラが帰って来てくれたのだから。

 そう思うとこうしている事が昇にはとても幸福な事ではないかと思い。シエラにも今の気持ちを聞いてみようと思ったけど止めた。なにしろシエラは……昇の腕に抱かれて静かに寝息を立てていたのだから。

 そんなシエラを見て昇はシエラの頭を優しく数回撫でると、そのままシエラを抱きしめるように昇も睡魔に身を任せて意識を沈めて行くのだった。



「なるほどね~、今回はそんな事があったんだ」

 綾香はビールを片手に、空いている片手で閃華が持っているさかずきに日本酒を注ぐ。どうやら閃華は綾香の晩酌に付き合うのと同時に今回の出来事を報告していたようだ。それでも酒を飲みながらである。

 閃華は未成年の容姿をしているとはいえ精霊である、すでに数百年は生きているから何も問題無いと開き直っている。まあ、精霊に人間の法律を当てはめようとする時点で間違っていると言えるだろう。なにしろ種族どころか体の構造自体が違うのだから。だから閃華が酒を飲んでいても、まったく不思議でも無いし、閃華は今までも酒をたしなんでいる。

 だから、こうして綾香と一緒に晩酌に付き合うのも珍しい事では無かった。

 そんな閃華が杯に注がれた酒を一気にあおると、一息付いて話を続けてきた。

「まあ、これでシエラも心の整理が付いたじゃろう。じゃから今までのように私達に対して一線を引くような態度は見せんじゃろうな。それどころか開き直って、妖魔の力を充分に出してくるじゃろうな」

「シエラちゃんにしてみれば、もう妖魔である事を隠す必要なんて無いもんね。それにしても今回は昇も閃華ちゃんもちょっと鈍かったわね」

「そう言われると耳が痛いものじゃな」

 確かに綾香が言った通りである。昇も閃華もシエラの異変を感じていた。そしてそれが、何かしらの前兆では無いかと心配までしていた。それなのに、シエラの家出をみすみす許してしまい。自分達の絆が崩れそうになるまで発展してしまったのである。

 これらはシエラの異変に気付いていた昇と閃華が、早急にシエラについて手を打っていれば、こんな事にはならなかっただろう。少なくともシエラが妖魔だと分かった時点で手を打って置けばシエラが家出をするのを防ぐ事が出来ただろう。それでも昇も閃華もシエラが妖魔だと分ってもすぐには動かなかった。これは二人の失態とも言えるだろう。だから今回の事では閃華も反省すべき点があると言えるだろう。

 それでも昇のおかげで今回も無事に丸く収まってくれた。それだけでも喜ぶべきだろうと閃華は自らの手で杯に酒を注ぐ。そんな閃華の杯に注がれた酒を半分ほど飲んでから閃華は杯を置いて、傍にあるつまみに手を伸ばす。そんな閃華を見ながら綾香もビールを軽く飲むと話を続けてきた。

「それにしても……難しい問題よね」

「妖魔の事じゃろうか?」

「そうね、確かにシエラちゃんは昇達に受け入れてもらったけど、他に居る妖魔達を考えると、とても今回の事で全てが終わったとは思えないわね」

「ふむ、それはもっともじゃな」

 確かに綾香の言うとおりである。妖魔はシエラ一人だけでは無い。精霊世界には自分が用まである事を隠している妖魔が他に数百人ぐらい居てもおかしくない。それほどまでに妖魔を差別する習慣は精霊には常識となっているし、だからこそ妖魔は自分の正体を隠そうとする習慣が生まれたのだ。

 その中でもシエラが契約者のみならず精霊にも受け入れられた事は例外とも言える事であり、それだけで妖魔が未だに差別されている事には変わりないのだ。

 そんな現状を考えながら閃華は杯を一気に空けると綾香が酌をしにビンを出してきたので、閃華は素直に杯を出して綾香からの酌を受ける。そうして杯に注がれた酒を軽く飲む閃華はこんな事を言い出してきた。

「確かに私達の事に関しては丸く収まったものじゃが……一歩間違えれば私達はシエラを失っていたかもしれんのう。まさか妖魔の事を知っても昇が自然と妖魔を受け入れるとは思っておらんかったからのう」

 そんな閃華の言葉を聞いて綾香は少しだけ誇らしげに言い始める。

「それは、私が育てた大事な一人息子ですから。シエラちゃんを見捨てるような真似なんてしないわよ」

 随分と酔いが回っているのか、綾香にしては珍しく昇の事を誇らしく褒めた。そんな綾香の態度に興味をそそられた閃華が綾香に尋ねる。

「ほう、では今回の一件では奥方の教育が有効的に働いたというわけじゃな」

「まあ、そうでしょうね」

 あっさりと肯定する綾香。そんな綾香を見て閃華は軽く笑うのであった。まさかあの綾香がここまで簡単に自分の功を誇るとは思ってもいなかったからだ。けれども綾香は閃華の笑いがバカにしたようも取れたのだろう。だからこそ、閃華にも昇に教えた事を説教するかのように言い始める。

「大体、世間の常識という物が絶対的に正しいとは限らないのよ。むしろ世間の常識が人道的に間違っている方が多いのよ。簡単な例を上げれば戦争でしょうね。戦争では人の命より大事な物があるという名目で人殺しを容認している。それは人道的に見れば間違ってると言えるでしょ。けれども、戦争をやってる人達にとっては人を殺す事は常識であり、殺さないという事は逆に自分が殺される事だから殺す。そういう認識が常識となり、世間にまんえんする。だから世間の常識が絶対的に正しいとは言いきれないでしょ」

 説教にも似た綾香の言葉を閃華は酒を進めながら聞いていた。そして、綾香の説教が終わるとこんな言葉を返した。

「まあ、それは極端な例とも言えるじゃろうが、そうかもしれんのう。自分達が教えられた常識、あるいは自分から覚えた常識、他の者が持っているから持つようになった常識。その全てが絶対的に正しいと誰もが言えんじゃろうな……じゃが」

 閃華はそこまで言うと杯に残っている酒を一気に空にする、その途端に綾香が再び酌をしてきたので杯が再び酒で満たされると閃華は言葉を続けた。

「人間も精霊も一度身に付けた常識を変える事が出来ないのが現状じゃな。それは誰しも自分が持っている常識が正しいと思っているからじゃ。いや、そう思わないと物事の判別が出来んからじゃな。何かを判別する時には常識、つまり自分の物差しを使う場合が多い。最も法律やルールで決められた事に従う場合もあるじゃろうな。じゃが、その法律もルールも絶対的に正しいと誰が言えるじゃろ。誰も言えないからこそ、誰しもが自分の常識で物事を判別するしかないんじゃないじゃろうか」

 そんな閃華の言葉を聞いて綾香は少しだけ考えるとビールを一気にあおって缶を空にすると、次のビール缶を開けるのだった。そして少しだけビールを飲むと閃華との会話を続けてきた。

「だからこそよ、私は昇に自分だけの物差しで物事を見るな、相手の物差しも使って状況を判断しろと教えてきたのよ。まあ、最も昇はそんな自覚は無いだろうけど、私は自然とそういう考えと判断が出来るように教えてきたつもりよ。自分だけの常識に囚われないように、他人の考えや意思を理解できるように。そのための方法を叩き込んだのよ」

「くっくっくっ、じゃから昇は自分自身の特徴を理解できていないわけじゃな。昇の常識は私が持っている常識に比べれば、もの凄く広い。じゃからこそ、私達が戸惑うような妖魔の問題であっても昇はあっさりとシエラを受け入れたんじゃろうな」

「けど……皆が私や昇のように同じような広い常識を持っているわけじゃない」

「それはそうじゃな。じゃからこそ、シエラは受け入れられても妖魔の問題が残っているわけじゃな」

 二人とも、そこまで話すとお互いの手にある酒を一気に喉に流し込んだ。そしてお互いに一息付くと今度は綾香から口を開いてきた。

「まあ、妖魔の問題は精霊精界の問題だから私が何かを言う資格は無いんだけどね。だから、そこは精霊達に期待するとしましょう」

「くっくっくっ、随分と言ってくれるものじゃのう。そうじゃな……私も今回の争奪戦が終わったらシエラの事を教訓に、この問題に取り掛かるのも面白いかもしれんのう。案外、話してみれば共感してくれる者が多いかもしれんからのう」

「そうね、何にしても妖魔の問題を解決するには誰かが皆に対して訴えない限りは……何も始まらない。そこは閃華ちゃんの活躍に期待するとしましょうか」

「まあ、どこまで出来るか分からんがのう。やってみるだけの価値はあるじゃろ」

「それじゃあ、改めて閃華ちゃんの奮闘を期待して乾杯」

「くっくっくっ、奥方もしかたないものじゃのう」

 そう言いながらも閃華は酒の入った杯と綾香のビール缶をお互いに軽くぶつけて乾杯をするのだった。それからお互いに酒を流し込む。そうなると当然のように閃華が手にしている杯の酒が先に無くなるわけだから、閃華は自らの手で酒を再び杯に流し込む。そんな光景を見ていた綾香がこんな事を言いだしてきた。

「そういえば……閃華ちゃんって必ず清酒か焼酎よね。ビールとかワインは飲まないの?」

 そんな、どうでも良い質問に閃華は軽く笑いながら答えた。

「くっくっくっ、どうも炭酸が入っている物や果実酒は苦手での。それに私は長い間、この日本やとうの国に居たからのう。じゃから、その手の酒は馴染みが無くて苦手なんじゃよ。じゃから馴染みのある清酒や焼酎、どぶろくなんかを好んで飲んでいる訳じゃ」

「へぇ~、閃華ちゃんは日本や中国に居た時期が長いんだね」

「いや、正確に言うと今で言う中国で生まれたんじゃが、それから貿易の盛んだった日本の事を耳にしてのう。それで日本に来たワケじゃが。前にも話した通りに、私が以前に契約した者は大罪を犯した。じゃから私も五百年の永い眠りに付いていた訳じゃから。他の国に行く機会が無かった訳じゃよ」

「なるほど、閃華ちゃんも長い間生きてきたけど、他の国に行く切っ掛けが無かったんだね」

「まあ、そういう事じゃな」

 それから、どうでも良い楽しい話となり、閃華は綾香の晩酌に付き合い、夜が更けるまで綾香の晩酌に付き合うのだった。



 そんな閃華が綾香から解放されて自分の部屋に向かうために階段を登りきる時だった。閃華は昇の部屋に背中を預けるようにたたずむ琴未の姿を目にした。

 ドアの横に立つ琴未は顔を伏せており、その表情も悲しげで、それでも、どうしてもやりきれない気持ちを抑えきれないといった複雑な表情をしていた。そんな琴未の姿を見て閃華は溜息を付くと琴未に声を掛ける。

「やれやれ、やっぱり気持ちの整理が出来ておらんようじゃな、琴未」

「……閃華」

 声を掛けられてゆっくりと閃華の方に顔を上げる琴未。それからすぐに琴未は閃華から離れるように鼻を塞いだ。

「って、閃華、かなり酒臭いわよ」

「ふむ、今夜は奥方と大分深酒をしてしまったようじゃな。まあ、直に慣れるじゃろう」

「いや、そういう問題じゃないと思うけど」

 どうやら琴未は酒臭い事を問題にしているようだが、閃華がまったくそんな事を気にしないので呆れた表情になっている。

 それから閃華は昇の部屋を指差すと、まるで琴未の心を読んだかのように言葉を口にした。

「ふむ、いつもの状態なら踏み込んで行くところじゃろうが、今のシエラには昇が必要じゃから琴未としてはシエラの邪魔をする気にはなれないという訳じゃな」

「…………」

 閃華の言葉を聞いて琴未は閃華から顔を背けた。どうやら図星のようだ。

 琴未は確かにシエラと昇が今は一緒に部屋に居る事を確信している。だからと言って、いつものように踏み込む気にはなれなかった。なにしろ今のシエラは心に深い傷を負っている状態だ。そして、その傷を治してあげられるのは昇しか居ない。それが分っているからこそ、琴未は昇の部屋に踏み込むことが出来ずに、ただ昇の部屋を前にして立っていただけである。

 琴未としては、ここで踏み込んでシエラの邪魔をしてやりたいというのが本心だろう。そうすればシエラは再び傷つき、もう二度と戻って来ないかもしれない。けど、そんな事をすれば昇が悲しむ事になる。琴未としては昇がシエラの事だけを気に掛けるのは、もう嫌なのだ。

 だからこそ、今だけはと自分に言い聞かせて、今はただ昇の部屋の前に立っていただけでなのだ。

 そんな琴未を見て閃華は溜息を付くと、琴未の肩に手を回して頭を優しく撫でてやる。

「まったく、優しすぎるのも難点じゃな。じゃがな琴未よ、琴未がそのような優しさを持っているからこそ、昇は琴未の事を嫌いになれずに未だに迷っているんじゃぞ。そんな琴未の良さまで消してシエラと決着を付けてもしかたないじゃろう。そんな事をすれば二人とも傷つくだけで何も進展はしない。それに今回はシエラがかなり傷ついているからのう。今回だけはシエラに華を持たせてやるんじゃな」

「そんな事……分ってるわよ。だから……こうしてるんじゃない」

 そんな琴未の言葉を聞いて閃華は再び溜息を付いた。この優しさこそが琴未の美点なのだが、今回に限ってはその美点が琴未の行動を阻害し、琴未に迷いを生じさせている。琴未も分っていないのだ。この場合にどうすれば良いのかを。琴未もそれが分かるまでの経験を積んでいる訳ではない。だからこうして昇の部屋の前に立つ事しか琴未には出来なかったのだ。

 そんな琴未の心境を悟った閃華は静かに杯を差し出す。それを見て琴未は閃華に向かって呆れた視線と言葉を向ける。

「私はまだ未成年よ」

 そんな琴未の言葉に閃華は笑いながら答えてきた。

「くっくっくっ、まあ、少しぐらいなら良いじゃろう。それに……こんな時は酔ってしまって、すぐに寝た方が良いものじゃよ」

「そうとは思えないのよね」

「なら試してみるんじゃな。たまには羽目を外すぐらいが丁度良いものじゃよ。それに……」

「それに……何よ?」

「琴未は負けるつもりは無いんじゃろ」

「当たり前でしょ」

 はっきりと断言すると琴未は閃華から顔を背けて自分の意思をしっかりと示す。顔を逸らしたのは少しだけ恥かしさがあったからだろう。そんな琴未を見て閃華は静かに話を続ける。

「なら、明日からはいつものように勝負をすれば良い。まだシエラとの決着は付いておらんのじゃろ。それに琴未としてもシエラとは決着を付けたいのじゃろ」

「当たり前でしょ」

 琴未としては突然、昇の傍に現れたシエラの存在が許せないのだ。なにしろ今まで昇の一番傍に居たのは琴未なのだから。それなのに突然現れたシエラに昇を取られるなんて、琴未とっては考えるだけでもおぞましい事だった。だからこそ琴未は自分の居場所を、自分が居たいと思う場所を取り戻すためにシエラとの決着を付けたいと思っているのだ。

 けれども今日だけは、そんな気持ちも抑え付けるしかなかった。琴未が琴未の目的を達成するためには……今日だけはシエラに華を持たせるしかないと琴未自身も良く分かっていた事なのだから。

 だからこそ、閃華はそんな琴未に優しく語り掛ける。

「なら、こんな所に立っていないで私に付き合ったらどうだ?」

「さっきまでおばさんと呑んでたんでしょ?」

「なに、少しだけ呑み足りないと思ってのう。じゃから琴未よ、今夜だけは少しだけ付き合ってもらおうか」

「……分かったわよ」

 琴未がそういうと二人は琴未の部屋に向かって歩き始めた。

 そして閃華が琴未に酒を進めて数分後、琴未はすっかり酔って、今ではベットで静かな寝息を立てている。そんな琴未を優しく見詰める閃華。そんな閃華の手には泡盛のビンが握られており、ビンのラベルにはアルコール度数60と書かれている。

 ちなみに、普通の焼酎でもアルコール度数は25程度である。それなのにいきなりアルコール度数が高い酒を、しかも琴未は勢いに任せて一気に飲み干したのである。そんな琴未が酔い潰れて寝てしまうまで、そんなに時間が掛からなかった。

 まあ、閃華も琴未を早く寝かしつけて楽しようとアルコール度数の高い酒を飲ませたわけだが、まさか一杯だけで酔い潰れるとは閃華にしても予想外だった。それでも、今では琴未も静かに寝息を立てている。これで明日からはいつもの琴未に戻るだろうと、閃華は琴未に布団を掛けなおしてやり、頭を優しく数回撫でると、部屋の電気を消して自分の部屋へと戻って行くのであった。

 そんな閃華が歩きながら思う。

 さて、明日からはどんな日になって行くんじゃろうな。

 シエラが戻り、今までシエラが抱えていた傷も全て癒えた。そして琴未も、明日からはいつも以上にシエラに対して好戦的に出られるであろう。そう思うと閃華は静かに自然と笑いを表に出していた。

 なにしろ……明日からは、また騒がしい日常が戻ってくると確信しているからだ。それを思うと閃華は自然と嬉しくなり、明日という日が楽しみになりながらも、自分の部屋へと戻って行くのであった。







 はい、そんな訳でやっと上げたエレメの百二十三話ですが……えっと、まあ、あれですよ。私としてもいろいろとありましたからね~。最近では更新ペースがすっかり落ちている事はしかたないですよね~。

 まあ、そんな訳で、これからも更新ペースに期待しないで続きを気長に待っててもらえるとありがたいです。そんな訳で、これからもエレメをよろしくお願いしま~す。

 とまあ、一通り挨拶も済んだところで次回予告に行きましょうか。次話はいよいよっ! 白キ翼編の最終話となります……まさか一年に渡って白キ翼編を書く事になるとは思って無かったよ。まあ、今年は後半がいろいろとあり過ぎたからね。それに対処できなかった。そんな感じですかね。

 まあ、なんにしも、次で白キ翼編も終わるので、そろそろ次編について紹介しようかと思っております。次編は百年河清終末編となります。……はい、またこいつ読めないよな字を出してきやがったなと思った人は挙手~。ふはははっ、読めないだろ、ざまあみろっ!!! ……はい、ごめんなさい、かなり言い過ぎました。だから意思を剛速球で直撃させないでください。すいませんでした。

 さてさて、戯言は終わりにして次の「ひゃくねんかせい終末編」は番外編に近い形になると思います。強いて言うなら……一編完結。次への伏線は、他の話とも繋がらない話となります。まあ、繋がっていると言ったら、白キ翼編の数日後から話が始まるところだけで、他との関わりや伏線が無いのが百年河清終末編ですね。

 まあ、そんな感じで進めて行こうと思っているので、いつ上げる事になるか分かりませんが、百年河清終末編もよろしくお願いします。

 とまあ、お願いしたところでそろそろ締めましょうか。

 以上、ヤバイ、今日は思いっきり寒い、と今日になってストーブを持ち出してきた葵夢幻でした。

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