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第百十二話 すれ違いからの戦い

 突然の不意打ちとはいえ、アレッタとシェルはスピード自慢の精霊である。だから多少反応が遅れようとも攻撃を簡単に避ける事が出来た。そしてアレッタとシェルが攻撃を避けて土手の上を見上げると、そこには昇の姿があった。

 昇の紫黒はすでに二人を捉えており。昇はシエラから二人を引き離そうと更に攻撃を加える事にした。昇も今の状況を完全には分って無いが、やるべき事は分っているようだ。シエラを助けるんだ。そんな事を思った昇は状況を考えるよりも攻撃を優先している。

「ツインフォースバスターッ!」

 土手を滑り降りながらも昇の紫黒はすでにアレッタとシェルを捉えているようで、そんな二人に向かって攻撃を放つ。紫黒から放たれた攻撃はすでに銃弾というレベルを超えており、砲撃と言ってもいいほどの威力を持っていた。

 その威力を証明するかのように昇の攻撃を避けてた。アレッタとシェルが居た場所には、着弾直後に爆発して辺りに衝撃波を撒き散らす。その間にも昇はシエラに駆け寄るのだった。

「大丈夫、シエラ」

 昇はすぐにシエラに向かって声を掛けると倒れてきたシエラの身体を慌てて抱き止めた。けれどもシエラは昇がここに居る事が信じられないといった表情で呆然としていた。それはそうだろう、なにしろシエラは昇の元から逃げ出した卑怯者であり、妖魔でもあるのだから。だからこそシエラは自分が昇に嫌われても不思議は無いと思っていた。昇が自分を心配してくれないと思っていた。

 けど……実際にはこうして昇が来てくれた。その事実だけでシエラの心は混乱するばかりで、ただ嬉しくて、ただどうして良いのか分からなくて、それでも嬉しくて、それでも昇に向かって何て言えば良いのか分からなかった。

 嬉しさと先程までの心境がシエラの中で複雑に混ざり合い。シエラを混乱させるばかりだ。そんなシエラに向かって昇は更に言葉を掛けるが、シェルは昇が出てきたのを黙って見ている訳にはいかなかった。

 すぐに攻撃を仕掛けようとするシェルをアレッタは止めた。止められた事に抗議するシェル。

「何で止めるのよ」

 そんなシェルの文句にアレッタは嫌な汗を掻きながらも、昇を指差して自分の考えをシェルに向かって話し始めた。

「あれはシエラの契約者よ。そして能力は……エレメンタルアップ」

「エレメンタルアップッ! あの契約者ってレア能力を持ってるわけ」

 さすがに昇の能力を聞かされてはシェルも驚きを隠す事が出来なかった。そんなシェルに向かってアレッタは更に話を続ける。

「それに契約者が現れたって事は、他の増援が来てもおかしくない。シエラ一人ならともかく、エレメンタルアップと他の精霊を相手に私達二人だけで勝つ自身がある」

「……じゃあ、どうするのよ?」

 シェルの問い掛けにアレッタは迷う事無く、はっきりとシェルに告げた。

「一旦精界を崩してこちらも形勢を立て直しましょう。シエラがかなりの傷を負った事には変わりないから、このチャンスを活かさない手は無い。だから私達も一旦合流して、それから再戦するわよ」

「はいはい、分かったわよ」

 アレッタの言葉に疲れたように返事を返すシェル。確かにシェルは命を掛けたシエラを相手にあれだけの戦闘をしていたのだ。だから今日のところはここで完全に退いて、後日に再戦をしたかったのだが、アレッタは完全にシエラを潰すために一旦退却を告げてきたのだ。

 数時間後には再び戦う事になると思うと、さすがのシェルもいい加減にして欲しいと思ってしまうのだろう。なにしろシェルはアレッタの仲間では無い。ただローシェンナがアッシュタリアに加入する前に、ローシェンナの手伝いをする言わばアルバイトと同じである。そんな状況だからこそシェルはそこまで付き合わされることに不満を抱いたのだろう。

「それじゃあ、私は先に退かせてもらうわよ」

 シェルはアレッタにそう告げると自慢の俊足を使って、一瞬でその場から姿を消してしまった。どうやら一気にこの場から離れたらしい。そんなシェルを見送ったアレッタは精界を崩し始める。

 世界にヒビが入り、白く染まった世界が徐々に崩れ始める。そんな光景を見た昇は相手が退くのだとアレッタ達の思考を読んだのだろう。アレッタに紫黒を向ける事無く、視線だけをアレッタに向けた。

 そのアレッタがシエラに向かって叫ぶ。

「しょうがないから一旦退いてあげるわよシエラ。でもシエラ、忘れない事ね。シエラがさっきまでやっていた事を。それこそがシエラが願っている本心だって事をねっ!」

 そんなアレッタの言葉に昇は首を傾げるばかりだが、昇の腕に抱かれているシエラは大きく目を見開いて、アレッタの言葉に先程の心境が蘇ってきた。そんなシエラに気付かないままに昇はアレッタを見詰めると、アレッタは一度だけ溜息を付いて背中の翼を広げて昇達の前から飛び立って行った。

 そして精界が完全に崩れた。



 元の世界に戻った事により、町の騒音が聞こえてくる中で昇は自分が未だにアルマセットを解除しないまま、というか解除するのをすっかり忘れていたようで、紫黒を地面に置くとシエラに向かって話し掛けた。

「よかった、随分と探したんだよシエラ。怪我は大丈夫?」

 そんな質問をする昇の顔はすっかり安心しきっていた。それはそうだろう、なにしろアレッタ達は完全に退いた事により、戦闘は終わりを告げたのだ。後は閃華達が到着するのをこの場で待ってシエラの治療をしてもらえば良いだけだと昇は思っていた。

 そんな昇とは正反対にシエラは顔を伏せて呟くように昇の質問に答える事無く、質問を質問で返してきた。

「なんで、ここに来たの?」

「えっ、なんでって……」

 まさかシエラからそのような言葉が飛び出すとは思っていなかった昇はシエラの質問に戸惑うばかりだ。そんな昇に構う事無く、シエラは更に質問を重ねてくる。

「私の事はすでに知ってるんでしょ? 私は妖魔で皆から嫌われてる存在、私はその事をずっと皆に隠してきた。それなのになんで昇はここに来たの?」

 そんな質問をするシエラは決して昇の顔を見ようとはしなかった。もし今の時点で昇の顔を見てしまえば泣いてしまう事が分っているからだ。だからシエラは昇と視線を合わせる事無く、そんな言葉を放つのだった。

 そしてそんな言葉を受け取った昇は優しげな笑みを浮かべながらはっきりとシエラに告げた。

「僕がここに来た事に理由が必要」

 はっきりとそう告げられたシエラは思わず泣きそうになってしまった。それは昇が今までシエラの事を心配しており、必死になってシエラを探していた事を、その一言で悟ったからだ。つまり、昇は妖魔であるシエラをはっきりと受け入れた証拠だと言えるだろう。

 それが分っているだけにシエラは思わずにはいられなかった。先程アレッタが残していった言葉を。だからシエラは思う……。

 私は……卑怯だ。アレッタの前から逃げて、昇の前から逃げて、今度はその昇に受け入れてもらおうとしてる。全部私が悪いのに、だから私は自分の存在を消すような戦いをしたのに、それなのに今度は昇に受け入れてもらって幸せだった生活に戻ろうとしてる。私には……そんな資格は無いのに。

 そんな事を思ったシエラは思わず昇の胸を強く押すと、昇の腕から逃れるように昇から離れる。そんなシエラに昇も驚きを隠せなかった。そしてシエラも何でそんな事をしたのかが分からなかった。ただ一つだけ分っている事は……今の自分が昇の傍に居る資格が無いという事だけどシエラは思い込んでいた。

 だからだろう、再びシエラに近づこうとした昇に向かって叫んだのは。

「来ないでっ!」

「シエラ?」

 シエラの行動に戸惑いを隠せない昇。それでも昇はシエラに近づいてシエラの手を強引に掴み取る。そしてシエラに告げるのだった。

「シエラ……帰ろう。僕たちは」

「出来ないっ!」

 昇の言葉を遮ってシエラが叫ぶ。そんなシエラに昇は驚きを隠せなかった。確かにこんなシエラを見るのは昇も始めてだが、昇はまるで自分が拒絶されている事に驚いていたのだ。

 今まで苦労してシエラを探していたのに、今になってシエラに拒絶されると思っていなかった昇は呆然とするばかりだ。そしてそれはシエラも同じだ。シエラも今まで何回も昇の元へ帰ろうとした。昇の気持ちを確かめようとした。けれども出来なかった。それだけの勇気を持ち合わせていなかったからだ。

 それが今頃になって、さっきまで消えようと戦っていた時に限って昇は現れてしまった。アレッタによって乱された心は未だに修復される事無く、それどころか昇が現れた事によりシエラに一層その事が事実である事を確信させるのだった。

 もう……昇の元へは戻れない。だって……私……自分から消えようとしてた。昇に確かめる勇気が無かったから……更に逃げようとしてた。ずるい……。私は……こんなにも卑怯。それなのに、それなのにっ! 今頃になって昇の元へ戻るなんて……出来るわけが無い。

 そんな事を思うシエラ。やっぱりさっきまでの戦いが未だに尾を引いているようだ。それだけアレッタの言葉がシエラの言葉を掻き乱したのだろう。それだけが原因ではない。元々の原因はシエラが昇の前から逃げ出した事にある。そんなシエラだからこそ、アレッタの言葉に心を揺さぶられて、今では昇を目の前にして確かめる事が出来ないのだ。

 それでも、シエラは思ってしまう。

 確かに……私は昇の前から逃げ出した。でも……こうして迎えに来てくれた事は……やっぱり昇は受け入れてくれた。もう一度……元の暮らしに戻れるの……戻りたい、戻りたいよ。あの生活に戻れるものなら戻りたいよ。

 そんな事を思ってしまったシエラの瞳から自然と涙が流れ出た。このまま昇と一緒に行けば皆が待っているかもしれない。琴未はいつもように皮肉を言ってくれるかもしれない。ミリアはいつものようにご飯をねだるかもしれない。閃華はいつもように私と琴未のやり取りを笑って見ているかも知れない。そんな事を思ったからこそシエラは涙を止める事が出来なかった。

 やっぱりシエラの本心は昇と共にあるのだ。だからこそ、このまま昇と戻れば全てが丸く収まって今までの生活に戻れるかもしれない。昇ならそうしてくれるかもしれない。シエラはそんな確信を抱けば抱くほどに、それとは反対の事を思ってしまう。

 けど……私はまた逃げようとした。またアレッタと昇の前から逃げようとした。今度は消えて永遠に逃げようとした。そんな私が……何事も無かったように戻って許されるの? 許されるわけが無い。こんな卑怯者を……誰が許してくれるというの。そんな事を思ってしまうシエラ。

 結局はシエラの中で二つの気持ちが葛藤しているのである。そんな二つの気持ちに揺り動かされながら、シエラは手から微かに感じる昇の温もりを確かめると自然と昇に向かって言葉が出た。

「昇、昇は私が必要? 私が昇の剣だから、私が昇の為に戦うから、だから昇は私を受け入れたの? 私が未だに必要だから……私を探してたの?」

 そんな事を自然と尋ねてしまったシエラは思わず自分でも驚いていた。なんでこんな質問をしたのかすら自分では分からない。けどその質問はシエラが一番昇に尋ねたい質問だった。昇が必要としてくれるなら、シエラにはまだ昇の傍に居られる理由があるからとシエラは無理矢理自分自身を納得させる事にした。

 そして昇は優しい笑みを浮かべたままシエラの質問に答えてきた。

「その質問は今までも何度かしてきたよね。僕はその質問になんて答えれば良いのか、ずっと分からなかったけど、シエラが居なかったここ数日でやっと分かったよ。だからはっきりと告げるよ。その質問の答えを」

 昇がそんな言葉を掛けるとシエラは顔を伏せながら頷いた。シエラも覚悟を決めたようだ。昇がどんな答えを返して来ても、決して今度は逃げないと、今度こそは受け止めると。だからシエラは空いている手を思いっきり握り締めて昇の言葉を待つ。そんなシエラにはっきりと昇は告げた。

「僕はシエラが必要だった訳じゃない。確かに騒がしい毎日で僕もいろいろと迷惑を掛けられた事もあるけど。それを含めて僕は思うんだ」

 昇がそこまでの言葉を掛けるとシエラは昇の掴んだ手を強引に振り払うように大きく振り上げた。その事によって強制的にシエラと昇の手が離れる。シエラと昇の目にはその光景がスローモーションのように映った。

 それはそうだ。昇に必要じゃないと言われた時点でシエラには昇の傍に居る理由が無くなったのだから。だから昇の言葉を最後まで聞く事に耐えられずに、昇の手を振り払ったのだ。

 そんなシエラに昇は驚きの眼差しを送りながらも、自分から離れるシエラを見詰める。シエラの心はすでに何かを決意したかのように固まっていた。確かに昇はシエラを妖魔だと知っても受け入れてくれたのは確かだ。

 けど昇はシエラの存在自体を必要無いと言ったのだ。それはシエラが妖魔で無くても、シエラが傍に居る理由が無いと言ったのと同じだとシエラは思い込んだ。だからこそシエラは昇の手を振り払ってウイングクレイモアを手に持つのだった。

「シエラッ!」

 シエラの行動に思いっきりシエラの名前を叫ぶ昇。けれども全ては、もう遅かった。シエラがアレッタの前から逃げ出さなければ、シエラが昇の前から逃げ出さなければ、そして永遠に逃げ出さなかったら、こんな事にはならなかっただろう。そう……全ては……もう遅かったのだ。

 いきなり昇から離れてウイングクレイモアを手にするシエラを見詰めるだけの昇。そしてシエラは呟くように力を解放させるのだった。

「精界展開」

 シエラを中心に光の柱が天に向かって伸びていく。その柱はそんなに高くない高度で留まると今度は昇達を包み込むように広がって行き、世界は白く染まった。

「シエラッ!」

 シエラの行動にもう一度シエラの名前を思いっきり叫ぶ昇。そんな昇が最後の抵抗とばかりに叫び続ける。

「シエラッ! お願いだから僕の話を最後まで来て。僕はこんな事を望んでた訳じゃない。こんな事をしに来た訳じゃない。だからシエラ、最後まで僕に言わせてくれっ!」

 そんな昇の叫びもシエラに届かないようだった。なにしろ精界が展開されて顔を始めて昇に見せたシエラの瞳には生気が宿っていなかったからだ。それは先程までアレッタと戦っていたよりも深い悲しみを秘めた瞳だった。

 そんな瞳で見詰められて昇はやっと自分の間違いに気付いた。

 そうか、僕の言い方が悪かったのか。だからシエラは……けどっ! だからと言ってここで諦める訳には行かない。僕はシエラに伝えないと行けないんだ。本当に僕が思っている事をっ!  そんな決意をした昇はしっかりとシエラを見詰める。

 シエラの瞳は生気が無くなったように真っ黒であり、涙を流し続けている。そして手にしたウイングクレイモアは未だにセラフィスモードが発動されたままであり、六枚の翼を生やしていた。つまりシエラは決意したのだ。昇の傍に居る理由を無くした瞬間から……永遠に逃げる事を。

 そんなシエラを見て悔しそうに奥歯を噛み締める昇。どうしてこう上手く行かないんだっ! 思わずそんな事を思ってしまった。確かに昇にも落ち度はあったかもしれない。そのたった一度の落ち度がこんな事態を招き、もう戻れないかもしれない状態にまでシエラを追い込んでしまった。

 そのシエラは心が凍りついたように何も思う事は無かった。すでに何かを考える事すらおっくうだった。だからせめて、最後の望みを叶える為にウイングクレイモアを振り上げるのだった。

 そんなシエラを見て昇も紫黒を手に取って構えずにはいられなかった。けど昇は諦めたわけではなかった。今のシエラを見て戦闘が避けられないのだと感じ取ったのだ。だからこそ昇も決意する……シエラと戦う事を。

 そんな昇が紫黒を強く握り締めながら思う。

 ごめん、シエラ。僕の所為でシエラを追い込むような事をしちゃったみたいで。だからっ! 絶対に助けるよ。今度こそ……本当に迎えに行くよ。もう一度繋いだ手を離さない為にっ! そんな事を思う昇。

 昇は先程の戦闘を見ていた訳ではない。だからシエラがアレッタの言葉で追い詰められた事は知らない。だけど今のシエラを見て、今のシエラが何を願っているのかがしっかりと分かった。それは昇がしっかりとシエラを見たからだろう。今までのように誤魔化したり、はぐらかしたりする事無く。ここ数日でシエラの事をしっかりと思い出して、今のシエラを見たからこそ分かった事だ。

 だからこそ昇はシエラに紫黒を向け、シエラも昇に向かってウイングクレイモアを向けるのだった。

「行くよ、シエラ」

 今度こそ……全部受け止めてあげるから。

 昇が紫黒の引き金を引いて銃弾が豪雨のようにシエラに向かって行く。そんな昇の攻撃に対してシエラは六枚の翼で一気に上昇すると、そのまま空を翔けながら昇に向かって急降下してくる。それと同時にウイングクレイモアが振られる。

 そんなシエラの攻撃に昇は横に跳ぶ……とは言えないまでに無様な格好で横に避ける事に成功した。そんな昇がすぐに立ち上がって空を見上げると、そこにはすでに空中に戻っているシエラの姿があった。

 前にシエラに特訓してもらった事があるけど……今のシエラはその倍、ううん、比べようが無いほどに早い。シエラのスピードにそんな事を思ってしまう昇。確かに昇はシエラのスピードがどれぐらいかは知っていたが、今のシエラが出しているスピードは今までに昇が見たことが無いほど早かった。

 つまり今のシエラは先程の戦闘と同様に自分の生命力を戦闘力に上乗せしてスピードを上げている状態にある。そんなシエラに昇は驚きながらも決断する。こうなったら使うしかないかな。エーライカーの応用版を。そんな決断を下す昇はシエラが次に攻撃をしてくる前に、シエラが攻撃できないように手だけは打っておく。

「サンライトシュート、ブレイクッ!」

 紫黒の銃口から発射された銃弾は飛び出すとすぐに爆発、いや、発光した。昇を包み込むように強い光がシエラの視界を遮る。通常の閃光弾よりもかなり強い輝きを放ち続けるサンライトシュートの前にさすがのシエラも攻撃する事が出来ずに、なんとか腕で光を目に入れないようにするのが精一杯だ。

 その光続ける輝きの中で昇は精神を集中させると、昇にだけしか見えない足元の暗闇に精神を沈める。そして暗闇の底に足を付けた昇は自分の胸に手を当てた。そして……それ以上は何もしなかった。

 確かにここから自分に力を流し込めばエーライカーを発動出来て、今のシエラにも充分に対抗できるだろう。けれども昇の目的はシエラを倒す事じゃない。目的が別にあるからこそ、昇はエーライカーを発動させる事無く。自分の胸に手を当てたまま意識を浮上させる。

 その頃には先程放ったサンライトシュートの光も弱まっており、シエラも昇の姿を捉えているようだ。そんなシエラが昇に攻撃するためにウイングクレイモアを振り上げる。それを見た昇はすぐに力を発動させるのだった。

「紫黒、バーションソニックッ!」

 二丁拳銃である紫黒が光に包まれると、紫黒を包んでいた光は一瞬で砕け散った。けれども紫黒の形は変わっており、まるで拳銃に翼をあしらったような造形が追加されていた。そんな紫黒をすぐに構えてシエラに照準を合わせる。そしてシエラが動く前に昇が引き金を引いた。

 どうやらシエラは自分のスピードなら一瞬で昇の前に行く事が可能なだけに多少油断していたようだ。まあ、今のシエラが出せるスピードなら昇の弾丸を避ける事なんて簡単だろう。バージョンソニックを出す前なら。

「ヘリオスシュートッ!」

 紫黒からそれぞれ一発ずつ、二発の弾丸が発射される。そして発射された弾丸は一瞬にしてシエラの元へ到達しようとしていた。

 これこそがバージョンソニックの力である。つまりバーションソニックとは弾丸のスピードを飛躍的に上げる事が出来るのだ。

 通常のエーライカーでもこれぐらいは出来るのだが、なにしろエーライカーはその副作用が強すぎて今の昇では到底操りきれる物ではない。それにエーライカーの威力は強すぎる。それだと昇の目的が達成できないために、昇はこんな手段に打って出たのだ。

 ちなみにエーライカーとバージョンソニックの違いは力の使い方だけだ。エーライカーは昇自身に力を流し込む事で限界を超えて全体の力を飛躍的にアップする技だが、バージョンソニックは力を流し込む場所を特定する事で、昇に掛かる負担を無くす事が出来る。

 例えるならエーライカーは身体全体に力を入れ続けるようなもので、バージョンソニックは力瘤を作り続けるのと同じだ。つまり力を使う場所を一箇所に集中させる事で昇は体に掛かる負担を無くす事に成功したのだ。

 けれどもバージョンソニックも万能ではない。スピードを上げた分だけに威力は落ちている。つまりスピードは上がったが破壊力は落ちているのである。けれども今のシエラに対抗するならバーションソニックを使うしかなかったのも確かな事だ。バージョンソニックのスピードでなければシエラを捉える事なんて出来ないからだ。

 それを証明するかのように昇の放った弾丸は一瞬でシエラに到達するが、シエラもスピードだけでなく反射速度も上がっている状態である。だから一瞬でシエラの元に到達したヘリオスシュートを避ける事は簡単なのだが、昇が放ったヘリオスシュートはシエラの横を通り過ぎると、小さく円を描いて再びシエラに向かっていくのだった。

 そう、昇の放ったヘリオスシュートは追尾弾である。だから一度放てば相手に当たるまでか、弾丸の力が消費し尽くされるまで相手を追い続けるのである。

 そんなヘリオスシュートをシエラは数回避けると、準備が整ったかのようにウイングクレイモアを振るうとヘリオスシュートを二つとも一気に叩き落したのである。シエラがヘリオスシュートを落とすまでは数秒だが、その数秒の間だけはシエラは昇を見てなかったのは確かだ。だから昇の姿を確認するためにシエラは地上に目を向けると、そこには昇の姿は無かった。

「フォースバスターッ!」

 突如として後ろから聞こえてきた声にシエラは振り向くと、そこには昇が放った弾丸が目の前まで迫ってきているのを確認した。どうやら昇はあの数秒の間にシエラの後ろに回り込んだようだ。そして砲撃とも言えるフォースバスターを放ったのだ。

 けれどもフォースバスターはシエラに当たった訳ではない。今のシエラは当たる前に確認できれば避ける事は可能だ。それがバージョンソニックで加速された砲撃であっても同じ事だ。

 シエラは急降下してフォースバスターを避けるとそのまま地上付近まで降下して、地上すれすれで九十度回転して昇に向かって一気に突き進む。そんなシエラに昇はもう一方の紫黒を向ける。

 紫黒は二丁拳銃である。だから先程の攻撃で一つがすぐに使えなくても、もう一つはすぐに使えるという訳だ。そしてシエラの反撃を予想していた昇は照準を正確に合わせる事無く、適当にシエラに向けて再びフォースバスターを放つ。

 どうやら昇は力を溜め込んでいたようで、先程よりも大きなフォースバスターが一瞬にしてシエラの目の前に迫る。さすがにこれだけの大きさならシエラも方向転換をしなくてはいけないと昇は読んだのだろう。

 けれどもシエラのスピードと反射速度は昇が思っているよりも上であり、シエラは身体を捻るとフォースバスターに背中を向ける形でギリギリの間だけを空けて避けながら一気に昇へと迫っていった。

 さすがにそんな避け方をしてくるとは思ってなかった昇はすぐにフォースバスターをキャンセルすると迫ってくるシエラに備えた。けれども昇がシエラを確認した時には、シエラは昇の目の前で空中に浮いており、ウイングクレイモアを振り上げていた。

 昇は咄嗟に紫黒を交差させて防御の姿勢を取る。これでウイングクレイモアが振り下ろされても何とか耐える事が出来るだろう。けれども今のシエラは昇の行動を見てから動きを変えても充分なほどのスピードを持っていた。

 弾き飛ばされる昇は何が起こったのかはすぐには分からなかった。ただ飛ばされていく中でシエラがウイングクレイモアを横に振り終わった姿を目にして、やっと状況が分かった。つまりシエラはウイングクレイモアを振り下ろすのではなく、咄嗟にその場で一回転しながらウイングクレイモアを振り下ろして行き、羽が生えている横の部分で昇を叩き飛ばしたのだ。

 けれどもシエラの攻撃はそれで終わらなかった。シエラは六枚を翼を一気に羽ばたかせると、その場から急発進する。そして未だに弾き飛ばされている昇に追い付くと、そのまま昇の前にウイングクレイモアを突き出して、六枚の翼を大きく広げた。

「フルフェザーショット」

 六枚の翼から羽が弾丸となって一気に昇に降り注ぐ。まさかこんな追撃までやってくると思ってなかった昇は咄嗟に体を丸める事しか出来ずに、シエラの攻撃をそのまま直撃してしまった。さすがにセラフィスモードのフルフェザーショットである。その破壊力は凄まじく、昇は土煙が上がる中に叩き込まれ。シエラは逸早く、その場から脱出すると昇から距離を置いたところで地面から軽く浮いた状態で止まる。

 さすがはシエラといったところだろう。これだけの攻撃を数秒の間にやってのけたのだから、シエラが出しているスピードはかなりの物だ。昇はその事を実感しながも今のシエラにどう対抗したら良いのか、傷ついた身体を無理矢理起こしながら、土煙の中で考えていた。

 さすがにシエラだな。やっぱりスピード勝負だと敵わないか。でも……あのシエラのスピードは今までに無いほどまでに早い。シエラはいったい……何をやってるんだろう。精霊の知識が乏しい昇がまさかシエラが自分の生命力を戦闘能力に上乗せしている事になんて気付きもしなかった。

 まあ昇は人間だからしかたないだろう。それにこの手の説明は必ずシエラか閃華がやってくれていたので、昇は自分から精霊に付いて調べるという事はしなかったのが仇になったようだ。けれども今のシエラが異常なのは昇にも分かっていた。それは戦闘能力が飛躍的に上がっていることだけじゃない。シエラの瞳を見れば昇にはすぐに分かる事だ。

 だからこそ昇はシエラと戦う事を選んだのだ。選んだのは良いが、まさかシエラがここまで本気で更にスピードを上げてくるとは思っていなかった昇は、それでも何とかしようと頭をフル回転させるしかなかった。

 とにかくシエラに攻撃を当てないと意味が無い……やるしかないかな。なにしろあのスピードだから……しかたないか。というか、僕にはもうちゅうちょしている時間は無いんだ。なにしろシエラに届けないといけない言葉があるんだから、それを伝えるためなら……どんな事でもやらないといけないんだっ!

 覚悟を決めた昇は土煙が晴れると真っ直ぐにシエラを見詰める。シエラは相変わらず無表情で、その瞳には生気が無く深い悲しみを秘めており、涙を流し続けている。そんなシエラは大地に足を付ける事無く、翼を軽く羽ばたかせて空中に浮いている。だから昇がどんな攻撃をしかけてもすぐに反撃できる事は昇にもすぐに分かった。

 だからこそ昇は別の手段に打って出るのだった。

「紫黒、バージョンブレイク」

 呟くように昇がその言葉を口にすると再び紫黒は光に包まれて形状を変える。今度は明らかに銃口が広くなっており、重さを感じさせるような形状へと変化していた。どうやらこれがスピードでは敵わないと思った昇が考え出した手段なのだろう。

 そんな紫黒を握り締めながら昇はシエラに向かって話しかける。けれども昇の声が小さいのか、それともすでにシエラには言葉は届かないのか。どちらにしても、それは昇の独り言に終わるのだが、昇はその言葉を言わずにはいられなかった。

「シエラ……シエラはずっと僕に必要とされる事に意味を求めてたけど。そんな必要は無いんだよ。シエラは僕達の仲間で、僕にとっては……」

 昇はあえてそれ以上の言葉は言わなかった。それから先の言葉はシエラにしっかりと伝えないといけない言葉だからだ。だからこそ昇は今のシエラをしっかりと見詰める。そしてしっかりと心に刻んだ。

 もう二度と……シエラに一線を引かせるような事はしない。ううん、それは僕にだけじゃない。琴未にもミリアにも閃華にも、誰にもシエラが一線を引くような真似はさせない。シエラが妖魔なんて関係無い。僕にとってシエラはシエラだから。今度こそシエラの心に決着を付けて全部終わらせてやるっ! 絶対にっ!

 そんな気持ちをしっかりと心に刻んだ昇は先程とはまるで別人のような真剣な眼差しでシエラをしっかりと見詰めると紫黒をシエラに向ける。それと同時にシエラは一気に上昇する。どうやら昇が攻撃してくると思ったのだろう。けれども昇は攻撃する事無く、威嚇だけに留めた。

 それはこの形状をしている紫黒ではシエラのスピードに対抗しきれないからだ。だからこそ昇は確実に攻撃を決めるためのタイミングを計る。それこそがシエラを取り戻す、ただ唯一の方法だと信じて。

 だから今度こそは自分の気持ちをはっきりと告げて、シエラの手を離さない為に……今はシエラをしっかりと見据えて戦う昇であった。







 さぁ~て、いよいよ始まりましたね。これが私が今まで隠してきた白キ翼編のメインバトル。そう、昇対シエラの戦いですっ!!!

 ……まあ、この二人を戦わせようとは考えていたんですけど、戦いの内容は相変わらずその場任せですね~。そのため、今回は文章の密度が少しだけ少なくなりました。

 ……いや、本当だよ。だって、文字数を計ってみたらいつもより千字以上少なかったもん。だから文章の密度が少なくなって、ページ数も減った……と思うよ。まあ、それだけお楽しみは次のお話で~、という事になりますかね。

 ……まあ、次の戦闘内容なんて未だに考えてないんだけどね……てへっ。

 ………………誰か巫女服を着た美少女をここに連れて来て下さいっ!!! はい、そこの方、いきなり何を言い出すんだって引かないように。……いやね、巫女属性を有している者として、最近は巫女成分が足りないと感じてるんですよ。だからっ!!! 是非とも私の元に美少女巫女をっ!!!

 はい、ごめんなさい。つい耐え切れずにやってしまいました。でも、反省なんてしないもん、だって巫女さんが近くに居て欲しいの本心だもん、それが巫女属性を有している者の宿命なんだもん。……まあ、三回ほど拗ねてみたので少しは気が晴れましたが……やっぱり美少女の巫女さんが見たい(もう末期症状ですね)

 まあ、そんな事は置いておいて、本編に……触れませんっ!!! いや、だって、今回は次回のバトルに繋げる話だもん。だから特に触れるところは無いかな~とか思っただけですけどね。

 さてさて、そろそろ戯言のネタが尽きてきたので締めますね。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、ご職業はと聞かれたら、はっきりと『世捨て人』と答える葵夢幻でした。

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