表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/166

第百十一話 曖昧倒立

 心が暴走して自分の命すらも戦闘力に代えたシエラの猛攻がアレッタとシェルに襲い掛かる。さすがにそんなシエラの攻撃に一対一の状況では太刀打ちできないとアレッタはシェルと何とか合流するとシェルはアレッタに向かって文句を言い始めた。

「ちょっと、あんなの相手にどうしろって言うのよ」

 さすがにシエラが自分の命を削ってまでの攻撃である。さすがのシェルも避けるだけが精一杯で、とても反撃なんて出来る余裕は無かった。それはアレッタも同じであり、この二人を相手にそこまでやってるのだから、今のシエラは相当スピードに特化した戦闘を見せているのは確かなようだ。

 そしてアレッタは文句を言って来たシェルに向かって今の状況を打破する打開策があると話し始める。

「こうなったら心理戦に持って行くしかないわね」

「心理戦って、あいつどう見てもこっちの言葉なんて聞きそうが無いわよ」

 シェルはシエラを指差しながらそんな事を言ってきたが、アレッタにはしっかりと分っていた。シエラの心は暴走していてもその頭は冷静に状況を分析して戦闘に反映させていると。だからアレッタが何かしらの言葉でシエラの冷静さすらも失わせるほど心を乱す事が出来れば反撃の機会も生まれる。アレッタはそうシェルに説明するが、シェルは本当にそんな事が出来るのかと半信半疑のようだ。

 けれどもアレッタとシェルがシエラを前にして、ここまで追い詰められているのは確かな事であり、こうなったらアレッタの作戦を信じるしかないとシェルも覚悟を決めるしかなかった。そんなシェルに向かってアレッタはとんでもない役目を与える。

「それじゃあ、あなたはなるべくシエラと戦闘して。反撃をする必要は無いわ。要はシエラの攻撃に耐え続ければ良いだけよ」

「それって凄く大変な事なんじゃ」

「妖魔如きに遅れを取りたい訳?」

 そんなアレッタの問い掛けがシェルの心に火を付けたのだろう。シェルはガーレジャンビーヤを構えるとやってやろうじゃないという気構えでシエラに立ち向かおうとする。そんなシェルを見てアレッタは密かに笑みを浮かべるのだった。

 これで私の目的が果たせる? まあ、こんな奴はどうなっても良いんだけどね。それにしても……シエラ。ここまで暴走するなんて、そんなに今の生活が気に行っているわけ。そんなにも今の契約者が大事なわけ。そんな事を心の中で思ったアレッタは自然と怒りが沸きあがってくるのを感じていた。

 それはやはりアレッタはシエラに対する特別な感情であり、シエラが今の生活に執着しているのがアレッタには許せない事だった。だからこそアレッタはシエラを尚更許す事が出来ずに、自分の目的を果たすために動き始める。

「それじゃあ、行くわよ」

「もう、どうにでもなれっていうのよ」

 アレッタの掛け声に自暴自棄のような答えを返してきたシェルはシエラに向かって一気に飛び出す。出来る限り自分の足に縮地の属性を流し込んでのスタートである。シェルの動きは常人から見れば、その場から消えたと思わせるほど早いものだった。けれども今のシエラは戦闘能力だけでなく、反射能力も飛躍的に上がっている。だから突っ込んでくるシェルの姿をしっかりと捉えていた。

 間合いはシエラのウイングクレイモアの方がはるかに上である。だから最初に攻撃を仕掛けたのはシエラの方だ。セラフィスモードでシエラの攻撃スピードもはるかに上がっている。だからシェルが懐に入る前にシエラは三回ほどウイングクレイモアを振り回した。

 そんなシエラの連激にシェルはもう慣れたのだろう。反撃する事を諦めて避ける事に専念する。さすがに俊足の精霊である。地上での動きはかなり早いもので、シエラのセラフィスモードでもなかなかシェルに攻撃を入れる事が出来なかった。それほどまでにシエラの攻撃とシェルの避けるスピードが早いのだ。

 そんな二人の攻防も秒数にすれば一秒も経っていないだろう。それほどまでのハイスピード戦を行い続けるシェルとシエラ。相変わらずシエラはここぞとばかりに攻勢に出ると、シェルは先程アレッタに言われたとおりに避け続けて、今はシエラの攻撃に耐えるのだった。

 そんな二人のハイスピード戦が行われているのを後ろから眺めるアレッタ。それはアレッタは翼の精霊であるから、地上ではシェルのフォローや今のシエラに対抗するどころか言葉を掛ける事も不可能だからだ。だからこそアレッタも非常識な行動に出る。

「発動 ジェンスモード」

 アレッタの背中にある翼が白く輝くとの同時にアレッタの身体からも異常なほどの力が湧き出る。このままでは何も出来ないと踏んだアレッタはシエラと同じ手段を取ったのだ。それはつまり……命を削っての戦闘力アップ。

 そんな事をすればアレッタも同様に全てのエネルギーを使い切ってしまえば消えるだけである。それを覚悟しながらもアレッタはこの手段を選んだのだ。そう、全てはアレッタが自分の願いを叶えるため。例え叶わなくてもこの手段なら目的を果たす事が出来る。アレッタはそう考えたからこそ、こんな非常識な手段に出たのだ。

 けれども効果は抜群である。一気に翼を羽ばたかせて、先程までは比べ物にならないスピードで一気に飛び出したアレッタは一瞬でシエラとシェルの攻防戦に参加する。シェルをフォローするように攻撃を加えるアレッタ。そんなアレッタの攻撃にシエラは驚きを隠せなかった。なにしろアレッタの攻撃は先程までとは打って違い、そのスピードもパワーもはるかに増していたからだ。

 そんなアレッタの攻撃を捌きながら、シェルに反撃の隙を与えないシエラ。けどシエラもそれだけで精一杯になり、とてもではないがアレッタやシェルに反撃をする事が出来なかった。そんなシエラに休む事無く攻撃を続けるアレッタは、スカイダンスツヴァイハンダーを振るいながらもシエラに話しかける。

「シエラがそこまでするなんてね。どうやら今までの生活が相当気に入ってたみたいね」

「…………」

 そんなアレッタの言葉にシエラは返事を返さない。なにしろアレッタが戦闘能力を上げて参戦した事だけでも厄介だというのに、シエラはそんなアレッタとシェルを同時に相手にしているのだから返事などが出来るはずが無かった。もし下手に返事をしてしまえば隙を与えるだけだという事はシエラが一番良く分かっている。だからシエラはアレッタの言葉を聞き流しながら、ハイスピードでの攻防を繰り返す。

 そしてアレッタもシエラに返事をする余裕が無いと察すると笑みを浮かべて、更にシエラを追い込むような発言をする。

「シエラ、いい加減に気付きなさいよね。今のシエラは一人で戦ってる。それはつまり今の契約者に捨てられたのと同じじゃない。いや、その前にシエラが逃げ出したんだから、シエラが今の契約者を捨てたのと同じでしょ。それなのに今更私達と戦って何の意味があるって言うの」

「…………」

 アレッタの言葉にやっぱり返事を返さないシエラ。けれども先程の言葉はシエラの心を揺さぶったのは確かなようだ。それは刹那の瞬間だがシェルはシエラの動きが急に鈍くなった事を感じると、ガーレジャンビーヤを一気に突き出す。

 そんなシェルの攻撃に一瞬だけ反応が遅れたシエラだが、持ち前のスピードで何とか避けるがさすがに避けきる事は出来なかったのだろう。シエラの頬に赤い筋を現れると、そこから細くて赤い雫が流れる。

 どうやらシェルのガーレジャンビーヤはシエラの頬をかすめただけらしい。けれどもシエラに一瞬だけ動揺が生まれたのは確かである。だからアレッタは自分の作戦が有効だという事を再確認した。

 それは先程のシエラが一瞬だけ動きが鈍った事を見ればすぐに分かった。だからこそアレッタは更にシエラの心を掻き乱すような言葉をスカイダンスツヴァイハンダーと共にシエラに向けて繰り出すのだった。

「つまり今のシエラは用無しって事よ。自分から逃げ出した道具はすでに使い道が無い。正に無用の長物ね。それが今のシエラなのよ。それなのに今更契約者の為に戦って何になるって言うの。いや……違うわね。シエラ、気付いているでしょ。今、私達と戦っているのは契約者のためじゃない。自分の為だってね」

「…………違う」

 ようやく短い返事を返してきたシエラ。どうやら先程の言葉は相当シエラは否定したかったのだろう。

 だがその短い否定がシエラに隙を与える事になる。例え一瞬でも他の事に気を取られて、その事を否定してきたシエラに隙が生まれないはずがない。それどころかハイスピードで戦いを繰り広げている三人だ。シエラの隙が一瞬だとしてもアレッタとシェルにしてみれば反撃をするには充分な時間が出来る。それが刹那の瞬間だったとしても、今のアレッタとシェルにはそれだけの時間があれば充分に反撃が出来た。

 同時にアレッタのスカイダンスツヴァイハンダーとシェルのガーレジャンビーヤがシエラを目掛けて突き出してきた。どうやら二人と確実に攻撃が入れられる刺突を選んで攻撃をしてきたようだ。

 そんな二人の攻撃にシエラは身体を無理な方向に無理矢理、捻るように身体を回転させると何とか二人の同時攻撃を避けて見せた。けれどもそんなシエラの避け方にはかなり無理があるのはアレッタの目にはすぐに分かった。

 だからこそアレッタはすぐにスカイダンスツヴァイハンダーを持ち直すと二激目を入れに掛かる。さすがのシエラも自分が無理な避け方をした事は理解している。だからこそ一旦二人から距離を置こうとすぐにその場から前方に向かって飛び出すが、そんなシエラの背中にアレッタの一撃が入る事になってしまった。

 シエラの髪に沿って縦一線に降られたスカイダンスツヴァイハンダーは確実にシエラの背中を切り裂き、その証拠としてシエラの真っ白な髪に赤い染みが広がる。けれどもシエラもやられっぱなしでは無かった。

 このまま逃げては一気に防戦にもって行かれるだろうと一瞬で判断したシエラは、またしても身体を無理矢理捻って、すぐに振り向くと眼前に迫っていたアレッタに向かってウイングクレイモアを振るう。

 さすがにシエラがそこまでして反撃に出てくるとは思っていなかったアレッタは、そんなシエラの反撃に驚きながらも身体を逸らせてシエラの攻撃を避けたと思ったが、その直後にアレッタの胸から腹に掛けて精霊武具が切り裂かれると、鮮血が舞い散る。さすがにリーチの長いウイングクレイモアだけあって、これだけの距離なら確実にアレッタに攻撃を入れる事が出来たようだ。

 けれどもシエラはそれだけで安心はしていなかった。なにしろシエラの相手は二人である。そう、もう一人のシェルが攻撃直後のシエラを狙って一気に間合いを詰めてきたのである。さすがに攻撃をした直後でシエラの動きもかなり鈍る。だからシェルは一気に懐に入って決めようとするのだが、ここでもシエラは予想外な行動に出てきた。

 なにしろシエラはその場で六枚もあるウイングクレイモアの翼をフル機動させて、シェルを目掛けて飛び出していったのである。そんな事をすればシェルのガーレジャンビーヤに突き刺されるのは目に見えている。

 だがシェルとしてはシエラがそんな行動を取ってくる事が予想外であり、迫ってくるシエラになんとかガーレジャンビーヤを振るおうとするが、その前にシエラの体当たりを喰らって、シェルはそのまま吹き飛ばされてしまった。

 そんな攻防を数秒の間に繰り広げたシエラとアレッタ達。その行動はとてもじゃないが目で追える物ではない。スローモーションにでもしない限りは何が起こったのかは、常人の目では分からないほどハイスピードでそれだけの攻防が行われたのだ。

 そして二人に一撃を入れた事で少しだけ安心するシエラ。これで体勢を立て直すだけの時間を稼いだのは確かである。だがシエラが完全に体勢を立て直す前にシエラは後ろからの殺気を感じるのと同時にすぐに横に身体を移動させてウイングクレイモアを盾にして攻撃に備える。

 そして鳴り響く剣戟音。どうやら何かがウイングクレイモアに当たった事は確かなようだが、シエラがそれを確認するためにウイングクレイモアを動かした時にはスカイダンスツヴァイハンダーを振り上げたアレッタの姿が瞳に写った。

 そのため、再びアレッタとの攻防に移るシエラ。さすがに体勢を立て直すだけの時間を少しだけ稼いだおかげでアレッタと打ち合うことが出来た。そんな打ち合いが行われている中で、未だにシェルが先程の体当たりでやっと立ち直り始めた事を確認したシエラ。今度はシエラの方からアレッタに向けて話しかけてきたのだ。もちろんお互いに武器を振るいながら。

「アレッタ……昔と凄い変わった。まるで別人みたい」

「その原因を作ったのはシエラ、あなたでしょ」

「確かにその通り、私が……アレッタを騙していたから。でも……ここまでされる」

「理由ならあるわよっ!」

 シエラの言葉を遮ってアレッタが叫ぶ。どうやらアレッタには相当シエラが許せない理由があるらしい。だからこそアレッタはここまでやっているのだろう。それが何なのかシエラにはまったく検討が付かない。

 だからこそ生気の無い瞳に少しだけ悲しさを写しながらアレッタを見ながら己の武器を振るう。そんなシエラの瞳にアレッタも気付いたようだ。いや、アレッタだからこそ気付けたのだ。そんな二人が武器をお互いに振るいながら、今度はアレッタから口を開いてきた。

「でもねシエラ、実は私は昔から何も変わっていないのよ。私はただ怒っているだけ、今のシエラを見て許せないだけ。その意味が分かる。分かるわけ無いわよね。だってシエラは昔っから私の事は見ていないんだからっ!」

 そんな言葉と共に渾身の一撃を振るってくるアレッタ。そんなアレッタの攻撃をシエラはウイングクレイモアで受け流しながら反撃するが、そんなシエラの攻撃もアレッタに受け流されてしまった。

 そんな目にも見えない攻防を繰り返しながらも、二人の会話は続く。

「だからシエラには私の心は分からないでしょ。でもねシエラ、私にはシエラの心が分るのよね。だって、私はずっとシエラの事を見てきたもの。だからシエラが今は何の為に戦っているのかも分かってるのよ」

「……なら、なんで私との戦いを続けるの?」

「決まってるでしょ。私は私の目的を果たすためにシエラと戦ってるのよ。その目的が何なのかはシエラには分からないでしょ。自ら消えようと願っているシエラならより一層分からないでしょねっ!」

「ッ!」

 さすがのシエラもアレッタの攻防戦が続いている中で驚きを隠せないという表情を露にした。まさかアレッタがそこまでシエラの心を見抜いているとはシエラ自身も思っていなかった事だし、シエラも自分が消える為に戦っているのだと、アレッタの言葉でやっと気が付いたのだから。

 確かに今の状況では自分の生命力を戦闘力に変えない限りは、この二人とまともに戦う事は出来ないだろう。だが、それは勝つ事を前提とした戦い方であり、シエラは決して逃げようとか時間稼ぎの戦い方を選ばなかった。

 もしシエラが今でも昇の事を心の底から信じていたなら、この精界を感じ取って助けに来てくれるだろう。そう考えてシエラは時間稼ぎの戦い方や、あえて逃げ回る戦い方を選んだだろう。けどシエラは心のどこかでそんな事は無いと思い込んでいた。だからこそ自分の命を削る戦い方を選んだのだ。

 もし、この戦いでシエラが消える事になっても、昇が悲しんでくれる確証は無い。それどころか妖魔である自分が消えた事で清々するかもしれない。そんな考えがシエラの頭にあるからこそ自分が消えるような戦い方を選んだのだ。

 そんな酷い現実を見せ付けられるぐらいなら、この戦いで消えてしまった方が何倍もマシで楽な死に方が出来るとシエラは知らず知らずの内に心の中でそんな風に決めたのかもしれない。だからこそ、こんな戦い方をしていたのだ。

 アレッタはそんなシエラすら気付かなかった心情を悟ったのだ。シエラにしてみれば、アレッタがここまで自分の事を理解しているとは思ってもみなかった事で、だからこそ驚きを隠せなかったのだ。

 そしてその驚きは一瞬の隙となってシエラの動きを止める事になる。もちろんアレッタがそんな隙を見逃すはずも無く、反撃とばかりにスカイダンスツヴァイハンダーを縦に振るって、シエラの右肩から胸に掛けて一撃を入れる。

 その事に未だに驚きの表情をしているシエラ。アレッタに自分ですら気付かなかった心情すらも言い当てた事ですらも驚きだというのに、更にアレッタから追撃でシエラは完全に動揺してしまった。

 そのため、スローモーションのように飛び散る自分の血飛沫ですら、シエラは驚きの眼差しで見ていた。そんなシエラに追い討ちを掛けるかのように、すっかり復活したシェルがシエラの後ろから一気に迫ってシエラの背中にガーレジャンビーヤを突き立てる。

 心が動揺しているのか、それとも最早痛みすら感じないのか。シエラは驚きの眼差しで虚空を見詰めながら、防衛本能だけでウイングクレイモアを持ち直すと、後ろにいるシェルに突き立てるようにウイングクレイモアを突き出す。

 けれどもそんなシエラの反撃にはすでに敏捷さは無かった。だからシェルも余裕でシエラの反撃を簡単に避けて、念の為とシェルはシエラから距離を取って様子を見守る事にした。確かにアレッタに続いてシエラに致命傷となりうる攻撃を入れたのは確かだ。これでシエラを倒したとシェルは完全に思っただろう。そしてそれはアレッタも同じだった。

 そんな攻撃を受けたシエラは立っている事が出来ないのか、その場で両膝を付く。さすがに生命力を戦闘力に変えているためか、この程度では致命傷にはならないのだろう。それどころか、更に戦闘を続かせようと、戦闘力に流し込んだ力が勝手にシエラの身体を治療する。

 それでも致命傷的な傷を受けたのだ。そんなシエラがもう戦えるはずが無く、両膝を付いているシエラにアレッタは静かに向かって行き、片膝を付いてシエラに向かって話しかけてきた。

「これで分かったでしょシエラ。あなたは本当は私達に倒される事を願っていたのよ。だって、そうすれば辛い現実を確かめる事無く契約が解消されるからね。だからこんな無茶な戦い方をして私達に倒されるのを待ってた。良かったねシエラ、自分の願いが叶って」

「……違う」

 アレッタにそう言われてシエラは否定するが、その言葉には力が入ってなく。まるで辛い現実を突き付けられて、それでも信じようとしない者が発する言葉のようにシエラの言葉には力も説得力も持っていなかった。

 そんなシエラにシェルが楽しそうに笑いながら話しかける。

「所詮妖魔なんてこの程度なのよね。微かな可能性にすがって、それが勘違いだと気付かないままに無茶な戦いをして、そして負けてるんだから惨め以外の何ものでも無いわね」

 そんな事を言って笑い出すシェルをアレッタは思いっきり睨み付けた。そんなアレッタの視線を感じてシェルは驚いた表情で黙る。なにしろシェルとしてはアレッタも妖魔を嫌ってるからこそシエラをここまで叩き潰したのだ。それなのに追い討ちを掛けるかのようなシェルの言葉にアレッタがこんな反応を示すのが意外であり、そんなアレッタをシェルには理解できなかった。

 そしてシェルが黙り込んだ事を確認したアレッタは更にシエラに向かって話を続ける。

「シエラ、私が言った事は違ってはいないわよ。シエラは妖魔である事が契約者に知られて、そしてまた妖魔として差別される事を恐れて逃げ出してきた。そんなシエラが行くところなんて何処にも無いじゃない。だから私達が現れたのを幸いに無謀な戦いをして自ら消えようとした。その方が楽だもんね」

「……違う……私は」

 アレッタの言葉を聞いて更に言い返そうとするシエラだが、何を言い返して良いのか分からなくなってきた。なにしろアレッタの言った事は確かにシエラが自分でも分からない内に心のどこかで願っていた事は確実であり、シエラは昇に真意を確かめる前に消えてしまいたいと認識させられた時点でアレッタの術中にはまってしまったのだ。

 だから言い返すことが出来ない。けれどもシエラは心の中で自らの本心。それはもう一つの心と言えるべきものだろう。そんなか弱い心の中で必死にアレッタの言葉に反論しようと心の中で叫んでいた。

 違うっ! 確かに私は昇の前から逃げ出してきたけど……それは……私に勇気が無かっただけ。昇に私が妖魔であっても受け入れてもらえるか確かめるだけの勇気が無かっただけ、だから……自分から消えようなんて思ってないっ! そう、思ってない。思ってない、思ってない……はずなのに。

 いつの間にかシエラは自分が涙を流している事に気が付いた。それはアレッタの言った事を完全に否定できないと認識してしまったためだ。そんなシエラが更に心に思う。

 そんな事を……思ってないはずなのに。なのに、私は……アレッタの言った事に反論ができない。じゃあ……やっぱりアレッタが言った通りなの、私は……昇に確かめる勇気が無いから楽な道を取ろうとしただけなの。……ふふっ、ふふふっ、なんか笑えてくる。自分が凄く惨めで、凄くずるくて、凄く……卑怯で。

 シエラの本心は昇の心を確かめる事にあったのは間違いが無い。以前に昇が言った言葉。その言葉があったからこそシエラは昇を契約者として選んだのだ。その言葉が無ければシエラは昇と契約をする事は無かっただろう。

 けどシエラはそんな昇の前から逃げ出してしまった。更にはアレッタ達に見つかった事で全てを諦めて自らの死を願った。だからこそ自分の命を顧みない戦い方をしたのだ。シエラとしてはそんな気はまったく無かったのだが、アレッタに指摘されると反論が出来なかった。その事実が更にシエラを追い詰めたのだ。

「これで分かったでしょシエラ。今のあなたは誰からも必要とされてない。すでに捨てられた存在なのよ。誰にとってもあなたの存在は邪魔でしかないんだから。……でもね、シエラ。そんなシエラを一つだけ救う方法があるのよ」

 思いもがけないアレッタの言葉にシエラはゆっくりと顔を上げてアレッタを見詰めた。そのアレッタの表情は先程までは打って変わって、昔にシエラに向けていた笑みそのものだった。そんなアレッタを見てシエラはアレッタに救いを求めるように手を伸ばした。

 そんなシエラの手を取らずにアレッタは立ち上がるとスカイダンスツヴァイハンダーをシエラに向けてくる。その事に驚きを隠せないシエラはアレッタの顔を見るが、アレッタは先程と同様に昔のアレッタと同じ表情をしていた。

 そんなアレッタが昔に戻ったみたいに笑みを浮かべながらシエラに話しかけてきた。

「シエラ、もう疲れたでしょ。だから今……楽にしてあげるわよ。まずは一旦契約を強制解除させてもらうわ。後は私に任せれば良いだけよ。そうすればシエラはもう二度と妖魔でる事に悩まされる事は無いわ」

 そう……なの? アレッタの言葉に疑問を感じならもシエラはアレッタを信じたいとも思い始めた。それはアレッタが昔に、シエラがアレッタの前から逃げ出す前と同様の笑みを浮かべてシエラに話しかけてきたからだ。

 そんなアレッタを見てシエラも昔に戻ったような気になる。なにしろ今のアレッタには先程までの怒りはどこにも存在していなかった。むしろ逆にシエラの事を気に掛けているような。おせっかい過ぎるほどの笑みを浮かべていたからだ。

 そんなアレッタが昔の笑みを浮かべたままスカイダンスツヴァイハンダーを振り上げる。その事にシエラは不安げな表情を見せるが、アレッタはそんなシエラの心を読み取ったのだろう。今までに無いぐらい優しい声でシエラに話し掛けてきた。

「大丈夫よシエラ。痛いのも辛いのも一瞬だけ、すぐに楽になるから。だから今は私にやられて契約を強制的に解除させるのよ。そうすれば私の願いも叶う。シエラも安息を手に入れられる。もう妖魔だからと、皆と違うからと言って差別される事は無いわ」

 ……皆と差別される事が無い? アレッタの言葉にシエラは疑問を感じた。それはどこかで聞いた言葉だったからだ。その言葉が誰が発した物で、誰が言った物かはすぐにシエラには分かった。その言葉こそが昇が言った言葉だったからこそ、シエラは昇を契約者に選んだのだから。

 そんなシエラの脳裏にその時の事が一気に頭を過ぎる。

 それはまだシエラが昇達を見つけた時の事だった。昇と琴未は一匹の餓死した野良犬を発見した。その犬はとても不細工で犬とは思えないような、まるで人面犬に近いような顔をしていた。だからだろう、誰もその犬を救おうとはしなかったし、餌を与えようともしなかった。だからこそ、その野良犬は餓死したのだ。

 そんな野良犬を発見した昇は琴未に向けてこんな言葉を放った。『犬は犬なのに変わりないのに、それなのに少し違うからと言って差別されるのはおかしいよ。同じ犬なのに少し皆と違うからと言って差別されるのはおかしいと思わない、ねえ琴未』昇は餓死した犬を見て、そんな言葉を琴未に投げ掛けたのだ。

 その時の事を思い出したシエラは思わず軽く笑ってしまった。なにしろシエラはその現場を見ている。だから昇にそんな問い掛けを投げ掛けられて困っている琴未の顔を思い出してしまったからだ。

 それからシエラは昇に興味を持ち、昇の事を詳しく知るために四六時中も昇の傍を離れる事は無かった。それは昇なら妖魔である自分を受け入れてくれるからとシエラは思ったからだ。だからシエラは昇を契約者として選んだのだ。

 けど結局は自分が妖魔だという特殊な存在だという事を昇に言う事が出来なかった。言うだけの勇気が無かった。その勇気が無かったからこそずるずるとここまで来てしまい。最後には昇からも逃げ出してしまったのだ。

 そんな自分が今更アレッタに救いを求めてよいのか、今更救われて良いのかとシエラは疑問を持ち始めた。それだけ今のシエラは自分が惨めでしかたなかったのだろう。だからこそ、そんな自分が救われる権利を持っているかに疑問を憶えたのだ。

 けれどもアレッタはそんなシエラに更なる救済の言葉を掛けてきた。

「だからシエラ、もう何も心配する事は無いわよ。もう戦う必要なんて無い、全てを私に任せてくれればシエラが欲しがってた安息を上げる。だからシエラ、目を閉じて、そして全てを私に任せて体の力を抜いて」

 そんなアレッタの言葉を聞いてシエラは言われたとおりにゆっくりと目を閉じる。そんなシエラは思う。このまま……アレッタに全てを任せれば……私は救われる? いいっか、私を助けてくれるなら誰だって、そう誰だって……誰だって。そんな事を思っているうちにまぶたの裏には一人の人物が浮かび上がってくる。それが昇だ。

 昇っ!

 アレッタのスカイダンスツヴァイハンダーが今まさにシエラの身体を切り裂き、トドメを刺さそうと契約を強制解除させようと振るわれたのだ。けれどもスカイダンスツヴァイハンダーはシエラの身体を切り裂くどころかウイングクレイモアに弾かれて、アレッタは体勢を崩して後ろに倒れこむ。

 一方のシエラは先程までの戦闘をしていた目付きに戻っており、ウイングクレイモアを片手に荒い息をしていた。どうやらダメージは完全に癒えてはいないようだが、シエラに再び戦う意思が戻った事は確かなようだ。

 そんなシエラにアレッタは叫ぶように話しかけた。

「何をやってるのシエラっ! このまま契約を解除すれば楽になれるのよ。それなのに、ここまで来て抵抗するってどういう事なのよ。なんで私に全てを任せてくれないのっ!」

 そんなアレッタの言葉にシエラは顔を伏せると呟くような声で答えるのだった。

「それは……私も分からない。けど、一つだけ分かった。ここでアレッタから安息を貰っても何も解決しないって。それはまた逃げるのと同じだって。私は……もう……逃げるのは嫌っ!」

 はっきりとそう宣言したシエラの瞳には涙が流れていた。そんなシエラを見てアレッタも困惑していた。そう、二人ともお互いにお互いの意思が分からないのだ。シエラに限ってはシエラ自身も自分の心が分っていない状態だ。それでもアレッタに歯向かったという事はここで契約を解除される事をシエラは本能的に拒絶した事は確かだ。

 そんなシエラの言葉を聞いて、そんなシエラを見て、アレッタは再び怒ったような表情に戻るとシエラを睨み付ける。そして立ち上がるとシエラにスカイダンスツヴァイハンダーを向けるのだった。

「どうやら完全に決着を付けないと無駄みたいね。残念だけど、シエラには苦しみながら契約を解除させてもらうわよ」

 はっきりとそう宣言するアレッタ。そんなアレッタの瞳をシエラはしっかりと見つめて言い返してきた。

「アレッタには悪いけど、そういう訳には行かない。確かにアレッタの言葉を聞いてアレッタの言うとおりにしても良いと思った。でも……出来なかった。今の私にはそれだけの物を持ってる。知らない間にそれだけの物を貰ってた。だからっ! ここで契約を解除されるわけにはいかない。私には……まだやりたい事があるかもしれないから」

「そんな曖昧な事で余計に苦しむという訳。シエラ、もう一度考え直してみなさいよね。ここで私に全てを任せた方が楽になれるんだよ。もうシエラが苦しむ事は無いんだよ。それを捨ててまで、まだ抵抗するって言うの?」

 そんなアレッタの問い掛けにシエラは申し訳無さそうに顔を伏せるとはっきりと宣言した。

「そう、私はそんな曖昧な心のままにアレッタに抵抗する。私の心がはっきりとここで契約解除を受け入れる事が出来ない限りは、消えるまでアレッタに抵抗する」

「シエラっ!」

 シエラの言葉にもう黙っている事が出来なかったアレッタが抗議の声を上げるが、そんなアレッタの声を聞いてシエラはゆっくりと顔を上げるとアレッタの瞳をしっかりと見つめる。今度は生気の宿った、まるで固い意志を写しているような瞳でアレッタを見詰める。

 そんな瞳で見詰められたアレッタは思いっきり奥歯を噛み締めた。まさかあそこからシエラが復活して、まだ抵抗してくるとはアレッタにとっては思ってもいなかった事だ。戦いの決着はすでに付いているというにシエラは抵抗するのを止めないのを見てアレッタは歯痒くもあり、心の底から怒りを感じていた。

 そんなアレッタの横からシェルが出てくるとアレッタに向けて話し掛けてきた。

「何が目的でこんな妖魔如きに情けを掛けたのかは知らないけどさ。私としてはさっさとケリを付けて欲しいんですけど。いつまでもあなた達に構ってはいられないのよね。だからさっさとケリを付けちゃいましょうよ」

 そんな事を言って来たシェルを睨み付けるシェル。でもシェルもすでにアレッタがシエラに対して特別な思いを持っている事を見抜いている。だからそんなアレッタに睨みつけられてもシェルは動じる事無く、鋭い視線を返すだけだった。

 そんなシェルがアレッタに向けて更に話を続ける。

「まあ、約束だからそこの妖魔を倒すまでは手伝ってあげるわよ。その後は好きにすればいいわ。どっちにしても、そろそろケリを付けてさっさと帰りたいのよね。だから、ここは一気に行かせて貰うわよ」

 そう言って臨戦態勢に入るシェル。そんなシェルにアレッタは何かを言いたげだが、所詮はシェルは契約者の命令でアレッタに協力しているに過ぎない。そんなシェルだからこそ、今は何を言っても無駄だろうとアレッタはシェルに何も言わずにスカイダンスツヴァイハンダーを構えるのだった。

 そんな二人を見てシエラはどうしようかと冷静に頭を動かしていた。確かに今のシエラは生命力を戦闘力に変える事で戦闘能力を上げている。だがそれと同じ方法でアレッタも戦闘能力を上げている。そのうえシェルもいるのだから、シエラが不利な事には違いない。

 それにシエラは命を削りながら戦っているのだ。だから後は、どれぐらい戦えるのかはシエラの生命力次第だ。その生命力が弱っているのを感じながらもシエラはウイングクレイモアを構える。どうやらシエラは本当に自分が消えるのを覚悟して戦いに挑もうというのだろう。

 そんなシエラ達の戦いが始まろうとした時だった。突如として光り輝く力がアレッタ達に向けて放たれた。

「ツインフォースブレイカーッ!」







 さてさて、そんな訳で最後についに出てきましたね。けど、それがこれからの始まりだったりして、まあ、詳しい事は次回に~、という事で予告終わり。

 そんな訳で本編に少し触れてみましょうか。いやはや、今回はかなり苦労しました。なにしろシエラさんが暴走しまくってくれましたからね~。それの帳尻合わせで苦労しました。

 それでも自分なりには上手く書けた方だと思っております。まあ、点数を付けるなら及第点ぐらいな感じの出来栄えになっていると勝手に思っております。皆さんは如何でしたでしょうか。今回のエレメも楽しんで頂けましたでしょうか。楽しんで頂けたなら幸いです。

 ……

 ……燃え上がれ我が手、バーニングファイア―――――――――――っ!!!

 ……

 ……はい、いつも通りに意味は無いです。いやね、なんかシリアスに語りすぎたかなと思って。というか本編もシリアスだったし、後書きまでもずっとシリアスなのに耐え切れんかったですよ。せやから、また無駄な事をして、この作者はいったい何を考えていらはるんでやしょうかね。

 とまあ、意味不明な戯言はここまでにしましょう。という事で締めますね。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、今回は自分の限界を見る事になった葵夢幻でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ