第百十話 心の暴走
声を掛けられたシエラは驚愕の眼差しで声を掛けてきた人物を見詰めていた。まるで信じられないかのようなシエラの眼差しにその人物は笑みを浮かべてみせる。そしてシエラは静かに現れた人物の名を口にするのだった。
「……アレッタ……どうして?」
シエラとしてはアレッタが自分を見つけるとは思いもよらない事だったが、アレッタにしてみればシエラを見つける事などは時間さえあれば可能な事なのだ。その事を説明するかのようにアレッタは話し出した。
「精霊世界での暮らしを忘れたの? 私はいつもシエラを探して飛びまわってたじゃない。翼の精霊には相手の精霊反応を追う技術は無いから、勘だけで探すしかないわけよ。でも私はシエラが行きそうな場所を勘と経験で何となく分かるから、それだけを頼りにシエラを探してたわけよ」
つまりアレッタは精霊世界での経験を生かしてシエラが行きそうな場所をしらみつぶしに探し回っていた訳だ。けれどもシエラにはアレッタがシエラを探す理由が思い当たらない。だからこそシエラは人目が無い事を良い事にウイングクレイモアを取り出して構えた。
「なんで……アレッタが私を探してたの? アレッタには私が昇達が離れた事を察する事が出来ていないはずだし、私を探す理由が無い」
そんな疑問をアレッタにぶつけるシエラ。そんなシエラに向かってアレッタは軽く笑いながら答えるのだった。
「シエラ……あの時の事を憶えてる? シエラが妖魔である事を私に知られた時の事を憶えてる?」
「…………」
そんな事を尋ねてくるアレッタ。けれどもシエラはアレッタの質問に答える事は無かった。それは憶えていないわけじゃない。むしろ忘れられないぐらいにシエラの記憶にあの時の事はしっかりと刻まれていた。だからこそ思い出したくないし、口に出すのも嫌なんだろう。
そんなシエラとは不対称的にアレッタは微笑みながら話を続けてきた。
「あの時もシエラは私の前から逃げ出した。そして二度と私の前に姿を現さなかった。今度もそうなんでしょ。シエラはあの契約者に妖魔である事を隠してたから、妖魔である事を知られたら今度も逃げ出すと思ったのよ。まあ、あくまでも推測だったんだけど、どうやら当たりみたいね」
そんな事を言われて苦い顔をするシエラ。まさかアレッタがここまでシエラの思考を読んで来るとは当のシエラも予想外の事だ。そこまでアレッタがシエラにこだわる理由をシエラは思い当たらないし、アレッタがここまでしてシエラを探す理由も分からないようだ。
そんなシエラを追い込むかのようにアレッタは話を続ける。
「それに今回はすでに契約を交わしているからね。私の時みたいに遠くに逃げる事が出来ないと思ったのよ。だからこの町を中心にシエラが行きそうな場所を探していたというわけよ。シエラは雨が降ると橋の下を良く好んでいたからね」
その言葉にシエラは更に苦い顔をした。確かにアレッタとの付き合いは長いとは言えないが、その短い時間で二人の間に出来た絆はかなり強い物で、アレッタとしてはシエラの行動パターンがそれなりの読めるのだろう。
けどシエラはまさかアレッタがここまで自分の事を理解しているとは思ってもみなかった事であり、ここに現れた理由すらも検討が付かなかった。それだけシエラはアレッタの事を理解していないが、アレッタはシエラの事をかなり理解しているのは確かだった。
だからこそアレッタはシエラを探し出す事に成功したのだから。そんなアレッタにシエラはウイングクレイモアを構えながら話しかける。
「それで、私を見つけてどうするつもり?」
シエラとしてはそれが一番気になる事だった。数日前の戦いでは完全にシエラはアレッタに負けた。そんなアレッタが今になってシエラを探し出す理由がシエラには分からなかった。そんなシエラを笑うかのようにアレッタは微笑を絶やす事無く、シエラの質問に答える。
「まあ、シエラだからね。遠回しに腹の探り合いをしても無駄でしょ。だから単刀直入に言うとね。……シエラ……あなたを潰しに来たのよ。完全にトドメを刺して契約を強制解除させる。それが私の目的」
そんな話を聞いてシエラは瞳に悲しみを映し出すが表情には出さなかった。それはアレッタがそこまでする理由などシエラには一つしか思い浮かばなかったからだ。妖魔に対する差別。アレッタも他の精霊と同様にシエラを徹底的に甚振りたいのだろう。少なくともシエラにはそんな風に思えた。
だからと言ってシエラは素直にアレッタに負ける気にはなれなかった。確かに昇の前から逃げ出してきた事は事実だ。けれども昇はシエラが選んだ契約者である。昇なら妖魔である自分を受け入れてくれると思ったからこそ契約をした人間だ。だからこそシエラは昇の前から逃げ出しても、遠くにも離れる事が出来なかった。
それはアレッタの時に犯した失敗を二度としたくないという気持ちが強かったのだろう。たとえ昇がシエラを拒絶するような事になったとしても、シエラには昇の気持ちを確かめずにはいられなかった。
けど今のシエラには昇にその事を尋ねるだけの勇気が無かった。だからこそ昇の前から逃げ出してきたのだ。その結果としてシエラはこんな所で一人になっていた訳だが、まさかアレッタが自分を潰しに来ると思っていなかったシエラは確実に戦闘は避けられない事を悟った。
だからこそシエラはアレッタを一気に叩こうと精界を張る前にウイングクレイモアの翼を羽ばたかせて一気にアレッタに迫るが、そんなシエラの横から猛スピードで接近してくる精霊が居た。まさかもう一人居るとは思っていなかったシエラは完全に不意を付かれてしまった。
それだけではない。相手のスピードがかなり速かったためにシエラは対応が完全に遅れて、なんとか身体を捻って相手の攻撃をかわすだけで精一杯だ。そのおかげでシエラは脇腹に何かで切り裂かれた傷跡を残す事になったが、傷は浅く大したダメージは負ってはいない。
けれどもこれでアレッタに奇襲を掛ける事に完全に失敗したわけだ。それだけでなく、これでシエラの動きも完全に止まってしまい。シエラは二人に挟まれる形で脇腹を押さえるように屈むと後ろを振り返って、いきなり出てきた精霊に目を向けた。
その精霊は他の精霊と同様に美しい容姿をしているが、それ以上に目立つのは長い足である。顔だけを見ると幼さが残る顔立ちをしているが、全体を見えると長い足がそんな幼さを消し去っており、大人と子供の中間的な美少女と言った感じの精霊が短剣を手に立っていた。
シエラが後ろの精霊に気を取られている間にアレッタは完全に精界を作り出す準備を終えていた。だからシエラが気付いた時にはアレッタは片手を大きく上げて叫ぶ。
「精界展開っ!」
アレッタから放たれた光の柱は一定の高度に達すると指定した範囲を包み込むように広がって行き、そして世界は白く染まって行った。
完全に先手を取られてしまったシエラは傷を癒しながらもどうやって戦おうか思考を巡らす。幸いな事に精界のおかげで今まで降り続いていた雨も遮断されて空中戦に持っていける。そうなれば後ろの精霊も手出しが出来ないだろうとシエラは結論を出す。
その間にもシエラは完全な精霊武具を身にまとい、アレッタ達も精霊武具を身に付ける。
「スカイダンスツヴァイハンダー」
アレッタは精界が完成するとすぐに精霊武具を見にまとい、後ろに居る精霊も精霊武具を身に付ける。
「ガーレジャンビーヤ<疾風の如き短剣>」
後ろに居る精霊は今まで持っていた短剣が少しだけ形を変える。短剣は大きく湾曲して、いかにも斬りやすい形状になる。それ以上に目立ったのが防具の方である。
その精霊は防具と言える物は一切身にまとっておらず。アラビア風の服を着ているだけだ。それだけ無く、短いスカートから伸びる美しい足は誰しもが注目するほど美しく、それが彼女の特徴と言えるだろう。
そんな精霊武具を身にまとった後ろに居る精霊がシエラに向かって話しかけてきた。
「どうも、初めまして。まあ、妖魔如きに挨拶をするのも嫌なんだけど、自分を倒した者の名前ぐらいは知っておきたいでしょ。私はシェル、知らないかもしれないけどアッシュタリアに属する精霊よ」
シェルの言葉に驚きを示すシエラ。まさかこんな所でアッシュタリアなどという言葉を聞くとは思って無かったからだ。そんなシエラの反応にシェルは意外そうな顔をしてきた。
「どうやらアッシュタリアについては知ってるみたいだね。まあ、今では一番大きな組織だもんね。だから妖魔の耳に入っていても不思議は無いか」
そんな言葉を吐き出すシェル。その言葉は明らかにシエラを見下した言葉であり、その視線もシエラを確実に見下している。その視線はアレッタよりも明らかに見下している視線であり、シエラが過去に経験した他の精霊達と同じ視線をシェルはシエラに向かって送っていた。
そんなシェルの視線にシエラは睨み付けるような視線を送る。確かにアレッタにも同じような視線を感じた憶えもあるが、それはシエラが過去にアレッタの前から逃げ出した事も要因の一つとなっているとシエラは思っている。けどシェルの視線は明らかに妖魔を差別する視線であり、そんな目でシェルから見られる理由が無いからこそ、シエラはシェルに対してアレッタには抱かなかった敵対心が芽生えてきた。
それだけシエラはアレッタに負い目があると感じているのだろう。けどシェルの視線は明らかに違う。なにしろシエラとシェルは初対面である。そんな相手に見下されるような行為はシエラはした憶えは無い。ただ妖魔だというだけでシエラはそんな目で見られる事を過去に経験しているからこそシェルに対してだけは敵対心が大きくなっていった。
けれども現実は非常で、アレッタとシェルに挟まれるように追い詰められているシエラである。空に舞い上がろうとしても、今まで雨除けに使っていた橋が邪魔して一旦橋の外に出ない限りは空中戦に持っていけない。つまりシエラはアレッタかシェル。どちらかを突破して橋の外に出なくてはいけないのだ。
そんな状況でシエラが取った行動は……シェルにウイングクレイモアを向ける事だった。その事にシェルは何かを言い掛けるが、その隙を与えずにシエラは一気に戦闘へと持って行く。
ウイングクレイモアの翼が一気に大きく開くと翼が白い光を発する。
「フルフェザーショットッ!」
翼から放たれた無数の羽は弾丸となりシェルに向かって集中砲火を開始する。それを合図に後ろに居るアレッタが背中の翼を羽ばたかせて一気にシエラに向かってくるが、シエラはそれを待っていたかのようにフルフェザーショットを中断させると真上へと飛び上がる。
真上にはすぐに橋の裏側がある。だから飛び上がればすぐに橋にぶつかる事は確実だ。けれども相手はシエラである。そこには何かしらの考えがあると察したアレッタはシエラを追う事をせずに成り行きを見守った。
アレッタが追ってこない事を確認したシエラは縦に百八十度回転すると上下を入れ替えた。そして橋に飛び乗る感じで足を付けると、体を縮めて一気に伸ばした。こうする事で一気に加速する事が出来るからだ。
つまりシエラは橋を足場として地面から飛び立つような感じで飛び出して行ったのだ。もちろんアレッタの後ろを目指して。こうする事で二人に挟まれる事が無くなり、少しでも有利に持っていける事は確実だ。
けれども飛び出したシエラに向かって猛スピードで接近してくる者が居た。シエラが確認した時にはシェルがすぐ目の前まで迫っていた。
そんなシェルが一気にシエラの懐に入るとガーレジャンビーヤを振るってくる。形状からしてかなり振るい易い形状となっているため、シェルの攻撃スピードはかなり早いものだった。それでもシエラは何とかウイングクレイモアを盾にしてシェルの一撃を防ぐが、完全に懐に入られてしまったためにウイングクレイモアを自由に振るうことが出来ない。
一方のシェルはこうした密接戦に慣れているのだろう。自分の一撃が防がれたと感じたシェルはすぐにウイングクレイモアの翼を掴むと、そこを軸に自分の身体を回転させて一気にウイングクレイモアを乗り越えてシエラに迫る。
まさかシエラもそんな方法でシェルが迫ってくるとは思ってもいなかったようだ。だからこそ驚愕の顔でシェルを見詰める事しか出来なかった。
その間にもシェルは長い足を大きく振りかざして、シエラに強烈な蹴りを入れる。
空中という事もあり、そのうえウイングクレイモアの翼さえも掴まれて封じられた状態だ。そこに更に密接しての蹴りである。そんな攻撃をシエラが避けられるはずも無かった。だからシエラはまともにシェルの蹴りを喰らってしまう。
直撃を受けたシエラはそのまま蹴り飛ばされて橋の外にある地面に叩きつけられた。地面は先程の雨でぬかるんでいる為か、そんなにダメージは無いものの、確実に直撃を受けた事には変わりない。それだけシェルもスピード戦を得意としている精霊である事は確実であり、その精霊が何なのかはシエラにはすぐに察しが付いた。
そんな事を考えながらシエラはすぐに立ち上がると状況を確認するために辺りを見回す。そして事態はシエラが予想していた最悪な物へなっていたのを知る事になった。なにしろ前方にはすでにアレッタがスカイダンスツヴァイハンダーを構えており、後ろにはいつの間にかシェルがガーレジャンビーヤを構えているのだから。
つまり挟まれている状況には変わりなかった。けれども変わった状況が一つだけある。それは橋の外に出たおかげで空中に舞い上がれる事だ。けれどもシェルの属性を考えるとそれは難しい事だとシエラは実感せざる得なかった。
そんなシエラがアレッタに向けて話しかけてきた。
「いつの間に俊足の精霊を仲間にしたの?」
「へぇ~、妖魔の割には博学ね。すぐに私の属性に気が付くなんて」
アレッタの代わりに後ろからシェルがそんな言葉を投げ掛けてきた。そんなシェルに対してシエラは振り向く事は無いが、シェルがシエラを蔑む目線で見ている事を感じながらアレッタを見詰める。そんなシエラの視線を受けてアレッタは軽く息を吐くと話し始めた。
「実はこの前の戦いが終わった後にね。私達はアッシュタリアからスカウトされたのよ。一緒に戦わないかってね。それで私達はアッシュタリアに加わる事にしたわ。でも……その前にシエラ、あなただけはどうしても倒しておかないといけない理由が私にはある。だからこうして協力してもらってるわけよ」
そんな事を言って来たアレッタをシエラは睨み付ける。それはそうだろう、なにしろアレッタはシエラの正体を昇達にバラした。それで充分だと思うのだが、アレッタとしては完全にシエラを潰さない限りは気が済まないのだろう。いや、正確にはシエラをここで叩かないといけない理由がアレッタにはあるようだ。
アレッタはそれだけシエラの事を恨んでいるのだろうとシエラは勝手に理解する事にした。なにしろシエラにはアレッタがここまでする理由が分からなかった。確かにアレッタの前から逃げ出したのは本当の事で、妖魔である事を隠してきた事に負い目を感じている。
だがここまでされる理由はシエラには検討が付かなかった。一つだけ思いつく事と言ったら、以前に受けた妖魔への差別。それだけしかシエラにはアレッタがここまでやる理由が思い浮かばなかった。
やっぱり……アレッタも他の精霊と同じ。私を……妖魔を差別する事に何の抵抗も感じてない。でも……だからと言ってここ負ける訳には行かない。たとえ昇に拒絶される可能性があるかもしれないけど、今度は逃げないで確かめると決めたから……だからっ!
「アレッタが今更アッシュタリアに加わろうが私には関係ない。でも……私はここで負ける訳には行かない。今度は逃げないと決めたから」
そんなシエラの言葉を受けてアレッタは初めてシエラに向かって鋭い視線を送ってきて、奥歯を強く噛み締めた。どうやらシエラの言葉が相当アレッタに響いたらしい。
そんなアレッタがまるで怒っているかのような口調で話を続けてきた。
「関係ないか、よくもまあ二度もそんな事を言えたものね。でもねシエラ、冷静になって状況を見てみなさいよ。翼の属性と縮地の属性を前にして私達に勝てると思うの?」
「…………」
そんなアレッタの言葉にシエラは苦い顔になった。
アレッタが言った縮地の属性とはシェルの俊足の精霊が持っている属性である。その特徴は翼の属性と似ており、スピード戦を得意としている。それだけのスピードを発揮する事が出来るのが縮地の属性だ。
けれどもこの二つの属性には大きく違う点が二つある。一つは空と地上との違い。翼の属性は知っての通り空中でのスピード戦を得意としている。そして縮地の属性は地上でのスピード戦を得意としていた。つまり空では翼の属性に勝るスピードを出せる属性は無いし、地上では縮地の属性に勝る属性は無かった。
そしてもう一つはスピードの違いである。翼の属性は翼を羽ばたかせる事で徐々にスピードを上げて行き、トップスピードに達するまで時間が掛かるが、翼の属性が出すトップスピードは縮地の属性よりも上である。
一方の縮地の属性はトップスピードでは翼の属性に引けを取るものの、スタートスピードではどの属性よりも勝っていた。つまり縮地の属性はトップスピードでは翼の属性に劣るものの、トップスピードを出すまでの時間は翼の属性よりも勝っていた。つまり縮地の属性は翼の属性よりも初動スピードが早いのである。
だからシエラが翼を羽ばたかせて加速する頃には、シェルはトップスピードでシエラに迫る事が出来るのだ。それはつまり、シエラが空中に舞い上がる前にシエラに接近する事が出来る事を示していた。
そうなると下手に空中戦に持っていこうとすると、その前にシェルに落とされるのが目に見えている。先程の攻撃もシェルがダメージを負った気配は無い。どうやらシェルはフルフェザーショットが当たる寸前に移動して、完璧に避けたようだ。それだけ縮地の初動スピードは早いのである。短距離ならば半蔵の空の属性に匹敵するほどの瞬間移動ほどのスピードを出す事が出来るだろう。
そんなシェルとアレッタに挟まれてシエラはどうしたら良いものかと思案を巡らす。けれども幾ら思案を巡らせても良い案が浮かんでこない。なにしろスピード自慢の二人に挟まれているのである。いくらシエラもスピードに自信があるとあると言っても、さすがに二人を相手にするのは辛い物がある。
そんな二人を相手にシエラは一人で戦わないといけないのだ。だからだろうか、シエラはふと寂しさを感じた。昇と契約をしてからは常に昇が、そして琴未達が一緒に居た。皆と一緒になって戦ってきた。例え離れていても通信でいつも繋がっていた。昇のエレメンタルアップで何時でも繋がっている事を確認できた。でも……今はそんな繋がりは一切無い。だからだろうシエラが寂しいと感じたのは。
そんなシエラにアレッタとシェルは何時でも攻撃を仕掛けられるように少しずつ的確な位置取りをするために、少しずつ移動している。けれどもシエラはそんな二人を見ていなかった。それどころか顔を伏せて、まるで笑っているかのようだった。
情けない……今頃こんな事を感じるなんて。私……こんなにも弱かったの? シエラの心が誰かに尋ねる。それは自分自身への質問だったかもしれない。それほどまでにシエラは今の自分を笑いたくなるほど、情けなくて、凄く惨めで、どうしようもなく無残だった。
自分から昇の前から逃げ出してきたくせに、今頃になって昇達が恋しくなる。随分と自分勝手な言い分だとシエラは軽く笑う。そんなシエラの笑いを聞いたアレッタとシェルは動きを止める。どうやらシエラが何かしらの策でも思い浮かんだ物だと勘違いしたようで、アレッタとシェルはより一層シエラを警戒するようにシエラの出方を窺っている。
そんな二人に気付かないままにシエラは、いや、シエラの考えはとんでもない方向へと向かっていった。
私は昇の剣として昇の傍にいた。でも……私は自分自身の手でその役目すらも放棄した。そんな私に……もう……帰る場所なんて無い。それだったらっ!
シエラは何かを決意したかのように顔を上げるとウイングクレイモアに翼の属性を一気に流し込む。
「発動 セラフィスモード」
白い光を放つウイングクレイモアから新たに四枚の翼が生えた。その事に驚きを隠せないアレッタ。なにしろシエラのセラフィスモードは前の戦闘で見ていたが、今のセラフィスモードの翼はしっかりと形作られており、以前に見た無残なセラフィスモードの翼とはまるで違っていたからだ。
その事に未だに驚いているアレッタに向かってシエラは静かに話し掛けた。
「アレッタ、確かにこの状況で私が勝てる訳が無い。だから、私の……役目を果たすために全力で戦う。私の……全てを掛けて」
そう……私には……もうそれだけしか残ってない。そんな事を考えるシエラ。けれどもアレッタはシエラがまるで別人のような変化を遂げた事に戸惑いを示していた。なにしろセラフィスモードもしっかりと発動しているだけではない。シエラの瞳からは……完全に生気が消えていたからだ。
そんなシエラはアレッタでも見た事が無かった。だからアレッタの戸惑いは大きいが、シェルにしてみればシエラの発言は宣戦布告と同じだ。だからアレッタが戸惑っている間にもシェルは一気に飛び出して、一瞬でシエラとの間合いを詰める。
完璧に取った。シェルはそう感じただろう。なにしろシエラは未だに棒立ちの状態であり、ウイングクレイモアが自由に振るえないほど一気に懐に入ったのである。そこはシェルの領域であり、完全にシェルは自分の攻撃がシエラに入ると思っただろう。
けれどもシェルがガーレジャンビーヤを振るい出した瞬間にシェルの目の前からシエラが消えた。その事に驚きを隠せないまま、シェルは振り出したガーレジャンビーヤの動きを止める事が出来ずに、そのまま空を切る。そしてすぐにシエラの姿を探すが、その時にはすでに遅く、シエラはシェルの横に位置しており、大きくウイングクレイモアを振るい上げていた。
そんな光景を目にしたシェルはすぐに危機を感じて、その場からの離脱を計るが。シエラがウイングクレイモアを振るうのと同時にシェルも一瞬でその場から離脱する。
そしてシエラは静かに先程のまで居た場所に着地すると生気を失った瞳でシェルの方を見詰める。シェルもシエラから距離を置いており、ここまで来ればいくらシエラでもそう簡単には攻撃できないはずだとシェルは思っていた。
だが、そんなシェルの左腕から突如として血が噴き出す。噴き出した血は一瞬で止まったが、攻撃を受けたのは確かだ。シェルは驚きながらも傷口を左手で押さえるとシエラを睨み付ける。シェルとしてはシエラの攻撃を完璧に避けたつもりだが、まさか微かに当たっていたとは思いもよらない事だ。
だが現にシェルの左腕にはしっかりと傷跡が残っている。どうやら傷は浅いようだが、シェルとしてはあの瞬間に攻撃を入れられた事が驚きであり、屈辱であった。なにしろ短距離での移動スピードは完全に縮地の属性が上回っているのだ。それなのにあの瞬間だけで攻撃を入れられたのが縮地の属性を持っている者としては屈辱なのだろう。
だからこそシェルはシエラをにらみ付けるものの、なんでシエラがこのような事が出来たのが不思議でならず、その事を考えているとアレッタがシエラに向かって叫ぶように話し出した。
「シエラッ! あなた何をやっているのか自分でも分ってるのっ! そんな事をすればシエラ自身の存在すら消えかねないのよっ!」
そんなアレッタの言葉にシエラは生気の無い瞳を向けると静かに答える。
「それがどうかしたの?」
「なっ!」
さすがに驚きを隠せないアレッタ。そんなアレッタに遠くからシェルが何が起こっているのか説明してと叫んで来たのでアレッタは声を大きくしてシエラの状態を説明する。
「シエラは……存在するための力をそのまま戦闘力に上乗せしてるのよ」
「ッ!」
アレッタの短い説明で全てを理解したシェルは驚きを示したが、すぐに笑い出した。
「あんた何をやってるわけ、そんな事をすればあんた自身も消えるんだよ。つまり死ぬんだよ。まあ、こんな状況だからね、妖魔のあんたがそんな行動にでも出ない限りは私達には勝てないでしょうね」
そんな事を言って来たシェルにシエラは顔を向ける。その事でシェルは一瞬だけ怯んでしまった。なにしろシエラの瞳には生気が宿っていない。そのうえ表情すらもまるで死人のように無表情だった。そんなシエラの顔を見たからこそシェルは一瞬だけ怯んだのだ。
そんなシェルに向かってアレッタが叫ぶ。
「気をつけて。今のシエラは何をしてくるか分からないっ!」
「そんな事は言われなくても分ってるよっ!」
二人とも今のシエラに驚く以上に警戒しているようだ。それもしかたない。なにしろシエラが行っている手段は精霊の最終手段とも言える手段なのだから。
精霊がエネルギーの結晶体だという事は今までも説明した事だろう。精霊はいつもそのエネルギーを二つに分割しているのである。一つは自分自身の存在を維持するために、そしてもう一つは戦闘力として使っているのである。
つまり精霊がエネルギーとして使用している力の半分は戦闘力であり、後の半分は自分の存在を維持するための生命力と言えるだろう。
けれども今のシエラは全てのエネルギーを戦闘力に回している。そうする事で戦闘力を飛躍的に上げているのだ。だが精霊がエネルギーの結晶体とは言え、そのエネルギーは無尽蔵に溢れ出る訳では無い。エネルギーの総量は精霊によって違う。それは精霊自身が修行する事で増やす事も可能だ。つまり人の体力や精神力が個人個人で違うように、精霊が有しているエネルギー総量も個人個人で違うのだ。
つまり今のシエラは戦闘力として回しているエネルギーを全て使い切ってしまえば、自分の存在を維持する事が出来ずに消えてしまうのだ。それは人間で言う死という物だ。そんな事をシエラはしているのだ。
だからこそアレッタとシェルはそんなシエラを警戒している。なにしろ今のシエラは自分の命すらも戦闘力に加えているほどだ。その力はどれだけの物かアレッタにも想像が出来ない。それだけに今のシエラは驚異的だった。
そんなシエラの心はすでに何も感じてはいなかった。それはそうだろう、すでにシエラには戦う理由が見付からない。それだけでは無い、自分の居場所、そして帰る場所すらもシエラは失ってしまったのである。だからこそシエラは自分が行う最後の役目として昇の敵を少しでも排除しようとこのような手段に出たのだ。
それはシエラの心が暴走していると言えるかもしれない。シエラの本心を言えば、昇に確かめてみたいというのが本心だろう。自分が妖魔であっても受け入れてくれるか、それとも拒絶されるのか。それをシエラは確かめたかった。
だがアレッタ達の来襲によってそれすらも確かめる手段を失って負けると、昇との契約は強制的に解除される。そんな状態でシエラは何にすがって生きて行けば良いのか分からなくなる。シエラにそう思わせるほどシエラにとっては昇の傍は居心地が良かったのだ。それは今までに感じたほどが無いぐらいに。
だからこそシエラにとって昇との契約が解除されるなんて考えられる事じゃなかった。そんな事になるぐらいならと……シエラは消える事を選んだのである。それほどまでにシエラの心は暴走していたのだ。
そんなシエラの心に気付かないままにアレッタは動揺していた。まさかシエラがここまでするとはアレッタには想像も出来なかった事だ。けれどもそれ以上に悔しさが込み上げて来るのをアレッタは感じていた。
だからこそ今のシエラを許せないとアレッタはスカイダンスツヴァイハンダーをシエラに向けて構えるのだった。そして心が暴走したシエラへと戦いを仕掛けるのだった。
シエラ達の戦闘が始まる少し前。昇達はいつもの生徒指導室に集まっていた。なにしろ外は雨が降っている。そんな中を闇雲に探すより、ここは一旦情報を整理すべきだと閃華が言い出したので、昇はシエラを探したい気持ちを抑えながらも、窓の外に降り続いている雨を見ていた。
そんな昇に閃華が話し掛けてきた。
「だいぶまいっているようじゃな」
「そんな事は無いと思うけど」
「そう思ってるのは昇だけじゃ、私達から見れば今の昇は見るに耐えん」
閃華にそう言われて考え込む昇。そしてここ数日の事を思い返してみた。
確かに、ここ数日はずっとシエラの事だけを考えて、シエラの事を探し続けてたからなあ。皆から見ると僕は疲れているように見えるのかな……あぁ、そうか、閃華はその事を告げたかったんだ。
昇は閃華が本当に言いたい事を理解すると振り返って皆を見回してみる。琴未は心配そうな顔で昇の方を見ており、ミリアはラクトリーと与凪と同じく情報整理に四苦八苦しているようだ。そしてフレトは相変わらず仏頂面をしている。そんな皆を見て昇は改めて思う。
そっか……シエラを探してるのも心配してるのも僕だけじゃないんだ。皆でシエラの事を心配して探してるんだ。それなのに僕は……一人で突っ走っただけなのかな。昇はそんな結論を出すと軽く笑い出した。
そんな昇に自然と視線が集まるので、昇は慌てて何でも無いと言い繕う。
昇としては一人で突っ走っていた事を思い出してみれば滑稽であり、もう少し皆と協力して探していればシエラを見つけられていたかもしれないと思っただけだ。つまり一人で突っ走っていた自分を思い出して自分を笑っただけに過ぎない。
そしてそんな自分を笑った事で昇はやっと気分転換が出来たのだろう。改めて閃華の方へと顔を向けた。
「ありがとう」
「何の事じゃ」
昇のお礼にワザととぼけて見せる閃華。それが閃華らしいと昇は改めて思った。なにしろ閃華だ。昇のお礼に照れるような仕草を見せたりするのは似合わない。それどころか何事も無かったかのように振舞っているのが、いつもの閃華であり、そんな閃華の姿に昇は安心する事が出来た。
それから昇は心配そうに見ている琴未に微笑みかけると、琴未も安心したかのように微笑を返してきた。そしてフレトにも顔を向ける。そして真剣な眼差しでフレトを見ると、フレトはそんな昇を笑うように頷いてきた。
そんな光景を見て昇はやっと気付いた。自分がシエラの事でどれだけ暴走をしていたのかを、そしてどれだけ心配を掛けていたのかを。だからこそ昇はいつもの昇を見せる事で皆を安心させるのと同時に気持ちを切り替えてシエラを探す事にした。
そんな昇が真っ先に取った行動は与凪達の所に向かう事だ。与凪達は相変わらずモニターに向かって何かをしているようだが、そんな与凪達に向かって昇は尋ねる。
「与凪さん、何か分かりました」
突如としてそんな事を聞いてきた昇に与凪は振り向くと驚いた表情を浮かべるが、昇の顔を見た途端にいつものように軽く息を吐いて肩をすくめて見せるのだった。
「全然ダメ、それらしい場所はしらみつぶしに探したんだけど、シエラさんの反応どころか精霊反応すら出ないですよ」
「そうですか……シエラがこの付近に居ないという事は考えられないんですか?」
突如としてそんな質問をしてきた昇に対して与凪は溜息を付くとラクトリーが代わりに答えてきた。
「シエラさんは昇さんと契約をしている状態ですから、そんなに離れて行動する事は出来ないんですよ。まあ、契約者が許可を出せば別ですけどね。それに昇さん達は服従契約を交わしているわけですから、契約の規制により契約者から長距離離れる事が出来ないんですよ。契約者の命令が無い限りはですね」
「じゃあ、シエラは僕がここに居る限りは遠くに行く事が出来ないというわけですか」
そんな昇の答えに今度は与凪が返事を返してきた。
「そういう事ですね。まあ、シエラさんの心境を察して滝下君の傍から離れたいとは思えないですよね。というか滝下君、この説明が三回目だって事が分ってる?」
「えっ、そうなんですか?」
昇の答えに思いっきり溜息を付く与凪。どうやら与凪達はこの説明を以前にもしたようだが、昇の心は完全にシエラに行っており、与凪達の話を聞いてなかったようだ。そんな昇を見てフレトが容赦の無い言葉を言ってくる。
「まったく無様だな」
そんなフレトの言葉に昇は怒るどころか笑みを顔に浮かべた。
「そうだね」
そしてそんな言葉をフレトに微笑みと一緒に返すと、フレトも昇に向かって笑みを向けてきた。どうやらフレトもフレトなりに昇の状態を確認したらしい。だからこそフレトも昇に笑みを向ける事が出来たのだろう。
そんな時だった。すっかり疲れ果てたように机に突っ伏したミリアが昇達に向かって話を戻してきた。
「でも、そうなるとどうやってシエラを探せばいいの~」
そんな事をミリアが言い出してきたので、誰も答える事が出来ずに沈黙が立ち込めてしまった。けれども誰かが、この事を言わない限りは問題は解決しないは確かだ。ミリアとしては一刻も早くシエラを探し出して今の状況を脱したいのだろう。というよりかは、すぐにラクトリーから解放されたいのだろうが、シエラが見付からないのではしかたないと今でも作業を手伝っているわけだ。
そんな状況に与凪は大きく身体を伸ばした後に溜息を付いて打開策を話し始めた。
「こうなったらシエラさんに何かしらのアクションを起こしてもらうしかないですね」
「というと?」
与凪の言葉に説明を求める昇。やっぱり与凪の言葉には説明が無いと理解が出来ないようだ。それは昇だけではなく、他の皆も同じようで視線が与凪へと集まる。そして与凪は軽い口調で説明を開始した。
「シエラさんが精界を張るとか、無意味に翼の属性を使って物を壊しまくるとか。そういう行動を取って貰えればすぐに発見できるんですけどね」
「それって……シエラの気が狂ったか、シエラがピンチじゃないと意味ないじゃないですか」
「つまりそういう事ね」
うわ~、思いっきり他人事だ。そんな突っ込みを心の中で入れる昇。どうやら与凪も昇がいつもの冷静さを取り戻したと判断したのだろう。だからそんな冗談を言って来たのだが、昇の呆れた視線を受けるのは当然の事で、与凪はそんな昇の視線を無視するかのようにテーブルの上に置かれているお菓子に手を伸ばした。
そして与凪が手にしたお菓子を口に放り込んだ時だった。突如として警報のような音が鳴り響いた。あまりにも突然だったのでお菓子を詰まらせてむせる与凪はすぐに警報を止めると状況を確認するためにモニターに向かう。そして昇達に告げるのだった。
「何でも言ってみるものね。まさか本当に起こるとは思って無かったですよ」
「いったい何があったんですか?」
警報に胸騒ぎを覚えた昇はモニターに顔を近づけるために与凪の顔に自分の顔を並べてモニターを見るが、そこには相変わらず精霊文字が記されており、何の警報かまでは分からなかったが、地図が特定に場所を指し示しているのは分かった。そこは昇も知っている場所であり、学校からでも走ればそんなに時間が掛からない場所だった。
昇はその場所を指しながら与凪に尋ねる。
「ここで何かあったんですか?」
「ええ、どうやらここを中心に精界が張られたようですね。ちょっと待ってくださいね……精界の属性は……翼の属性っ!」
与凪の言葉でその場所に翼の属性で精界が張られたのは確かなようだ。その事を確認した昇はすぐに与凪の傍から立ち退くと部屋を後にしようとするが琴未に腕を取られて止められた。
「ちょっと待って昇。いくら翼の属性だからと言ってシエラが張った物だとは限らないでしょ」
確かに琴未の言うとおりである。なにしろ翼の精霊なんてかなりの数がいてもおかしくは無い。だからこの精界をシエラが張った物だという確証はなかった。
それでも昇は冷静な事を示すかのように琴未に反論するのだった。
「今、この町に居る翼の精霊はシエラとあのアレッタとかいう精霊だけだよ。確かに他の精霊が紛れ込んだ可能性もあるけど、あのアレッタという精霊。異常なほどにシエラに対して何かを抱いてた。だからシエラを探しているのは僕たちだけじゃなく、たぶんあのアレッタも同じだと思う。そこで僕達よりもアレッタの方が先にシエラを見つけた。その結果として精界が張られたと思うんだけど、僕の考えが間違ってると思う?」
「……それは」
さすがにそこまでの理由を聞かされると琴未には反論のしようが無かった。それは他の皆も同じであり、誰一人として昇の意見に反論できる者は居なかった。だからこそ昇は話を続ける。
「だからどちらが張った精界だとしても、そこにシエラが居る可能性が高い。それにシエラがピンチならいつまで持ちこたえられるか分からない。だから救援に行くなら早くしないと」
「……でも」
「琴未、離してやるんじゃな」
「閃華まで」
閃華までそんな事を言い出してきたので琴未は困ったような顔をするが、そんな琴未を閃華はあえて無視して昇に話しかける。
「昇よ、任せて良いんじゃな?」
閃華がそんな風に尋ねると昇は少しだけ笑みを見せながら、少し照れ臭そうに答えてきた。
「出来れば後で援軍に来てもらえば助かるんだけど。さすがに状況が分からない中に僕一人で突っ込んで行くんだから無茶なのは承知しているよ。だからそっちは準備を万端にしてから援軍に来てもらえるかな」
そんな事を言った昇に閃華は笑みを浮かべながら答えた。
「分かった。ならそうしよう。さあ、そろそろ行かないと間に合わないかもしれんじゃろ、琴未、離してやるんじゃ」
閃華にそう言われて琴未は迷ったような顔をしてちゅうちょするが、昇の腕を放すと昇は琴未にありがとうと告げて部屋から飛び出していった。そんな昇を琴未は心配そうな顔で見送る事しか出来なかった。そしてそんな琴未の頭を閃華は優しく撫でてやると琴未に向かって優しく話しかける。
「まあ、今回はシエラに華を持たせてやるんじゃな。今回の問題は深刻すぎるからのう。じゃが、今回の問題が終われば、次からは本気で行っても大丈夫じゃよ」
「……うん」
そんな閃華の言葉に琴未は少しだけ流れ出た涙を拭くと立ち上がる。もちろんこれから昇達の救援に行くための準備をするためにだ。そのために与凪達はすでに動き出している。それでも昇一人では心配だと感じたのだろう。フレトは半蔵を呼び出した。
「御用ですか、若殿」
「さすがに滝下昇だけで行かせるのは不安だからな、半蔵は滝下昇の後を追いかけて行け。だが手出しは無用だ。状況だけを俺達に分かるように映像を送ってくれ。そしてもし滝下昇がやられそうな時だけは助けてやれ」
「御意」
フレトの命が下ると半蔵は早速、フレトの命令を実行するためにその場から姿を消した。そんな行動を見ていた琴未が少しだけ不安になる。確かに昇一人で行かせるのも不安だし、その護衛では無いが、監視として半蔵だけを行かせる事にも不安を感じていた。
そんな琴未に閃華は大丈夫とばかりに話しかける。
「半蔵は戦国時代には伊賀忍軍の頭を勤めた精霊じゃ。あやつなら任せても大丈夫じゃろう。その場に適した行動を取ってくれるはずじゃ」
さすがに半蔵とは過去に面識がある閃華の言葉だけに琴未は安心する事が出来た。まあ、閃華がそこまで言うならという気持ちもあったのだろうが、どうやら昇は半蔵に任せておいても大丈夫なようだ。
だからこそ琴未達は自分達の準備を万端にするために行動を起こす。
そして昇は雨の中を傘を差さずに一心不乱に走っていた。全てはシエラのために、シエラに伝えるべき言葉があるから。そのために昇は走り続ける。
さてさて、そんな訳でやっと更新する事が出来ました。今回は少し更新が遅れた理由としては……体調不良で一週間ほど死んでました。
いやね、なんか、ワケの分からない風邪やら花粉症の症状やらが一気に出てPCの前に居るだけでも辛い状況になり、まったく小説が書けない状況が続きました。そんな訳で更新が遅れた事をお詫び申し上げます。
……まあ、更新が遅い事はいつもの事ですけどね( ̄ω ̄)
とか開き直っている部分もありますけど、まあ、いつもの事だと思って大目に見てやってくださいな。……えっ、ダメ? そんな殺生なっ!!! そこを大目に見るのが人としての器が試されるところやないかいっ! せやから大目に見て~っ!!!
……はい、エセ関西弁での言い訳が承認された事で話を次に持って行きましょう。
さてさて、今回も密度と長さが随分と凄い事になってますね。というか……実のところ当初の予定ではここまでシエラさんを暴走させる予定は無かったのですよ。それがいつの間にかあんなにも暴走して……成長しましたね、シエラさん……ってっ!!! それは成長じゃないやろっ!!!
……そろそろエセ関西弁も飽きてきました? もちろん私は飽きて来ました。そんな訳でそろそろ普通にやって行こうかと思います。まあ、そろそろ話す事も無いんですけどね。
あっ、そうそう、ちょっと密度が濃い話が続いたので、次回は少し短めにまとめようかと思ってます。……まあ、思ってるだけで実際に短くなるかは不明ですけどね。
さてさて、そんな訳で白キ翼編も中盤になってきたので、そろそろ次を考えないといけない時期になってきましたね。う~ん、頭の中ではまとまってきたんですけど未だにプロットにはしてないです。そんな訳でエレメはまだまだ続きそうなので、これからもよろしく~。
……というか、本当にどこまで続くんだろう? すでに二年以上が過ぎてるんですよね~。というか、あと数ヶ月で三周年を迎える事になります。う~ん、このままだと本当に五年以上はやっていそうで不安になってきますね。
けどまあ、それはそれでいいっかとか思ってますけどね。まあ、そんな訳で、話も尽きたところでそろそろ締めますね。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、ヤバイっ、そろそろサブタイが思いつかなくなってきたと感じている葵夢幻でした。




