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第百九話 シエラとアレッタ(後編)

 人間も立ち入る事が出来ないような森林の奥深く。シエラはその森林にある木が生やしている太い枝に腰を掛けて知識書を開いている。さすがのシエラも木の天辺には座る事が出来ないので、天辺よりも少し下にある枝の上に座っていた。

 そんなシエラは日の光と葉っぱの影が映りこむ知識書を開きながら暗い顔をしている。シエラが見ているページは妖魔に関するページだ。だからだろう、シエラが暗い顔をしているのは。

 シエラは時々妖魔のページを開いては暗い顔をする時がたまにある。それは知識書に妖魔に関して新たな知識。つまり妖魔が差別されないような知識が書かれる事を祈りつつ、妖魔に関するページを開いているからだ。だが妖魔に関する項目はいつもと変わりなく次の通りであった。

 妖魔……人間と精霊の間に生まれた子供であり、存在自体が人間にではなく精霊に生まれた存在。そのため妖魔は人間と精霊の特徴を両方有しており、人間と契約すると妖魔独自の能力を発揮する事が出来る。

 それだけである。知識書の妖魔に関する項目はそれだけの事しか書かれてはいなかった。それは知識書は知識だけを記した物であって、精霊が妖魔に対して抱いている感情や差別までもが知識として認知されていないから、それだけしか書かれていないのである。

 けれどもシエラは妖魔が精霊達からどんな差別を受けているのかを、その身を持って体験している。だからこそ妖魔が差別されないような世界したいと願いながらも、その打開策を探すために知識書を開く事があるのだが、その度にシエラは溜息を付くのだった。

 やっぱり、いつも通り……精霊が妖魔を差別している事は確かな事実なのに知識書には決してその事実は記されない。それは私がいつ差別を受けてもおかしくないって事を意味してる……のかもしれない。そんな事を考えたシエラはもう一度溜息を付く。

 シエラも自分一人の力だけで妖魔の差別を無くす事が出来るとは思ってはいない。だが何かしらの抵抗手段でも持っていない限りは差別を受ける一方である。だからこそ精霊達の前でも妖魔として堂々といられるような手段をシエラは探しているのだが、その手掛かりは一向に見付かる事はなかった。そして、そんな現実についてシエラは再び考え込む。

 でも……どうにかして精霊達に私が妖魔であっても手出しが出来ないような手段を見つけないと。受け入れてもらおうとまでは思わない。せめて対等な立場で争う事が出来れば幾らでも手段がある。

 つまりシエラとしては精霊と対等の立場に立って、そこで精霊達に抗おうと考えているのだが、それを考えるとやっぱり正反対な事も考えてしまうようだ。

 でもそんな事をすれば……私とアレッタは敵対してしまう。戦えるの……あのアレッタと本気で……ためらう事無く抗う事が出来るの? そんなの無理に決まってる。だって、アレッタは……。

 そこまで考えるとシエラは考える事を拒否するかのように頭を振った。シエラはいつもそこまでは考えても、それ以上は考える事はしなかった。なにしろシエラにしてみればアレッタと本気で戦う事なんて想像できないし、アレッタに自分が妖魔だと知られた時の事を考えると、とてもではないが、それ以上の事を考えたくも無かったし、想像するのも嫌だった。だからこそシエラはいつもそれ以上の事は考えずにいたのだ。

 そんなシエラが気分直しに知識書を仕舞いこむとゆっくりと瞳を閉じる。さすがに人間すら入れ込めない森林の奥深くである。そこに流れる風はとても清らかであり、澄み渡った空気はシエラの心を洗い流してくれているように感じた。

 そんなゆっくりと流れる風にシエラは軽く髪をなびかせながら、ゆっくりと口を開いた。

「優しい月明かり 私を照らし出す。見上げれば 漆黒の闇に月一つ。そんな月が自分だと気付かせた あまりにも漆黒の中に一つだけの光が孤独で寂しいから。でも月明かりは優しかった どこまでも どこまでも」

 ゆっくりと歌いだしたシエラの歌声が風に流されて森林に響き渡っていく。その歌声は少しだけ悲しげであり、けれどもしっかりとした優しさを秘めていた。まるで今のシエラをそのまま歌にしたような歌が森林に響き渡る。

 そんなシエラの歌声が届いたのだろう。何かが森林の中をシエラに向かって急接近してくる。それに気付いたシエラは歌いながらも静かに立ち上がると歌い続ける。どうやらちゃんとシエラも気付いているようだ。真後ろから急接近してくるものを。

 だからこそ、歌いながら急接近してくるものに注意を払う。そして森林の木々を掻き分けてシエラに接近してきたそれはスピードを落とす事無く、シエラにそのままぶつかると思われたが、すでにその存在を察知していたシエラはそれが触れる瞬間に一歩横に移動する。

 翼の精霊であるシエラはそのスピードが自慢である。だから急接近してきたそれを紙一重でかわす事などはシエラにとってはとても容易な事である。

 そしてシエラに避けられたそれは、まさかシエラに避けられると思っていなかったのか。猛スピードでシエラの横を通り過ぎると木々が立ち並ぶ森林の枝にその身をぶつけながら、シエラから見て遥か先まで行くとやっと止まったようだ。それから体中に擦り傷と枝を刺しながらシエラの元へやってきた。

「避けるなんて酷すぎると思わない、シエラ」

「アレッタが猛スピードで体当たりしてくる方が悪い」

 そうシエラに急接近してきたそれこそが、シエラの歌声を聴いてシエラを発見したアレッタだった。まあ、アレッタとしては普通にシエラの前に現れるのもつまらないと思ったのだろう。だからこそ、こんな悪戯染みた事をしたのだが、まさかこんな結果になるとはアレッタは思ってもいなかった事だ。

 そんなアレッタとは正反対にシエラはそんなアレッタの行動を全て見抜いていた。そもそもシエラの歌声を聴いたかのように猛スピードで接近してくる精霊などはアレッタしかシエラには思い当たる節が無いからだ。そしてアレッタならそういう事をしてくるだろうとシエラにはしっかりとアレッタの悪戯を先読みして避ける事に成功したのだ。

 まあ、状況から言ってアレッタが一方的に悪いのだが、当のアレッタはそうは思っていないようだ。

「シエラの歌声が聞こえたから、せっかくシエラに会いに来た親友の包容を普通は避けないでしょ。そこはやっぱり私を抱き止めてくれないと親友らしくないでしょ」

 随分と勝手な事を言ってくるアレッタにシエラは無表情で言い返す。そもそもあのスピードで接近して来たのである。最早その行動を包容とは言わないだろう。本当ならそんな事を言いたいシエラだが、アレッタにそんな反論は無駄な事はすでに承知している。だからこそ別の言葉を返してきた。

「じゃあ、次からは親友らしくウイングクレイモアで打ち返してあげる。数キロ以上は飛ばす自信があるから何も問題無い。だからとっても親友らしいと思わない?」

「思わないわよっ!」

 シエラの言葉に即答で反論を返してくるアレッタ。けどシエラの言葉がよっぽどアレッタに火を付けてしまったのだろう。アレッタの反論はそれだけに留まらずに早口でシエラに言い返してくるのだった。

「そもそも打ち返すことのどこが親友らしいのよ。親友だったら素直に私の包容を受け止めなさいよね。それが親友として取るべき行動であって親友という証でもあり親友なのよ」

 最早最後では何が言いたいのか分らなくって来たアレッタの言葉を聞いてシエラは溜息混じりに聞き流すのだった。どうやらシエラも自分がアレッタに油を注いだ事には気付いているようだ。気付きながらもアレッタをからかうような言葉を発したのだ。そんなシエラに気付かないままにアレッタは更に抗議を続ける。

「そもそもどうしていつも見つけ難い場所に居るのよ。もう少し分りやすい所に居れば私だって普通に登場するわよ。それなのにいつもいつも分り辛い場所に居て、探すこっちの身にもなってよね。そもそもシエラは……」

 どうやらアレッタの抗議魂に炎が灯ったらしく。アレッタは更にシエラに向かって文句を言ってくる。当のシエラはいつものように平然と聞き流しているだが、そんなシエラに気付かないままにアレッタは更にまくし立てる。

 そもそもシエラからしてみればアレッタが勝手にシエラを探している訳で、シエラもかくれんぼのように隠れている訳ではないのだ。ただシエラの性格から言って、そういう場所を好むだけで、あまり騒々しい場所や派手やかな場所には居る事は無いのだ。

 それはシエラから見れば自分がそういう場所に相応しくないと自然と思ってしまうからだろう。やっぱりシエラは自分が妖魔というコンプレックスを自然と抱えているみたいで、自然と他の精霊と出会わない場所を好むようになってきただけだ。

 そうとうは知らないアレッタとしては、もっとシエラを他の精霊達と交流を持ってもらいたいと思いながらも、自分との交流をもっと深めたいのだろう。だからこそ、こんな場所にまでシエラを探しに来るのだ。

 まあ、当のシエラは半分ほど迷惑していたのだが、半分だけ嬉しいとも思っていた。それはアレッタがそれだけシエラの事を気に掛けていることの証明だからだ。たとえその行動がシエラにとって迷惑になるものであっても、その根源はシエラを思っての行動だという事をシエラは知っている。だからアレッタを拒絶する事はシエラはしなかった。それどころか少しずつではあるが二人の距離は縮まっているのをシエラもアレッタも感じていた。

 だからだろう、今になってアレッタがシエラに向かって散々文句を言っているのは。それはそれだけ二人の距離が縮まって、言いたい事を少しだけ言えるようになってきた証拠なのだから。

 だがシエラにとっては迷惑な事は変わりない。だからと言ってアレッタを拒絶する事が出来ないシエラはしかたなく、アレッタの文句を聞き流しながら適当に相槌を打っているのだった。

「だからシエラも自分の態度を考え直すべきだと思うのよっ!」

「はいはい」

「はいは一回で良いのっ!」

 ここまで文句を言い続けたアレッタだがシエラの態度からやっと自分の話が聞き流される事に気付いたみたいで、アレッタは腰に両手を当てると思いっきり溜息を付いた。どうやらアレッタも察したようだ。これ以上はシエラに何を言っても無駄だと。

 それはアレッタもシエラと接していて何度か感じた事がある壁だった。アレッタはシエラにもっと社交的とか他の精霊に会わせてあげるとか、そんな話をし始めると必ずシエラは拒絶した。そしてそこからはどんなにアレッタが説得してもシエラは決して受け入れる事が無かった。まるで二人の関係に一線が引かれたようにシエラはそれ以上はアレッタを受け入れる事は無いのだ。そんな経験をアレッタは今までに何度もしている。

 だからシエラにこれ以上は何を言っても受け入れる事が無いという事を知っていたのだ。だからこそアレッタは諦めたようにシエラの隣に座ると、シエラも再び腰を下ろした。

 そうなると自然と二人とも黙り込み沈黙が立ち込めるだが、その沈黙を破るのはいつもアレッタだ。アレッタはシエラが一線を引いたと感じるといつも溜息を付いては話を切り替えてくるからだ。そんなアレッタの心遣いがあったからこそシエラもここまでアレッタに気を許す事が出来たのだろう。

 今回もそんないつものようにアレッタから沈黙を破ってきた。

「そういえばさ、この辺りなのよね」

「何が?」

「温泉よ温泉、この前話したでしょ」

「この前? ……あぁ、そういえばそんな話を聞いたような気がする」

 どうやらシエラはすっかり忘れていたようだが、アレッタは少し前にビルの屋上で話した事をしっかりと憶えていたようだ。それにアレッタとしてもシエラと一緒に温泉に入りたいという気持ちがあったのだろう。そんな気持ちがあったからこそ温泉の事を憶えていたのだ。

 だからとアレッタは丁度良く、その話を思い出したのと共にあの時の約束も思い出した。

「丁度良い機会だから、これから一緒に温泉に入りに行こうよ。この前も一緒に入りに行くって約束したでしょ」

 そんな事を言い出したアレッタに対してシエラは即答する。

「嫌」

「なんでっ!」

 予想外の答えにアレッタは驚きながらも不貞腐れた。なにしろ約束したのは事実であり、その約束を反故にされるのはアレッタとしても気に食わないのだ。だからこそアレッタはシエラの肩に手を回して抱き寄せると、シエラの柔らかい頬を突っ突きながら再び文句を言い始めるのだった。

「この前は一緒に行くって約束したでしょ」

 そんな事を言って来たアレッタの指を頬から払いのけるシエラだが、今回のアレッタはかなりしつこく一度だけ払い除けられたとはいえ、シエラの頬を突付くのを止めなかった。そんなアレッタにシエラは諦めたかのように溜息を付くと呆れた顔をアレッタに向けた。

「確かにそんなような約束はしたけど、しっかりと行くと返事をした憶えは無い」

 確かにシエラははっきりとアレッタと約束を交わした訳ではない。ただ一緒に行ってもいいぐらいの返事をしただけだ。だからシエラとしては相当気が乗らない限りは、アレッタと一緒に温泉に行く気にはなれなかった。

 そんなシエラの返答にアレッタは不満げな声でシエラが反論できないような事を言ってくる。

「それはつまり曖昧な返事しかしなかったって事でしょ。それって逆に言えばいつでも一緒に行くって意味に受け取っても構わないわよね」

「どうしたらそんな結論が出てくるの?」

「だってシエラが曖昧な返事しかしなかったって事は、絶対に行かないという意味じゃないし、機会があれば何時でも行くという意味を含むと思わない」

「まあ……それは」

 どうやら今回に限ってはアレッタの方が完全に正論のようだ。

 確かにシエラはアレッタとの約束に曖昧な返事しかしていない。それは少し見方を変えれば機会があればいつ行っても構わないと受け取られても、シエラには文句が言えないという事だ。

 まさかアレッタからそんな正論が飛び出してくると思っていなかったシエラは断る理由を何とか探し出そうとするが、どう考えてもアレッタとの約束がある限りはアレッタに理があり、シエラにアレッタの申し出を拒絶する権利は無いのと同然だ。

 そんな状況にシエラは諦めたかのように溜息を付くと、未だに抱き付いているアレッタを突き飛ばして無理矢理引き剥がした。それからシエラはアレッタに向けて笑みを向けた。こうなってしまえばシエラも諦めるしかなかったのだろう。

 確かにシエラの心境から言っても懸念が消え去ったわけでは無い。ただ相手がアレッタだけに心のどこかで油断していた事もあり、ただ温泉に入りに行くだけだから問題は起きないだろうとシエラは思っていた。

 だがシエラもアレッタの申し出を理由も無しに断っていた訳ではない。ただ温泉だとどうしても肌を晒す事になる。それだけなら問題無いのだが、何かの拍子にシエラが妖魔だという事実が知られる可能性が高くなるというだけだ。

 そもそも妖魔という印しは体のどこかに現れるものだが、シエラは過去の経験からどんな状況になってもそう簡単に自分が妖魔だと悟られないように工夫している。つまり過去の経験からそんな工夫をしており、更には妖魔だという事実を悟らせる機会を減らすために、シエラは他の精霊に肌を晒す機会を少なくしていたのだ。

 だからアレッタが温泉に行こうと言い出しても曖昧な返事しかしなかったし、先程も即答で拒絶したのだが、アレッタにそこまで言われるともう嫌とは言えない状況に追い込まれてしまった。

 だからこそシエラはアレッタに向けて笑みを向けると溜息混じりに返事を返した。

「アレッタがそこまで言うならしかたない……か」

「やった」

 シエラが承諾した事で思わず喜びの声を上げるアレッタ。まあ、アレッタとしてもこうやってシエラとの親交を深めていくのが今では一番楽しい事なのだからしょうがないのだろう。

 だから二人は一斉に飛び立つとアレッタの先導で温泉に向かう事になった。



「……変な臭いがする」

 温泉に着くなりシエラがそんな事を言い出した。まあ、シエラの前に広がっている温泉地帯は完全に天然温泉であり、硫黄の臭いがそこら中に広まっていても不思議は無かった。けれどもアレッタから、これが温泉特有の臭いだと聞かされるとシエラもそんなものなのかと納得した。シエラも温泉自体は知識として知ってはいたが、こうして実際に目の当たりにするのは初めてだ。

 だからアレッタが調子に乗って嘘の事を言い出したりもしたが、温泉の知識を知識書からしっかりと学んでいてシエラの一撃を喰らって反省する場面もあったが、そんなお茶目な行動を取りながら温度が丁度良い温泉へと二人は到着した。

 精霊なら溶岩風呂でも入れると思われがちだが、それは間違いである。確かに精霊は身体と言う物を持っていないエネルギーの結晶体に過ぎない。だからどんな事をしても死なないし、病気にもならない。自ら死を願わない限りは精霊は死なないのだ。

 けれどもそんな精霊にも痛覚などの神経は存在してた。だから精霊も痛みを感じるし、熱湯に触れれば熱いと感じる。

 まあ、属性によってはそういう物を中和して何も感じなく出来るが、二人とも翼の精霊である。だから熱に関する属性は持っておらず、人間と同じような温度の温泉でなければ入れないのだ。

 そういう痛覚があるからこそ戦闘でも自分がダメージを負ったという事が認識できるのだ。もし痛覚がなければダメージを負った事に気付かずに、いつの間にか致命傷を喰らってしまうだろう。そんな事を避ける為に精霊にも神経という物が宿っているのだ。

 そして二人とも蒸し暑い中を入れる温泉を求めてここまでやってきたという訳だ。温泉に到着するとアレッタは早速とばかりに着ていた服をいつの間にか全て脱いでいた。そんなアレッタをシエラは呆れた視線を向ける。

「アレッタ……いつから露出狂になったの?」

「いきなり失礼な質問をしないでよねっ!」

 さすがにシエラの一言に怒るアレッタ。当然アレッタにはアレッタなりの理由があるからいきない裸になったのだ。

「こんな場所に他の精霊がほいほいと来るわけないでしょ。それに温泉は服を脱いで入るものなのよ。だからシエラも早く服を脱ぎなさいよ」

 そう言いながらシエラの服を脱がそうと迫ってきたアレッタをシエラは思いっきり蹴飛ばすと、辺りを確認する。さすがに精霊といえども羞恥心といった一般的な常識を持っている。まあ、アレッタはここで精霊に出会った事が無いから大胆な行動に出たのだろうが、初めてのシエラはやっぱり野外で肌を晒す事に少し抵抗を感じているようだ。

 けれどもいつまでもじっとしていたら再びアレッタが来るのは分りきっている。だからシエラは湯気の濃い場所を選んで、そこで服を脱ぎ始めた。まあ、そんなところに入った時点で湯気で服が濡れるのは当たり前なのだが、今から全部脱ぐのだから関係無い事だし。後で翼を使って風を起こせばすぐに乾くのは確実だった。だからこそシエラはそんな場所で服を脱ぎ始めて、脱いだ服を虚空へとしまったのだった。

 その頃には蹴飛ばされて、どこかの温泉に落ちていたアレッタも戻って来ており、服を脱いでいるシエラを素直に大人しく待っているのだった。

 そして服を脱ぎ終えて、温泉に入る準備が出来たシエラが湯気の中から出てきた。そんなシエラをアレッタはまじまじと見詰める。

「何?」

 アレッタに見詰められて一瞬だけ鼓動が大きくなるシエラ。なにしろシエラは妖魔である。その証拠は何かをしない限りはアレッタにバレる事は無いが、こうやってまじまじと見られると恥ずかしいと共に妖魔だとバレないかと心配になってくる。

 けれどもアレッタからは別な事が口から言葉として飛び出してきた。

「シエラ……髪が長くて良いな~。私も長くしてもらうように頼んでみようかな」

 そんな事を言い出してきたアレッタ。確かにシエラの白い肌を隠すかのように流れる白い髪はシエラの美しさを更に引き出していた。それだけにアレッタもそんな事を言って来たのだろう。

 ちなみに精霊の外見は生まれた時に大体決まる。けれども中には気分転換や戦闘的な理由から外見を変えたいという精霊も出て来ても不思議ではない。そういう場合は精霊王に頼み、その願いが受理されると外見を変える事が出来るのだ。

 つまり精霊王の力が一時的に無くなる争奪戦が始まると外見は変えられなくなる。だから今のうちにアレッタは自分の外見を変えようと思ったのだろう。まあ、確かにシエラの長い髪を見ればアレッタも憧れる気持ちも分る。

 けれども当のシエラはそんな風には思ってなかった。アレッタは髪を長くしようか自分の髪をいじりながら考えているのを見ながら、自分の髪を長くした理由を思い出してしまった。それは妖魔だとばれないように工夫した時の事だ。シエラはその時に今の髪型に変えてもらったのだ。

 そんなシエラの心境に気付かないままにアレッタは自分の髪から手を離すと、シエラの手を取って引っ張り出した。どうやらこのまま温泉に連行しようというのだろう。シエラとしても温泉に入りに来たのだから素直にアレッタに連行されるのだった。

 そして目的の温泉に付いたのだろう。アレッタはその温泉を紹介するかのように両手を思いっきり広げてシエラに温泉を見せた。

「じゃーんっ! ここが私が見つけた温泉だよ。広さも深さも丁度良いでしょ。それに水温も少し高めだけど、そこがまた良いのよ」

 一気に温泉の説明をするアレッタ。そんな説明を受けてシエラも温泉を見渡してみるが、確かに広さも申し分が無いほど広いし、深さは入ってみないと分らないが、水面から見える限りでは水底は起伏があり、シエラが座っても肩まで付かれる場所があるのは確かなようだ。

 そんな温泉を見てシエラもアレッタに向けて笑みを向けると頷いた。どうやらシエラもこの温泉に満足したようだ。

 普通の人間なら更に温泉の効能を気にするところだろうが、精霊のシエラ達にしてみれば効能などは関係ない。なにしろ効能が作用する身体が無いのだから、温泉を充分に満喫できる状況さえ整っていれば良いのだ。

 そんなシエラの笑みを見てアレッタは再びシエラの手を取ると温泉に向かって走り出した。そんな状況にシエラはつまづきそうになるが、なんとかアレッタの歩調に合わせることが出来た。そして次の瞬間にはアレッタは思いっきりジャンプして、シエラごと温泉に飛び込むのだった。

 まさかいきなり飛び込まされるとは思っていなかったシエラはアレッタと同じ軌道を描いて温泉に突っ込んで行ってしまった。そして大きな湯柱が立つと、それはすぐに無数の水滴となって二人に降り注いだ。

 そんな中でシエラは呆れたを通り越して少し怒り気味でアレッタに文句を言い始めた。

「アレッタ、マナーが悪い」

「誰も居ないからいいじゃない」

 確かに温泉にはアレッタとシエラの二人っきりである。だからアレッタとしては、はしゃぐにしては充分な理由があるのだろう。そんなアレッタに向かってシエラは呆れたような溜息を付いた。

「そういう問題じゃない……けど」

 シエラはすっかり落ち着いた水面を見渡しながら、肩まで湯に浸かり、お湯の中で両手を思いっきり伸ばした。

「気持ちいい」

「そうでしょう」

 シエラの一言に満足げに答えるアレッタ。どうやらシエラの一言でシエラもこの温泉が気に入った事を察したようだ。現にシエラは幸せそうな笑みを浮かべながら温泉を堪能するかのようにお湯の中で手の平を使って身体を撫でる。

 精霊だからそうする事で温泉の効能が効くという訳ではないのだが、そうするだけで温泉が身体に染み込むような感じがしたからこそシエラはそんな行為をしたのだ。そんなシエラを見習ってアレッタも同じような事をするが、すぐに目の前に流れてきた物に目を向けるとシエラに向かって文句を言い始めた。

「シエラ、温泉に入る時は髪をまとめておきなさいよね。ほら、こんなにも広がってる」

 確かにアレッタが指摘した通りに、シエラの長い髪は水中に沈む事無く、水面を漂うかのようにシエラを中心に広がっている。だからこそアレッタは文句を言ったのだが、そんなアレッタに顔を背けたシエラは一言でアレッタの言葉を蹴飛ばす。

「嫌」

 そんな一言に当然アレッタも文句を言い続ける。

「嫌じゃないでしょ。温泉に入る時は髪をまとめるのがマナーでしょ」

「アレッタにマナーを指摘されるとは思ってなかった」

「私は他の精霊に迷惑を掛けた訳じゃないからいいのよ。シエラの場合は私に迷惑を掛けてるでしょ」

「アレッタだからセーフ」

 どうやらシエラとしてはアレッタに少しぐらい迷惑を掛けようとも罪悪感はまったく無いらしい。まあ、いつもはシエラの方がアレッタに迷惑を喰らっているのだから、これぐらいは大目に見ても構わないとシエラは勝手に解釈しているようだが、当のアレッタはそうそう大目には見てくれることは無かった。

 シエラの言葉にアレッタから反論が来ると思っていたシエラだが、いつまでも来ないアレッタの言葉にシエラは疑念を抱くとアレッタに目を向ける。するとそこにはアレッタの姿は無かった。

 アレッタ……一体何処に? アレッタが姿を消した事で警戒するシエラ。あの程度の事でアレッタが怒って温泉から出たとは考え辛い。そうなると……またアレッタがシエラに対して悪戯を仕掛けようとしているのは明白である。

 だからこそシエラはアレッタの姿を探すのだが湯気が邪魔をしてアレッタの姿を見つける事が出来なかった。そんな時だった。突如としてシエラの後ろから湯柱と共にアレッタが姿を現した。シエラが振り向く頃には、もうすでに遅く。アレッタはシエラに思いっきり抱き付き、そのまま思いっきり抱きしめた。

「さあ、これで逃げられないわよ。シエラ、観念しなさい」

「私は何に対して観念すれば良いの?」

「どうやら諦めたようね。じゃあ、早速行くわよ」

 シエラの疑問に答える事無くアレッタは行動を始める。そんなアレッタに対してシエラは溜息を付くしかなかった。そして突如として胸に変な感触を憶えるシエラは確認する事無く、頭を思いっきり後ろに振り上げてアレッタの顔面にぶつけた。どうやらシエラの胸を揉んできたアレッタにシエラの反撃が入ったようだ。

 そんなアレッタは片手でシエラが逃げないように抱きしめながら、片手で先程頭突きを喰らった箇所を擦りながら話しかけて来た。

「いきなりこれは無いでしょ」

「アレッタがいきなり変な事をするから」

「別に変な事じゃなくてコミニュケーションの一つよ。それにしてもシエラ、シエラも胸を大きくしてもらえば良いのに」

「そうすればアレッタも揉み易くなるから」

「そうそう」

 再びアレッタに頭突きを喰らわせるシエラ。まあ、シエラとしても冗談だという事は分ってはいるのだが、相手がアレッタだとなると突っ込みがどうしても痛い物が多くなるようだ。そんな突っ込みを喰らったアレッタは涙目でシエラに訴えかける。

「シエラ、せめてもう少し手加減して」

「気が向いたら。それで、なんでそんな場所に居る訳?」

 今更というかやっとその事に触れてきたシエラに対してアレッタはすっかり痛みが引いた顔から手を離すと、水面に広がったシエラの髪を集めてまとめ始めた。どうやらアレッタとしてはあのままシエラの髪が水面に漂っているのが我慢できなかったようだ。だからこそシエラの髪をまとめるためにシエラの後ろを取ったのだ。

 シエラもそんなアレッタの行動に文句を言う事無くアレッタの好きにさせた。シエラとしてはあのまま髪をまとめるような事はしたくなかったのだが、それはシエラの長い髪はシエラが妖魔である事を隠す一つの要因となっているからだ。けど、アレッタがこういった行動を取った時には何を言っても無駄だと悟っているシエラは何も言わずにアレッタの好きにさせた。シエラとしても自分が妖魔だとバレる工夫は長い髪だけでは無いからだ。

 だからこそシエラはアレッタの好きにさせて、アレッタはシエラの髪をまとめて上げると満足げに頷いた。

「やっぱり温泉にきたらこうじゃなくちゃね」

「何がこうなの?」

「それにしてもシエラが髪型を変えた姿を見た事が無いから新鮮よね」

 シエラの疑問をすっかり無視したアレッタは満足したようにシエラから離れるとそんな言葉を口にした。確かにシエラは常に長い髪を真っ直ぐになびかせている髪型にしている。だから髪を上げたシエラはアレッタの目には新鮮に映ったのだろう。

 シエラとしても髪型を変えた事に抵抗を感じていたが、それが今更何かに繋がるとは思っていなかったのだろう。それは油断とも言える行動だと悟るのはもう少し先の事だ。

 シエラが髪型を変えた事を良い事に、すっかりシエラをおもちゃにしようとしたアレッタはいつも見る事が無かったシエラの背中に注目した。

 湯気と水面の揺れでしっかりと分らないが、シエラの背中は細く。シエラの身体が華奢な事を改めてアレッタは実感した。そんなシエラがあんなでかいウイングクレイモアを振るってくるのだから、どうやって操っているのかアレッタには想像も付かなかったし、シエラに問い掛けても教えてくれない事は分ってる。幾ら二人の仲が良くなったと言ってもシエラが手の内を晒すような言動はしないとアレッタも分っていたからだ。

 それと同時にアレッタにはとても興味深い疑問が湧き出してきた。翼の精霊を例に上げても翼の属性を持っている精霊は背中に翼を生やしている。鳥系統の精霊を思い出してもらえばすぐに分る事だろうが、翼の属性を持っている者は背中に翼を生やす事が常識となっている。

 けれどもシエラが背中に翼を生やしたところアレッタは一度も見た事が無かった。それだけシエラのウイングクレイモアを使った戦術は完璧であり、背中の翼を使うよりそうした方がシエラにはあっているとアレッタも感じていたからだ。

 だからだろう、アレッタがシエラの背中に翼を生やした姿を見てみたいと思ったのは。それはアレッタにとってはただの悪戯だっただろう。それがシエラにとっては深刻な事だとはアレッタは知りもしないのだから。

 温泉に浸かったシエラの肌はすっかり熱を帯びて赤くなってきた。どうやら精霊でものぼせるという事があるみたいだ。まあ、精霊でも神経があるからにはのぼせるのも不思議ではない。そんなシエラに向かってアレッタは話しかける。もちろん、先程思い付いた悪戯を実行するために。

「シエラ、少し上がったら。あまり温泉に浸かりすぎてるとのぼせるわよ」

「……そうね、少し冷まそうかな」

 そんな事を言って立ち上がったシエラは座るのに丁度良い岩場に向かって歩き出す。そこは温泉の中にあり、火照った身体を冷ますには丁度良い場所と言えるだろう。そしてシエラはお湯を掻き分けながら歩いていると、後ろからポチャンと小さな湯柱が上がるのを目にした。そしてアレッタの姿が消えている事を確認した。

 ……また? そんな事を考えるシエラ。どうやらアレッタがまた悪戯を思いつた事はシエラにも察しが付いているようだ。だからこそシエラはアレッタを無視しながら岩場へと向かった。今度はどんな反撃をしようかと考えながら。それがまさかあのような事態になるとは当のシエラも思っていなかっただろう。

 だからこそ今は火照った身体を冷ますために岩場に腰を下ろして、温泉で暖まった風を感じながら体を冷ましていたのだった。

 そんなシエラの背後からアレッタの手だけが水面から手を出してきた。あまりにも静かなアレッタの行動にシエラも気付きはしなかった。そしてアレッタの手はシエラの背中に近づくと一気に翼の属性を発動させてシエラの背中に向けて流し込んだ。

「なにっ!」

 あまりにも思い掛けない事でシエラは思わず立ち上がろうとするが、それよりも早くアレッタが姿を現すと、立ち掛けたシエラの腰にしがみつくとそのままシエラが逃げられないように抱き付く。

「アレッタっ! 何をしてるのっ!」

 思わず叫ぶシエラ。けどアレッタはそれだけシエラが悪戯に驚いているものだと思ったようで、シエラが本当に拒絶していた事には気付く事は無かった。だからこそアレッタは笑顔でシエラに言葉を掛ける。

「いいじゃない、これぐらい。一度は見てみたいのよ、普通に翼を生やしたシエラの姿を」

 そんな事を楽しげに言ってくるアレッタ。確かに翼の精霊にとっては背中に翼を生やすのは普通と言うのが常識となっている。けれどもシエラにはそうしてはいけない理由がある。だからこそシエラは本気でアレッタを引き剥がそうとするが、シエラが抵抗すればするほどアレッタの悪戯心に油を掛けたようでアレッタはシエラを離す事が無く、翼の属性をシエラの背中に向かって発動し続ける。

 そうする事でアレッタの力を借りてシエラの背中からシエラが持っている翼が強制的に生えてくる。そしてその翼は一気にその全容をあらわにした。そして目的を果たしたアレッタはようやくシエラから離れるとシエラを見ながら口を開く。

「やっぱり翼の精霊なんだから、この姿じゃないと。シエラだってそう……」

 アレッタの言葉は最後まで出る事が無かった。なにしろシエラの翼は真っ白ではなく、翼の根元だけは黒くなっており、先端に向かって一気に白へとグラデーションの色をした翼がアレッタの瞳に写ったからだ。

「……シエラ……その翼……」

 まさかシエラからこのような翼が生えてくるとは思っていなかったアレッタは言葉を失ってしまった。そしてシエラの姿を驚きの眼差しで見ていた。

 一方のシエラは迷っていた。これで自分が妖魔だという事がアレッタに知られたわけだ。けどアレッタなら自分を受け入れてくれるのでは無いのかという希望と以前に体験した精霊達と同じような視線を向けているのでは無いのかとシエラは振り向く事が出来なかった。

 静寂がその場を支配した。まさかこのような事態になるとは二人とも思っていなかったのだ。シエラもまさかアレッタがあんな行動を取るとは思っていなかった。それだけアレッタに心を許していた証拠でもあり、自分が妖魔だと悟らせないようにしていた警戒心が油断していた証拠でもあった。

 アレッタもまさかシエラからそんな翼が生えるとは思っていなかった。そして、その翼が意味する事がすぐに理解できなかったアレッタだったが、少しの静寂がアレッタを冷静にさせてその翼が示している意味をアレッタに理解させた。

「シエラ……妖魔……だったの?」

 言葉を途切れさせながらもシエラに尋ねるアレッタ。けれどもシエラからの返答は無かった。

 シエラもどう答えて良いものかと迷っていた。このまま正直に全て話すべきだろうか、それとも今すぐこの場から離れるべきなのか。どちらを選べば今までのようにアレッタと接する事が出来るだろうか、それとももうそんな時間は来ないのだろうか。様々な思いと考えがシエラの胸と頭に去来する。

 いつまでも黙っているシエラにアレッタも焦りが生じたのだろう。再びシエラに呼び掛ける、というよりかは叫ぶのと同じだった。

「シエラっ!」

 そんなアレッタの叫び声にシエラは驚いたかのように身体が跳ねると、次の瞬間にはシエラは背中に生えた翼を使って空に舞い上がっていた。いきなり飛び上がったシエラに対してアレッタの叫び声が聞こえたが、シエラはそんなアレッタの叫びを無視して飛び続けた。



 どれぐらい飛び続けたかは分らない。けれども先程の温泉地帯が見えなくなった事を確認したシエラはやっと自分が未だに裸である事に気付いた。そこで丁度真下にあった森に着地すると、飛び続けた事ですっかり乾いた髪を解くと、身体も冷めるほど乾いており、その場で背中の翼をたたんで翼の属性を抜くとシエラの背中に生えた翼は体の中へと戻っていった。それからやっと服を着始めるシエラ。

 ……逃げ出してきた……アレッタの……本心を確かめないままに……。そんな事を考えながら服を着るシエラ。そんなシエラの胸には二つの思いが葛藤していた。先程の温泉に戻ってアレッタの本心を確認したい気持ちとこのままどこかに行ってしまいたい気持ち。

 けれどもアレッタが他の精霊と同様にシエラを差別するようになったら、ここに居られないのは確実である。そう考えるとシエラの考えは逃げるかのように決まった。

 服を着終えたシエラはウイングクレイモアを取り出すと再び空中に舞い上がる。そしてそのまま温泉とは反対方向に向けて一気に飛び出したのだ。

 それからシエラは昼夜を問わずに飛び続けた。少しでも早く今まで居た地区から離れたかったのだ。だからシエラは飛び続けた、幾つもの山を越え、町を通り過ぎて、最後には海まで渡った所まで飛び続けた。そして最後には大陸を抜けて極東の島国まで、つまり日本まで来てしまったのだ。



 やっぱり……私は何も変わってない。先程までアレッタの事について思い出していたシエラは再び顔を上げると目の前には少し濁った川が流れており、雨が作り出した波紋をすぐに消し去っている。

 再びそんな光景を目にしたシエラはもう一度同じ事を思う。

 ……アレッタの前からも……昇の前からも……私は逃げ出してきた。アレッタも昇も……私を受け入れてくれたかもしれないのに……私は……それを確かめる事無く逃げ出してきた。……惨め……だよね?

 誰に問い掛けたのか分らないシエラの心。それは誰にでもない、シエラは自分自身に問い掛けたのかもしれない。そんなシエラの心境を表すかのように雨は更に降り続け、シエラは架橋の下で更に身体を丸める。これからどうすれば良いなんて、今のシエラには分かりはしなかった。

 けれどもアレッタの時と同じように一気にこの町から離れようとはしなかった。なにしろシエラは昇と契約を交わした状態であり、このままどこに逃げても昇との契約がある限りは人間世界に留まり続けなければならないのだ。

 シエラが完全に逃げるためには誰かに負けて昇との契約を強制解除しなくてはいけないのだから。けれども昇なら自分を受け入れてくれると希望を抱いているシエラは自分を倒してくれそうな精霊や契約者を探そうとは思わなかった。それだけシエラの心には昇の言葉が残っているのだ。

 それはシエラがこの国を放浪しながら争奪戦の開始を知らされて、そして自分を受け入れてくれそうな契約者を探している時だった。偶然にも昇と琴未に出会ったシエラは、二人に精霊王の器がある事に気付いて二人の後を付いていくと、そこで昇からまるでシエラに向けられたような言葉をシエラは聞いた。

 だからこそシエラは昇を契約者として選んだのだ。その言葉をシエラは思い出してみる。

 それは昇と琴未が犬の死骸を見つけた時の事だ。その犬はとても犬とは思えないような顔をしていたためか、誰かに飼われる事も餌を与えられる事も無く餓死していた。そんな犬を見て昇はその言葉を口にした。『犬は犬なのに変わりないのに、それなのに少し違うからと言って』シエラがそこまで思い出すと誰かの声がシエラに向かって放たれた。

「シエラ……やっと見つけた」







 そんな訳でやっと終わりました~、シエラの回想です。……予定していたのよりもかなり長くなってしまいました。ちなみに今回の話だけで約一万六千字ほど使っております。

 ……久しぶりに長くなったな~( ̄ω ̄;;)

 当初の予定ならこんなにも長くするつもりは無かったんですけどね~。それが書いている間にいつの間にかこんな長さに……まあ、いつもの事だよね~。以前にもかなり長くなった事もあるし、まあ、恒例行事という事で大目に見てもらいましょう。

 さてさて、そんな訳で更新にちょっと間が空いてしまいましたが……今の時期は辛い物が多すぎです。花粉症に風邪が上乗せされるともうどうして良いものか分かった物じゃありません。そんな訳で一週間ほど、その二つに苦しめられて悶絶してました。……やっぱりこの時期は辛すぎます。そんな訳でちょっと更新が遅れました~、というか一週間ほど小説が書けない状況だったので……まあ、しかたないよね。

 さてさて、今回の後書きは更に続きますよ~。前回に引き続き、シエラが歌うシーンを入れたのですが……作詞って難しいっ!!! 曲が無くて詞だけを作るのって難しいですね~。今回はかなり長く作詞をしてみたんですが……かなり苦労しました。一応簡単なメロディーを思い浮かべながら書いたつもりですが、しっかりと作詞になっているのかは不明です。

 さてさて、ついでに今回の話で思った事がもう一つ。それは……やっぱり挿絵が欲しいよね~。という事ですかね。だってっ!!! シエラとアレッタの温泉シーンですよ。そこは挿絵が欲しいとは思いませんかっ!!! 特にシエラが服を脱いで登場したシーンなんて挿絵が必須ですよねっ!!! とまあ、そのシーンを書いている時にそんな事を思ってました。

 私自身、絵は得意な方では無いので挿絵を入れるのは確実に無理なのですが、挿絵を描いてくださる方もおらずに、未だに挿絵が入れられない状況です。まあ、そんな訳で皆さん……何とか脳内保管でお願いします。

 さてさて、白キ翼編も中盤へと差し掛かりました。そろそろ次を形にしていかないとな~と思いながらも、未だにやっていない状況です。いやね、つい断罪の方に手が回って、今の時期はそこまで時間が取れないのですよ。

 まあ、なんにしても、白キ翼編はこれから一気に激化して行く予定です。それはもうかなり派手に。そんな白キ翼編をこれからもよろしくお願いしますという事で締めますね。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、GWを過ぎる頃まではこんな状態が続くな~、と今までの経験から悟っている葵夢幻でした。

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