第百三話 破壊と破壊とやっぱり破壊
いったい何処まで行くんだよ~。
昇達の戦闘が始まるとすぐに移動を開始したエリンを追ってミリアも駆けずり回っていた。ミリアとしてはすぐに戦闘が始まると思っていただけに、エリンの行動は予想外でもあり、いつまで経っても立ち止まろうとしないエリンに飽き始めていた。
それでもミリアがエリンを追う事が出来たのはエリンの移動方法が関係していた。なにしろ昇達が出会った場所は込み入った商店街だ。そんな店やビルが立ち並ぶ場所での移動でならミリアがエリンを見失っても不思議では無いだろう。
けれどもエリンは手にしているエルターレフレイルの一撃で移動の邪魔となる店舗などを破壊しながら一直線に突き進んでいるのだ。
そんな移動をしているのだからエリンの後を追うミリアはエリンの破壊力に少しだけ驚きながらもエリンの後を追って駆けているのだが、そろそろ飽きてきたようだ。なにしろ、すでに昇達が戦っている地点からはかなり離れている。そんな場所にまで移動してきたのだからエリンには何かしらの思惑があると閃華辺りなら気付くだろうが、ミリアはエリンを追う事に飽き始めていた。
だからこそ障害物を壊しながら突き進むエリンに向かってミリアは思いっきり叫ぶのだった。
「いったい何処まで行く気だよ~っ!」
そんなミリアの叫び声がエリンに届いたのか、エリンは前進をやめると辺りを見回した。そしてミリアに振り返ると思いっきり笑みを浮かべた。
「あははっ、ごめんごめん、思わず夢中になっちゃってこんな場所にまで来ちゃったよ」
そんなエリンの言葉にミリアは突っ込みを入れると思いきや、思いっきり頬を膨らませて文句を言い出した。
まあミリアがそんな状態になったとしてもしかたないだろう。なにしろシエラが張った精界の端近くまでミリア達は移動したのだから。そんな場所まで引っ張ってこられたミリアにしてみれば不貞腐れて当然なのかもしれない。
「だからって、わざわざこんな場所にまで来なくてもいいでしょ~。なんでこんな端っこまで移動しなきゃいけないんだよ~」
そんなミリアの文句にエリンは笑って誤魔化すかのように笑うと、手にしていたエルターレフレイルを肩に担いだ。
「だからごめんって誤ったじゃん。それにローシェンナの近くで戦うとローシェンナが怒るんだよね。なにしろ……僕って破壊を得意としている火山の精霊だからね」
「へぇ~、火山の精霊なんだ……というか火山の精霊ってどんなの?」
そんなミリアの質問にエリンはずっこけると思いきや、逆にミリアの質問がそんなに面白かったのか、楽しげに笑い出した。
「あははっ、火山の精霊は火山の精霊だよ」
「う~、だからその火山の精霊が何なのかって聞いてるんだよ~」
そんなミリアの質問に近い文句にエリンは更に楽しげな顔をすると、今度はミリアに向かって質問をぶつけてきた。
「そっちこそ何の精霊なの?」
「私は大地の精霊だよ~」
素直に答えたミリアにエリンは何度か頷くとエルターレフレイルをミリアに向けて突き出してきた。
「じゃあ大地の精霊って何?」
突然の質問にミリアは首を傾げながらも、また素直に答える。
「大地の精霊は大地の精霊だよ~」
「僕も火山の精霊だから火山の精霊だよ」
「そっか~、そういう事なんだ~」
何故かそんな会話で納得をするミリア。そもそもミリアの質問自体に意味が無いのだ。相手の精霊が何なのかを聞くのは、そこから相手の属性を推測して、これからの戦いを有利に運ぶためにそんな会話が普通に行われている。
だから相手の精霊が何なのかさえ分かれば、それ以上の質問は意味を成さない。けれどもミリアは異常なほどに、いや、聞きなれない……ではないな。すっかり忘れている火山の精霊という言葉によっぽど引っ掛かりを覚えたのだろう。だから火山の精霊が何なのかとしつこく質問をしたのだ。
けれどもそれは先程の会話で分るとおり、火山の精霊とは通常の精霊と同じく、人間の火山に対する恐怖心や恐れ、そして信仰などから生まれた精霊であり、それ以上でも以下でもなかった。つまりは先程の会話に深い意味は無く。二人とも遠回しの自己紹介をしたに過ぎないという事だ。
そんな状況をやっと理解したミリアはようやくアースシールドハルバードを構えた。それはすでにエリンの突き出したエルターレフレイルに対して、ようやくミリアが見せた交戦する意思の表れと言えるだろう。
そんなミリアを見たエリンはエルターレフレイルを構えながらも辺りを見回した。辺りは閑散としており、遠くからは昇達が戦っている音がようやく聞き取れるほど静かだった。そんな状況にエリンは笑みを浮かべるとミリアに向かって笑顔ではなく、鋭い眼差しを送ってきた。
その事にミリアは攻撃が来ると構えるが、エリンから放たれたのは攻撃ではなく言葉だった。
「僕ってさ……何かを壊すのが好きなんだよね」
突然の言葉にミリアは気を許しはしないが、少しだけ首を傾げながら言葉を返した。
「それが何だって言うんだよ~」
確かにミリアが言ったとおりにエリンの言葉に何の意味が含まれているのかは、ミリアにはまったく分っていなかっただろう。そんなミリアに対してエリンは顔付きを変える事無く、言葉を返してきた。
「そのまんまの意味だよ」
そんな言葉を放ったエリンは口元だけに笑みを浮かべて見せた。その事にミリアはいつでも動ける体勢に持って行くと、少しずつ足を動かし始める。そうすればどんな事態になってもすぐに動けるからだ。
そんな行動を取りながらもミリアは言葉を返した。
「さっきから何を言ってるのかまったく分らないよ~」
確かにエリンの言葉は断片的でミリアには分りずらいのかもしれない。けれどもエリンとしては直接的に言ったつもりだったのだろう。エリンは軽く溜息を付くと、一気に鋭い視線をミリアに向けて、その場から大きく跳び上がった。
「要するに……君とこの辺りに有る物を全部壊すのが僕の趣味ってことなんだよ!」
そんな言葉を発しながら一気にエルターレフレイルを振り下ろすエリン。ミリアは一瞬だけそんなエリンの攻撃を受け止めようとしたが、すぐに回避行動に入ってその場から離れる。
ミリアがそんな行動を取った最大の理由はエリンの武器にある。エリンのエルターレフレイルは棒の先端に鎖が付いており、その鎖は大きな鉄球と繋がっている。つまりはエルターレフレイルの棒の所だけを防いだとしても、後には大きな鉄球がミリアに向かって迫ってくる。
要するにエルターレフレイルとは最初から二段攻撃が出来る武器だという訳だ。だからこそミリアは防御ではなく回避という手段を取ったのだ。
けれどもミリアは更に驚かされる事になる。
それはエリンの攻撃で最大の特徴である鉄球が地面に激突したときだ。その瞬間にアスファルトは一気に砕け散り、その下にある地面までをも吹き飛ばした。
うわ~、破壊力だけならお師匠様ぐらいあるよ。そんなエリンの攻撃を見たミリアはそんな印象を受けると共にやっと火山の精霊に付いて思い出した。つまりはミリアは以前にラクトリーからちゃんと火山の精霊について教わっていたという事だ。
えっと、確か……火山の精霊って大地と火の属性を持ってるんだよね~。そっか~、だからあれだけの破壊力が出せるんだ。そんな事をやっと思い出したミリア。けれども思い出しただけで、その対抗策や交戦方法を思いついた訳ではない。だからこそ、ミリアはエリンの一撃に少しだけ驚くと共に隙は見せていないものの足は完全に止めてしまっていた。
そんなミリアに遠慮する事無く再びエリンはエルターレフレイルを振るってくる。今度は横一線に振るってきており、ミリアはすぐに身を屈めてその攻撃を避けるが、エルターレフレイルの鉄球は周囲にある店舗の内、その何軒かを一撃で破壊した。
その破壊力を示すかのように鉄球の当たった店舗は弾き飛ばされる形で破壊されており、その攻撃を喰らったら、いくらミリアでも無事では済まない事を示していた。
けれどもミリアはそんなエリンの破壊力を見ても怯むどころか平然としていた。
「はぁ~、凄い破壊力だね~」
「当たり前だよ、それが僕が持っている溶解の属性が有している特徴の一つだからね」
あっさりと自分の事を話すエリン。どうやらこの子もミリアと同じくバ、いや、素直な精霊なのだろう。
そんなエリンの言葉を聞いてミリアは溶解の属性についてラクトリーから教わった事を何とか思い出していた。
えっと……確か溶解の属性って、破壊するだけじゃなくて。物体を溶かして破壊するんだよね。確かそうだったはずだよね~。誰に向かって確認したのかは不明だが、ミリアが思い出した事は当たっていた。
確かに溶解の属性が最大限にその破壊力を発揮する時は大地の属性を生かした破壊力に火の属性を加える事で破壊するだけでなく、触れたものを溶かしてしまう性質を持っている。つまりはエリンが本気で戦う時は鉄球の破壊力に火力も付加されて更に強力な一撃になる事をミリアはようやく理解した。
その事を理解したミリアはようやくエリンに対する対抗策を考え始めた。
う~ん、そうなると下手に防御すると突き破られる可能性が有るってお師匠様が言ってたっけかな~。確か……相手が同じ大地の属性で破壊力に対してこちらが対処する手段は……。
そんな事を考え始めたミリアは思わず体勢を崩してしまい、考え込むような仕草をしてしまった。どうやらミリアに考えながら戦うという事は未だに高度な技のようだ。
当然エリンがそんなミリアの隙を見逃すはずも無く、再びエルターレフレイルを振り上げると一気に振り下ろしてきた。そんなエリンの動きと殺気にミリアもいつまでも考え込んでいるわけにもいかず。ラクトリーに仕込まれた条件反射によりエリンの攻撃をなんとか避けたが、エリンはここぞとばかりに連続でエルターレフレイルを振るってきた。
そんなエリンの連続攻撃にミリアは体勢を崩さないように避けるのが精一杯だ。なんとかバランスを保ちながらエリンの攻撃を避け続けるミリアだが、その動きは傍から見ればかなり危ないと感じる物があった。
なにしろ本来ならミリアは防御を得意としており、相手の攻撃を避けるという行為にはあまり慣れていないからだ。だからミリアにとって相手の攻撃を避け続けるという事はかなりの重労働だった。
だからだろうミリアは自分の得意な戦略に持って行くために思いもよらない行動を取ったのは。
ミリアは横に振られたエルターレフレイルの鉄球を顔面すれすれで避けるとその場に大きく踏み込んで、ふんばる体勢に持って行く。そのままアースシールドハルバードを前面に押し出すと再び攻撃してきたエルターレフレイルの棒を見事に避けてみせる。
けれども棒を避けても次には鎖で繋がっている鉄球がミリアへと迫る。だが、そこにこそミリアの狙いがあったのだ。
棒の軌道に沿ってミリアへと迫る鉄球。ミリアは素早くアースシールドハルバードを鉄球に向けるとそのまま鉄球をハルバードで受け止めてしまった。さすがにかなりの衝撃がミリアに伝わってきた。その証拠としてふんばっていた足が数センチほど衝撃で地面を擦るように移動している。それだけでもエリンが放つ破壊力が凄まじい事を物語っていた。けれどもミリアはその攻撃を見事に受け止めたのである。ここぞとばかりにミリアは鉄球を弾いて反撃に転じようとするが、そんなミリアの動きを読んでいたかのようにエリンがエルターレフレイルの棒を突き出してきた。
なにしろミリアが攻撃に出ようとした瞬間を狙っての攻撃だ。ミリアはいきなり突き出された棒を避ける事が出来ずに、そのまま胸を突かれる事になってしまった。けれども所詮は棒だろうとミリアは思っていた。
なにしろミリアの精霊武具は大地の精霊でも防御に特化した精霊武具である。だから棒に突かれたぐらいでは逆に弾き返してしまうと思うほどの重装備だ。だからこそミリアは逆に突っ込んで行って棒を弾こうとしたのだが、弾かれてしまったのはミリアの方だった。
棒に突かれた衝撃で一気に後ろに吹き飛ばされるミリア。それと同時にミリアはやっとエルターレフレイルの破壊力が鉄球だけでなく棒にまで含まれている事を理解したのだった。なにしろ棒で突いただけで重装備のミリアを吹き飛ばすほどである。これが少しでも軽装備だったら確実にミリアはやられていただろう。
そんな事を感じながらミリアの体は建物の一つに突っ込んで行き、そのまま建造物を破壊してミリアはその下敷きになってしまった。けれどもミリアも精霊である。この程度の攻撃でやられるとはエリンも思ってはいなかった。
現にエリンが思ったとおりにミリアにはそんなにダメージは無かったものの、破壊された建造物の下敷きにされて脱出するのには時間が掛かりそうだ。だからこそエリンも手出しできないとミリアは思ってはいたがエリンからは思いもがけない言葉が飛び出してきた。
「これで身動きが取れなくなったよね。だからそろそろ僕の全力で君を破壊してあげるよ」
エリンの位置からでは破壊された建造物が邪魔となってミリアの姿を捉える事が出来ない。それがミリアに分っているだけにエリンの言葉は返って不気味に感じられた。なにしろエリンはこれからミリアにトドメを刺そうと宣告したのと同じなのだから。
そんな言葉を受けてミリアは必死になって脱出を試みるが、破壊された建造物は次から次へと落ちてきてミリアの脱出を邪魔している。
そんな中の状況も分からないままにエリンはエルターレフレイルを思いっきり振り上げると一気に力を流し込む。するとエルターレフレイルは一気に燃え上がり、鉄球も炎で包まれた。
「じゃあ、一気に行くよっ!」
楽しそうにそんな言葉を発したエリンが大きく跳び上がると、ミリアが未だに苦戦している破壊された建造物に狙いを定める。
「インニーヴォカッツァッ!」
そして一気に振り下ろされたエルターレフレイルは破壊された建造物を更に破壊するだけでなく、破壊するのと同時に溶かして更に細かく破壊していく。これこそがエリンが有している溶解の属性が発揮する本来の力なのだろう。
そんな破壊に破壊を上乗せしたような攻撃にさすがのミリアも倒す事が出ただろうと確信するエリンだが、破壊を重ねて土煙さえ上がらない現状に見たものはミリアが作り出したアースドームだった。
どうやらミリアはエリンの攻撃を感じ取るとすぐに防御に徹するためにアースドームを作って完全防御に徹したようだ。そしてエリンが巻き起こした破壊の衝撃が収まると一気にアースドームを破壊する。
「ブレイクッ!」
鋼鉄のように硬いアースドームの破片が当たり一帯に飛び散り、周囲の建物を破壊しながらエリンにも攻撃を加える。エリンとしては先程の攻撃でミリアを倒したと思っていただけに、この反撃は予想外であり、なんとかエルターレフレイルでアースドームの破片を叩き落すが、さすがに全ての破片を叩き落す事が出来ずに、エリンの身体には幾つかの傷跡を残す結果となった。
「残念だけど、そう簡単にはやられてあげないよ~」
姿を現したミリアにさすがのエリンも悔しそうな顔をする。先程の攻撃はかなり強烈なものだっただけにミリアが無傷な事が悔しいのだろう。まあ、ミリアとしてもトドメを刺すと宣告されれば完全防御に徹するだけの知恵だけは持っていたようだ。
そんな状況の中でミリアはエリンに向けて笑みを向けてきた。
「さっきの攻撃のおかげでやっとお師匠様から教わった対抗策を思い出したよ~」
わざわざそんな事を言わなくても良いと思われるのだが、そんな事をわざわざ言うのがミリアらしいところなのかもしれない。だからミリアとしては特別な意味は無いのだが、その言葉を受けたエリンはそうは思えなかったようだ。
「へぇ~、僕の破壊力に対抗できるって言うのなら、その力……見せてもらうよ」
少しだけ苦い顔になりながらも強がりのような言葉を発するエリン。それだけエリンには自分自身が持っている破壊力に自信があった。けれどもミリアはその破壊力に対抗する手段があると宣言したのである。
つまりは真正面からエリンの破壊力に対抗する手段があると宣戦布告をした事になるのだ……そう、そうなるのだが、ミリア自身はエリンがそんな風に自分の言葉を捉えているとは微塵も思っていなかった。まあ、それがミリアなのだからしかたない。
そんなミリアがアースシールドハルバードを自分の前に突き出してきた。
「お師匠様が言うには、相手が破壊力を武器にしてきた場合はそれ以上の破壊力を示せば良い。それだけの破壊力を大地の属性は持っているのだから、破壊力には破壊力で対抗しなさい。確かお師匠様はそんな風に言ってたよ~」
そんなミリアの言葉を聞いてエリンは更に苦い顔をする。エリンも火山の精霊として破壊力には自信はあるが、一番破壊力を有しているのは大地の属性だという事を知っている。だからこそ自分自身に宿っている大地の属性を使って巨大な破壊力を生み出しているのだ。
そして複数の属性を有する精霊の場合。どうしても一つだけの属性を有する精霊よりかは属性の性能が劣ってしまう。つまりは一つの性能を落として幾つもの属性を有しているという訳だ。
だからこそ火山の精霊であるエリンとしては大地の属性が持つ破壊力だけを使った勝負をする事だけは避けたかった。そのためにエリンはトドメの一撃として大地の属性に火の属性を加えた攻撃をしたのだが、それもミリアに通じなかったためエリンはミリアにダメージを与えるには更に破壊力を上げるために次からは火の属性を強めないと、そう考えていたのだが目の前のミリアは意外な行動を取ってきた。
「だから、破壊力には破壊力で対抗するよ~」
ミリアはそう宣言するとアースシールドハルバードは光り輝き、その輝きはミリアが身を包んでいる精霊武具にも及ぶ。そしてミリアは高らかに叫んだ。
「発動、ティターンモード!」
その言葉を発した後にミリアに劇的な変化が訪れた。アースシールドハルバードはその形状を変えて行く。ハルバードの槍と成している部分が一気に引っ込むと斧が付いている反対側にも斧が出現した。そこから更にハルバードは双斧となり斧は更に形を変えていく。ハルバードの先端となっている斧の部分が一気に延びて、まるで槍のような形状へと変化する。その姿は二つの斧の先端を槍のように尖らせた形へとアースシールドハルバードは形状を変えた。
ミリアの変化はそれだけでは無い。今まで重装備だった装甲が一気になくなって行き。最低限の装甲しか残していなかった。そして重装備の下に着込んでいた服までもが、その形状を変えて行き、動きの邪魔になりそうな部分は全て排除されて、かなりの部分が露出される事になる。
残っている部分と言えば手甲と具足。それから身体を覆う袖の無い密着した服と腰には短いスカートにスパッツのような服を着ている。そんな状態になったミリア。今までの重装備のミリアからはとても想像が出来ない姿となっていた。
けれどもこれこそがミリアにとってもエリンに対抗する最大の手段であるティターンモードだ。その能力は防御を無視した破壊殲滅。つまりは破壊力だけで言えばエリンの破壊力を上回る姿になったとも言える。
けれども防御を無視しているだけにエリンの攻撃が当たった時点でミリアはやられるだろう。けれどもミリアもここ数日は伊達にラクトリーに引っ張られて行っている訳ではなかった。
強制的に行われたミリアの修行には大地の精霊が持つもう一つの姿。つまり破壊殲滅の象徴たるティターンモードに関する修行もやらされていたという訳だ。だからこそミリアは自信を持ってエリンの破壊力に対抗するためにティターンモードを選んだのだ。
まあ、ミリアとしてはそこまで深く考えたわけではなく。ラクトリーが教えてくれた事を実行していただけに過ぎない。つまりエリンの破壊力に対抗するために自分の破壊力を上げるティターンモードを発動させるしかないと思っただけだ。
けれどもそこまで劇的に変化をもたらしたミリアの姿にさすがにエリンも少しだけ怯むような仕草を見せた。
なにしろ破壊力だけで言えば大地の精霊が一番である。その大地の精霊であるミリアが破壊重視の姿になったからにはエリンも本気でミリアに対抗しなくてはいけない事は確実だ。
火山の精霊もその破壊力では有名だが、複数の属性を有しているからには大地の属性だけを有した破壊力勝負ならミリアに敵いはしない。その事が分っているだけにエリンは気を引き締めるしかなかった。
それと同時にエリンは心の片隅で楽しいとも感じていた。なにしろ相手は破壊力ではトップに立つ大地の精霊である。そのミリアが本気でやりあうとなるとどれだけの物が破壊されるか分った物ではない。その事を想像するだけでエリンの心は躍った。さすがに自分で破壊する事が大好きと言っただけの事はあるのだろう。
そんなエリンにティターンモードに換装したミリアがアースシールドハルバードを突きつける。
「さあ、ここからが本気の勝負だよ~」
その言葉を受けてエリンもエルターレフレイルを腰の部分から押し出すような形で構える。
「そうだね、楽しい勝負になりそうだよ」
その言葉を最後に二人とも戦闘体勢に入って一言も発する事が無くなり、辺りには静寂が立ち込める。お互いに仕掛けるタイミングを計っているのだろう。そんな時に先程破壊した瓦礫の破片が地面へと落ちる。
その音を合図にミリアとエリンは一斉に駆け出した。両者の距離が一気に縮まると先手を打って武器を振るってきたのはエリンの方だ。
なにしろエリンのエルターレフレイルには棒だけではなく鎖で繋がれた鉄球が付いている。その分だけミリアのアースシールドハルバードよりかは射程が長いのだ。
そんなエリンのエルターレフレイルが振るわれるが棒の部分はミリアに届く事無く、空を斬り裂いた。どうやら最初っから攻撃は破壊力がある鉄球に集中させてミリアを叩くつもりなのだろう。そのうえ今のエルターレフレイルには火の属性も宿しており、その破壊力は今までよりも遥かに上がっている。
そんな攻撃を今のミリアが受けたら一撃で落とされる事は間違いないだろう。それが分っているミリアなだけに素直に鉄球に対して対抗するという手段は取らなかった。
ミリアの目の前をエルターレフレイルの棒が振りぬかれるとミリアもすぐにアースシールドハルバードを振るった。それはエリンにではなく、エルターレフレイルにだった。それも迫ってくる鉄球ではない。その鉄球を繋いでいる鎖を狙ってミリアはハルバードを振るったのだ。
棒と鉄球の中心点となっている鎖の更に中心を狙ってハルバードをぶつけるミリア。もちろんそんな事をすれば鉄球はミリアに届かないものの、鉄球の軌道が変わってどこに飛んで行くか分ったものではない。
けれども、そんなミリアの攻撃を受けたエリンは違和感を感じるとすぐに吹き飛ばされてしまった。まさかの事態にエリンはどうする事も出来ずに建造物の一つに思いっきりぶつかるどころか、建造物を破壊するまでの衝撃でぶつかる事になってしまった。
先程のミリアと同じような状況に陥るエリン。なにしろ建造物が破壊されるほどの衝撃で吹き飛ばされたのだ。そのうえエリンの上からは瓦礫が降ってきて、エリンは下敷きになっている。けれどもエリンはそんな状況でもエルターレフレイルを振ると、自分の動きを制限していた瓦礫を再び邪魔にならないぐらいにまで破壊してしまった。
さっきの衝撃はいったい何なんだよ。再び自由に動けるようになったエリンはそんな事を考えていた。なにしろ先程の攻撃はエリンが絶対的に有利だったからだ。
たとえミリアが鎖の破壊や鉄球の軌道変更でその場をしのごうとしても、エリンは燃え上がっている棒でミリアを吹き飛ばそうという算段があった。けれども実際に吹き飛ばされてしまったのはエリンの方である。
しかもミリアのハルバードがエルターレフレイルの鎖に触れた瞬間に、鎖を通じてエリンは何度も寄せ押してくる衝撃波のようなものを感じていた。それが先程感じた違和感の正体だとエリンはやっと気が付いた。
そっか、これが破壊力ではトップに立つという大地の属性が有している力なんだ。そんな結論を出すエリンには先程ミリアが行った攻撃の正体を確実に掴んでいた。
そう、それは衝撃の連続発生。ミリアの一撃はただの一撃ではなく、細かな衝撃を一秒の間に数十回も発生させて、その衝撃波でエリンを吹き飛ばしたのだ。
簡単に例えるなら地震を想像してもらうと分りやすいだろう。大きく一回だけ地面が揺れるよりも、細かく何度も揺れる方が地震の被害が遥かに大きくなる。つまり地面が揺れて、その衝撃が多ければ多いほど地震の被害も大きくなるのだ。
つまりミリアのティターンモードは全ての攻撃に細かな衝撃波を発生させる効果があり、その一撃の破壊力を一気に上げているのである。だから直撃ではないにしろ、エリンのエルターレフレイルにハルバードが当たっただけでエリンが吹き飛ばされるほどの衝撃波を発生させる事が出来たのである。
それは確かに直撃すれば確実に一撃で落とされてしまうだろう。けれども、その条件はミリアも同じである。なにしろミリアはその衝撃攻撃をするために今まで重装備だった装備を今ではほとんど外さなければいけないのだ。
つまり両者の攻撃は当たれば落ちるという一撃必倒な状況になっているというわけだ。だからこそミリアも攻撃には慎重にならずにはいけなかった。なにしろエリンのエルターレフレイルにも大地の破壊に火の溶解が加わって、その破壊力を上げている事は確かである。下手に攻撃を仕掛けて反撃を喰らえばミリアも一撃で落とされる事は間違いない。
だからこそ両者とも攻撃を仕掛ける事をせずに動向を見守っている。
けれども二人の性格から言っていつまでも大人しく相手が仕掛けてくるのを待っていられるワケが無かった。
う~ん、どうしようかな~……ここはやっぱり大技で行くしかないよね。すぐにそんな結論を出すミリア。
まさかこんな手を隠していたなんてね。さすがに大地の精霊に破壊力だけで勝負を挑むのは無謀かな。だったら……破壊力に火力を乗せて一気にやっつけよう。エリンもこう着状態の中ですぐにそんな答えを出していた。
そんな状況で真っ先に動き出したのはミリアだ。ミリアはアースシールドハルバードの切っ先を地面に付き立てると一気に力を流し込む。
「アースウェーブッ!」
ハルバードから地面が大時化のような海のように波を打つ。それは今までのアースウェーブとは違って扇状に広がるのではなく、一直線にエリンに向かってアースウェーブは向かっていった。破壊系の技がちゃんと制御できるようになっているのもラクトリーが行っている強制抗議のおかげなのだろう。
そんなミリアが放ったアースウェーブは波打つ地面の上に有る物を全て破壊しながらエリンへと迫る。
そんなミリアの攻撃に対してエリンは一歩も動こうとはしなかった。それどころかエルターレフレイルに更に火の属性を流し込んで火力を上げている。
そしてエルターレフレイルを思いっきり振り上げると鉄球を地面に向かって思いっきり叩き付けた。
「メテオイラクション!」
その瞬間に鉄球が叩きつけられた場所から炎が噴出して地面を揺るがす。まるでその場で噴火が起きたかのように周囲の建物を破壊しながら炎はまるで天を焦がすように吹き上がる。
そんなエリンの攻撃にミリアのアースウェーブは完全に相殺されてしまった。なにしろエリンの攻撃は衝撃を全て上に持って行ったのだ。そのためミリアのアースウェーブの衝撃も全て吹き上げられてエリンまで届く事は無かった。
けれどもエリンの攻撃はこれで終わりではなかった。
まさかこんな攻撃でアースウェーブが相殺されてしまう事が予想外だったミリアは動きを止めてしまっていた。そんなミリアの足元から急激に蒸気が吹き上がると、巨大な熱と共に一気に炎が吹き上がる。
そう、エリンのメテオイラクションはミリアの攻撃を防御しただけではなく、地中を通してミリアにも攻撃をするための技なのだ。
なにしろ火山活動というのは、ほとんど地中で行われている物だ。噴火はそれが吹き上がった現象に過ぎない。だからこそ地中を通してミリアに攻撃するという技が出来るのだ。
もちろんミリアは大地の精霊であるから地中を移動してくるエリンの攻撃を察知してもおかしくは無いのだが、ミリアはそういう大地を通した情報処理を苦手としている。だからエリンの攻撃を察知する事が出来なかった。
それだけなく、エリンは自らの攻撃に大地の属性を負荷させている事を良い事にミリアに察知し難くしていた事もあり、ミリアはエリンの攻撃を直撃する事になってしまったのだ。
二箇所から天を焦がすように吹き上がる炎は周囲に巨大な衝撃波を与えると共に、破壊しきれなかった大地や建造物は溶岩となって辺りに降り注ぎ、更に周囲の建物を破壊している。これぞ正しく火山の精霊を象徴しているかのような技といえるだろう。
そして一方の炎が消えるとエリンが姿を現した。
「これならどうだっ!」
未だに天に向かって炎が噴出している部分に向かって叫ぶエリン。確かにこれだけの大技だからミリアを確実に倒したものだと思ってもしかたないだろう。だからこそエリンは自信満々にそんな言葉を叫んだのだが、その直後に信じられない事が起こった。
なんと噴き出している炎に変わって土砂が一気に噴き出して炎を消し去ってしまったのだ。
「なっ、なんでっ!」
そんな現象にさすがに驚きを隠せないエリン。まさかこんな状態になるとは思いもよらなかった事であり、目の前で起こっている現状が瞳に写っても信じられないという顔をしてる。
そして吹き上がった土砂で全ての炎を消し去ると、今度は周辺に向かって一気に落下してきた。それは先程の溶岩ほどの威力は無いものの、大量の土砂が上から降って来たのである。その被害は先程のエリンが行った攻撃に比べると周囲の被害は遥かに酷い物になっていた。
なにしろ土砂が重力の力を借りて一気に落ちてきたのだ。その影響で破壊された建造物は更に多くなった。そして先程まで炎が噴き出した場所には一粒の砂も落ちる事無くミリアが姿を現した。
「う~、よくもやったな~、凄く暑かったんだよ~っ!」
姿を見せるなり、そんな文句を言うミリア。確かにミリアは姿を現したものの、まったく無事という訳ではなかった。ミリアのポニーテールには明らかに焦げた後が残っており、体中には軽い火傷の跡が残っている。そのうえ薄手の服にも焼け焦げた箇所や完全に焼けて消滅している部分もある。どうやらかなりのダメージを負ったようだが致命傷には至らなかったようだ。
「なんであの技を喰らってその程度ですんでるのよっ!」
ミリアの文句に対して文句で返すエリン。当のエリンとしてはミリアを完全に倒したと思っていただけにミリアがこうして顕在している事が不思議であり、納得の行かないところであった。
そんなエリンに向かってミリアは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべながら話し出した。
「だって~、さっきの攻撃に半分は大地の属性を使ってたでしょ。だから私から見ればたとえ炎に包まれていようと大地を操って、さっきの技を半減させる事ぐらいできるんだよ~」
そんな説明をしたミリアにエリンは首を傾げた。やっぱりミリアの説明では良く分からなかったようだ。そんなエリンを見てミリアは更に補足説明を開始する。その内容を分りやすくすると次のようになる。
つまりエリンが放った技の半分は大地の属性を有した技だ。だからこそ地中を伝ってミリアに直撃させたり、溶岩などを噴出させて更にダメージを与えることが出来る大技だ。
けれども大地の属性に関して言えばエリンよりも大地の精霊であるミリアの方が大地の属性を支配することが出来る。つまりエリンが使った大地の属性をミリアは自分が支配する事で、大地の属性をコントロールする力を完全にエリンから奪ってしまったのである。
それを利用してミリアは炎と一緒になって飛んできた大地の破片を自分の周りに形成して、あの大量の炎から身を守ったというわけだ。
つまりエリンが大地の属性を使った技を使用するたびに、属性の支配権はミリアに強制移譲する事が出来るのである。そこが大地の精霊と火山の精霊の違いとも言えるだろう。
けれども、いくらミリアが大地の属性を支配して自分の防御に使ったからと言っても火の属性までは支配する事が出来ない。だからこそミリアは体中に炎が直撃した痕跡を残す結果となってしまったのだ。
そんな事を時間を掛けて説明するミリアにやっと理解したエリンは素直に「やっと分ったよ」と言って頷くとようやく二人とも戦闘再開の態度を取った。
けれども現状ではミリアの方が圧倒的に不利である。なにしろ先程の攻撃が直撃したのもあるが、エリンが持っているエルターレフレイルに対する対抗策も持ってはいない。その事はエリンも分っており、このまま押していけば確実にミリアに勝てると確信していた。
そんな現状だからこそミリアはここぞとばかりにストケシアシステムを使う。
(昇、昇、ちょっとこっちがやばいよ~。だからエレメンタルアップを使って~)
そんな思考を瞬時に昇に送るミリア。その思考は昇を介して閃華達にまで届いていた。
(確かにここで使っておいた方が良いかもしれんのう。なにしろ相手のサモナーが本気を出してきたんじゃ。こっちも出し惜しみは出来ん状態だ)
ミリアの思考を聞いて閃華もすぐにそんな意見を出してきた。確かに昇達が相手にしている鳥達もローシェンナの力によってかなりの能力アップがされた事が見た目だで分る。それだけに昇達としても、そろそろエレメンタルアップで対抗していかないとキツイ状況に追い込まれているのは確かだった。
こっちだけじゃなくてミリアの方も押されてるんだ。フレト達が来るまでまだ時間が掛かるし、ここは少し無理してでも倒しておく必要があるかな。そんな決断をする昇。
確かにこのまま戦い続けていても昇達は負ける気はしないが、勝つためにはかなりの力と時間が掛かるのは確かだった。それにフレト達が到着する頃には確実にローシェンナを倒すために出来るだけ戦闘を有利に持って行きたいのも確かだった。
だからこそ昇はここで目の前の鳥とミリアが相手をしているエリンを確実に倒すためにエレメンタルアップを使う事を決意する。その事をストケシアシステムを使って瞬時に全員に伝える昇。
けれども昇がエレメンタルアップを使おうとした瞬間には思いも掛けない事が起こり、昇は思わず上を見上げるのだった。
そんな訳でお送りしました、おバカな子対決……じゃない。エレメの百三話はいかがでしたでしょうか。
まあ、ミリアとエリンも知能指数は同じぐらいだと思いますので、たぶん二人が対決したら時々ほのぼのとした空気が流れてもおかしくは無いと勝手に思っている次第であります。
……というか、この二人が真面目かつ知能的に戦う姿がまったく想像できない。まあ、ミリアよりもエリンの方がほんのちょこっとだけ知能指数は高いんでしょうね。とか思っておりますけどね。
というか、そうしないと、この二人の戦いは成り立たないのでは無いのか? そんな風にも思っております。
さてさて、話は次回の事に移り変わりますが、いよいよ……次回はシエラ対アレッタの空中戦へと話しが移り変わりますが。本文の最後に昇が見上げたのは何故か? そしてシエラとアレッタとの因縁とは……それはいよいよ次回に……明らかになるのかな?
まあ、シエラとアレッタの因縁はそのうち本文で出て来るでしょうが、それが次回になるかは不明です。……いや、引っ張るところは少しは引っ張らないとって思って。まあ、何にも考えてないわけではないですよ。
……いや、本当ですよ、ちゃんと考えてますよ。だからそんな目で見ないで!!! もっと私を信頼して!!! えっ? 無理? ……やっぱりですか!!!
……さてさて、お遊びもここら辺にしてそろそろ締めますか。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、花粉という最大の敵を前にして更新が遅くなるのではないのかと心配している葵夢幻でした。……まあ、ここ数日倒れる事となってて更新が遅くなった事は心よりお詫び申し上げます。まあ、大した事は無いんですけどね。