第1話 最弱からの覚醒、魔王の娘降臨
『――そこは化物の巣だ』
勇者アルトの息子はそう言って、少女を奈落へ突き落とした。
数時間前
ルクスフィール王国、王立学園は英雄と聖騎士を育てる名門学園である。優秀な貴族たちが集い、“正義”を学ぶ場所でもあった。
しかしそこは、ルナ・アークライトにとって地獄だった。
「落ちこぼれ」
「役立たず」
「平民のくせに王立へ入った失敗作」
陰口は日常だった。
剣術は最低評価。
神聖魔法もまともに扱えない。
女神の加護も弱い。
王国の聖騎士候補として入学したにも関わらず、ルナは学園で最も期待されていない生徒だった。
訓練場では、いつも一人だけ木剣を弾き飛ばされる。
魔法実技では魔法すらまともに出せない。
周囲の視線は冷たかった。
「ほんと、なんであいつここにいるんだ?」
「学園の恥だろ」
「見てるだけでイライラする」
笑い声が響く。
ルナは慣れていたから俯いたまま、何も言い返さなかった。
幼い頃から、ずっとこうだった。
だからただ耐える。
ここを追い出されたら、生きる場所がなくなるから。
だが、その日。
全てが変わった。
「ルナ・アークライト。前へ出ろ」
訓練場へ響いた声。
聖騎士科主席のアーク・シルヴェインだった。
勇者アルト・シルヴェインの息子。
次の勇者と呼ばれる存在。
金髪を揺らしながら、彼は冷たい目でルナを見下ろしていた。
「学園の聖遺物が盗まれた」
周囲がざわつく。
ルナは目を見開いた。
「……え?」
アークは銀の首飾りを机へ放り投げる。
「これがお前の寮の部屋から見つかった」
知らない。
見たこともない。
だが周囲はすぐに信じた。
「やっぱりあいつか」
「平民だしな」
「最低……」
否定しようとしたがアークはそれを許さない。
「証拠は揃っている」
その口元には薄い笑みが浮かんでいた。
その瞬間、ルナは理解した。
最初から仕組まれていたのだと。
夜になるとルナは鎖に繋がれ、馬車へ押し込まれていた。
向かう先は、南にある魔境と呼ばれる危険地帯でかつて魔王城だった場所。
数年前、勇者が魔王を滅ぼした後も瘴気や濃密な魔力が消えず、今では大量の魔獣が巣食う死地となっている。
底が見えない巨大な穴の前へ連れて行かれる。黒い霧が渦巻き、不気味な咆哮が響いていた。
取り巻きの1人が怯えた声を漏らす。
「本当に落とすんですか……?」
アークは鼻で笑った。
「当然だろ」
そしてルナの髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。
「お前みたいな無能でも、最後くらいは俺の役に立て」
周囲の取り巻きたちが笑う。
「魔獣の餌か」
「落ちこぼれには丁度いいな」
「骨も残らないだろ」
ルナは黙って奈落を見つめた。
怖かった。
身体が震える。
死にたくない。
なのに――胸の奥が妙に熱かった。
頭が痛み存在しない記憶の景色が浮かぶ。
黒い城や赤い月。燃える大地。
そして、漆黒の玉座へ座る男がいた
『――我が娘ルナエル』
誰……?
次の瞬間。
アークがルナを突き飛ばした。
身体が宙へ投げ出される。
奈落へ落ちていく。
上から笑い声が響いた。
「化物どもに食われろ!!」
闇。
風。
落下。
普通なら恐怖で叫んでいたはずだったが不思議と恐怖は薄れていく。
代わりに込み上げてくるのは懐かしさだった。
瘴気の匂い。
黒い魔力。
崩れた城壁。
その全てを知っている気がした。
やがて。
轟音と共に、ルナの身体が地面へ着地する。
普通なら即死していた高さ。
だが、傷一つなかった。
その瞬間。
暗闇の奥で、無数の赤い瞳が開く。
魔獣。
奈落に棲む怪物たち。
だが彼らは襲ってこない。
震えていた。
まるで“王”を前にしたように。
その光景を見た瞬間。
頭の奥で、何かが繋がった。
記憶が流れ込む。
勇者アルト。
滅びの日。
そして――家族。
ルナはゆっくりと目を開けた。
自然と笑みが漏れる。
「……なるほど」
声が変わっていた。
冷たく。
静かで。
どこか人間離れした響き。
崩れ果てた魔王城を見上げる。
荒らされた庭園。
砕かれた玉座。
血に染まった記憶。
ルナは静かに呟いた。
「家族の城を丸ごと地下に押し込めて随分荒らしてくれたな」
ドクンと心臓が大きく脈打つ。
黒い魔力が溢れ出した。
奈落全体が震える。
魔獣たちが一斉に跪く。
そして少女は、ゆっくりと紅い瞳を開いた。
月も届かぬ闇の底。
その少女は静かに名乗る。
「――全て思い出した、久しいな世界よ」
それは“滅びの後に現れる月”という意味を込められた異名。戦場に現れた後には、 街も軍も、すべて灰のように崩れ落ち必ずその背後には美しい月が現れた。
「私は魔王の娘ルナエル・ルクスフィール」
まぁ私自身は好みではなかったがと思いつつ異名を叫ぶ
「勇者に殺されるまでは全ての者からこう呼ばれた」
「灰月のルナエルと!!」
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