47,主神
朝からシアはルーナと散歩をしていた。
「よくここで父さんと剣術の稽古をしたんだよ」
「そう言えば、木の高さが変だね」
「うん。片っ端から切り倒していたからね。ただこの森の木はすぐに伸びるから遠慮なく切り倒していたね」
「でも、昨日のお母様の話はちょっとびっくりしたよ。まさかルナテラス様とお知り合いだとは思っていなかったよ」
「あんまり考えたことなかったな、そういうこと」
「私の名前のルーナというのは、ルナテラス様にあやかってつけたのよ」
すると、エアパスが血相を変えてやってきた。
「シア、ルーナと早く家に帰れ」
「どうしたの?」
「いいから早くしろ」
シアとルーナはエアパスに急かされて急いで家に戻った。するとそこには一人の優し気な女性が座っていた。
シアがルーナを見ると目を剝いて今にも気絶しそうになっていた。シアは慌ててルーナに水を飲ませて落ち着けると、その女性の隣にいるマリアナの顔を見た。すると、
「シアは初めて会うな。母さんの友人のルナテラスだ」
「……えっ、それって昨日の話の?」
「そうだな。この星の主神のルナテラスだよ」
この時点でルーナとエアパスはひっくり返りそうになっていた。だが、そんな二人を気にせずにルナテラスは話しかけた。
「シア、お久しぶりです。とはいえ覚えてはいないでしょうね」
そう言うと、微笑んだ。
「……えーと、お会いしたことないですよね?」
「シアがその体になってからは無いですね」
「……この体になってから?」
「ふふ。そうですね。貴方は自分が生まれた時のことを知っていますか?」
「母さんから話は聞いていますが……」
「私が貴方を助けるために飛龍に馬車を掴ませて、この森まで誘導してカールに出逢わせたのですよ」
「えっ、そうなの?」
「はい。自分の予言を的中させるためですね」
「ではあの予言は……」
「その通りです。シアに覇者になってもらわないとこの星は滅亡しますね」
「ルナテラスよ、面倒なことをするな。あの時は必死だったのだぞ」
「マリアナ、ごめんなさい。力が弱ってきているのですよ」
「力が弱る?」
「ほら、マリアナに呼ばれたから頑張ってきましたが、もう顕現出来る時間が過ぎそうですね。取り急ぎシアに一言伝えます。私のことは貴方が真の覇者になった時に思い出すでしょう。その時に後悔しないようにいい人生を歩んでください。幸せになるための努力を惜しまないで下さ……」
そこまで口にするとルナテラスは消えてしまった。
「これだからいつも奴の話は中途半端になるのだ」
「母さんが呼んだの?」
「うむ。昨日の予言を聞いてな。本人に確認しようと思ったのだよ」
さすがは古代龍というべきか、マリアナのあまりにもぶっ飛んだ発想にルーナとエアパスはついていけなかった。だがシアは、
「優しそうな人だったね」
「それは否定できないな。シアの魂はやはり別の世界から連れてきたと言っていたよ。それと、奴が力を弱めたこともシアに何か関係あるように思うな」
「そうなの?」
「うむ。まぁ、奴も言っていただろう。シアは後悔しないようにいい人生を歩め。そうすれば道は必ず開けるはずだ。何といってもこのマリアナの子であるからな」
「確かにそうだね。頑張るよ」
「そういえば我の子としてルーナに力を与えたが体調はどうだ?」
「そういえば、体が軽いです、それと魔力が増えています」
「うむ。魔力はまだまだ増えるぞ。それから亜空間収納が使えるはずだ。我が与えた記憶を読み解いてみなさい」
「……記憶を読み解く、えっ、使い方が……勝手に……わかる」
ルーナはマリアナに亜空間収納を使えるように古代龍の秘儀で力を与えていた。さらに、シアとルーナは互いがどれだけ離れていてもお互いに位置が分かるようになっていたのだ。
「エアパスよ。そなたがルーナに血鎖を行い飛ぶ力を与えたのだな?」
「はい。マリアナ様。我が子を救って頂いた恩返しに行いました」
「今となってはルーナも我が子だ。エアパスよ、子供の名前はコスモスといったな。そのコスモスが空を飛べるようになったら連れてきなさい。我が加護を与えよう」
「コスモスにマリアナ様の加護が……」
そう言うと、エアパスは号泣してしまった。
龍にとって、古代龍マリアナは神にも等しい存在だという。そのマリアナの加護を得るということは単に名誉なだけではなく、その種族で至高の存在となるらしい。つまりコスモスは飛龍という種族の頂点に立つことになる。
その日の夜、シアはマリアナにある質問をした。
「父さんはルナテラスさんに会ったことがあるの?」
「一度だけあるな。その時にルナテラスが星詠みをして、カールは寿命を知ったのだよ」
「……寿命を知る」
「だからカールは焦っていたのだ。一刻も早くシアに自分の全てを受け継がせようとしたのだよ」
「……そうなんだね」
「ああ、カールはシアが傷つくことを極端に恐れていたな」
「俺が傷つくこと?」
「カールがなぜあの大陸を離れてこの森に引きこもってしまったかわかるか?」
「殺されそうになったからだと聞いているけど?」
「ただ殺されそうになったからといって、どうにかなるほどカールはやわではない」
「……違うの?」
「ある日、カールが馬車に乗っていた時子供が前を通ったそうだ。その子はカールを見ると走り込んできて自爆をしたらしい。それも一度ではなく何度もあったそうだ」
「……それって、この間王都であった」
「そうなのか……。カールは自分が害されることよりも年端のいかない子供たちが犠牲になることを悲しんだのだ。子供に自爆させるのはロシアン帝国がよくやる手口だ。ペルサスの血を引く自分のために子供が犠牲になり、さらには無関係の人も巻き込んでしまう。それが苦しかったようだな」
「……父さんは自分でロシアン帝国を打倒しようとはしなかったの?」
「カールはこの森に来る前に一人でロシアン帝国に乗り込んだのだ。そして、あと一歩のところまでたどり着いた。だがな、ロシアン帝国の皇帝を守護していた魔の者に深手を負わされてこの森に逃げてきたのだよ」
「……父さんが逃げた?」
「ああ、我が見つけなければ死んでいただろうな。それからカールは機会をうかがいながらこの森に住んでいたのだよ」
「ではロシアン帝国は魔の者と関りがあると考えていいんだね」
「うむ。皇帝そのものがそうかもしれん。違うかもしれん。だがシアが進む先には必ず魔の者が現れる。それはカールに言わせれば悪鬼王など足元にも及ばぬ力だったそうだ。だからシア、奢らず、油断せず、力をつけて強くなるのだぞ」
その日の夜シアはなかなか寝付けなかった。
カールが逃げるほどの敵……それが想像できず悶々としていたのであった。




