48,守護龍
エアパスは一足先にオースティンに帰っていった。マリアナはルーナと一緒に過ごす日々が楽しくてしょうがないようだった。日中はシアと小太郎が猟に出て、夜にはその獲物をマリアナとルーナが二人で協力して料理を作ってくれた。そして時間があれば家族全員で語り合う。そんな生活が続いていた。シアもこんな生活が一生続けばいいとすら思っていたのであった。だが、時は過ぎる。無情にもシア達が帰る日が訪れようとしていた。
「お母様、またすぐに来ますね。そんなに泣かないでください」
「母さん、もう転移が出来るようになるはずだし、また来るね」
「そうだ、転移だな。シア、ルーナの手をつないで転移してみなさい」
「……手をつないで?」
ルーナの手がシアの手を握る。シアが部屋の端に転移をすると、ルーナも一緒に転移していた。
「えっ、一緒に転移出来ている」
「本当だ。転移ってこんな感じになんだね」
「もう少し魔力を高めればルーナも転移が出来るぞ。シアとルーナは既に魂の深いところで結びついているからな。一緒に転移出来ても不思議ではないよ」
「ありがとう母さん。これでいつでも会えるね」
「お母様、ありがとうございました。本当に嬉しいです」
「うむ。そなたたちの友人たちもそのうち連れてくるがよい。歓迎するぞ」
「うん。必ず連れてくるよ」
そう言うと、三人と小太郎は互いに抱きしめあい、しばしの別れを惜しんだ。シアとルーナの背をマリアナは軽く押す。
「ほら行きなさい。黒龍のところに寄って行くんだよ」
シアとルーナは小太郎の背に乗り、何度も振り返りながら黒龍の元に向かった。
その後マリアナはカールを埋めた木のところに行き、カールが好きだった酒を供えると、しばらく肩を震わせていたという。
シアは転移阻害の結界を張っている黒龍の元にいた。シアを見ると黒龍は震えだしたため、落ち着かせるのが面倒であったが、シアは無事に黒龍と血鎖を行い、転移阻害の結界を越えて転移が出来るようになっていた。黒龍に礼を言ってから帰ろうとすると、黒龍が気になることを言い出した。
「坊ちゃま、直接船で海を渡った者がいます。気をつけてください」
「直接海を渡る……」
「この海はかなり広い海です。途中に補給をする場所もなく人間が海を渡るのは難しいはずです。その海を渡った者がいます。油断しないでください」
「わかった。忠告感謝するよ」
そう言うと、シアは小太郎の背に乗り飛びたった。小太郎もシアと一緒に転移できることを確認したシアは、海の上から三人で一気にヨハネス子爵の屋敷の庭へと転移した。
「お帰りなさい。エアパスからある程度の話は聞いているよ。ルーナがマリアナ様に受け入れてもらえて嬉しいね」
「本当よね。まさか自分の娘が古代龍の娘になって帰ってくるなんて思ってもいなかったわ」
「こちらこそありがとうございます。母さんがこれをヨハネス子爵のご家族に渡してくれと言っていました」
シアは一通の手紙をヨハネス子爵に手渡した。そこにはこう書かれていた。
「ヨハネス家の者たちへ
我が子シアは縁あってルーナとつがいとなった。
ルーナを育てし者たちへ我の加護を与える。
ヨハネスには先を見通す龍の知識を、
ベリンダには敵を打ち倒す龍の力を、
セインには病を癒す龍の力を、
リリーには幸せを呼ぶ龍の心と体を、
守護龍 マリアナ・ファインアース」
その手紙を読み終えた瞬間、ヨハネス、ベリンダ、セイン、リリーの脳に強烈な刺激と魔力が流れ込んできた。そして、全員が落ち着くといつの間にか手紙は消え去ってしまったのである。
ヨハネスは知識を、ベリンダは力を、セインは回復魔法の奥義を、リリーは心の強さと病気知らずの体をそれぞれが手に入れていた。その効果は凄まじく、彼らはその生涯を終えるまで、ヨハネスは領主として判断を誤ることなくオースティンを爆発的に発展させ、ベリンダはワイバーン程度なら剣の一振りで屠るほどの力を得て、セインは瀕死の重病人すら回復させる回復魔法を行使し、リリーは真っ直ぐな心と頑健な肉体を保ち続けたのであった。
「……マリアナ様はこの星ファインアースの守護龍だったのですか」
「聖教会によるなら、ルナテラス様がこの星に最初に連れてきたのがファインアースの守護龍ですね」
「ルナテラス様も会いに来られたというからね」
「ああ、我々はとんでもない光景を目撃しているのだろうね」
「うん。あの様子を見る限り、そうは見えないが……」
「ああいうのをバカップルって言うらしいけどね」
「リリー、どこでそんな言葉を……」
「いつも『リア充爆ぜろ』って言う護衛さんだよ」
「……そっとしておこうか」
「……そうだね。その人にもいいことあるよ」
シアとルーナは手をつないで転移をしながら小太郎と鬼ごっこをして遊んでいたのであった。また、マリアナ直伝のレシピ集を得たルーナは完全にシアの胃袋を掴みきっており、さらにはシアが食べる順番まで把握していたため、ごくごく自然にシアの口に料理を運んで食べさせていたのであった。その様子をリリーはバカップルと称していたが、面と向かって指摘をする勇気ある者がオースティン家にはいなかった。
シアとルーナが王都に帰ると、早速アラガンがアーサーの大剣、エマの槍、アラガンの大楯を見せて説明をはじめた。
アーサーの大剣は両刃の直剣でかなり長く、背負って持ち運ぶようになっていた。元々ダンジョンで出た不壊の効果を付与した大剣に、オリハルコンと赤龍ガッツの牙を混ぜ合わせて打ち直しをしており、さらには切断の効果を追加で付与することで切れ味を増加させていた。この剣にアーサーが魔力を流して地面を切り付けると大地が裂けるほどの衝撃を与えることができた。
エマの槍はブルースが使っている物よりは若干短くなっていた。だが不壊と軽量の効果を付与してある槍の柄は女性のエマに合わせて細身であったが、オリハルコンとミスリルを混ぜ合わせて打ち直しをすることでかなり強靭なものとなっていた。穂先にはオリハルコンとヒヒイロカネを組み合わせて切れ味を上げたものを使用し、さらに不壊と貫通の効果を付与してあった。鋼鉄の扉程度なら、エマが軽くつけば何の抵抗もなく貫通したのである。
アラガンの大楯もかなり頑丈な物に変わっていた。地龍の一番硬い額の鱗を回収していたためその鱗を砕いて溶かし大楯の表面に貼り付けていた。さらに魔法効果を限界まで重ね掛けしていて、アラガンに言わせると、物理攻撃なら八割、魔法攻撃なら五割のダメージを跳ね返せるとのことである。また、取り回しがしやすいように軽量の効果を付与し、さらに不壊の効果を付与することで通常の攻撃では破壊することは不可能であった。
そのひとつひとつの武器が、既に現在この星にある武器としては最高の物であるにもかかわらず、まだ若いアラガンには常識がなく、次はもっと凄いものを作ると張り切っていたのであった。またそれを聞いていたシア達も当然に訳がわからないため、アラガンに期待しているぞと無責任に声をかけていた。そのためアラガンの創作意欲は天元突破をしてしまった。この時から「アラガンの前にアラガンなし、アラガンの後にアラガンなし」という諺が出来るほど後世に残る傑作を生み始めたということである。




