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19,パーティー

 呆気にとられるシアとルーナに、万雷の拍手が降り注いだ。

 静かな二人だけの世界であったはずなのに、いつの間にかテーブルが運び込まれ、料理が置かれ、城の庭は賑やかな立食パーティーの式場と化していた。

 思わず硬直していたシアとルーナであったが、ふと見ると、アラガン・ノイマン・アーサー・エマの四人が親指を立てていて、

「エマの台本通りだな。最高にロマンティックだっただろ」

 と、言う。そこではじめてシアとルーナは仕組まれたのだと知った。


 さらにアレクサンドロスがやってきて、

「アーサー達から相談を受けてね、エマ君の台本通りに最高の舞台を作ったつもりだよ。今日は君たちの婚約パーティーだ。主役なのだからしっかりしなさい」

「シア君、うちの娘をどれだけ思ってくれているかよくわかったよ。本当にルーナを頼むね」

「いやあ、若いっていいな。またエマの寸劇のネタが増えたな」

「ふふふ。おめでとう。シア君、ルーナ君。是非とも幸せの鐘を鳴らしてほしいね」

「……カールに見せたかったな」

 クレインがそういった瞬間に、少ししんみりしたが、すかさずエマが寸劇をはじめてしまった。


「シア君、私は役に立てるかな」

「今日の月明かりも素敵だけど、俺にはルーナが一番だ。ただそばに居て欲しい。ルーナと過ごす時間こそがルーナが俺に与えてくれる最大の幸せだ。俺がルーナを守る」

「ぶっちゅう~~~」


「あっ、邪魔したくせに、それはやりすぎだろ」

「そうよ、あと少しだったのに、邪魔したくせに」

 シアとルーナはほぼ同じ内容のことを思わず口にしてしまった。真っ赤になったルーナであったが、今日のシアはルーナの肩を抱いて離さない。ルーナも覚悟を決めたように、シアの腕をとり、指を絡めて手を握った。


「主賓はそうじゃないとね、さあ楽しみなさいな。皆があなた達を祝福しているのよ」

「お兄ちゃんもお姉ちゃんも綺麗だね」

 オリビア妃とシャロンも声をかけてくれた。その時、シャロンの横にいた小太郎が、

「マリアナに見せてやりたかったね~」

 と、言い出した。

「絶対に転移魔法を覚えて母さんにルーナを紹介するんだ」

 気合を入れて言うシアにルーナが頷き静かに寄り添った。


 やがて、パーティーが佳境に入り、シアとルーナも自然に距離を縮めて触れあい、見つめ合う。二人を大人たちは微笑みながら見守り、友人たちはじゃれあいながら祝福する。シアとルーナは心の底から皆に祝福されていることを感じて幸せをかみしめていた。


 そして、楽しいパーティーが終わりを告げるとき、

「では、そろそろSクラスの強化について考えましょうか」

 イルマ先生が口火を切った。


「皆さんの強化が必要ですが、今のままだとかなり難しいでしょう。シア君ひとりならともかく、他の人はこれから冒険者のランクで言うなら最低でもA級にはならないといけません。そこで強化合宿をしようと思います」

「強化合宿?」

「皆さんには徹底的に魔法を強化してもらいます。しかも人間のレベルではダメです。少なくともエルフと同等の魔法が使えないといけません」

「エルフと同等……」

「私はかつて悪鬼たちと戦いました。ですがそこのクレインと同じく全く歯が立ちませんでした。今でも夢に見ます。悪鬼たちを倒すことまでを求めてはいません。ですがせめて逃げられるようになりましょう」

「逃げる……」

「はい、逃げるのです。それも一瞬で判断して逃げないといけません」

「それには人間のように詠唱をして魔法を発動していては無理なのです」

「それで強化合宿を……」

「そうです。当然のことですが、皆さんがすぐに息をするように魔法を使えるようにはならないでしょう。ですが、きっかけは掴めるはずです。明日から全員で西の海にある小島にこもります。そこで徹底的に魔法を勉強しましょう」

 かくして、フリージア学園一年Sクラスは全員で西の海にある小島で合宿することになった。


 次の日は全員が朝から慌ただしかった。

 昨晩のパーティーの余韻が残り、まだ地に足がついていないどこかフワフワした状態で馬車に乗り込んだ。いつものようにシア、アーサー、ノイマン、アラガンの四人で一台の馬車に乗り、ルーナ、エマ、イルマ先生、小太郎で一台の馬車に乗る。その馬車たちを王宮から派遣された騎士団員が護衛をしていて、途中で野営を挟みながら数日かけて港町フィーネに向かったのだった。


「シアは港町フィーネに行ったことがあるんだよな」

「うん。行ったことがあると言うより、この大陸に来た時に初めて上陸したのが港町フィーネだったよ」

「風光明媚な綺麗な場所で有名だよな」

「確か港が見える丘の上に鐘があるんだよね」

「鐘?」

「元々は海から魔物が来た時に住民に知らせるために作られたらしい。でも今はデートや結婚式によく使われているそうだね」

「へー、おいシア、ルーナ連れて行って来いよ」

「そうだね。教えてくれてありがとう」

「到着は今日の昼過ぎだろう。船が出るのが明日の朝だから今日着いたら行って来いよ」


「ルーナさんとエマさんは港町フィーネに行ったことあるの?」

「ありません」

「ないです」

「小太郎はあるんだよ~」

「そうか、確かシア君と小太郎がこの大陸に初めて上陸したのが港町フィーネでしたね」

「シア君が初めて来た場所……」

「ふふふ。ルーナさん。港町フィーネに着いたらシア君と『幸せの鐘』に行ってらっしゃいな」

「……『幸せの鐘』ですか?」

「港が見える丘の上に鐘があるのですよ。その鐘を二人で鳴らすと天使が祝福してくれるそうですよ」

「天使が祝福……」

「ええ、もうすぐ港町フィーネに到着します。宿に荷物を置いたらシア君と行っておいでなさい」


 期せずして同じ話が違う馬車で出ていた。シアもルーナも港町フィーネに到着したらお互いを誘って行ってみようと思っていた。やがて、潮の香が強くなり広大な海が見えはじめる。深い碧は太陽光線を反射しながらきらきらと輝き、上空に浮かぶ雲が形を変えながら流れてゆく。街道を馬車で揺られながらその景色を味わっていると、馬車が到着した。


 港町フィーネで馬車が到着したのは海辺の大きな旅館であった。コールマン伯爵が準備してくれたその旅館は、貴族の利用も多いらしく玄関に車寄せがあり馬車が横付けできた。部屋に荷物を運び込むと明日の朝までシア達は自由時間となったのだった。



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