第九話
「トキン、お茶にしましょう」
「はーい、母さま」
今日のティータイムは、ミルクティーとレーズンクッキーです。
このレーズンクッキーは、王都で人気のお店の新商品らしく、手に入れるのはなかなか難しいらしいです。
そう聞くと確かにブドウの風味が濃いような気がして美味しく感じるから不思議です。
使った食器を片付けて、ティータイムの終了です。
「トキン、そろそろ行くかのう」
「はーい。母さま行ってきます」
「トキン、勉強のつもりでいくのよ。いってらっしゃい」
母さまの忠告に、にっこりで頷きます。
ジーヤと二人で出かけます。
ジーヤは大きな木の板をかかえています。僕は子供用の小さな手押し車をおします。地域によっては、一輪車とか、猫車とか呼ぶようです。
小さなお家からソプラ通りに出ます。
あとは西門方向にまっすぐ進みます。目的地はすぐそこです。
「トキンや、ここじゃ。この場所をかしてもらえるぞい」
「うわ、イメージ通りの場所だ。ジーヤ、ありがとう」
ジーヤとにっこり頷きあって、準備をはじめます。
僕は手押し車から荷物をおろします。
ゴザを敷いて小さな丸テーブルと木製イスを置きます。
僕が三歳のころ使ってた物です。
あとは、さっき母さまと『野生のバニーガール』で買ってきた、カエルのコインケースを首から下げて、革のエプロンを首からかけて、背中のヒモはジーヤに結んでもらいます。
虫眼鏡と革のミトン手袋をテーブルの上に置いて、麦わら帽子をかぶれば準備完了です。
ジーヤが壁に、木の板を立てかけます。板にはこう書かれています。
アイテム鑑定 無料
小さな鑑定屋さん
『トキンの虫眼鏡』
僕はうれしくなって、ジーヤに抱きつきます。
ジーヤは優しく頭を撫でてくれます。
「さっ、挨拶にいくぞい」
僕は、にっこり頷きます。
看板を掲げた、すぐ横の入口をくぐります。入口の上にはこう書かれてます。
トツカーナ伯爵領
シェーナ街
西門 門番詰所
「お邪魔しますぞい」
「こんにちは」
建物の中には五人の門番さんがいました。みんなお揃いの鉄鎧を装備してます。
「よく来たな、小さな鑑定士くん。俺が門番長のバーンだ」
「こんにちは、僕はトキンです。よろしくお願いします」
バーン門番長さんに、にっこりの挨拶をします。
「手間をかけさせてすまんがのぅ。目をかけて貰えればありがたいのぅ」
と言って、ジーヤは手土産の小袋を差し出します。あの袋は見覚えがあります。
「この包みは、王都の人気菓子屋バーデンかっ」
バーン門番長さんが、クワッと目を見開きます。
「ふぉふぉっ、皆さんの分も入っておりますわい。奥様がいれば、ご機嫌とりも思うがままじゃと思うのぅ」
門番さん達から「おおっ」と歓声があがります。そして次々と声をかけてくれます。
「トキンといったか。俺達がいるから安心しろよ」
「小さいのに、独り立ちとは感心だ」
「何かあったら、すぐ声をかけるんだぞ」
「皆さん、よろしくお願いします」
あっという間に、打ち解けることができました。お菓子の力は偉大です。
挨拶もすみ、僕はお店のイスにちょこんと腰掛けます。
あとはお客さんが来るまで、本を読んで時間を過ごします。
ジーヤは他にも周るところがあるそうです。
夕方に迎えに来てくれます。
午前中に、無料鑑定を始めたいと相談してから、あっという間にこの状況です。
うれしくて一人でにっこりしてしまいます。
夜には門が閉まってしまうので、もうそろそろお客さんが来るかもしれません。
楽しみです。
トキンのメモ
鑑定 ランク2 (2/200)
小さな鑑定屋『トキンの虫眼鏡』
本日、オープン