第六十七話
朝食を終え、母さまの執務室に移動します。
母さまとジーヤと三人でおはなしします。
話題はもちろんあの逸品です。
二人に羊皮紙を見せます。
鑑定結果
【【祝福の縫針】】
良品
付与 5%
系統者の手にあれば稀に奇跡を現す。
「おそらく深層由来の買取り品に紛れてたと思うんだ」
「う〜む。縫製で【古代の逸品】を生み出せそうな説明じゃのぅ」
「リペア経験値が五千入ったんでしょう。その可能性が高いわ」
「母さま、ジーヤ。系統者って今もいるのかな」
「ふぉふぉふぉ、案外近くにおるぞぃ。このシェーナ街だけで数人おるわぃ」
「そうなの」
「ねぇ、トキン。【王様と時の扉】の中でカイン様と、後に七傑と呼ばれる七人の仲間は、まず何処を目指したかしら」
「え〜とね。アベニン山脈を北上した所に位置する、シビッリーニ連峰のヴェットーレ山を目指した」
「どうしてヴェットーレ山を目指したのかしら」
「それは【女預言者】【名高い巫女】【凶悪な魔物使い】【悪魔の仲間】と様々な【二つ名】で呼ばれる老婆シビッラに会って助言を求めるため」
「でも会わなかった。何故かしら」
「ヴェットーレ山の中腹にある、ビラート湖で会った老人シビルに『あの老婆を訪ねても食い殺されるだけじゃ』と、とめられたから」
「そうね。老人は代わりに【古の聖遺物】の隠された場所のヒントを授け、手にしたカイン様達は、地上の魔物を打ち払った。でも【古の聖遺物】については詳しくは語られてないわね」
「うん」
僕は頷きます。
そして気付きます。
「えっ、【祝福の縫針】は【王様と時の扉】で語られた【古の聖遺物】なの」
ジーヤがフレッシュハーブティーのおかわりを注いでくれます。
母さまはニコニコして続けます。
「これも【王様と時の扉】には詳しく書かれてない話よ。七傑の戦士達は同時に複数の役割を担っていたわ」
「そうなの」
「ええ、そうよ。カイン様のパーティーで斥候役は誰だったかしら」
「獣人のミャーコ様」
「ミャーコ様は斥候役の他に、軽戦士そして裁縫師だったと伝わっているわ。獣人と裁縫、もう気付いたかしら」
「刺繍・手芸用品店『白猫の隠れ家』の白猫店長さんが系統者だったの・・・」
「そして彼女の名前も同じミャーコよ」
「ええっ、白猫店長さんは女性だったの? だって男性の格好をしてたよ。話し方も」
「ふふふ、そこは触れては駄目よ。でもね、トキン。【祝福の縫針】の事はまだミャーコに聞けないわ。最初に確認しなければならないのは、お兄様の意向よ」
「うん。母さまに渡しておくね」
僕は頷きます。
そして少しだけ動揺します。
白猫店長さんが系統者だったことにです。
あと、女性だった事にも。
どうして母さまとジーヤは、七傑に複数の役割があったと知っているのかな。物語【王様と時の扉】にそんな記述はないです。
ふむぅ〜ん、わかりません。
僕は母さまの執務室を出ます。
そのまま厩舎に向かい、馬丁長ニンジーノに言います。
「ニンジーノ、モンデパィ銀行まで送って欲しいけど大丈夫?」
「もちろんでさぁ。すぐ出ますか」
「うん、お願い」
僕はにっこりで頼みます。
「わかりました。おい、フォルトゥーナ出番だぞ」
ヒヒーン♪
フォルトゥーナ号に揺られて、ぱかぱか進みます。
モンデパィ銀行ではバンコ頭取が出迎え、個室に案内してくれます。
「トキン様、ようこそおいでくださいましたバンコ」
「こんにちは、バンコ頭取。この証文、預け入れお願いします」
「賜ります。ほう、宝石屋『オフィス ディ ラブ注入』の証文ですな。う〜む、これで決済可能残高が一億ゴルドを超えますな。なんたる商才。う〜む」
「あの、どうかしましたか」
「トキン様、将来的にでもご自分の商会店舗を持つつもりはございますかな」
「ちゃんと考えた事なかったです」
僕は素直に答えます。
「実は・・・」
と言ってバンコ頭取が内ポケットから図面を取り出します。
「当銀行が所有しておりますが、対外的には公開していない、一等地の物件がありますバンコ」
「未公開物件というものですね」
「仰る通りです。場所はシェーナ街を横断するソプラ通り沿い。そのど真ん中になりますバンコ」
「詳しく聞かせて下さい」
僕はにっこり答えます。
バンコ頭取もニコリと笑って続けます。
「大商会の建物二つに挟まれた、間口3メドルだけ、ソプラ通りに面しております。しかしながら、この物件はシェーナ街随一の大きさを誇る建物が付いておりますバンコ」
図面を見ながら確認します。
カンポ広場の真南に位置した土地建物です。
ソプラ通りに面しているのは、僅か3メドルですが、そこから店奥に15メドル続きます。
さらにその奥に巨大な倉庫の様な空間が広がります。
奥の建物は、両隣りの大商会の建物二つを足したより大きいです。
四角い団扇を上から見た様なイメージです。
「バンコ頭取、この銀行の二軒隣りですよね。今、見れますか」
「ご案内します。参りましょうバンコ」
バンコ頭取と外に出ます。
大きな商会の建物を一つ越えて、物件に着きます。
正面はシェーナ色と呼ばれる赤茶色の煉瓦造り三階建てです。
バンコ頭取が厳重な鍵を開け、アーチ状の観音開き扉を、ギィ〜と音を立てて開きます。
細長い店舗が真っ直ぐ奥まで続きます。
外観は三階建でしたが、店内は吹き抜けで天井が高いです。
二人で奥まで進みます。
物凄い広さの店舗に圧倒されます。
「バンコ頭取、素晴らしい情報有難うございます。ですが僕に買える金額でしょうか?」
バンコ頭取がニコリと笑って答えます。
「もちろんでバンコ。むしろトキン様でなければ買えないと私はおもってますバンコ。価格は3億ゴルドですが、物件を担保に融資致します。月々300万ゴルドの10年返済。支払い総額は3億6千万ゴルドになりますバンコ」
「月々300万ゴルドなら無理なく返済出来ます。母と筆頭執事に相談しますからお返事はその後になります」
「わかりましたでバンコ」
バンコ頭取と笑顔で別れます。
フォルトゥーナ号に揺られて、
ぱかぱかとお家に帰ります。




