第五十一話
二度目のお披露目を終えます。
手を繋いで大広間に戻ります。
お菓子を手にしながら、ちょうど始まった、伯爵による魔物襲来話に耳を傾けます。
切々と語られる、魔物との戦いにみな耳を真剣な表情を浮かべます。
僕とソフィも現場指揮官である伯爵のお話に聞き入ります。
トツカーナ伯爵の言葉が途切れ、代わりに万雷の拍手が鳴り響きます。
僕とソフィは見つめ合い、そして頷き合います。
ジュゼッペ執事長が「ほんの一部です」と沢山の魔石が入った木箱を台車に乗せ見せて周ります。
回収した魔石の数は千を超えるそうです。
変異種の大粒の魔石はもう見てます。
先週行われたヴェネート家での婚約発表会で披露されレオナルド様に進呈されています。
陣頭指揮を取ったトツカーナ伯爵の口から語られた魔物襲来事件に改めて戦慄してしまいます。
このお話なら旅の吟遊詩人が王国中に広めるのも納得です。
この戦いの後だからこそ、僕達の婚約という明るい話題に、より熱狂してくれるのだと思います。
軽食を取り、バルコニーに立ちます。
今日三度目ですがシェーナ市民は熱気を持って祝福してくれます。
僕とソフィはニコニコとにっこりで手を振って応えます。
「トキン、私、今とっても幸せよ」
ソフィが笑顔でいいます。
「僕もさ、ソフィ」
にっこりで答えて、繋いだ手に少しだけ力を込めます。
しばらくして裸馬レースが始まります。
ファンファーレがカンポ広場に鳴り響きます。
各地から選抜された騎手が誇りを胸に広場へと入場してきます。
僕とソフィの前で横一列に整列し馬上儀礼をとります。
スタート位置に着きレースが始まります。
カンポ広場の熱気は最高潮に達します。
隣りにいるソフィの声も聞こえません。
あっという間に広場三周のレースは終わり、賭けに勝った者も負けた者も皆、笑顔を浮かべます。
今日だけ無料で振る舞われている特産のトツカーナワインを片手に盛り上がります。
大広間に引き揚げた僕とソフィを持っていたのは伯爵家恒例のダンスパーティーです。
もちろんソフィを誘いダンスを楽しみます。
一曲だけ踊って休んでいるとモンタルチーノ子爵がやってきます。
「トキン様、ソフィア嬢。お疲れかと思いますが少しだけお時間を頂けますか」
僕とソフィの声が揃います。
「もちろんです」
「ははは、本当に仲が良いのですね。実は幸運アイテムの件で思うところがあります。僅かな可能性の話ですが、この機会にお伝えさせてください」
僕はにっこり頷きます。
「私の領地内にありますダンジョンの話です。このダンジョンは世間から小物雑貨ダンジョンと揶揄されております。それは武器防具の類が一切ドロップせず、出るのは雑貨や小物の類だけなのが理由です」
僕は静かに頷きます。
「先程、トキン様の幸運コレクションを拝見して驚いたのです。その多くが雑貨や小物の類である事に。ひょっとしたらですが当家の管理するダンジョン産の物も含まれている可能性もあります。コレクション収集の何かのお役に立てればと思っているところです」
僕はにっこり応えます。
「ありがとうございます。モンタルチーノ義叔父様。確かに興味深いお話です。現在ダンジョン産出のアイテムはどの様な扱いになってますか」
「現在はダンジョン脇に買取屋を置いて良品のみ買取しています。買い取ったアイテムは領都の小物屋で販売しています。鑑定出来る者が領内におらず全て通常品として売っています。一定期間、売れ残った物はここシェーナ街の小物屋に卸売りしています」
「わかりました。お話ありがとうございます。いくつかお願いがありますがいいでしょうか」
「何でも言ってください」
僕はにっこり頷きます。
「まず買取は良品だけでは無く、傷物や壊れている不良品も回収素材として買取してください。これにより冒険者の収入が増え、訪れる冒険者の増加が期待できます。冒険者が増えれば街が潤います」
モンタルチーノ子爵が頷きます。
「次に不良品と残り物の卸売りはまず僕に見せてもらえればと思います。不良品は素材代として原則全て買取ります。幸運アイテムと必要なアイテムは卸値では無く、定価で買取ります。これでこれまでの卸売りより収益も上がります」
モンタルチーノ子爵が頷きます。
「買取所の資金負担が増える分は、僕の方で資本提供します。僕の趣味に協力してもらえるなら喜んでやらせてもらいます。それと買取屋も小物屋も子爵家直営がいいと思います。どうでしょうか」
「ありがたいお話です。子爵にしてもらったのもトキン様のおかげです。是非協力させてください」
僕とモンタルチーノ子爵は、にっこりで握手します。
また良い出会いに恵まれます。
トツカーナ伯爵側の婚約お披露目会も無事終了です。
モンタルチーノ子爵とクロッセート子爵に約束をします。
ソフィと一緒に訪ねると。
皆に挨拶して別れます。
最後にソフィとおやすみの言葉を交わします。
笑顔でプッブリコ宮殿を後にします。




