第五十話
「ありがとうございます。トキン様に観て頂きたいアイテムがあります」
そう言って礼装の内ポケットからシルクのハンカチに包まれた品をテーブルに置きます。
男爵はそっと包みをときます。
現れたのは古そうな一本のスプーンです。
シンプルなデザインの銀製スプーンです。
「このスプーンは我が領地にありますダンジョンから冒険者が持ち帰った品と伝わっております。買い取った村長一家に幸運が続き、領主であった曽祖父に献上されたのが約百年前です。私が手にして以来、ずっと持ち歩いている物です」
僕はにっこりで頷いて応えます。
「わかりました。観させて頂きます「鑑定」」
鑑定結果
「銀のスプーン」
良品
【銀鼠のスプーン】
幸運+1
50,000ゴルド
「ふむぅ〜ん、観えました。この銀のスプーン。銘は【銀鼠のスプーン】効果は幸運+1の【古代の逸品】で間違いありません。素晴らしい品をお持ちですね。これからも大事にして下さい」
僕はにっこりで答えます。
周囲からも「おぉ〜」という声と共に拍手が起きます。
「ありがとうございます。やはり幸運アイテムでしたか。ならば祝いの品としてトキン様に進呈させて頂きます。見た目は素朴なスプーンですが、その価値を知るトキン様にお持ち頂きたいのです」
僕は急な申し出にびっくりします。
「モンタルチーノ男爵、そのお優しいお気持ちだけで僕は充分嬉しいです。折角、代々伝わる縁起の良い品です。男爵家の家宝としてこれからも大事にして下さい。これは僕の本心です」
僕はそう伝えます。
モンタルチーノ男爵は言います。
「トキン様、ソフィア嬢は私の可愛い姪っ子です。その祝いの品です。そのつもりで持参したのです。遠慮なく受け取って下さい。我々は既に家族ですよね」
モンタルチーノ男爵がにこりと笑顔を見せます。
ソフィもニコニコしています。
僕もにっこりしてしまいます。
「わかりました。僕とソフィの婚約記念の品として、大事にさせて頂きます。ありがとうございます。モンタルチーノ義叔父様」
僕はにっこりとぺこりでお礼します。
ソフィもニコニコでぺこりします。
大広間からも拍手が沸き起こります。
「私からも一言いいかな」
トツカーナ伯爵がごほんと咳払いします。
皆の注目が集まります。
「今の一件により、我がトツカーナ伯爵家一門とヴェネート公爵家との絆をより深めたのは、この場にいる皆が証人である。と私は考えますが如何でしょうか、アリアンナ様」
「ええ、私もそう思いますわ。トツカーナ伯爵」
「ありがとうございます。たった今、アリアンナ・ヴェネート様より同意も頂いた。よってモンタルチーノ男爵の思いと行動に対し加増を持って応えたい」
突然の領地拡大のお話しにモンタルチーノ男爵夫妻も、大広間の皆も唖然とし静かになってしまいます。
トツカーナ伯爵の言葉が続きます。
「男爵領の北部に位置する、我が領地を割譲する。男爵領と同じ面積をだ。これにより領地が二倍に増える事になる。本日よりモンタルチーノ子爵となす」
静まり返っていた大広間中から歓声と祝福の声が上がります。
モンタルチーノ夫人が抱く赤ちゃんが泣き出します。
モンタルチーノ夫妻も涙しています。
僕も嬉しくなってモンタルチーノ夫妻に駆け寄ります。
ソフィも一緒に駆けつけます。
モンタルチーノ子爵は膝を折り、僕とソフィのおかげだと言い頭を下げます。
伯爵夫人も実家の加増を喜んでいます。
母さまもジーヤもニコニコ見守ってます。
男爵の優しい気持ちに、伯爵が粋な計らいで応えたのです。
「くう〜。今回はモンタルチーノ子爵に遅れをとりましたが、我がクロッセート家もこれから盛り返す所存ですぞ〜」
クロッセート子爵が笑いを誘います。
楽しい雰囲気のまま、今日二度目のお披露目に向かいます。
プッブリコ宮殿三階のバルコニーにソフィと一緒に立ちます。
僕達の婚約お披露目会に来てくれたトツカーナ領民に手を振ります。
宮殿の隣りにある高さ102メドルの塔の鐘が鳴ります。
鐘突き頭領のマンジャさんが汗水垂らして頑張ってくれてます。
一度、ソフィに案内されて塔の展望室に上がって驚きます。
太ったマンジャ頭領は塔の階段を降りれなくなり、そのまま展望室で生活してるのです。
差し入れしたサンドイッチに大感激してくれます。
「にひひ、面目無い。わしはこの腹が憎い、にくい、にひひっ」
と言って大きなお腹を叩いてポンポン鳴らす愉快なオジ様です。
大鐘楼が祝いの鐘を響かせるカンポ広場、集まった大勢の市民の中に僕を知っている人も居た様です。
「あれ?トキンって貴族だったのか」
「タメ口きいた俺達は死罪かもな。泣ける」
「しかも大貴族。マジ有り得るから」
「その前に沢山食う。今すぐ」
「お貴族様だとは思ってだけど、貴族のトップ、ヴェネート公爵家だったのねぇ」
「なにしてるのかニェ〜」
「婚約のお披露目レツ。見れば分かるレツ」
「あんた、公爵家だって知ってたかい」
「まさか。お貴族様とは思っていたが公爵家とは思わんさ」
「あたいは、どっかの男爵の次男坊くらいに思ってたよ」
「何にしてもめでたい話さ」
様々な声が聞こえてきます。
沢山の笑顔が見えます。
ついひと月前に魔物の襲来があったと思えない市民の活気です。
二度目のお披露目を終えます。
手を繋いで大広間に戻ります。




