第二十三話
僕の目の前には海が広がっています。
空ではカモメが鳴いています。
不思議な匂いのする場所です。
匂いの正体は潮の香りだとジーヤが教えてくれます。
波の動きを無心で眺めます。
一時間くらい観ていた気がします。
ジーヤと手を繋いで歩き出します。
次は小物屋さんに行きます。
母さまは挨拶に行くところがあり別行動です。
初めて見る運河の街ベニスは広く活気があります。
街の中まで潮の香りが広がっています。
カラフルな色使いの建物がどこまでも並びます。
狭い運河を沢山の船が行き交います。
きょろきょろしてるうちに目的の店に着いたようです。
「トキン、この店じゃ」
小物雑貨
『天然のマグロ女』
店内は、宝石類、食器類、照明やバッグ等にコーナー分けされています。
じっくり観て行きます。
幸運アイテムに出会えるよう、僕の幸運コレクションも持って来てます。
一時間ほどみてまわり、ようやく気になるアイテムを見つけます。
鑑定結果
「木製のシューホーン」
良品
『オーク古木の靴べら』
幸運+1
19,000ゴルド
店の最奥に木製品コーナーがあります。
そのさらに隅に隠れる様に置かれていたのです。
やっと出会えた気がします。
静かに待っていてくれた感じです。
凄く嬉くてにっこりです。
会計を済ませ店を出ます。
ジーヤと手を繋ぎホクホク気分で宿に戻ります。
宿には母さまが先に戻っています。
僕は初めて見た海の感想や、ようやく見つけた幸運アイテムのことをお話します。
母さまはニコニコで聞いてくれます。
ジーヤもニコニコしています。
しばらくして母さまがいいます。
「夕食に招待されたから、皆で出かけましょう」
ジーヤに手伝ってもらい、凄くかっこいい服を着せてもらいます。
母さまもジーヤもお洒落しています。
宿の娘さんが「迎えが来た」と知らせてくれます。
迎えの豪華な馬車に乗ります。
「母さま、どこに行くの」
「ふふふ、着いてのお楽しみよ」
母さまもジーヤもニコニコしています。
しばらくして馬車がとまります。
馬車を降りた僕は、目の前の光景に固まってしまいます。
見たこともない大きな宮殿が正面に建っています。
大きな広場に面した宮殿前には、五十人を超す執事さんとメイドさんが立って出迎えてくれます。
そんななか母さまは、何でもないように進みます。
ジーヤが僕の手をとって一緒に進みます。
宮殿に入り豪華な部屋へ案内されます。
「母さま。ここはヴェネート公爵様のお屋敷なの?」
「そうよ、驚いた?公式なものではなく、プライベートの食事会よ。言葉使いも気にしなくていいわ」
「そんな、平気なの?」
「殿下は細かいことを言う方ではないわい。トキンも会えば分かるはずじゃ」
執事さんが来て、夕食会の前に、執務室へ案内したいと伝えてきます。
母さまが頷き三人で部屋をでます。
黄金色に輝く階段を通り、案内された執務室には若い男性がいます。
男性は立ち上がり、執事に席を外すよう伝えます。
僕達以外だれもいなくなります。
「アニー、こんなところまで呼び出してすまないね。それと君がトロヴァーレくんかな」
トロヴァーレ誰?と思いましたが、声をかけられたので、ご返事をします。
「公爵殿下、初めまして、僕はトキンです」
「そうかトキン君か。では私もトキンと呼ばせてもらうよ。いいかな」
僕はにっこり頷きます。
「ではトキンも、私のことは殿下などと呼ばないでほしいな。私にはレオナルドという気に入った名前があるんだ。【王様と時の扉】の物語に出てくる七傑の一人、レオナルド様にあやかった名だ。だからトキンにも名前で呼んでほしい。頼めるかな」
「はい、わかりました。レオナルドさま」
僕はにっこりで答えます。
レオナルドさまもニコニコしています。
「ジーヤも久しいな。ようやく戻って来てくれる気になったか。ジーヤならいつでも大歓迎で迎えるぞ」
「ふぉふぉふぉ、老骨の骨身に染みる世辞ですわい」
ジーヤもニコニコしています。
「さあ、座ってくれ。ジーヤもだ。夕食会の前に確認したい件があってね」
母さま、僕、ジーヤの順で、長めのソファーに腰掛けます。
テーブルを挟んで向かいにレオナルドさまが座り、一つのアイテムをテーブルの上に置きます。
「アニーから、トキンは鑑定スキルを得たと聞いた。見せて貰えるかな」
僕は母さまを見ます。
母さまは頷きます。
テーブルの上にあった羽根ペンと羊皮紙をかりてメモします。
鑑定結果
「ガラスのインクボトル」
不良品(欠け)
『永遠イカの墨壺』
幸運+0 (0/1)
8,000ゴルド
「ふむ、我が屋敷の鑑定士ミランと同じ結果だ。さすがトキンだ」
レオナルドさまはニコニコしています。
僕もにっこりしてしまいます。
「さて、本題はここからだ」
レオナルドさまは静かに言うと、母さまとジーヤに目を向けます。
「数年前、家族の制止を押し切り、公爵家の人間の立場を捨て、冒険者の道を選択した妹がいた」
母さまは少しうつむいています。
僕は話に耳を傾けます。
「父上の葬儀にさえ顔を出さずに公爵家と距離を置いた。そんな妹が突然現れ、壊れたインクボトルを父の形見にくれという。また、子を一人もうけ、鑑定スキルを得たから見せたいとも聞いた。聞いたのはここまでだ」
レオナルドさまは、もう一度、母さまとジーヤに視線を送ります。
「インクボトルと鑑定スキル。それを繋ぐのは幸運だ。あのインクボトルは幸運をもたらす。鑑定スキルは唯一その事を知る。しかしその効果は失われている。ジーヤがまだこの屋敷で家令をしていた時の事だ。知らぬ筈がない。数年ぶりに顔を出す理由には弱い」
レオナルドさまが、今度は僕を見ます。
「ここからは私の推測になるが・・・トキン、君は観るだけでなく、直せるのではないか」
僕はハッと息を飲みます。
そしてレオナルドさまの、真剣な眼差しと目が合い、離せなくなってしまいます。
どうしていいか分からず、どきどきしてきます。
僕の震える手を、暖かい手がそっと包みます。
「お兄様、隠し事をしてごめんなさい。でもあまりに大きな力なの。誰にもバレたくない、唯一のスキルよ」
「やはり、そうだったか。アニー、話してくれて嬉しいよ。このレオナルド・ヴェネート、家名に誓って他言しないと約束しよう」
レオナルドさまが、もう一度僕を見ます。
「トキン、もし私の目の前で、このインクボトルが、元の姿を取り戻せたなら、これをトキンに進呈すると約束しよう。どうかな」
母さまを見ます。
母さまが静かに頷きます。
僕はインクボトルに両手を添えてつぶやきます。
「『修復』」
僕の両手から優しく淡い光が溢れます。
光がインクボトルを包み込みます。
大きく欠けたインクボトルの口が修復されていきます。
「おぉ」
とレオナルドさまが声をもらします。
「本当に素晴らしい力だ。だが確かに大き過ぎる力でもあるな。うむ。トキン、約束通りそれは君の物だ。さあ夕食会にしよう」
色々な事がありすぎて、豪華な夕食にあまり手が出ませんでした。
鑑定 ランク2 (65/200)
リペア ランク2 (195/1000)
母さまは公爵家 出身だった
ジーヤは公爵家 元家令だった




