第二十一話
小さなお家のキッチンで、二人はティータイムの準備に取り掛かりながら、小声で言葉を交わします。
「インクボトル。有ったわよね」
「有ったのぅ。先代のお気に入りじゃったのぅ」
「でも新人メイドが落として、欠けたって聞いたわ」
「先代の遺品として、今は物置きにしまっとるはずじゃのぅ」
「欠けて使えないインクボトルなんて、捨てられるのは時間の問題だわ」
「いつ失われても、おかしくないのぅ」
困った表情の二人は、ふぅ〜と息をはき、気持ちを切り替えリビングへ移動します。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「トキン、お茶にしましょう」
「はーい、母さま」
今日のティータイムは、レモンティーとワッフルです。母さまとジーヤの三人で会話を楽しみます。
「昨夜から降り続いてるから、冒険者さんもダンジョンに行けないよね」
「そうじゃのぅ。トキンの鑑定屋さんも休みじゃのぅ」
「トキン。雨の日の、お勧めの過ごし方はあるかしら」
「はい、母さま。雨の日のお勧めは読書、会話、掃除、時間のかかる料理、それと何もせずに身体と心を休ませる事です」
「ふふふ。トキンは鑑定スキルを手にしてから、ずっと頑張っているわ。今日はお家でゆっくりしなさい。会話がいいなら付き合うわ」
僕はにっこり頷きます。
母さまとジーヤもニコニコしています。
レモンティーのおかわりをして会話の続きを楽しみます。
「ジーヤが連れていってくれた鍛治屋さんで、一つだけびっくりしたものが有ったんだ。今、メモするね」
鑑定結果
「白銀の盾」
不良品(割れ・穴)
【ミスリルの祝盾】
雷属性魔法
(発動不可)
体力+5 (5/150)
魔力+5 (5/150)
「これはまた・・・凄まじい性能じゃのぅ」
「物語の主人公が持つような盾ね。それが実在するのね・・・」
「これを観た時、僕は直してあげたいって思ったんだ。でも同時にまだ直せない。とも思ったんだ」
「トキンの直感がそう思わせたんじゃな」
「うん、そうだと思う。それとね、一昨日に観たものがこれなの」
鑑定結果
「白銀のバンダナ」
不良品(ほつれ・破れ)
【ミスリルの額当て】
素早さ+6 (6/30)
魔力+6 (6/30)
60,000ゴルド
「これだけ見れば凄い性能なんじゃがのぅ。さっきの盾が凄すぎたからのぅ」
「そうね。ミスリル製ってだけでも、本来かなり凄い物なのに、やはり盾の格が違いすぎるわ」
「うん、僕もそう思う。でもジーヤのお話を聞いて思ったんだ。もし、もしもアイテムの銘が【ミスリルの祝兜】だったらって」
雨音が大きくなった気がします。
「その銘なら、効果の更なる上昇が有るかも知れないわね。伝説級の装備を集めると、更に効果が高まってしまう可能性があるのね」
「有り得そうじゃのぅ。そんな装備が実在するとなると、建国王カイン様が七日七晩にわたって、魔物を倒し続けたという話も史実かも知れんのぅ。面白くなってきたのぅ」
母さまもジーヤも瞳をきらきらさせてます。
僕も楽しくてわくわくしてしまいます。
「カイン様は【王様と時の扉】で、人々を助け魔物を倒して王様になる道を選んだけど、僕は別の扉を開けてみたいなぁ」
僕はまた物語の老人の言葉を思い浮かべます。
『幸運を百個まとい、地下神殿の十階を訪れよ。さすれば秘された妖精が、汝の前にミチを示すであろう』
「ふふふ、これでジーヤのお話に繋がるわけね」
「うむ、正しい組み合わせを知り、幸運の共鳴効果で百をまとう。そして地下十階へじゃ」
明日は寝坊してしまうと思います。
だって今夜は眠れそうにありませんから。
トキンのメモ
鑑定 ランク2 (59/200)
リペア ランク2 (59/1000)
幸運コレクション (10/100)
(アイテム所持数 8)




