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その5 喧嘩男

 マックスは、魔人シャンシャンドゥのスキを突き、一撃を入れることに成功した。

 それは攻撃とも呼べないような小さな一撃だった。

 だが、既に限界が来ていたマックスは、そこで力尽きてマットに沈むのだった。


 リングの上ではシャンシャンドゥが何が起きたのか理解出来ずに呆けている。

 やがて彼女は事態を飲み込むと怒りに顔を真っ赤に染めた。


「あのザコ親父、ブッ殺してやるし!!」


 怒りに我を忘れる彼女が目にしたのは、ダウンしたマックスをロープ下から手を伸ばして場外に引きずり出すグレートキングデビルの姿だった。


「はい。タッチ」


 グレートキングデビルはマックスの肩に手を触れるとリングイン。

 あっけにとられるシャンシャンドゥをしり目に、脇の下をカポーンカポーンと鳴らす謎のアピールをしながらリング中央へと歩き出した。


 G・K・D! G・K・D! G・K・D!


 謎の観客から大コールが沸き起こる。 


「えっ? なんで? これってアタシと親父の戦いじゃなかったの?」


 怒りに忘れたはずの我が帰って来たのか、グレートキングデビルの姿にうろたえるシャンシャンドゥ。


「これはタッグマッチと言っただろう。タッチしたら交代だ」


 そんなシャンシャンドゥに対して、あくまでも自分ルールを押し付けるグレートキングデビルは男前だ。

 グレートキングデビルの言葉を理解するや否や、シャンシャンドゥは脱兎のごとくコーナーの弟へと駆け寄った。


 ペシッ!


「じゃあほらタッチ! タッチしたし! これで私の番は終わったし?!」


 シャンシャンドゥは不安そうにグレートキングデビルの反応を伺う。

 そんな彼女にグレートキングデビルは大きく頷く。

 シャンシャンドゥは満面の笑みを浮かべると、そそくさとロープをくぐってリングの外に出た。

 エルエルカンウーは姉の暴挙に一言もなく愕然としている。


「ほらほら早く行ってやっつけてやるし!」

「ま・・・待ってくれよ姉ちゃん」


 姉に押しやられ、エルエルカンウーは渋々リングの中に入った。


 ワアアアアアアッ!


 期待の歓声を上げる観客達?


 エルエルカンウーはキョロキョロと辺りを見渡した。

 その目は不安に泳いでいたが、やがて覚悟が決まったのか、それとも何か作戦を思いついたのか、グレートキングデビルの方へと向き直った。

 グレートキングデビルは手を広げて構える。

 二人の大男がリングの上で睨み合う。


「行くぞ!」


 叫んだのはどちらの方か。

 二人はほぼ同時に走り出した。


 ガッ!


 リング中央でガッツリと組み合う巨漢二人。

 お互いに片方の手で相手の後頭部をつかんで引き寄せ、もう片方の手を相手の腕に絡ませている。


 これは”ロックアップ”と呼ばれる、王道系プロレスの試合序盤に良く見られる攻防である。


 相手の頭を引き寄せようとする力とそれを阻止しようとする力のせめぎ合い。

 手練れのレスラーともなれば、このロックアップで相手の実力を大体察することが出来ると言われている。


「クククク・・・」

「むっ? 何が可笑しい」


 突然笑い出したエルエルカンウーに、グレートキングデビルは怪訝な声を上げた。

 しかしエルエルカンウーはグレートキングデビルの疑問に答えず、あっさりとロックアップを解いてしまった。

 リング中央で向き合う二人に、観客?がざわめく。


「試合は終わったんだよ。俺はお前に負けた!」


 突然の敗北宣言に会場がシンと静まり返った。


「ちょ・・・何言ってるし! まだ全然戦ってないし!」


 シャンシャンドゥは慌ててコーナーで飛び跳ねる。


「組み合った瞬間に見えたんだよ! 俺が血ヘドをはいて倒れる姿がな!!」


 ガ――ン!


 ショックを受けるシャンシャンドゥ。

 何だかんだ言っても、彼女は弟の実力を高く評価していたのである。

 エルエルカンウーはグレートキングデビルに振り返った。


「お前と組み合った瞬間に俺は自分の敗北を確信した。だからこれ以上、無駄な争いは不要だ」


 どうやらエルエルカンウーは色々と悩んだ末、相手に勝ちを譲るという形でカッコ良く試合を終わらせることにしたようだ。

 勝つための作戦を思いついたわけでは無かったらしい。

 しかしグレートキングデビルはエルエルカンウーの両肩に手を乗せると、そのままニュートラルコーナーまで押し込んだ。


「おい、待て、だから無駄な争いは不要――」


 グレートキングデビルはエルエルカンウーをコーナーマットに押し付けると、右手拳を握りしめた。


「行くぞ――っ!」


 パァン!


 ワアアアアアアッ!


「ぐはぁあ!」

『グレートキングデビル、水平チョップ! 会場に凄い音が響き渡るー!』


 エルエルカンウーは必死にグレートキングデビルにしがみついて逃れようとする。


「いや、だから待てって! これ以上は無駄な争いだと言っただろう!」


 だがグレートキングデビルは恐るべき膂力でエルエルカンウーをコーナーマットに押し付けると、チョップを雨あられと叩き込んだ。


 パァン! パァン! パァン! パァン! パァン!


「ぐはあああああああっ!」

『グレートキングデビル、水平チョップの乱れうちだー!』


 かつて多くのレスラーに、「あの技だけは勘弁してくれ」と言わしめたグレートキングデビルのマシンガンチョップである。

 グレートキングデビルは数え切れないほどのチョップをエルエルカンウーに叩き込むと、最後はくるりと一回転。

 遠心力を加えた回転袈裟斬りチョップをエルエルカンウーの首筋に叩き込んだ。


 ドシィ!


 鈍い音が会場?に響き渡ると、エルエルカンウーはマットに崩れ落ちる。


 ワアアアアアアッツ! ドン! ドン! ドン!


 観客?は熱狂の渦に包まれた。歓声を上げ、足を踏み鳴らす。

 リゼットも興奮のあまり絶叫している。

 グレートキングデビルのえげつない攻めに青コーナーのシャンシャンドゥは青ざめている。


「な・・・なんで? 弟は負けを認めたのに・・・」

「勝ちか負けか、終了のゴングは俺が決める」


 何だかカッコイイ感じに言っているグレートキングデビルだが、言葉の内容はとんだジャイアンである。

 エルエルカンウーの目から光が消える。

 絶望したのである。

 魔人の世界でもグレートキングデビルほど理不尽な存在は滅多にいないのだろう。


 グレートキングデビルはその怪力でエルエルカンウーを強引に立たせた。

 エルエルカンウーはもはやされるがままである。

 コーナーでは彼の姉が目に涙を浮かべて見守っている。

 グレートキングデビルの右腕が天に向かって突き上げられた。


 メキッ!


 拳に力が入ると、グレートキングデビルの右腕は一回り大きく膨らんだように見えた。

 会場が大きくどよめく。


 ゴウッ!


 剛腕が空気を引き裂く音と共にエルエルカンウーの胸板にパッっと汗のしぶきが上がった。


 ドシイッツ! 


 ワアアアアアアッ!


『グレートキングデビルの剛腕ラリアット! エルエルカンウー一回転! 顔面からマットに倒れたーっ!』


 ワ~ン ツゥ~


 どこからともなくダウンカウントが流れ始めた。

 会場も一体になってカウントを数える。リゼットも手を振り上げてカウントする。

 ガックリと項垂れるシャンシャンドゥ。


 ナイ~ン ・・・テェン!!


 カン! カン! カン! カン! カン!


 ワアアアアアアッ! G・K・D! G・K・D!


『カウントテン! グレートキングデビル・マックス組、魔人姉弟タッグを下しました!』

『いい試合だった』


 解説の天さんさんの声を久しぶりに聞いた気がする。そういえばいたんですね。


 ここにグレートキングデビル・マックス組対魔人シャンシャンドゥ・エルエルカンウー組、11分15秒テンカウントによるグレートキングデビル・マックス組のK.O勝利が決まったのであった。

次回「勝利者インタビュー」

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