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その3 英雄は英雄を知る

 森の手前、エタン家の一行とリゼットの前に現れたのは甘めガーリーファッションの魔人。

 先日グレートキングデビルに敗れたばかりの魔人、シャンシャンドゥであった。


 人類の敵、魔人との遭遇に、エタンの両親は青ざめてガクガクと震え出す。


「あんたこの間グレートキングデビルに泣かされてたじゃない! また負けに来たの?!」

「ちょ・・・泣いてないし! てか負けたのだってアタシじゃないし! アタシの魔獣がやられただけだし!」


 打って変わってリゼットは強気である。

 元々気の強い少女なのである。

 ましてや魔人と遭遇するのもすでに四度目。少し慣れつつあるのかもしれない。


 その時、森の小道を狭そうに歩いて大男が姿を現した。

 新たな魔人だ。

 リゼットはただ者とは思えないその威容に呑まれ、言葉を詰まらせた。


「姉ちゃん、ここが話にあった場所か?」


 大男が長い髭を撫で付けながら辺りを見渡した。


「そう、そうだし。おい、メスガキ。さっさとあの化け物を呼ぶし!」


 そんなことを言われても・・・。リゼットは困り顔になった。

 グレートキングデビルはいつも突然現れ、突然去って行くのだ。

 呼べと言われて呼べれば世話は無い。


 大男がリゼットを睨みつけた。

 リゼットは緊張に額に汗を浮かべた。

 ちなみに彼は普通に視線を向けただけで睨んだつもりは全くない。しかし、その鋭い眼光で見られた者達は睨まれたと勘違いしてしまうのだ。

 そんな中、エタンの母はいつの間にか息子とつないでいたはずの手が離れているのに気が付いた。

 彼女は慌てて辺りを見渡したが、エタンの姿はこの場から消えて無くなっていた。


◇◇◇◇◇◇◇


 暗闇の中、ポツンとプロレスのリングが浮かび上がっている。


 いつものように遠くから群衆の掛け声が聞こえる。


 エタンはリングに上がるとマスクを手に取る。


 G・K・D! G・K・D!


 エタンがマスクを被った途端、モリモリと筋肉が盛り上がる!

 ナイスバルク! 僧帽筋が並じゃないよ! 背筋がたってる! 肩メロン!


 骨がゴキゴキと音を立てて身長が伸びる!


 オオオオッッッ! G・K・D! G・K・D!


 覆面レスラー・グレートキングデビルが、ご要望にお応えしてこの異世界アルダに降臨したのであった。


◇◇◇◇◇◇◇


「! この曲は!」

「き・・・来やがったし!」


 突然、厳かな音楽が森に流れる。

 その完成された厳かな音色は聞く者の心を強く揺り動かす。


 エタンの両親は、次は何が起きたのかとうろたえて辺りを見渡す。

 リゼットは早くも大はしゃぎだ。

 魔人シャンシャンドゥは怯えた表情で周囲を警戒している。

 リゼット相手には強がっていても、前回の戦いで相当に苦手意識を刻まれたようだ。

 大男の魔人は目を閉じて荘厳な音楽に身をゆだねている。

 そして・・・


 これまでと一転、音楽はアップテンポな曲調へと変わる。

 勇ましい。体が自然と動き出しそうな、心が沸き立つリズムだ。


 G・K・D! G・K・D! G・K・D!


 どこからか合の手のようなコールが聞こえてくる。

 謎の群衆の声に慌てて辺りを見渡すエタンの両親。しかしここには彼らしかいない。

 そしてそんな二人を嘲笑うように――


 バーン!


 森の中に大きな爆発音が響いた。

 驚いて飛び上がるエタンの両親。

 リゼットは期待を込め、シャンシャンドゥは慌てて辺りを見渡す。


 いた!


 全員を見下ろす大きな木の枝の上に身の丈2mの美丈夫の姿があった。

 覆面レスラー・グレートキングデビルその人である。


「きゃあああああっ! G・K・D! G・K・D!」


 リゼットは両手を振り上げて黄色い声を上げた。

 エタンの両親は、お隣の少女の見たこともないテンションに目を丸くして驚いた。


「とうっ!」


 掛け声と共に、グレートキングデビルは木の枝から飛び降りる。

 前回は迂闊にも高過ぎる木の枝から飛び降りて足を痺れさせてしまったが、今回はちゃんとその辺も計算したようだ。

 無事、着地に成功したグレートキングデビルはすっくと立ち上がると――


 バサッ!


 大きくガウンを跳ね上げながらかっこいいポーズを決めた。


「キャアアアアアッ!」

「キャアアアアアッ!」


 期せずしてリゼットとエタンの母の歓喜の叫びが重なった。


「私も一度見てみたかったのよ!」


 エタンの母は村が魔人ナナナイタに襲われた時、家の中で気を失っていた。

 意識が戻ったのは全てが終わった後。

 後日、村の女性達が嬉しそうにグレートキングデビルの肉体美を誉めそやすのを聞いて、彼女は内心悔しい思いをしていたのだ。


「ホントに裸なのね! ねっ! ねっ!」

「あ・・・ああ」


 キャーキャー言いながら隣の夫の肩をバシバシ叩くエタンの母。

 その目はグレートキングデビルのたくましい肉体にくぎ付けである。

 エタンの父はまるで韓流アイドルにはまった妻を持つ夫のような複雑な気持ちで、気の無い相槌をうった。

 その目は明らかに


 何でこの男はパンツ一丁なんだ?


 と問いたげである。

 やはりこの異世界アルダでは、ストロングスタイルのファッションは受け入れ難いものなのかもしれない。


 グレートキングデビルの姿に大男の魔人は、目玉が零れ落ちそうなほど目を見開いて驚愕していた。

 その長い髭を掴んだ手は震えている。

 好敵手の登場に武者震いを抑えきれないようだ。


(何だコイツは! 正真正銘の化け物じゃないか! こんな化け物だなんて聞いてないぞ!)


 ――違った。どうやら普通に震えていただけのようである。

 大男は慌てて姉に詰め寄った。


「姉ちゃんはこんなヤツと戦ったのか?!」

「? そーだけど?」


(なっ?! ものを知らないってことは恐ろしい・・・)


 大男は天を仰ぎたくなった。

 英雄は英雄を知る。

 常に鍛錬を怠らないこの男は、ひと目でグレートキングデビルが只者ではないことを見抜いたのである。


 グレートキングデビルが大男を見た。

 それだけで大男は思わず気押され、一歩下がった。


 ・・・・・・・。


 グレートキングデビルの方は、大男に特に何も感じなかったようである。

 どうやら正しくは、「英雄は英雄を知る、ただし一方通行のこともある」、だったようだ。

 気を取り直したシャンシャンドゥが、グレートキングデビルに向かって吠えた。


「そこのムキムキ男! この間はよくもアタシを泣かせてくれたし!」


 さっき、リゼット相手には泣いていないと言い張っていたが、どうやらグレートキングデビル相手に見栄を張る勇気は無いようだ。


「今日はこのアタシの最強弟がアンタに地獄を見せてやるし!」

(やめろ~~~~~!!!)


 心の中で叫ぶ大男。


(何でそういうこと言うんだ! この男が本気にしたらどうするんだ!)


 大男の名誉のために言っておくと、彼は本当に強い。

 今までグレートキングデビルが戦ってきたナナナイタとエルガルガル、彼らが二人掛かりでなければ敵わないほどの強者だった。

 だが、先ほども言ったが「英雄は英雄を知る、ただし一方通行のこともある」。

 彼は強すぎて、ナナナイタとエルガルガルが実際に戦うまで気が付かなかったグレートキングデビルの強さを、ひと目見ただけで見抜いてしまったのである。


 グレートキングデビルはシャンシャンドゥと大男を交互に見た。

 ゴクリと喉を鳴らす魔人姉弟。

 グレートキングデビルはおもむろに手を伸ばすと――


「リングカモン!」


 グレートキングデビルの掛け声で、スキル「環境魔法」が発動。

 突然、森の中にプロレスリングが出現する。

 グレートキングデビルの謎の技に大男は驚愕した。


(何だ今のは?! まるで魔力の流れを感じなかったぞ! 魔法じゃない?! どういう原理だ?!)


 大男はグレートキングデビルに振り返った。当のグレートキングデビルは涼しい顔(覆面をしているが)でリングを見ている。

 大男は得体の知れないこの男に心の底から恐怖した。

 ちなみにシャンシャンドゥは前回も見ているので特に驚いてはいない。

 むしろこの舞台で自分の弟が憎っくきグレートキングデビルを血祭りにあげる姿を想像して、によによと頬を緩ませている。


「じゃあ早速お前達戦うし!」


 グレートキングデビルは当然のように言い切った。


「何を言っているんだ? お前も戦うに決まっているだろう」


 その瞬間、シャンシャンドゥの顎が音を立てて落ちた。


「ななななんなんでアタアタタアタシが・・・」


 シャンシャンドゥはうろたえるあまり、台詞がスキャットになっている。

 グレートキングデビルはエタンの両親へと近付くと、エタンの父の肩を組んだ。


「こっちは俺とマックスが組む。二対二のタッグマッチだ」

次回「父親の意地」

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