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虚構転生//  作者: ゼップ
炎と海のトリエ
82/243

82_7~可変式フーブゥ~



自由軍と騎士団の戦闘はいよいよ泥沼と化しているようだった。

爆発や幻想リソース炸裂の光はますます強くなっていき、燃え盛る炎の音が厭に耳についた。


「お前、さっき俺の早撃ち、見えてただろう?」


ヴィクトルが気だるげな、しかし楽しそうでもある口調で尋ねた。


「早撃ち、というのが何かはわかりませんが、貴方の剣のことなら、まぁ見えますよ。

 こう見えて目が良いのですよ、私」


対する7《ジーベン》はそういったのち、その手に持った偽剣ソードレプリカ『可変式フーブゥ』を構えた。

それは奇妙な造形の短剣であった。

妙に分厚い刃に黒く塗られた刀身に見えるが、その実黒塗りなのではなく、びっしりと細かな言語テクストが刻まれているのだった。


その剣を見たヴィクトルは、ひゅう、と楽し気に口笛を吹いた。


「お前さんも結構な趣味人と見た」

「それでしたら貴方の目は節穴ですね。私ほど仕事一徹の人間はいませんよ」

「仕事が趣味なんだろ」


ヴィクトルは叫ぶようにそう言って、再び剣を抜く。

同時にもう一方の手で銃撃。響き渡る発砲音は無意味だ。ごぉんごぉん、と遠くで鳴り響く鐘の音。

早撃ち、と称してヴィクトルが放った刃を、7《ジーベン》は短剣を持って逸らす。

耳をつんざく轟音と共に瓦礫が跳ね飛ぶ。

背中越しにその様子を感じ取りながら、7《ジーベン》は地を蹴り跳躍ステップしていた。


「早撃ち、というか、それは剣術でしょう。立派なものです」


揶揄するように彼は言う。

不可視の一撃のカラクリは既に見えていた。


要するにあの不可視の一撃は、居合、なのである。

ソードリストから剣を出現させることは一瞬だ。

その一瞬の内に初撃を放ち、すぐさま消す。

これによって剣身を一度見せることなく、敵を穿つことができる。

偽剣ソードレプリカの運用における一種のテクニックであり、それ自体はそう珍しいものではない。

ただこのヴィクトルというの男の偽剣ソードレプリカは、少々特殊であるようだったが。


「力量はあると見ましたが、しかし弱点もたやすい」


何にせよ剣による攻撃なのであるから、幻想リソースによる弾丸と比べ、威力に優れる反面、防御もたやすい。

剣閃を見切り、ちょい、と弾き飛ばしてやれば、それで防御できる。

取り回しの良い短剣型ならば、簡単なことだった。


「俺はガンマンだからな」


噛み合わない会話。しかし7《ジーベン》は『可変式フーブゥ』を振りかぶりながら、あえてそれに合わせる。


「それでしたら私は魔術師エンジニアなもので!」


ヴィクトルは剣を抜く様子はなかった。

だが当然のようにヴィクトルは跳躍ステップを繰り返しながら、するするとこちらの攻撃を避けていく。

その間にヴィクトルが反撃してくる様子はない。

否、できるはずない。彼の不可視の剣の性質上、攻撃するためには足を止める必要があるのだった。


それを看破したうえで、7《ジーベン》は偽剣ソードレプリカの真の力を発揮させた。

短剣型の偽剣ソードレプリカが、ガクン、と剣が唸りを上げ、重なっていた刃が展開されていく。

積み重ね垂れていた短剣が長剣へと伸びていき、鞭のようなしなりを見せた。


「ビックリだ」とヴィクトルが漏らす。


「でも、どう見ても変態偽剣だろう! それ!」


7《ジーベン》の使う『可変式フーブゥ』が異様な機構を搭載した偽剣ソードレプリカだと気づいたのだろう。

『可変式フーブゥ』は短剣からしなる剣へと変形し、剣の動きも明らかに変わっていった。


「貴方のような精鋭エース格相手に、この『可変式フーブゥ』の実験しておきたいのですよ」


7《ジーベン》は剣を、パシン、と地面に叩きつけながら言った。

鞭による連撃によって地面が抉られ、音を上げて土煙が舞っていた。


ヴィクトルは跳躍ステップを距離を取り、またしても舌打ちをする。


「行くぜ、強敵」


そして7《ジーベン》へと叫びを挙げた。

『可変式フーブゥ』は異様なギミックを見せた偽剣ソードレプリカであるが、複数形態を持っていることで操作性は複雑化している。

取り回しという点では最悪に近い騎種だ。

それを悠々を使いこなす7《ジーベン》の力量をヴィクトルは見抜いたのだろう。

だからこそ、強敵、と評してみせた。


一方で7《ジーベン》もまた、ヴィクトルの跳躍ステップを見て、彼が居合による初見殺しだけに頼った偽剣使いでないと判断していた。

奇天烈な外見に反し、相応の実力を持った偽剣使いだ。

そう思ったからこそ、変に“遊び”を含ませることなく、冷徹に彼を追い込んでいく。


「短剣でなくなれば、取り回しは下がると思いましたか?」


7《ジーベン》はヴィクトルの考えを先取りするように言う。

彼はあえて鞭による単調な攻撃を繰り返していた。

相変わらずヴィクトルは防戦一方であったが、跳躍ステップは徐々に速度を増し、攻撃が当たる様子はなかった。

だがその慣れこそが、罠なのである。


がこん、と音を立てて刃と刃が重なり合い、言語テクストが組み合わさっていく。


展開された刃が集まり、鋭く獰猛な姿を現す。

その手に持っていた『可変式フーブゥ』はまた別の形態になっていた。


「うへぇ」とヴィクトルが漏らした。

その頃には、漆黒の鎌と化した『可変式フーブゥ』を7《ジーベン》は振りかぶっている。


「カッコイイぜ、アンタ」


漆黒の幻想リソースが視界を覆いつくすほどの刃となって、ヴィクトルへと襲い掛かってきた。

フィジカル・ブラスターである。


音を轟かせながら、ヴィクトルは真っ黒な幻想リソースの爆発へと巻き込まれた。




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