81_聖女を抱えて
発砲音と、あらぬところへと命中する弾丸。
「また当たらないか、厳しいな……」
ガッカリしたように言うヴィクトルに対し、その足元の猫が「にゃおん」と呆れたように鳴いた。
「まぁ、いいさ。こういうのは最後の最後でカッコよく決まるものだ。作劇上の都合という奴でな」
そう語る彼の言動はあまりにも緊張感がなかった。
7《ジーベン》と5《シュンフ》が互いに目配せしつつ、突然の闖入者に困惑を示しているようだった。
「あれって……ヴィクトル?」
声を上げたのはトリエだった。
ヴィクトル・ジュヴネェル・レオリュード。
自由軍にいた頃、名前だけは聞いたことがあった。
猫を連れた、異様に義理硬い気狂いのガンマン、などというよくわからない風聞も合わせてその名は知れ渡っていた。
「知っているのか? トリエ」と竜のアランが尋ねたので、トリエは頷いて、
「うん、まぁ……ええと、自由軍最強の人? なのかな?」
「なるほど自由軍所属ですか」
7《ジーベン》はトリエの言葉を拾い上げ、その手に偽剣を抜いて前に出る。
「聖女を連れ戻しにきたのでしょうが、残念、すでに彼女は私たちの掌の中、ですよ」
挑発するように7《ジーベン》が言うが、ヴィクトルはそれに応えることはなかった。
ただ一閃、いつの間にか放たれていた刃がトリエの前髪をかすめていった。
つう、と痛みが頬に走り、血がにじみ出ていた。
「ふうむ、俺が……外した?」
訝し気に頭を捻るヴィクトルに対し、7《ジーベン》は顔を歪める。
今のは明らかに異端審問官でなく、トリエを狙った斬撃だった。
「どうやら援軍、という訳ではなさそうだな」
竜のアランがトリエにうそぶいた。
元より自由軍など当てにはしてなかったが、この男は自由軍の思惑とも違う動きをしているように思えた。
「5《シュンフ》、貴方は先に行っていてください。
苛々することに、この男、腕は立ちます」
「あたしがやろうか?」
「いえ、それは少し勿体ない」
7《ジーベン》は不敵な笑みを浮かべつつ、5《シュンフ》の申し出を断った。
「魔術師崩れとして、実戦テストを取れそうな相手なんですから、苛立つことに」
「了解、じゃあまぁ、後で合流ということで」
5《シュンフ》に乱暴に手を引かれ、トリエは思わず、うわ、と声を漏らす。
それを顧みず彼女は跳躍。7《ジーベン》やヴィクトルから距離を取り始めた。
「とりあえず高速旅団に相乗りするから、急ぐよ」
5《シュンフ》に抱き抱えられる形になったトリエは、思わず彼女に強く密着してしまう。
ひどく華奢な身体をしていた。トリエも小柄だったが、彼女もまた同じくらいの体型かもしれなかった。
その事実にトリエはなんだか不思議な想いを抱いた。
「離したら、死ぬから強く持っててね。
あたし、思わず助けるの忘れちゃうかもしれないから」
5《シュンフ》の表情は仮面に遮られ見えない。
だがその突き放すような口調に、トリエは居心地の悪いものを感じつつ、言われるとおりに彼女に強くしがみつくのだった。
「さて、どういう訳か自由軍が君を狙い、異端審問官が君を守ってくれるらしい。
ここは一つ彼らについていくといいと思うぞ」
アランはこんなときだというのに、どこか涼し気な口調で言うのだった。




