表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚構転生//  作者: ゼップ
炎と海のトリエ
80/243

80_追う者、追われる者


「とにかく高速旅団に合流するといいだろう。奴らもこの戦闘前に、逃げ出す準備を始めてる筈だ」


燃え盛る街の中、竜のアランが助言を出してくれる。

トリエは頷いて、必死に走り出す。自由軍や騎士団のどちらに保護されるのも、それはそれで危険だった。


が、この時計塔の街は坂が多く、道も入り組んでいる。

ずっと本を読んでいたトリエにとって、それだけでも強敵だ。

そもそも私はただの少女なんだから──と毒づくように言う。

炎の余波を受け弾のような汗を浮かべつつ、トリエは走り続けた。


目指すは街の隅にある、高速旅団たちの機関車だ。

とにかく街から離れることができれば、また新たな道が開ける。

そう信じて今は行くしかないのだ。


「困ったらとりあえず、海を目指すといい。そうすれば我が助けよう」


アランがまたそんなことを言ってくる。

助けてくれるなら今やってきてほしいものだと、トリエはうんざりした心地だった。


と、そこでガラン、と音がした。

はっ、として顔を上げると、そこには極刑騎士団の赤と白の甲冑が見えた。

即座に角に隠れ、息をひそめる。見つかりたくはなかったが、見られたかもしれない。

火照った身体に厭に冷たい汗が流れていた。


「あ、れ──」


が、極刑騎士団たちは、次の瞬間には噴水のように血を吐き出していた。

ぶち、ぶち、と何かが引きちぎれる音と共に、彼らの身体は倒れていた。


「新手か?」


そうアランが訝し気な声を上げる。

と、同時に奇妙ないでたちの人間たちがどこかからか降り立っていた。


「剣の仮面に、あのカソック……“教会”の異端審問官か」


アランの声にトリエはびくりと肩を上げる。

“教会”の異端審問官の噂は、当然聞いたことがある。

この“冬”の土地にいて、“教会”は今や最大の勢力を築いている。

その中にあって“聖女狩り”を専門に行う残虐無比な組織があるという。

それが異端審問官。

聖女であるトリエにしてみれば、絶対に捕まりたくない人間たちだった。


「逃げろ、トリエ」


アランの言葉に従い、トリエは緊張と共にその場から離れようとする。

奴らに捕まるくらいなら、自由軍や騎士団に保護された方がまだマシだった。


だが緊張ゆえかトリエは、がた、と近くに落ちていた瓦礫を蹴り飛ばしてしまう。


「いたか」


それだけで十分だった。

ダ、と跳躍ステップの音がする。華奢な体つきの異端審問官が、トリエの前に現れていた。


「第四聖女、聖痕は“正義”……最も弱く、最も危険な聖女」


表情が見えない仮面の異端審問官は、抑揚のない声でそう告げた。


「私が、一体何をしたっていうの?」

「…………」

「私はずっと今まで……!」


震えつつもトリエは精一杯抗弁しようとしたが、呂律が上手く回らない。

仮面の異端審問官──声からして女性だろう──はそんなトリエに偽剣ソードレプリカを向け、


「やめなさい、5《シュンフ》」


口を挟んだのは、もう一方の異端審問官だった。


「言ったでしょう、今回の任務は聖女の殺害じゃないと」

「状況次第では、討伐も視野……」

「今の状況のどこに彼女を殺害する必要がありますか。第四聖女を終わらせるのは、私たちの役目ではない」


静かに、しかし強い口調で言われた5《シュンフ》は、不満そうに剣を下ろしていく。

その様子に男は、やれやれ、と肩をすくめ、


「どうも、第四聖女トリエ。私は7《ジーベン》、こちらは5《シュンフ》」


名乗りつつ、彼は仮面を取っていく。

穏やかな笑みを浮かべた青い瞳の男だった。

整えられた眉毛がどことなく怜悧な印象を与えている。


「私たちは貴方を守りにきました。信じられないかもしれないが、とりあえず今は」


そう彼が語った時、ダン、と乾いた音がした。


5《シュンフ》と7《ジーベン》が即座に反応し、音がした方を向く。


「ふうん、“教会”まで来ているのかい」


そこには猫を携えた一人の“ガンマン”がいた。

その手に握られた、役に立たない銃からは硝煙を立ち上っている。


「殺してでも連れて帰るぜ、聖女様」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ