入口は3つ
工口よ!お前は、どの入口がお好き?
そうか、やっぱり真中か。それが男の本能と言うものだ!
隣の家の屋根の上。そこから窓ガラスをすり抜け、俺、千乃工口の部屋に侵入して来たのは、下校中のバスで妙な形で知り合った女子高生”まほまほ”であった。
”まほまほ”と言うのは俺が勝手に付けた愛称で、彼女の名前は”ララカー・ミラミ・アポストロ ”。本人の要求する愛称は”ラミア”である。
ラミアの侵入目的は、なんとこの俺をAV界にスカウトとすることであった。
受験生の俺がそれを安易に受け入れられる訳がない。興味はあるのだが・・・。
もちろん最初は俺なりの抵抗を試みたのである。だが、ラミアに抱きつかれた俺はちょっとした勘違いと彼女の魅力の元に、思わず承諾をしてしまった。
そして、俺はラミアに抱きつかれたまま彼女の巧みなテクニックの基に、あっと言う間に昇天と呼ばれる快楽に到達してしまったのだ。本当に宙を浮いている。
今、俺は自分の実態を部屋に残したまま、精神はラミアの胸に抱かれて天に向って上昇中である。
いったい、俺は生きているのだろうか?
☆★ 第 8 話 ♂ ☆★
★☆♀ 入り口は三つ★☆
良く考えろ、工口よ。
俺の心臓はこんなに高らかに鼓動を打っているではないか。
これは生きている証ではないのか?
じゃあ、俺は幽体離脱と言うものを実体験しているのだろうか?
もしかすると今感じている鼓動は、あそこでバカ口を開けてティシューの横で寝た振りをこいている、あいつの心臓音ではないのだろうか?
少なくてもこの仮説は、俺の知識内での想像であり、全く確からしくはない。
こんな重大な問題を抱えたまま、未知の場所に連れて行かれてしまっては、不安でしょうがない。
よし、聞いてみよう。まほまほに!
俺は悩むより聞くことを選択した。だが、この選択が悲劇を生むことになるのだ。
「まほまほ、聞きたいことがあるんだけど?」
その時、俺はついうっかり彼女を”まほまほ”と呼んでしまった。
”まほまほ”と言う言葉の裏に何かが隠れていると気付いていたのにだ。
学習能力の低い、受験生だった・・・。
俺が彼女をそう呼んだ瞬間から、彼女の鼓動は急に激しくなり、それと同時にブラウスから肌蹴た胸が赤味を帯びていった。体温の上昇も感じる。
それは、幸運にも彼女の胸の狭間に位置していた俺の右頬には、自分の身体の変化の様に伝わって来た。
幸運が一瞬にして不運へと移行する。
しまった!
と、思った時には既に遅かった。
「いけませ~ん!!」
彼女は叫びと共に、全身が震え出し。俺の首に回していた手に力を込めてきたのだ。
「うぐっ、 うっ、手、手を・・・」
まほまほの絞め技は、見掛けによらず強烈であった。
上昇している最中では、彼女の腰に回している手を離す訳にもいかない。
俺は何の防御も出来ずに、一瞬にして落とされてしまったのだ。
そのまま。暫く意識を失ってしまった。
・・・それからどれ位の時間が経ったのかさっぱり分らない・・・。
気が付いた時には、まほまほが、口に唾を貯めながら一生懸命に独り言を言っていた。
ボッとしている俺には、良く聞き取れない。
進行方向には、雲を突き抜けた山の頂が見えている。
相当標高の高そうな山だ。ここはヒマラヤだろうか?
そう思った。
まほまほは、そのまま山の方に進んで行くと、頂きの少し下にある洞窟の中に降り立った。
「・・・と、言うことなのれす」
まほまほの独り言も、到着と共に図った様に終わった。
「ぁ、ぁの~」
聞きたいことは山程あるのだが、目覚の悪い俺は頭の機能が上手く働かない。
当然だ。普通に眠ったわけではない。落とされていたのだ。
しかし、そんな俺にまほまほは気付いていない。
「大丈夫れす。あとは来る途中説明した通りなのです。先に行って待ってるのれす」
マイペースに事を運んで行く。
まほまほの言葉から想像すると、どうやら俺が落ちていた間に何らかの説明をしてくれていたのは明白である。
決して、独り言を言っていたのではなっかようだ。
「も、も~」
もう一度説明をして貰わねばと思うのだが、上手く言葉にならない。
身体に異常がある時は強い意志が頼みなのだが、ボッとしていては強い意志も現れない。
工口よ、気持ちを入れろ!
「もう~」
俺はリトライした。だが、
「牛さんみたいになっれますね~。そんなに不安にならなくても大丈夫れすよ。ラミアを信じてくらさい」
出鼻をくじかれてしまった。
まほまほは俺を安心させようと飛びっきりの笑顔を俺に向けて来た。俺が上手く喋れないのを不安がっているせいと勘違いしている様だ。
「ぁ、ぁの~、も~う・・・」
もう・・・いいか。
もう一度説明をしてもらはなければならないとは、理屈では分っているのだが・・・、何か少しずつどうでも良くなってくる。
まほまほは、あどけない顔で続ける。
「AVと言う扉を開けてくらさいね。牛さん!宜しくお願いしますれす」
まほまほの俺を信じ切った嬉しそうな目付きには、俺の弱い意志などではどうにもならない。
「待ってるれすね!!!」
まほまほは、綺麗に脚を揃えて小首を傾げる。
可愛い・・・。
俺はまほまほの可愛さと、女の子に待たれると言う興奮に惑わされ、ついに心まで落とされてしまった。
俺は行き当たりばったりで、何んとかなる様な気持ちになってしまい、
「ぅん・・・」
頷いてしまった。
まほまほは俺の応えに目を輝かせ、深々と頭を下げると、直ぐに鼻歌交じりに飛び立ってしまった。
あっと言う間に消えていく・・・。
俺は一人洞窟の中に残されてしまった。
まだ、頭が良く回らない。
「ここは、何処なんだ?」
常識的な場所でないことは残念ながら分ってしまう。
俺は少し休んでから、辺りをうろうろと歩き始めた。
洞窟の入口から外を見ると、眼下には一面の雲海が広がっている。とっても歩いて降りられる様な所ではなさそうだ。
仮に降りれたとしても何処に行きつくか全く不明だ。
頭が現状を把握していくにつれて、俺に不安が襲って来る。
この状況を打開したいと思った俺は、前向きに夢である事に期待を始める。
「そうだ! きっと、夢なんだ!」
俺は夢であることを願った。
しかし、理論がそれを許さない。
夢の中で絞め技に落とされてしまう何て事があるだろうか?
それは、俺の人生18年の夢経験からはとっても考えにくい。
それにこれが夢なら、俺は目が覚めた時に久々の不快な湿気を一部位に感じ、頭を痛めることに違いない。
それに、洗濯をどうするかが問題だ!
いやいや、そうではない。現実逃避から、余計なことを考えてしまった。
この状況を打破出来るのであれば、そんなことは小さな問題である。
俺の頭は既に完全復活をしていた。良く働いている。
それでも、夢であってくれと、漫画の世界の様に自分の頬をつねってみた。
いたい!この痛さは夢ではなさそうだ。
受け止めなければならない。
仮に夢だとしても今、俺のするべきことは、現状を把握すること以外に優先されることはないはずだ。
俺は再び辺りの確認を始めようと気持ちを切り替えようとした。
だが、こんな状況でもだ若い性と言うものは恐ろしいものだ。他の事象を優先しようとする。
いつの間にか”俺&僕”の”W頭”は仲良く、まほまほのあらゆる感触を回想している。
快楽が俺を誘惑する。
うん? まただ。現実逃避しようとしている。
俺はぐっと下腹に力を込めて、理性で性を抑えながら再びうろうろと辺りの様子の確認を始めた。
洞窟の奥行きは40〜50メートルと言ったところだろうか。
こんな訳の分からないところにあるのに、何故が洞窟内は蝋燭の光に照らされている。
突き当りには教室位のスペースがあり、岩壁には3つの木製のドアがある。
ドアは重厚に出来ていて。重々しさが感じられる。
この扉を開けることの重大さが伝わってくる。
ドアの横にはそれぞれ何語であるのか見当もつかないが、古臭い黒ずんだ木製の板に奇妙な文字が長々と書かれている。
当然、読もうにも読むことが出来ない。
ただ、扉の上にあるプレートだけが俺にも読むことが可能であった。
そのプレートだけが、妙に新しいアクリル製なのである。
とってつけた様に見えて、胡散臭い。
だが、この先の俺の判断はこの文字意外に頼れるものはなさそうだ。
右の扉のプレートは白いプレートに黒マジックで”RT”と書かれおり、左の扉には、青いプレートに”NV”と書かれている。そして真ん中のプレートには”AV”と書かれている。
「まほまほの言ってたのは、このことか?」
やはり、俺はまほまほと呼んでしまっている。
まほまほの言っていた”AV”の扉とは、恐らくこの扉のことであろう。
他に文字らしきものは、洞窟内には見当たらない。
しかし、まほまほはここに来る途中に、他に何かを説明していたのかもしれない。
それが分らないまま、この扉を開けてもいいものだろうか?
今更遅いが、しがみ付いてでももう一度説明をしてもらうべきだった。
後悔が俺を襲う。
俺は暫く考えていた。だが、結論が出ない。当然である。
ふと見ると蝋燭はかなり短くなっている。
蝋燭が短くなるにつれて、外も暗くなっていっている気がする。
「この蝋燭の灯が消える前に結論を出せと言うことだろうか?」
此処は恐らく高所にあるのだろうが、寒さを感じないことは救いであった。だが、いつまでも此処に居る訳にはいかない。
食べ物もなければ、明かりも消えかけているのだ。
こうなったら、初志貫徹、星一徹だ!
初心に頑固に従おう。心情的にも真ん中に入りたい。これが男の性と言うものだ!!
俺は”AV”と書かれた扉のノブに手を掛け、固唾を飲んだ。
そして・・・思い切って!
ゆっくりと開けた。
扉の中は洞窟の様に真っ暗である。だが、良く見ると遥か彼方に点の様な光が感じられる。
ひんやりとした空気が当たるかと思いきや、結構気持ち良く温かい。
あそこまで行けということだろうか?
そう思った時だった。
「なに!」
急激な引力を感じた。
「うぉー」
俺は掃除機に吸い込まれる様に中に引き込まれた。
「助けてくれー!」
唯一助けてくれそうな、まほまほはいない。
それでも、俺の脳裏にはまほまほが浮かんでた。
洞窟の先は水平にみえるのだが、真っ逆様に落ちている間隔だ。
次第に加速していく。
「あ~~~~」
俺は、またしても意識を失ってしまった。
・・・そして・・・
やけに音がうるさい。
俺は気持ち良い眠りを妨げられることに不快を感じながら、ゆっくりと目を開け・・・。
目を開けかけたところに、いきなり飛びこんで来た視覚に驚いた。
俺は即座に大きな目をパチリと開いた。
群集が俺の上を駆け抜けているのだ。
「うぉ~!!」
俺は踏まれないように慌てて起き上がった。
「なんだこれは!」
戦争なのか、バーゲンなのか俺の周りは数百、いや数千の男女が入り乱れて行き来をしている。
興奮の表情に、血走った目。
体が震えている奴もいる。
駄目だ、眩暈がしそうだ。
「考えられねぇ〜!」
しかし、俺の叫びは雑踏に消えていく。
<つづく>