遅い居そうろう
異世界初の食と住は、千逗里緒と・・・?
俺、千乃工口は、大学受験を間近に迎えた高校三年生。
俺にとって人生の最初の節目になるはずの大切な受験は目前だ。
当然、それまでは穏やかな日々を送るつもりであったのだが、何処を気に入られてしまったのか、略して”ラミア”(今、俺は”まほまほ”と呼んでいる)と名乗る女の子のエロ攻撃を突然に受けてしまい、俺は早々に沈没してしまった。
彼女の目的はこの俺をその気にさせて、AV界にスカウトすることであったのだ。
まんまとその罠に馬乗りになってしまった俺が連れて行かれた所は、一般に言う単なるアダルトビデオ界と言う”AV業界”ではなく、AV界と言う名前の”異世界”であった。
このAV界と言う世界は一見我が世界と大差がないのであるが、実は世の中の理を決める重要な役目を、JRAV会と言うビデオ業界が担っていると言う奇妙な世界であった。
一時は、この訳の分らない世界に一人っきりで来てしまったことに対し、悲観していたのであったのだが、一持握と言う男性の助けを得ることによって希望を持った俺は、スカウトされた”まほまほ”を見付けるまでの間、何んとかこのAV界と言う全く異質の世界に馴染んで見ようと決意をするのであった。
つづく・・・
★☆ 第 6 話 ★☆
☆★ 遅い 居 ♂ ☆★
☆★ ♀そうろう ☆★
「おや~?二人はもうお知り合いだったりするのかな~、ヒューヒューだね。これが運命ってものだろうか、ねえ店主」
と、やらしく死語を言う一持兄さんの視線はカウンターをとび越え、店主の方へ同意を求めている。
それに、店主も穏やかな笑いを浮かべ賛同しようとするのだったが、その言葉を遮り、千頭里緒は、口を尖らせて意地の否定を披露した。
「そ、そんなんじゃ・・・だいたい、私の好みは」
それに、一持兄さんも店主も苦笑に変わる。
俺も、そこまで否定する必要がどこにあるのか?愛想笑いの一つも出来ないのか?
そう思い、
「だいたい俺を相方に誘ったのはだれなんだ!」
と主張しようと思ったが、あっさり飲み込んで、二人と一緒に苦笑いをするに留まった。
こんな知り合いのいない不安な状況で、人に逆らうなんてとっても出来やしない。やっぱり仲間は心の支えになるのだ。
「ごめん、工口君実は僕も里緒ちゃんには余り良い印象を持たれていないんだよ」
そう言う一持兄さんは、横目で千逗里緒の顔色を楽しんでいる。
一持兄さんの懐は結構深いのかもしれない。俺はそう思った。
「別に、そんなことは全然・・・」
千逗里緒の嘴は、ドナルドティックに尖っている。
それに、店主は困り顔になる。
「里緒、一持さんは大切な常連さんで、この工口君は将来有望な好青年だ。なんたって、スカウターにスカウトされて異世界から来たんだ、仲よく・・・」
そう言い聞かせようとしたのだが、話が終わらない内に彼女は声を張り上げて食いついてきた。
「うそ~!スカウターに!!」
彼女が細く開けていた眼がパッチリと開いた。
本当は結構大きな可愛い目をしているみたいだ・・・。
「でも、逸れてしまって、一人あの会場に残されていたのさ」
店主が余計な一言を言う。
「じゃあ、それであそこに・・・。
ばっかじゃないの、せっかくスカウトされて、どんくさい・・・」
聞こえない様に不満を言ったつもりなのだろうが、俺の耳にはしっかり届いている。
言われなくたって、「自覚してます」って言うんだ。
偉そうに言えないが・・・。
店主も千逗里緒の言葉が聞こえていた様だった。
「ごめんよ、里緒は今回学校の推薦で一人だけ特別に出場出来たんだよ。初めてで、とっても張り切っていたんだ・・・」
彼女を弁解する為にその気持ちを代弁したのだが、
「そんなこと言わなくていい!」
彼女の怒りに返って火を注ぐ結果になってしまった。
彼女の顔は恥ずかしさで真っ赤である。
すっかり彼女が来てから、穏やかな店内が一気に気まずい雰囲気になってしまった。
一持兄さんでさえ言葉が出て来ない。
俺は出来れば何処かに行って欲しいと思うのだが、そんな機嫌の悪い状態でも彼女は一行にこの場を去ろうとはしない。
暫く会話が途絶え、店内は店主のフライパンを振る音だけが続くのみだ。変な緊張で落ち着かない。
しかし、その音も数分で止まった。
どうやら、いかにもAV界らしい名前の”スーパー精力アップ2”と言う食べ物をご賞味出来る時間が出来たようだ。
これで食べることに集中すれば、少しは気まずい時間を和らげることができそうだ。
「さて、里緒これをお客様に運んでおくれ」
流石は肉親である。機嫌の悪い彼女にも仕事を言いつける。
それに、
「う・・・うん」
赤い顔を膨らませてはいるが、彼女も最低限の仕事をする意志はあるようだ。
里緒はそっけなく、”スーパー精力アップ2”を二つ運んで来ると、淡々とテーブルの上に置き、さっさとカウンターの中に戻って行った。
それでも、店から出ていかないところを見ると、もしかして片付けまでいるのかもしれない。
俺が代わりに片付けたい気持ちになってくる・・・。
話は戻るが、先程この彼女が驚いたところを見ると、スカウトされたと言うのはそんなに凄いことなのだろうか?
俺には理解できないが、”まほまほ”は、この世界では相当力がある存在なのかもしれない。
それに、学校の推薦と言う言葉も気になる。
ビデオと言うのは裸の絡みと一持兄さんは言っていた。
幾らこの世界がAV界だからと言って、そんなことを学校が推薦するのだろうか。
この世界の新人としては、考えるよりも聞く方が早くて正確だ。
俺にとっての知恵袋が目の前にいらっしゃるのだ。
俺は困った時の一持頼みで、一持兄さんに謎の解読を依頼することにした。もちろん、千逗里緒に聞こえない様に小さな声で聞いてみた。
「食べながらですみません。推薦とはどう言うことでしょうか」
俺の小声の意思をくみ取って、一持兄さんも小声で教えてくれた。
「ああ、学校の推薦かい。法律上では18歳以上であれば、クラスに合った大会に出場が可能なんだが、生徒は学校の推薦が必要なんだよ。誰でもが出場すると、悪戯に質が下がるからね」
理由はそこかい?と、俺は思わず突っ込みそうになったが、世界が違う。話は最後まで聞こう。
「学校ではこの推薦者を決める為の手段として、学校行事を行っているんだよ。
その中で行われる全ての催し物で生徒個人の採点がされるんだが、推薦されるには、この点数に普段の成績を加味することになるんだ。君の世界では違っているのかい」
当たり前、と心で突っ込みながら、
「はい、かなり」
と応えた。
「そうなのかい! それは驚きだ。
彼女が今回学校に推薦をされたと言うことは、学校が実力を認めて出場しても恥ずかしくないと、認めたからなんだ。まあ、言ってみれば学校代表と言うことになるね。
みんなが期待している。それに、周りは自分の仲間がどこまでやれるのか興味があるから注目をする。
それが、出演まで行かなかったんだ。
気落ちすることは君にも分るだろう」
なるほど。
要は全国大会出場も夢では無いと見られていた100m走の選手が、地区予選でフライングで失格になった様なものだ。
それは辛いに違いない。
しかし、その矛先が俺と言うのは、どうなんだろう。
「彼女と君の間に何があったんだい?」
今度は、一持兄さんが俺に質問をして来た。
「はい・・・、実は昼の相方探しの時に彼女に声を掛けられて。恐らく相方と言うのに申し込まれたのかと思うんですが・・・」
「おお、さすが里緒ちゃんだ。見る目は確かだ」
一持兄さんは関心しきりだ。
しかし、俺はそんなに凄いのだろうか?買い被りもいい所の気がする。
それでも、男として悪い気はしない。
一持兄さんはカウンターの陰になっている千逗里緒を横目で気にしながら、さらに続けた。
「それはそうと、ああ見えても里緒ちゃんは真面目で恥ずかしがり屋な性格なんだ。
きっと、思い切って君に声をかけたんだと思うよ。
そうか、里緒ちゃん・・・可哀相に・・・」
褒めてくれたのかと思っていたが、責められている気がする。
確かに、あの時の彼女の様子は、一持兄さんの言う言葉が当てはまっている。
そらに一持兄さんは付け加える。
「それに、あの時あの場所は一般の立ち入り禁止なんだ。彼女は、参加資格の無い者がいるとは思っていなかったんだろう」
「そうなんですか!」
うそ~!完全に責められている。
「もちろん法律ではなく、暗黙の了解でだから罪ではないんだが」
良かった~無実だ!俺は胸を撫で下ろした。こんな世界で捕まるのはご免だ。
「でも、まあ君には事情があることだし、きっと、今は彼女も分ってくれていると思うよ」
その時、俺は気が付いた。
考えてみると、そうだ。
そうなんだ。
俺がもう少し早くこの世界に来ていれば、彼女とすっぽんぽんの肉体的な絡みをしていたことになる。
そうなると、今のこの気まずい関係にはなっていなくて、甘い関係になっていたのかもしれない・・・。
いや、だからと言って彼女と上手く交渉成立になるともあまり思えない気もする。
仮に成立したとしても、あんなに気が強いんだ、きっと只の演技と割り切るに違いない。
しかし、しかしだ、一度だけの演技とは言え何らかの絡みは出来るのだ。
そんな美味しい話はない。目と耳と口と鼻を塞げば性格など関係ない。いや、でも目だけは開けておこう。彼女のビジュアルは見て見たい。それに、口も開けるタイミングの時は・・・。
俺の体は正直だ。すっかり、先走っている。
放出エネルギーが発砲先っちょに収束していく。
それにしても、一体、絡みとはどこまでなんだろうか?
いかん、夢想の花が開きそうだ。
抑えられん・・・。
5次元軸に沿って平行移動した俺の雑念は、新たな4次元空間でも夢想に包まれていく・・・。
暫しおれの世界に浸り込むこととする。
・・・・・・。
俺、工口は次元と言う法則の壁を乗り越え、一人異世界に来てしまった。
途方に暮れる工口。
そこに、一人の女性が現れるのだ。体は良い。
二人は石畳の大通りで出会う、そして、運命に導びかれた様に惹かれあう。
彼女に引かれるままに着いたところは食堂であった。そこが彼女の家である。
食堂の二階が彼女の部屋。そこに招かれた工口。
決して交わる筈のない次元を超えた愛を確かめる二人。
何一つ身に付けない生まれたままの姿で、ベッドに皺ひとつなく敷かれたシーツが剥ぎ取られる位に激しく絡みあう。
そして、二人は理性を超える肉体の欲望に浸っていった・・・。
なんて・・・・・・・。
何てことに?
ちょっと待て。あの、つんけんした女に屈するのか、男として!
工口よ、お前はそんなにあの女と寝たいのか?
寝たい?
寝むい、寝むる、寝る。
”寝る”=”泊まる”
いや、待て、そんなことの前に今日の寝場所を確保せねばならない!
「そうだ!一持さん。今日の宿泊先なんですが、何処かご存じでしょうか?」
「Oh~そうだ、そうだった。忘れていた。
どこがいいかな~?
んっ、ああそうだ。リーズナブルで便利な所と言えば、”ホテルせんずりーハイアット”がいいかな」
ホテルと言う言葉は同じようだ。
多分、数は少ないが今までの経験上、そのホテルのシステムも俺の世界となんら変わらないと思われる。
しかし、先入感は良くない。
一応、基本システムは確認しておくべきだ。
「ありがとうございます。じゃあそこにします。場所とチェックインの仕方を教えてもらえませんか?」
「そうか、君の世界とシステムが違うかもしれないからね。まず・・・」
俺と一持兄さんの会話を聞いていた店主が、一持兄さんの言葉を遮って建設的な提案をしてくれた。
「それだったら、どうだろう。良かったら、今日はうちに泊まっては?」
「そうだ、それがいいよ工口君」
それに、一持兄さんも、両手を叩いて納得する。
「ちょっと、待ってよ。お祖父ちゃん泊まるって、どの部屋に泊まるのよ」
「お前の部屋の隣が空いてるだろう」
千逗里緒の隣の部屋に俺が・・・
<つづく>