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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第2章 初演
12/73

AV界

このAV界の仕組みとは・・・。

 俺、千乃工口ちのくぐちは、大学受験を間近に迎えた高校三年生。


 そんな大切な身でありながら、俺は学校帰りのバスの中で、”ララカー・ミラミ・アポストロ ”と名乗る女の子(俺は”まほまほ”と呼んでいるが彼女は”ラミア”と呼べと言う)のエロ仕掛けに、まんまと乗ってしまい、AV界に行く破目になってしまった。


 いや、本当は心の”あそこ”では期待をしていたのかもしれない。


 しかし、このAV界は一般に言う”アダルトビデオ界”と言う業界ではなく、不運なことにAV界と言う名前の異世界であったのだ。

 

 そして、悲劇は後追いに膨らんでいく。


 何と!”まほまほ”とそこへ向っている途中に、ちょっとした食い違いが彼女との間に発生し、俺は彼女の腕の中で気絶をしてしまったのである。

 そのせいで俺は、彼女とは逸れてしまったのだ。


 見知らね世界で、今夜泊まる所もなければ、食べるものもない。

 俺は途方に暮れるしかなかった。


 しかし、そんな俺にも救いの手が現れたのだ。

 石焼き芋屋のリヤカーを引いた一見、おっさん臭い兄ちゃんである。


 彼がくれた焼き芋と情報は、沈んでいた俺の心に多少の希望を持たせるものであった。

 ・・・そして。


★☆  第 4 話  ★☆

☆★ ♀ AV界 ♂ ☆★


 俺は何よりもまず初めに聞きたいのは、当然、まほまほの居場所についてだ。


「あの~、早速なんでが、僕をスカウトした”ラミア”というスカウトには何処に行けば会えますか?直ぐにでも会いたいんですが」


 迷い始めた俺の道を軌道に戻すのは、まず、そこからだ。 


 すると、焼き芋屋のおっさん兄ちゃんは、

「その前に名前を教えてもらえないかい? 時間はあるのだろ」


 そう、聞いて来た。


 確かに時間は・・・、

 あると言えば幾らでもある。しかし、無いと言えば無いような気もする。


 この自分の状況に、感覚が少しづつ麻痺して来ているのだろうか。明らかに落ち付きを取り戻して来ているのが自分でも分る。

 それは、きっと焼き芋を食べたことの満足感だったのだろう。


 俺は、

「はい、まあ」

 と、肯定した。


 そうだ、このお方は俺の恩人なのだ。そして、これから先も・・かもしれない。

 失礼があってはいけない。


 すると、焼き芋屋のおっさん兄ちゃんは、爽やかに

「僕の名前は”一持握いちもつにぎる”、君の名前はなんだい?」


 ちょと軽い感じもするのだが、そんな口調も何故か落ち着いて聞こえてくる。

 

 その口調につられ、俺も完全にいつもの自分に戻っていった。


 戻って見るとこの一持握と言う人間が、結構若いことに気付いた。二十代半ば位に見える。 

 兄ちゃんだったか・・・。


「僕は、工口くぐち千乃工口ちのくぐちと言います」

工口くぐち君か、いい名前だ!」

 一持兄さんは感嘆した。


 いい名前?

 俺の手短過ぎる自己紹介に思いもかけない言葉が返って来た。

 はっきり言って、俺は生まれて初めていい名前と言われた。


 ただ、それは音で聞いているからであって、文字で書いたらきっと、撤回されることは間違いない。

 せっかく褒めてくれているのである。俺は敢えて文字の説明をして、彼の言葉を否定する様な行動は慎むべきと判断した。


 彼は後ろでリヤカーを押している俺を振り返りもしないで、前を見つめたままで、さらに話を続けた。


「君の世界のことが全く分からないので、当たり前のことを言うかもしれないし、知らないことを知っていると思いこんで説明するかもしれないから、その時は遠慮無く言ってくれていいよ。工口くぐち君」

 

「はい、有難うございます。一持さん」


 そうだ。見た目から、既にこの世界が俺の世界と大差がないと思っていた。

 思い込みは、思いがけない事で失敗するか分らない。

 思い込んではいけないんだ。


 彼はさらに話しを続ける。


「正直言って、彼女が住んでいる所は僕にも分からないんだ。彼女は”スカウター”だからね。常に世界を飛び回っているはずさ。信じられないだろうが、本当に飛べるんだ」


 ”飛べる?”俺には、非常に現実的な話で何の不思議もない。なにせ、実体験をしているのだから・・・。


「唯一分るのは、あの空まで続いて見える高い塔の上の方に、出入りをしていると言うこと。ただ、残念ながら一般人はあの塔には入ることができないんだ。

 数少ない入れる人間でも、彼女の所まで行くことは出来ないんだよ」


 彼は暗闇に光る真っ白な山のように高い塔を指差した。

 

「何故ですか?」


「あの塔の頂上にはね、この世界の神、自然神が住んでいると云われているんだ。

 今やこの世界の絶対になった神がね。

 そして、自然神を筆頭に上から順に、この世界を統治する階級順に並んでいて、その階級でなければ、出入りが出来ないんだ。

 あの最下位の階級も、庶民からは雲の上の存在さ。」


 何か、不満げな言い方に俺には聞こえた。

 それに、”今や”と言うのもきなるところだ。


「あの塔な何とい言う塔なんですか?」

「ミンジュ塔と言う名前だ。まだ、出来て95年目らしいんだが、もう何百年も経っている存在感がある・・・」


 そこは俺の世界の何がしかと言う政党とは・・・多くは語るまい。


「その前は、違った世界だったんですか?」

「そうらしいが、俺の生まれる前のことだし、それを学校でも教えたりはしない。両親も教えてはくれない。そう言う教育を受けているんだ。

 だから、祖父母世代の人から聞いた、僅かなことだけでしか分からないんだ。

 それに、今ではみんな余り興味を抱かない。

 おかしな位に・・・」


 そこで、自分の話に自ら合いの手を入れる様に、

「い~しや~きいも~、いも。ほっかほかだよ~」

 と掛け声を発した。


 俺に説明をしながらでも商売を忘れない彼に、俺は関心してしまった。

 これが仕事というものなか・・・、と。


 俺が返事もしないまま、話は次に進んでしまった。本当はまだ、聞いてみたいことがあったんだが・・・。まあ、いいか。


「まず、塔に入れるのはAV界で高い業績を残した者だけ。と言うことが大前提だ。

 塔の入り口では門番が24時間体制で警備をしている。


 下の階層から行くと、現在、現役の俳優では6人のみなんだ。

 男優では3人。彼らを、世間では御三家と呼んでいる。

 そして、女優も3人。世間では3人娘と呼んでいる。


 彼らが許されているのは、棟の地上10階までだ。そこから先は、厳重な自動人相認識装置”誰なんだね君”により扉の開閉が制御されている。

 

 仮に、入出可能な人と一緒に入ろうとしても、至る所にある認識装置のセンサーが働き、排除されてしまう」


「”排除”って、どういうことですか」

 排除と言う言葉はちょっと危険な香りがする。


「まあ、生きて帰れないってことかな」


 俺は背中にひんやりとするものが走った。

 やっぱり何でも聞いておくべきだ。

 俺はそれを聞いて、塔の半径100mには近づくまいと決心した。


「そして、その認識装置”誰なんだね君”に通過を許されているのは、”レジェンド”と呼ばれる過去にAV界で高い業績を残している人たち以上なんだ。


 余談だが、過去と言っても今日の様な、18歳以上であれば登録のみで出場出来るオープン参加の大会には出場可能だ。もちろん、参加しようと思えばだが」

 

 ここで、俺は自分が勝手な思い込みをしているのかもしれないことに気がついた。

 男優、女優と言うのを、自分の世界のドラマや映画、舞台を主な仕事としている人達と思っていたが、

 危険な思い違いなのかもしれない・・・。


 本当にそれで正しいのだろうか?


 それに、まさかとは思うが、聞いている限りでは俳優としての業績で地位が決まるような気もする。


 もしかして、

 ここはAV界だ。エッチな俳優なんだろうか?

 エッチな業績で出世するのだろうか?


 いや、この世界名の”AV界”と言う名前は、俺の世界の業界名の”AV界”の意味とは違っていると考えるのが必然。

 世界全体がエッチな訳がない・・・。


 俺は話の腰を折っていまうが、この疑問を先に解決するべきと判断した。


「あの~すみません。お話の途中聞いてもいいでしょうか・・・」

「ああ、なんだい?」


「男優、女優とは何をする人達で、業績は何をすると上がるんでしょうか?

 

 俺の質問に一持兄さんは、笑いだした。どうも、彼には当然過ぎる話であった様だ。


「ハハハ、そこかい。悪かった、それを知らないと意味が分からないよね。しかし、スカウトは何も教えてくれなかったんだね」


「気を失っていたんで、聞けなかっただけかも・・・」

「ああ、確か、首を絞められて・・・ハハハ」


 そこは、俺には余り可笑しくないところだ。


 彼は俺に”AV界のしくみ”について懇切丁寧に説明を始めた。  

 AV界とは次の様なしくみであった。


 AV界には、国と言う概念がないらしい。

 AV界は、一国と考えて良いようだ。地球連邦みたいな・・・。


 この世界の主な産業がAV放映とのことで、その運営は”JRAV会”と言う組織が行っている。

 このJRAV会は、AV界直営(国と言う概念がない国営ではなく、界営となる)の組織で、ほぼ毎週主催する大会を開いているとのことだ。

 因みに、地方には独自の”JRAV会地”と言うのが存在し、中央の”JRAV会”と提携をしているらしい。


 男優、女優と言う俳優達は、このJRAV会の主催するAV撮影大会の参加者とのことだ。


 そして、その大会で撮影したビデオのアクセス数、お気に入りの登録数がJRAV会での業績となり、且つ収入になる。

 さらに驚いた事には、これが本当に、イコールAV界の業績となることだ。


 まさかとは思っていたが、本当であった。

 衝撃的ではあるが、大会と言うのがきっと権威のあるもに違いない。俺はそう睨んだ・・・。

 

 大会に出るには、事前登録が必要で、どの大会に誰でもが出場できる訳ではない。

 クラス訳があるらしい。


 実績が上がると、クラスが上がって行くシステムなのだ。

 JRAVのクラスは、下から、新人⇒100万下⇒300万下⇒500万下⇒☆(一つ星)⇒☆☆(二つ星)⇒☆☆☆(三ツ星)


 基本、地方のJRAV地も同じクラス分けだが、断然アクセス数は中央の方が稼げる。地方から中央へ移籍するには、500万下で且つ、お気に入りユーザーが100人以上必要とのことだ。

 因みに、これを百人切りと言うらしい。


 また、☆からはグレード大会に出場が可能。

 ☆はG3(グレード3大会)、☆☆はG2(グレード2大会)、☆☆☆はG1(グレード1大会)だ。


 そして、G1クラスで、素晴らしい成績を収めると入塔にゅうとうが許可され、乳首を・・・いや、政治に参加することが出来る。


 この最下位が先程の、現役の御三家と三人娘であるのだ。


 その上に存在するレジェンドは塔内の投票により決定され、そのさらなる上は神の領域となる。

 塔内で人間が入ることの出来るのは、レジェンドクラスまで。それから先は、塔の構造から立ち入りが出来ない。


 神には下からプロデューサ神と、映倫神。さらにその上がAV神となる。そして、頂点が自然神と言われているらしいが、もちろん、誰もこの神々を見たことがないとのことである。


 レジェンドのトップになると、お目見え出来るのではないかとの噂はあるが、定かでは無い。


 ただ、スカウターはAV神の直轄なので、唯一神との接点になると言うことだが、スカウターと会うことが奇跡に近いと言うことだ。


 俺にはスカウターと言う存在がこの世界の天使みたいな感じがして来た。

 確かに俺の世界で天使に会ったとい言う人を見たことが無い。

 と、言うことは俺はこの世界で奇跡を起こしたことになる。


 つまり彼の話を要約すると、「JRAV会と言うAV撮影で業績を残すと、この世界を動かすことが出来る」と言うことになる・・・。


 彼の説明が一通り終わったので、俺は待っていましたとばかりに質問をした。

 聞きたいことは山ほある。


「政治に参加って、俳優の活躍次第でですか」


「そう。この世界では俳優で成功出来る能力があれば、政治の能力があると考えられている。俺はどうかと・・・」


 そこで、彼は話を止めた。

 何か、言ってはならないことを言ってしまったと言うようなそぶりに見える。


「この世界では、俳優が最も尊敬される職であり、生まれた人間の殆どが、俳優(男優、女優)を目指すんだよ。

 そして、この世界はある一定の成績を収めた俳優によって、実際、統治されているんだ」


 それは、俺の世界で言う、内閣、国会、裁判所、各国家公務員は全て俳優としての成績で就くことが出来るらしい。


 そして、この道を反れたものが、結婚をして違う職業に就のが一般的で、ただ、既婚者でも続ける俳優もいるが、少なくとも子供が生まれると強制ではないが引退するとのことだ。


 本当に、AV撮影と言うもので世界が動いているのだ。

 しかし、俺は今まで”この”言葉を当たり前の様に流していたが・・・、


「AV撮影とはどんな撮影なんですか」


 確認してみた。


 それに、彼は物凄い驚きを見せ、リヤカーを引く手を止めた。


「どんなって?」


「例えば、探偵者とか、恋愛ものとか刑事もの、ファンタジーとかの撮影とか・・・」

工口君くぐちくんの世界では、そんな撮影があるのかい?」


「違うんですか?」


「ここでは、もちろん。そんなの撮影をしても誰も見やしないよ。撮影と言えば、男女の絡みに決まっているじゃないか」


「か・ら・み!」

 俺は、その言葉に釘付けだ。

 もちろん、こぼれた水が低い方に流れる様に、俺の血潮の低い位置の頭の方に若干流れだす。


「そう、からみだ!基本は男女”すっぽんぽん”の肉体の絡みだよ。最近は着衣のままと言うのもフェチの中で人気が出て来ているんだが・・・」


 俺の胸中を無視するかの様に、彼は続ける。

 

「お昼の競技は、”お願いします”と言って、競演する相方探しさ」


「あ・い・か・た・さ・が・し?」

 

 あの血走った眼差しは、そういうことだったのだ。

 しかし、”お願いします”と言う名前はいかにもそのままである。



 結局、AV界と言う世界は、やはり文字の通りに受け取って良かったのだ。


 俺はもしかすると此処が、俺の世界のAV業界の”企画物”の撮影現場ではないだろうか?

 そんな錯覚さえもしてくる。


 AV界は、やはり何処へ行ってもAV界なのだ。

 ただ、一部の業界ではなく、”世界全てが”ではあるが・・・。


 説明しながらの焼き芋販売はこの後、2時間続いた。

 お客は5人しか来なく、売上総額は2,000ペンスと言う結果だった。だが、それでもいつもこの程度の売り上げだと言う。 


 一持兄さんは、今日は残った焼き芋を夕食に食べると言うので、俺はお礼に晩御飯を誘ってみた。

 それは、何処に行って、どのように食べていいのか全く分からなかったと言うのもある。


 俺が素直にそう話すと、彼は喜んで行きつけの小さな食堂に連れて行ってくれた。


 彼はその途中、何を考えていたのか、

「いや、絡み以外も面白いかもしれないなぁ〜」


 そう、呟いた・・・。


<つづく>



しばらく、この話の要である”下”から遠ざかっておりますが、もう少ししたらその場面が続きます。

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