第14話:「また〇〇〇〇しようね♪」
「思い出したのだ。たしか10年前にカリンを助けた際にも、魔女の呪文が聞こえ、それに従って詠唱したことを……」
そういうと、半カエル男ことルカ(仮)は呪文を唱え始めた。
「かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ…」
すると、カッ!とたびたび見かけた閃光が部屋いっぱいを照らし、ルカ(仮)を包む。
しばらくして光が収まると、その中心にはちょこんと青いカエルが座っていた。
「カリンよ、そのままよく見ておくのだぞ」
ルカ(仮)はそう言うと、再び呪文を詠唱し始めた。
「かえるぴょこぴょこむぽぽぽぽ……」
「ルカ(仮)!? それでは正しくない呪文なの……では……」
わたしが言うが早いか、再び青いカエルはカッ!っと瞬く閃光に包まれた。
「!?」
閃光が徐々に光を失い、うっすら目を開けた。
すると……
「ぎ ぎ ぎゃあああああ………………」
そこには顔だけルカ、身体は禍々しく真っ青なカエルのままの……
もはやなんと例えるべきか思いつかない『人面ガエル』が座っていた。
「お、お前……、お前がやはり魔物なのねーーーーーーーーー!!!!!」
わたしは無意識で青い人面ガエルをむんずと握り、あらん限りの力で塔の壁に投げつけた。
我ながら、流石に生きていないであろうほどの力は出ていたと思う。
人面ガエルが壁にぶち当たったであろう瞬間、再び目も開けていられないほどの強い閃光が人面ガエルを包んだ。
「!!!!!」
わたしは期待と不安と恐怖の入り混じったいろいろな想像とともに、しばらくしてからそっと指の間から光を発していた先を見やった。
「カ、カリン……」
「渾身のド直球ストレートをありがとう……、なかなか効いたぜ……」
「お、おかげで、この姿に……、戻ることが……、でき……た……、……グフッ」
そう言うと、完全に人間体であるルカは口から血を噴き出してはたりと倒れ込んだ。
一部始終をキョトンとした顔で眺めていたラプンツェルが口を開いた。
「カリン、その人の足持てる?」
「! え、ええ……」
「とりあえずベッドに運ぼう」
ラプンツェルとわたしはルカ(人間体)をベッドに寝かせた。
するとラプンツェルは難しい本を見ながら、てきぱきとルカ(人間体)の介抱を始めた。
ルカ(人間体)は落ち着いた様子を見せたので、わたしはほっとした。
(いや)
(これはほっとするべき状況なの……? このカエルはますます魔物じみてきたじゃない……)
(目の前には〇姦まがいのサイコパス、ベッドにはルカを喰らって変化しているのかもしれない疑惑の魔物の疑いのあるルカもどき……)
(そしてここは出口のない塔の中)
(わたし、もしかしたら大ピンチなんじゃないの!?)
わたしは緊張にきゅっと唇をかみしめ、そしてぶるっと身震いした。
「カ、カリン……」
ルカ(完全体)の意識が戻りかけ、朦朧としているであろう中、わたしの名を呼んだ。
それは愛しいルカのその声だった。
「カ、カリンは無事か……。ラプンツェルよ……、これでは話が違うではない……か……」
空を探るように、ルカ(人間体)はわたしに向かって手を伸ばす。
こんなボロボロになろうとも、無意識の中であろうとも、ぶん投げたわたしの心配をしてくれるんだ……。
わたしは考えた。
この『ルカを喰らった魔物のカエル』疑惑の男は、今までに私を守り続けてくれていたではないか。
時に身を挺して、わたしのために献身的に自分を犠牲にしてくれていたのではないか。
わたしはその外見に惑わされ、この青いカエルを偏見の目で見ていたのではなかったのか……。
わたしはルカ(人間体)のその手をとり、ぎゅっと握りしめた。
「ルカ、わたしはここよ。 安心して、無事だわ」
ルカははっとしたように目に光が宿り、意識を取り戻したようだった。
「カリン……、ああよかった、無事だったか……」
ルカは安堵の表情を見せた。
ルカは言葉を続ける。
「この金髪クソクズ野郎になにもされなかったか?」
わたしはハッとして自分の衣服の乱れに気がつき、慌てて衣類を整え、サッと目を逸らしてしまった。
「え? は? カリン? ……嘘……だよね???」
ルカは眼球を小刻みに震わせながら、動揺しカエルの状態のごとく青ざめてしまった。
そんなルカを見て、ラプンツェルが不満げに口をはさんだ。
「…ねえカエルさん、……ルカさん? ぼくにも世の中の楽しいこと、味わわせてくれるって言ってたじゃない!」
そう言うと、一冊の……例の薄い本を取り出した。
「それってコレのことじゃないの?」
「ぼくまだなんにも気持ちよくなかったんですけどーーーーー!!!」
その表紙を指さしながら、タイトルは『僕が君を孕ませるまでの最後の密室7日間』と書かれている、と付け加えた。
ラプンツェルの言葉を受けて、ルカはため息交じりにこう答えた。
「……そういうところだぞ、ラプンツェルよ」
「私が言ったのは塔の外でのことだ。お前はまだ世の中を知らなすぎる」
「まずはここから降りて外に出、いろいろと社会というものを学んでくるがよい」
今度は、そういわれたラプンツェルのほうが青ざめた。
「えっ……、ぼ、ぼくと……、い、一緒にいてくれないの!?」
目からは光が消えどんよりと曇り、動揺してわなわなとその手を震わせている。
「ラプンツェルよ、私たちは魔女を探して真実を突き止める旅の途中なのだ」
「塔に登っていく魔女をカリンと物陰から見た限りだと、私がまだ王子だったころに城に出入りしていた魔女とは雰囲気が違う……、おそらく別人のようだ」
「まずは私のカエルの呪いを解きたいところではあるが、私が昔見た魔女その人を見つけ、もしかしたら私の父上をも政がままならないほどの呪いをかけているかもしれぬため、事実を突き止める旅をしないとならない」
ルカはラプンツェルの生い立ちにも同情せざるを得ないと感じているのか、慰めるように肩をポンと叩いた。
「い……やだ……」
「ぼく……もう……一人はいや……だ……」
そう言うとラプンツェルは、絶望にしくしくとすすり泣き始めた。
ラプンツェルのそのきめ細かな美しく白い肌に、ダイヤのような輝きを放つ一筋の涙が伝い、潤んだ瞳は澄んだ湖面のごとくうるうると揺れている。
あまりにもそのさまが可憐で、わたしたちは目が離せなくなってしまった。
「もういい……、ぼく、一緒に住んでくれるなら誰でもいい……」
半ば自暴自棄ともとれるその言葉に、わたしは若干の危うさを覚えた。
もし、世間を知らなすぎたために悪い人にでも捕まってしまったら……、そう思うと胸が痛んだ。
ルカを見ると、おそらく同じような気持ちだったのであろう、こちらを見ていた。
「もういい……、ぼくそうとうなイケメンらしいし、外に出たら誰でもいいから引っかけて子供作りまくってやる……」
再びルカを見ると、おそらく同じ気持ちだったのであろう、こちらを見ていた。
目が合ったわたしたちは、無言で頷いた。
「ラプンツェル、わたしたちと一緒に旅に出る?」
わたしは暴走したラプンツェルを解き放つよりかは、監視下に置いた方がいいかもしれないと思った。
彼はきっと、まだなにも知らない赤子同様なのだ。
誰かが正しく導いてやる必要があると感じていた。
「本当!?」
ラプンツェルの頬は薔薇色に染まった。
瞳は吸い込まれそうな青さで、雲一つない空のような輝きを放った。
「おねがい……! ぼくも連れてって……! きっと役に立つはずだから……」
「ぼくはここにある世界中の本の知識すべてが頭に入っている」
「それに……」
ラプンツェルは続けた。
「なによりぼくはこの塔を建てた魔女に気に入られているから、ほかの魔女の話も聞きだせるかもしれないし」
「ぼくがいなくなったら、きっと魔女は連れ戻しに探しにくる。そしたら交渉もできるかもしれないし」
ルカに目配せをすると、ルカも慎重な面持ちながら頷いた。
「ルカ、ラプンツェルの言うとおりかもしれないわ。もしかしたら魔女に会う早道になるのかも……」
「そ、そうだな……」
しばし考えたのち、ルカは決断した。
「仕方がない、お前も来るのだ、ラプンツェルよ」
わたしは安堵し、ラプンツェルににっこり微笑んでこう言った。
「では一緒に行きましょう、ラプンツェル」
「今まで誰にも甘えられなかったぶん、一人でさぞ寂しかったことでしょう……。わたしたちでよければ、存分に甘えていいのよ」
ラプンツェルはパッと顔を上げ、まるで大輪のピンクの薔薇が開花したような笑顔で、喜びのあまりわたしに抱きついてきた。
そして純粋な無邪気さでこう言った。
「やったー! ありがとうカリン!!! じゃあまた『セックス』しようね!!!!!!」
抱きつき、頬にキスをしたのち、わたしの胸に顔をうずめ、頬ずりをした。
ルカは驚愕の表情でわたしとラプンツェルを交互に見つめて肩を震わせた。
「う、嘘だよな……カリン……」
わたしは背中に滝のような汗をかきながら、フルフルと首を横に振った。
ラプンツェルは依然わたしの胸に顔をすりつけて、時に敏感な先端にも触れ、微妙な感覚をもたらし、わたしは困惑した。
「ラ、ラプちゃん……、甘えていいと言ったのはこういうことではな……く……」
「お前……、いい加減カリンから離れろ!」
そのさまを見たルカは顔を真っ赤にし、再び呪文を唱えた。
「かえるぴょこぴょこぴょこ……」
ルカの舌はカエルのように伸び、シュッと伸ばした先のラプンツェルを捉えようとするも、ラプンツェルはサッとわたしの後ろにを隠す。
「くっ……、この確信犯め……」
「ううう……、それでなくとも、カリンと二人きりでいちゃいちゃらぶらぶで愛し合いまくる旅が……ががが……」
ルカは悔しそうな表情を浮かべがっくり肩を落とし、じっとりとラプンツェルを睨む。
これでは先が思いやられる……。
「ルカ。彼は赤子からここに閉じ込めらていたのです……そして世界を知るのはこの塔を出る今日この日から……」
「いわばたった今生れ出たことと同じ」
「本の知識はあろうとも、彼は今生まれたばかりの赤子と同じ……だから許してあげて?ルカ」
わたしはそう言うと、諭すように微笑んでラプンツェルを見つめる。
「そうよね? ラプちゃん」
それを受け、ラプンツェルは再びじわっと涙を浮かべた。
それは感激の喜びの涙に見えた。
そして嬉しそうにこう言った。
「ぼくが赤ちゃんなら、ここから出してくれるカリンがママになって!!!」
そしてまたぎゅっとわたしを抱きしめた。
でもこれは、さきほどの邪ななにかを感じることはなく、純粋に母を慕うような愛おしさを感じた。
「あなたはお父さんとお母さんに裏切られて、ずっと一人で寂しかったのよね……」
そっとラプンツェルの頭を撫でる。
ギリギリとこちらにも聞こえんばかりにルカが歯ぎしりをする。
ルカからのちほどこの時の話を聞いたところによると、ラプンツェルはわたしに頭を撫でられつつも、光を失った真っ黒な瞳でルカを見つめ返し、にやりと笑っていたのだそうだ。
しばし牽制の時間が流れたのち、ラプンツェルはルカに向かってこう言った。
「ねえ、カリンがママなら……あなたがパパになるんじゃない?」
するとルカは表情を緩め、頬は上気し赤みが差し、ぼそりとこう言った。
「私がパパ……。それなら道理が通るな…。悪くない……」
まんざらでもない様子だった。
ラプンツェルはわたしに表情を見せないまま、こうつぶやいた。
「チョロwwwww」




