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2作目です。よろしくお願いいたします。
ヴェレッド王国は、バラの妖精と人間の間に生まれたヴェレッド王が打ち立てた国である。それ以前の王国は、植物は食料品に限って生産を許し、それ以外の全ての植物は「人間の役に立たない」という理由で栽培も観賞も一切許されていない国だった。人々は音楽も絵画も、生活に潤いをもたらすあらゆる物を禁止された。バラの妖精はこの王国からバラが全て処分されたことを悲しみ、他の花の妖精たちと一緒に王国を脱出した。
脱出した先で、バラの妖精たちは「ローズ」という人間の少女と出会った。ローズは庭師の娘で、花の育て方も一流の腕を持っていた。バラの妖精は花を慈しむローズの心の美しさと丁寧な植物の扱いを喜び、ローズに妖精の力を分け与えてこの世界を花で一杯にしようとした。だがローズは人間であり、妖精の加護は時に呪いと化すこともある。バラの妖精はローズに直接妖精の加護を与えることを諦めた。
その代わりに、バラの妖精は人間の姿になってローズの前に現れた。そして、花専門の庭師のふりをして、たくさん大きな花を咲かせる方法や病気の治療法、新品種の育成の仕方など、一般の庭師の知識よりも深い知識と技術を与えた。ローズはバラの妖精から真剣に学んだ。ローズが大人になった頃、バラの妖精による教育も終わった。立ち去ろうとするバラの妖精に、ローズは「一人の男性として愛している」と告げた。バラの妖精はローズを妻とし、3人の子どもに恵まれた。
だが、妖精と人間では時間の流れが異なる。ローズの顔に複数の皺が寄る年になってもバラの妖精は若いままの姿であり、この頃になるとさすがのローズもバラの妖精が人間ではないことに気がついた。ローズは周囲の目を気にして、バラの妖精に姿を消すように頼んだ。
「このままでは若いままのあなたを異形だとして、危害を加える人がいるかもしれない。あなたはまだ若いのだからと、若い娘があなたに懸想し、あなたがその思いに答えて出て行ってしまったら、私は耐えられない」
バラの妖精は、既に成人していた子どもたちを呼んで話をした。
自分は人間ではなく、バラの妖精であること。
王国の王が食糧となる植物以外を全て捨て、枯らしてしまったため、他の花の妖精たちとこの国に逃げてきたこと。
ローズに伝えた栽培技術や知識を活かして、この国を花で満たされた国にしてほしいこと。
いつかは王国も花にあふれた国に戻してほしいこと。
そして、子どもたちにはバラの妖精の加護があり、バラを使い魔のように使役する能力が与えられているから、うまく使ってほしいということ。
ローズの為に自分はここから立ち去るが、ローズのことはバラの妖精の姿に戻ってからも必ず見守り続けるから。
そう約束すると、バラの妖精はローズときつく抱き合ってから姿を消した。
ローズとバラの妖精の子どもたちは、新しいバラを作り続けた。とげのあるつるバラはムチのようにしなって、新品種を狙うものを懲らしめ、拘束した。そうやって3人は協力し合い、バラを使役する能力も使いこなせるようになっていった。
やがて王国の政策が行き詰まり、民衆が蜂起した。三男のヴェレッドはその身を反乱軍に投じ、バラを使役する能力を使って王国の王を倒した。ヴェレッドたち反乱軍が王宮に足を踏み入れると、ヴェレッドの歩いた後には様々な花が瞬時に生え、花を咲かせた。ヴェレッドが玉座の間にたどり着くと、つるバラが玉座の前にアーチを作り、黄金色に輝くバラを咲かせた。これを見た人々はヴェレッドが祝福された存在であることを実感し、ヴェレッドを王に戴いて新しい王国を作り上げた。
新しい王国はヴェレッド王国と名付けられた。農業国家を目指したが、そこには花や食用の実のならない木も植えられた。山々は無理矢理畑にされていたが、木を植え直した。莫大な予算と膨大な人力が必要だったが、ヴェレッド王の力と、その呼びかけに応じて隣国から戻ってきた多くの花の妖精たちが手伝い、20年で街路樹が整備され、50年で山は森に少しずつ姿を変え始めた。花は人々の心を癒やし、娘たちは花を贈られて求愛させる喜びを知った。
ヴェレッド王が崩御する時、ヴェレッド王は父であるバラの妖精からこの国を守護するための方策を与えられた。それが「バラの乙女」である。『ヴェレッド王のバラ』には、バラの妖精だけでなく、様々な花の妖精たちの力が込められていた。その力は、この国の土地を祝福し、豊かな土地とする力である。『ヴェレッド王のバラ』の力が十分に発揮されれば十分な農作物の生産量が確保され、人々が飢えることはない。多少の天候不順があっても、そこは「加護」の力で翌年の豊作が約束される。人々は安心して暮らせるので、盗みや殺しをして食糧を奪う必要がない。
そんな「ヴェレッド王のバラ」の力を維持するためには、「ヴェレッド王のバラ」を更新、つまり新しい苗にしてしっかり育てる必要がある。バラの妖精は、ローズを愛していた。子孫たちにも、自分がローズと過ごした日々のように一緒にバラを育て、慈しんでほしいと思っていた。そこで、バラを使役する能力とバラの栽培方法の知識は、ヴェレッド王の血を通じて王家の男子に伝えるようにした。そして実際に栽培する能力は「バラの乙女」に引き継がせ、2人で新しい「ヴェレッド王のバラ」を栽培することで、国を守る力が発揮できるようにしたのだ。
「バラの乙女」は前世の行動から善良な魂10人を選抜し、特に優れた娘を王妃とすることで、「ヴェレッド王のバラ」の力を定期的に更新させるものである。そのタイミングは「ヴェレッド王のバラ」が弱まることで人間に知らせることになった。およそ50年に一度、バラの乙女が現れ、王国を守り続けてきた。