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囚われの魔女とベネディクトイズム  作者: 空色ねずみ
番外編(ミーイズム)
63/88

ミーイズム(18日目&あとがき)


「今日のベネディクトは、本当に腐っていた。

 昼下がりまで、名前も知らない女と一緒に過ごしていた彼は、朝一番に訪ねてきた(見合いの申し込みに違いない)どこかの貴族のご令嬢を「忙しい」の一言で追い返した。ベネディクトはあくまで平民、対する相手は一応、貴族さまである。そんな扱いが許されるのであろうか。そもそも、何が忙しいのかは考えたくもない。

 また、午後から書斎のソファに横になって徒然に論文を貪っていた彼は、国の役人をそのままの姿勢で迎えた。首都に出向いて欲しいという要請に対し、彼はやはり「忙しい」と言った。仰向けに寝転がり、論文を天井に掲げて読んでいる姿勢のまま、である。役人は顔を紙のように白くしていたが、一週間以内にという条件を、一ヶ月以内にという条件に譲歩してくれた。ベネディクトはそれに対して、「仕方ない」とだけ言う。国の役人に対してもその態度。いったい、彼は何様のつもりなのだろうか。

 極めつけは、夜である。彼は――」


 シャワーを浴びてきた私は、自分の部屋に戻るなり彼の朗読を聞いた。

 廊下にまで聞こえてきた声に嫌な予感は――いや、既に嫌な予感どころではないが――していたが、案の定、私の部屋の鏡台の前にベネディクトが立っていた。彼は立ったまま、先ほど書いたばかりの日記を読んでいる。それも、わざわざ声をだして。

 私は髪から滴る水を拭いていたタオルを放り出し、代わりに彼の手から日記をひったくる。


「ちょっと、なに勝手に人の部屋に入って人の日記を読んでるのよ」

「ここは私の屋敷だ。そして日記にも、私の日記だと書いてある」


 確かに日記の名前は"ベネディクトの観察日記"である。


「……なんで朗読してるのよ」

「文体がどうとか、誤字脱字がどうとか言うつもりはないが、あまり才能を感じる文章ではないな。全く厚みが無いし、着眼点も面白くない」


 激しく余計なお世話である。

 彼は私の手から、日記を取り返した。そしてぱらぱらとめくってみせる。


「特に、これだ。二月四日の日記。ここの――」

「ちょっと、もう全部読んだわけ!?」

「たったこれだけだろう」


 彼は薄っぺらい数ページをひらひらとさせる。

 すると、日記の中に幾つか赤字が見えた。私が書いた文章は全て黒字で書いているはずである。ぎょっとして彼の手から再度日記を取り返すと、私の日記に赤いインクで添削ともコメントともつかない文章が加えてあった。私は思わず声を出す。


「ちょっと、何を書いてるのよ」

「その日記をどうするつもりかは知らないが、人に読ませるにはちょっと捻りが足らないな」

「あなた自身が力いっぱいひねくれてるんだから、これ以上ひねってどうするのよ」

「そうか? あまりに普通の日常を書きすぎていて、つまらないと思ったんだが」


 ベネディクトのどこが普通だと言うんだろう。自覚が無いのは恐ろしい。

 だいたい、それを言うのなら、私の日常の方が普通のはずである。私の生態日記にどう「捻り」を加えて面白くしたというのか。それこそ考えたくもない。

 私は日記をバタンと閉じた。


「いいのよ別に。ベネディクトと違って論文にするわけじゃないんだから」

「それは分かっているが、ならば何のつもりで私の日記など付けているんだ?」

「……単なる仕返しよ」


 私の言葉に、彼はきょとんとした顔をした。何の仕返しなのか、まるで分かっていない顔である。私は言葉を重ねる気力も無く、重たい息を吐いた。


 そんなわけで、そろそろ私の観察日記も幕を閉じようと思う。

 ――短い日記ではあるが、彼について少しでも理解していただければ幸いである。



*あとがき



 貴方がこの日記を読んだと言うことは、もう私はこの世にいないのだろう。


 ――冗談である。

 ベネディクトの観察日記、いかがだっただろうか。

 この日記で、少しでもベネディクトに対する誤解を解いてもらえれば幸いである。彼は人前に姿を現さない変人とされているが、彼は人前に姿を現そうが現すまいが変人である。また、一部で彼は血も涙も無い冷徹な人間だとされているが、とりあえず血と涙くらいはある。玉ねぎを切れば涙が出るし、手が滑って指を切ったときは血も涙も出ていた。あくまで普通の人間である。


 と言うわけで、少しは彼について分かっていただけただろうか。


 ……まあ、毎日のように彼と一緒にいる私だって、ベネディクトについて理解していることは少ない。これを読んだだけで彼について理解することなど、不可能に違いないか。


 それではみなさん、しばしさようなら。

番外編ミーイズムお付き合いいただきありがとうございました。

中身のないお話でしたが、少しでも暇つぶしにでもなっていれば幸いです。

次からは、後日談ジャーナリズムとなります。

拙作、恋愛のジャンルに放り込んでおきながら、本編はほんのり恋愛(か?)くらいなので。後日談でちょこっと二人のラブ(か??)を書いています。ストックが尽きたら、しばらく放置になると思いますのでご了承くださいませー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ソフィアとベネディクトの会話が本当に楽しいです。 ベネディクトはとんでもないことを言っているはずなのに、二人でいるととっても可愛らしくみえます。 なんてことのない日常も、きっと二人でいたら…
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