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囚われの魔女とベネディクトイズム  作者: 空色ねずみ
後日談(ジャーナリズム)
64/88

ジャーナリズム


 正直なところ、私は三日で屋敷に戻るものと踏んでいた。


 何せ相手はベネディクトである。

 彼はかつて、太陽を浴びると年を取るといって屋敷にこもり、雨が降れば体が溶けるといって屋敷にこもり、雲が覆うと気が塞ぐといって屋敷にこもり、闇夜は悪霊が跋扈するといって屋敷にこもった。とにかく、何でも良いから外に出たくないと言った人物なのだ。今回、どう言うつもりで旅に出ようと思ったのかは知らないが、すぐに「帰る」と言いだすに違いない。


 そうでなくとも、贅沢に頭の先まで漬かったような、そんな恵まれた環境でしか生活していなかった彼は、馬車での旅などすぐに音を上げるはずである。いくら馬車を改装して過ごしやすくしたといっても、屋敷で使用していた最高級の寝台を持ち込めるわけもなく、もちろん浴室も付けられない。厨房もなければお抱えのシェフもいないし、お気に入りの仕立て屋もいない。持ち込んだ衣服にも限りがある。話の出来る専門家もいなければ、書斎も実験室もない。加えて、馬車が悪路で揺れるのも避けられない。こんなところで生活できるのは、せいぜい三日だろう――そんな風に思っていたのだ。


 だが、予想に反して、幾月日。

 ベネディクトはいたって元気そうであり、いたって上機嫌でもある。


 それもそのはず、彼はどこにいようと彼であり、彼は不便な生活など全く強いられてはいないのだ。彼は普段どおりに暮らしているだけである。外に出たくないと言った日は馬車の中から一歩も外に出なかったし、疲れれば町の教会だろうと他人の家にだろうと勝手に上がり込んで休む。食べたいものが手に入らなければ、馬で二日ほどかかる都市まで買いにいかせる。


 彼は決して苦労などしない。

 苦労するのは、いつだって彼に振り回されている周囲の方である。


 アルフレド・ベネディクト・ベラスコとはどのような人物であるのか。 もはや私がいちいち述べなくとも、皆さんにはお分かりかと思う。


 ベネディクトとは、ベネディクトである。


 それ以上でもそれ以下でもないし、それ以外の言葉など大した意味を成さない。私たちは彼に似た人物を思い描くことも出来なければ、彼を正確に表す言葉なんて見つけられやしない。どこにいようと、何をしていようと、彼は間違いなくアルフレド・ベネディクト・ベラスコである。それ以外のものになどなれやしないし、なるつもりなどこれっぽっちもないだろう。


 もっとも、ソフィア・メーヴィス・レインとはどのような人物なのか。そう尋ねられたところで、私はやはりこう答える。私は私である。それ以外の何者でもないし、それ以外のものになろうと思ってもそんなこと出来やしない。どこにいたって、何をしていたって、私はベネディクトに振り回される哀れな魔女――ソフィア・メーヴィス・レインでしかないのだ。


 これは、アルフレド・ベネディクト・ベラスコと私の、徒然なる旅の記録。

 お暇なときにでも、私の愚痴にお付き合いいただければ幸いである。

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