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#29

 出口の側には門などは無かった。

 代わりに俺たちを出迎えたのは、霧に包まれた樹海だった。

 今までの人生で見たこともないような種類の草や木が、そこら中に密集して生えている。しかし、これだけ植物が生い茂っているにも関わらず、生命の気配が妙に薄いような、そんな不気味さを感じる。

 草木の間を縫うように、古い石畳の道が敷かれている。かつてはここに人類の文明が息づいていた証だ。石畳の隙間から草がぼうぼうに生えているものの、歩く分にはさほどの支障はなさそうだ。

「さて……リュネット、場所はわかるのか?」

「方向ははっきりとわかります。そこまで道が通じているかはわかりませんが、最悪の場合は道を作ります」

 それは大威力の魔法で草木を薙ぎ払うという意味なのか、と訊ねたくなったが、平然と肯定されたりしたらちょっと怖いのでやめておいた。

 俺たちは霧に包まれた森の中を進んでいく。慎重に周りに注意を払いながら、かつ遅くなりすぎないように歩き続ける。

 しばらく歩くうちに、俺はこの森の異様さの正体に気が付いた。今までに見たことのある普通の森と比べて、この森には虫や鳥、小動物がほとんど居ないのだ。全く居ないわけではないかもしれないが、少なくともわざわざ探さない限りはまず視界に入ってくることはない。

 代わりにと言ってはなんだが、トンネルの中と同じように、ところどころに人骨や変な動物の骨などが落ちている。金属製の武器防具を身に着けた人骨が数人分まとまって転がっていたのは、もしかしたら調査隊とかいう連中かもしれない。


 そんなことを考えていたせいか、いきなり低いうなり声のような声が響き渡った時に、俺は咄嗟に対応することができなかった。

 いつの間に迫っていたのか、目の前には大きな獣の影があった。形としては犬や狼に似ているが、その大きさは馬ほどはあり、おまけに頭が二つもある。

 なるほど、化け物とはよく言ったものだ――などと考えている余裕はなかった。何しろその双頭の巨犬が更に三頭、霧の向こうから姿を現したからだ。

「うわー、既に半分囲まれてるみたいだねぇ。霧のせいで周りが見えないって本当にヤバいねぇ」

 全くヤバいと思ってなさそうな口調でグローリアが言う。

「まったく、動物を傷つけるのは私の趣味ではないのですが」

 そう口では言いながらも、思いっきりやる気満々といった表情でリュネットが前に進み出る。

「嫌なら別に引っ込んでてもいいんだよ。わざわざ魔法使いサマの手を煩わせるほどのこともないからねぇ」

「残念ですが、先を急いでいる以上あなた一人でチンタラやるのに任せておくわけにもいきません」

 二人の戦意を感じ取ったのか、双頭の巨犬たちはひときわ大きな唸り声をあげ、次の瞬間にはその巨体に似合わぬ速度で襲いかかってきた。


「これはちょっと計算外だったなぁ」

「仕方ありません。次からは割り切ってさくっといきましょう」

 二人が苦戦――というほどでもないが思った以上に冷や汗をかいた理由は、この怪物たちの性質にあった。

 最初、リュネットはこの怪物たちを傷つけずに追い払うため、先日街道で魔法使いたちに襲われた時に使った《アブソリュート・ペイン》とかいう、絶対的な苦痛を与える魔法を使った。

 一方でグローリアの方も、さらに前に街道で三兄弟に襲われた時に使った技で怪物を両断していた。その一撃で実際に怪物の身体が断ち切られることはなかったが、あの時と同じであれば当分は立てないくらいの衝撃を与えていたはずだった。

 しかし、怪物たちはそれらの攻撃で一瞬たじろいだものの、わずか二秒程度で立ち上がって再び襲いかかってきたのだ。

「まさか、この生き物たちは苦痛を感じないのでしょうか」

「あたしのあれをまともに受ければ、苦痛とか関係なしに物理的に動けなくなるはずなんだけどなぁ。よっぽどとんでもない生命力の持ち主なのかな……?」

 最終的には、リュネットの《ライジング・フレイム》で骨まで焼きあがったのが二匹、グローリアのハルバードで縦と横に両断されたのが二匹という結果になった。

 このくらいまでしないと倒れない生き物を相手に、普通の戦士がまともに対抗するのはほとんど無理だろう。調査隊が次々と命を落とすのも当然である。


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