解剖へのアプローチ
終皇79年10月7日 曇
運動会が終わり、偶に涼しい日もある。
暑さ対策で春に運動会をしようという声もあったらしいが、軟弱にならないようにと却下されたそうだ。
今日から理科の解剖の授業が始まる。
「今日からは解剖の授業を始める。
なーに、心配することは何もないぞ。
斬ってバラして観察してレポートするだけだ。
スケッチに関しては植物観察と同じように、正確にハッキリと書けばいいから、復習のつもりでやるように。
斬るのは調理実習の様にとりあえずやってくれて構わないぞ。
何かあればその都度実演しよう。
くれぐれも他人に刃物を向けないように」
「「「はーい」」」
「予行演習として、今日は玉葱と秋刀魚をレポートしてもらう。
気づいたことをスケッチと共にレポートに纏めるように。
では始め」
「おい飛鳥。玉葱の解剖とかどうするんだよ。
そもそも解剖って言わねーよな」
「前段階って言ってたでしょ。」
「普通に真二つにして、断面書けばいいんじゃない?
ちょっと捻って横に斬ってみたり斜めに斬ってみたりすれば差がつくと思うよ」
「さっすが飛鳥!愛してるぜ」
「ちょっとやめてよね?寒気がしたんだけど・・・」
「馬鹿はほっとけばいいのよ」
「何を愛してるんだ?」
ひゃーーー
急に背後から声がしたため、頓狂な声を上げてしまった。
「な、なんでもないんだよよ!」
「そうかぁ?ならいいが」
「健十郎が飛鳥に告白したの」
「おい、何誤解を与えるようなこと言ってんだ」
「やっぱりそういうことだったんだ・・・」
「ちげーし」
「お喋りはその辺にして、ちゃんとレポート書きくんだぞ」
「「はーい」」
「美味しそうだな」
「魚くさい・・・」
「好き嫌いしちゃダメだからね」
「味はともかくとして臭いが無理なんだよね」
「これ、後で焼いて食って良いのか?」
「ダメだって言ってたよ?」
「はー、食べれねーならカエルの解剖とかの方がマシだぞ」
「蛙の中身の臭いって魚みたいに生臭いよ?まぁ臭い自体は弱いけどね」
「キモいこと言うなよ・・・」
「今のは要らなかったと思う」
「そうかな?」
あははは・・・。
玉葱は簡単だった。
包丁でズバッと斬るだけでいいのだから。
秋刀魚が地味に難しかった。
とりあえず腹を開けて、腸などの臓物を取り出した。
これを更に部位ごとに分けるのだが、素人には境目が非常にわかりにくい。
「何処が切れ目なんだろ」
「お前にわからないものが俺にわかるわけねーだろ」
「よくわかんないから、他の取り出してみよっと」
「結構ガツガツいくのな」
「よく虫をバラしてたしね」
「「えっ」」
「えっ?」
「それは初耳・・・」
「道理で脳みそも目玉も簡単そうに取り出せたんだな。こりゃ人間の解剖もいける口か?」
「何で人間の解剖が出てくるの?」
「中学では人体解剖の授業もあるっつー話だぜ」
「えーそれ何処情報?」
「兄貴から聞いた。先生が献体の解剖を実演するんだと」
「へ、へえー。なんか健十郎ってそういう話に耐性あるよね。臭いは気にするのに」
「そうか?」
「脳天気なだけでしょ」
健十郎は暫くの間、黙々とスケッチをしていた。
都合の悪い核心を突くと直ぐ黙りするんだよなー。
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今日の放課後、また哲さんたちに会いに行くことにした。
1ヶ月ぶりくらいになるだろうか。
今日は何故か絵里もついてきた。
「絵里は来なくても良かったんだよ?知らないでしょ」
「そーだぞ。邪魔者は帰れ」
「別にいいでしょ?減るものじゃないんだし」
「ただいまー」
「「お邪魔しまーす」」
「というか、ただいまなの?」
「俺も手伝ってるから、最近はこっちに住んでる」
「まぁこの部屋でかいもんね」
「贅沢」
「出産師の給料凄いからな」
「知ってる。自慢しなくていいから」
「自慢なんてしてねーよ」
奥が少し騒がしい。
「こんにちはー」
中は哲さんと裕さんが楽しく遊んでいたようだ。
「あ、飛鳥くん。こんにちは!」
「このお兄ちゃんとお姉ちゃん、だあれ?」
そう哲さんが無邪気に問いかける。
「飛鳥くんと、そっちは・・・」
「はじめまして。飛鳥の友達の碓氷絵里です」
「はじめまして。健の兄の裕六郎だよ。裕って呼んでくれて構わないからね!
哲くん、挨拶は?」
「うん、わかった!
えっと、僕は哲。宜しくね!」
「はい、宜しくね」
「えっと・・・」
健十郎に「これどういうこと?」と小声で問いかけた。
「あぁ、これはな、」
「健、お茶出してあげなよ」
「うい。じゃー後でな」
「健兄もお帰り!」
「・・・」
健十郎は無言で台所へ行ってしまった。
時間かかってるなーと思ったら、健十郎がお茶だけではなく、御飯まで運んできた。
「なんで御飯まで?」
「私食べないわよ」
「お前らのじゃねーから。裕兄、出来たよ」
「ありがと。じゃー哲くん、食べよっか!」
「うん!手洗ってくるね」
「哲くん、偉い偉い!」
「えへへ!」
「あれ?2人にもせっかくだし用意したら良かったのに」
「いいんだよ。どうせ家に帰って食べるだろうし」
「2人共可哀想・・・」
「・・・」
哲さんの声に健十郎は答えない。
「哲さ・・・くん、ありがとう。でも僕は平気だよ!」
「私も自分の家で食べるから、気にしないでね」
「うん、わかった」
哲さんは美味しそうに食べていた。
箸は苦手なのかスプーンで食べているらしい。
が、カレーなので、何の道スプーンだったようだが。
「食べたら歯磨きだよ」
「はーい」
2人は歯を磨きに行ったようだ。
「で、これはどういう状況なの?」
「前に飛鳥が来た時はずっと寝てただろ?
その後、数日掛けて家族が入れ代わり立ち代り来て、騒いでたら突然起きたんだよ。
そこまでは良かったんだが、記憶を相当失っててな・・・」
「それで明らかな年下を年上として見てるのね」
「更にややこしくなったね」
「正直、見てるだけでイライラしてくる」
「機嫌悪かったのはそういうこと?
ダメだよ?刺したりしちゃ」
「何でそうなるんだよ」
「健十郎ならやりかねないと思う」
「でしょー?」
「・・・」
「まぁとりあえず今日はもう帰るね」
「ああ」
「あ!お兄ちゃん、お姉ちゃん、さようなら!」
「哲くん、またね」
「うん。また来てね!」
「またねー」




