竜駆ける老婆
ティルノに向かいながらレーダーを見ていたが、勢い良くマーカーが消えていく。
ティルノが無双をしているのだろうか。
早く見たい。
あたり一面ペイント弾の色だった。
このペイント弾は、翌日には無色透明になり、環境にも配慮した素晴らしい逸品なので、全く心配はいらない。
混戦地域に到着した時にはマーカーは約半分になっていた。
ティルノは走り回っていた。
襲っているというより逃げているという感じで。
恐竜を倒したい人が殺到したらしく、恐竜が哀れである。
恐竜に向けて発砲したら、反対側にいる人にあたり一気に数が減ったのだろう。
玉入れした後のようだ。
取とられる前に取ってしまうか。
1発撃ち込む。
動きが早すぎてホーミングが殆ど意味をなしていない。
こりゃ連射だったな。
「ホーミングの性能を上げることは可能?」
【その場合、威力が低下します】
「次はそれで」
【ホーミングの性能が最大に引き上げられました】
もう1発撃ちこむ。
とても弾の速度とは思えない遅さでヒットした。
「んーダメだな」
「あら、寛九郎も参加していたのね」
「あ、婆ちゃん。そういや、ネズミーランドでチーズの館には参加しなかったの?」
「参加したさ。参加したのだけどクリアしてしまってね」
「へ、へぇ。やっぱ凄いんだ、婆ちゃんは」
「年寄りが多いから簡単だっただけよ」
「婆ちゃんも十分歳だと思うけど・・・」
「まだまだこれからよ。爺さんはあっさり逝ってしまったようだけどね」
「昔は山駆け少女だったって聞いたけど、やっぱその影響で?」
「懐かしいわねそれ。誰から聞いたの?」
「爺ちゃんから」
「爺さんはほんとお喋りねえ。
単に山を走り回るお転婆だっただけなのよ。
それで?あの恐竜を狙ってるのね?」
「でも全然当たらないし、必中にしたら威力が出なくて」
「近くから撃てばいいんじゃないの?」
「そんな簡単にできないよ・・・」
「じゃあ手本を見せてあげるわ」
【大量の被弾によりティルノが退場します】
ティラノサウルスは一目散に逃げていった。
恐らく檻に向かったのだろう。
二足歩行で小さな両手があり、大きな顎を持つため非常に怖い顔をしている。
生物学上は鳥類に近いらしく、羽毛と呼ぶべきかもしれない薄い体毛に覆われている。
尻尾と頭を水平にしてバランスを取っているようで、あの巨躯でも全くブレる様子はない。
とは言っても、あの速度で走れるとは恐ろしい限りである。
戦車とぶつかれば、戦車のほうが潰れるのではないか。
そう思ってしまう。
「あら、どうしましょ」
「もう一匹居るよ」
「でかい方のアパトね?」
「もうそろそろ来るよ」
「ちょうどいいわ。それ仕留めましょう」
と婆ちゃんも行ってしまった。
既に地響きが伝わってきている。
こちらの恐竜も水平にバランスを取っているため、何処からでも見える・・・というわけではない。
が、巨体なのは変わらないので、見つけやすい。
何より音で方角がわかってしまう点、ティルノよりはマシかもしれない。
とりあえず狙ってみる。
頭が高いので射撃距離が長くなり、振動のせいで微妙に照準がずれる。
木も揺れ、弾が通るかも不明。
「無理だな」
『寛九郎』
遠くから声が聞こえる。
アパトの背中からこっちに手を振っている。
木から飛び移ったようだが、よくもまあ簡単にやってのけるものだ。
羽毛のお陰で掴めば振り落とされそうにはないが。
多分そのまま跨りながら首を傳って行くのだろう。
そう思っていたが予想の斜め上を行っていた。
アパトの背中から走りだし、首をそのまま手放しで駆けている。
平均台の上を走るかのように両手を広げ、それも楽しそうに、だ。
アパトが突然首を動かした。
婆ちゃんは何もない所へと跳ぶ。
飛んだ先に丁度首がやってきて両手両足でしっかりと獅噛みついた。
頭に優しくペイント弾を数発当てて、アパトを退場させた。
「やっば。ありえねー」
そんな独り言をつぶやいてる内に何者かにペイント弾を撃たれ、俺も退場となった。
「何だよ。婆ちゃんの足元にも及ばなかったな。雑魚」
「はー?あんなの規格外だよー?
参加もしなかった雑魚に言われたくないねえ」
「婆ちゃんはその後殆ど一人で倒してた。お前と違って」
「しつこいなー」
「さっきのお返しだからな」
【試合終了です。皆様お疲れ様でした】
「で、婆ちゃんは?」
「必中の弾に複数回あたって退場だったよ」
「そっかー」
「流石に恐竜の首を走るのは予想外だったが」
「だろー?あまりの衝撃で注意散漫になったところを撃たれたんだよねー」
「好してるから雑魚なんだよ、バカ」
恐竜は複数体居るらしい。
ただ、繁殖は出来ないようにしてあるとか。
大昔のフィクションで復元した恐竜に滅ぼされる話があるくらいだ。
仕方ないことだろう。
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ということがあったらしい。
「そりゃ凄いね。僕も見てみたいよ」
「既にお墓の中だから無理だけどな」
「楽しい人生でよかったね」
「そうだな」
健十郎の家についた。
丁度通り道だから絶対に通るのだが。
「じゃあまた明日な」
「うん、またね」
健十郎はサバイバルの話で少し元気になっていたけど、いつも通り本心を隠している気がする。
気のせいだろうか。




