ネイビーブルーの瞳
満月の夜。
ナッツは、パタパタと飛んでルークの家に行きました。
家のカギ穴に息をフッとひと吹きすると、鍵が外れます。
小悪魔ですから。
このくらいできますよ。
この家とお別れしたのは、確か前の前の半月の頃。それから今日の満月になるまでの時間が経ちました。
その程度の期間じゃ忘れないくらいには、体がこの家をおぼえている。
ちょっと歩けばすぐにリビング。
ほら、ルークはまたカウチで寝てる。
窓から差し込む月明かりに照らされたルークは、きれいな寝顔。
ドキドキする。
困っちゃう。
ああもうどうしよう。
ルークは熟睡しているとなかなか起きない。
今もぐっすり眠っているから、起こすの大変そう。
寝ぼけている時のほうが、きっと魅了もかかりやすい。
叩き起こしてぼんやりしているところに魅了をかけましょう。
深く深く魅了して、落とし込む。
私しか見えないように。
目を逸らせば解けてしまうから、ずっと目を合わせて。
離れないようにぴったりと体を寄せて。
ルーク、ルークと何度もその名を呼んで。
…
…
…
すっげー、恥ずかしい。
ドキドキドキドキドキドキドキドキ
ほらもうおかしな心拍数。
考えるだけで真っ赤になってハアハアしてるとか、ナッツ、自分でも小悪魔としてどうかと思う。
規則正しい寝息。
わずかに上下するルークのシャツの胸元が、だってほら、何か妙に色っぽいというか。
…
…
…
ナッツ、本当にどうかしてます。
くっきり頭に浮かびましたよ。
今の自分を客観的に表現する単語が。
変態。
そうです。
それです。
乙女としてピンチ。
やりましょう。
さくっとやりましょう。
小悪魔でいられるうちに、ルークを落とすのだ!
ナッツ、そそくさとルークの寝顔の側にしゃがみこんだ。
とりあえず体を揺すってみようかと、ルークの肩に手を伸ばしかけた時。
ルークがぱっちりと目を開けた。
なんてきれいな濃紺の瞳。
驚きで、ナッツの心臓は爆発寸前。
ああもう、胸がぎゅっとする。
てか、ちょっと!何で今起きるのよ!
動揺が激しくて、パニック。
突然、ルークはナッツの手首をがしっとつかんだ。
そのまま、ルークがゆっくりと体を起こす。
ナッツは動けない。
ルークにつかまれた右手首から、力を抜かれていくみたい。
心臓の鼓動だけうるさくて。
静かな濃紺のまなざしが注がれる。
そこにどんな気持ちがあるの?
ねえ、ルーク。
ルークに見つめられて、ナッツは何しに来たのかも忘れた。
あんまりドキドキして。
体の力が入らなくて。
熱があるみたいにクラクラして。
それなのに。
こんなにこんなにルークで胸がいっぱいなのに。
そんなナッツにルークは言ったのだ。
一番、聞きたくなかった言葉を。
「きみ、誰?」
足元に、真っ暗な穴が開いたような気がした。




