お怒りレッド
「魔法書をひっくり返して調べてたんだけど、昨日の夜になって、やっとそのページを見つけたんだ。使役した悪魔を解放する方法」
ルークは優しい。
や、たまにナッツを雑にこき使うけど。
それだって、無理やり魔力で縛るようなやり方は一度もしてない。
「ナッツ、ずっと魔界に帰りたがってたでしょ?この方法なら、安全に解放してあげられそうなんだ」
今も優しい。
ルークの濃紺の瞳は、どこまでも穏やかで温かい。
「今夜は半月。人魔の力のバランスがいい夜だから、絶好のタイミングなんだ」
今夜!
早い。早すぎる。心の準備ってものが。
使役されたのも突然だったな、そういえば。
「今まで人間界に縛りつけてごめん。今日、解放するよ」
なんて、なんて優しいルーク。
でも。
でもさ。
なんかさ。
その優しさは、鋭い刃のよう。
突き刺されてナッツの心が痛みます。
何にも言えない。
「それで、実は問題が1つあって」
ルークが少し顔を伏せて言った。
ドキッ。
え、何?
ルークはじっとナッツを見た。
「すんなり魔界に帰してあげられない」
ドキドキ!
え、この展開はまさか。
可愛いナッツに何かルークも思うところが!?
ルークが恥ずかしそうに口を開いた。
「ナッツの気持ちも聞かないといけないんだけど」
ドキドキドキドキドキドキ
何それ、何それ!
「一緒に、ギトギト洞窟に行ってほしい」
…
…
ん?
ドキドキがピタッと止まった。
「…何の話?」
「実は、恥ずかしいんだけど、俺さ、いろんなところで思いつきで魔術を仕掛けるから、気がつくと魔術の素材が足りないってことが結構あって。今回も、どうしても1つだけ足りないんだ」
「…何が」
「クイーンイエローがまがえるの油」
…
…
…
「えっと、そのカエル?の油で魔界に帰ると」
「そう!あははは、上手いこと言うね!ナッツ」
…
…
…
がっかりだ。
お前には、がっかりした!魔術師ルーク!
可愛いナッツは、可愛いものが好きなんだ!
クイーンイエローがまがえる。
でっかくて黄色いがまがえる女子。
無理だ。
絶対無理だ。
ナッツの可愛いの範疇には収まらない。
しかも、かえるで帰るとか、いらねえダジャレ放りこみやがって!いや、私は言わされたっていうか。
腹の底からメラメラと怒りが出てきたよ!
「どうなってんだ!人間の魔術師!誰だ!最初にそんなもん魔術に使おうと思ったヤツ!」
「あははは!」
あははじゃねえよ。
お別れなんだぞ。
せめて、ロマンチックに終わりたいじゃん。
でっかくて黄色いがまがえる女子。
無理だ。




