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アルモレヌス

 死んだら魂は、何処へいくのでしょうか?


 この世に放たれた輪廻という循環は、魂の寄り処を、地でも天でもなく、生物という、いずれ腐敗するナマモノに委ねていた。

 魂は、肉体が死滅し、腐敗すると同時に、他の肉体に寄生し、また、新たな進化の過程を築くのであった。

 そう。その均衡が崩れさる、あの忌ま忌ましい事件が起こるまでは……。


「どうした! 何事じゃ!」

「デルス様! アルモレヌス様が、輪廻の楔を破壊され、自害されました!」

「なんじゃと! 輪廻の楔が、破壊されたじゃと! そのような事をすれば、何が起こるかわかっておらんのか!」

「わかりません。しかし、アルモレヌス様は、既に自害され、魂の所在が不明。現在、探索しておりますが、この超常界には、既にいないものかと思われます」

「アルモレヌスめ、何を考えておるのじゃ! 超常界の幻想生命体であるお前が、輪廻を繰り返すだけの物界へと転生するなど……」

「デルス様、如何いたしましょう」

「アルモレヌスの事は、一先ず放っておけ! まずは、輪廻の楔の修復に取り掛かるのじゃ!」

「は! 承知致しました!」

『そうせねば、物界の魂共が、行き場を失い徘徊する。徘徊するだけならまだしも、この超常界に、そのような汚れた魂が入り込む事など、あってはならんのだ!』

 色の定まらぬ、不定形な次元の中で、影か蜃気楼ともわからぬ、そのモヤ達は、【輪廻の楔】と呼ばれた白銀の霧の中へ消えていった。


 【輪廻の楔】が粉砕されてから、物界の時間で17年の月日が流れた。

「神治! そんなに、ゆっくりしてたら、遅刻するわよ!」

「へ〜ぃ」

 母親の怒鳴り声にも、全く反省のいろを見せず、神治と呼ばれた少年は、通学バッグを肩に掛けると、「じゃ、行ってくるわ」と、ゆっくり家を出た。

 この少年、名をながれ 神治しんじといい、現在隠刃おんじん高校2年生である。

「お〜い! 神治!」

 後ろから、大きな声がしたと思うと、背中をバシッと叩いた。

「いってぇぇな! 何すんだよ、春騎!」

「へっへ〜ん! ボ〜と歩いてるテメェが、悪ぃんだよ!」

「んだと!!」

 この少年名前を、道程みちほど 春騎はるきといい、神治と同じ隠刃高校の2年生だ。

「神治! あまり、ゆっくりしてっと、遅刻すんぞ!」

「お前も、同じ事言うんじゃねぇよ!」

 二人は、そう言いながらも走り出していた。

 二人は、同じクラスで、学年でも一ニを争う、スピードランナーだった。

 そんな二人が、走り出したと思うと、登校中の他の学生達を、たちまち追い抜き、教室に走り込んだ。

「今日の一限目は、と……。体育かよ。げぇ! だりぃ!」

 黒板の横に貼られた時間割を見ながら、春騎は、苦笑いした。

「いいんじゃね。サボってても、真面目にやってる奴ら以上に出来んだから」

 そう言いながら、神治は既に、短パン・Tシャツに着替えている。

「そうなんだけどさぁ……。たまには、真面目に運動したいよな」

「お前は兎も角、俺が真面目にやったら、授業にならねぇっての」

「さっすが、神治。で、今日の体育、跳び箱みたいだけど、何段に挑戦する?」

「実際なら、27段と言いたいトコだな」

「27段つったら、世界記録じゃねぇか! そりゃぁ、やべぇっしょっ!」

 流石の春騎も、27段と聞いて顔色を変えている。

 その時だった。辺りの空気が、ザワッと揺れたような感覚がしたのは。

「おい! 神治! 何だ? 今の……」

 春騎の顔が恐い。

「はぁ? 何が?」

「何が? じゃねぇよ! 今、この辺りの空気が揺れたよな!」

『春騎の野郎、只者じゃねぇとは思っていたけど、この感覚がわかるのか!? しかし正体までは、わかんねぇみてぇだな。ちょっと、ごまかして、先に行ってもらうか……』

「そうか? 俺は、何も感じなかったぜ」

「嘘つけ! 何も感じない訳ねぇじゃねぇか!?」

 春騎がしつこく食い下がるので、神治は、突然座り込み、話を反らした。

「春騎ゴメン!! 腹が痛くなってきた。先に行っててくれねぇか?」

「やばくねぇか?」

「だから、何がやべぇんだよ……」

「わかった。そこまで言うんなら、きっと俺の気のせいだな。じゃあ、なるべく早く来いよ!!」

 諦めたように、大きく溜息をつくと、春騎は教室を出ていった。

 暫く間を置いて、春騎が戻って来ない事を確認すると、神治は、教室の扉と窓を全て閉めると、教壇に立った。

「で? 誰だよ!? 何の用だ!?」

 神治は、誰もいない筈の教室に向かって、一人で話をするかのように、声を出した。

「流石はアルモレヌス様。気付いておられましたか!?」

 声が聞こえた途端、神治の前の空間が歪んだと思うと、形を成さない影のような存在が現れた。

「アルモレヌスだって? 俺の名前は、流 神治だ! 間違えんじゃねぇよ!」

「ほほぅ。アルモレヌス様も、寄生され、アルモレヌス様であった事の記憶を失われたか……」

 影は、感心したかのように、そう言ったが、その場を去ろうとはしない。

「で。そのアルモレヌスって奴が、俺だとして、俺に何の用だよ!」

 神治が威嚇すると、影はユラッと場所を移動し、神治の傍まで来た。

「アルモレヌス様の記憶を失われてしまっているのであれば、言っても仕方のない事ですが、アルモレヌス様が壊した【輪廻の楔】の修復を行っている際、大事なことに気が付きました。それは……、【楔】のコアが、無いという事に」

 神治の身体に触れる訳でもなく、フワフワと辺りを浮遊しながら、影はゆっくりと話をした。

「で、アルモレヌスって奴の生まれ変わりの俺に、その核とやらを返せと?」

 神治は、動じる事なく、影に向かって言葉を発する。

「物分かりが良くて、助かりますね。して、核は、何処にあるのですか?」

 フワフワと、神治の周りを浮遊しながら影は、聞いてくる。

「くくく。フハハハハハッ!! バァタレがぁ!! テメェらが、核を取りに来ても、核は取れねぇんだよ! 【楔】の核はなぁ、俺様、神治の核と同化してんだからよ!!」

 神治は、突然不気味な笑み浮かべ、高笑いすると、自分の胸を指差した。

「しかも! テメェら超常界の奴らは、実体がねぇから、この物界の生物に触れる事すら出来ねぇ! しかし俺は違う!! 俺は、テメェらを殺せるんだからよ!」

 そして、右手を握り締めると、左手を宛がい、腰の辺りにもっていくと、ゆっくりと鞘から刀を抜くように、青白く光る刃を抜き出した。

「貴様! やはりアルモレ……」

 咄嗟に、神治から離れようとした影だったが、神治に、右手に持った光の刃で影を十文字に斬り裂かれ、スゥと空気に溶け込むように消えていった。

 それを確認した神治は、刃を鞘に納めるが如く、左手に突き立てていった。

『しかし、後は核だけか……、以外と早かったな。しかも、コイツが俺を見付けたという事は、他の奴がまた来るのは、確実だな。いくら超常界の奴らが、この物界への干渉が出来ないからといって、あのデルスが、黙っている筈がない。コイツぁ、ちぃっと厄介な事になってきやがったか!? ……っと、これ以上ボ〜としてたら、授業に遅れちまうぜ!』

 神治は、教室を飛び出すと、校庭に向かってジャンプした。誰も見ていない事を願って、校庭の片隅に。

『おいおい……。見てたのが、俺で良かったけどよ、あの高さ、ビルの3階分はあるぞ』

 たまたま見ていた春騎は、神治の事を呆れて見るしかなかった。


 放課後、春騎が神治の傍までやってきた。

「どうだ? 腹痛治ったか?」

「ぁあ? あぁ、治った治った」

「んだよぉ! 心配してやってんのに、そんなに適当に返事すんなよな!」

「ん? いや、すまねぇ」

 上の空の神治に、苛立ちを覚えた春騎は、話題を変える事にした。

「てかよ、朝のあの変な空気は、なんだったんだろうな」

「だ・か・ら、変な空気って、何の事だよ! 朝も、お前変だったしよ!」

「変なのはテメェだろうが! あんなに空気が歪んだ? 感じがしたのによ!!」

「空気が歪むって何だよ! ま、いいか……。春騎、ゴメン。何か、今日は身体が変だから、帰るわ」

 神治はそう言って立ち上がると、右手の拳を高々と挙げて帰っていった。

『春騎……。アイツは、【型物】の常識を超越してやがる……。まさかな。暫く、様子をみるか……』

 ゆっくりと家へ帰りながら、神治は考え続けていた。




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