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3 魔界の瘴気、ギャルにはきかない

「ごちそうさ卍~!」

食べ終わった後にまた手を合わせるシャナ。


(なんの儀式だ…っていうか…その手、魔爪…?)


メイクとやらを落とした顔は聖女級の愛らしさなのに、指先の研がれた黒く鋭い爪は牙のようにギラリ。


「粒が光ってる…?」

「あ、ネイル?ラインストーン爆盛りでデコってんの。まじかわいくない?!」

「デコ…?」


なるほど?


「ねぇ、マジュ様!足の布は洗った方がいいヨネ?」

「いや、これは封印布か護布かだろう?洗ってはダメだろう。」

「ルーズのこと?これ2mあんの!パネェっしょ!ってかやっぱ臭う?」


なるほど??


「ねぇシャナ。その頭の毒花ははずしたままでいいノ?」

「ウケる。これハイビスカスだから!毒じゃないし!」

「ハイビスカス?腐らない?」

「100均の造花だし問題なっしんぐ!」


なるほど、わからん。

でもシャナがなんだか楽しそうなのはわかる。


魔界という場所は互いが互いを力でねじ伏せるような場所だ。

どこに行っても陰鬱な瘴気が漂うが、シャナがいると不思議と心地よく息がしやすい。


その時、シャナが肩を揺らして笑った。


「ってか、マジュきいてる?いい?」

「あ、あぁ。」


私の頬を指でつつくその無邪気な笑顔に、胸が高鳴る。


(…嫌われ者の私にも、こうして笑ってくれるのか…)


「やった!じゃぁ、外いこ!」

「え?」


いつの間にか家の外に散歩にいく話になっていたようだ。

するりとシャナが私の手をにぎり、ひっぱる。

(…手をつなぐ…?わ、私と…?)


「あ、めんご。いやだった?テンアゲでつい・・・」


てへっと笑い、そのまま扉をあけるリンに向かって走っていくシャナ。


「い、いやじゃなかったのに・・・」


ぼそりとつぶやくと隣にいたリコがこてりと小首をかしげて言った。


「マジュさま、手つなぎたかったノ?」


「べ、べつにそういうわけではないが・・・」


そういって私もリコとともに家の外にでる。

道すがら、森の瘴気に足を止める。


ステュクスの森は魔界と人間界の境界に広がる特殊領域。

追放された魔族が集う不毛の地で、群生する花や根から瘴気が漂う。

弱い魔物や人間が近づけない所以だ。


聖女以外の人間には中毒や幻覚の危険がある場所だが…ギャル種族にはまったく無害のようだ。


シャナはぴょんぴょんと跳ねる謎の歩きをしながら森を駆ける。


「テンアゲスキップ~!」

「ま、まてシャナ。そんな歩き方は危ない!」


独特のテンポで歩きながら、シャナはあちこちを指さす。


「この白い根っこ、なんか甘そう~!」

「いや、それは白幻草だ!食べたら幻覚確定だ!」

「え?ヤクってこと?」


や、焼く?!焼けば食べれるというのか?

やはりギャル種族は危険度の概念が人間とは全然違う種族なのか……?

魔族寄りということでいいのだろうか。


森の奥に入ると、突然小さな光がひらひらと飛んだ。

シャナの指先にとまるのは、光の正体は小さな魔界の妖精、ピクシーだ。


「わぁ!ピクシーなんて初めてみたヨ!」

「ピクシーは愛し子の前にしか現れないってきいてたノ」

「えっと……ピクシーは人間に害はないんだよな?」

「やば、ウケる!妖精とかまじファンタジーじゃん!」


シャナは笑いながらピクシーに近づく。

ピクシーはひらりと避け、まるでシャナとあそぶようにからかうように舞う。

ピクシーをおいかけて森の中を駆け回ろうとするシャナを、私は追いかける。


「……手、つなごうか」


私はシャナに手を差し伸べる。


これはべつに私がつなぎたいからじゃない。

シャナがピクシーに惑わされて迷子になったり、転んだりすることがないようにするためであってべつに・・・!


シャナは少し驚いたあと嬉しそうに笑う。


「おけ!」


シャナの手のひらは意外と小さくて。

まるで人肌のような温もりで驚く。


「マジュ~、やっぱあーしと手つなぎたくなった感じ?」

「……いや、君の危険探索に付き合うだけだ」


そうかえしながらも、少しずつ楽しい気分になっていった。

手をつなぐなんて発想は魔族にはない。つなぐ相手もいないし、初めてのことだ。

未知のギャル種族の習性に戸惑いながらも、心の奥に小さな温かさが広がる。


そのとき、ピクシーがそっととまったのは美しい花。


「マジュ様!あの花の蜜、食べられるかもしんないヨ!」

「あ、今度は草にとまったノ」


ピクシーはそのあともまるでギャル種族が食べられるものを教えるかのように草花にとまる。

ピクシーの愛し子とはギャル種族のことだったのか。

どおりでみたことがないわけだ。


湖沿いの道を歩いていると、シャナが突然立ち止まった。

ピクシーが水しぶきと遊ぶようにかけまわる。


「マジュ、見て!」


小さな魚が水面で跳ねた。


「魚って、とれる?『とったどー!』ってしたい!」

「いや、魚は私たちは食べないが……。シャナは食べるのか?」

「え、うん。給食でしか食べたことないけど」

「……キューショク?」

「でも焼き方とかさばき方とかわかんないから無理かな~」


そういって湖をのぞきこもうとするシャナの腕を思わず腕を引っ張り抱きとめる。


「だめだ、ウンディーネがいるかもしれない。攫われないか心配だ」

「・・・じゃ、しゃーないか~」


なぜか少し照れたように笑うシャナ。


「あらあら、見せつけてくれるじゃないのぉ」


「ウンディーネ?!」


水面から顔をだすアクア色のしっとり潤った髪に紫色の瞳をもつ水の魔物。

思わずシャナを強く抱きしめる。

ウンディーネは愛した人間を水につれかえる習性があるのだ。

シャナはギャル族だから大丈夫だとは思うが・・・。


「そんなに警戒しなくても大丈夫よぉん。アテクシは男にしか興味ないものぉ」

「うわ!めっちゃグロスいい感じ!唇ぷっるぷる!」


そんな私の思いに気づかず、シャナのテンションがあがっていく。


「あらぁ、お嬢ちゃん。嬉しいこといってくれるじゃないのぉ」

「あーしもそのグロスほしい!どこで売ってんの?」

「ふふっ、アテクシの手作りなの。いまは手元にないけど今度あげるわぁ」

「え!いいの?!マジ神!」


いや、ウンディーネは水の魔物であって神ではないのだが・・・。

ギャル族は魔物の常識などは分からないようだ。


「超うれしい!ね、お姉さんの名前なんていうの?」

「あらぁ、人間に名前をきかれるなんて久方ぶりだわぁ。そうね、アクアリップよぅ。」

「アクアリップさん!ガチでまた来るから!」

「えぇ、まってるわぁ」


そういうとトプンとまた湖にもどっていくウンディーネ。

シャナは人間じゃなくてギャル族なんだが・・・勘違いしたまま帰ってしまった。


「・・・とりあえず帰ろうか」

「うん!マジュ、あーしのこと守ってくれてありがとね」

「いや、べつに・・・」

「あーし、マジュのこと結構好きかも」

「結構すき・・・」


え?好きっていった?

嫌われ魔族代表の私のことが・・・?


「あ、照れてる?かわいー。」


そういってぎゅっと腕に抱き着くようにして歩くシャナ。

これはギャル種族特有の習性なのか?


「なんか超たのしー!」

「……あ、ああ、楽しいな……」


抱きつかれた胸の高鳴りはまだ収まらない。

嫌われ者だと思っていた私の世界に、夕日のように少しずつやわらかい光が差し込むようだ。


「マジュ、あーしって本当に泊まってもいいんだよね?」

「…あぁ、シャナがいくあてがないならずっといてもいい」

「まじ?!毎日マジュと一緒に寝るとか最高~!」


動揺して言葉を詰まらせる私。

い、一緒に寝る・・・?未知のギャル族の行動に戸惑う。

ギャル族はどうやら同じコミュニティで共に眠る集団行動タイプのようだ。

魔族同士は睡眠時の不可抗力時に誰かとともに過ごすなんてありえないのだが。


「ねぇ、枕投げとかしちゃう?!」

「なんだ、それは?ギャルには必要なことなのか?」

「え?うん、めっちゃ必要!」

「わかった・・・必要なら付き合う」


リン、リコがニヤニヤしながらこちらを見ている気がするが、べつにシャナの笑顔をもっとみたいとかウンディーネより喜ばせたいとかそういうのじゃないんだからな!


お読みいただきありがとうございます。

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